ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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遂にミケラダを倒したので初投稿です。
回避盾に徹して後はラティナさんに頑張って貰いました。やっぱりシロガネ人は…最高やな!


三十七話

『皐月賞を制したメジロアルダンさんです。お疲れ様でした』

『ありがとうございます』

『クラシック初戦を勝利して、今のお気持ちは如何でしょうか?』

『クラシック三冠という栄誉ある舞台で結果を残せたことがとても嬉しいです。応援していただいたファンの方々や、支えてくれたトレーナーさん、お世話になった学園の方々にも感謝の念が絶えません』

『成る程。ではレースを振り返ってみて、最後は逃げ粘っていたサクラチヨノオーさんと大激走を見せたヤエノムテキさんを差し切っての勝利でした。直線で坂を登り終わったあたりはヤエノムテキさんの脚色がとても良いように見えたんですが、勝利のビジョンは見えていたのでしょうか?』

『4コーナーを出たあたりからヤエノムテキさんとトウショウマリオさん、シンボリマンタルさんの前三人はずっと射程圏内に入れていました。後はどのタイミングで仕掛けるかが問題でしたが、仰る通りヤエノムテキさんの雰囲気が後ろから見ていても別格だったので、最後の直線は彼女を差し切る絵を描いて走りました。想像以上に難敵ではありましたが、作戦通りと言えば作戦通りになると思います』

『刻一刻と状況が変わるレースの中で流石の判断力ですね。そういえばコーナーといえば4コーナーの入り口辺りで接触を起こしていたようですが、あれは大丈夫だったんでしょうか?』

『私の方は特に何も。ただ大きく不利を受けたマカミユーモラスさんには悪いことをしてしまったかもしれません』

『成る程、しかしそうは言っても映像を見る限りマカミユーモラスの方からメジロアルダンさんの進路に割り込もうとしたようにも見えます。その辺り実際に走っていてどうでしたか?』

『競り勝ってやろうという"競争心は"確かに感じましたがそれだけです。裁決委員の決定ももう出ていますし、それが全てではないでしょうか?』

『そうですね、失礼しました。では次に鳥林トレーナー、トレーナーになってまだ二年目、最年少でのG1制覇ですが今のお気持ちは如何でしょうか?』

『嬉しいのは当然として驚いています。ですが同時にアルダンならやってくれるだろうとも思っていたので、当然だという気持ちもあります。一言では言い表せませんね』

『成る程、G1挑戦でも担当の実力を疑わないその姿には普段からのお二人の信頼関係が伺えますね。しかしだとしても初のG1挑戦の朝日杯FSで二着、今回の皐月賞で一着、G2以下は未だ負けなしの戦績は凄まじいとしか言えません。なにか秘訣のようなものはあるんでしょうか?』

『あったら良かったんですけど、純粋にアルダンが強いだけですね。自分の仕事なんて精々彼女がトレーニングで無茶しすぎないよう見張ってる事くらいです』

『…鳥林トレーナーはこう仰っていますが、本当の所はどうなんでしょうか?メジロアルダンさん』

『献立の調整やトレーニングプランの策定は当然として、毎レース毎レース一緒に他出走者の研究に付き合ってくれますし、必要とあれば助言もくれます。その金言に何度も助けられた身としては謙遜のし過ぎかと』

『成る程、対戦相手の分析とその対策立案こそが秘訣というわけですね。互いへの信頼が伺えますが、因みにお二人は普段からどのような距離感で接しているのでしょうか?登場時は"中々見ない方法"で登場されましたが――』

 

『『……ノーコメントで』』

 

 桜もそろそろ散り始める四月半ば、トレセン学園にある美浦寮の一室では先日行われた皐月賞の勝利者インタビューがスマホで再生されていた。

 動画が終わり、部屋の主、サクラチヨノオーがスマホから視線を上げれば、隣のベッドには動画に映っていた青髪の麗人が眠っている。

 

「………」

 

 その寝顔を見ているともう何度目になるか分からない悔しさが胸の内に飛来した。

 これまで同室でありながら直接勝負のなかった中、初の対決。クラシック一冠目という最高の舞台での勝負だった。

 お互いのコンディションに不足はなく、またレース中アクシデントがあったわけでも決定的な不利を受けたわけでも無い。

 正々堂々、一切の言い訳を許されない状況で実力勝負をして――そして負けた。

 

 悔しかった。

 悔いがないからこそ余計に。

 

 後からレースを見て思うのは、百度あのレースを繰り返しても、自分に勝ち目は無いだろうということ。

 それくらい彼女の走りは強くて、多少のプラン修正では覆せないほどの差を感じたのだ。

 

 後一月もすればダービーが来る。

 幼い頃、あれだけ出るのを心待ちにしていたはずのダービーが、しかし今はもっと遅れてきて欲しいと思えて仕方なかった。

 

 とはいえそんなことを願ったところで意味がないことなど分かりきっている。だからこそ――

 

「上回らなければなりません…アルダンさんを、ダービーまでに…」

 

 出来るのか?と聞いてくる心の弱気に、やるしか無いのだと活を入れる。

 

 ――その為に、暫し学園からも離れるのだ。

 

 昨日の内に纏めていた荷物を背負って寮を出る。

 まだ暗い学園を一人静かに校門まで向かえば、そこには赤いランボルギーニが止まっていた。

 

◆◆◆◆◆

 

 昼下がりの午後、もうそろそろ学園の座学授業も終わり、トレーナーのついているウマ娘は各々のトレーナー室に向かい始める頃。六平銀次郎は自身のトレーナー室で日刊のスポーツ新聞を眺めていた。

 

 そこには今自身の担当しているオグリキャップが中央で重賞を二連勝したことが書かれていて、また同時に実力確かな彼女が現状クラシックへの出走が叶わない悲運も取り上げられていた。

 同時に、何より大きく取り上げられていたのはメジロラモーヌの妹、メジロアルダンが皐月賞を制したニュースだ。

 数日前、オグリキャップが毎日杯で勝った時は一面で騒ぎ立てていた癖に余りに露骨な扱いの差。ただの重賞とG1の間に覆しようの無い格の差が存在するのは確かなのだが、どうしたって不信感が湧き上がるのは致し方ないことだろう。

 しかしそれを見た六平が抱いた感情は、怒りや悔しさではなく寧ろ安堵だった。

 

 何故か?

 

 彼はオグリキャップがクラシック、より正確にはダービーに出られるようになることを望んでいるものの、しかし同時に世論が五月蝿くなることを望んでいなかったからだ。

 もっといえば、それは寧ろ出走がより遠くなることに近づくとすら思っていた。

 

(世論は必要だ――ある程度はな。俺とオグリが騒いだだけじゃあ『規則です』の一言で対応されるのがオチだが、そこに百人か二百人の署名があれば一旦は上に相談エスカレーションさせることが出来る。何処まで上に持っていけるかは署名の数次第だが、役員会議まで持って行くならまぁ最低三千――だけど一万は要らねぇ)

 

 それ以上に多いと"北風"になってしまう、というのが六平の見立てだ。

 

 どう言うことかと言うと、今SNS上にあるのは『オグリキャップがダービーを走って欲しい』という嘆願の声な訳だが、六平はこれが多数の世論を得ることにより『オグリキャップにダービーを走らせろ』という外圧の声に変化することを恐れていたのだ。

 

 URAの役員にも旧来の規則尊守を旨とする保守派、ファンの要望を取り入れ変革を望む改革派、それぞれ居るが、しかし『"外圧"によってURAという組織が変革を促される』ような事態になった時、間違いなく彼らは手を取り、保守の道を選ぶだろう。

 

 守り続けてきた伝統を壊さない為と理解はできるが、しかしそうなれば当然オグリキャップがダービーに出ることはできない。

 味方(ファン)は欲しいが声は小さくあって欲しい。

 

 ダービー出走に足る『格』を示す為如何しても派手な勝ち方を見せる必要があったオグリキャップにとって、これは何気に難しい問題だ。

 なんせ派手な勝ち方をすればするほど『あの娘をダービーに』というファンの熱意は高まっていく。必然語気が強まることもあるだろう。

 

(そう意味では『出てもペガサスステークスと同じ結果になるだけかもしれない』と冷や水を浴びせるようなメジロアルダンの皐月賞制覇は寧ろ行幸だ。『実力下位者の出走をお願いする』構図を今一度はっきりさせてくれた訳だからな)

 

 『実力上位者の出走を要求する』構図でURAが動かなかったところを六平は十ン年ほど前に一度見ている。本人は嘆願しているつもりでも周りの声によりそれが外圧と見做される様も同様に。

 

(まぁあれはそもそも丸外にダービーを荒らされたくないって理念で作られた制度を、その丸外が打ち破ろうとしてたっていう中々難しい状況だったのが前提としてあるんだが…)

 

 対して今回はURAにも相応に過失がある状態だ。

 というのも、六平が甥の北原に聞いたところオグリキャップがスカウトを受けた際、直近に迫っていたクラシック第一回登録の話は無かったというのだ。

 理由は色々考えられる。

 地方とは言えトレーナーであれば知っていて当然と考えたとか。

 まさかクラシック序盤に芽が出るようなことはないと考えたとか。

 

 或いは根本的に、スカウト役が不慣れであったか。

 

 URAから権限を一任されていたシンボリルドルフは生徒会長職こそもうそれなりの期間やっているが、しかし地方を回る必要があるスカウト業務に精を出し始めたのはドリームリーグに移り、時間的余裕を捻出することが出来るようになった二年前以降だろう。仮定を元にすればオグリキャップに声をかけた時点ではまだ歴一年でしかなく、なんなら他にスカウトされた娘がいるという話も聞かない為オグリキャップこそが最初のスカウト相手であっても不思議はない。

 同様に、自分が声をかけた時点で詳細説明の人員が送られると考えたシンボリルドルフと、確固とした了承の意を得てから詳細説明の人員に各種手続き用の書類を持たせて送ろうと考えていたURAの間で齟齬が発生していても、なんら不思議はないだろう。

 

 まぁシンボリルドルフも結局はURAの下部組織のトレセン学園の人員である為何れにせよURAの失態であることに間違いはなく、故にオグリキャップへの謝意としてクラシック追加登録制度を今年から解禁することも――

 

(まぁ無理だろうな)

 

 個人への失態を制度変更を以てしてまで償う組織など存在するわけがない。だからそれは所詮理由付けの一つにしかならないだろう。

 

 『数』を集めてもダメ、『情』に訴えてもダメ。となると後はもう『利』を提案するしかない訳だが、しかし毎年22万ある東京レース場の収容人数ギリギリまで観客が詰めかける日本ダービーというイベントに対し、たかが一学生を出走させることにどれだけの利を提案することが出来るというのか。

 

 無いはずのそれを探した先に思いついたのは、パブリックビューイングであった。

 

 第四十回日本ダービー、人が詰め掛けたのは東京レース場だけでは無い。

 一番人気、ハイセイコーの古巣、大井レース場にも人は詰めかけ、そのターフビジョンから地元の英雄の勇姿を見届けた。

 

 或いは第六回ジャパンカップ。

 名古屋トレセン所属の"まま"にして初めて中央重賞――オールカマー――を制したジュサブローの走りをひと目見んと、やはり多くの地元民が名古屋レース場に詰めかけ、ターフビジョンに釘付けになった。

 

 その裏には当然放映権の売買が発生しており、そしてそんなものなど比較にならない程の活気があったはずだ。

 

 笠松、だけではない。

 笠松と名古屋、だけでもない。

 

 全てだ。

 

 オグリキャップを地方ウマ娘全ての代表として走らせることで笠松を始めとした、名古屋、川崎、大井、船橋、浦和、水沢、盛岡、門別、帯広、金沢、姫路、佐賀、高知、園田の全十五の地方レース場にダービー放映権を買わせ、オグリキャップの好走、否、勝利を以て先細りしていくしかなかった筈の地方レースに活気を戻す。ひいてはハイセイコーがそうしたようにウマ娘のレースを社会現象にまで持っていく。

 それこそが六平の導き出したURAを動かす為の『利』であった。

 

(…無理だ。誰が乗るんだ、こんな与太話)

 

 事実、毎日杯で勝った後この話を各地方トレセンに持って行った時、地元の笠松以外では余裕のある大井くらいしか話に乗ってこなかった。

 先日クリスタルカップを制した後に改めて連絡を入れてみたが、それでも応えたのは縁のある名古屋だけ。

 或いはそれさえ嘗てオグリキャップを下したメジロアルダンの皐月賞制覇によって立ち消えになるかもしれない。

 

(そりゃそうだ。言っちゃあなんだがただの重賞バに救世の願いをかける奴なんている訳がねぇ)

 

 だから獲るしかないのだ。G1を。

 成るしかないのだ。G1バに。

 『この世界には』打ってつけの舞台が存在していた。

 

 ――ガラガラガラ。

 

 と、そこまで考えた時、トレーナー室の扉が開けられる。

 思索から現実に意識を戻すと、そこにはオグリキャップとベルノライトが立っていた。

 

「おう来たか、オグリキャップ。レースの疲れは大丈夫か?」

 

「うん、問題ない。六平、今日もトレーニングよろしく頼む」

 

 またぞろ食堂で目一杯食べて来たのだろう。彼女の腹は妊婦のように膨れている。

 長年トレーナーをやっている六平から見ても彼女程の健啖家は稀であったが、しかしその食欲が高い回復力に繋がっている可能性を考えれば中々注意もし辛い。

 

「まぁいつも通りに軽い内容からやって行くか…それはそうと次走が決まったぞ」

 

 いつものヌボッとしたオグリキャップの雰囲気が、少しだけ真面目なものに変化する。

 

「G1レース、NHKマイルカップだ」

 

「分かった、出るよ。NHKマイナンバーカップ」

 

「NHKマイルカップね…って、え?NHKマイルカップ!?G1レースじゃないですか!?!?」

 

 よく分かってなそうなまま返事を返すオグリキャップと、模範的な反応をするベルノライト。

 何となく予想していた通りの反応がそこにはあった。

 

(こいつにとっちゃあ今はダービー以外のレースはどれも大して変わらないんだろうな)

 

 あまりに一途な精神性。

 それを危ないと捉えるか、武器と捉えるかは人によるだろう。

 

(これまでは確かに武器だった。だけど今回ばかりは『危ない』)

 

「そうだ、ベルノの言う通りG1レースだ。だから強い連中がゴロゴロ出て来る」

 

 オグリキャップの表情はやはり変わらない。

 

「まぁそう言われたってピンとこないか。ならそうだな、一人例を挙げてやろう」

 

「………」

 

 変わらず何を考えているか分かり辛い顔でNHKマイルカップのチラシを見続けている。

 

「ディクタストライカ、昨年最優秀ジュニアウマ娘に選ばれたウマ娘だ」

 

「………」

 

「――朝日杯FSで、メジロアルダンにも勝っている」

 

 オグリキャップの表情が、変わった。




有象無象が幾ら集まって何言っても多分聞いてもらえないから
活気の復調を餌に地方トレセンに動いてもらいましょうって話。
でも動くだけただなら兎も角『動く=オグリのダービー出走時ダービー放映権購入』だから
採算取れそうになかったり、オグリがダービー勝ってくれなそうなら誰も動くわけがない。

どうすれば良いかって、まぁ皐月賞バを倒したことのある前年の最優秀ジュニアウマ娘倒して序にG1バの格を手に入れるしか無いよね。

後この頃のNHKマイルは本当はG2なのですが、この世界戦ではG1に格上げされてます。
ラモーヌが秋華賞取ってるし多少はね?

オグリにクラシック走らせるのは?

  • あり
  • なし
  • 原作なぞるだけなら二次創作なんて書くな
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