ゼンゼロは双六?パートが合わなくてちょっと触った後アンインストールしてたんですけど、イヴリンが余りにも癖だったので復帰しました。
何がとは言わないけどまた壊れちゃった…。
「――オグリちゃん、勝てるかな…」
ターフに出て来て、軽くストレッチをしているオグリキャップを眺めながら、ベルノライトはそんな言葉を呟いた。
決して友人の実力が信じられないわけではない。寧ろ彼女はその強さを誰より信じている自負があった。
しかし同じくらい、オグリキャップがただ強いだけの怪物でないことも知っているのだ。
シューズの故障で何時も通りの走りが出来なくなるし、信じる者に無下にされればコンディションを落とすこともある。坂の走り方を知らなければ足は止まるし、その隙を突かれれば負けることもある。
ベルノライトにとって、オグリキャップとは決して無敵の存在では無かった。
そんなオグリキャップが、ディクタストライカと勝負する。
元々地方に居たベルノライトにとって、G1ウマ娘とはイコール嫉妬すら追いつかない無敵の化け物のことだ。
不安になるのも当然で、しかも今日オグリキャップが戦う化け物は昨年の最優秀ジュニアウマ娘でもあるという。それ即ち同年代の中でも一等抜きん出ていると多くから認められた存在であるわけで、殊更勝利が遠く感じられた。
無論、ディクタストライカが一月ほど前に弥生賞で負けた、即ち絶対に勝てないような存在でないことは分かっている。が、とは言えその時勝ったのはサクラチヨノオーだ。
強者同士相争って、より強い方に軍配が上がったとも取れる。
楽観出来る要素にはなり得なかったし、加えて今日のレースのグレードはG1だ。
格の高いレースで、格の高い敵と戦う。
自分が走るわけでもないのに、ベルノライトは緊張で目の前が真っ暗になるようだった。
「何だベルノ、お前さんオグリキャップが負けると思ってるのか?」
青褪めてすらいるその顔を見て、問いかける六平。
「そう言うわけではないんですけど…。ただその、やっぱり相手がG1ウマ娘だと、どうしても不安になっちゃって…」
「まぁ楽な相手でないことは確かだが、とは言え向こうも休養明け。オグリキャップの実力なら十分やりあえるだろうよ」
「…だと、良いんですけど」
浮かない顔のままのベルノライト。
とはいえG1バにビビる教え子の励まし方など、長年トレーナーをやっている六平には慣れたものだった。
「――ベルノ、さてはお前さん、G1バのことを化け物かなんかだと思ってるだろう」
「それは……はい…」
「まぁ誰も彼も一流と呼ぶに相応しい実力を持ってることは確かだ。鉈みたいな末脚の奴、常識破りのレースをする奴、圧制を敷いて勝ち切る奴、色々いるが、ただ絶対に勝てないかと言えば別にそんなことは無い。コースや距離適正、レースの展開が噛み合わなければ凡走することも当然ある。G1バと言え、条件不問で強い奴なんて、極々一部だ」
「そうなんですか?」
「分かりやすい例を挙げるなら去年のダービーウマ娘、メリービューティー。これまで重賞三勝、内G1二勝の文句なしの超一流だが、長距離適性がないのか菊花賞と今年の春天では着外に沈んでいる。ダービーウマ娘ですらそんなだ。G1バは決して、弱点皆無の化け物なんかじゃあない」
挙げられた具体例にベルノライトは成る程と納得する。
オグリキャップが決して無敵ではないように、憧れのG1バも、同じく化け物ではないのだろう。
蒙が開けたような気がして、思いつめていた顔を幾分か柔らかくする――そして、同時にとある事実に気が付いた。
「あれ、でもディクタさんが勝ったG1レースって今日と同じ距離ですよね?あ、若しかして東京レース場が苦手とか――」
「――いいや」
「……ん?」
「ディクタストライカ…マイルに関して言えば、間違うことなき化け物だ」
◆◆◆◆◆
ガシャン!
『さぁスタートして、一斉に飛び出しました!先ずは誰が行くのか?各バ機を伺いますが、間からギャラクシーリーダー、その内からジョウカイダイヤ、この二人が抜け出して競り合う形。三番手には、おっと!ここで大外からオグリキャップが突っ込んで来ました――』
デビューからこれまでの十五戦、オグリキャップは、マイルの主戦距離、1600mを走ったことが四回ある。
直近のペガサスステークスこそ負けたものの他三戦は勝っており、なのでまぁそこまで意識するようなものでは無いものの、それでも勝ちパターンのセオリーのようなものは持っていた。
無論それは彼女の古巣、笠松レース場を想定したものであり、中央で役に立つかと言われればまた別の話ではあるのだが、それでも序中盤のペースやスパート位置など、参考に出来る箇所は幾らかある。
だからNHKマイルカップに向けたトレーニングで、六平に『取り敢えず一度1600mを走ってみろ』と言われた時も、当然彼女は自分の中にあるその経験を元にターフを駆けた。
前半は程々に、残り800mからギアを上げていき、最後の直線で加速し、スパートをかける。
所謂『差し』の脚質を意識して走った彼女に、六平はこう言った。
――それでは勝てない、と。
(…前が…早いっ!このペース、本当に付いて行って良いのか!?)
そうして受けた指示の一つ目が、後ろからでなく前でレースを進めること。
理想は三、四番手。つまりは先行争いへの参加を申しつけられたわけなのだが、これが中々に厄介だった。
なんせ中央の、しかもG1レース且つマイル距離の先行争いだ。熾烈なことは想像に易く、事実チキンレースとばかりに皆ガンガン速度を上げていく。
幸いスタートから500m続く向正面の直線のおかげで外枠の不利は然程無いものの、しかしこれまで出たままの速度を維持して中盤はバ群の適当な位置に収まっていたオグリキャップにとって、これは初めての経験だった。
慣れない走りに戸惑う部分はあれど、それでも彼女の抜きん出た身体能力があれば早々置いていかれることも無い。
3コーナー手前、直線最後の上り坂に差し掛かる頃には、逃げて競り合うジョウカイダイヤとギャラクシーリーダー、バ群を引っ張るテンリュウシンを伺う、四番手のポジションを確保した。
「ハァー、フゥ…これが、G1ッ!」
序盤にも拘わらず微かに荒くなる呼吸。手足にも僅かに重さが宿る。
終盤ならともかく、序盤からこれほど疲れを感じるのは初めてのことだった。
それだけではない。
刺さる視線。惑わす足音。
どれもこれまでとは比べものにならないほどの迫力だった。
一筋縄ではいかないな、と。そんな想いが脳裏を過る。
しかし不思議と苦しさはなく。どころか、楽しいとすら感じていた。
高揚に、思わず足が前に出る――瞬間、コーナーの内側を走っていたテンリュウシンから睨みが飛ぶ。
――下がれ、と。その瞳は何より雄弁に語っていた。
(……。…いや、競り合うのはダメだ。此処では息を入れないと…)
ウマ娘としての本能がブレーキを踏もうとする中、それでもオグリキャップは冷静だった。
『3コーナー〜4コーナー中盤までで息を入れろ』という六平から受けた二つ目の指示を実行するべく、必死に状況を精査する
なんでも、それ以降では息を入れる暇がないらしい。
(だけど、この速度じゃ…)
誤算があったとすれば、想像以上に逃げの競り合いが激化していること。加えて他の先行勢も全く緩む様子を見せなかったことだろう。
本来速度を落とし、進路が逸れないよう走るコーナー。
そのセオリーから逸れているのは、何も偶然では無かった。
逃げる四番人気ギャラクシーリーダー、先行する二番人気オグリキャップ。
――実力上位の二人を好き勝手前で走らせると、どちらかは逃げ切ってしまうかもしれない。
他のウマ娘達の脳裏には、そんな懸念が渦巻いていたのだ。
それ故注目されているオグリキャップ自らが速度を落とせば、案外それだけでバ群全体のペースが落ち着く状況ではあったりするのだが、とは言え盤上の彼女がそれを自覚することは難しい。
無論純粋に好位を狙う先行勢も中にはいるものの、コーナーの先には東京レース場名物、高低差2mの坂と500mの直線が待ってる。
息を入れたいのは、彼女らとて同じだった。
しかし結局、先行勢はハイペースのまま4コーナー中ほどに差し掛かかる。
伸び切ったバ群の中団外側。
控えていたディクタストライカが動き出したのは、そのタイミングだった。
◆◆◆◆◆
『さぁ欅を越えて!ハイペースなままレースが続きます。先頭相変わらずギャラクシーリーダー、ジョウカイダイヤは下がってきたか。三番手は内テンリュウシン、外オグリキャップ、その後ろにはマイネルグランブル――と、此処で動いたディクタストライカ。一気に前との差を詰める!』
Q.本来抑えるべきコーナーでの加速が上手いと何が有利か?
A.コーナーから出た先の直線を最初からトップスピードで迎えることが出来る。
無論これには『直線で垂れないなら』と言う注釈がつくものの、最高速度で走れる距離が増えるのはそれだけで千金の価値だ。
ディクタストライカはコーナーでの加速が上手く、加えて――マイルの戦場に限れば――最終直線でトップスピードを維持し続ける心肺機能と足を兼ね備えていた。
他が200~300mしか最高速で走れない中、彼女だけ400m以上をトップスピードで走る。加えて出せる速度は同年代最高峰。
そんなの当然強いに決まっていて、事実彼女は強かった。
中団から進出し、一人、また一人と抜き去っていくディクタストライカ。
睨みつける者、泣きそうになる者、それぞれいたが、しかし彼女が視界から消えたウマ娘を鑑みることは――少なくともこのレースにおいては――もう二度と無い。
だって抜き返される、なんてこと絶対に起こり得ないから。
だから鳥林はメジロアルダンに前でレースを運ぶよう指示したし、中距離で勝負したサクラチヨノオーだって同様に戦った。
ディクタストライカが4角を曲がり終える迄に逃げ切れるだけのリードを取る。
それが唯一のディクタストライカの倒し方。
別に共通認識というわけでは無いものの、とは言えディクタストライカ自身若し自分が負けるならそういうシチュエーションだろうなと考えいた。
――だから、驚いたのだ。
(おい、オグリ……正気かオマエ――)
4コーナー出口、加速を続けたディクタストライカは遂に先行集団に取り付いた。
広がれないようバ群を外から押さえつけてやれば、加速を始められない彼女達は一人、また一人と、あまりに容易くディクタストライカに抜き去られていく。
直線に向いた時点で、まだチャンスがあるのは僅か五名という有様で。
明らか限界のジョウカイダイヤを除き、先頭のギャラクシーリーダー他マイネルグランベル、テンリュウシンが遮二無二ロングスパートを掛けて坂を登る中、しかしそうしていないウマ娘が一人いた。
「――オレと、ヨーイドンで走ろうなんてさぁ!!!」
――そこに居たのはオグリキャップ。目に静かな闘志を滾らせて、坂下で機を伺っていた。
◆◆◆◆◆
(予想外はあったが、状況は決して悪くない…)
ターフビジョンに移るディクタストライカの狂笑。
それを見ても、六平は戦況をそう判断した。
レースがハイペースで進んだことにより3コーナーで息を入れることは出来なかったものの、代わりに伸びきったバ群のおかげでディクタストライカに並ばれるのが最終直線の坂下まで延びたからだ。
加えて、彼女がバ群を広がれないよう外から押さえつけたことにより、本来慌ただしくなる筈のコーナー出口を後ろからせっつかれる事なく走ることが出来た。十分息を整える間は有ったと見ていいだろう。
慣れない先行とハイペースでの進行。
それがどこまで響くかは未知数だが、しかし勝負の土台には乗れた。
(ここからは、何方が純粋に強いかの勝負…)
ディクタストライカ。完成度が高く、恐らく十度戦って一度勝てれば御の字の相手。
対するオグリキャップ。未熟な部分は数有れど、しかし彼女は"持って"いる娘だ。
――十に一つを掴む、執念を。
◆◆◆◆◆
99が、100になる。
トップスピードに至るディクタストライカを横目に、しかしオグリキャップはまだ完全に加速し切っていなかった。
必然機先を制したのは栗毛の弾丸。
蛮地の怪物を撃ち抜き半バ身、一バ身とその距離を広げていく。
(速い……けど、問題ない。直ぐに抜き返す――)
加速しきる為に必要な最後の一歩を踏み締めるオグリキャップ。
最高速に到達した彼女は、即座にディクタストライカに追い縋った。
一バ身を3/4バ身に。3/4バ身を半バ身に。
そうしようとして、しかし出来てないことに気が付いた。
(――まだ追いつかない…?)
どれだけ走っても目の前にチラつく黄色のパーカーが大きくならない。どころか、気を抜けば今にも引き離されそうにすらなる。
それは、オグリキャップにとって初めての経験だった。
地を踏み締め、ターフを蹴り上げ、体の細部にまで意識を巡らせてコンマ数秒でも速度の上昇を目指すも、しかし変わらず縮まらない距離。
荒くなる息を飲み込んで、垂れてきたギャラクシーリーダーを抜き去った。
――まだ距離は空いたままだ。
嫌な予感を振り切って、今度は粘るテンリュウシンを抜き去る。
――まだまだ距離は詰まらない。
(なら、これでッ…!)
残り200の標識を目前に、オグリキャップは頭を低く下げ、二段目のスパートを掛けた。
瞬間、僅かに競り合う気配を見せていたマイネルグランベルを即座に千切って、今度こそ、ディクタストライカとの差がジリジリと近付いていく。
(このまま、一気にッ…!)
更に足の回転を上げようとするオグリキャップ。
その耳に、前からポツリとした小さな呟きが聞こえて来た。
「…全力以上の出し方は、オレも知ってる」
煩い程の歓声の中、それでもその呟きは耳に大きく響いて。
内容を理解すると共に、ゾワリと冷たいものがオグリキャップの背筋を駆け抜けた。
(……ッ!諦めるな!!自分を信じろ!!)
弱気な心を叱咤し、ターフを蹴り砕く。
しかし三歩の内に、残りの半バ身が縮まっていないことに気がついた。
(なんで――)
ディクタストライカのフォームに特段変化した様子は見られない。それはオグリキャップにも見て取れた。
なのになぜ彼女は最高速から更なるスパートを掛けることができるのか。
端的に行ってしまえば、彼女はいわゆる『火事場の馬鹿力』の出し方を知っているのだ。
気性が激しく、幼い頃から何度もちびっ子ウマ娘レースに出場していたディクタストライカ。
歴戦の彼女は、溢れ出る闘争心や負けん気など、そういった激情の正しい使い方を誰に教わるでも無く学んでいた。
溢れ出る脳内麻薬により焼き切れるリミッター。
限界にも関わらず、気付けば彼女は嗤っていた。
オグリキャップの脳裏に、敗北の予感が過ぎる。
(――いいや、勝つ!勝つ!!勝つんだ!!!勝ってダービーに出る!ダービーに出て、北原との約束をッ!!)
もう奥の手なんて残っていない。
残り100m、純粋なフィジカルによるデッドヒート。
ダービーを諦め、ダービーに出れないと知った時の絶望がオグリキャップを突き動かす。
ぼやける視界も。痺れる手も。引き攣る足だってあの落胆に比べればなんてことはなかった。
六平が固唾を飲み、ベルノライトが祈り、キタハラジョーンズとノルンエースがテレビの向こうで絶叫する。
フジマサマーチはただ目を逸らさず見届けた。
親友の――勝利を。
Q.ディクタストライカ、もといサッカーボーイ盛りすぎでは?
A.多少盛った自覚はある。けど史実も強いし許してください。苦情はミラコかトプロにどうぞ。
オグリにクラシック走らせるのは?
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あり
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なし
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原作なぞるだけなら二次創作なんて書くな