ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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ナミュールがG1馬になったので初投稿です。
今回は日常会・・・日常会?です。



六話

「・・・なんというか、青いな」

 

「はぁ・・・青い、ですか?」

 

 なんのことか分からない、そう言いたげにメジロアルダンは今し方己の病室に入って来た目の前の男――鳥林の呟きに鸚鵡返しに反応した。

 

「あぁすまん、別段意味が有る事でも無いんだが――」

 

 彼は今一度メジロアルダンが入院している個室を焦点を絞らず俯瞰的に観察する。

 

 病院の個室なんて言うのは基本的に清潔感のある白が基調となっているわけだが、そこに色白の肌に空色の髪をしたメジロアルダンを置けばどうなるか?尚彼女の着ている服は髪色とほぼ同色の患者衣とする。

 

 あまりに目に優しい色をしたその空間に、鳥林は逆に目が疲れてくるような気さえした。

 

「開口一番そんなことを言われたのは初めて、ですね・・・」

 

 発言の意図を聞かされ、多分に呆れを滲ませながら苦笑するメジロアルダン。

 

「気を悪くしたら済まない、つい思ったままを口にしてしまった。

それはそれとして足は昨日から変わりないか?一応何だかんだと診察に立ち会ったからそう心配もしていないが」

 

 結局、メジロ家の主治医と学園の保険医の見解が違うことはなく、あの後彼女は軽度の管骨骨膜炎と診断書が作られた。

 管骨骨膜炎、俗称ソエは管骨――脛骨――に小さな亀裂が入った際付近の骨膜が炎症を起こす症状なので、一応骨折を併発してると言え無くは無いのだが、しかしこれはギプスすら必要とせず自然治癒力に任せていれば早ければ数週間で治る代物だ。

 炎症の方も抗生剤を投与して、ばい菌に好き勝手させるようなことをしなければ問題ない。

 

 故に、トレーニング開始時期が他のウマ娘達と比べて遅れる懸念は有るものの、鳥林の『心配していない』は本心だった。

 

「大丈夫です。今は痛みも引いて、今朝診に来た主治医もこれなら来月の半ばにはトレーニングを再開できるだろう、と。

"何時もより"静養期間が長いですが、やはり症状を自覚した後に目一杯スパートをかけたのが良く無かったようですね」

 

「・・・分かった、闇の深い発言が有ったような気がするが、大事無いならそれで良い。

それと遅くなったが見舞いの品だ。一週間は入院するとのことで、適当に小説を買って来た。興味が出たら読んでみてくれ」

 

「お気遣い有難うございます。

ですが無理に持って来て下さらなくても構いませんよ?こうしてお見舞いに来てくれるだけも本当に有難いこと、なので」

 

「子供同士なら兎も角、大人には見栄が有るからな。そういう訳にも行かんだろ――少なくとも初日くらいはな。

それよりも、だ。昨日話していた『夢』や『目標』については何か考えてくれたか?別に今すぐでなくても良いが、こういうのは早ければ早い方が良い。

目標のレースを想定したコース研究と、又それに基づいたトレーニングをする事はそれなりに重要な事だからな。

それこそ、左右どちらかのコーナーが下手で負けました、なんて幾らでも聞く話だろう?」

 

 成る程、とメジロアルダンは首を縦に振る。

 

「であればクラシック路線に進むこといたします。

姉様はレースへの愛ゆえに(超要約)ティアラ路線に進みましたが、やはり未だ自分に自信のあるウマ娘――強いウマ娘はクラシック路線に向かいます。

歴史に蹄跡を刻むには、やはり強いウマ娘と戦って輝いてこそ、だと思うので」

 

「・・・う~ん・・・あのな、それだと『輝くという"目的"』の為に『クラシック路線に進むって言う"手段"』が有る事になるんだ。

別にそれが悪いことだとは言わないが、それだと結局輝くこと自体が目標になってしまってるから俺としては認めてやれない。昨日も言ったが、全力とやけくそを混同しそうだ」

 

「それは・・・・・・確かに、そう・・・かもですね。

言われてみれば・・・・その通りです。」

 

 彼女の耳が萎びた野菜の様に垂れていく。顔つきも普段の楚々としつつも芯の有るモノから異なり、どことなく迷いが見え隠れしている。

 

「そんなに気を落とすな。

目標なんて何にも無いのに一朝一夕で出来るものでも無いし、夢なんて猶更だ。

昨日の今日で聞いた俺も悪かったし、一先ずはクラシック路線で考えておくから『これだ』と思う目標が自分の中に出来たらまた教えてくれ」

 

「それで、良いのでしたら・・・。

すみません。直近のレースの事なら兎も角、一年後のG1のことなど考えても、どうしても体調不良で出走を辞退する光景しか幻視出来なくて・・・」

 

(『過去にそんな経験があるのか?』とか聞いたら幾らでも出て来そうだな・・・話題変えるか)

 

「あー、そう言えば、君はさっきクラシック路線にこそ強者は集まると言ったが、今年は分からないんじゃないか?

なんせ君の姉がティアラ路線で四冠を達成している。しかもトライアル含めて負け無し、俗に完全三冠と呼ばれている状態で、だ。当然憧れた子なんて相当数いるだろうし、だから今後はティアラのレベルも結構上がると思うんだが――そこら辺はどうなんだ?」

 

「ですが、姉様は有マ記念でダイナーガリバーさんに負けました。同期のダービーウマ娘に、です。

今後再戦して勝つようなことが有れば私がクラシック級に上がった頃にはまた風向きも変わるのでしょうが、ですが姉様は――――いえ、すいません。まだ確定してもい無い部外秘の情報を話そうとしてしまいました。

今のは聞かなかったことにしてください」

 

「お、おう・・・」

 

 ――なんか、何の話しても何かしらの地雷を踏んでる気がするんだが気のせいか?

 

 そんな考えが鳥林の脳裏を過ったものの、とは言え黙っている訳にも行かず、更に話題を変えることにする。

 

「じゃああれだ。注目――と言うよりはライバル視しているクラスメイトなんかはいないのか?

あの子に勝ちたいとか、あの子と競い合いたいとか。流石にそういう思いを一度も持ったことが無い、なんてことは無いだろ?

或いはそうだな・・・これまで君の事で軽く見ていた奴らに目に物を見せてやりたい、とかでも良いぞ」

 

「そうですね・・・注目している方ということであれば、やはりチヨノオーさん――サクラチヨノオーさんが挙げられるでしょうか。

寮の同室の方なのですが、とても愛嬌と思いやりがある方で私にも良くして下さるんです。ただそんな彼女もレースに対してはとても真剣で、トレーニングだって直向きに努力している。

そんな方だからこそ一度は同じレースで戦ってみたい――ターフの上での彼女を知りたいんです。――勝利を狙う以上、何時もの恩返し、と言う訳にはいきませんが」

 

(良いじゃないか、こういうので良いんだよ。というかこういうの"が"良いんだよ。

まぁ向こうの世界のダービー1、2着が同室なのには運命的作為的なモノを感じるが、しかしそれでメジロアルダンが目標を持てるなら悪くない。

ここで指摘してやっても良いが――いや、サクラチヨノオーのレースを見せたりすることで自分で目標設定させる方が熱が入るか?いやでもメイクデビューってだいたい半年後だしな・・・)

 

「他にはやはり単純な実力と言う面でヤエノさん――ヤエノムテキさんやディクタストライカさんでしょうか。

特にディクタストライカさんは一度模擬レースをしている様を拝見したことが有るのですが、あの末脚は同じレースを走るとなれば対策は必要でしょう」

 

「あぁ彼女か。俺も選抜レースで一度見たが、確かに末脚のキレは尋常じゃなかった。

明らかにマイラーの体付きだったからクラシック以降は君とレースが被ることもそう無いだろうが、とはいえマイラーも2000mまでなら割と出て来る。

いざその時になって慌てなくても良いように、少しずつでも情報を集めておいた方が賢明だろうな」

 

「はい、私もそれが良いと思います。あとは――」

  

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――と言った具合で、メジロアルダンさんとは概ね良好な関係を築いていると思います。

とは言えあの子はこれまで中々苦労したようで、知らず知らずの内にそこら辺を突っついて気分を害していないかが少し心配ですが」

 

「そうですか、良好な関係が築けているなら一先ずは此方も安心です。

――しかし貴方とアルダンの関係はトレーナーとその担当ウマ娘、ただ上辺の仲が良いだけでは、その関係が何れ破綻を迎えることもあるでしょうね」

 

 病院でメジロアルダンの見舞いを終えた後、鳥林はとある邸宅の一室で、矍鑠(かくしゃく)とした印象の老婆と向かい合っていた。 

 室内の雰囲気は特段ピリピリとはしていないものの、それでも余計な物音を立てることが憚られる程度の緊張感が満ちている。

 

 ――この状況を見て、これがただの家庭訪問であることを想像出来る者など如何ほどいるだろうか?

 

「昨日、あの子が病院に行くのに付き添った家の者からあの子とトレーナー契約を結ぶ者が現れたと聞いて驚きました。同時に、心配も。

御存じかも知れませんがあの子は体が弱く、しかしとても頑固な子です。才気にだけ目を向ける者は道半ばで心折れ、足にだけ気を使い過ぎる者もその内嚙み合わなくなって行くでしょう。

――或いは、お金や実績の為にあの子を走らせようと言うのなら、過保護な事ではありますが私達メジロの家が何らかの手段を弄することもあるかもしれません。

貴方は、己はどの結末に至ると思いますか?」

 

 トレーナーが担当を持った際その実家に行くかどうかは人によるが、しかし向こうから面談を求めてきた場合応じるのが暗黙の了解だ。

 

 なんせ無視していても結局学園側に話を通されると行かざるを得ず、そこでこれまで来なかった理由に付いて尋ねられた時、真面な理由を言えず不審がられては両親、トレーナー、ウマ娘の三者間で何らかの不和が起こってしまう可能性は考える迄も無い。

 

 そう言った事態を無くすためにも担当ウマ娘の実家側から話を聞きたいと言われればさっさと行くのが吉なのだが――

 

(昨日の今日で呼び出されるとか思わんよ・・・朝起きたらトレーナー寮のポストに高そうな黒い封筒入っててめっちゃビビったし・・・)

 

 ――しかしこの状況は、吉と言うには余りにも物々しい対峙であった。

 

「・・・それらの内どの結末にもなりませんよ」

 

「ふむ・・・では何処に行こうというのです?

まさかとは思いますが、新人の貴方があの子の足を一度も折らずにトゥインクルシリーズを駆け抜けさせられると?」

 

 出来もしないことを言うなら容赦はしないと、その深い知啓を感じさせる双眸が雄弁に語っている。

 

「それこそまさかですよ。

そうでは無く、経験の浅い愚か者と刹那主義の彼女が組もうって言うんですからその先は地獄にしか繋がっていない、私はそう思っていますね」

 

「・・・・穏やかではありませんね。地獄行とは」

 

「そうは言っても、御宅の子は明確に足が壊れることを覚悟してトレセン学園に入って来てるんです。

私は精々その隣を歩いてやって、時々背中を押してやることしか出来無いっていうのに、地獄以外の何処に行けるって言うんですか?

あぁ、メジロ家の権力で心無い・・・いや、この場合心有る、ですかね?兎も角メディアを止めて頂けてるんでしたら地獄の責め苦も少しはマシになるかもしれませんが」

 

「今の話を聞く限りマスメディアを止めるより先に貴方のトレーナー資格を剥奪――は流石にしませんが、貴方を地方のトレセンに飛ばした方がよほど有意義に思えますね。

担当が猛犬で有るからとリードを絞めることが出来無いのであれば、適材適所。闘争心の薄い小型犬の相手をさせるのが誰にとっても吉でしょう」

 

「その際は是非笠松でお願いしますが、そんなことをしても逆に悪影響では?

貴女の言った通りメジロアルダンはとても頑固だ。早々自分を縛りつけようとする者の手を借りようとはしないでしょう。

彼女の才能に目を奪われただけの盲人や、或いはお金の臭いに釣られた業突く張りの手なら――いえ、名なら借りるかもしれませんが」

 

 完璧に淹れられた紅茶を飲みながらも、老婆は鳥林の言葉に渋面を作る。

 

「姉のメジロラモーヌさんがあれだけ成功してしまったんです。今更挑戦すらせず終わる負け犬の人生はどうあっても歩めないでしょう。

何とか五体満足な状態では返しますから、彼女とトゥインクルシリーズを歩くことを見守っていてはくれませんか?」

 

「・・・・・・分かりませんね。何が貴方をあの子に縛り付けるのです?

大っぴらに言えたことではありませんが、この家の家長をやっているとトレーナー試験の結果が聞こえて来ることも儘有ります。流石に"奈瀬トレーナーの御令嬢"には及ばなかったようですが、貴方も十分に優秀な結果だったと記憶している。

老婆心ではありますが、あの子に同情しているのなら止めておきなさい。貴方も今後の人生に影を落としたくは無いでしょう?」

 

「昨日彼女にも言いましたが、同情などウマ娘のレースに欠片程の意味も齎しませんよ。

学園に入学した者の内メイクデビューや未勝利戦を突破できるのが約30%と聞けば一見多く聞こえますが、しかしオープン以上に上がれる者となればその数は一気に約3%にまで落ちる、G1制覇者なんて1%未満だ。学園に入学出来なかったウマ娘達の事を考えれば、あそこまで大量の夢が塵と消える舞台も中々ありません――故に、ウマ娘のレースに同情などなんの意味も無い」

 

「そこまで分かっていながら、何故です?

別にいいではありませんか、少し才能が有るだけの娘が何も出来ずに終わったって。分不相応な体で弱肉強食に身を投じたあの子が悪い」

 

「仕方ないでしょう、分不相応な者が下剋上する所が見たいんですから。

彼女にはそれができる資格と、そして意志が有る。であれば、辛い道程を支えることも、無茶をやると知りながら背中を押すことも、苦ではありませんよ」

 

 あぁ、と老婆は納得した。これは確かに愚か者だ、と。

 

(しかしだからこそあの子を任せてみても良いかもしれない・・・)

 

 少なくとも、トレーニング中にメジロアルダンが怪我しないよう全力を尽くすことはするだろう。

 

 そもレース中はどんなトレーナーであろうとウマ娘に干渉出来ないし、故にメジロアルダンが全力を出すことを止められる者もいない。

 

 であれば、問題は何かしらの故障をした際どうリカバリーしていくかだが、老婆から見た鳥林は、少なくともそこでメジロアルダンを放り出さないだけの気概が有るように見えた。

 

「・・・分かりました。

そこまで言って下さるのであれば少なくとも今は何も言いません、貴方にあの子を預けます。

ですがこの信頼、どうか裏切ることの無いように」

 

 ――以上です、と。

 頭を下げる鳥林に老婆は退室を促した。




どうでも良いけど、屑発言したら後でアルダンに聞かせるために今の会話録音されてるんだよね。まぁあくまで屑発言した時用だから特に気にする意味も無いんだけど。

後ストック無いしそろそろ卒論の時期だから投稿遅れるのは許して。
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