因みに書いてて見て無いのでこれから見ます。
(あっ……)
気付けば自分の斜め前にいた水色の髪のウマ娘。
その姿を見て、シロガネレンワの心は折れてしまった。
後ろからのちょっかいに耐えようとして、それでも結局はかなりのハイペースで進んでしまった今回のレース。それでもなんとか最終直線を迎え、さぁ後はどれだけライバルたちの猛追を躱せるか――彼女のそんな思考は、直線に入って僅か数秒程で打ち砕かれてしまったのだ。
勝算は――細いことは自覚していたが、それでも確かに存在した筈だった。
なんせ後ろのバ群は相当伸びている。
足音から四コーナー出口が近づくにつれバ群が"詰まって"行くのは感じていたが、それでも直ぐに追いついて来るようなことは無いと思っていた。
加えてこのハイペースだ。仕掛けを遅らせるウマ娘も出て来るだろう。
前は明らかに粘れる様子では無く、すぐ後ろにいる上位人気、エイコクライヒもそれは同様。
自分とて正直かなりスタミナが怪しかったが、もうそこは根性でもなんでも振り絞って粘ってやろうと、そう考えていた。
(甘かった…何もかもが……)
自分をことも無さげに抜かしていくそのウマ娘を見て、最初に気付いたのはその呼吸のリズムだ。
――整っていた、不自然な程に。
発汗はあるが顔色は良く、また走る姿に淀みは無い。どこかしらで息を入れ、燃料たる酸素を体に取り込んだのだろう。
このハイペースの中にあってそれは、つまるところこのウマ娘こそがハイペースの原因、レースのペースメーカーに他ならない。
分かってはいた。
後ろのエイコクライヒを掛からせ、自分達先行集団のペースアップを煽っている存在がいることは。
とは言えレースの最中だ。
ハイペースで走らされ、酸素が碌に回って来ない頭ではその対策を考えることは出来なかった。
厭らしいことに自分が一息つこうと言うタイミングでエイコクライヒを仕掛けさせてくるのだ。
黒幕の顔を確認する暇すらなく、気付けばシロガネレンワは既に最終直線に入ってしまっていた。追い立てられた、と言い換えても良いだろう。
そうして荒いコーナリングの隙を突かれ、黒いドレスを着たそのウマ娘に彼女は今まさに追い抜かれんとしている。
抗う気力は――――沸かなかった。
疲れたからとか、相手が名門だからとか、色々理由は有るものの、しかし決定的だったのは"タイミング"だ。
最後の直線を駆け抜けるため、何とか息を吸い込んだ、その瞬間に差されたのだ。
大地を蹴りつけるために取り込んだはずの酸素は、しかして脳へと回り、そして自身の敗北を幻視するために使われた。
なんとか勝つための方法を探ろうとするものの、無情にもその試みは失敗に終わり、まだだ!と遮二無二走り出そうとするには、既に一拍遅れている。
担当トレーナーから褒められた頭の回転の速さは、しかしここに来て弱点へと反転していた。
前から先頭を争っていたドリコスランナーとシイナフレジェフが垂れて来る。微かに見える回避コース。
――飛び込むだけの気力は、もう無かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ずっと見ていた。レースが始まってからずっと。
視線が切れることは何度か有ったし、見ていることを悟らせないよう相手が後方を確認して来た時は態とあらぬ方向を向くときも有った。
兎に角ずっと見ていて、だからこそ気が付いた。
周囲が必死にハイペースで駆ける中、一人だけペースを落とし、息を入れていることに。
距離を詰めるか?とも一瞬思ったが、しかし自分の状況がそれを許さない。
なんせ四コーナー出口になだれ込む直前だ。各々がコースを求め、バ群は徐々に広がりだし、バ群の外を走っている自分はその煽りを諸に受けている。
とてもでは無いが、距離を詰めようと無理できるような状況ではなく――だから思い切って、自分も息を入れることにした。
何と言っても三コーナー、四コーナーでは内に入れて貰えず、外をぶん回す羽目になったのだ。
息を整えておくのは悪くないと思った。
相手も息を入れているなら相対距離はそう変わらない。詰まるところ射程範囲内だ。
そうして、相手が最終直線に入り、スパートをかけたその瞬間、自身も同様に末脚を爆発させた。
息を整えている間、気付けば目の前に広がっていたウマ娘達の壁は、しかして己にとっては壁にあらず。
隙間に体を捩じ込んで、並ぶ間もなくぶち抜いた。
紛れの無い一対一の勝負だ、と。
眼前を走る水色の髪に黒のドレスを纏うウマ娘、メジロアルダンを見てそう思った。
他にも四人ほど前を走るウマ娘は居た物の、しかしてその脚色に勢いはない、粘りは無い。
十歩も走らぬ内に抜き去れるだろう。
そう思って踏み出した一歩目で――
(――なんだ?)
それは違和感。
二歩目、三歩目と繰り出して、その度足に"重さ"を感じる。
――スタミナ切れか、と一瞬冷たいモノが背中に走って、しかし体を動かすことに苦痛は無い。だけど――
(重い…それに、息苦しさも……)
前を走るウマ娘を抜かす度に…否、メジロアルダンに近付く度にその息苦しさは増していく。心が重くなり、視界は暗くなる。
(なんだ!?何が起こってやがる!!?)
回らない足がもどかしくて、吸えない息が苦しくて。
無理だ、と思った。追いつくのは無理だと。
なんせとてもではないが真面に走れるような状態では無いのだ。
それでも…それでも、藻掻くようにして走る。
正しいフォームで走れているかもう自信は無かったが、それでも負けることは許容できなかった。
勝って、自分の存在を証明したかった。
だと言うのに、前を走るメジロアルダンの背中は遠くなって行く。
息を入れたとはいえ、彼女は先行集団で走り続けた身だ。加速したとは考えにくく、詰まるところ自分が減速してると気が付いた。
心の機構が、バラバラに砕け散りそうになったその瞬間――
「ディクタちゃん頑張れ~!」
――聞き覚えのある、緩い応援が耳に届いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――なぁ、なんでお前が勝ってるんだ?」
「え~ッ、酷くないですか!?それ」
ディクタストライカの悪意のない、ただただ純粋な疑問に、しかし彼女の年代違いの従妹はそれなりに傷付いた様子で、まぁるい頬っぺたをこれ以上ない位に膨らませて自分の不機嫌を彼女に伝えて来た。
しかし何と言っても顔つきや雰囲気が緩いのだ。そこに怖さは無い。
悪戯心から人差し指で頬っぺたを突っついてやれば『ブヒュ』と滑稽な音を鳴らすその従妹の様子に、ディクタストライカは思わず笑ってしまった。
「ム~!ム~!」
片手には今日行われたちびっ子ウマ娘レースの優勝商品である小さな優勝カップが握られているため片手でポカポカと殴って来るのだが、如何せん年が違うため膂力が段違いだ。
彼女達の保護者が仲裁するまでディクタストライカが反省することは無かった。
・
・
・
レースから帰る車の中で、涎を垂らして寄り掛かって来る従妹を微笑ましく見ていたディクタストライカは、自然と彼女が抱えている優勝カップに目が行った。
それより少し大きなモノも自分の隣に置いてあるが、本来今日自分達が獲得する優勝カップは一つだった筈だ。
自分は高学年の部で勝ち、彼女は低学年の部で負ける。だから持って帰る優勝カップの数は一つ。
行きの道程ではなんの疑問も無くそう思っていたディクタストライカだったが、しかし現実はどうだろう。
寝言で億ションがどうだのとほざくふざけた隣の彼女はレースに勝ち、目出度く優勝カップは二つだ。
決して小さな規模のレースでは無かった。
流石に下の世代の力関係までは把握していなかったが、観客席で周りの話を聞く限りそれなりに名の知れた娘もいたらしい。
実際に走る姿を見て、ディクタストライカが『これは』と思うウマ娘も確かに居た。
しかし勝ったのは、彼女の従妹だ。
何処にも筋肉の見えない、見るからにぷにぷにしている彼女の従妹が勝ったのだ。
気付けば車に運転している父に質問していた。
――なんでコイツが勝ったんだ、と。
彼女の父は中央トレセン学園でトレーナーをしていた過去を持つ。その経験を宛にしてのことだったが、彼女の父はことも無さげにその期待に応えてくれた。
――自分を見失わなかったからだよ。
頭上にクエスチョンマークを浮かべる彼女を見て、彼女の父は更に言葉を重ねる。
――低学年の方のレース、明らかに仕掛けを間違った子がいただろう?どう考えてもスタミナが持たないような所から仕掛けた子が。
頷くディクタストライカ。
我慢の限界と言った感じで奇怪な声を上げながらスパートをかけたピンク色の髪をしたウマ娘の事は、彼女もよく覚えている。
――外から見たらどう考えても持たないのは明らかだったけど、でも何処か゛強さ゛を感じる走りだった。だから皆焦っちゃったんだろうね。程なくして、他の子達もスパートをかけ始めた――クーちゃん以外ね。
『クーちゃん』とは気付けばディクタストライカの太腿を枕代わりにしている彼女の従妹の渾名だ。従妹の両親がそう呼ぶのに倣ってディクタストライカの父もそう呼んでいる。
――たぶんクーちゃん自身にそんなつもりは無かっただろうけど、その子は周りに流されなかった。タイミングの正否は兎も角として、誰かに付いて行くんじゃなくて自分でスパートのタイミングを判断した。
――『自分の走りを貫くことが出来る』それは目には見えないけど、とても大事な事なんだよ。
納得が行ったような、行かないような――そんな微妙な表情で考え込むディクタストライカ。
『難しかったかな』と笑う父に反抗するように顔を上げればミラー越しに視線がぶつかった。
――ねぇディクタス、君は゛今゛自分の走りが出来てるかい?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
暗雲に覆われていた視界が晴れていく。
今もスタンドから微かに聞こえる緩い従妹の声援は、手足に付けられていた枷を吹き飛ばしてくれた。
(――ずっと見ていたんだ。レースが始まる前から、ずっとな)
メジロアルダンというウマ娘の走りを研究していく中でディクタストライカが気付いたことが一つある。
それは――覚悟の違い。
散る事も已む無しという、決死の覚悟。
(…まぁ、足の弱さは聞いていたからな……別段不思議は無かったさ。
そんでまぁ柄にもなく思っちまったんだ――)
――その覚悟にオレも応えよう、だなんて。
挑戦者として彼女はメジロアルダンの土俵で戦うことを臨んだ。それは一度自分を負かした者への、そしてレースに命すら賭ける者への敬意から来る行動だったのだが、しかしそれが間違いだった。
直前になって命を天秤に乗せることを忌避してしまったのだ。
別段ディクタストライカ自身が何か体に爆弾を抱えている訳では無い。
しかしメジロアルダンの土俵に立ち、その上で競り合うということは、つまり生死の狭間に飛び込むと言う事である。
少なくともディクタストライカはそう解釈して、だからこそ本能がブレーキをかけた。或いは畏れたのかもしれない。
――付いて行っては不味いと。帰って来れなくなると。
(だから……悪いなアルダン。
こっからは゛何時ものオレ゛で相手して貰うぜ)
勝手に相手の領域で闘うことを決めたのは自分だ。勝手にその領域から逃げたのも。
である以上その宣言に何の意味も無い筈なのに――
――構いませんよ、では始めましょうか。
幻聴が了承を返したのと同時に、ディクタストライカは再度スパートをかける。
姿勢を低くし、地面を蹴りつけ、視界に映る全てを彼方の後方へと流していく。
坂を上り切ってゴールまで残り200М。
やはりと言うべきか、坂はメジロアルダンに利した。
景色と同じように、後方へと流れて行きそうだった彼女が、しかし抗う様にその形を取り戻す。
しかしラストの100Мは障害物も何もない直線だ。
嘗ての悔恨、そして感じた畏怖。その全てを振り切って走る。
線と消えゆく世界の中に、淡い青色が散った気がした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
歓声は爆発の様であった。
実況の声が勝者への賛美によって搔き消される。
暫くして掲示板にはレコードの赤い文字が点灯し、再び大きくなった歓声を鳥林は苦笑しながら聞いていた。
隣の天利はゴールの先で俯きながら息を整えている己の主人を心配そうな顔で眺めている。
歓声の中に、メジロアルダンを称える声は聞こえない――
というわけで初の敗北。まぁ史実ではコースレコードおよびレースレコード出されてるんで流石にね……
それと領域だと思った?残念、覚悟の差による唯の威圧でした
領域張りの変調を相手に与える覚悟とはいったい……
なんで唐突なヒシミ?→サッカーボーイ産駒で一番成績良いから
オグリにクラシック走らせるのは?
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あり
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なし
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原作なぞるだけなら二次創作なんて書くな