テグサーマン   作:クロッカーズ

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《登場人物》
・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。テグサー2に変身する。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。テグサー3に変身する。
・大城茜…天才的なバイクセンスを持った女子高生。テグサー4に変身する。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
・イーヴィル・ディーン…ジン・ガイア帝国のエリート兵士。


第十二話『脱出』

12-1

 

「ねー、ハカセ?私達、本当になにもしなくていいの?私、やれる事ならなんかやるよ?」

 

「大丈夫ですよなにもして頂かなくて。下手に動けば本社にバレてしまう可能性がグッと上がる訳ですからね」

 

「だから、涼さんと社長はわざわざ本社に行ったんです、本社の役員や部下に上手く誤魔化せる様に、ね」

 

「ふーん、そういうことだったんだ…涼ねぇがこの後は解散、皆自由に過ごす様にって言ったのは…」

 

穂乃花が未来島に向かって数時間後、飛田は茜に連れられて近所の小さなバイク屋に立ち寄っていた。その目的は自前のバイク整備を受ける事。二人が座るカウンターのガラス越しに作業着を着た中年の男性が慣れた手つきで整備を進めている。その作業を横目に、二人は会話を楽しんでいた。

 

「は~い、茜ちゃんとお客さん。ジュース、お待ちどお~っ」

 

「あっ、ありがとね、おばちゃんっ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

茜と飛田にオレンジジュースを運んでくれた中年女性。胸には「佐伯バイク」の名札をつけていた。

 

「いつもゴメンね、おばちゃん。バイクの整備を色々サービスしてくる上にジュースまでくれて…」

 

「い~のよ、茜ちゃん。これは所謂出世払いにしておくからね~」

 

「あ、あはは…ちゃっかりしてるなぁ~」

 

「…まぁ、ホントは茜ちゃんの家庭事情を聞いたお父さんが好きで整備やっているだけだから気にしないで。その代わり、勉強とかしっかり、ね?」

 

「は、は~い…」

 

「それじゃね~」

 

中年女性は手を振ってその場を後にした。それを見送る二人。彼女が事務所に引っ込んだ瞬間、飛田は茜に顔を近付けた。

 

「茜さん、よくここでお世話になってるんですか?」

 

「ん、そうなの。私がテグサーチームに入る前からね。来た当初の私は荒れに荒れたばかりの時だったから、見かねたおばちゃんがよく心配、相談に乗ってくれたんだ~」

 

「だからココはテグサーチーム事務所と同じ位に安らぎの場所でもあるって訳!」

 

「そうだったんですね…でも、僕達に会った時も結構荒れてた様な…」

 

「う…それはまぁ、そういう時もあるっていうかなんていうか…それと合わせてトウマとの出会いによる相乗効果って奴で…って、そ、そんな事より!!ちゃんと穂乃花達を見なくていいの!?なんかあったらマズいでしょ!?」

 

答えに詰まった茜は誤魔化す様にカウンターで立ち上げているノートパソコンを指差す。そこには、未来島を中心に、その近辺の様子がリアルタイムのマップ形式で表示されていた。

 

「あぁ、その点なら大丈夫ですよ。ちゃんと横目で見てますから。ちょうど今、穂乃花さんは未来島に見事潜入したみたいですね」

 

「えっ!?ウソ!?」

 

「…あっ、ホントだ」

 

茜は飛田を軽く押しのけて、ノートパソコンのモニターを見た。そこにはテグサー2のアイコンが未来島と重なっているのが表示されていた。その様子に茜は息を呑み、飛田はその横で一人呟いた。

 

「さて、ここから本番だ…穂乃花さん、必ず帰ってきて下さいよ!!」

 

12-2

 

一方で未来島内の港内。そこは島の内部でありながらも、海に面している場所であった。周囲の壁が無機質な銀の金属とコンクリートの地面で囲まれるここ、波紋が広がった後、何者かがゆっくりと浮上した。

 

「ふぅ~なんとか潜入成功…!!」

 

それはテグサー2であった。彼女は頭より下を出す事はなく、キョロキョロと周囲を見渡した。

 

「よし、誰も見てないね~」

 

テグサー2の視界の先。陸上の港に誰もいない事を確認した彼女はゆっくりと進み、止まってはもう一度周囲を見渡し、再度ゆっくりと進んだ。

 

「…なんか、南米の地下基地に潜入するロボットになった気分…なんて言ってる場合じゃない。マズいな、見張りが二人いる。どうしよ…」

 

テグサー2は真正面のコンクリートの港に、二人のジン・ガイア人の姿があるのを見つけた。屈強そうな大男と小さいながらも筋肉の付いたもう一人の男。見張りなのか、それとも別の船の発着を待っているのか。目的は不明だが、兎に角いかつい二人を前にテグサー2は考える。

 

「う~ん、一人を相手に時間を掛けていたら、もう一人の奴が通報するよね?多分、本部かどこかに…」

 

「じゃあ、どこか別のルートを探して通る方がいいか…いやでも、折角探してもそこに新しく誰かいたら全てが台無し、時間を大きくロスしちゃう…ねぇ、トウマ?どうすれば…」

 

「…あっ」

 

トウマの名前を呼んだ瞬間、テグサー2は我に帰った。今この現状、頼れる味方がいない、孤独の戦いである事を。

 

「そうだ、今は私一人しかいないんだ…それも、周りは全員敵だらけ…どうすれば」

 

「いやダメだ。ここで弱気になってどうするの?皆は私に期待して送ってくれたって言うのに」

 

「…よし、それなら全部私の判断で突き進むしか…ないっ!!」

 

意気込んだテグサー2は手持ちの剣を岸に向けて槍の様に投げ飛ばした。勢いが付いて、放物線状に飛ぶ風竜剣。すると、それは二人の頭上を飛び越えて失速、ガランガランと音を立ててコンクリートの地面に転がった。

 

「んあ?」

 

「なんだ?」

 

突如鳴り響く金属音。岸の二人は音のした方向、薄暗い港の奥を振り向いた。

 

「なんだ、アレ?」

 

海に背を向け、大男は転がる剣を指差しす。

 

「なんかの武器みたいだぜ」

 

その傍らで目を凝らした小さい男は近づいて掴もうと手を伸ばした。その時であった。彼らの背後から、水飛沫を上げてテグサー2が飛び出したのは。

 

「ぎゃあっ!!」

 

その音に気付かぬまま、小さい男は背中に大男の悲鳴を浴びた。

 

「え、ななななに?」

 

悲鳴を聞きつけた小さい男は慌てて振り向いた。その先にあった物。それは倒れた男と、目の前で蹴りを放つテグサー2の姿であった。

 

「どりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

テグサー2による、不意打ちの蹴り。小さい男を吹き飛ばし、近くにあったコンテナへと激突させた。

 

「う、う~ん…」

 

突然の衝撃のあまり、彼は目を回し、気を失う。

 

「これでよし…次は」

 

確認したテグサー2は変身を解除し、穂乃花に戻っると仰向けに眠る小さな男の上下一体の作業着のジッパーを下げ、足から服を一気に引っ張って脱がした。

 

「えぇ~と…」

 

手に入れた作業着を振って、汚れを払う穂乃花は辺りを見渡した。右には通路に繋がる出入口。そして左にはコンテナでコの字になっている場所。その隙間を見つけた穂乃花はコソコソとコの字の中に入り、作業着を制服の上から着始めた。

 

「ん、んしょ…制服の上だからかな…着づらいな…」

 

体格差と重ね着故にキツく感じる作業着。それでも、手を止める事なく、半ば強引に押し込んだ。

 

「よっし、着替え完了!!」

 

穂乃花は作業着の襟を正し、ポケットに入っていた帽子を深く被る。

 

「待っててよ、トウマ…今すぐ行くからねっ!!」

 

それと同時に、潜入する緊張感が高まったのか、顔も一気に引き締め、一気に姿勢を正した。

 

「…ふぅ」

 

「はぁっ…はぁっ…それにしても、この服結構キツイ…息切れ起こす前に見つけよっと…」

 

しかし、そんな決意に溢れた顔も服の窮屈さで一瞬で崩れ、猫背になった彼女はゆっくりと出入り口に向かうのであった。目的はただ一つ、この地で彷徨う幼馴染を探す為に。

 

「はぁ~、もう下校時刻か。折角の皆勤賞がパーだぜ、ったく…」

 

一方で探される人、トウマは小さく、無機質な部屋で腕時計を見て、深くため息をついていた。固形食糧、ドライバーやペン、地図等が散乱している前で座り続ける彼の顔や腕には切り傷、擦り傷が付き、ジャケットは所々破けている。それは、まるでこれまでの逃走劇が如何に過酷であったかを物語っている様であった。

 

「よし、俺が入らされた所から一番近くの隅っこ、つまり南口まで辿り着いた…ここからここまで歩いたな」

 

トウマはペンを持って今まで歩いたルートを地図に描き始めた。そのルートは通路を少し通っては部屋に侵入、それから同じ出入口から撤退、そしてもう一度通路を通っては部屋に侵入…といった、穴倉から出入りする鼠の様にコソコソした物であった。

 

「さて、ここから問題。脱出口は果たしてどこか、そんでもって安全かつ逃げられる乗り物が手に入るか…だな」

 

トウマは地図の端から端までくまなく探した。しかし、その地図は通路や部屋しか簡易的に描かれておらず、どこから出られるのか、何があるのかまでは分からない。そんな地図を前にトウマはうーん、と首を捻った。

 

「確か~十年前、俺が軍に助けられた時は南口からだったな…あの時、俺はアーマーを装着した父さんに…」

 

「父さん…」

 

トウマはあの日の父を思い出した。家族が怪人に襲われ、一人泣きながら逃げた所を、深い傷を負った父と合流出来た事。そんな父が自分を抱きかかえて無人の倉庫まで運び、「静かになるまでここにいろ」という言葉を掛てから鋼鉄のドアを外から閉めた事。そして、自動で閉まるドアの隙間から見た、怪人に立ち向かい、そして命を失った父の背中を。

 

「結局アレが最後の言葉になってしまったんだよな…俺はなにも言えなかった、なにもしてやれなかった。出来たのは泣きじゃくるだけ…か」

 

その時であった。部屋の向こうから複数人の足音が聞こえてきた。その音はドンドンと近付き、最後にはトウマのいる部屋の前でピタリと止まると、ドアを開けようとノブを何度も回した。しかし、そのドアは空回りするだけで、開く素振りは一切見せなかった。

 

「くっそ、開かない!!間違いない、奴はここにいるぞっ!!ええい、開け、開け!!」

 

何度ノブを捻っても開かないドアに、部屋の向こうの男は苛立つ声で叫ぶ。

 

「仕方ない、ぶち破れ!!」

 

「了解、どりゃぁぁぁぁっ!!」

 

もう一人の男の指示を受けた苛立っている男は雄叫びと共にドアを蹴った。蝶番が千切れて吹き飛び、勢いよく倒れると、その衝撃で地面から埃が舞い上がった。そして、差し込む光と共に全身黒のアンダーアーマーとゴーグル、その上にヘルメットと分厚いボディーアーマーを装備した兵士が二名入り込んで来た。

 

「動くなっ!!」

 

兵士達は同時に拳銃を構えてズンズンと歩く。しかし、彼らの視線の先には散乱した道具以外、探し人の姿は見えなかった。

 

「どこだ、何処にいる!?」

 

構え続ける兵士達はお互いの死角をカバーしながら部屋の隅々を見渡した。しかし、机の下、スチールキャビネットの中を覗いてもその姿はない。探しつくした二人の兵士はお互いの顔を見合わせた。

 

「おい、どうやらここにはいないみたいだぞ、逃げたか?」

 

扉をこじ開けた方の兵士は言う。

 

「そんな馬鹿な、逃げるたってどこにだ?俺達が入ってきた入り口以外、出る場所はないんだぞ?恐らく、ここはとっくにもぬけの殻だったんだよ」

 

「クソッ、俺達を出し抜きやがって。行こうぜクーゾー!!別の部屋を探すんだっ!!」

 

「了解。全く、張り切って…」

 

クーゾーと呼ばれたもう一人の兵士はヘルメットをこすりながら、飛び出す相棒の後を追う。二人が退出し、静まり返る部屋。彼らは気付いていなかった。天井の一部、空調があった場所が取り外されている事を。

 

「危ねぇ、危ねぇ。あと少しで居場所がばれる所だった…」

 

兵士が入室する事を察知したトウマは天井の穴からダクトに侵入、ほふく前進で進んでいたのだ。

 

「かくれんぼの大会の前、いざとなったらダクトに隠れようと予め調べていたが、まさかコレも役に立つとは思わなかっ…うわっ、ペッペッ、蜘蛛の巣が…!!」

 

進みながら独り言を話すトウマは暗がりもあって目の前の蜘蛛の巣に気付かず、それが口に入り、口内と目の前に掛かる蜘蛛の巣を手で必死に払いのける。その時であった。トウマのすぐ下でガタン、と何かが外れる音がした。

 

「へっ!?な、なに!?あっ!?」

 

トウマは思わず下を見て驚愕した。そこでは彼の全体重を支えるダクトの板が重みに負けてドンドンと下がっていくのが見て取れたからだ。

 

「や、やばっ、早く次に行かないと…」

 

慌てて移動しようとトウマが進もうとしたその瞬間、彼が乗っかっているダクトの板が全て外れ、地面に向かって、真っ逆さまに落下。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

当然トウマもダクトと共に地面に落下、固い床に腰を思い切り打ち付ける事となった。

 

「うー、いてて…腰が、腰が…」

 

「だ、誰ですか、あなた!?」

 

「へ!?」

 

腰をさするトウマに掛けられた若い女性の声。声のした方に目を向けると、白衣を着た、長髪で白色の成人女性の姿があった。

 

「一体、ダクトの中でなにをしていたんですか!?」

 

彼女は不気味な緑色の液体が満杯に入った複数の円柱状の水槽を庇うように立ち、声を振るわせながらもトウマを睨みつける。

 

「ま、待ってくれ!!俺は怪しい者じゃないっ!!あの、あれだ!!ダクトの整備してたら踏み外しちまって…今すぐ出ていく、出ていくから騒がないでくれよ、上司に怒られちまうから、な!?後で絶対直しに行くからさ!!」

 

下手に騒がれて兵士に存在を知られたらマズい。そう考えたトウマは身振り手振り、しどろもどろに必死に誤魔化す。

 

「そ、そうなんですか?分かりました…それじゃ、黙っておきますけどなるべくお早めに…」

 

その必死さが功を奏したのか、女性は少しばかり表情を和らげた。それでも、彼女は警戒心を解かず水槽を庇う様に立ち続ける。トウマは何とか怪しまれない様、広いこの部屋の中で一番近い入り口に目を配りつつ、ゆっくりと彼女に近付いた。

 

「あぁ、約束するよ。えと…後で改めてお礼がしたいから、君の名前と所属を教えてくれるかな?」

 

「私の名前はレニー…ここ『強化体開発室』で役獣達の育成を担当しています」

 

「教育?教育たって、相手は何処に…!?」

 

教育を施す相手は何処にいるのか。疑問を感じたトウマは周囲を見渡し、視線の先にあった『水槽の中身』に思わず息を呑む。その中にいた物。それは、緑色の液体の中に浮かび、蠢いている目の開いた胎児の様な生命体であった。

 

「あ、ああ、そうか。ここは彼らの教育室だったのか。うっかりしていたよ」

 

(そ、そうか俺が最初に戦ったイエティマンみたいな力だけの化け物同然の奴はここで産まれたのか)

 

動揺し、悲鳴を出そうとする喉を力で抑え、トウマは冷静を装ってレミーに言葉を返す。

 

「そうですよ、ガイアランの果実から産まれた果実を役獣として強化教育し、戦場に出すんです。お忘れですか?」

 

「あ、あはは。いや~、申し訳ない。まだここに赴任したばかりで…っと、うわっ!!」

 

トウマは更に誤魔化そうと歩んだその時、床にあった段差に躓き、よろめいた。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

下にあった数cmのそれを見ると、水槽から延びている事がわかる。更に言えば他のいくつもの水槽かも延びる段差と合流して中央まで続くと、床に半分埋まった、基盤が剥き出しとなる立方体の機械の元へと集まっていた。

 

「なんだこの段差…あの、コレは?」

 

「それは水槽内の役獣に栄養と強化剤を送るケーブルを守るカバーです。ごめんなさい、私達でもたまに躓くんです」

 

「それならあの機械を移動させるなり改善でもすればいいのに…」

 

正体がバレまいと必死で会話を続けるトウマ。しかし、喋る度に、レニーの顔はどこか浮かない顔をしていた。

 

「あれ、レニーさん?どうかしたんですか?すんません、言い過ぎましたね」

 

「…あ、いえ…私、最近疑問に思うんです。確かに、この機械の深層部分、奥を知らずによく管理しているな、と…」

 

「そ、そういう物なんですか?大変だなぁ」

 

「えぇ…でも私最近思うんです。この子達は十年前の復讐、地球のヒエラルキーの為に産まれ、育って死んでいくのが全てではない、もっと何か別の道があるかもしれない。私達の教育はそんな彼らの未来を潰している。そんな感じがするんです…」

 

そう話すレニーの瞳には、先程までの怪訝さや悲しみはなかった。今の彼女の瞳は、大事に育てた子を思いやる、暖かく、優しい瞳であった。

 

「っと、ちょっとウチの余計な内情を喋ってしまいましたね…すいませんね、皆が人類征服を一番としているのに…お礼は結構ですので今の話を内緒にする事でチャラにして貰いませんか?」

 

「あ、アンタ…」

 

微笑むレニーを前に、トウマはなんとなくポケットに手を突っ込んだ。その瞬間であった。うっかりしてポケットに入れていたテグサロイドを手と入れ違いではみ出させてしまったのは。

 

「あ、やべ…!」

 

トウマは滑り落ちようとするそれを掴もうと慌てて手を動かす。しかし、時すでに遅く、テグサロイドはポケットから完全に飛び出し、地面に真っ逆さまに落下した。室内に響く、硬い物同士がぶつかり合った乾いた衝撃音。レミーは思わずなにが落ちたのか地面に注目した。

 

「え、これって…!?まさか、あなた…!?」

 

レニーはトウマの顔を見た。

 

「…っ!!」

 

見られた張本人はばつが悪そうな表情を見せる。

 

「あなた、人間、それも装着者だったんですね…!!平気な顔をしてここから逃げて、いずれまた、私達を殺そうとしていた…そうだとしたら、許せない…許さない!!」

 

そう言いながらレニーの顔は徐々に変身していく。その顔はスズメバチを模しており、身体もまた柔らかい四肢から一変、昆虫の様に細く、黒と黄色の縞々の禍々しい姿へと変貌した。変身の時に発生した衝撃で周囲の紙の資料が吹き飛ぶ。そこには人間が扱う兵器、ジン・ガイア帝国の兵器等がびっしりと描かれていた。

 

「ウォォォォォッ!!」

 

レニーは不気味に光る腕を振りかざす。すんでの所で避けるトウマ。

 

「今だっ!!」

 

大振りで腕を振った為、大きくバランスを崩した相手を前に、トウマはその場から逃げ出そうと入り口に向かって駆け出す。

 

「逃がすかっ!!」

 

しかし、レニーは人間の逃走を許さない。入り口の扉に手を掛けようとするトウマの後頭部に狙いを定め、口から針を飛ばす。しかし、狙いは外れ、針は彼のジャケットの襟を貫いた。

 

「うおっ!?」

 

背後からの襲撃に驚くトウマ。次に来る攻撃に対処しようと振り向いたが、レニーは既に眼前。腕を掴まれると怪力の前に為す術なく投げ飛ばされ、すぐ近くの積もりに積もった段ボールに思いきり叩きつけられた。

 

「う、うぅ…」

 

崩れ落ちたそれらから、呻きながらなんとか這い上がるトウマ。顔面につけられた痣がその威力を物語っている。トウマはしゃがんだままでも次に来る攻撃に再度備え、構えた。しかし、意外にもレニーは、表情は分からないものの悲しみに湛えるかの様に佇んでいた。

 

「どうしてよ…」

 

突然、ぶつけられた疑問を前にトウマは腕の力を緩めて首を傾げた。

 

「どうしてあなたみたいな子が、ドルカを殺したの!?あの子は一生懸命生きていたのに…!!どうしてよっ!!」

 

「ドルカ…!?まさかお前、アイツと知り合いだったのか!?」

 

「そうよ、あの子はこの水槽で強化され、人らしさを持った戦士として戦ったのよ…!!」

 

「あの子は純粋だった…この島、この国の皆を守ろうと必死だった。それを、その意志をテグサーマンが殺した…!!まさか、自分はやっていない。そう言うつもりじゃないでしょうね!?!」

 

「レニー…」

 

トウマは思わず呟いた。表情には迷いがある。だが次の瞬間、意を決した様に立ち上がった。

 

「そうだ、ドルカを殺したのは俺だ」

 

「…!!やはり…!!」

 

レニーは怒りに身を任せ、次の針を撃とうと口を前に突き出す。それに対し、トウマは臆する事なく彼女の複眼の瞳を注視していた。

 

「ドルカはお前達の兵士に追われている所で出会った。戦意のない事を知った彼女を助けようとした。でも、俺達人間のせいで彼女は暴走、やむを得ず殺した。それは、あのまま放置すれば誰かが死ぬ。守らなければならないと考えたからだ」

 

「俺達は誰かを守りたい。その気持ちはドルカと同じつもりだ」

 

「嘘よ、嘘…!!あなたはジン・ガイアの者ってだけで容赦なくなぶり殺しにしたんだわ…」

 

「嘘じゃない、彼女はかなり特殊な実験を受けていた。感情が力になるかどうかって…恐らく、ここの実験で感情をコントロールされていたに違いない」

 

「ど、どうしてそれを…!?確かにあの子はここの子達はドクターの指示で別の液体で満たされていた…」

 

「グシャンモスって奴から聞かされたんだ。彼女はそのせいで随分と考えていた様だった…」

 

「そ、そんな…どんな液体なのか詳しく聞かされなかったけど、まさか、そんな事に…それじゃあ、あなたの言っていた事、思想は本当に…いえ、そんな筈はないわっ!!知識がない頃の私達を捕えようとしたのは間違いなく人間…!!そんな奴らが考える事なんて…有り得ないわぁっ!!」

 

レニーは華奢な指で拳を固め、トウマに襲いかかる。迫る怪人にトウマは死を覚悟し、グッと構えた。その時であった。二人の間からすぐ傍の入り口からトウマにとって聞き覚えのある声が聞こえたのは。

 

「チェンジ、テグサー2!!」

 

変身の掛け声と共に、テグサー2が入り口から飛び出し、レニーの腹部に強烈な蹴りを放った。

 

「きゃあっ!!」

 

突然の奇襲で横に大きく吹き飛ぶレニー。一回転して見事に着地するテグサー2。

 

「トウマ、ここにいたのね…!!よかった、平気!?」

 

彼女は壁にもたれかかるレニーを横目に変身を解除すると、一目散にトウマに向かった。

 

「穂乃花…!?お前、どうしてここにいるんだ!?」

 

「泳いできた」

 

「やり方を聞いてるんじゃない!!なんで来たのかって言ってるんだ!!お前、猛獣の檻に自分から顔突っ込んでる様な物だぞ!!」

 

「そんな事言ったって、困っている人を見捨てられないもん!!」

 

「他の人はそれでいい。だけど俺に対しては違う。いいんだよ、俺の事は放っておいて…こうなるかもしれないってのは分かってるんだから。全く…」

 

「…そんな事言わないでよ…」

 

「へ?…あっ!!」

 

トウマは穂乃花の瞳を見て大きく後悔した。彼女の丸く、大きな瞳から大粒の涙が流れていたからだ。

 

「自分の事どうでもいいなんて、言わないでよ…!!私、トウマの事、ずっと心配してたんだもん…!!!もし一生会えなかったら、って考えたら居ても立っても居られなかった…!!だから皆、私の事をあの手この手で送ってくれたの…!!それで…」

 

「穂乃花…」

 

泣きじゃくる穂乃花を前に、トウマはポンポンと彼女の頭を撫でた。

 

「…悪かった。そうだよな。仲間の命すら考えない奴が皆を守れる訳ないよな…穂乃花、来てくれてありがとよ。助かったぜ」

 

「うん…うん…」

 

「よしよし…あっ!!」

 

涙を袖で拭き、深く深呼吸をする穂乃花。その背後にレニーが迫っているのがトウマの目に映った。

 

「トウマ、どうしたの…あっ!!」

 

トウマの驚愕の声に気付き、振り向いた穂乃花もまた驚愕の声を上げた。そして構えるテグサロイド。しかし、レニーは攻撃の意志を見せない。二人が不思議に思うと、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「トウマ、あなたがさっき言った事に嘘はない様ね…危険を顧みずに助けに来る仲間、そしてその涙がそれを証明してくれたわ」

 

「へ?へ?トウマ、どういう事?」

 

途中からの参加で話の全容が見えない。そう考える穂乃花はトウマに疑問を投げかけた。トウマは後で話すと言わんばかりに前に出てレニーに話しかけた。

 

「レニー、皆を守り抜き、いずれはこの戦いを終わらせる。それがお互いにとってベストな筈だ。だから、この場を見逃してくれ、頼む」

 

「え、それは…でも…」

 

「クルルルル…」

 

「え、なんだ?」

 

両者の会話に割り込んできた可愛いげのある鳴き声。それは水槽の中の子供の声であった。その子は黒一色の目を見開いて、水槽にへばりつきながらトウマと穂乃花の事を交互に眺めている。その瞳に嫌悪感はない。あるのは、興味津々な幼子の純粋な好奇心であった。二人が周囲を見ると、他の水槽の子も同じ様子であった。

 

「皆、この人達は人間よ。お勉強の時によく聞いたでしょう?」

 

変身を解除したレニーは穏やかな声で子供達に紹介した。

 

「キュルルル、クルルルル…!!」

 

水槽の中ではしゃぎ、子供は短く、毛のない尻尾を振って喜んだ。まるで、客人を出迎える犬の様に。

 

「キャオーン!!」

 

「グエェェ、グエェェ!!」

 

その声に触発される様にはしゃぐ他の子供達。

 

「あ、あはは…珍しがられるなんて、なんか悪い気がしないかも…」

 

子供とはいえ、周囲にちやほやされた穂乃花はまんざらでもないかの様に帽子を脱ぎ、後頭部を掻く。その様子にトウマはやれやれと苦笑混じりに眺めていた。そんな光景を前に、レニーは口を開いた。

 

「…残念ですが私は帝国の一員である以上あなた達を逃す訳にはいきません。ですが、捕まっても身の安全を確保出来るよう私が支えます。そして、戦いが終わった時には二人を日本に必ず返しますのでここはあえて捕まって貰ってもいいでしょうか?」

 

「そ、それは…」

 

人間二人は顔を見合わせる。その時であった。入り口の自動ドアが開かれ、暗がり一室に一筋の光が差し込んだのは。

 

「残念だがトウマ。これ以上先には行かせない。この俺のメンツにかけて、な」

 

「お前は…ディーン!?」

 

開かれた扉の先にいたのはディーンであった。驚くトウマと身構える穂乃花を前に、ディーンは部屋に入り、変身の構えを取る。

 

「待てよ、ディーン!!お前を消そうとした仲間にそんなに執着してなんになるんだよ…!!俺を殺した所でまたマツナガとかに…」

 

「お前に何が分かる…!!」

 

「え…?」

 

「お前の世界は誰を信じ、逆らおうと自由だ…!!だが俺は違う。例えどんなに裏切られ、争うとも信じ、求める物はただ一つ、この帝国の自由。それだけだ!!」

 

「それに、俺の事を信じてここに送り込んでくれた人もいる。いい奴もいれば、悪い奴もいる。確か人間達はそんな世界だと聞いた。俺にとってこの帝国はそんな世界と一緒だ。だから今、貴様を殺して皆から信頼を得る!!帝国の名にかけて、な…!!」

 

「お前、まだそんな事を…!!誰かを殺して信頼を得るなんて、間違ってるぜ…!!」

 

「フン、それはお前達の企業も同じ様な物だろうが…!!」

 

「ま、待って下さい、ディーン!!」

 

トウマとディーンの間に、レニーが割って入る。

 

「この人はそんなに悪い人ではありません。その考えが私があなたに施した教育のせいならば、それは訂正します…!!だから、ここは彼を通して…」

 

「どけ、レニー!!もう俺はあなたの生徒じゃない!!」

 

ディーンは立ちはだかるレニーを押しのけて前に出るその表情には苛立ちを覚えている。穂乃花もまた、しかめっ面で彼の前に立ち塞がった。

 

「これ以上、トウマはやらせない…!!チェンジ、テグサー、2!!」

 

「来るか、テグサーマンの二番手。ならば俺も…うっ!?」

 

テグサー2に変身する瞬間、変身者の穂乃花は光の粒子に包まれる。その粒子に反応して、突如ディーンのカメラは針を飛び出させて胸を突き刺した。

 

「こ、これは一体…!!あっ、がっ、ぐぁぁ…!!」

 

「テグサー2、変身完了…!!ってアレ?どうしたの、ねぇ?」

 

変身を終えたテグサー2は構えを取り、ディーンに立ち向かおうとした。しかし、当の相手が変身はしたものの、目の前で苦しみ、うずくまるのを見て、敵である事を忘れて思わず駆け寄る。

 

「う、うぅ…」

 

「ねぇ、どうしたの?ねぇ!?」

 

「ウォォォォォ!!」

 

呻き声を止めてディーンはバッと顔を上げ、雄たけびを上げる。その複数の眼は今までの物と違い、赤く充血、血の様な液体がそこから滴っていた。

 

「へ!?きゃっ!!」

 

その顔に一瞬躊躇したテグサー2はディーンの右ストレートをもろに受け、後方に倒される。それでも、激しく地面に叩きつけられつつ、次の攻撃に備えて急いで立ち上がる。だが、意外にもディーンは彼女に見向きもせず、彼が見ていたのは、近くにいたレニーであった。

 

「ウォォォォォ!!」

 

再度雄たけびをあげたディーンはレニーに向けて突進を始めた。その目、挙動に迷いは感じられない。

 

「え、え!?」

 

狙いが自分に来るとは思わず、防御する暇もなかったレニーにディーンの硬質な体が直撃した。テグサー2より大きく吹き飛ぶ。ぶつかり、落ちた先は誰も入っていない、空の水槽の前であった。

 

「デェヤッ!!」

 

ディーンはレニーに急接近し、彼女の首根っこを掴んだ。そして、軽々と持ち上げると、今度は水槽に激しく叩きつけた。何度も何度も、激しく。背後の水槽にひびが入る程に。

 

「な、何やってるの!?やめなさい!!」

 

テグサー2はディーンの暴走を止めるべく、彼の両肩を両手で掴み、引きはがそうと力を籠める。しかし、どれだけ引いてもビクともせず、最終的にはレニーを叩き付けるのを止め、即座に振り向いたディーンの肘打ちであえなく吹き飛ばされる事となった。

 

「くっ…!!」

 

テグサー2は立ち上がり追撃に身構え、その隙にレニーは変身しながらディーンの元を離れた。両者とトウマは次に来るのは自分か?と固唾を飲む。そんな三人の予想とは裏腹に、ディーンは彼らに見向きもせず、次の獲物を探す様に、首を回して周囲を見渡していた。

 

「キュルルル…?」

 

緊張感が走る室内に聞こえてきた、純真無垢な鳴き声。その主は、最初にトウマに興味を示した子であった。黄色い声を掛けられたディーンはジロリと睨む。それでもその子は好奇心旺盛にはしゃいでいた。

 

「ぐ、ウウ…」

 

ディーンはゆっくりとその子が入っている水槽に近付く。

 

「ま、まさかアイツ…!!ヤバいぞ、穂乃花、ディーンを止めるぞ…!!じゃなきゃアイツ、アイツ…!!」

 

「ヘッ、ヘッ!?どういう事!?」

 

テグサー2が疑問を持ったその瞬間であった。バリーン!!と、その子のいる水槽が音を立てて割れたのは。割れた穴から一度に漏れ出す、緑色の液体。それと同時に流れ出るその子の体。それを一身に浴びるのは、水槽の前で獣の様に前傾姿勢で立つ、ディーンの姿があった。

 

「あ、あぁ…!!」

 

「な、なんて事を…!!」

 

地面で僅かに蠢くその子を見て悲痛な言葉を発するレニーとテグサー2。ディーンはそんな声に耳を傾ける事もなく、その子の胴体を無造作に掴んだ。

 

「う、ウギュルルル…?」

 

その子は黒い瞳を精一杯見開き、うねうねと動いて抵抗した。しかし、小さく、未成熟な体では蠢くだけが全力でディーンの強固な指の力に敵う筈がなかった。

 

「よせ、ディーン!!」

 

「ガァウ!!」

 

トウマの静止を無視し、あろうことかディーンは足元に向けて、蠢くそれを力任せにぶん投げた。べちゃり。と生々しい肉の音と共にその子は地面に叩き付けられ、「ゲゥッ!!」という声を喉から鳴らした。

 

「で…ディーン…」

 

息も絶え絶えに、ディーンの名を呼ぶその子。

 

「あ、あぁぁっ!!ダメッ!!」

 

レニーはその子を助けようと足をもつれさせながらも必死で駆け寄った。しかし、彼女の手が触れようとした瞬間、その子は口からどす黒い血を吐き出し、静かに瞼を閉じる。それからは呼吸運動すらせず、ピクリとも動く事はなかった。

 

「そ、そんな…どうして…」

 

一つの命がなくなり、冷たい肉塊となったその子を抱きしめて悲痛に泣き叫ぶレニー。

 

「ディーン!!どうして、どうしてよっ!?この子がなにをしたって言うの!?」

 

血で身体が汚れる事も厭わず、複眼から大きな涙を零しながら。その姿を見て、人間の二人は駆け寄りたくなった。しかし、ディーンが彼女を蹴飛ばし気を失わせ、迂闊に近寄る事は出来なかった。

 

「い、一体なにがどうなってるの、トウマ…!?説明してよっ!!アイツ、帝国の味方じゃなかったの!?」

 

「…恐らく、ディーンの言っていた信頼にあたる奴らに細工され、暴走される様に仕組まれたに違いない。見ろ、その証拠に奴の胸に細い針が刺さっている」

 

「あ、本当だ…!!」

 

テグサー2はトウマが指差す先、獲物を探すディーンの胸部を見てこの事態を理解した。

 

「それじゃあ、アレを抜けば暴走は止まるって事ね…!!わかったよトウマ。ここは私に任せて。テグサー2の機動力で翻弄しておくから…」

 

「いや、お前には奴の気を引き付けてくれ。あの針は俺が抜く」

 

「え!?そんなの無理だよ!?今のトウマは変身出来ないでしょう!?」

 

「…頼んだぞ!!」

 

「あ、ちょっと、ちょっと!!」

 

駆け出すトウマと後を追うテグサー2。二人の挙動に気付いたディーンは「グァッ!!」と雄叫びながら、一気に迫る。お互いの拳が届く距離まで迫ったディーンは拳を振り下ろした。しかし、その動きは直線的であった為、テグサー2にサイドステップでいとも簡単に避けられる。

 

「チャンス!!風流ショット!!」

 

テグサー2は体勢を整えながら、剣を射撃の形態に折り曲げ隙だらけのディーンの腰目掛けてトリガーを引き、銃口からエネルギー弾を連射した。

 

「グウアッ!!」

 

腰に何度も撃たれ、大きくよろめくディーン。その隙もテグサー2は見逃す事はなかった。ディーンの背後から全力で抱きつき、もがく彼を無理矢理押さえながら、トウマに向けて頭を上げて合図を送る。当のトウマは待ってましたと言わんばかりにディーンの胸に飛び込んだ。しかし、ディーンの強烈な膝蹴りがトウマの肋骨に強烈に直撃した。

 

「ぐほぁっ!!」

 

口から血を吹き出しながら、トウマは後方へ大きくのけ反り、膝を着く。手で抑えていても、彼の口から滴る鮮血。その姿を目の当たりにしたテグサー2は「トウマ!!」と叫び、駆け寄りたかった。それでも、彼女は自身の本音をグッと堪え、ディーンを押さえつけるのを続ける事にした。

 

「ディーン…やってくれるじゃねぇか…」

 

トウマは口に付着した血を拭きながらゆっくりと立ち上がった。

 

「お前はそんなになってでも、争いを求めるというのか…?それで満足なのか…!?」

 

「もしそうだとしても、俺はそんな意思、認めない…認めるかよっ!!」

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

トウマは暴れ狂うディーンに猪突猛進。小手先の作戦は通用しないと感じたからだ。その目論見は見事成功。ディーンは対処しきれずに一気に懐へ入り込まれ、トウマに胸の針を引っ張られる事となった。

 

「グゥゥ。グァアァ!!」

 

「うぉぉぉぉ…はぁっ!!」

 

針を抜かれる痛みからか呻き、暴れるディーン。その拳は少なからずトウマに当たる。しかし彼は痛みに耐え、針を引き抜いた。その反動で人間二人は後方へ転がり、ディーンはその場で大きくのけ反った。

 

「…はぁっ!?」

 

ディーンは一瞬の間を置いて、意識を取り戻した。その証拠に血で赤く染まっているが、奥の眼はいつもの黒に戻っていた。

 

「い、一体俺はなにを…レニー、それは一体…!!」

 

倒れたままのレニーが涙ながら抱く、冷たい肉塊。ディーンは嫌な予感がして彼女に尋ねた。しかし、彼女は意識がなく、返事を返す事はなかった。

 

「…誤魔化していてもしょうがない。お前は穂乃花と戦う前、急に暴走した。そして、暴れ狂った結果、この研究室の子供を一人、投げ飛ばして、殺した…」

 

「そ、そんな、嘘だろ…!?俺が操られて、仲間を…!?ハッ、そんな冗談、笑えないよ…」

 

「嘘じゃない。お前、ここに来る前になにか受け取らなかったか?」

 

「あ、あぁ…!!」

 

淡々と説明するトウマに、ディーンは身に覚えがあり、思い出して戦慄した。信頼していた上司、バドリードから受け取ったカメラ。アレに細工が施されていた事。そして、仕込ませた物が、自分を暴走させる為の物であった事を。それに気付いたディーンは変身を解いて、膝を着いて頭を抱えた。

 

「な、なんて事だ…!!俺は、最初から信頼されていた訳じゃなかった、いや、捨て駒にして消し去ろうとしていたのか…!!それも、仲間殺しの汚名を着せて…!!」

 

「落ち着けっ!!ディーン!!これで分かっただろう。帝国はお前が言う様な信頼に値する所じゃない。お前の事を真摯に見てくれる人じゃないんだ!!」

 

「う、うぅ…うわぁぁぁっ!!」

 

ディーンは泣き叫んだ。激しく後悔もした。かつての教育者を襲い、あまつさえ、自分の後を継ぐ者を自らの手で殺めてしまった事を。そして、自分を救おうと手をさしのべてくれた人物もまた、新たな裏切り者であった事を。

 

「はぁ…はぁ…」

 

涙をこらえ、呼吸を整えるディーン。それを終えると、彼はすぐさま立ち上がった。

 

「…もういい。ここに未練はもうない。二人共、今すぐにここを脱出出来る場所を案内しよう。ついてきてくれ」

 

「…分かった。穂乃花、行くぞ」

 

「う、うん…あ、でもその前に…」

 

穂乃花は未だにその子を抱き続けるレニーのそばに寄り添い、静かに撫でた。

 

「レニー。今の私達には戦い合う事しか術を知らない。でも、どんなに辛くても、今はジッと堪えてね。この戦いはいつか私達が終わらせる。約束するよ」

 

言い終えると、スッとその場を去り、入り口に向かう二人の後を追うのであった。

 

12-3

 

一直線に続く、距離感が掴めない無機質な通路。トウマと穂乃花は頭に大きめの布を被りながらディーンに連れられていた。

 

「う~、暑い…ねぇ、ディーン?誰もいないんだし、これ被んなくてよくない?」

 

「ダメだよ、何処で誰が見ているか分からないんだ。脱出するまでは被ってないと…」

 

「うぅ…はぁ~い」

 

ディーンは愚痴をこぼす穂乃花に振り向くことなく、言葉を返した。その口調は先程とはうって変わって、優しく諭した物であった。

 

「ん、ここだ。二人とも、ここを通って行けば、出入り口に辿り着く。もう少しの辛抱だよ」

 

扉の前で立ち止まったディーンは二人の方を振り向いて扉を指差す。扉にはプラスチックの札が張られており、『居住区』と書かれていた。

 

「やった!やっと出れる!!全く、こんな怖くて殺伐した所、早いところおさらばしたいよ~」

 

穂乃花は飛び跳ねて大いに喜んだ。

 

「フ、殺伐…か」

 

「あ、ご、ゴメン…そうだよね、ここはディーンの故郷だもんね…」

 

しかし、今まではここの住人であったディーンの表情が曇ったのが視界に入り、喜ぶのを辞めてすぐさま謝罪した。

 

「いいんだ。もうここに後悔や未練はない。これからはここの事は忘れて、新しい場所で色々見つけてみるしね。さて、入るぞ…」

 

自分のこれからについて打ち明けながら、ディーンは扉に触れ、自動ドアを開かせた。

 

「うわぁ…」

 

「ここは…」

 

扉が開いた先に広がる、広大な街。高台から見下ろす人間二人はその風景に思わず息を呑む。

 

「…やっぱ、十年経っても相変わらず変わらねぇみたいだな」

 

「えっ、そうなの?」

 

ポツリと呟いたトウマに、穂乃花が反応する。

 

「あぁ、そうだな。手前にさ、錆びまくった青い屋根の家があるだろ?あそこは確か、俺の友人だった奴が住んでいたんだ。俺の父の研究の助手として来てくれた人の子だったんだが…」

 

「で、あそこにちょっと大きめの建物があるだろ?あそこはこの地区の集会所だったんだ。よく子供会とかある度に集まったなぁ…」

 

「あっ、あれは確かこの地区にある売店。俺達の間では駄菓子屋って呼んでいて、よく下校の時や休みの日に集まったけなぁ…」

 

「懐かしいなぁ…でももう、それを偲ぶ物はないんだろうな…」

 

「トウマ…!!」

 

突然、穂乃花は両手でトウマの両手を握り、彼の前に寄せた。

 

「お、おい穂乃花…!?」

 

「トウマ、大丈夫!?これから歩く先は辛い思い出を思い出すかもしれないのに…」

 

そう言いながらトウマを見つめる穂乃花の表情は不安げであった。その顔を察したトウマは、自身の手をそっと穂乃花の手と共にゆっくりと降ろした。

 

「悪い。心配かけちまったな。大丈夫だ。昔の事思い出してヘマする事はここではしねーよ。大丈夫大丈夫」

 

「だといいけど…」

 

「二人共、そろそろいいかな?行こう」

 

ディーンに促された二人は静かに頷き、彼の後を追う。その先々で見た物に驚きながら。

 

高台の階段から降りて、かつての知り合いが住んでいた家の横を歩いた時、トウマは一瞬怪訝な表情を見せる。その家は屋根だけでなく、家の壁もボロボロ、窓も所々ヒビが入っており、『廃屋』と化していたからだ。だが、その表情を見せたのはそれだけが要因ではなかった。

 

「あの家、人が住んでいたのか…」

 

そこには帝国の住人が住んでいた。トウマと同じく、頭から布を被った彼らは、小さなちゃぶ台を囲って僅かな固形の食料をモソモソと口にしている。布の隙間から見えるその口は明らかに人間の形をしていない獣の口であったが、みすぼらしく弱々しい物であった。家を通り過ぎた瞬間、トウマはディーンの横について質問する。

 

「なぁ、お前見たいな戦闘要員以外は、その、その日暮らしみたいな生活をしてるのか?」

 

「ん、まぁね。この帝国、質はいいんだけど、世界を相手にするには量が少なすぎる。だから戦闘の才能がない、生まれながらの弱者はああして質素な生活と決められた労働を余儀なくされているんだ。勿論、余興や嗜好品なんてよっぽどの上の階級でなきゃ味わえない」

 

そう言いながらディーンの指差した先、その先にはトウマの言う駄菓子屋があった。しかし、店の看板は朽ち果て、壁や窓ガラスは割れ、先程の家と同じく、廃屋となっていた。数少ない違いと言えば、人の気配と物が全くない、という点であろう。

 

「さ、進もう。立ち止まる暇はない。人気がない所を下手に通るとかえって怪しまれる。だから、商店街を通るぞ」

 

ディーンの案内で商店街に来たトウマ達。そこは商店街とは名ばかりで、人はいるが売買は行われず活気のない空間で、ただの通路と化していた。

 

「ここは昔、この島の一番の交流の場だったんだがな…随分と殺伐した場所だ、な…。俺の母さんがよく買い物に来ていた魚屋も、水槽によく分からない生命体が泳いでるし…」

 

トウマの指差す先で、本来なら生け簀となっている水槽には細長い魚が所狭しと泳いでいた。魚は近くにいた男の手から自身の顔より大きな肉を投げ入れられたのを見ると、顔、そして剥き出しとなった牙を何倍にも大きくさせ、水しぶきをあげて肉に喰らいついた。

 

「…あれはビッグスシャーク。普段は小さい魚として泳いでいるけど、近くに油断している得物を見つけてはああしてデカくなって背後から襲うんだ。この島近辺の海に放流して、島の潜入者対策に使っている」

 

ディーンが解説している間にも、丸飲みされる肉、数匹の魚に引きちぎられる肉。その様子を通り過ぎながら横目で見て、生唾を飲み込む穂乃花。恐怖心を誤魔化すかの様にディーンに話しかけた。

 

「ねぇ、ここの人達って今の現状について不満を持ったりしないの?さっきのレニーって人は持っているっぽかったし、一部の人以外は質素過ぎる生活を送ってるみたいだし…」

 

「まぁ、生きて意思を持っている以上、多かれ少なかれ持ってはいると思うけど、少なくとも君が思っている程じゃないさ。なにしろ、職は産まれてから決まってて、食料も貰える。そして、皆一丸となって人間に勝とうと一致団結している。外に出る戦闘要員以外はそれが自分が出来る最大の生活だし、そうあるべきだと考えているんだ。ここでの生活しか知らないしね」

 

「穂乃花、今のお前は戦いがあるとは言えこんな世界はもうダメだ、脱出だ。なんて、今のところ考えていないだろ?この前なんか、のんびりとゲームとかカラオケとかあるんだし」

 

「そ、それはまぁ…ん?」

 

背後の穂乃花に向けて振り向きながら回答するディーンに補足するトウマ。二人に対して穂乃花はなんとか納得した様に頷いた。その時、彼女は視界の端に入った家の表札に思わず足を止めた。そうとは知らず、ディーンとトウマは既に前を向いて歩みを進めている。

 

「あ、え、あ!?ね、ねぇ!!ちょっと!!待ってよ!!」

 

「お、おい!?叫ぶ奴があるかよ、どうした!?」

 

急に大声で呼び止められたトウマは慌てて駆け寄った。ディーンもその後を追う。

 

「この家、トウマの家じゃない?ホラ、『富田』って…」

 

「えっ?あっ、本当だ…喋っているのに夢中で気付かなかったかな…」

 

「ねぇトウマ、折角だから入ってみない?幸い、誰もいないみたいだし」

 

「なっ、なに言ってんだよ、時間がないって言ってるだろ!?」

 

トウマは首を振って穂乃花の提案を却下した。しかし、一度興味を示した彼女は中々引き下がらない。

 

「でもさ、テグサロイド充電しなきゃいけないし、もしかしたらテグサーマンをパワーアップさせるなにかがあるもしれないじゃんっ!!行こ、行こっ!!」

 

「だめだ、俺達には立ち止まる訳にはいかない。早く、丁寧に見つからずに行かなくては…」

 

「いや、俺達は行かなければならない理由が二つあるよ、トウマ」

 

「なんだと?理由って?」

 

ディーンに割り込まれたトウマは彼の方を見た。

 

「ああ、周囲を見ろ。君達を探している兵士達がウロウロしている」

 

「む…?」

 

ディーンの肩越しに周囲を覗くと、数人の兵士がひ弱な帝国の民を一人一人捕らえ、布の上から無理矢理覗き込んでいる光景があった。

 

「…確かに、一旦隠れた方がいいかもな」

 

「そうだ、そしてもう一つ、ここに入る理由、それは…」

 

「それは…!?」

 

ディーンの物々しい言い方に、二人は生唾を飲む。そして、彼は意を決してゆっくりと口を開いた。

 

「ここは現在俺の家で、家の家財を持ち帰りたいからだ」

 

「お、お前の家かよっ!!っていうか、ここの事はもう忘れるって、さっき言ってなかったか!?」

 

「アホか、生活用品とか持って帰らなければ、明日からどう生活するっていうんだ?素寒貧じゃこのご時世、なにも出来ないだろうし…兎に角、俺は行くぞ」

 

「あっ、おっ、オイ!?」

 

ディーンはトウマを無視して自身の実家に潜入。穂乃花も二人の後をついていった。

 

「ここだ…」

 

二階に上がり、トウマは二人を連れてある扉を開いた。その先にあったのは書斎部屋。本棚には難しい漢字が羅列した書籍、資料が埃を被って並び、その奥には古ぼけたパソコンが机の上で静かに佇んでいた。

 

「へぇ…ここがトウマのお父さん、藤次さんの部屋かぁ…なんかもう、難しい本が一杯…トウマはこういうの分かるの?」

 

「さぁな。何度か父さんの部屋に遊びに来ていたが、全く分からん」

 

「っと、あったあった。コンセント」

 

トウマは穂乃花の話を背に受けながら、コンセントを見つけるとテグサロイドからケーブルを伸ばして差し込んだ。画面には何も反応がなかったが、充電ランプは赤く光り、正常に充電している事を示していた。

 

「これでよし…さて、ここから必要な充電まで十五分位かかるんだよな…じゃ、休憩も兼ねて待つとするか」

 

「さんせーいっ!!」

 

トウマの提案で人間二人は体育座り、横並びで待った。静まる書斎部屋、変わらない景色。なんとなく黙る三人組。それらに飽きた穂乃花は口を開いた。

 

「待つの飽きた~」

 

「はえーな、おい。まだ五分しか経ってねぇぞ。んで、ディーン?欲しい物は見つかった…って、何してんだ?」

 

ふとディーンを見ると、彼はパソコンに座ってマウスを懸命に動かしていた。

 

「ああ、折角手にした画像をUSBって保存の奴に入れようと思ってね…持って帰ろうと思うんだ」

 

「ふ~ん、それにしても一体、何を探して…って、なんじゃこりゃ!?」

 

覗き込んだトウマが見たのは大量のクレープとカラオケ部屋の画像。どうやらありとあらゆるサイトから引っ張ってきたらしく、店の画像から一般人のサイトらしき画像まで取り揃えていた。

 

「こんなのいつでも手に入るだろっ!!っていうか気に入ったのか!?」

 

「ああそうさ、なんてったって、日本に出かけて一番に気に入った物だからね」

 

「ああ~もう、向こうに着いたらいくらでも教えてやるから、こんなのは後に、し、ろ…お、オイオイ!?これって!?」

 

「え、え!?どうしたの!?」

 

いつの間にかパソコンに背を向けて本を物色していた穂乃花はトウマの驚愕の声に、思わず本を投げ捨てて彼に駆け寄った。その時、既にトウマはマウスを動かし、ディーンがUSBに移動させていたフォルダ『未来島プロジェクト開発日誌』をクリックしていた。

 

「それって、トウマのお父さんの日誌かい…?未来島のプロジェクトって?」

 

見上げて聞くディーンに、トウマはパソコンに注視しながら答える。

 

「ああ、この島で研究される物の総称さ。この星は昔、人口の減少による働き手の減少、環境汚染による自然破壊、それに伴った環境の大きな変動、あとは…資源の枯渇か」

 

「兎に角、それらを解消する為、そんでそれらに伴った人類の新たなる一歩を産み出す為に色んな国が出資して、この人工の島が造り、そこに各国の優秀な科学者、エンジニアを集めて研究を進めさせた。それが未来島プロジェクトって訳」

 

「で、俺の家族、あと飛田の親父さんがここに引っ越してきたんだが…どれ、どんな事が書かれているんだ?」

 

トウマは日誌の一番上をクリック、表示された文章を読み始めた。

 

「日付は…ジン・ガイア帝国が現れる二年前の四月か…」

 

『遂に来た。新天地、未来島。ここで俺はこの国、いや、この星の明日を決める研究を始めるんだ。一日でも早く研究を完成させて、トウマや大勢の子供達の将来への道を造らなくては…それが我々、年配者の務めだ。それにしても、この島は本当によく出来ている。本国の街を見事に再現している。将来の仕事の為、他国の事を触れ合わせる為にとトウマを連れてきて良かったと思う。飛田も息子さんを連れてくればよかったのに…まぁ、それは人それぞれの教育方針があるから第三者が言う事じゃないが。トウマよ、この島ですくすくと成長してくれ。俺はお前の十年後、二十年後、その先の未来を大いに期待しているぞっ!!』

 

「父さん…そんな事を想ってくれたのか…」

 

読み終えたトウマは次の日誌をクリックした。

 

「二つ目、これは…一つ目の日記から半年経ってる…」

 

「結構、不精する人だったんだね、トウマのお父さん…」

 

「そう言うな、色々と忙しかったんだろ…多分」

 

ディーンのツッコミを返し、トウマは次の日記を読み上げた。

 

『遂に完成した!!俺と飛田、そして多くの研究仲間と共に作り上げた装着型のボディースーツが!!これさえあれば、空陸海は勿論、宇宙であろうとよく分からない空間だろうと難なく行く事が出来るっ!!それも超パワフルに、だ!!そうだ、今名付けようっ!!テグサーマン、と!!』

 

「テンションたけーな、おい」

 

トウマはため息を漏らして突っ込んだ。

 

「さて、三つ目だが…お、これは二週間後の日誌か。中々早く書いたじゃねーか」

 

『テグサーマンは次なる追加装備、バイオユニットの開発に着手した。コイツは装着者の感情等によってパワーアップする物だが、それは今は問題ではない。それより心配する事が一つ。この島に来てから出来た俺達の友人、修の研究開発が思うように進んでいない事だ。それに関して、彼は大きく悩んでいる。周りが次々と自身の研究を完成させている事が彼を更に追い詰めさせているのだろう。何とか、元気付けてあげたいが…』

 

「誰だっけ、修博士って…確か、結構気難しい生物学の一人者だったような…」

 

トウマは次の日誌を開いた。今度は一週間後の物であった。

 

『明日、俺と飛田、そして修の三人で本国に戻っての飲み会をする。当初、修はそんな物は必要ないと言って断ったが、なんとか説得して連れ出すのに成功した。休む間もなく、一日中色んな資料やら生体組織を眺めていたらいつか体を壊してしまうかもしれない。俺の知り合いでもそういう奴ら結構いたしな。なるべく仕事の事を忘れさせて、元気にしてやりたいな~っと』

 

『とんでもない事が起きた。今日の飲み会、その二次会のカラオケの帰りに隕石が落ちた。それも、空中で燃え尽きるなんて物じゃない。それは小さな街に衝突、落下地点の道路、建物を容赦なく破壊しつくした。幸いと言っていいか不明だが、プロトタイプのスーツ(といってもテグサーマンではないが)が俺達の研究室にあり、残っていた部下に持って来させて救助活動を手伝って貰った。これで多くの人の命が救えばいいが…』

 

「隕石?そんな事あったのか?」

 

ディーンの投げかけに、トウマは静かに頷く。

 

「ああ。俺達が瞬間移動した時の最終地点はかなり荒れ果てた場所だったろ?あそこがそれだ。復興しようと地域の人達は頑張ったんだが、その後に起きた事で…な」

 

「さて、次の日誌を読もう。これは三か月経過した後か…」

 

『修があの隕石を調査して数日。修が今まで以上に研究に没頭している。それはいい事だが、最近の彼は妙だ。研究室から出て来ないのは前からだが、それよりも、妙に羽振りが良くなったのが気になる。その証拠に、その研究室には次々と資材が運ばれている。殆ど見捨てられて予算がカツカツだというのに…一体、どこの誰が資金提供したんだ?言っちゃ悪いが、誰も注目しなくなったというのに…』

 

「修って人の事、随分と気に掛けていたんだね…」

 

「あぁ、そうみたいだな…それより、一体その研究ってのはなんだったんだろうな…」

 

穂乃花に相槌を打ちながら、トウマは最後から二番目の日誌をクリックした。

 

『結論から言おう。この未来島が崩壊する。それだけじゃない、日本が、いや、世界が変わる。恐らくだが、このまま行けばトウマ達の未来は閉ざされる。その前に、なんとかしなくては…周りはそんな話を誰も信じてくれない。ホラ話だと嘲笑う。ならば、証拠を集めるしかない。一体この計画の首謀者は誰か世に知らしめる必要がある。果たして俺に出来るだろうか…いや、やるしかないっ!!』

 

「…」

 

トウマは何も言わずに、次の日誌を開いた。

 

『あれから数週間、やっと証拠を手に入れた。しかし、このパソコンに入れては奴らに感づかれるかもしれない。そこd』

 

日誌はそこで終わっていた。トウマは変換すらままならないその日誌の日付を見て、呟く。

 

「この日は…未来島がジン・ガイアに襲撃された日だ…」

 

「ど、どういう事!?トウマのお父さん、この島で起こる事を予想していたって事…?世界がどうとかって…」

 

「恐らくな…ただ問題は、父さんがその証拠をどこに入れたか、だ。果たして何処に…」

 

トウマは自身が座る椅子を回して部屋の周りを見た。目の前に広がるのは本棚に所狭しと並ぶ書物、

スチールのキャビネット上に埃被っている置物。そしてその横ではディーンが金種、着替えそして保存したUSBとアジアのお面をジュラルミンケースにせっせと投げ込んでいる最中であった。

 

「まさか、こんな所にあるわけないか…おい、ディーン?財布や着替えはともかく、後半のソレ、いるか」

 

「い~る~よ~」

 

間延びしたディーンの返事。彼はありとあらゆる物を引き続き投げ込んでいた。

 

「あっそう…ところでさ、この日記にあった証拠ってなんだか分かるか?」

 

「さぁ~、俺に聞かれても…」

 

伸び続けるディーンであったが、誰かの気配を察し、真剣な眼差しで入り口を見た。その時であった。下の階から複数人の足音が聞こえたのは。

 

「き、来たか…!!」

 

ディーンがそう叫ぶと同時に、出入り口の扉が勢いよく開かれた。そしてそこに現れ、部屋に流れ込んだのはマツナガにコブンロ、そして十数人の兵士達であった。

 

「やっと、見つけたぜテグサーマン!!大人しく観念しな!!」

 

「チッ、もう来たのか」

 

得意そうな顔をしているマツナガに対して舌打ちするトウマ。その音に反応したのか、マツナガはディーンが持つケースに気付いた。

 

「お、おいディーン、なに持ってんだ?コブンロ、奴からあのケースを奪いな!!」

 

「アイサー、兄貴!!」

 

コブンロは素早くディーンに近付き、紙袋の下を掴むと、自分の手元に向けて力いっぱい引っ張った。

 

「ディーン、そいつを寄越すんだっ!!この国の物は我々の物だ!!」

 

「なっ!?ふざけるな、俺んちの物だ!!」

 

子供が玩具を奪い合うかの様に引っ張る二人。

 

「離せ、コノヤローッ!!」

 

「渡してたまるか、馬鹿野郎!!」

 

しかし、二人は子供ではなく鍛えた力のある男達。ケースはその力に負けてロックが外れ、最後にはバキン!!と音を立てて全開になってしまった。

 

「あっ!!」

 

穂乃花が叫ぶと同時に、バラバラと地面に落ちる複数の手荷物。

 

「お、おい!!コブンロ!!拾え拾え!!」

 

マツナガの指示を受けてコブンロはしゃがんだ。そんな彼の顎に、ディーンのハイキックが炸裂する。

 

「ギャッ!!」

 

空中で一回転して吹き飛ぶコブンロ。それに反応した兵士達は銃を構える。

 

「トウマ、ここから離脱するぞ!!」

 

ディーンは目にも止まらぬ早業で財布とUSB、そしてマスクを破損したケースに入れて完全に密閉した。

 

「お、おうっ!!」

 

「そうはさせるかっ!!」

 

「くっ!!」

 

迫る兵士達に焦るトウマ。

 

「トウマッ!!」

 

その時、穂乃花は充電が溜まったテグサロイドを持ち主に投げ渡した。

 

「サンキュー、穂乃花!!チェンジ、テグサー1!!」

 

トウマはテグサー1に変身。実に一日振りの変身であった。力がみなぎり、テグサー1は拳を力強く固める。その後ろで穂乃花もまたテグサー2に変身、剣を構えた。

 

「うおおおおお!!」

 

テグサー1は手前の兵士にラリアットを放った。有り余るパワーは凄まじく、吹き飛ばされた兵士は後方で構える他の兵士にも衝突。将棋倒しとなった。

 

「よしっ、二人共、飛ぶぞっ!!」

 

「了解だ。来い、ウィングパーツ!!」

 

「あっ、私も!!」

 

テグサー1・2の二人はウイングへとフォームチェンジ、外へ通じる窓へ向かって一直線に飛んだ。殿にディーンも飛ぶ。

 

「あっ、待てやコラッ!!畜生!!アイツら飛ぶなんて卑怯だぞ!!」

 

悔しそうに地団駄を踏むマツナガの叫び声を背に、テグサー1一行は飛び続けて街を越え、ディーンが言う目的地、出口である港へと到着した。幸い着陸した場所には誰もいない。

 

「おい、ディーン。お前、水中は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫。そういった点も俺の身体は強化されている。少なくとも四十分位は潜行出来るよ」

 

「よし、じゃあ行くか。セット、アクアパーツ!!」

 

テグサーマンの二人は次にアクアパーツを装着、三人一斉に海に向かって飛び込んだ。

 

「やれやれ…一日振りの外だ。無事で帰れるとは思わなかったぜ…」

 

外に出ると、テグサー1は水中で小さく呟いた。そこには魚類が群れをなして泳ぎ、陽の光の柱が海中に差し込んでいる。その中を暫く泳ぎ進み、テグサー1はヘルメットの中のデジタル式のマップを見ると、そこには陸地が映し出された。

 

「やった、もう少しで陸地に辿り着くぞ…!!」

 

「やったね、トウマ!!」

 

「いや待て、後ろから誰か来る…!!」

 

ディーンの呼びかけに二人は振り向く。彼の言う通り、何者かが暗い海底から来ている。そして、その何者かが急接近すると、テグサー1に体当たりをお見舞いした。

 

「ぐあっ!!」

 

超スピードであった為、避けきれずに直撃したテグサー1は海中で激しく回った。ディーンは素早く彼の後方に回ってその回転を止めると、何者かに向かって睨みつけた。

 

「殺すつもりなら、俺だけにしろ…マツナガ!!」

 

「フン…」

 

何者かの正体はマツナガであった。彼もまた、ディーン同様水中での戦闘が可能となっていたのだ。

 

「この野郎、逃げようとしやがって!!そんなにしてもまで自由ってモンが欲しいんか、あぁっ!?」

 

「俺をハメようとした男が何を…!」

 

「言うさ。俺はお前のせいで危うく国に捨てられる所だったんだ。恨み言ぐらい…なぁっ!!」

 

マツナガは二人に向かって再度突っ込んだ。彼の周りに水中の渦を集めながら。

 

「な、なんだぁ!?」

 

テグサー1が驚いたのも束の間、マツナガは急停止、渦は散開し、三人の体に喰らいついた。

 

「う、うわぁぁぁっ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

「ぐ、うぅっ!!」

 

渦の力は凄まじく、装甲にダメージが入った三人は激しく火花を散らす。

 

「こ、このぉっ!!」

 

テグサー2は風竜剣を振って抵抗した。しかし、切り裂こうにも単なる水を裂くなど不可能であった。そして、再度集まった渦は再度喰らいつく。手や足、ヘルメットや胸部装甲に。

 

「フッハハハハ!!どうだ、バドリード様から教わった水中戦技の味は!?」

 

勝ち誇るかの様に腕を組んで高笑いするマツナガ。テグサーチーム二人とディーンはそんな笑いと渦に囲まれつつあった。

 

「くっ、水中ではアイツが圧倒的に有利か!?」

 

「なにか方法、方法はないか…!!」

 

「そうだ…!!ここは深海。冷たい場所だ。それなら、渦は熱すれば蒸気となる筈だ…」

 

「おい穂乃花!!テグサロイドに放熱のアプリがあったろ!!あれで…」

 

「そっか、うん、分かった!!やってみる!!」

 

テグサー2はテグサー1が言い終えるより早く、噛み続ける魚を手で振り払ってテグサロイドを操作した。なにが言いたいのか彼女は理解していたからだ。

 

「行くよ、トウマ!!」

 

「ああ!!」

 

「「必殺…」」

 

「「ツイン・放熱ゥゥゥー!!」」

 

二人が叫ぶ、恰好の付かない技名。しかし、そんな名前とは裏腹に効果は抜群。突然放出された熱風はボコボコと泡の塊になって周囲の渦を一気に包み込んだ。高温の泡の中にいるそれらは逃げる間もなくたちまち全身が煮え、蒸気の泡と一体化するのであった。

 

「な、なにぃ…!?」

 

「へ、物は使いようだぜ…!!」

 

「見た?人間の底力!?」

 

驚き、思わず組んだ腕を緩めるマツナガに、挑発するテグサーマン二人。その横ではディーンは周囲に音波を纏わせて、弱りつつあった周りの渦を追い払っていた。

 

「中々やるようだな…。だが、これで終わりだと思わない方がいい、何故なら、第二波があるのだからなぁっ!!」

 

マツナガはいつの間にか懐に待機させていた渦の群れを放った。

 

「う、うわ…まだあんのかよ…!!」

 

「も、もう放熱は出来ない…ど、どうしよう…!!」

 

先程の小技はもう使えない。それでも迫る渦達。トウマと穂乃花はおもわず狼狽えた。ディーンも焦っていた。その時であった。また新たな放熱が飛び散り、喰らおうとするそれらを払ったのは。

 

「こ、この熱…もしかして…!!」

 

かき消された渦達をテグサー2は見た。その動きは期待に満ちている。そして、その予想は見事的中。視線の先の奥にいたのは、アクアパーツを装着したテグサー3、その後を追うテグサー4の姿であった。

 

「涼!!」

 

「涼さん!!」

 

『二人共、無事みたいだな。よくやったぞ、穂乃花。それと、よく生き延びていたな、トウマ』

 

「うんっ!!」

 

「おいおい、俺はついでかよ?」

 

遠距離からの通信をしながら近付くテグサー3に褒められた二人は再会を喜び、嬉しそうに返す。四人とディーンは接近して集合。出会い頭にテグサー2とテグサー4はハイタッチを交わした。

 

「マジで日帰りで帰ってくるなんて、ホントにすごいよ二人共…!!」

 

「えへへ~」

 

「どうやら、テグサーマンは全員揃ったみたいだね」

 

「へ?あ…!!」

 

テグサー2の背後にいるディーンに気付いたテグサー4はスロットル・ロッドを構えて臨戦態勢を取った。それはテグサー3も同じであった。

 

「待って、茜。少なくとも、今の彼は敵じゃないよ。だから、そんなに構えないで…」

 

「え、でも…」

 

テグサー2に言われても、判断が付かず、テグサー4は戸惑っていた。

 

「お願い。今は私を信じて」

 

ヘルメット越しでも分かる、テグサー2の真摯な態度。それを目の当たりにしたテグサー4は静かに武器を下ろした。

「…分かったよ、穂乃花。アンタがそう言うなら、信じるよ」

 

「…私も同意見だ」

 

テグサー3も、刀を下ろす。

 

「ありがとう、二人共」

 

「おい、お前らッ!!目の前の敵を忘れてはいないか!?」

 

テグサーチームの間を阻もうとする、マツナガの声。五人は一斉に振り向いた。

 

「あっ、そうだった。アイツをどうにかしないと…」

 

「それなら、私に任せてくれ。二人は疲れているだろうしな」

 

テグサー2の前に、テグサー3が立つ。その瞬間、停止中の渦達はテグサー3の威圧感、戦意を合図にするかの様に一気に迫った。

 

「あっ、涼さん気を付けて!!その渦は…」

 

「承知している。はぁっ!!」

 

テグサー3は刀でつばめ返しを放った。刹那、波立つ海中。それが鎮まると、渦達は真っ二つに切断された。

 

「りょ、涼さんすごい…」

 

「ふん、まぁな。水を斬るなど稽古を続ければ訳もない事だ…」

 

「な、なんだと…!?そんな馬鹿な…!!」

 

マツナガは目の前の人間の戦闘力に唖然とした。無理もない。自慢の技が一発で仕留められたのだから。

 

「おい、もういいだろう!!そろろそろいい加減大人しく帰らさせて貰うぞっ!!」

 

「おのれ、おのれ!!どいつもこいつも俺を見下し、馬鹿にしやがって!!許さんぞぉっ!!」

 

テグサー1に帰宅を催促されたマツナガは駄々をこねる様に両腕をブンブンと振り回す。それに対し、ディーンもかつての上司に言葉を掛けた。

 

「マツナガ、あなたを馬鹿にした相手なんかそうそういない筈だ。なのに、どうしてそんな事を…」

 

「なにを言う!!てめぇだろうが、俺の輝かしい功績にピリオドを打ったのは!!島での屈辱、忘れはしねぇぞっ!!」

 

「…確かに俺は周囲から称賛されていた、俺はなにもあなたから功績を奪おうとして戦った訳では…」

 

「黙れ!!てめぇが出しゃばる事をしなければ、こんか閑職に追いやられる事はなかった。私はもっと上に立つ立場で…」

 

「なるほど、そういう事か。紳士的な奴かと思えば、随分小さい奴だな、お前」

 

「なっ…」

 

割り込んできたテグサー1に、マツナガは思わず閉口する。

 

「自分の逆恨みを晴らす為、昇り詰める為に味方を騙し、間接的に味方殺しを引き起こすなんてよっぽど自分に自信がない奴、人頼みの奴がやるもんだ。ディーンがでしゃばらなくても、その内、堕ちていたんじゃないか、お前?」

 

「そうそう、そんな事までして想いを晴らそうなんて酷いよね~」

 

感心するテグサー2。周りの仲間もその意見に同調して大きく頷いている。その態度にマツナガは怒り心頭であった。

 

「だ、黙れ!!てめぇらになにが分かる!!裏切り、騙しで上に昇り詰めるなんてどこでもやっている!!知った風な口を聞くなぁ~!!」

 

マツナガは猛スピードで一直線に泳ぐ。構えるテグサーチーム。その時、彼らに一本の通信が入った。

 

『皆さん、聞こえますか?』

 

「…その声、飛田か!?」

 

『よかった、トウマさん帰ってきたんですね…状況は声で分かります。今こそアクアパーツの必殺技、フォースサイクロンを使う時です!!』

 

「なんだ、その技?」

 

『四人の背中にあるジェットパックを一気に噴射、合わさると水中竜巻が発生します。それをぶつけてその場から離脱しつつ、相手をふっとばしましょう!!』

 

「なるほどな、そんな使い道があったとは。よし、ディーン連れて使うとしよう」

 

『ただ、離脱の際にかなりの水圧がかかります。その点には気をつけて…あっ、もしかしたらディーンの身体を傷つけてしまうかも。やっぱりやめた方がいいかも』

 

慌て気味に意見を取り消す飛田。せっかくの可能性が潰え、テグサー1も焦る。と、ディーンがその肩を叩いた。

 

「心配するな、俺はこれまでどんな苦難にも立ち向かった。今回も、お前となら乗り越えられるさ」

 

「ディーン…よし行くぜ皆!!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

テグサー1の音頭に、他のテグサーマンも応える。そして、向かってくるマツナガを前に各々背を向けた。

 

「行くぞ、必殺!!」

 

「「「「フォース、サイクロォォォン!!」」」」

 

背中から一斉に放たれた四つの水流は一点に集中。たちまち竜巻へと変わり、渦を巻いてマツナガに向かって、一直線に進んだ。

 

「な、なんだこんなもの…!!」

 

マツナガは轟音と共に進む竜巻を交差した手で受け止めた。衝撃で彼の体は後方に大きく下がる。

 

「こんなものなど…など…ぐわぁぁぁぁっ…!!」

 

しかし、絶えず迫る竜巻を受け止めきれずにマツナガ手は弾かれ、胴体に直撃、大きく吹き飛んだ彼は深海の闇に消えていくのであった。

 

「ぐ、ぐぬぬ…ぐぅぅぅぅ…!!」

 

その頃、テグサー1は仲間と共に水面へと急上昇していた。その速度、水圧は凄まじく、ヘルメットの中の顔面は大きく歪み、締め付けられる喉から呻き声が漏れ出す程だ。

 

「う、うぅぅ…」

 

そしてそれは手を繋ぎ合うディーンも同様であった。彼の顔を見ると、テグサー1はぐっと手の力を強くした。今はひたすら耐える。暗黒の中から、光ある天へと向かって。

 

ザバァァァァッ!!

 

五人は勢い余って水面から飛び出し、重力に従って真下へと着水した。彼らに付着する雫は陽の光を浴びて宝石のように輝いていた。それを見るなり、テグサー2は腕を上げ、大いに喜んだ。

 

「よっしゃぁーっ!!生還っ!!ねっ皆!!」

 

帝国に潜入、奇跡の生還。喜びを分かち合おうとテグサー2は振り向く。

 

「あらーっ!?」

 

しかしその頃には、彼女を除いて全員が陸に向かって再度泳ぎ始めている真っ最中であった。

 

「ね、ねぇちょっと待ってよ皆!!少しは余韻に浸ってもいいんじゃない!?」

 

どう意見しても仲間達は構わず泳ぎ続ける。仕方なしと、テグサー2も続いた。そんな彼女を背にして、テグサー1は呟く。

 

「それにしても、長かったぜ、全く…」

 

「しかし、島の内情があんなのだったとは知らなかった。早いところ、この戦いが終わるといいな…お互いの為に」

 

12-4

 

それからその夜、レミーの事務所にて、ディーンはUSBにコピーしていたクレープ屋の所在地を一所懸命にメモしていた。その横で、監視だと言わんばかりに飛田が仁王立ちで見ている。

 

「…ふぅ、これで全メモ書きは終了。ありがとう飛田。これで一々パソコンを使わなくて済むよ」

 

「そうですかそうですか。なら、さっさとどいて下さい。テグサーマンの調整と整備がまだなんですからね?」

 

ディーンの感謝の笑顔に対して、飛田の言葉は刺々しかった。それを気にする事なく、ディーンはUSBを抜くと、飛田の前に差し出した。

 

「なんですか、コレ?どうしろと?」

 

「いやいや本当にありがとう。これは友情の印。君にこのUSBを渡しておくよ。暇な時とかクレープ屋に行く時にどうぞ」

 

「いや興味ありませんよ、そんな物!!…一応チェックしますけど」

 

「やれやれ素直じゃないなぁ…まぁいいや。それじゃあ、俺はここを去らせて貰おうかな」

 

その場を後にしようと立ち上がったディーン。

 

「え、行く当てあるの?」

 

すると、穂乃花に質問を投げ掛けられ、彼女に向けて振り向いた。

 

「ないさ。ないけどここにいるのも立場上まずいだろう?俺は帝国を裏切り、人類の敵の大罪人だからね。心配いらない。野宿は慣れているよ。それじゃあ、また会おう、テグサーマン」

 

「うん、それじゃあね。変な事しないでよ?」

 

「ハハッ、変な事ってなんだい?それじゃ…」

 

ディーンは後ろ手に手を振り、玄関から外に出た。

 

「…星がよく見えるな。綺麗だ」

 

そして、見上げた夜空には今にも落ちてきそうな程、近くに見えるあまたの星があった。それを眺めながらディーンは門に向かってゆっくりと歩みを進める。

 

「それにしても、彼らは大変だ。大事な人、物を守る為に傷つき、それでも立ち上がるなんて…」

 

「そんな彼らになにか報いがあるといいが…といっても、素寒貧である今の俺にはこれ以上の苦労や不幸がない事を祈るくらいしか出来ないが…」

 

「…イテッ!?なんだぁ?」

 

上を眺めていたディーンは腹部になにかが接触し、思わず叫んだ。それは、事務所の郵便受けで、よく見るとぶつかった際の衝撃で一通の封筒が落ちていた。

 

「おっと、いけないいけない。人の物を落としてしまったよ。随分大きい封筒の様だが、破けていないかな?」

 

ディーンは破損していないか確認する為、中にあった一枚の画用紙を封筒から取り出した。

 

「…!!」

 

それを見ていたディーンは目を丸くした。そこに描かれていた絵。それはクレヨンで描かれた変身時のディーン、そしてテグサー1。アンバランスな造形ながらも子供らしく一生懸命に描かれ、温かみのあるその絵の横には子供の字でこう書かれていた。

 

『たすけてくれてありがとう』

 

「フッ、悪くないな…」

 

ディーンは微笑みを見せながら絵を封筒に戻し、郵便受けに戻すと、ポケットに手を突っ込み、その場を後にする。ディーンの行く先。そこには夜空に瞬く星空が彼を迎えるかの様に瞬いていた。

 

深夜になり、飛田は休憩がてらディーンから貰ったUSBを手にしていた。彼の後ろでは事務所に残ったトウマがソファーで本を読み、その横では涼が座禅し、その傍らではレミーが眠っている。

 

「どれ、折角貰ったし見てみるか…」

 

「よぉし、スロット、オン!!」

 

飛田は深夜のテンションでUSBをコネクタに突き刺し、表示されたファイルをクリック、どうせ碌な物はないと高を括る様に背もたれに大きくもたれかかったが次の瞬間、大きく飛び跳ねる事となった。

 

「うぇぇっ!?な、なんかあるっ!?」

 

「なにっ!?」

 

「ム…!!」

 

トウマは本を投げ捨て、涼は伏せていた両目を開いて飛田の所に駆け寄った。一足遅く、レミーも目を覚まして眠い目をこすりながらゆっくりと起き上がる。

 

「飛田、なんだ、なにが書かれている!?」

 

「落ち着いて下さい、トウマさん。驚かないで聞いて下さい。ここに書かれているのは…」

 

トウマは固唾を飲んで飛田の答えを待ち構えていた。

 

「暗号化された文章ですっ!!因みに、どう解読していいか分かりませんっ!!」

 

「分からんのかよっ!!」

 

飛田が言うように、開かれたデータには文章やグラフ、表は存在した。しかし、そこに書かれているのは点や見た事のない記号が羅列し、それが百ページに渡って載っていた。

 

「あ、でもでも、トウマさんの言っていたなにかの証拠がここにあるのかも…」

 

「え、なになに見せて見せて!!」

 

「お、おい押すなよ…」

 

「あっ、ちょっと…!!」

 

後から来たレミーがトウマを押しのけて前に出た。無理矢理押しのけた為、トウマは前のめり、飛田の肩にぶつかった。ぶつけられた飛田は腕が押されてマウスが動き、画面は違う場所へスクロールする事になった。

 

「もう~社長。折角見てた所からズレたじゃないですか。どうしてくれ…社長?どうしたんです?」

 

飛田は振り返ってレミーに文句を言おうとした。しかし、彼女の様子が一変、震えて戦慄した表情をしている。すると、レミーは震える指でモニターを指差した。

 

「な、なんで…なんで私の名前があるの!?」

 

指摘された三人はモニターを見た。そこには確かに書かれていた。羅列された記号、表の中から「レミー・旋風」と。

 

「ど、どうして社長の名前が…一体、富田博士は何が言いたかったんだ…!?」

 

飛田が呟く中、三人は煌々と照らされるモニターを見つめ続けていた。答えの見当たらない謎に思考を張り巡らせながら。

 




どうも皆さん!!
今回の話で前半は終了となります!!
まだまだ続きます!!
さて、今回のイラストは十一、十二話のハイライト。

【挿絵表示】

そして、テグサー2~4がパーツを装着させたデザインで失礼いたします!!

【挿絵表示】

ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!!
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