テグサーマン   作:クロッカーズ

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《登場人物》
・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。テグサー2に変身する。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。テグサー3に変身する。
・大城茜…天才的なバイクセンスを持った女子高生。テグサー4に変身する。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
・イーヴィル・ディーン…ジン・ガイア帝国のエリート兵士。
・イリア・ラントム…高飛車な若き女性社長。メデューザに変身する。
・モーラ・フォーゲル…ラントムチームの姉的存在。ロックオン・スナイプに変身する。
・ジョージ・スミス…陽気でチームのメーカー的存在。キャノン・ダイザーに変身する。
・浦島ヒロシ…物静かな男。ダイ・ソードに変身する。
・甲斐田光雄…トウマ達のクラスメイト。


第十三話『文化』

13-1

 

その日はからっとした秋晴れの空であった。トウマ達が未来島から脱出してから一週間後、彼らが通う高校『陽観高校』では、明日に控えている文化祭の準備に追われていた。

 

「ホラ、トウマ!!そっちしっかり持ってよ!!これは皆の想いが詰まっているんだからねっ!!」

 

「わ、分かったから大声で怒鳴るなよ…恥ずかしいから」

 

準備中の生徒でごった返す校庭。そこでトウマは穂乃花に命令されてクラスの出店の看板を二人で運んでいた。

 

「よっ、ほっ、はっ…」

 

掛け声を言いながら腰を落とし、準備で走る生徒達の間をすり抜けて運ぶトウマの額に汗が走る。それは、ここまで穂乃花に散々こき使われているのを物語っている様であった。

 

「あぁ~ダメだ…ちょっと休憩…」

 

準備で騒がしい教室に辿り着き、無事運び終えたトウマは看板から離れ、教室の隅に腰を降ろすと、一息つきながら制服のYシャツを捲った。

 

「あはは…トウマ、お疲れさん」

 

その傍には茜も同じく腰を降ろしている。彼女に気付いたトウマは横目で彼女を見た。

 

「全く、アイツめ…。朝っぱらから力仕事は全部俺に任せるんだから…どんだけ張り切ってんだか」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。だってさ、来年の私達は三年生になって受験だなんだで文化祭に参加出来ないじゃん?だから今年で最後だって事で張り切ってんだよ、多分」

 

「…それに、今、こんな世界だろ?皆、いついなくなるか分からないじゃん。皆の思い出を残すって言う点も含めて頑張っているんじゃないかな…」

 

「茜…」

 

どこかさびしげな茜の横顔に、疲弊していたトウマの表情が冷静な顔となる。

 

「まぁそうだな、あいつはなんだかんだで皆の事は考えていると思う。俺には中々出来ない事だ…」

 

「あーっ!!」

 

突然の穂乃花の叫び。思わず二人は彼女を見た。そこでは、しゃがんでスマホで動画を見ている、所謂イケているとは僅かに遠い風貌をした、太っちょとたらこ唇の同級生の二人の前に膝を着けていた。

 

「うぅわぁーっ、もうっ!!ぬぅあんでもう、皆攻撃してくるのぉ~っ!?裏切りぃ~っ!?」

 

準備で騒がしい教室をつんざく、スピーカーからの音。内容と声質から察するに、これも所謂萌えボイス系の配信を夢中で見ているようであった。しかし、突如穂乃花が急接近した事で、二人はやっとスマホの画面から目を離すようになった。

 

「ねぇねぇ、折角だから皆と参加しない?大変かもしれないけど、皆と頑張ればきっと楽しいよっ?」

 

「い、いや、いいよ、三千院…さん。別に俺達が手伝っても、足を引っ張るだけだし…!?」

 

たらこ唇が言い捨てようとしたその時、穂乃花はスマホを持つ彼の手を優しく握った。その瞬間、彼は顔を赤らめ、ドキッと肩をすくめた。

 

「お願い、やる前からそんな事言わないで…?一回やってみよう?折角の思い出なんだし、ね?」

 

上目遣いでお願いする穂乃花。

 

「三千院さん…う、うん…やってみるよ俺!ほ、ホラ、お前も…!!」

 

「お、おう!!」

 

対して、たらこ唇は俄然とやる気を出して立ち上がり、太っちょも触発されて同じく立ち上がる。その一部始終をトウマと茜は見ていた。

 

「…さっきのは前言撤回。アイツ、自分の価値観を押し付けるだけじゃねーか…?」

 

「ま、まぁ…それもまた彼女の個性って事で…」

 

二人の会話を余所に、穂乃花の快進撃は続く。今度は更に教室の隅っこで一人スマホをいじる男、甲斐田光雄の元に近寄った。

 

「ホラ、君も!!一緒にやろう?スマホなんかいじってないで…」

 

「…」

 

穂乃花が話しかけ、手を伸ばした瞬間、甲斐田もまた自身の右手を伸ばした。

 

だが、その瞬間、彼女のそばにいた作業中の男子クラスメイトの一人が二人に聞こえるように大声で叫んだ。

 

「穂乃花~、そんな奴放っとけよ、どうやら頭脳明晰の天才様は孤独でしか生きられないからな~」

 

クラスメイトの挑発じみた発言に甲斐田の手はピタリとその場に止まった。

 

「穂乃花、お前も知ってるだろ?そいつは一年生の時から人のやる事なす事に卑屈な言葉ぶつけて、コメンテーター気取りの奴だ。どうやら頭はそれなりにいいらしいが、それ以外、運動神経や手先はからっきし駄目。そんで一匹狼気取ってるらしいが、ただ単に臆病なだけだ。そんなのに手伝ったら逆に足引っ張られるっつーの、なぁ!?」

 

周りのクラスメイトは同調する様に一斉に頷く。その様子に、誰とも視線を合わせる事なく甲斐田は手を引っ込めてその場を後にした。

 

「あ、甲斐田くん!!」

 

心配する穂乃花。

 

「ぎゃははははっ!!なっさけねーっ!!」

 

「やっぱアイツじゃね、運動会の決勝、全員ムカデ競争で転んだ原因なのさ」

 

その後ろで一斉に爆笑するクラスメイト。そんな彼らに穂乃花はクルリと彼らの方に向き直した。

 

「皆、そんなに言う事ないじゃないっ!!この文化祭のテーマ『絆』だって事忘れたの!?」

 

「え~、でも協調性のない奴に合わせて遅れるってのはどうなん?それより穂乃花、他にもやる事あるんだし、さっさと片付けちまおうぜ?」

 

「で、でも…!!」

 

納得のいかない様子の穂乃花。気を取り直してすぐさまトウマの元へと向かった。

 

「ええい仕方がない!!さ、トウマ!!次行くよっ!!第二ラウンドの始まり始まりっ!!」

 

「え~、もうちょっと休ませてくれよ…」

 

「何言ってんの、時間がないんだから急いで急いでっ!!ホラ、茜もっ!!」

 

「うぇっ!?私も!?」

 

「勿論!!さぁさぁ、レッツ、ゴー!!」

 

しゃがむ二人の腕を掴み、次の準備へ誘う穂乃花。

 

「おい、引っ張るなよっ!!」

 

「大体、次はなにするか決めてんの!?」

 

「次はね~、まず、机の運び出し、器具の用意、あとそれから…」

 

張り切る穂乃花に圧される二人。そんな和気あいあいとした様子を、甲斐田は一人振り替えり、未だに見下した目で追っていた。

 

「くっさ…」と呟きながら。

 

日が降り始めた昼下がり。穂乃花とトウマの二人は木陰で休憩を取っていた。

 

「はぁ~、疲れた疲れた。色々と走り回ったから大変だったよ~」

 

「ハイハイ、お疲れさん。ホラよっ」

 

トウマは自販機で買ってきた缶ジュースを穂乃花に投げ渡す。

 

「サンキュー。さてと…」

 

ジュースを両手でキャッチした穂乃花。肩を並べる二人は一緒に缶のプルタブを開け、ほぼ同時に飲み始めた。

 

「んっ…んっ…」

 

ジュースを喉に流し込み、ほぼ同じタイミングで喉を鳴らす二人。

 

「ぷはーっ!!」

 

ジュースから先に口を離したのは穂乃花であった。

 

「…それにしても、先週は、一時はどうなるかと思ったよ~。目の前でトウマが捕まった時、もう二度と会えないと思ったもん」

 

「あぁ、正直俺も生きて帰れるなんて思わなかったぜ。何しろ、変身は出来ない。他にサバイバル用品は持ってないのないない尽くしだったもんなぁ」

 

「それでも、昔と同じ、絶対的な状況でお前が来たのは本当に予想外だった、天の助けだと思ったよ」

 

「…穂乃花、ありがとな」

 

「ん、トウマなんか言った?」

 

「って、オイ!!聞いてないのかよっ!!」

 

トウマが感謝の言葉を述べた時には、穂乃花は既に自身のスマホを覗いていた。思わずずっこけるトウマはお返しとばかりに穂乃花のスマホを横から覗いた。そこに映し出されていたのはニュースサイト。珍しくまともな物を見ている彼女に、トウマは思わず感心した。

 

「お、なんだ?珍しくニュースをちゃんと見てんだな」

 

「ちょっと、勝手に人の画面を覗いた挙句、妙な偏見持たないでくれる!?…まぁ、ニュースを見始めたのは涼さんに『たまにはネットでもいいから、ニュース位見ろ』って言われたのがきっかけなんだけどね…」

 

「え~と…まずは三面記事って奴から見るか…」

 

穂乃花はメインとなる記事のタイトルを読み上げ始めた。

 

「う~んと、一番上の記事は…えっ!?『旋風重工、十年前の闇投資に迫る』だって…」

 

「あぁ?」

 

急に大声を出した穂乃花にトウマは彼女の方を見た。

 

「え、え~と、どうやらこの記事によると『十年前、旋風重工では相手が不明の投資があった疑惑があり、更にはこの投資に関して、他企業や政治家も関与している可能性がある』だって…」

 

「ふ~ん、そっか…」

 

「そっかって…。自分が勤めている所の疑惑なのに、興味ないの!?」

 

詰め寄り、顔を近付ける穂乃花。それでもトウマは静かに返す。

 

「そりゃあ、あれだけデカい企業だ。なんか後ろめたい事の一つや二つくらいあるだろ。それに、あくまで疑惑だろ?そんなゴシップに一々大慌てするなよ」

 

「そ、それはそうかもしれないけど…」

 

「お~い、二人とも~!!」

 

突如、二人を呼ぶ声がした。見ると、声がした方には肌の浅黒く、一目で体格が良いと分かる長身細身の同級生、樋田陽一がこちらに向かって駆けて来ているのが見えた。

 

「おう、樋田。どうした?」

 

二人の元に来た樋田に、トウマは話しかける。

 

「ちょっと人が欲しい所が起こってさ、休んでる所で悪いが、来てくれないか?」

 

「オッケー、任せてくれ。行くぞ、穂乃花」

 

「うん。樋田くん、それって何処なの?」

 

「あぁ、案内するよ。こっちだ…」

 

それから文化祭の準備は着々と進み、太陽が半分沈みかけている頃には教室の飾り付け、設営は完成。最後の一仕事として各クラス、部活の出し物を催す校庭のステージの看板を設営するだけとなった。

 

「よし、行くぞっ!!皆、しっかりと引っ張れよ!!」

 

「おうっ!!せーのっ!!」

 

樋田の音頭に応えるトウマとクラスメイト達。彼らがロープを引っ張ると、ステージ上の看板は徐々に持ち上がり、やがて誰もが見える高い位置に止まると『第三十七回陽観高校文化祭』の文字が胸を張って登場した。

 

「よっしゃー!いい位置だ!!皆、ありがとぉぉぉぉ!!」

 

「おおーっ!!」

 

最後の大仕事、看板の設営を終えた樋田は協力した友人達に感謝を叫ぶと、彼らもまた応える様に絶叫するのであった。

 

「えー、皆さんのお陰で、無事、明日の文化祭を開催出来そうですっ!!皆さん、ありがとうっ!!」

 

明日の開催を待つだけとなった飾り付けられた教室で、樋田はトウマのクラスメイトと中年男性の担任を前に張り切って感謝の言葉を述べた。それと同時に達成感と明日への期待で沸き立つ拍手、歓喜の声。それが止むと、樋田はスピーチを続ける。

 

「…今回は皆、頼りない俺に付いてきて本当にありがとう。特に穂乃花。君が皆をまとめてくれなければこんなに一丸にならなかった。ありがとうっ!!」

 

「えへへ、そんな事ないよ~…イェーイ、ピースピース、Wピースッ!!」

 

誉められて妙なテンションとなった穂乃花は中腰となって両手でピースをキメた。突然のポーズで苦笑するクラスメイト。その中でトウマと茜は額に手を当ててやれやれといったポーズを取り、飛田は純粋な笑顔で拍手をするのであった。

 

「え~、それじゃあ以上で実行委員の俺の言葉を終わります。先生、なにかありますか?」

 

「んあ?特にないよ」

 

ぶっきらぼうに答える担任。このクラスの担任はいつもこんな調子だ。それを知っている樋田は大きく、静かに頷いた。

 

「分かりました。それじゃあ皆、円陣を組みましょうっ!!」

 

樋田に言われて、三十人一クラスは一つの円となった。その表情は生き生きとし、瞳を輝かせている。そんな中、樋田は全員の音頭を取り始めた。

 

「明日の文化祭、いちば~ん、輝くのは~?」

 

「「「「二年三組ッ!!」」」

 

「出店、ステージ、全ての頂点に~立つのは~?」

 

「「「「二年三組ッ!!」」」

 

「行くぜ、二年三組~…レディ!?」

 

「「「「ゴォーッ!!」」」

 

最後の掛け声と共に、心が一つとなった円陣は離れ、各々お互いのこれまでの健闘を讃えてか拍手を送った。

 

「明日に備えてゆっくり休んで下さい。それでは、解散っ!!お疲れ様でしたっ!!」

 

「「「お疲れ様でしたっ!!」」」

 

樋田の号令で教室を後にするクラスメイト。その中でテグサーチーム四名は一緒に帰路につき、西に沈む夕陽を臨む坂道を共に歩んでいた。

 

「やれやれ、こんなに肉体労働をするのは重工での仕事以外なら久し振りでしたよ…」

 

「あはは、飛田君お疲れ様。ゴメンね、色々手伝って貰って…」

 

「まぁでも、やりがいはありましたよ。こんなことなら、去年も参加すればよかった…かも」

 

「ホント!?嬉しい~!!」

 

仲睦まじく会話する飛田と穂乃花。そんな光景をトウマと茜は背後で微笑ましく見ていた。すると、トウマのスマホから通知音が鳴った。持ち主が見ると、送り主は涼からであった。

 

「なんだアイツ、文化祭でも見に来る気か?」

 

「えぇ~、まさか…」

 

茜の半笑いの驚きを耳にしながら、SNSのアプリを開くトウマ。メッセージにはこう書かれていた。

 

『お疲れ様です。ニュース媒体で見たと思いますが、本日、防衛軍の開発部で巡航ミサイルが完成したと報じられていました。この点からジン・ガイア帝国の攻撃がより激化されると考えられます。そこで、皆さんには今後、町の異変に関してより一層警戒していただきたいと思います。なにか些細な事があれば、すぐにこのグループに連絡して下さい。特に…』

 

「…そうか、未来島へのミサイル攻撃が本格的となるのか」

 

「えっ!?未来島へ!?」

 

トウマのポツリとした呟きに、穂乃花は思わず振り返った。その表情に、先程までのはしゃぎようはない。

 

「と、トウマ、いいの!?」

 

「…えっ、なにが?」

 

「だって、ミサイル攻撃って事はトウマの故郷が吹き飛ぶって事でしょ!?それってあそこの思い出が全てなくなるって事じゃん!?」

 

「…それに、もしこれが原因で帝国の攻撃が更に過激化したら…もう…」

 

「あ、あぁ…」

 

穂乃花の言葉にトウマは思った。未来島で過ごした日々。そして先週の激闘を。

 

「…ねぇ、トウマ!!いいの!?」

 

「…だとしたらどうする?基地に行って止めてくるのか?もし止められたとしても、帝国の進撃が続くだけだぞ?」

 

「そ、それは…」

 

「穂乃花。俺達人間と帝国は敵対同士だ。どちらかがやらなければ、やられてしまう。今の俺達の時代はそんな世界なんだ。お前の気持ちは解るが、今は耐えるしかない…」

 

「そんな…そんな事ばっかり考えて、繰り返していたら、いつかこの世界は滅んじゃうよっ!!なにか…なにか別の方法があるんだよ、きっと!!」

 

「そんな事も考えずに戦うだけなんて、トウマ、ちょっと冷酷すぎない!?それじゃ帝国の幹部と同じだよっ!!」

 

「まぁまぁ、穂乃花さん。トウマさんだってなにも考えていない訳じゃないと思いますよ…落ち着いて、落ち着いて…」

 

トウマに対していきり立つ穂乃花を見かねた飛田が二人の仲裁を始める。それでも、興奮気味に詰め寄る穂乃花。その時であった。坂道を下った先の町に爆発が発生したのは。

 

「な、なんだ、今のはっ!?」

 

凄まじい爆音に真っ先に反応したのは茜。それと同時に今度は全員のテグサロイドが鳴った。

 

『皆、聞こえるか!?今、町…というより、ミサイルのある基地に敵が向かっているようだっ!!行くぞ、全員、出動だっ!!』

 

「了解!!行くぞっ!!チェンジ、テグサーマン!!」

 

涼の指示を受け、変身した四人と飛田は町に向かって駆け出した。そして到着した町。そこは時既に遅く、見るも無惨な光景であった。

 

「くっ…もう皆ここまで…」

 

敵に向かう道中。テグサー1の視界にはある物が入る。それは、飛田と出会ったあの日、富田電器のテレビに映っていた大型のマシーンであった。『佐伯工業』のロゴを大きく切り裂いた傷に引きちぎれたマニュピレーター。ヒビの隙間からはみ出す中の配線コード、そして節々から吹き出す煙とスパークする火花。それらは、テグサー1にこれまでの激闘を物語らせているようであった。

 

「行けぇ、ゴーゴーゴー!!我が帝国の為にっ!!」

 

百人以上はいるであろうジン・ガイアの戦闘員や戦闘機を先導する、兵士の指揮官。彼らを見て逃げ出す人々。その間をかき分けて進む防衛軍のメニー、戦闘車両。そして、その後ろでキャタピラで道路を踏み続ける大型の戦車。そこから始まる、両陣営の激しい銃撃戦。あるジン・ガイアの兵士は銃で撃たれ、またある防衛軍のメニーはアリ顔の怪人級に腕を噛まれ、戦車は戦闘機の光線であっという間に大破した。そんな中で、一人のメニーが怯えて、尻を地面に付けて震えていた。

 

「あ、あわわ…」

 

「フルルルル…」

 

彼の目の前には、獲物を前に激しく唸る芋虫型の怪人の姿があった。メニーは手持ちのマシンガンで撃ち抜こうと引き金を引く。しかし、銃は引き金から音を鳴らすだけで、銃口からはなにも発射されない。それを知り、じわじわと迫る芋虫怪人。

 

「うわぁぁぁぁっ!!来るな、来るなっ!!」

 

頼みの綱が切れ、一か八かで銃をぶん投げるメニーの兵士。しかし、固い衝突音がしただけで、当てた相手、芋虫怪人は止まる事はなかった。

 

「キャーッ!!」

 

「オボウッ!!」

 

芋虫怪人は止めを刺そうと飛び上がった。しかし、隙だらけの頬を横から飛んできた拳がその動きを止め、大きく吹き飛ばし、近くの壁に激突させた。その拳はテグサー1の拳であった。

 

「あ、あれはテグサー1…」

 

「早く、早く下がって!!」

 

「あっ、はっ、はいっ!!」

 

後から駆け付けたテグサー2に促されたメニーの兵士は這ってその場から下がった。その瞬間、同じように駆けつけるジン・ガイアの兵士達。どうやら、テグサーマンの登場を聞き付けたようだ。

 

「行くぞっ、穂乃花!!」

 

「う、うんっ!!」

 

テグサー1は強固な拳を、テグサー2は風竜剣を構えて目の前の怪人達に立ち向かった。

 

「つあっ!!はぁっ!!」

 

「やあっ、たぁっ!!」

 

持ち前の圧倒的なパワーである戦闘員級を殴り倒し、またある戦闘員級は投げ飛ばすテグサー1に、機動性で翻弄し、両剣で薙ぎ払うテグサー2。その攻撃で次々と倒れる戦闘員級。残るは芋虫怪人だけとなった。

 

「キャーッ!!」

 

口から糸を吐く怪人。その糸は一瞬のうちにテグサーマン二人を包んだ。

 

「ぐわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

もがくテグサーマン。それを見て、嬉しそうに口内の牙を光らす怪人。

 

「ぬんっ!!」

 

しかし、テグサー1に絡む糸は腕力に任せてすぐさま千切れた。それは、遅れながらも隣のテグサー2も同様であった。

 

「き、キキャッ!?」

 

予想以上に素早く解かれた事に、狼狽える芋虫怪人。そんな彼に、テグサー1は迫る。

 

「行くぞっ!!一発で決めてやるっ!!」

 

そう言いながら、テグサー1は拳にエネルギーを溜める。青白く光る拳に、破れかぶれに突っ込む芋虫怪人。それに反応するように、テグサー1は一気に飛び上がった。

 

「撃・竜・けぇぇぇーんっ!!」

 

テグサー1は、青き拳を芋虫怪人目掛けて一気に振り下ろした。その衝撃で怪人は先程以上に激しく吹き飛び、地面を転がり、大爆発。そこにはパチパチと燃える炎だけが残った。

 

「ふぅ…これで…」

 

「トウマ…!!」

 

膝をついたテグサー1にテグサー2は駆け寄ろうとした。しかし、二人の間を上空からの激しいレーザー攻撃が邪魔をする。

 

「きゃっ!!」

 

突然の攻撃にテグサー2は倒れた。

 

「穂乃花!!」

 

テグサー2を心配しつつ、テグサー1は上空を見上げる。この時、彼は気付いた。先程まで紅かった空が、黒く覆われていることを。

 

「お、おいおいマジかよ…」

 

そして知った。上空には帝国の戦闘機が滞空していた事を。その数、紅い空をかき消す程に。

 

「トウマ!!」

 

「トウマッ!!どうしようっ!?こんな量、裁ききれないっ!?」

 

凄まじい物量の敵に不安を感じたのか、テグサー3と4がテグサー1の元に集う。しかし、彼は二人が来ても、なんの反応も示さなかった。

 

「お、おいトウマ!?聞いてるのかよ!?」

 

なにも返さないテグサー1に、4は彼の肩を掴む。

 

「なんでだよ…」

 

「えっ!?」

 

「なんで、なんで迫って来るんだよ、お前達はぁぁぁぁぁっ!!」

 

悲痛な叫びと同時に、テグサー1は戦闘機に向かって駆け出した。

 

「お、おい!?トウマ!?危険だぞっ!!行くなっ!!」

 

「馬鹿野郎…馬鹿野郎ぉぉぉぉっ!!」

 

次々と飛来する戦闘機、発射される光線。たちまち起こる爆発。次々と燃え盛る建築物。その間をテグサー1は走る。たとえ、テグサー3が必死に呼び止めても。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

13-2

 

戦いが終わった数日後の早朝。戦場となったその地は活気が溢れていた先日までとはうって変わって、見るも無惨な荒れ地、戦いに参加したであろう各企業のマシーン、メニーの破片が折り重なる焦土と化していた。そんな地で超巨大なホログラムが流されている。映っているのは、ジン・ガイア総統、ジン・バイル。

 

『ー我が帝国に、崩壊への隙は一切ない!!人間達よ、怯えて降伏せよっ!!これで理解出来たであろう、貴様らの開発したミサイルなど、我々にとって取るに足らない物である事をっ!!繰り返す、人間達よ…』

 

「チッ、まだやってんのかよ。こんな朝っぱらから…」

 

ホログラムを背に受けながら歩き続ける茜は悪態をつく。その間、歩き続ける事でジャリ、ジャリと鳴る瓦礫。しかし、その音は突如、ピタリと止んだ。

 

「お、おばちゃん…」

 

目の前にいた人に茜は足を止める。その人とは、先日、飛田と共に訪れたバイク屋の中年女性であった。彼女はしゃがんだままで茜に背を向けていたが、彼女の声に気付くと、ゆっくりと振り向き、いつもの様な笑顔を見せた。

 

「あら~、茜ちゃん。よかったわ、無事で…」

 

「う、うん…あの、ここって…」

 

茜は中年女性がしゃがんでいた場所を指差す。そこは建物があったであろう跡である壁が残るだけで、それ以外は全て、黒く、咳き込みたくなる程の焦げ臭さが漂う消し炭となっていた。

 

「そうよ、ここはこの前まで店だった所なの。でも、この前の戦いで全部燃えちゃってね…まぁ、お父さんも私も無事だったのが幸いだったんだけど…」

 

自身の店、そして自宅を失った彼女は落ち込む様子を見せず、茜に対して気丈に振る舞う。その様子に、茜は彼女に対して顔を背けるような事はしなかった。いや、出来なかった。

 

「あっ、そうだコレ…」

 

中年女性はエプロンの前ポケットに手を突っ込み、引っ張り上げると、酷く焦げ付いた、金属の様な何かを取り出した。

 

「こ、コレって…!!バイクに使う…」

 

中年女性が取り出したのは、煤けたバイクのパーツであった。

 

「これだけなんとか残ってねぇ…。折角だから、茜ちゃんにあげるわ」

 

中年女性はいつもと変わらない笑顔でそれを差し出した。しかし、茜はそれを受け取らなかった。

 

「あ、茜ちゃん…?」

 

「ごめんなさい…」

 

「へ?」

 

「ごめんなさい…!!」

 

茜はそれだけ言うと、パーツを受けとる事なく、走ってその場を後にした。

 

「う、うぅ…うぅ…」

 

茜は走った。大事な人の、大切な物を守りきれなかった事を悔やみながら。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

茜は何度も謝り続けた。全てを失った人の、気丈な笑顔を思い出しながら。

 

「つ、うぅぅ…」

 

永遠に続くかのような瓦礫の間を走り続ける彼女の頬には、一筋の涙が流れていた。

 

「お疲れさまです…」

 

走り抜いた茜はたどり着いた先。そこはいつものテグサーチームの事務所であった。

 

「よう、茜か…」

 

リビングで挨拶を返すトウマの表情は暗かった。それは、周りにいる高校生二人、涼の膝に座るレミーも同じであった。

 

「どうだった、外は…?」

 

トウマの次に、穂乃花も言葉を交わす。

 

「う、うん。やっぱり、戦いとなったあの地域はまだ瓦礫の山だったよ。そういえば、そっちは学校の様子はどうだった…?」

 

茜の質問に、なぜか穂乃花は答えようとしない。そこで、トウマが代わりに返答した。

 

「ああ、学校は特に壊れた様子はなかったよ。皆も無事だった。俺達が住んでる所と同じでな。ただ…その、連日の戦闘に伴って学校はあるけど、文化祭もなくなって、な…」

 

「はぁ~…」

 

中止という言葉を聞いた瞬間、穂乃花は深くため息をついた。前日まで張り切っていた彼女にとって、突き付けられたその真実は何事にも代えがたい、辛い物だったのだろう。

 

「ま、まぁ、そう落ち込むなよ…ここまで一生懸命やった。それだけでも充分じゃないか、な!!」

 

「…うん、そう思いたい。思いたいけど、やっぱり心の底ではやりたかったよ。久しぶりにあった皆もそう言ってたし…」

 

「穂乃花…」

 

トウマが言葉を続けようとした瞬間、警報のアラームがなった。その音に、飛田は素早くパソコンに座る。

 

「…皆さん、どうやらここから北東13kmの地点に、怪人級と戦闘員級が多数出現しました。現在、近隣の企業の防衛システムと自衛マシーンが動いている様です」

 

「どうやら、この前の軍基地制圧にトドメを刺そうとしている訳か…よし、テグサーマン、出動!!」

 

涼の号令に、テグサーチームは一斉に立ち上がる。だが、その足取りは重く、心の中の辛い気持ちを現しているようであった。

 

「この戦い、いつまで続くんだろ…いつ如何なる時でもびくびくしなきゃいけない世界なんて…」

 

「穂乃花、しっかりしろっ!!相手は待ってくれないんだぞっ!!」

 

トウマに励まされた穂乃花はハッと我に返り、慌てて彼の後に続いた。

 

「行くぞぉっ!!」

 

それからは連日、テグサーマン達は戦った。軍基地が立て直される間、朝も昼も、そして夜になっても。ある時は敵の戦闘機の銃撃を浴び、またある時は激しい乱打戦を…。そんな毎日の中でも、テグサーマンの修理はすぐに終わる。しかし、中の装着者の心の傷、疲労はそう簡単ではない。それはリーダーとなる涼もまた同様であった。忙しなく、鬼気迫る表情で社員が往来する旋風重工の廊下。仲間の為に同じく突き進む彼女のスマホに着信音が鳴った。

 

「はい、もしもし。森ですが…ああ、肇くんのお母様でしたか。一体なにか…えっ、肇くんがしばらく道場を休む!?」

 

「あ、いえ、そうですよね、今は心を落ち着けるのが優先ですもんね。はい、分かりました。えぇ、失礼致します」

 

「ふぅ…」

 

通話を切った瞬間、涼はその場に立ち止まると小さくため息をついた。

 

「これで道場の休みは十人目か…私はあの子達の笑顔を守る為に戦っていたつもりだったのに、なにをやってるんだ?」

 

文化祭の日から二週間、落ち込んだ友人達を見て、気分の滅入る学園生活と共に、トウマ達の疲労はピークを迎えていた。

 

「み、皆、大丈夫…?なにか出来る事ある…?」

 

事務所に集う高校生組に、レミーは心配そうに話しかける。すると、今までソファーに突っ伏していた穂乃花が顔を上げた。その表情は暗く、険しい物であった。

 

「なにかって、なにが出来んの…?」

 

「えっ、えっ…?」

 

「私の代わりに戦ってくれるっての…?なんも出来ないのに、無責任な事を言わないで…」

 

「穂乃花っ!!やめろやっ!!社長に当たるのは!!」

 

トウマの叱咤に、穂乃花は黙り込む。その表情に反省の色はない。

 

「社長、気にすんなよ。穂乃花の奴、色んな現場、それと連日の全国に発生する帝国の侵攻の報せを一緒に見て、つい辛く当たってしまうんだ」

 

「う、うん…あっ、で、でも…」

 

そう言いながら、レミーは相変わらず突っ伏し続ける穂乃花に近付くと、彼女の腰に手を当て、さすり始めた。

 

「せめて、これだけは…」

 

レミーは穂乃花にマッサージを施した。その様子を、トウマは見続けていた。

 

「お、おい社長?何やってんだ?どうせマッサージするなら、押した方がいいんじゃ…」

 

「うん、でも私の力じゃ無理だから、こうしてやれば…」

 

何度かさすり続けた瞬間、穂乃花は突然、ソファーの上にガバッと立ち上がった。その表情は先程とは打って変わって、明るく、はつらつとした物であった。

 

「私、復活ッ!!」

 

「う、嘘だろ、オイ…穂乃花、本当に元気を取り戻したのか?」

 

トウマの質問に、穂乃花は首を強く、縦に振る。

 

「うん!!社長にさすって貰ったら、たちまちにね!!」

 

「ま、マジかよ…どうなってんだ?」

 

「社長、さっきはごめんなさい。辛く当たっちゃって…それと、ありがとう」

 

「へ?あっ、と、当然よっ!!なんてったって、私のパパ、そして実家の執事とクラスメイトが認めた、最強のさすりだもんっ!!」

 

穂乃花の様子に、レミーも元気を取り戻し、いつもの高飛車な雰囲気に戻っていった。その時、彼女の背後にある扉が開かれた。全員が見ると、そこには書類用の封筒を持った涼の姿があった。

 

「よし、皆揃っているな?」

 

「あ、涼ねぇ…」

 

涼の登場に一番先に気付いたのは茜。彼女が真っ先に涼に近付いたのを皮切りに、トウマ達も彼女の元に集合した。ただし、飛田はテグサーマンの調整中である為、パソコンに向かい続け、耳だけ傾けているが。

 

「涼、なんか変化があったのか?出来れば、いい報せである事を祈りてぇが…」

 

トウマは真剣な面持ちで聞く。

 

「まぁ、良いと言えば良い方だな。今度、我が社が主催となって、全国各地でアーティストらが催しを行う」

 

「へ?ウチの企業って重工だろ?そんな所まで手ぇ出してたのかよ?」

 

「まぁ、重工と言っても、十年前の自体から色々な産業に手を出してるからな、ウチは。で、そこでこの地域で我々がする事は、不測の事態に備えて警備する事だ。いくら、戦いが沈静化したとは言え、油断は禁物だからな。で、その場所は、だな…」

 

そう言いながら、涼は封筒から書類を取り出し、机に広げる。

 

「どれどれ…」

 

書類を覗いた高校生組は思わず一斉に「あっ!!」と小さな声を漏らした。何故なら、会場の名前が我らが学舎『陽観高校』であったからだ。

 

「りょ、涼さん…これって…」

 

「ああ、文化祭の準備でそのまま残っている会場があるって聞いたからな。折角だから利用しようって話しになったんだ。いい案だろ、穂乃花?」

 

「うん、うん…!!涼さん、ありがとう!!クラスメイトの想いが無駄にならなくて済むよっ!!」

 

穂乃花は涼の手を握って、おもいっきり上下に振る。その勢いに涼は引き気味であった。

 

「お、おいおい…企画したのは私じゃないぞ。色々と根回ししたのは本来の社長。つまり、そこの子のパパだぞ」

 

「そっかぁっ!!ありがとう社長っ!!」

 

涼から話を聞いた穂乃花は、体をくるっと半回転、レミーの方へと向き直して手を握り、その手を再度上下に振り回した。

 

「い、いや私じゃなくてパパなんだけど…まぁいいか」

 

「それで?場所は分かったけど、一体何処のどいつが歌ってくれるってんだ?」

 

感謝の言葉を述べるのは後回しだ。そう言わんばかりに、今度はトウマが涼に聞いた。

 

「フッ、聞いて驚くな。歌ってくれるのは、現在大人気のアイドルユニット『GooGooZ(グーグーズ)』だ」

 

「GooGooZ?あぁ、よくニュースで聞くが、正直曲自体は俺、あまり聞いた事はないなぁ…」

 

「なぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃっ!?トウマさん、あなた正気ですかぁぁぁぁぁっ!?GooGooZの曲を聞いた事がないなんてぇぇっ!?」

 

「えっ!?なにっ!?」

 

突如、部屋に響く飛田の絶叫。トウマ達は思わず彼のいた方向を振り向く。そこには右手にGooGooZの写真集、左手にはペンライト、そして派手な色をした法被を着た、鬼気迫る飛田の姿があった。

 

「お、お前…いつの間にそれを…」

 

「そんな事はどーでもよろしいっ!!さぁ、これを読みなさいっ!!」

 

「う、ウグッ!!」

 

飛田に写真集を突き付けられたトウマはそれを受け取り、ペラペラと読むと、彼女達の紹介の部分を見つけた。

 

「え、えーなになに、GooGooZは三人組の女性アイドルユニット。彼女達は生まれつき特別な才能を持ち合わせていた訳ではない。厳しい歌唱、ダンストレーニングを連日取り組み、何度オーディションに落ちてもくじける事なく突き進んだ。正にGo(進む)という単語に相応しいグループである」

 

「リーダーは紅く燃える女子高生、馬場飛鳥。熱い性格で、その性格を体現するような熱く煌めく瞳、熱く流れるポニーテールが特徴、特技が乗馬のスポーツマン…か」

 

「それで、二人目は土居玲香…クールで蒼い瞳とロングヘアーが特徴の二十歳。チーム最年長で、実質リーダーの引き止め役である。そして、特技はパラグライダーのスポーツマンである…と」

 

「三人目は、ボブヘアーが特徴の、おっとり系の女子高生、日下巴。他の二人にないのんびりとした雰囲気が特徴で、特技はマラソンのスポーツマン…ね」

 

「…なんか、スポーツマン被ってない?」

 

「何を言うんですか、トウマさん!?アホですか、お宅は!?よく見てください、それぞれスポーツの属性が違うでしょうが!?大体、それだけで似たり寄ったりなんて言うなんて…」

 

「わあぁっ!?わかったわかった、俺が悪かった…!」

 

「…説明を続けていいか?」

 

詰め寄る飛田に、尻込みするトウマ。その流れを鬱陶しく感じた涼は威圧感たっぷりに二人の会話を一刀両断にぶった切った。

 

「ふえっ!?あっ、どうぞ、どうぞ…」

 

その雰囲気に気付いたトウマは、迫る飛田を抑えつつ、涼に返答した。

 

「…明日からの流れを簡単に言うと、彼女達がその学校に来て、リハーサルを行う。で、そこから明後日の午後に本番となる訳だ。明日の朝七時には現地集合となるから、必ず遅れないように。いいな?」

 

「了解っ!!皆さん、粗相のないようにしましょうねっ!!」

 

飛田がいの一番に張り切って了解した。その時、彼のテンションを目の当たりにしたその場の者は全員、

 

(こいつが一番しそうなんだよなぁ…)

 

と思ったが、先程の形相を思い出し、誰も口には出さないのであった。

 

13-3

 

秋晴れの翌日、トウマ達高校生組は涼の指示通りに高校に現地集合した。

 

「おいおい、モノスゲー厳重じゃねーか…」

 

「ホント、ホント…まさか、国の人達が関わってるなんて、聞いてないよ~」

 

しかし、彼らはまだ校門をくぐる事はしない。というよりも、トウマ以外全員が校門そばの木々からこっそりと覗いているのが現状であった。何故彼らがそんな事をしているのか。それは、自身の学び舎にマシンガンを装備、もしくはメニーを装着した兵士によって警備が厳重に張り巡らされており、物々しさと近寄りがたい雰囲気を醸し出していたからだ。

 

「う~ん、校門にいる人に話しかければいいのかな…?」

 

穂乃花は首と背を伸ばしながら、門番をしている兵士を見た。すると、彼女の背後に涼とレミーが現れる。

 

「皆、ここにいたか。それじゃ、入るぞ」

 

「あっ、涼さん」

 

彼女の声に気付いた穂乃花が彼女の方を見る。涼はそれに答える事なく、門の方へ向かった。彼女と一緒なら大丈夫だ。そう考えた高校生組は全員、涼の後を追った。

 

「ねぇ、涼ねぇ。これって国の人も関わっていたの?」

 

涼の前に出て、茜は質問した。

 

「ああ、そうだ。なにしろ、今回の計画の目的は全国の人々に希望を与える事だからな。それだけ、今回の計画に期待しているのだろう。見ろ、早速マスコミも来ている」

 

涼の指差した先にはテレビ局や新聞社のロゴが入った車が大勢詰めかけていた。と言っても、入ろうにも入れず、外からカメラを覗かせているだけだが。

 

「…すまないな。国や防衛軍が関わっている事は、私もさっき聞かされたばかりなんだ」

 

「…テグサーチーム、入ります」

 

涼は門番の兵士に専用のカードを見せた。

 

「…確認しました。どうぞ、お通り下さい」

 

それを照合した兵士は横にずれて、通行の許可を態度で示した。

 

「よし、入るぞ」

 

涼の先頭に、テグサーチームは校門をくぐる。

 

「おお、これはっ!!」

 

門の先に広がる光景。それにトウマは感嘆の声を上げた。かつて文化祭で使われる予定であった平たいステージ。それがプロの設営スタッフによって野外ライブの映像で見かけるステージと同等、いやそれ以上の煌びやかさを放っていた。大掛かりな照明、ド派手で超弩級の大きさを持つGooGooZの看板。それらに目移りしたその瞬間、トウマの横を誰かが駆け抜けた。

 

「さぁ~、どこですかぁ、GooGooZぅぅぅぅ!!どこだ、どこだぁ!?」

 

駆け抜けたのは飛田。首を左右に振り、腰を落として全力で獲物を探していた。

 

「飛田君、さっきから黙っていたけど、ずっと我慢してたんだね…」

 

「や、やっぱりこうなると思っていたわ…」

 

彼の必死な様子にドン引きの穂乃花とレミー。それを見たトウマは飛田を落ち着かせようと近付く。

 

「おい、落ち着けよ…そんなんじゃお前、すぐに追い出され…」

 

「これが落ち着いていられますかっ!!僕は今まで、やれ抽選だの、仕事だの、学校だので一度もお目にかかれた事がないんですっ!!それが今、目の前で、目の前で…!!」

 

「その気持ちが分かりますか!?まぁ、卑屈な見方するトウマさんには分からんでしょうけどっ!!」

 

「なっ!?お前、俺の事そんな風に見てたのかよっ!?」

 

「だってそうでしょう!?GooGooZを見て同じだと抜かすような節穴なんですからっ!!」

 

「そ、そこまで言うなよっ!!ヘコむぞっ!!」

 

「どうぞ、ご自由にっ!!」

 

言い争う二人。あまりのヒートアップぶりに穂乃花の「ちょっと二人共、ケンカしないでよ~!!」という言葉も聞こえなかった。そのせいで彼らは気付かない。防衛軍とは違う、真っ白な軍服風の制服に身を包む四人が近付いた事に。

 

「おーほっほっほっ!!日本には超技術を使った戦士がいるって聞いたけど、どうやら中身はダメダメ同然のようねぇっ!!」

 

「はぁ?」

 

突然の高飛車な罵詈雑言の声、それも聞き慣れない声に、二人は喧嘩をピタリと止めた。そして、声の方向を二人同時で見ると、そこには金髪碧眼の美女が立っていた。よく見れば彼女の出で立ち、これもまた見慣れない、自身の長髪を四つもロール巻きにした長身の外国人。それだけでトウマ達にとって一目で優雅でセレブな人物だと分かる。しかし、トウマはそれ位ではビビらない。

 

「なんだ、お前は?ここは防衛軍とテグサーチーム以外は立ち入り禁止のはず…その制服を見るに、どちらでもないだろ?勿論、後ろの三人も…」

 

トウマが指差す金髪美女の取り巻きの三人。彼らは一人の成人男性を除いては二人の男女とも外国の人物である事が伺える。

 

「なにを言っているの?白髪の日本の方。私達はこちらの国の政府、それと旋風重工からの依頼で来た、フェニックス・ラントム社の者よ?あなたの部署の報連相、遅れてるんじゃない?」

 

「だ、誰が白髪頭だっ!?…って、えっ?ウチの企業からの依頼で?」

 

自社の名前が出た事で冷静になったトウマは、背後にいる涼に目をやった。そこには、なにも聞いてないと言わんばかりに目を反らす、彼女の姿があった。

 

「さて、理解して貰えた所で、私達の自己紹介を始めようかしら」

 

金髪の美女はトウマの視線がこちらに戻るのを待つ事なく、話を続ける。

 

「まずは私!!フェニックス・ラントム社の現役社長にして、超装甲戦士『メデューザ』に変身する十九歳、イリア・ラントム!!」

 

「次に、私の秘書にして、最高の幼馴染。そして『ロックオン・スナイプ』に変身し、狙撃の名手として悪を倒す戦士、モーラ・フォーゲル!!」

 

「ハイ、よろしくね、日本の若人さんっ!!」

 

テンションを上げるイリアに紹介されたモーラと呼ばれる、落ち着いた雰囲気の彼女はウェーブのかかった黒髪をなびかせ、鋭い瞳でウィンクした。

 

「次に、防衛軍米国支部からのスカウトッ!!そして、我がチームの砲撃手『キャノン・ダイザー』の変身者、ジョージ・スミスッ!!」

 

「ヘーイ、よろしくっ!!」

 

次に呼ばれたのは陽気でキザな雰囲気を出しているジョージという男。逆立てた黒髪を撫で、金色の瞳を輝かせながら、彼はナイスなポーズでトウマ達にグッドサインを送る。

 

「そして最後ッ!!防衛軍日本支部からの引き抜きっ!!『ダイ・ソード』に変身、大剣を持って大暴れっ!!浦島ヒロシ!!」

 

「…よろしく」

 

黒い短髪と鋭い瞳のヒロシは、クールな顔とは裏腹に丁寧で静かな挨拶を返した。…というのも、他の三人のテンションについていけてない、もしくはここら辺で真面目に挨拶しようと考えての挨拶なのかもしれないが。

 

「我ら四人は最高のチームワーク、ラントムチームッ!!」

 

イリアの口上と共に、四人は腕や脚を上げて最高のキメポーズを決める。その瞬間、トウマの学舎には寒風が一つ、冷たい音を上げて通り過ぎた。

 

「…おかしいわ。日本では名乗り口上をあげたら爆発が起こるって聞いたのに」

 

「…どこからその情報を仕入れてんだ、オメーは?」

 

「ちょっといいですか、イリアさん」

 

突っ込むトウマを押し退けて、穂乃花がイリアに詰め寄る。

 

「変身してからじゃなきゃ、爆発が起こらないんですよ、この国では」

 

「あら、ホント?」

 

穂乃花に名乗りのわびさびを教わったイリアは感心した様に頷いた。

 

「おいコラ!!嘘を教えるなっ!!」

 

「そこは、現在は美麗な合成が主流だって言わないと…」

 

「アンタもなに言ってんの!!っていうかそんな事より!!」

 

ヒーロー講習を始めようとするトウマを押し退け、今度はレミーがイリアに迫る。

 

「ラントム社って言ったら、大企業だけど今経営難でかなり逼迫している企業って言うじゃない!!来てくれるのは助かるけど、ここにいていいの?」

 

質問に、イリアはフン、と鼻を鳴らす。

 

「その心配は無用。何故なら、今回の護衛で私達の技術力をアピールして、経営の回復に当たるからよ。だからあのアイドルには、私達の…」

 

「なんだとぉぉぉぉぉぉっ!!あなた達、GooGooZの、人々を想う神聖なる活動をなんだと思っているんだぁぁっ!!アレか、踏み台か、踏み台にしか思ってないんですか、ォオッ!?」

 

イリアが来た理由を知って、飛田は怒りの形相で迫る。その横でトウマはどうどうと彼を止めるのであった。そんな中で、イリアは更に説明を続ける。

 

「…あら、私、変な事言ったかしら?今回の活動は国と貴方の所みたいな大企業から呼ばれたイベントですもの。あの子達も、ここいらで自身の地位を確固たるものしたい。そう思っているんじゃなくって?」

 

「第一、あなた達も多少なりとも報酬を企業から貰っている。そこに、遊ぶ金欲しさに働いているという欲があって続けているという考えが僅かにもない。そう言い切れる自信は、おあり?」

 

「なんだとぉぉぉぉっ!!」

 

「飛田、落ち着け」

 

捲し立てるイリアに、今にも飛び出そうと足で地面を蹴る飛田。そこに、彼の肩を抑えつつ、涼が前に出た。

 

「イリアと言ったか。確かに我々は企業から少なからず報酬を貰っている。それは事実だ。だが、ここに住む人々を守りたい。世界を少しでも救いたいという気持ちに嘘偽りはない。それは、共に戦ってきた私が保証する。そして、今回の活動で、それを証明しようと思う。それだけではダメなのか?」

 

「…フン、どうだか。まぁ、あなた達がもし本心でそう思っても、所属する企業の上の方々はどう考えている事やら…あんな、怪しい裏金を使っていた企業の言う事なんて…」

 

「えっ、それってどういう事!?」

 

「社長、聞くなっ!!」

 

「えっ、えっ…」

 

旋風重工の怪しい噂。それを聞いたレミーはイリアにその真意を聞こうとした。だがその行為を、涼は声を張り上げて止めた。

 

「あら、ご存じない?先日のニュースを?社長令嬢なのに?いいわ、教えてあげる。確かあのニュースは…」

 

「やめろと言ってるだろう!!」

 

「フン…随分と必死ね…」

 

慌てて黙らせようとする涼を、煽るイリア。その瞬間、両社は激しく睨み合い、静かなる炎を燃やしていた。その時であった。華麗なる三人の少女が彼らにやって来たのは。

 

「あの~すいません。皆さんが私達を守って下さる、旋風重工、ラントム社の方々ですか?」

 

「ん?あっ、GooGooZだっ!!スゲーな、本物だよ、おいっ!!」

 

茜の興奮気味な声。それにいの一番に反応したのは飛田。その後に、他の者達が続く。注目した先には、トウマが写真集で無理矢理見せられたあの三人組、それもひらひらとした華麗なステージ衣装に身を包んだ彼女達の姿があった。

 

「今日は来てくれてありがとうございます。私がリーダーの馬場飛鳥です。どうぞよろしくっ!!」

 

 高校生らしく、若さに満ち溢れて元気一杯な挨拶。彼女の声は周囲に響き渡った。 

 

「…土居玲香です。よろしくお願いいたします」

 

年長者らしく、凛々しく、低く、それでいて華麗な美声。男性陣なら虜になりそうな声である。

 

「日下巴です。よろしくねっ!!」

 

そして、二人にはない、可愛らしい声。そんな三人の声と雰囲気に、両社全員は一心に注目、大人しく頭を下げていた。すると、飛鳥は言葉を続ける。

 

「…昨日からこちらの地域に来ましたが、帝国の被害は甚大な物で、かなり心を痛めて参りました。でも、ここに車で来た際に私は見ました。それでも生きようと、明日への夢、希望を掴もうとする人々の姿を。そこで私は改めて決意しました。今回の活動は地域の人々…いえ、世界中に希望を届けたいと。だから皆さん、今回の活動を必ず成功させましょうっ!!皆さん、ご協力をお願いしますっ!!」

 

「おう、よろしくなっ!!」

 

「うん、よろしくっ!!」

飛鳥の強い意志に、トウマと穂乃花は言葉を返した。そして、一瞬の間を置くことなく、飛田が続く。

 

「この意志、想い…やはり、GooGooZだっ…!!」

 

「あ、あの…!!こちらこそ来て頂きありがとうございますっ!!今言うのもなんですが、僕、GooGooZのファンで…!!よく、CDとか買ってます…!!」

 

「え、本当ですか!?嬉しいですっ!!これからもよろしくお願いしますねっ!!」

 

飛田がファンだと知った飛鳥は、飛田と固い握手を交わした。

 

「あ、あは、あ、あはは…い、イヒヒヒヒ…」

 

嬉しさを飛び越して、飛田は顔を歪める程に狂喜、爆発寸前であった。それでも、飛鳥は彼に微笑み続ける。

 

「お~い、三人共、そろそろリハーサル始めるよ~!!」

 

その時、ステージの横から中年の男性が大声で呼びかけた。

 

「あ、は~いっ!!今行きますっ!!それじゃ、失礼します!!」

 

馬場飛鳥は両社に会釈してその場を後にした。二人もそれに続く。ステージに向かっていく三人のアイドル。その後ろ姿を、両社は優しく見送っていた。

 

「…へぇ~、やっぱ、天下を掴む本物は違うねぇ。なんていうか、オーラがあるよな。なぁ、飛び…」

 

嬉しそうにトウマが振り向くと、飛田は仰向けになって倒れていた。

 

「あぁ、我が人生、悔いはなし…これから我が魂は天に昇るなりけり…」

 

「と、飛田ぁぁぁぁっ!?」

 

トウマは見た。倒れた飛田の魂が上半身位出ているのを。

 

13-4

 

「…はぁっ!!」

 

目を覚まし、上半身だけ起こした飛田。そこは高校の保健室で、彼はベッドに横たわっていた。飛田は周囲を見渡したが、純白の室内には校医はおらず、その代わりにトウマが椅子に座って待機していた。

 

「おう、目を覚ましたか。全く人騒がせな…」

 

トウマは椅子にだらしなく腰かけながら、迷惑そうに話しかけた。

 

「あ、あれ、僕は一体…」

 

「GooGooZの子に握手されてから、急にぶっ倒れたんだよ。オイオイ、そこまで覚えていないのか?」

 

「…ハッ!!そうだ、GooGooZ!!あの子達はどうなりましたか!?」

 

「どうもこうも、お前が倒れてからずっと、通しでリハーサルをしていたよ。まぁ、今丁度終わったけどな」

 

「…は?」

 

「で、今俺達は待機中って訳。因みにGooGooZはもうすぐ帰る。軽い調整を終わらせてから、帰るって…」

 

「…なんでですか」

 

「あ?」

 

「ぬぅああああああんで、起こしてくれなかったですかぁぁぁぁっ!!折角聞くチャンスだったのにぃぃぃっ!!」

 

飛田はベッドから飛び跳ね、トウマの顔のほっぺたを両手で引っ張った。有り余る彼のパワーで、トウマの頬は伸びる。まるで、焼いた餅のように。

 

「な、なんでって、おへぇーがおきねぇーのがわるひんだろーが…!!」

 

折角ついていたにも関わらず、恩を仇で返されたトウマは、仕返しにと、飛田の頬を引っ張る。

 

「んひぃぃぃぃっ…!!どんなへでもおこすってのがなはまってもんでしょーがっ…!!」

 

トウマと同様、飛田の頬も伸びる伸びる。まるで、よく噛んだガムのように。

 

「なにぃぃぃぉおぉぉ…!!」

 

「んのぉぉぉぉ…!!」

 

両社の力は拮抗。頬は今にも引き千切れそうな位に伸び続けた。そして、その時であった。保健室のドアが開かれたのは。

 

「んあ?」

 

突然のドアの開放に、二人はお互いの頬から手を離した。見ると、そこにはラントム社の二人、モーラ、ヒロシの姿があった。

 

「…気が付いたみたいね。ちょっと、失礼するわ」

 

そう言いながら、モーラは入室。ヒロシも後に続く。

 

「…なんだ?俺達になんか用か?」

 

トウマはいつもような凛々しい表情で二人に問いかける。頬をジンジンと赤らめながら。

 

「ええ。先程の事を謝罪、そして弁解しようと思って…」

 

「弁解?なんの事です?」

 

飛田もトウマと同じく、冷静に聞く。頬をパンパンに腫らせながら。

 

「ウチの上司、イリアの事よ。さっき、失礼な事言ったでしょう?その、あなた達とあのアイドルの子達に対して…」

 

モーラの話で飛田は先程の件を思い出し、ガタッと立ち上がったが、トウマはそれを制した。

 

「別にそんなに気にしちゃいねーけど、よかったら、話を聞くぜ?」

 

「ありがとう。さて、どこから話したものか…そうね、彼女の会社、それと今置かれている立場について話しましょうか」

 

「さっき、あなた方の社長が言っていたけど、我が社が経営難になったのは知っているわね?」

 

「あぁ、知ってる。ニュースでもやっていたからな。確か、それが遠因で先代の社長が亡くなったとか…もしかして、その先代の社長って、あの人の…」

 

「そう、イリアの父親よ」

 

「そうだったのか…そうか、分かったぞ。これから先、社員、役員を引っ張っていくっていうプレッシャーであんなに神経質になって、あんな悪態をついたって訳か?」

 

トウマの理解に、モーラは少しばかり首を横に振った。

 

「少し違うわね。正確に言えば、引きずり降ろされないように必死になっている余り、ナーバスになっているって所かしら」

 

「引きずり降ろされない為に?どういう事だ?」

 

「今、あの子が社長になったのは自分の意志じゃない。周りの役員が彼女に言って、無理矢理やらされているのよ。それも、大学を休学させてでもね」

 

「なんだって?それじゃあ、会社はまだ社会での経験もない彼女にやらせて、それで…」

 

「そう、なにか大きなへま、失敗をさせて、それを理由にラントム一族を追い出そうとしているの。というのも、ウチの企業は経営の方針を変えればたちまち元に戻る。それが役員達の考えだからね」

 

「そうか。それで自ら戦士となって変身し、戦い、企業のイメージアップを図っているのか」

 

「その通り。だからごめんなさい。あの子の失言はそう言った点から出た物なの…あの子は、イリアは本当はあんな事言うような子じゃないの。誰かを労る、優しい子じゃなかったのに…」

 

「…随分と、イリアの事知ってるみたいだな」

 

「ええ。あの子が小さい頃から知っている仲だから…なおさら…」

 

モーラがイリアの事を語り始めたその時、外からしわがれた男性の怒号が聞こえてきた。

 

「なにを考えてんのよぉっ!?こんな時にぃっ!!」

 

「な、なんだぁ?」

 

突然の怒声に、トウマは保健室から飛び出した。その後を他の三人も追う。走って、声のした校門に来た四人。そこでは、会場設営のスタッフ、兵士を前に背の低いしわくちゃの、白髪がぼさぼさの中年がいきり立っていた。

 

「帝国の化け物が来るかもしれないのに、学ぶ所でなにしてんのさ!!やめなよね、こんな物!大体さ、こんな状況で、若い者がキャピキャピしているモン見ても嬉しくないって思う人もいるよ、多分!!」

 

「い、いえ、ですから、本来この地域で行われる物を、この高校で行う物でして、その、本来の予定を、場所を変更してる物で、これは通常通りの…あの、警備は厳重ですので…」

 

中年の剣幕に狼狽えるスタッフ。ハッキリとしない彼らの態度に、中年は更にヒートアップした。

 

「そ、そもそもさぁ、おかしいじゃない!?いつ来襲するか分からん時にこんな物をするなんて、俺としては企業とアイドルの自己満足にしか聞こないよ!!第一、なぁんで軍隊がたかだかアイドルの歌なんぞに協力してんだ!?もっとすべき事があるんじゃない!?税金の無駄だ、ったく!!」

 

「一体、国はなにをやってんだ!?この件に関して防衛軍の杉本司令は承諾してんの!?なにも怪しいとか疑問も持たず、いままでこんな事やってなかった癖にさ~!!」

 

「あ、あうう…」

 

「あっ、つまりアレか!!こうやって視線を逸らして、その間何かを裏で手引きして、それを、無駄に希望を、善良な国民に見せつけるんか…見せつけるんかぁっ!!」

 

中年の激しい怒りにスタッフはたじたじ。それを見たトウマと飛田は止めようと飛び出そうとした。その時であった。ラントム社の一人、ジョージが別の方から中年に向かってやって来たのは。

 

「いい加減にして頂こうか、ミスター?」

 

「う、ウム…?」

 

自分より遥かに背が高い男の静かなる怒りに、中年は一歩引きさがる。

 

「確かにあなたのように嫌な人もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも、この地域では彼女の声、明日への活力を求める人が多数います。それを貴方はあなた一人の意見で台無しにされるおつもりですか?嫌なら聞かなければいいのでは?」

 

「い、いやしかし、これが原因でなにかあったら…責任は…大声で歌われてもさ~…」

 

ぶつぶつ独り言のように言いながら後ずさりし、ある程度距離を離すと、中年は足早にその場を後にした。

 

「ふぅ…あまり、威圧だけで追い払いたくなかったが、仕方がないか…さ、スタッフの皆さん?ステージのセッティングを続けましょう?あの人が落ち着きを取り戻せるような、ビッグなイベントにする為に」

 

スタッフはジョージの言葉に頷き、持ち場に駆け足で戻った。その様子を見て、トウマはモーラに言う。

 

「ま、あんなに優秀な部下を集められる奴なら、信用出来るな。お互い頑張って、いいイベントにしようぜ、モーラさん?」

 

「…!!ありがとう、ミスター…?」

 

「トウマだ。あと、こいつは飛田。よろしく」

 

モーラは、トウマが差し伸べた右手と固い握手を交わすのであった。それから翌日。その日も天候は快晴。会場の設営は着々と進み、ステージは今か今かと待ち構えているようであった。そして、高校の校門は最高潮に盛り上がっていた。主に、在校生の集団によって。

 

「ねぇねぇ、GooGooZが来ているってホント!?」

 

「え、えぇ、うん…」

 

GooGooZが高校に来ている。その情報を掴んだ穂乃花の女友達は彼女に迫る。

 

「うぅぅおおおっ!!マジかっ!!」

 

「やべぇ、え、待って、ヤバくない!?ウチの学校に来るなんてっ!!」

 

「スゲスゲスゲッ!!来てない奴にメッセージ送っとくは!!」

 

穂乃花の頷きに、男女問わず、同級生達はテンションは最高潮。それを余所に、穂乃花は思った。

 

(どうしよう…本当はさっさと中に入りたいのに、皆がいて、迂闊に入れない…下手に入れば、私がテグサーマンやってるのバレるし…なるべく秘密にしているのに…)と。

 

そう考えた瞬間、集団の外から声が聞こえた。

 

「おい、穂乃花!!さっさと来いっ!!」

 

それは、トウマの声であった。それに気付いた穂乃花は「あ~待って~」と言い、人だかりから離れていく。それからはトウマに連れられ、裏口から入る二人。入るや否やトウマは開口一番に言った。

 

「ったく、こうなるから、明日は裏口から入れって涼が言ってたんだろうが…」

 

「ご、ゴメンゴメン…」

 

二人が裏口によって高校に入れたのと同時刻。未だに集う人だかりのすぐそばの物陰には、昨日の中年が恨めしい顔で学校を睨みつけていた。その手に、バットを持って。

 

「くぅぅぅ…俺が危険だと、こんなの無駄だと言っているのに、まだやっているのか…ったく、校門のガキ共め、ムカつくなぁ。あんなにはしゃぎやがって…最近の若いのは、目先の幸せしか考えてないのか?…こうなったら、俺が行って、危険性を教えてやる…!!」

 

「もしもし、貴方だけでは門の兵士すら倒せませんよ」

 

「あぁ!?そんなの、やってみないと、わから…な…」

 

中年は振り向いた瞬間、すぐに絶句した。そこにいたのはマツナガとコブンロ。そして、ヤドカリをモチーフとした二足歩行の怪人級、「ヤドカリヤン」がいたからだ。

 

「あ、あ、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

中年はその場から逃げ出そうとした。しかし、マツナガは彼の腕をいち早く掴んだ。中年は必死にもがいた。しかし、逃げられない。そんな彼を前に、マツナガはニヤリと笑う。

 

「フッ、趣向はよく解らんが、あれを潰せば人間達の士気は大きく下がると聞いた。さぁ、ヤドカリヤン。この親父に引っ越して、上手いとこ潜入してくれ」

 

「ヤドリャ~!!」

 

ヤドカリヤンは背中の殻を脱ぐと、ガバッと中年に抱きついた。そして溶けるように中年の体に入っていくヤドカリヤンの体。その瞬間、中年のギラギラした瞳は一転、灰色に濁りきった瞳へと変貌した。

 

「よし、これで寄生完了だな。流石は総統閣下自ら選んだ怪人だ。さぁ、自信持って行ってこい、直属のエリート怪人、ヤドカリヤン!!狙いはただ一つ、GooGooZだっ!!」

 

「ヤドォ~…」

 

ヤドカリヤンに寄生された中年は消え入るような声で、のそのそと裏に向かった。

 

「…ん?あ、貴方は昨日の…なにか、ご用件ですか?」

 

中年に気付いたたった一人の兵士は怪訝な顔つきで彼に近付いた。その瞬間、中年は腕を上げ、彼に飛びついた。

 

「うわっ!!な、なにを…」

 

兵士が手元の警報装置を押す前に、ヤドカリヤンは中年の口から吐き出されるように這いずり出て、兵士の口に飛び移った。

 

「グェアァァァァァァァ!?アッ、アァ…」

 

ヤドカリヤンが兵士の体内に完全に侵入した瞬間、兵士の瞳も灰色に濁りきった。その瞬間、中年はバタリと倒れ、それを無視するかのように、兵士はゆっくりとステージに向かうのであった。そんな事態を知らず、一方で玲香は今か今かと待ち構えているステージを校庭の高台から見つめていた。

 

「…ここにいましたか。もう少ししたら明日に控えたコンサートに関して話があるって、マネージャーさんが言ってましたよ」

 

突然の背後からの呼びかけ。玲香は振り向いた。そこには愛想笑いで高台の階段を昇る途中のトウマの姿があった。

 

「…ありがとう。すぐ行くわ。それにしても、ここの生徒さんの熱気は凄いわね。校門からでも伝わって来たわ」

 

「へ?あ、いや~、それは、皆さんが来て頂いたお陰でして。それまでは…」

 

「あの、別に無理して敬う素振りしなくてもいいわよ。年も近いんだし、ありのままで結構よ」

 

「ん、そうなのです…いや、そうか?じゃあ、そうさせて貰うぜ」

 

先程までの愛想笑いにシャンとした姿勢とは打って変わって、トウマはいつもの様子、友人と接するような態度になった。

 

「それじゃ、さっきの話の続きだけどよ。三人が来るまでの間の皆は結構へこんでいたんだ。いつ来るともしれない怪人の襲撃に、休校で会えない友人。色々な不安な要素が入り混じってな。このステージだって、本来の目的があったってのは知ってるだろ?」

 

「…知っているわ。確か、文化祭で使う予定だったとか」

 

「そう、皆楽しみにしていたんだ。それも合わさって尚更…な。酷かったぜ、自分の周りの知り合いが日に日に落ち込んでいるのは。でも、そんな時に、GooGooZがウチの高校で歌うって知った時は、皆へこんでいたのが嘘の様に回復したよ。ホントにありがとな。生徒代表でお礼を言うぜ…ちょっと偉そうだったかな」

 

「…そんな事ないわ。それだけハッキリと言ってくれると、私達も来た甲斐があった、夢が叶ったと思えるわ」

 

「夢?」

 

「ええ。私達の歌で世界中の人々に希望を与えたいって夢をね」

 

そう言いながら、玲香は前方を指差した。その先には、ステージを越え、街を越えた先、大海原があった。

 

「私達は幼い時からこんな世界だったでしょう?ここだけじゃない、海の向こうの世界でも、苦しむ人、抗う人が大勢いる。そして希望も失っている人も…」

 

「そんな世界で、私がなにが出来るか考えた事があるの。それは歌。歌はいい物よ。誰かの力になるし、海をも越える。そして、希望となる…」

 

「そんな事を考えて、私はGooGooZのユニットに入って、必死で努力して、どんな相手で、世界だろうと負けない、最高のユニットを作ったの。誰かの支えになる為にってね…」

 

「因みに言うと、今度披露する曲は、私達三人が作詞作曲を手がけたの。『希望』をテーマに…」

 

「フフ、私も随分と大層な考えを持っているでしょう?何様だってね?」

 

苦笑する玲香にトウマは黙って首を横に振った。

 

「そんな事はない。君達三人は立派だよ。俺達と同年代なのに、そんなに素晴らしく、深い事を考えていたなんて。昨日はなんとなく聞いて、アップテンポな曲だと思っていたけど、そこまでの意味があったなんて知らなかった。ハハッ、俺ももうちょっと色んな曲聞こうかな…なんて」

 

「フフ、そう?」

 

笑い合う二人。その時であった。高台の下からマネージャーの声がしたのは。

 

「お~い、玲香ッ!!そろそろ最終の打ち合わせに入るぞッ!!早く来な!!」

 

「は~いっ、今行きますっ!!トウマ、行きましょう?」

 

マネージャーの声に答えた玲香はトウマの手を取ると、二人でゆっくりと階段を降りた。

 

「ハハハ…飛田が見てたら殺されそう…」

 

飛田に見つかる事無く、トウマと玲香はテグサーチームとラントム社のメンバー、そして設営スタッフと防衛軍兵士達とGooGooZが校庭で合流した。そんな中で、GooGooZの男性プロデューサーは一人、イライラして、足を小刻みに揺らしていた。

 

「おっかし~な。ここのスタッフのチーフはなんで来ないんだ?」

 

打ち合わせの際に必要な人物、設営スタッフの一人が来ていない為、時計を見ながら、キョロキョロと周囲を見渡していた。焦燥感に駆られる彼の気持ちは周囲にも伝わり、トウマと飛田は顔を見合わせて首を傾げていた。すると、スタッフの一人がやって来た。スタッフの帽子を深く被りながら。

 

「遅いよ~。なにしてたんだ?皆待ってるんだから。ホラ、打ち合わせ始める前になんか言う事あるだろ?ん?」

 

プロデューサーはスタッフに近付くと彼に謝罪を求めた。しかし、彼は謝るどころか、なにか言う素振りも見せなかった。

 

「ちょっと、聞いてるの?第一、謝罪を前に帽子も取らないなんて、社会人として…」

 

プロデューサーはスタッフの帽子を剝ぎ取るように外した。そして絶句した。彼の瞳は明らかに常人ではない、灰色に濁っていたのを見たからだ。

 

「な、なんだよ、それ…おしゃれのつもりか…?」

 

「危ないっ!!」

 

突如、涼はプロデューサーに飛び掛かり、地面に伏せさせた。その瞬間、スタッフの口からヤドカリヤンが飛び出し、プロデューサーが元いた場所に着地した。

 

「こいつは…!!」

 

「ひ、ひぇぇぇ…」

 

予想外の物が飛び出した事に、驚愕する涼と、戦慄するプロデューサー。その間、ヤドカリヤンは唾液や胃液でヌメヌメの体を揺らしながら獲物を探していた。狙うはただ一つ。皆の希望GooGooZ。

 

「やべぇっ!!皆、GooGooZとスタッフ連れてさっさと逃げろ!!コイツ、彼女達を狙っているんだっ!!」

 

ヤドカリヤンの視線の先に気付いたトウマはいち早く退避を促し、それに応答するように、兵士達はGooGooZとスタッフを安全な場所まで避難させた。それを見届けたトウマ達。そして、ヤドカリヤンに向かって、一歩前へ出る。各々テグサロイドを握りしめながら。

 

「よし、行くぜ皆!!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

「「「「チェンジ、テグサー…」」」」

 

「おおっと、ここは私達に任せなさいっ!!」

 

「お、おおっと!?」

 

変身を前に構えるテグサーチームを前に、イリアは前に躍り出る。期待していた獲物が来たかのように、ウキウキした表情を見せながら。

 

「さぁ、ラントムチーム!!何してるの!?早く来なさいっ!!」

 

イリアに命令された部下も仕方がなしと飛び出す。

 

「た、隊長?折角なんだから、あのテグサーマン達と協力した方が…」

 

揃ったラントムチームの一人、ヒロシが提案する。しかし、イリアは聞く耳を持たず、ヤドカリヤンに向けて、意気揚々と人差し指をビシッと突き刺した。

 

「出たわね、ジン・ガイアの怪人!!私達、ラントム社が相手するわっ!!」

 

「さぁ行くわよ、皆!!変身よっ!!」

 

「「「お、おうっ!!」」」

 

イリアは張り切って腕時計型の変身アイテム『ラントムウォッチ』を胸の前で構えた。部下もまた、同じように構える。

 

「チェンジ、マイヒーロー!!」

 

『ボイス・ログ、コンプリート!!チェンジ、ヘア、ユー、ゴーッ!!』

 

イリア達の声に応答するように、変身アイテム『ラントム・ウォッチ』はテンションの高い男性の声で返す。そして、光に包まれた四人はたちまち戦士へと変身した。

 

「メデューザ!!」

 

イリアの変身したメデューザはテグサーマン達と同様、全身を軽量のアーマー、それも白を基調とした、V字のバイザーに大きなツインアイで身を包み、後頭部に、蛇のような黒い鞭を装備していた。

 

「ロックオン・スナイプ!!」

 

モーラの変身した戦士はメデューザと同型のボディをしており、特徴としては、鞭の代わりに右目に大きな銃のスコープが装着されていた。そして彼女の手には狙撃銃が。

 

「キャノン・ダイザー!!」

 

ジョージの変身した戦士は先の二人とは打って変わってかなりの重装備。右腕には装着型の二門のガトリング、左腕には同じく装着型のキャノン砲。そしてそれに見合ったがっしりとした体形と視線の細いバイザー。その姿は鈍重かつ、頑強と呼ぶに相応しかった。

 

「ダイ・ソード!!」

 

最後の戦士、ヒロシが変身する戦士は全身が黒。顔には透明な青のマスクに、黄色いツインアイが装備されていた。更に特徴を言えば、彼の背中には足元にまで届く大掛かりな剣が装備されている。

 

「さぁ、行くわよ~!!ラントム~、ファイト、ゴー!!」

 

イリアの掛け声と共に、ラントムチームはキャノン・ダイザーとロックオン・スナイプを除いて一斉に飛び掛かった。

 

「はぁっ!!」

 

後方支援としてキャノン・ダイザーはガトリングを連射した。激しく回る銃身。弾け飛ぶ薬莢。ヤドカリヤンは素早く射線から横ステップで退いた。しかし、避ける場所を予め知っていたかのように、ダイ・ソードは大剣を怪人に振り下ろす。

 

「ギギッ!!」

 

ヤドカリヤンは両手の鋏で大剣を白刃取りで抑えた。拮抗する両者の力であったが、一瞬の隙をついてヤドカリヤンは剣を思い切り持ち上げた。その衝撃で後ろにのけ反るダイ・ソード。ヤドカリヤンは反撃に出ようとしたが、突如体のあらゆる箇所にまとわりついた黒い鞭によってそれは阻まれた。

 

「グッ、グゥゥゥ…?」

 

鞭の出所はメデューザの頭部からであった。ヤドカリヤンは持ち前の怪力で引き千切ろうとしたが、メデューザの踏ん張りもあって手足を思うように動かせず、一つも拘束を外せなかった。

 

「おーほっほっほ!!如何かしら、我が社の開発した最強の強度を誇る、スケールヘヤーの締め付けはっ!!さぁ、モーラ!!やっておしまい!!」

 

「OK!!」

 

メデューザに指示されたロックオン・スナイプは厳つい狙撃銃を座って構え、スコープを覗いた。狙うはヤドカリヤンの頭部。

 

「狙い…撃つわよぉっ!!」

 

狙撃銃から放たれた一撃は、ヤドカリヤンの飛び出ている両目の間、眉間に命中、銃弾は後頭部を貫通した。その衝撃で飛び散る紫の体液。開く傷口。ヤドカリヤンは痛みのあまり、その場で激しく悶絶した。その姿を見たメドューザは鞭を解き、勝ち誇ったように腕を組んだ。

 

「フフン、どうやらもう勝利は目の前のようね…ヒロシ、トドメをっ!!」

 

「了解…」

 

ダイ・ソードは剣に力を籠め、刀身を青白く光らせた。光と構えから、トドメとして最後の一撃をヤドカリヤンに喰らわせる様子なのは明白。彼が走り始めたのを見た飛田は思わず叫んだ。

 

「待って下さいっ!!」

 

ライバル企業の待ったに、ダイ・ソードは思わず手を止めた。

 

「いくらこっそり来たからとはいえ、たった一体で来るなんて、妙だと思いませんか!?きっとなにか、他に技を持っているのかも…」

 

「…確かに君の言う通りだ。しかし、そうだとして、どうすればその秘密が分かるんだ?」

 

「待って下さい。今、調査しますから…」

 

「ヒロシッ!!彼の言う事なんか聞く必要なんかないわっ!!」

 

飛田とダイ・ソードの会話に、阻もうと言わんばかりにメドューザが割り込む。

 

「その子は難癖つけて私達を下がらせて、自分の企業の物にトドメを刺させようとしているのよっ!!最後に利益、栄光を手にする為にねっ!!」

 

「なっ!?なにを…!?」

 

寧ろ逆に難癖をつけられた飛田は困惑した。それは、後ろで変身済みのテグサーマン達も同様であった。

 

「兎に角、化け物の対処は超高温の攻撃を与えれば万事解決よっ!!そう、この…我が社最高の武器、ソニックランチャーでねっ!!」

 

メドューザが重々しく持ち上げた武器、ソニックランチャーは黒く、複雑な部品が着いた大型の銃であった。メドューザはそれに腕を回して構えると、トリガーを引き、銃口に球状の青白いエネルギーの塊を作り出した。チャージ中のエネルギーは高い熱量を持ち、周囲の風景を熱風で歪ませた。

 

「ソニックランチャー、シューット!!」

 

チャージが終わり、完了の通知音を聞いたメドューザはトリガーを離した。

 

「ま、待って…!!せめて、奴の体内構造を…!!」

 

飛田の引き留める声も空しく、エネルギーはヤドカリヤンに向かって発射された。

 

「ガッ!!グギャッ!!」

 

エネルギーを腹部に受け止めたヤドカリヤンは受け流そうと必死に抵抗した。だが、凄まじい熱量はそう簡単に抑えきれず、ヤドカリヤンはエネルギーと共に、激しく爆発した。

 

「…フッ、呆気ないわね。これだから、頭でっかちの人は…」

 

パラパラと散るヤドカリヤンの残骸を前に、メドューザは鞭をかきあげながら勝利の宣言と飛田への悪態を呟いた。

 

(す、すごい…あの銃の威力は撃竜波と同じだ…い、いや、それよりも、本当にこれで終わりなんだろうか。なにか、別の作戦があるのでは…)

 

飛田はメドューザの悪態に反応する事なく、周囲とパソコンを交互に見た。

 

(…へ、変だ。確かにヤドカリヤンは倒した筈。でも、なんでだ!?奴の熱源反応が消えない!!)

 

何度か見渡した飛田はある事に気付く。ヤドカリヤンが爆発した地点、そこには無数の紫の卵が地面にへばりついている事を。

 

(な、なんだアレは…!?い、いや、まさか…)

 

「皆さん、今すぐそこの卵みたいなのを潰して下さいっ!!じゃないと、もしかしたら…」

 

飛田が言い切る前に、卵には次々とひびが入り、小さなヤドカリヤンが産声を上げた。

 

「うおっ、なんだありゃ!?」

 

テグサー1が驚くと、声に反応するように小さなヤドカリヤンである、リドカリヤン達は彼に向かって一斉に飛び掛かった。

 

「う、うわぁっ!!」

 

自身の体に密着され、次々と鋏で装甲を突き刺すリドカリヤンにテグサー1は全力で振り払った。しかし、多勢に無勢。どれだけ払っても、落ちる数は少なかった。

 

「と、トウマ!!キャアッ!!」

 

駆け寄ろうとしたテグサー2の脚にも、リドカリヤンの魔の手が迫る。そしてあっという間に、他の戦士達にもリドカリヤン達に囲まれ、押されている状況となってしまった。

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

ダイ・ソードは大剣を振り回して、リドカリヤンを薙ぎ払おうとした。しかし、相手は予想以上にすばしっこく、深手にはならない。その横でキャノン・ダイザーも左腕のキャノン砲を放つ。これはかなりの相手を駆除する事が出来たが、その代償として、地面に大きな穴やヒビが入り、学校内は一瞬にして瓦礫が散乱する事となった。そうこうしているうちに、一部のリドカリヤンは戦士達を余所に、コンサート会場へと向かっていった。

 

「ま、マズいぞ…!!」

 

比較的密集されていないテグサー3と4は必死でリドカリヤンを追う。しかし、会場に来た時には時すでに遅く、戦士達と同様、多くのリドカリヤンがそこで破壊活動を行っていた。

 

「や…やめろぉっ!!」

 

テグサー4は感情に身を任せてリドカリヤンを踏みつける。衝撃で怪人の体は激しく弾ける。その間にも他のリドカリヤンはステージの支柱を切り刻む。

 

「くっ…やらせるかぁっ!!」

 

同じくしてテグサー3は刀でリドカリヤンを連続して叩き斬る。しかし彼女の背後では残りのヤドカリヤンは看板に喰らいつく。気が付けば、会場はみるみるうちに無残な残骸へと変わり果ててしまっていた。

 

「くそぉ…あんた達…いつまで、いつまでこんな事ばっかり続けるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

いつ終わるとも知れないリドカリヤンとの激闘に、嫌気がさしたテグサー4は絶叫した。しかし、弱音を吐いてもも現状は変わらない。両者の戦いは、全てのリドカリヤンを駆除し、会場が半壊するまで続いた。この時、彼らは知らなかった。

 

「きゃああああああっ!!」

 

GooGooZの身にも、リドカリヤンの魔の手が迫っていたのを。

 

「はぁ…はぁ…やっと終わったぜ」

 

戦いが終わり、身も心もボロボロとなったトウマ、それとチームメンバー達は校舎内に入った。

 

「GooGooZの皆、大丈夫かなぁ?無事だといいんだけど…」

 

穂乃花の言う通り、この中にはGooGooZがいる。彼女達の安全をいち早く知りたかった為、彼らは足早に教室に向かっていった。

 

「防衛軍の人達がいるから大丈夫だよ…それにしても、アイツら最低だよっ!!戦火を無駄に広げてさっ!!しかも、偵察だなんだでどっか行ったし!!」

 

「まぁ、過ぎた事は仕方がないだろ…それより、さっさと会いに行くぞ…」

 

トウマは先陣を切って階段を昇る。そして、たどり着いた教室。一瞬のため息ついて、トウマは扉を開いた。

 

「し、失礼しますっ!!GooGooZの皆は大丈夫、か…」

 

教室に入ったトウマ達は思わず絶句した。目の前に広がる光景には、散らばる薬莢に割れている窓ガラス、そして、おびただしい量の血痕跡という、見るも無残な様相があったからだ。

 

「き、君達は何をやっていたんだ!!」

 

トウマ達に気付いたプロデューサーは怒りの形相で彼らに迫る。

 

「見ろっ!!君達がボーっとしていたせいでなぁ…あの化け物が入ってなぁ…玲香がなぁ…!!」

 

プロデューサーが指差した先。そこではうずくまる玲香を中心にGooGooZの二人が抱き合って涙し、衛生兵が玲香の手当をしていた。

 

「う、うぅ…」

 

呻く玲香の脚に、血がとめどなく流れる。プロデューサーの怒声から察するに、玲香は怪人の襲撃で怪我したのは誰の目からでも明らかであった。

 

「…このままでは、明日のコンサートは中止せざるを得ない。いくら上が相手だろうと、この件は君達の企業に追及させて貰うからな!!」

 

プロデューサーによる直々の中止宣言。トウマ達は大きなショックを隠せずにいたが、その中で衝撃が最も大きかったのは飛田。プロデューサーが言い切るや否や、すぐさま膝をついて、頭を抱え始めた。

 

「そ、そんな…僕のせいだ。僕があの時、意地でも止めていれば、こんな事には…う、うわぁ…うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

事実に堪えきれない飛田は悲しみの果てに泣き叫んだ。しかし、それでも宣言が覆る事はない。人々に希望を与える存在が動けなければ、話にならないのだから…

 




どうも皆さん!!
物語はいよいよ後半戦となりました!!
今回は第十三話のハイライト、

【挿絵表示】

初登場、ラントムチームのご紹介、

【挿絵表示】


【挿絵表示】

ここまでの怪人のご紹介で失礼します!!

【挿絵表示】

※第九話~第十三話までの登場怪人。
・(右上段)グシャンモス:身長2.2m、体重580㎏
マンモス型の怪人級で、逃げたドルカを追って来た。ハンマーを回して撃竜波を防ぐ実力の持ち主。
・(右下段)プレゼンター:1.8m、体重95㎏
ガイコツ型の怪人級で。グシャンモス同様ドルカを追って来た。口から吐くガスで相手の身体を固める。
・(中上段)ジャマーシュ:身長6.5m、体重500㎏
マシュマロ型の役獣で、どんな攻撃もその柔らかさで吸収する。
・(中下段)バドリード:身長1.9m、体重220㎏
魚型の幹部級で、渦を操る能力を持つ。
・(左上段)レニー:身長1.6m、体重75kg
スズメバチ型の怪人級だが、教育担当の為戦闘力は低い。
・(左下段)芋虫型怪人:身長1.8m、体重100㎏
ミサイル基地を破壊しようとした怪人の一体。

ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!!
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