粗製TS魔法少女    作:アカさだな

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TSの質が低い

 

 鏡に映る自身の姿を見る。

 

 腰ほどまである長い水色の髪、動くたびに揺れる豊かな乳房、リボンやレースで装飾されてふわりと揺れるフレアスカート

 

 確かに、女性的な要素は付け足されている。だが、それだけだ。

 

 広い肩幅、だらしない腹回り、太すぎる首や上腕、短足ガニ股胴長のスタイルの悪さ

 

 見た瞬間、男性だと分かる致命的な特徴が複数残ったままである。

 

 でも、ここまでであればまだ無様な女装で済んだだろう。中高生が文化祭などでやるウケ狙いの女装としては及第点は渡せるかもしれない。

 

 ゴムのような材質の肌、くぐもった呼吸音、安っぽいアニメ調の顔が描かれのっぺりとしたフルフェイスマスク、背中にはファンの音が聞こえ続ける登山カバン程の大きさの無骨な機械が取り付けられていた。

 

 何だこれは、一体何がどうなっているのだ。

 

 

 

「気づいたかね」

 

「はかs、あれ、声が」

 

 聞き覚えのある声が背後から聞こえたため、反射的に声が出そうになったが、強烈な違和感に遮られて僕の言葉が最後まで紡がれれることは無かった。

 

「あぁ、よく出来ているだろう。人工音声への変換ラグは0.2秒程。最初こそ戸惑うだろうが時期慣れる」

 

「そんな事より博士!何なんですか!この状況は!」

 

 イントネーションがおかしくラグもまちまちな人工音声への違和感を押し殺しながら僕は博士に詰め寄った。

 

 昨日の夜の記憶を遡っても全く心当たりが無い。課題やろうとして、面倒臭くなってシコって寝ただけだ。極めて一般的な無能男子高校生の金曜日だったと思う。だとするとやはり無断で実験体にされたのか。金払いだけは良いので、この博士の所では定期的にバイトをしているが無断で実験されるのは流石に御免被りたい。純粋に非常識だし、正直ちょっと心臓に悪過ぎる。

 

「良くぞ聞いてくれた。これこそ人類を救う発明品。『魔法少女装衣』だ」

 

 この男、スンラ博士はヘッポコ発明家である。

 

「……僕が魔法少女オタクだからと言って、それ関連なら何でも無条件に喜ぶと思ったら大間違いですよ。色々言いたい事はありますが、取り敢えずこの不細工な着ぐるみを脱がして下さい。正直、見るに堪えません」

 

 正直言って、この着ぐるみは醜過ぎる。俺の体型が悪いというのもあるだろうが、純粋に人形としてのクオリティが低いというのも恐らく間違いないだろう。

 

「まぁ、待て。折角装着したのにまだ動作確認もしていないじゃないか。視界、呼吸、四肢の動きに問題は無いかね」

 

 ……ダメだ、全く話が通じない。こうなったらある程度向こうの要求に付き合った方が早いな。

 

「視界が狭く、本当に真正面しか見えません。呼吸の方はこの通り生きているので問題はありませんが、この煩い呼吸音は仕様なのですか?あと背中の機械と胸と頭が重過ぎて、立ってるだけでまぁまぁ疲れます」

 

「ふむ、設計通りだな。慣れれば気にならなくなる」

 

 何のための発明かは知らないが、ただの商業用の着ぐるみとしても問題が多過ぎると思う。相変わらず博士はユーザビリティを軽視しているようだ。そんな風だから、万年ヘッポコ発明家なのだろう。

 

「もうこれくらいで良いですよね。昨今はプロのスーツアクターでも着ぐるみの連続着用時間は30分から45分なんですよ。素人の僕はもうそろそろ限界です」

 

 僕はそう言ってフルフェイスマスクに手をかける動作をする。

 

 ……無論、無断で脱いでも実験が長引くだけだと思うのであくまでもポーズだけだが、こちらの苛立ちを伝えるには充分過ぎる動作だろう。

 

 しかし博士の返答はその様な心理的綱引きなど一瞬で意味を為さなくなるような衝撃的な言葉だった。

 

「悪いがそのスーツは一度着たら死ぬまで脱ぐ事は出来ん。諦めて正義の為に戦ってくれ」

 

 ……?聞き間違いだろうか。この博士は不親切でこそあれ、そんなマッドな発想の持ち主ではなかったはずだ。

 

「慣れない冗談はよして下さい。特に面白くも無いし、時間の無駄です」

 

「冗談などでは無い。脳、脊椎、内臓、皮膚と深く接続したその装衣を乖離する事は医学は愚か、どのような異能を持ってしても不可能だ」

 

「だから、つまらないと言っているじゃないですか。本当に神経接続されているというのなら態々クソみたいに小さい覗き穴で視界を確保している事の説明がつきません。五感全ての感度がしょぼ過ぎます」

 

 肌の感覚も鈍く、耳にはくぐもった音が届くだけ、顔や股間は全体的に圧迫感が強くどうなっているか見当もつかないが鼻は匂いを感じる事は出来ないし、口はゴムの味しか感じない。顔の表情筋も全く動かせないし、鏡でマスクを観察しても表情が変わる機能があるようには思えない程、安っぽい物だ。

 

「申し訳ない。予算とエネルギーの関係でそこまで力を回せなかった。だが、脳神経接続されている事の証明ならすぐに出来る。システムコード001 待機」

 

[ユーザ名 スンラ博士からのシステムコードを確認、待機モードに移行します]

 

 ……なっ、身体が全く動かない!声も出せない、どうなっている。

 

「この通り、身体の操縦権は装衣のOSのほうにある。君の脊椎に接続して君自身の脳よりも上位の権限として設定させて貰った。このOSの開発過程で予算の九割が飛んでしまったがね」

 

 ……うーん、いや、まぁ、ドッキリか。

 

 博士にしては割と上手く恐怖を演出出来ていたが、少々エロ同人の読み過ぎだな。恐らく洗脳モノだとか束縛モノが性癖なのだろう。身体が動かなくなった瞬間は正直かなり焦ったが、その後の説明で台無しだ。なーにが肉体より上位の支配権を持つOSだ。拘束ギミックの質が良いだけに、胡乱な設定部分が惜しまれるな。

 

「済まないがもう時間が無い。奴らが来るのだ」

 

 博士がそう言ったと思ったら、ふと大きな爆発音が響いた。

 

 まさかこんな罰ゲームスーツを着ているタイミングで付近に怪人が現れたのか?!万が一このスーツのせいで逃げ遅れたりなんかしたら俺は博士を呪うぞ!

 

 爆発音の煩さとスーツのクソみたいな収音能力のせいで周りの状況を把握出来ずにいると、突如視界に黒服の男が2、3人程現れた。

 

「スンラ、貴様が持つ例のブツをこちらに渡して貰おう」

 

「この薄汚い盗人共め!ワシの作ったこのスーツを奪う気じゃな!」

 

「ん?いや、その不細工な着ぐるみには特に用事は無い。貴様がクビになった時に組織から盗み出したあの特級聖遺物だよ」

 

 あー、ダメだ。もう訳がわからん。博士の発明がコケにされているという事実しか理解できん。博士の発明が馬鹿にされているから、多分これはドッキリでは無いのだろう。

 

「やはりワシのスーツに用があるみたいじゃな。あの遺物を組み込んだこのスーツは今までの発明とは次元が違う。貴様らがワシを呼び戻したくなるのも分かるわ。じゃが、戻ってこいと言われてももう遅い。ワシはこのスーツを用いて世界の英雄になるんじゃ!」

 

「なっ、まさか貴様。アレを貴様の腕で加工して使ったのか?!……なんて事だ、世界的名画を燃やして焼き芋を作る様な暴挙じゃないか」

 

「……間違いありません。その着ぐるみの頭髪から僅かながら遺物の反応が出ています。……我々組織とて少女の遺体を冒涜する悍ましい悪行を行いましたが、それでもまだ最大限有効活用できる状態だった分、マシだと思えてきました。無いモノは仕方がありません。証拠としてそのスーツだけでも回収しましょう」

 

「ふん、馬鹿にしていられるのも今のうちにだ。システムコード002 戦闘モード!」

 

[システムコードを確認、戦闘モードに移行します。マジカルステッキ、アクティブモードへ移行]

 

 えっ、待って、戦うの?博士の発明で?

 

 しかし、身体は勝手にノロノロと動き出した。背面の機械から30センチ程の棒状の機械を取り外し、黒服に向けて構える。

 

「魔法少女ルナ、イックヨー!」

 

 構えたと同時に子供用玩具についているような音声が口部分のスピーカーから勝手に流れ始める。

 

 間抜けな音声の反響が消えていった後、何とも言えぬ静寂が、空間を支配した。

 

「悪い子には、オシオキよ!マジカルショット!」

 

 ある種、これはこのスーツの数少ない強みなのだろう。実際、黒服達は困惑して反応が鈍いしな。

 

 そんな中、マジカルステッキとやらから長い溜めを経て光弾が発射された。

 

 ……運動が苦手な小学生のドッチボールの球程のスピードで。

 

 黒服達は足を動かす事もなく、身体を捩るだけで回避した。

 

 光弾が着弾した壁にヒビが入った。まぁ、威力はあるな。多分拳銃のほうが強いだろうが。

 

「なかなかやるな!だが、このスーツの機能はまだまだこんなm」

 

「もう良い。付き合ってられん」

 

 そんな黒服の言葉の後に、パン、と乾いた音が部屋に響いた。

 

[ユーザ名 スンラ博士の生命反応が消失しました。管理権限を一時的に内臓パーツに移行します]

 

 僕はマジカルステッキを投げ捨てて、両手を頭の上に上げた。

 

 

 

 

 

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