ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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連休中trpgやってたので初投稿です

それとシングレアニメ化おめでとうございます
もっとシングレの二次創作流行れ…流行れ…


三十四話

『隊列向こう正面に入りまして、ここでもう一度先頭から見ていきましょう。

ハナを切るのはシンキョウナヨコ、並ぶようにユービートウゲイ、競り合っているのか少し掛かっている感じでしょうか。

二バ身離れて一番人気、サクラチヨノオーはここに居ます。そのすぐ後ろにトウショウマリオ、内にヤエノムテキ、外にシンボリマンタル、三人固まっている形。

切れて、内はメジロアルダン、外はカシマテイマーがこれを見る形で進んでいます。それから内を回って――』

 

 向こう正面を入って位置取り争いも大方終わり、早くも隊列が縦長になってきたころ。

 メジロアルダンは第二コーナーまでサクラチヨノオーと競っていた姿とは一転、先行と中団の境目あたりに控えるように走っていた。

 

 近くにいるウマ娘は、横に一人と後ろに複数。

 前方には、2~3バ身程とは言え、何処か不自然にも思える空間が広がっていた。

 

(これが、一番人気の宿命ですか…

チヨノオーさんは少し大変そうですね)

 

 サクラチヨノオーの真後ろにはあからさまにマークに付いているウマ娘が三人。

 弥生賞の時の様な攪乱逃げは論外として、多少の休息すら許されないその布陣に、メジロアルダンは少し同情した。

 

 加えて此方はあまり深く考えての行動では無いだろうが掛かり気味のウマ娘二人が前を走っており、あれでは伸び伸びと先頭を走る事すら儘ならない。

 常に逃げ切られる可能性を考慮しつつ、しかし抜き去るための息を整える暇すら与えられない強制チキンレースの様相は、メジロアルダンの中の親友への脅威度を大幅に低減させるには十分だった。

 

(このままいけば、勝つことはそう難しくは無さそうですが…)

 

 しかし、レースでマークされるのが一番人気だけとは限らない。

 特に今回の様に一番人気と二番人気の実力差が定かではない場合など、当然の様に二番人気にも複数のマークが付くことは考えて然るべき事態だ。

 

 もっともその辺りを判断するためのペガサスステークスであったわけだが、しかし一度のレースで全てが測れる程ウマ娘のレースは甘くない。

 

 事実、他が影を薄くして目を付けられない様にメジロアルダンを追走する中、明確な敵意で睨み付ける者が一人、居た。

 

(マカミユーモラスさん、ですか)

 

 マカミ家。

 昨今ウマ娘レース界隈で名の知れて来た名家の一つでは有るが、しかしその名声は良いものばかりでは決してない。勝利を求める貪欲さのあまり、時には体をぶつけてまで強引な進路取りを行って、物議を醸すことが度々ある連中として知られている。

 

 今年クラシックを走るマカミエイト、マカミユーモラスの二人も、年初めの共同通信杯では前哨戦にも関わらず二人揃って出してきたことから、何か良からぬ事をしようとしている――有体に言えば『組んで』走るんじゃないかという噂が立ったことは、毎週重賞をチェックする程度にウマ娘レースを追っている人間なら記憶に新しい。

 

(もっとも、噂は所詮噂でしかなかったわけですが――)

 

 そう、直前まで物議を醸していたこの噂は、しかし当日、当時マカミ家大将格と目されていたマカミエイトをマカミユーモラスが豪快に抜き去り、先着したことにより一先ずの収まりを見せている。

 

 その後話題に上がったのは、同家期待バであろうと、一切忖度しないマカミユーモラスの勝利への貪欲さ。

 

 そしてその貪欲さは、今、明確な敵意を伴ってメジロアルダンへと叩きつけられていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

(現状は外に居るカシマテイマーさんが壁になってくれて直接的な妨害行為は避けられている状況ですが――)

 

 チラリ、と此方に視線を送るカシマテイマー。 

 次いで彼女は振り返って背後のマカミユーモラスを確認し、そしてそれが然も当然であるかのように外のレーンに退避した。

 

 ――後ろのマカミユーモラスが怖かった?

 勿論それも有るだろう。

 

 ――上位人気二人の闘争に巻き込まれたくなかった?

 言うまでも無くそれは当然だろう。

 

 しかし彼女の行動は、恐れによって為されたものではなない。

 彼女が真に望んだのは『波乱』。

 

 確保した位置取りこそ悪く無かったものの、しかし隣に居るメジロアルダン二番人気は、同じ位置から競い合うには低人気十四番人気の彼女にとって余りに重かった。

 故にこそ純然な実力勝負にしない為の、『波乱』を待ち望み、そしてそれは訪れた。

 

 ――勝つために、彼女は道を譲ったのだ。

 

 そうして、一人分空いたレーンにマカミユーモラスが進出して来る。

 

 直ぐには仕掛けて来なかった。直線故だろう。

 

 スタート直後、或いはゴール前の様な特殊な状況を除き、直線はどのウマ娘もその走りが最も安定する区間だ。

 余程の実力差が無ければ『崩す』事は難しい。

 

 ジリジリとした睨み合いは、しかし向こう正面半ばから続く上り坂が終わり、三コーナー入り口に向かう下り坂に差し掛かると同時に破られた。

 

「っ――――!」

 

 坂を利用して、一気に前に行かんとするマカミユーモラス。

 その加速の意図するところを、メジロアルダンは容易に想像することが出来た。

 

(なるほど…私がチヨノオーさんにやったように、バ群に閉じ込めてしまうつもりですね)

 

 マカミユーモラスがメジロアルダンの前に付け、そしてマカミユーモラスの居た位置にカシマテイマーが戻ってくれば、それだけで簡易的な包囲網は完成する。

 

 無論それは四コーナー出口でのスパート合戦と共に消えるものでは有るが、しかし強豪集うこの皐月賞で自分のタイミングでスパート出来ないと言うのは、当然だがかなりのハンデを背負うことと同義。

 

 必然メジロアルダンもスパートし、前に行かせないようバ体を合わせに行く。

 しかしマカミユーモラスもその程度は想定済、当然策を用意していた。

 

(…このままですと、ヤエノムテキさんたちが壁になりますね)

 

 単騎の三番手を走るサクラチヨノオーをマークし続けていたヤエノムテキ、トウショウマリオ、シンボリマンタルの三人は前を走り続けて息が上がって来たのか、或いは直線に向けて息を入れているのか、コーナーに入って少し速度を落としていた。

 このまま二人が速度を上げ続ければすぐに追いつき、自然と前を塞がれる形になるだろう。

 

 マカミユーモラスは良い。外から回ってスパートをかければ進路は容易く確保できる。

 しかしメジロアルダンには逃げる場所がなく、結局進路が開くまでスパートを我慢する展開になってしまう。

 

 サクラチヨノオーより前で逃げ続けているシンキョウナヨコ、ユービートウゲイなどが垂れてくれば、その一縷の望みすら断たれることも有り得るだろう。

 

(………こうするしか、ありませんか)

 

 俯き、速度を落とすメジロアルダン。

 にやりと笑って、マカミユーモラスは速度を上げた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

(前三人が壁になるより俺一人の方が突破は容易い――なんて思ってるなら甘すぎだぜ。メジロのお嬢さんよぉ)

 

 別に、マカミユーモラスは特段走路妨害が上手い訳では無い。

 しかし、最終直線に入るまでにメジロアルダンより前に居れば、確実に突き放せるだけの自信が、彼女には有った。

 

(軽率に進路を明け渡す闘争心の無さ…ハッ、聞いてた噂より随分と素直じゃ――)

 

 メジロアルダンが減速したのを見て内に切り込もうとしたマカミユーモラスは、しかし次の瞬間、内から『再加速して来た』青髪のウマ娘を見て僅かに思考を停止させた。

 

(――は?いやいやいや、んなことしたら――)

 

 ――当然、ぶつかる。

 

 避けるにはどちらかが減速するか、外によれるかしか無い。

 

(――それが狙いか!!?)

 

 何れにせよマカミユーモラスはメジロアルダンの後塵を拝す結果に成ってしまう。

 その隙を逃すような相手で無い事を、既にマカミユーモラスは実感と共に理解させられている。

 

(ザケんな!逆に内ラチまでぶっ飛ばしてやる!)

 

 本来、それを理解していたとしても下がるなり避けるなりするのが普通だ。

 なんせ、全力で走行しているウマ娘にぶつかればただでは済まない事など、子供でも知っている常識なのだから。 

 

 しかしそんな常識は、マカミユーモラスの戦意を萎えさせるには至らない。

 

 ――挑まれたのなら、迎え撃つ。

 

 そんな信念と共に直進し。

 そしてその接触は、起こるべくして起こったのだ。

 

 

 

 

(――重…戦…車……?)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『――姿勢の安定性、体の連動性、力の伝達効率。

大体この辺りが体幹の強化によって得られる恩恵な訳だが、姿勢の安定は余分な力み、ブレの減少に繋がり、体の連動性と力の伝達効率が上がることは動作の円滑化、そして動きの再現性に繋がる』

 

『――言うまでも無く余分な力みが無くなればその分君が故障する確率も減る訳だし、それでも仮に万が一故障が起きたとして、強靭な体幹から生まれるボディコントロールはより早期な復帰にそれなり以上に寄与してくれるはずだ』

 

『――特に体幹を鍛えるのには別に足に負荷をかける必要が無いのも君にとって明確な利点。

遮二無二走ることも否定はせんが、こっちは限られた時間しか練習できない…ま、効率的に行こうじゃないか』

 

 

 

 

(もう一つありましたよ、恩恵)

 

 マカミユーモラスを轢き飛ばす最中、しかしメジロアルダンは、顔を歪ませも、体を小揺るぎすらさせなかった。

 伝わる力量を体の芯で受け止め、そっくりそのまま相手へと返す。

 

 トレーナーに教えられたモノより随分と荒っぽい活躍のさせ方に、彼女は内心で苦笑した。

 

(――レース中にぶつかられてもぶつかりに行っても、姿勢を崩さずに済む…どころか相手を吹き飛ばせる。

位置取り争いにおいて、これ程有利なこともありませんね)

 

『おっと、ここでマカミユーモラスが大きくコーナーを外れました!

進路を内に取ろうとしてメジロアルダンと接触した様にも見えますがどうでしょう?

幸い誰もコケるようなことは有りませんでしたが、しかしこれはマカミユーモラス、相当厳しい。

良い位置に付けていましたが後退します!

対して後続が徐々に差を詰めようとしていますが、しかし先頭変わってサクラチヨノオー、足色は衰えない。

続くトウショウマリオ、ヤエノムテキもまだ余裕がありそうだ。

その後ろにシンボリマンタル、僅かに切れてメジロアルダン!

先行勢が最後の直線になだれ込んで行きます!!』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ちょっ、なんですか!今のアレ!!

大事無かったから良いものの、あんな体当たり許されませんよ!

審議です審議!」

 

 グワングワンと鳥林を揺らしながら姦しく騒ぐ天利サキ。

 普段はそこいらの観客に絡みに行ってはメジロのウマ娘の後方腕組み従僕面する彼女であるが、しかし己の主が妨害を受けたと有っては流石にそんな余裕も無いらしい。

 

 隣に居た眼鏡のフリーライターを解放し、代わりに鳥林に掴みかかっていた。

 

「許さっ、れるもっ、何もっ、誘発っ、させたのはっ、こっちっ、です、よ、あれは。

まぁっ、先にっ、レーンにっ、居たのもっ、アルダンっ、ですからっ、咎められっ、る様なっ、事もっ、無いっ、でしょうがっ」

 

(相変わらず力つっよいなぁこのメイド…)

 

 舌を嚙みそうになりながらもなんとか天利を説得し、宥めようとする鳥林。

 数秒の格闘の末、何とか彼の努力が実った頃、タイミングを狙っていたのか、同じく天利に絡まれていたフリーライター、藤井泉助が質問を投げかけて来る。

 

「にしてもなんなんです、あの弾き飛ばしは?

仮にもマカミユーモラスは五番人気、当たり負けするような能力差は無かった筈や。

幾らなんでも小揺るぎもせんのは――」

 

「気になるのは分かりますが、今はレースに集中した方が良いと思いますよ?」

 

 無論もうあと何十秒もしない内にレースの勝者が決まるタイミングだ。

 藤井とてそれは分かっていたし、その上で直ぐにでも聞いておくべき価値がある情報だと判断したから問いを投げた訳なのだが、しかしその質問は、道半ばで遮られた。

 

 何処か熱に浮かされた様なその声に、藤井は『おや?』と思う。

 

 視線を向けた先には、何処か愉悦の混じった顔でレースを眺める男が一人いた。

 

「――これからもっと、面白いものが見れますから」

オグリにクラシック走らせるのは?

  • あり
  • なし
  • 原作なぞるだけなら二次創作なんて書くな
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