ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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パンサ君両睨みとか言いつつガチでJC出てくんの草。皆単勝買おうね!と言うことで初投稿です(脈絡不明)


七話

「それではトレーナーさん。改めて、今日からご指導のほどよろしくお願いいたしますね」

 

 選抜レースから三週間ほどが経った頃。遂にメジロアルダンの怪我は完治し、二人は漸くその歩みを再開しようとしていた。

 放課後、病院の検査から戻って来た彼女と鳥林は適当な空き教室で今後のトレーニング予定について話し合う。

 

「一応ここ一週間はリハビリも監督していたんだが…そう改まって言われると此方も身が引き締まる思いだ。此方こそ宜しく頼む。

さて、これからトレーニングに付いてだが、ソエが治ったからと言ってガンガン走るトレーニングが出来るかと言われればそうでは無い。ソエは少なくともシニア初期くらいまではかなり再発しやすい怪我だからだ。

骨瘤――ソエの重症時に出る症状。過回復により骨の形が歪になる――までは出ていなかったから少しのトレーニングですぐ骨膜が傷ついて、なんて事にはならないと思うが…正直君の足の弱さ、この場合は特に骨密度の低さからしたらトントンだろうな」

 

 鳥林は奮発して買った手元の最新型の端末に目を向ける。

 其処にはメジロアルダンの身体データが表示されているのだが、内超音波を用いた骨密度測定の結果は、本格化が始まっていないウマ娘の平均値と比べて拮抗、本格化真っ只中のウマ娘は元より、現在の彼女と同じく本格化開始直後のウマ娘の平均値と比べると明確に劣っていた。

 

「……君、牛乳と魚、或いは大豆製品が嫌いだったりした?」

 

「家で飲むモノは基本牛乳、おやつは煮干し、ご飯のお供はメカブか塩昆布、三食全てにわかめの味噌汁、緑黄色野菜も好き嫌いせずしっかり取ってきましたよ」

 

「だよな、聞いたから知ってる」

 

 つまり幼少から積み重ねてきて今の値、と言う事だ。

 ウマ娘の体造りに一過言ある家に生まれたからまだ今の状態で済んだが、レースへの理解が浅い家――俗に言う"一般の出"であればどうなっていただろう。

 

(ここら辺は名門故だよなぁ。

もし彼女が一般の出だったらここまで…いや、たぶん才能喜ばれてちびっ子レースに出して貰える代わりに足潰して終わりか)

 

 妄想の類で無く間々聞く話なのが怖い所である。

 

「まぁこれに関しては今の食生活を続けつつ本格化効果に期待するしか無いだろう。

で、そうなって来ると一か月の休養で筋肉が落ちた今、衝撃を吸収してくれる肉の鎧なしに走らせるのは論外。先ずはプールトレーニングで落ちた筋肉を戻すことから始めるしか無いだろう……――まぁフォームの確認と、後は能力の低下具合、筋肉の回復具合を測るために多少走らせることは有ると思うが、あんまり期待するなよ?」

 

「安心して下さい。

リハビリのもどかしさに関しては幼少の頃より慣れ親しんでいます。早々無理や我儘を言ったりしませんよ」

 

 弁えていますよ、と続けるメジロアルダン。

 

「なんにも安心できないんだが…まぁ良い。

兎に角これで直近の予定を話した訳だが、一応メイクデビューに向けた話もしておこうと思う。

本決まりでも無いし、君の足の状態如何で幾らでも撤回する計画だからこっちは話半分で聞いていてくれ」

 

「もうそこまで考えてくれているんですか?」

 

 そう感心されるほど特別なものでも無いと前置きした上で、鳥林は己の腹案を語り始める。

 

「メイクデビューについてだが、一番良いのはさっさと解禁された直後の六月の内に終わらせてしまうことだ。

以降の七月八月は君たち体温の高いウマ娘にとっては人間以上に体調を崩しやすい時期だから態々そこに照準を合わせたくは無いし、九月より後ろとなると年末の朝日杯FSやホープフルS、阪神JFなんかのジュニア級G1に出ようと思った時、そこから月一間隔でレースを走って収得賞金を積み立てていく必要がある。

個人的なことを言えばジュニアのG1なんか無視して九月や十月――いやさ、君の体が君の才能出力に耐えられるようになってからのメイクデビューでも全然良いんだが、それは納得できそうか?」

 

「仮に、これまで月日と共に私の足が良化の兆しを見せていたなら、そうして待つことにも納得出来たかもしれません。しかし時が経とうと、そして本格化を迎えようと、私の足は速く走れるようになりこそすれその脆弱性が大幅に変わることは有りませんでした。

ですから、すいません。私は足踏みすることに意味を見出せ無いです」

 

 無論、全く成長していない訳では無い。他に比べればまだ脆かろうと確かに彼女の骨は強く、硬くなっている。しかし――

 

(だからと言って、新馬戦を三歳――当時の数え方においては四歳――まで引っ張った"彼"も結局は引退まで足元に悩まされた。弱い足元に重くてデカい体が乗っかっていただけの――言い方は悪いが競走馬としては間々いるレベルの彼が、だ。

だからと言う訳でも無いが、明らかに他と比べて異質な体の弱さをしている目の前のこの子が多少足踏みした所で頑強な…とまでは言わないが、今後のレース生活に耐えうる体を手に入れられる可能性は限りなく低い…。

なら必要なのは"待つ"ことじゃない。"上手く付き合っていく"こと)

 

「まぁそう言うとは思った。

だから以降のレース計画に余裕を持たせる意味も込めて、明らかに走れない状態でさえ無ければ六月の内にメイクデビューは済ませようと思っている――ただし、"ダート"で、だ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「…雨天でも無い限りダートの方が芝より足への負荷が少ないのは承知しています。

トレーナーさんがダートを推す理由はそれですか?」

 

「博識…いや、勤勉?兎に角、良く知っていたな。正にその通りだ」

 

「低負荷で走行トレーニングが出来無いかは私もよく調べていますから――なので、実際にダートを走ってみたことも有りますが、余りに芝と走った時の感触が違いました。上手く走ろうとするとフォームは崩れ、そこから連鎖してダートであることを差し引いてもスピードが出ず…

端的に言ってダートの適性が低かったわけですが、真面にレースやトレーニングを熟そうと思ったらその獲得からしなければなりません。

流石にメイクデビューの為だけに、というのは時間の無駄では無いでしょうか?」

 

「そうでもない。

というのも、レースは兎も角、トレーニングにおいては今後ウッドチップコース――足への負荷がダート以上に少ない――やポリトラックコース――同じく足への負荷が少なく、また水はけが良い為雨天でも重くならない――を使おうと思っているんだが、しかし悲しいことに何方も(新設のため)利用者の許容人数が少なく予約制なんだ。

当然予約を取れないことも間々有るだろうが、そう言う場合、君にはやはり負荷の少ないダートでトレーニングして貰うつもりをしている。つまり今後はそれなりの頻度でダートを使う訳だから、適性を持っておいて損は無いだろう?」

 

 それに、と更に続ける鳥林。

 

「ダート適性に関しては、その殆どが足裏のグリップ力が高いか否かだと言われている。要は砂のクッションを貫通して地面に力を伝えきれる子が速く――上手く走れるわけだ。

とはいえこのグリップ力、芝で走る分にはそこまで影響しないから、会得する時間の無駄と言う君の意見は正しいし、省略出来るならしたい所ではある」

 

「有るのですか?そんな夢物語の様な方法が」

 

 ニヤリ、と胡散臭げな笑みを浮かべた鳥林は、持って来ていたリュックサックからとあるモノを取り出し、メジロアルダンに手渡した。

 

「ダート練用の蹄鉄だ。見ての通り普通の蹄鉄に比べて小さめだし分厚いだろう?砂をかきやすくグリップ力を付与するためだが、それを付ければまぁ最低限のダート適性は得られる。トレーニングする分には十分だろ」

 

「こんな物が…。

確かに外的要因によってダート適性――グリップ力が得られるのであれば、時短にもなりますし芝から走りを変える必要もありません…。

あの、これってもの凄く便利だと思うのですが、どうしてあまり知られていないのでしょう?少なくとも私は知らなかったのですが、負荷の軽いダートでもトレーニング出来るようになるとなればそれなりに広まっていても良さそうなものですが…」

 

「君の言葉の通り"ものすごく便利"だからだ。

速い話がそれ実はレースで使用禁止だったりする。で、レースで使用禁止のモノ使って練習してるとか外聞悪いだろ?だから使ってる奴は少ないし、生産も少ない」

 

 まぁ芝ウマ娘が有る程度簡単にダートを荒せる補助器具など、どう考えてもレースの公平性を欠くので当然の制限だろう。

 

「……ということは私のメイクデビューの時これは使えないんですよね?」

 

 どう勝てと?とばかりに首を傾げるメジロアルダンに、彼は力強く宣言する。

 

「そこは慣れによって多少上がってるであろうダート適性と、何より絶対能力の高さでぶち抜く。

地方なら兎も角、中央でダート走ってる奴は"ダートが上手いから"ってより"芝適性低いから"って奴の方が割合的に多いからな。

最初からダート得意な奴はジャパンダートダービー、若しくは東海ダービーに向けて(ホームアドバンテージを確保しに)大井か名古屋に行ってる」

 

 鳥林の言は兎も角、その後の競争人生で芝を主戦場とするウマ娘であろうと、メイクデビューをダートで済ませることは間々ある。なにせ砂のクッションによって脚を叩きつけた時の反発力は軽減され、またピッチ――足の回転数――を上げにくいことから足の酷使に付いても心配が無く、そして鳥林が言ったように対戦相手が弱いからだ。

 

 それに加えて、――メジロ家の御令嬢であるメジロアルダンにはあまり関係ないことだが――メイクデビューの賞金額は芝だろうがダートだろうが、短距離だろうが中距離だろうが、全て一律増減なし。 

 

 そこら辺の利点と、そして具体例としてメジロラモーヌもメイクデビューではダートを走っていたことを例に挙げながら彼は彼女を説得にかかる。

 

 自身の姉を引き合いに出されると、メジロアルダンも成る程と言わざるを得なかった。

 

「――メイクデビューだからと言って抑えろとは言わない。本気で走りたい輝きたいならそうすればいいと思う。

だけどメイクデビューは一生に一度だ。レース後のライブでしっかりパフォーマンス出来る体を残せる可能性が上がるなら、それに越したことは無い、と俺は思うんだが……君はどう思う?」

 

 彼女の瞳に闘志が宿る。返答など、聞く迄も無く知れていた。

 

 ――きっとこの時から、二人のトゥインクルシリーズが始まったのだ。

 

 

「……そこまで考えて下さっているのでしたら私からは何も言えません。ご要望の通り、絶対能力の高さでぶち抜き……コホン、圧倒して見せましょう」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ~数週間後~

 

 ――ピロン!

 

 とある日の業務中、鳥林のパソコンのデスクトップに封筒のアイコンが表示された。

 

「ん、業務連絡?えっと何々――」

 

『トレーナー各位への伝達

協議の結果、以下の二名がトゥインクルシリーズからドリームリーグへ移籍することとなりました。

 

・シンボリルドルフ

・メジロ――




1987年4月 - GI7勝のシンボリルドルフと、牝馬三冠馬―――――――がJRA顕彰馬に選出された。(wikiより抜粋)

アルダンの口調微妙に難しい。基本お嬢様言葉で良い筈なんだけど、"ですわ"とかは語尾に使わないし……う~~ん……
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