ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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遅くなってしまい誠にすいませんでした。
これも全てGWにtrpg誘って来た友達が悪い。
ダービーで脳を焼いて来たノリさんが悪い。
鳴潮が面白過ぎるのが悪い。

嘘です。
オリジナル小説の設定練っていた作者が全部悪いです。

後最後にアンケート追加しました。可能なら回答お願いします。



二十八話

「トレーナーさんって、実はかなりオグリさんのファンですよね。

出走したレースは全てチェックしているみたいですし」

 

 一月十日、笠松レース場にて。

 昨日に降った雨の影響か冷たくも何処か湿気を帯びたその空気の中、新年早々府中から遠路遥々400㎞、岐阜は笠松までやって来たメジロアルダンは、隣に座る鳥林に対し、そんな言葉を投げかけた。

 

「どうしたアルダン、不満そうな顔をして。

というか別に付いて来なくて良かったんだぞ、こんな田舎に。

それにメジロ程の名家なら新年なんて忙しいんじゃないのか…挨拶回りとか」

 

「其処らへんはお気になさらず――なんなら挨拶回りが億劫で逃げて来た付いて来た面も有りますから。

そんなことよりも、今はトレーナーさん自身のことです。

どうなんですか?実は私よりオグリキャップさんの方が担当したかったり?」

 

 何気ない冗談のようでいて、しかし何処か圧を感じるその口調。

 まだ出会ってから一年ほどしか経っていないものの、それでも鳥林はその言葉の裏に僅かな不安が混じっていることに気が付いた。

 

(……流石にそう簡単には切り替えられんか、あの敗けは)

 

 メジロアルダンが初めて敗北を刻まれた昨月の朝日杯FS。

 あの日から、メジロアルダンは少しだけ「迷う」ようになった。

 

 決して闘志が折れたわけではない。敗北に落ち込んでいる訳でも無い。

 

 一度の敗戦でメンタルが潰れる程彼女の「芯」は弱くない。

 

 ――だけど「勝ち方」が分からない。

 

 だから、迷う。

 

(まぁこっちの100%……コンディションや距離適性を言い訳にしても85~95%を純粋な「力」でねじ伏せられたわけだからなぁ…然もありなんか)

 

 道が見えているのなら、それがどれだけ厳しかろうと彼女は歩くことを躊躇わないだろう。

 しかし現状、単にトレーニングを積み重ねていって得られる成長曲線の中に、彼女は勝利への道を見出す事が出来ていない。

 

 だからこそ、不安を抱いて、故に聞いて来たのだろう。

 

 ――貴方は私でクラシックを戦ってくれますか、と。

 

 この頃は初挑戦でG1二着と言う結果を叩きだした鳥林に対して、札幌ジュニアステークスの時同様、いや以前にも増して契約の希望が増えた。或いはそれも関係しているのかもしれない。

 

(見る目が無いというか節穴と言うか…どう考えてもアルダンが凄いだけだけだろうに……)

 

「どこの世界に初めて重賞勝ってくれた娘を放っぽり出して他所のウマ娘を担当するトレーナーがいるんだよ。

オグリキャップを気にかけているのは否定はせんが『彼女の方が良い』、なんてことは絶対に無い。

それと朝日杯の事なら気にするな。今回は負けたが次は勝てる――簡単にとは言わんが確実に、だ」 

 

 安心させるように、自信に満ちた声で言う。

 そこに不自然さや強がりの気配は"感じられず"、だからこそアルダンはぽつりと呟いた。

 

 ――どうして言い切れるのですか、と。

 

 信じていない様に、否定しているように見えて、しかしそこには同時に期待もあった。 

 この人なら暗闇を照らし、自分を導いてくれるのではないかという、そんな期待が。

 

「君がディクタストライカの全力を引き出してくれたから分かった――彼女には明確な弱点がある。

確定段階では無いし、皐月迄あと三か月ある。修正してくる可能性も有るから詳しく言うつもりは無いが、そもそもが皐月もダービーも、出てこないとは思うが菊花も、相手の最適性とは言い辛い距離での勝負だ。

朝日杯のことはあまり考えず、挑戦者は変わらず向こうくらいの気持ちで堂々としていれば良い」

 

 ――あぁこの人は、欠片も私の勝利を疑っていないんだ。 

 

 ディクタストライカの、あれだけ鮮烈な走りを見て。

 

 無論それは弱点を見つけたからというのも有るだろうが、それでも自分を信じてくれているという事実がどうしようもなく嬉しくて。

 

 ――元気づけるように頭に置かれた鳥林の手を彼女は只無言で受け入れた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 しばし無言のまま時間が過ぎ、鳥林が内心担当の髪の艶にビビり散らかす中、しかしその静寂は、懐かしい者達との再会によって破られた。

 

 ――ゲッ、あんたらは!?

 

 そんな何か嫌なものでも見たかのような、なんなら聞く人によっては敵愾心すら感じる様な声を上げた人物の名はノルンエース。

 

 半年以上前にここ笠松レース場で出会った、笠松トレセン所属のウマ娘である。

 傍らにはかつてと同じくマスクを被ったウマ娘ミニーザレディガラの悪いウマ娘ルディレモーノが付いており、しかし彼女の腕に抱えられている一人の芦毛ウマ娘のぬいぐるみは、その後の彼女達の交友関係に少しばかりの変化が生じたことを示している。

 

「あの時の子達か。

久しぶりだな、元気そうで何より」

 

 頭から離れていく手を何処か寂しそうに見つめるメジロアルダン。

 気付かないふりをして、鳥林は三人娘に軽く手を振った。

 

 思いきり顔を顰めるノルンエース達。

 彼女達にとって、かつて自分達の推しフジマサマーチに冷たい評価を下した鳥林とメジロアルダンは、普通に嫌いな相手だった。

 一万円を年下にむしられた癖に笑って済ませる余裕も気に喰わない。

 

 当然無視して遠くの席を探そうとするノルンエースであったが、しかし彼女の袖を引く者が一人居た。

 

「なに、ミニー?

まさかとは思うけど、またあいつ等と一緒に観戦するとか言わないよね?」

 

「いや、流石にそれは無い。

そうじゃ無くて"あの事"、中央のトレーナーなら知ってるんじゃないかなって」

 

 『あの事?』と首を傾げるノルンエースに『ほら、移籍の……』と補足するミニーザレディ。

 

 あまり好きな話題では無いのか、露骨に渋い顔になるノルンエースであったが、しかしそれでも話を聞けるなら聞きたいらしい。

 意を決したような顔で、足取り重く鳥林とメジロアルダンの方へと近付いて行く。

 

「あのさぁあんたら、中央の人だって言うなら、このことについて何か知らない?」

 

 そう言って、買ったのか拾ったのか、ノルンエースは一枚の新聞を二人の方に手渡して来た。

 

 果たしてその一面には、『オグリキャップ、ゴールドジュニアを最後に中央行き!?』と大きな見出しで書かれている。

 

「あら、オグリさん中央に来るんですね。初めて知りました」

 

 少し意外そうな声を上げるメジロアルダン。

 対照的に鳥林は知っていたようで、『みたいだな』と特段驚いた様子も無く返事を返す。

 

「あそこに居るの、オグリキャップのトレーナーの北原さんだろう?

その隣に杖持ってグラサンかけた爺さんがいるのが分かるか?」

 

 無論ウマ娘は人間などよりよほど目が良い。

 三人娘とメジロアルダンは直ぐに件の人影を見つけたのだが、その人物を見て、思わずメジロアルダンは『あ!』と声を上げる。

 

「中央の六平むさかトレーナーですよね…?

フェアリーゴッドファーザーとか異名が付いている、あの」

 

 ブッ、吹き出す三人娘達。

 なんなら鳥林すら顔を背けて笑っており、そんな四人の様子を見てメジロアルダンは少し顔を赤らめた。

 

「ククッ……ま、まぁそうだな。間違っては無いぞ、うん。

補足すると、一応担当に八大競走桜花賞を獲らせたこともあるトレーナーで、今担当しているチームメイトもゴッドハンニバルゴッドスピードクラフトユニヴァラインクラフト、ネオユニヴァースメイクンツカサメイショウサムソンと粒ぞろいばかり。

ロートルなんてとても呼べない偉大なベテラントレーナー様だよ」

 

 そんな、十分に一流と言って良いレベルの中央トレーナーが、なぜこんな地方の重賞を見に来ているのか?

 

「シンボリルドルフと北原トレーナーの間でどういう話があったのかは知らない。

無論北原トレーナーとオグリキャップの間で何があったのかもな。ただまぁあぁして中央のトレーナーと並んでいるのを見る限り、既に受け入れ先までしっかりと決めてるみたいだな」

 

 ノルンエース達三人は鳥林達と出会う前、中央の制服を着たウマ娘二人シンボリ某と某スキーを見かけている。

 元々疑念が高まっていたのだが、ここに来て登場した更なる有力な状況証拠。

 

 それは、三人娘を項垂れさせるには申し分ない威力だったようだ。

 

 ノルンエースに至っては寂しさからか無言でボロ泣きしており、その様子を見た鳥林は直接的に言い過ぎたか?と申し訳なく思う反面、"彼"に近しい"彼女"がこの世界でも良き出会いに恵まれていたことを知れて、少し嬉しく思うのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そうして気が付けばゴールドジュニアの発走直前。 

 

 パドックでの脚見せ選手紹介が終わり、レース場に出て来たオグリキャップを見て、そこで鳥林は不快なものでも見たかのように眉根を寄せた。

 

「――壮行レースを走るにしては信じられ無い位の気迫の無さだな。

仕上げも甘い…北原トレーナーはオグリキャップに中央に行って欲しく無いのか?」

 

「……そう言う気持ちも、多少は有るんでしょうね」

 

 オグリキャップに憐れむような視線を投げかけながらそう答えるメジロアルダン。

 彼女は先程ノルンエースから受け取った一枚の新聞を鳥林へと手渡した。

 

 目を通せばそこには今回のゴールドジュニアの結果如何でオグリキャップの中央行きが決まることが書かれており――同じく記事に書かれていることではあるが――北原の苦悩が窺える。

 

(――読む限り、思っていたような単なる壮行レース、って訳では無さそうだな。

北原トレーナーは……いや、或いはオグリキャップ自身すらも迷っている、そんなところか) 

 

「……この一件、トレーナーさんはどう思われますか?」

 

「ん?ンーそうだな……レースには転倒からの「もしも」がある。

そんな場に明らかメンタルボロボロの担当を出走させるのは言い訳の仕様も無く最悪だが、とは言え中央行きの可否をレースに委ねた事に関しては理解しなくもない。

要は言葉だけではどうあっても納得できないから、斬り捨てて欲しいんだろうな」

 

 話し合いでは収まりが付かなかった――付けられなかったのだろう。

 東海ダービーを目指すか、中央を目指すか――オグリキャップが"何方を選択しても"北原はそれを良しとはしなかったはずだ。

 

 オグリキャップが笠松に収まる器でない事は明らかだが、とは言え夢とはそう簡単に捨てられるものでは無い。だから――

 

 ――示して欲しいのだろう、その強さを。

 ――斬り捨てて欲しいのだろう、己の夢を。

  

 シンボリルドルフが彼にオグリキャップの中央行きを提案したその時から、きっとこの結末は決まっていたのだ。

 

(とは言え相手はまだ子供だ…恩師から介錯してくれと命じられて、そう簡単に頷けるものかよ)

 

 内心でそう悪態をつく鳥林。

 しかしだからと言って発走時刻が伸びる訳でも、益してや時が止まる訳でも無し。

 

 徐々にゲート入りが完了していき、刻一刻とスタートの時間が近付いて来る。

 

 ――マーチが勝ってくれないかな…

 

 そんなことを呟いたのは三人娘――呆然自失になって結局鳥林達から離れられ無かった――の内誰であったか。

 それは寧ろ余計に色々拗れるのではと思わなくもない鳥林であったが、しかしトレーナーとしての性故だろうか?大して時間も掛からずに、それを実現するための一つの奇策を思いつく。

 

「――逃げ、いや大逃げだな」

 

 ぼそりと呟く鳥林。

 と同時に、ガシャン、特徴的な音がして、ウマ娘達が走り出した。

 

「何の話ですか?トレーナーさん」

 

「ん、あぁ、フジマサマーチがオグリキャップに勝つ方法についてだ。

オグリキャップの体は正直舐め腐っているとしか思えないような仕上がりだが、それでもそもそもの話として二人の能力値には割とどうにもならない開きが有る。現状フジマサマーチの勝率は…まぁ0から漸く10%以下…いや、精々が5%以下になったって所だろうな」

 

 ――が、あそこ迄メンタルが崩れているならやりようはある

 

 相も変わらぬフジマサマーチへの辛辣な評価にノルンエース達の視線が厳しくなるが、しかし鳥林に気にした様子は見られない。

 

「その方法が大逃げだと?」

 

「あぁ、現状のオグリキャップには闘志と言うか、積極性が見られない――なんなら集団を追走しているだけの状態と言っても良い。

それでも最後には直線での末脚次第で蹂躙できてしまいそうなのがあの怪物の恐い所だが、しかし今の内にさっさと前に行って、セーフティリードを確保してしまえば、或いは勝ちの目も見えて来る――断言できん上に、まぁ所詮は机上の空論だがな」

 

 見ればフジマサマーチは後方からオグリキャップをマークしており、鳥林からすればフィジカルの能力差を抜きにしてもあんなあからさまにまともな精神状態で無い者仕掛けが遅れそうな者をマークするのは寧ろ不利を受けるだけに思えて仕方なかったが、とは言えそれは観客席から眺めているからこそ言える事。

 盤上を走り、宿敵の後姿しか見ることのできないフジマサマーチにそれを分かれというのも酷な話だろう。

 

(にしても(見に来た)甲斐が無いな、目当ての一番人気があの様子だと。

まぁ"前"から往々にしてあった事ではあるし、今更どうこう言おうとも思わんが……)

 

 出そうになった欠伸をかみ殺した、正にその時だった――

 

「――仮に本当に逃げたとして、それでマーチが勝てる確率はどの程度上がる?」

 

 突如背後から聞こえて来た男性の声。

 振り向けば、そこには髪型をオールバックに整えた、田舎には何処か不釣り合いなスーツの男が、此方をじっと見つめて立っていた。

 

「――あ、柴崎トレーナー……」

 

(…柴崎……確かそれってフジマサマーチのトレーナーの名前じゃ無かったか?

――やべぇ…今のを聞いて気を悪くしてなきゃ良いんだが……)

 

 ミニーザレディの呟きに出バ表を思い出し、鳥林は内心で冷や汗をかく。

 トレーナーの前でその担当に低評価を下すなど、人に依っては――否、凡そのトレーナーにとっては宣戦布告と同義であるが故に。

 

 少なくとも鳥林が同じことをされた場合、表面はどうあれ心の中では全力で中指を突き立てる自信があった。

 

「――っあ~…いや、すいませんねほんと。気付いて無かったとはいえトレーナーの前でその担当を貶める様な事を言ってしまって。

俺の言うことなんて所詮は素人意見みたいなものなんで、お気になさらず……」

 

「中央の、それも重賞トレーナーが卑下し過ぎだ、"鳥林トレーナー"。

貴方が素人なら地方の自分達は何だという話になってしまうが――いや、今はそんなことどうでも良い。

仮に、あなたの言う通りすぐにでもマーチがあの位置中団後方から上がって行って、そして先頭に立ったとして、それでマーチの勝率はどの程度に……いいや、マーチは、勝てるか?」

 

(――――いや、なんで俺の氏素性知ってんの、この人?どっかで会ったこと有ったか?)

 

 真剣な様子の柴崎を他所に必死で記憶に検索を掛ける鳥林であったが、しかし結果は芳しく無く、そんな彼に助け舟を出したのはメジロアルダンだった。

 

「あの、トレーナーさん、この方が貴方を知っているのは貴方が有名になったからかと。

若しかしたら自覚が薄いのかもしれませんが、少なくともウマ娘レースの関係者の間ではトレーナーさんの名前ってもう割と知られてますから……」

 

 『マジで?』と目線で問いかけてくる己のトレーナーに、頷きを返すメジロアルダン。

 

 というのも、勤続一年目に重賞を勝利し、あまつさえG1あと一歩のところまで迫ったトレーナーなどこれまで居なかったのだ。

 無論メイクデビューを勝たせ、重賞迄駒を進めた新人トレーナーという条件ならそれなりの数いるものの、しかしその場合はほぼ間違いなくトレーナーもウマ娘も重賞初挑戦。コンビの何方かが――というより何方ともが――意気込んで、或いは舞い上がって勝利を逃すのが常である。

 "人生をやり直している"ならまだしも、重賞挑戦でも冷静に事に当たれる落ち着きなど、新人、つまりは若者がもっているはずも無い。益してやそれが、実績十分の人気ウマ娘の血縁で、レースの度に人気を背負わされるとなれば――

 

 ――なんていう常識を、裏道からレースを荒して突破して来たのがメジロアルダンと鳥林のコンビである。

 早仕掛けを多用する事から『単にそれでも勝てるメジロアルダンが強いだけ』と嘯く者も儘居るのも事実だが、しかしそれはそれとして、(密かに)中央のライセンスを目指している柴崎が鳥林の事を知らないわけがなかった。

 

「――ってハァ!?

柴崎あんたこのおっさんの言うこと真に受けんの!!?

というか何オグリの事裏切ろうと――はして無いか、別に」

 

 『そもそも敵だし……』などと呟くノルンエースだが、しかしその瞳には非難の色が混じっている。

 オグリの敵云々以前の問題として、笠松の人間トレーナーが中央の人間トレーナーに助けて貰おうとしているのが気に喰わないのかもしれない。

 

 ――或いは、フジマサマーチの"孤高性"を、そのトレーナーにも求めたのか。

 

「……今日、オグリキャップは見るからに絶不調だ。

"だからこそ"ここは勝たなくちゃいけない、絶対に、何をしてもだ」

 

 ――でなければ、"ライバル"でいられなくなる。

 

「はぁ?何言ってんだ?

マーチとオグリはバチバチにライバルだろうが!現にマーチは今もああしてマークしてるし……」

 

 言い訳の様に紡いだ言葉はすぐさまルディレモーノに否定される。

 しかし柴崎には分かっていた。あんなマークに、如何ほどの意味も無いことなど――

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『すげぇんだぜ、オグリはよぉ――』

 

 普段からそう言って憚らない先輩のトレーナーは、酒が入ると殊更その担当の事をよく喋るようになる。

 

 適当に流すのならまだしも、反論なんてしたら酷い。

 何度か自分の担当マーチの方が凄いのだと言い返したことがあったが、10倍20倍……いや、悪い酔い方をした日には100倍にして言い返される。

 

 誇張だろう、嘘だろうと口論に行くのはもっといけない。

 酔って頭なんて回っていないだろうに、否、酔っているからこそ"数字を持ちだして"まで自分の論を押し付けて来る。

 

『オグリは凄ぇウマ娘なんだ!

アイツなら東海ダービーだって夢じゃねぇ!』  

 

 何故それを彼女のライバルの担当である自分に言うのか、少し鬱陶しさすら感じていたその夢は――

 

 

 

 

 ――何時からだろう、気付けば夢の無い話になっていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

(悔しいが、"手合い違い"であることはもう認めるしかない。"聞かされて見せられた"からな。

全力でやりあって、負けて、納得は…直ぐには難しいかもしれないけど、それでも"ライバルとして"笑って送り出す。

マーチはそれが出来る子だ、それを糧にも。だけど――)

 

 最初、彼我の差を理解している柴崎は、パドックでオグリキャップを見た時喜んだ。

 あそこまで調子が悪そうなら、或いは夢が見られるかもしれないと。

 

 しかしその夢は、ゲートが開くと同時に思い浮かんだ一つの可能性によってすぐに覚めた。

 

 ――もしマーチが、あの状態の走る気も、勝つ気かすら怪しいオグリキャップに負けたらどうなる?

 ただ才能による蹂躙。そんなものを喰らって平常の精神で――いや、"再びレースで走ろうと思えるだろうか?"

 

(強い子だから何時かは乗り越えられるはずだ……だけど乗り越えてもオグリキャップとの再戦は叶わない……マーチはその後、消えない傷を背負って走っていく事になる)

 

 だからこそ勝たなければならない。

 ライバル関係に否を唱えるのは、此方でなければならない。

 

 ――だけど、どうすれば勝てるのかが分からなかった。

 

 調子が悪そうなのは見ればわかる。大人しく走っているように見えて、ただ消極的にレースを運んでいるだけなのも。

 

 ――だからと言って勝てる相手なら、柴崎は(東海)ダービーを諦めていない。

 

 勝てる可能性は確かにあると感じつつも――一度諦めた罰だろうか――思い浮かぶ作戦に自信が持てず、只レースを見守るだけしか出来なかった柴崎。

 

 そんな時だった――

 

「――逃げ、いや大逃げだな」

 

 ――鳥林暇人の、愚かな戯言が聞こえて来たのは。




来週は更新できるはずです。
頑張ってゴールドジュニア編を終わらせたい。

再来週は――

『仕事だ、621』

――多分影の地に行ってます



Q:流石に酔ったからって担当のデータを他に見せたりする奴はいないんじゃ…

A:でも北原さんって抜けてそうだし…後お酒も弱そう……

オグリにクラシック走らせるのは?

  • あり
  • なし
  • 原作なぞるだけなら二次創作なんて書くな
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