・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。テグサー2に変身する。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。テグサー3に変身する。
・大城茜…天才的なバイクセンスを持った女子高生。テグサー4に変身する。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
・イーヴィル・ディーン…ジン・ガイア帝国のエリート兵士。
・イリア・ラントム…高飛車な若き女性社長。メデューザに変身する。
・モーラ・フォーゲル…ラントムチームの姉的存在。ロックオン・スナイプに変身する。
・ジョージ・スミス…陽気でチームのメーカー的存在。キャノン・ダイザーに変身する。
・浦島ヒロシ…物静かな男。ダイ・ソードに変身する。
・甲斐田光雄…トウマ達のクラスメイト。
16-1
GooGooZが人々に希望をもたらして二週間後、会場となっていた陽観高校は落ち着きを取り戻し、現在では遅れを取り戻さんと粛々と授業を進めていた。
「え~、であるからして、この公式は…」
「それでは、リピート、アフター、ミー?」
各クラス、各教室では、生徒達が集中し、教師の話に耳を傾け、真剣にノートを取っている。故に、聞こえるのは英語の発音や、体育の授業に沸き立つ声など学校に関連した音しか聞こえない。
二年生の教室で、テグサロイドが着信音を鳴らすまでは。
「チッ、こんな時に…!!はい、もしもし?」
授業中ではあるが、自分の席に座っていたトウマは懐から鳴り続けるテグサロイドを取り出し、通話を始める。クラスメイトの穂乃花、茜、飛田も後に続いた。通話の相手は防衛軍オペレーターであった。
『授業の最中、申し訳ありません。市内の七番地区に、マツナガが率いる怪人級、戦闘員級が出現しました。至急、応援をお願いします』
「了解しました。ただちに向かいます。先生、すいませんが俺達四人行ってきます」
「あ、は、はい…き、気をつけて…」
若い女性教諭は生徒の突然の退出に戸惑いながらも了承。トウマはテグサーチームに目配せし、共に教室を飛び出した。
「ゴメン、後でノート見せてねっ!!」
「うん、任せてっ!!」
だが、穂乃花は近くの女子クラスメイトに頼み込み、飛び出したのは一番最後になった。すると、彼らを見送ったクラスメイト達は口々に会話を始めた。
「あ~、びっくりした…俺の携帯鳴ったかと思った…にしても大変だな、学校にいても軍から呼び出しくんだもんな…」
「まぁ穂乃花達、国から直接依頼を受けているんだし、しょうがないじゃん?でも凄いよね、国に選ばれて戦うなんて…え、よく考えたら私達そんな人と友達とかヤバくない?」
「あ、それなっ!!これ一生物の自慢になるよね!!」
盛り上がるのはトウマ達に関する活動だ。誰もが授業に集中出来なくなりつつあった。
「はいはい皆さん、静かにしてください…授業を続けますよ…」
そこで、教諭に注意されたクラスメイトは再び静寂さを取り戻した。その一方、校門を出たトウマ達は一斉に叫んだ。
「「「チェンジ、テグサーマンッ!!」」」
装甲と光に包まれ、テグサーマンへと変身した若者達。それと同時に、校門前に一台の真っ赤なオフロード車が止まった。運転しているのはテグサー3であった。
「おい、乗れ!!」
テグサー3に促されたテグサー1はオープンカーである後部座席に立ち乗り、飛田は助手席へと座った。
「よし、行くぞっ!!」
その後ろでテグサー4がテグサー2と二人乗りでフォーチェイサーに乗る。その姿をバックミラーで目視したテグサー3はアクセルを踏み込んだ。二つのエンジン音が、吐き出された排気ガスと共に住宅地に広がる。目的は一つ。街の危機にいち早く駆けつける為に。
「あっ、テグサーマンだっ」
市街地を駆け抜け、サイレンを鳴らすオフロード車『テグロード』。搭乗してるのがテグサーマンである事に気付いた男の子が指を指して喜んだ。
「あっ、本当だ。お~い、テグサーマン!!頑張って~!!」
男の子の指摘に、手を繋いでいた母親はテグサーマンを応援。
「がんばれ~」
男の子も後に続いた。
「頑張れよ、テグサーマ~ン!!」
「やっつけろよ~!!」
そして、周りの市民達も老若男女問わず、同じ様に後に続く。その声援は、当の本人に届いていた。
「な、なんか凄い事になっちゃったね…こんな大勢に応援されるなんて初めてだよ、涼さん」
「そうだな、それだけGooGooZの歌は多くの人を勇気づけたという訳だからな…」
テグサー2の驚きに、テグサー3はそうなった切っ掛けを冷静に返した。
「さて、この応援が途切れない様に頑張らなくてはな…そろそろ現場だ、全員気を引き締めろ!!」
「「「はいっ!!」」」
「おうっ!!」
テグサー3の活に全員気合いが入る。そして彼らは向かう。か弱き力を守る為にー
「撃竜拳ー!!」
「ギャアーッ!!」
「お、覚えていろーっ!!」
ご自慢の役獣を倒され、マツナガは捨て台詞を吐きながらコブンロと共に慌てて逃げ出した。周囲の安全を確認した市民達は次々とテグサーマン達に近寄った。
「ありがとー!!テグサーマーン!!」
「助かりました!!感謝致しますっ!!」
「ねぇサイン!!サイン頂戴!!」
「あ、お茶飲みます!?ちょっと僕の飲みかけですが…」
突然述べられた謝辞に一番戸惑ったのはテグサー2。
「あ、あのちょっと…」
すると、彼女の肩にテグサー1が軽く触れた。
「おい、行くぞ。あとは後続の軍に任せよう」
「あ、う、うん…」
こうしてテグサーチームはその場を後にし、変身を解除した彼らはその後、学校に戻った。が、とっくに授業は終わってしまっていた。
「しゃ~ね~な…」
愚痴るトウマは自前のバイクで飛田と二人乗り、残りは涼の運転するテグロードに乗車。二十分程運転して森の前に立つ門で一時停車をしていた。
「トウマ、本当に一時間でいいのか?この後はミーティングしかないんだ。もう少しゆっくりいてもいいんだぞ?」
涼の気遣いに、トウマは手を振って断る。
「いいんだ、俺と飛田で決めた事だからな。それにダラダラと長くいたら、どやされるかもしれないしな…父さんに」
「そうか…それじゃあ一時間後、事務所で落ち合おう…しっかりと近況を報告しておくんだぞ、ミーティングのケーキはいつものショートケーキでいいのか?」
「ああ、頼むぜ。それじゃあ後でな」
テグロードが発車したのを見届けたトウマはバイクのアクセルペダルを踏み、木々に覆われた門をくぐり抜けた。そこには、『未来島共同墓地』と無機質な文字が書かれていた。
「お父さん、お久しぶりです。そしてごめんなさい、最近は忙しくて中々会いに行けなくて…」
深い森に囲まれた幾田もの白い十字の墓場。その中でしゃがんで手を合わせる飛田。彼の前にある墓石には『飛田家』の名が刻まれていた。
「とりあえず、お母さんと僕は今のところ大丈夫です。でも、お父さんのPCから発掘したデータ…テグサーマンのデータとテグサロイドを見つけてからは生活が大きく変わってしまいました」
「家に残したデータは僕の手と旋風重工の技術力でテグサー1を復元、それを元に量産し、結果、大勢の人を守る事が出来ました。物、命、そして希望までも…」
「思えば、トウマさんがあの時来てくれなかったら、もしかしたら大きく変わっていたかもしれませんね…あっ、トウマさんってのは、富田博士の息子さんで、偶然にも僕のクラスメイトの人なんです。もしかしたら島でお会いしているかもしれませんね」
「あの人は凄いですよ、敵の本国に誘拐されても、帰って来た上にディーンっていうジン・ガイア帝国の幹部連れて来るんですから…ちなみにその子は現在亡命という形でモーラさんの手引きでGRNに保護、事情を聞かれてますけど」
「あっ、そうだ、トウマさんが島で見つけたって言うUSB、今重工の方で解析中です。一体、なにが書いてあったんですか?有益な情報だといいんですが…」
「で、話を元に戻すんですが…そのトウマって人…クックック、いざって時は頼れるんですが、そのそれ以外がダメな人なんですよ、面白いっていうか」
「この前会社の健康診断があったんですが、トウマさん、バリウム飲むと即効でゲップしてしまうんですよ。で、僕は『出しちゃダメですよっ!!』って念押ししたんです。そしたら三度目に飲んで、『よし、大じょゲェーッ』って言ったその瞬間に出したんですよ。も~思わず『なんですぐ出る人が喋るんですか!?』ってツッコんで、流石に看護婦さん笑いこらえてましたよ。あと、それから…」
「…おい、なに人の恥ずかしい話を暴露してるんだ」
笑い話で盛り上がる飛田に、横からトウマが口を挟んだ。
「あっ、バリ…じゃなかった、トウマさん、そちらの墓参りは終わりましたか?」
「今バリウムって言おうとしなかった?こっちはもう終わった。バケツ片付けて事務所戻ろうぜ。みんな待ってるしな」
「はい…よっこらしょ」
お互い杓とバケツを持って駐車場に向かう二人。であったが、その道中、同じく故人を偲ぶある人物を見かけた。思わずトウマは足を止め、彼の名を呟いた。
「甲斐田…!!」と。
甲斐田は一瞬、声の主の方を向いたが、それが『クラスメイト』の声である事を知ると、すぐさまそっぽを向いた。しかしそれでも、飛田の方は構わず彼に駆け寄った。
「甲斐田くん。君、もしくはご家族の方はあの島にいたんですね…」
「…僕は両親と共に島に住んでいた。両親はそこで死んだ。といっても、君の家族と違ってウチは下請けの生産部門だけどね」
飛田の問い掛けに、甲斐田は嫌悪感を露にして答える。
「そうだったんですか…それはなんともお悔やみ申し上げま…」
「別にそんな形式的な挨拶なんていらないよ。どうせ僕みたいな人間を内心見下しているって事、わかってるんだから。そうでしょ、希望のヒーローさん?」
「え!?い、いやそんな事思ってないですよ…」
「君はいいな、羨ましい。てっきり、僕と同じ孤独の立場かと思いきや、父親の研究のお陰でこうも皆から尊敬される存在になって…僕なんか、残されたのはこの前亡くなった祖母の家と、高校卒業までの僅かな財産だけだもんな…」
「あ、あの、その…」
「おい甲斐田、そんな辛辣な言い方しなくても…!?」
トウマは割って話しかけようとした。だがその時、思わず甲斐田の頬を凝視した。なぜならば、彼の頬が拳大に腫れている事に気付いたからだ。
「どうしたんだ、その腫れ!?この前の樋田のじゃないな。お前まさか、クラスの連中に、か?」
甲斐田はトウマに目を合わせる事なく、小さく頷いた。
「アイツら…!!いくら打ち上げで意見したからってやりすぎだ!!おい甲斐田、誰にやられたんだ?ソイツらに俺、言っておくから…」
「…どうせ言ったって無駄だよ。だって、彼らはずっと前から僕を馬鹿にしていたんだもん。今更直らないよ」
「なっ!?そ、そうなのか…?」
「そうさ、なにしろ入学して三ヶ月、突然からかわれて、陰で笑われて…それにしても、そんなあくどい奴がこの前のコンサートで絆、友情、希望とか言ってるんだから面白いよね。人の尊厳踏みにじってるのにさ…」
「「…」」
甲斐田の話に二人は絶句。彼らの脳裏に、会場設営時のクラスメイト達の溢れんばかりの笑顔と、それを包む闇が覆い被さる。友人の中にそんな卑劣な者がいるのか。どうしてここまでの事をするのだろうか…と。そんな二人の陰る思いを察してか、甲斐田は大きめの眼鏡のズレをクイと直し、痣のある頬をさすってから再度口を開いた。
「…アイツらはあの時、希望だ、絆で繋がろうだなんて言ってるけど、それは自分にとって都合のいい、同じか上の立場の人間の事しか言ってないんだろう?僕みたいな孤独でなんの能力もない人間は仲間外れにしてさ。あんなの、只の内輪の馴れ合いだよ」
「クラスメイトの連中はいいよね。そんな希望や絆を胸にして、そんで大学かなんか行って、そこでも絆を育んで社会でその経験を活かして頑張って、高い評価を得るんだろう?いいよね、僕は養ってくれる人いないからもう進学の道すらない、学歴も能も社交性もない社会の不適合者としてのけ者にされて終わるんだ…まぁ、守りたい者も守ってくれる人もない僕にはお似合いだけどね…」
「おい甲斐田、そんな事は…」
甲斐田の卑屈な自虐に思わず話を遮るトウマ。しかし、甲斐田はブツブツと話を続ける。
「結局さ、この世界は声とか、力がデカい者が絶対的な正義なんだよね。ソイツらの一声で全てが決まる。少数派は淘汰されるだけだ…その分、少数で立ち向かうジン・ガイア帝国はすごいなぁ…」
「あぁ、悲しいなぁ…僕はどこへ行ってもつまはじき者。両親は仕事に没頭して殺され、引き取り先の祖母は僕を疫病神と罵り、両親の財産で賭け事ばかり…そして学校でも…」
「所詮僕はどこへ行ってもつまはじき者なんだ…でも、なんでああいう、授業もまともに受けない、ただ過ごして飼われているだけの存在にスポットが当たるんだろう…」
「…修博士がいてくれれば、こんな事には…」
「えっ、修博士!?甲斐田くん、修博士を知ってるんですか!?」
甲斐田が呟いたキーワードに飛田は食いついた。
「な、なに急に…!?」
突然の飛びつきに陰鬱とし、淀んでいた甲斐田も思わず飛び跳ねた。
「実は僕達、訳あって修博士の事を調べているんです。でも、調べても僅かな来歴しか出なくて…お願いです、どんな事でもいい、なにか博士の事を知っていませんか!?」
懇願しつつ頭を下げる飛田。彼を前に甲斐田は心に戸惑いと嫌悪感を混在させつつ、背後のトウマの視線に冷ややかな感触を勝手に感じ取り、仕方なく話し始めた。
「…さっきも言ったけど、僕は今だけじゃなく、あの島でも国内外問わず周りの同い年の奴にぞんざいに扱われていた。仲間外れにされたり、物を隠されたり、ごっこ遊びで怪人扱いされたり…そんなある時、僕は島をふらついた先に、修博士の研究室にたどり着いた」
「博士は、室田修博士は唯一いい人だった…ひとりぼっちの僕の話を聞いて、私も孤独に追いやられている人間だって言って共感してくれて…そんな博士はたった一つ、自分の研究はなにかを教えてくれた。大企業は勿論、世界中の人々をあっと驚かせる研究をしているって…」
「僕らは歳は親子程離れていても意気投合していた。でもそんなある日、博士は急変してしまった…」
甲斐田の話に、二人は固唾をのんで聞き続けていた。
「いつもみたいに研究室を覗いた時、スーツを来た男、数人が博士の部屋から出て行くのを見た。僕は聞いたんだ。今の人は誰かって。そしたら博士は目を爛々と輝かせてこう言った。『これから先、私を馬鹿にした連中を見返す時が来た。これから先、誰もが私を尊敬し、従ってくれるだろう。なにしろ、今来たのは旋風重工からの依頼、それもそこの令嬢、レミーって赤ちゃんの病気を治す大役だからねぇ』って」
旋風重工。
レミー。
見知らぬ博士の口から飛び出した既知の名前に飛田は驚きの表情を隠せる筈がなかった。
「一体、なにを使って治すって言ってたんですか!?」
「どう治すかまでは聞いていない。でも、その時、博士の背後で一部が不気に光っている隕石の破片だけは今でも印象に残っているよ。それを使ってたんじゃない?」
「隕石…だと!?」
甲斐田から聞かされた『隕石』という単語に、トウマはそれまでしていたしかめ面を崩さずにはいられなかった。彼の脳裏に、テグサー1に見せられた幻影が蘇る。
「とにかく、僕から言える事はこれだけ。あ、そうだ、一つ言っておく事があるよ。君達は絆や人々の想いを信じているようだけど、所詮そんなのはクラスの明るい奴らの自己満足の言葉にしか過ぎない。人間は平等だの平和だの言ってるけど、所詮僕達もまた、動物、それとジン・ガイア人と同じく自然とヒエラルキーを作っているんだよ…」
「例えるなら、君達の旋風重工やクラスの繋がる連中はまさに頂点、って感じかな。あぁ言うのはハッキリ言って嫌いだよ。自分達を正義のヒーローだと思っているからね…それじゃあ」
そう言いながら甲斐田は背を丸くしてその場を後にする。ブツブツ…と聞こえる彼の言葉を耳にしつつ二人は残されたにだ。父が残したデータに書かれていた名前、室戸修と旋風重工、そして親友であるレミーの両者の関係性を知ったからには驚愕し、陽が背に当たる中で、疑問と風に吹き、彼らは思わずその場で立ち尽くす他なかったのであった。
「一体、重工は…社長に、隕石になにをしたってんだ!?」
トウマがそう呟いてちょうど一時間、飛田をバイクの後ろに乗せて、予定より遥かに遅れて事務所に到着した。
「遅くなっちまった…みんな待ってるだろうな…」
「あぁ、トウマさん、鍵、鍵!!」
「つっ、そうだった…!!」
遅刻した事に焦燥感を覚え、慌ててバイクに刺しっぱなしだった鍵を拾って、皆が揃うリビングの扉を、トウマは強めに開けた。
「悪い、遅くなっ…」
「遅いっ!!今ままでなにしてたのっ!!」
トウマの開口一番の謝罪を掻き消す、中年男性の高めの怒鳴り声。聞き慣れないその声にトウマと後ろの飛田は驚いて一瞬のけぞった。冷静になってよく見ると、体格の細いスーツ姿の男性が腕を組んで仁王立ちで睨んでいる以上、声の主である事は女子しかいない周囲を見れば明らかであった。
「い、いやぁ、両親の墓参りをしていて…っていうか、誰ですか…」
「そんな事は知っているわっ!!でも、一時間で帰るって行ったんでしょう!?十五分もオーバーしているじゃない!!他になにか、寄り道していたんじゃないの!?」
トウマが誰かを聞く前に、中年男性は矢継ぎ早に言葉を繰り出す。すると、見かねた涼が二人の間に割って入り、男性を宥め始めた。
「申し訳ありません、橋爪専務。私が一時間以上いてもいいと彼らに言ったんです。曖昧な言葉を指示した私の責任です」
「なぁにやってるの、涼!?この部署のリーダーでしょうが!?テキトーな指示出してんじゃあないわよっ!!それじゃあいざって時に困るでしょう、ちゃんと明確な指示、連絡をしないと…」
「はい、申し訳ありません…」
男性の怒りの矛先が涼に向かっているその隙に、トウマと飛田は這ってレミーの元へ。彼女の元へ着いたトウマは男性に気付かれぬよう、そっとしゃがむ彼女に耳打ちした。
「お、おい社長、なんだあの独特な喋りをしたオッサンは?誰なんだ?」
「あぁ、あの人は専務の橋爪徹(はしづめとおる)さん。パパが重工のナンバー1だとしたら、あの人はナンバー2って所かしら…凄腕の経営力って聞いた事があるわ」
「そうなのか。で、なんでそんな凄い人がここに?暇なん?」
「なんでも、この前の一件で私達が注目されたから抜き打ちで視察に来たんだって。で、来た時、タイミングが悪く私達がだらけている所、しかも私が穂乃花にマッサージしている瞬間だったもんだから、怒りが爆発しちゃって…」
そう言いながらレミーが指差した先には、しゅんとしてソファーに座る穂乃花の姿が。トウマにはいつも元気な彼女が相当絞られたのが見て取れた。
「あの人元々は教育担当出身みたいだから、だらしない社員がいたらかなり熱が入っちゃうみたいね。もしかしたら今後、この事務所でしばらく私達をシゴくのかも…」
「げっ!?こんな口うるさいオッサンが入り浸るのかよっ!?」
トウマが思わず漏らした声を、橋爪の地獄耳は聞き漏らさなかった。耳がピクリと反応したと同時に、ギュルンとトウマの方を向き、逃げた挙げ句、四つん這いになったトウマと飛田を見て、凄まじく激怒した。
「クォラァァァァッ!!二人揃ってなにをコッソリやっとるのかぁっ!!」
「「ひええええ!!す、すみませんっ!!」」
橋爪の凄まじい剣幕に、トウマと飛田は恐怖で抱き合って謝罪。その姿を見た橋爪は鼻をフン、と鳴らし、苛立ちながら腕を組んだ。
「全く、こんな情けないのが今や我が社のみならず、日本、いや、世界中に勇気を与えたなんて信じられないわねっ!!ハッキリと言っておくわ、君達は我が社のプロジェクトを背負っている自覚がないっ!!会議前だと言うのにだらけきり、その上でダラダラとお喋り感覚でやるつもりだったのでしょうっ!?なによ、このお菓子の山はっ!!」
橋爪は会議で集まるテーブルの上をビシッと指差す。そこにあったのは茶筒に人数分の湯のみ。そして買ったばかりのケーキに煎餅と誰がどう見てもティータイムの準備にしか見えないのであった。
「飲み物はいいとして、他はありすぎよっ!!これじゃあ本来主役である資料達が主役じゃあないじゃないっ!!あなた達、こんなんで会議がまともに出来ると思ってるの!?上の人達はもっと真剣にやってるっていうのに!!」
お菓子を指摘され、テーブルの近くにいた茜は思わずケーキの箱を片付ける素振りを見せた。のだが、それより先に橋爪がそれらに手を掛けた。
「とにかく、お菓子は会議が終わるまで没収!!今回の会議は今だヒヨッコの君達を育てる為、研修を兼ねた物とするっ!!」
「ふっふっふ、覚悟しろよ…この研修会議で学生気分を一気に引っこ抜き、全員我が社の顔として恥ずかしくないよう、一からたたき直してやる…」
ニヤリと笑い、テグサーチーム改革宣言をする橋爪。
「う、うぅ…」
流石のチームメイトも、彼の威圧感にはたじたじであった。
16-2
トウマがたじたじで困っている一方、未来島の総統室でも同じくたじたじになっている者達がいた。それはジン総統を前にした人間態のバドリード、マツナガとコブンロであった。
「そうか、今回もまたテグサーマンにしてやられたか…」
マツナガから今日の戦いの報告を聞いたジン総統は自席に座って目を伏せ、呆れたようにため息をつく。その姿はマツナガにとって、相手が口に出さずとも、内心激昂しているのは長年の経験から理解していた。
(うぅ…また、閣下をガッカリさせてしまった)
その点から自身が惨めな存在だと萎縮するマツナガ。彼がそう感じている間、ジン総統はミルメから受け取ったカップのコーヒーを一口飲む。再度口を開いたのはそこからであった。
「どうやらテグサーマンは我々の想像を遥かに超える存在だったようだな…あの時、マツナガがその技術を奪っていれば、こうもならなかった物を…」
「閣下!!今一度私めにチャンスをお与え下さいませっ!!今回の役獣はパワー不足でしたっ!!ですが、現在開発部の連中に頼んだ役獣ならば必ずや憎きテグサーマンを一網打尽に…」
「…マツナガ、それを言って何度目だ?それにその言葉、今回の出撃前にも聞いたが?」
「うっ、そ、それは…」
一所懸命に直談判するマツナガに突き刺さるジン総統の冷徹なる一言。こうも言われては口の回るマツナガでも流石に弁解する事は不可能であった。次に出る言葉が思いつかないのだ。
「ふぅ…」
情けない姿を晒した部下に対し再度ため息、ジン総統は自身の座る椅子を回して彼らに背を向ける。ジン総統の視線、ガラス越しの先には深海魚が優雅に泳いでいる様子があった。
「ここ数ヶ月、旋風重工は各国の他企業、最近では防衛軍にテグサーマンで培った技術を無償で貸し与えている。当然、貰った組織はそれを基に一騎当千の強化アーマーを独自に開発、各々我が帝国に反旗を翻している。しかも希望を潰さんと奔走させたが、それが返って逆効果。余計に結束を固めてしまい、終いにはお陰で我々が占領した地域は次々と取り返されつつある…全く恐ろしい奴だ、テグサーマンは」
「…」
「マツナガ、そしてバドリードよ。我が帝国が辛酸を舐めているのは貴様達に責任の一端がある。貴様達は一時戦線を退け。別命あるまで待機だ」
「「「なっ!!」」」
「そ、それって、人間で言うリストラ…しかも俺達なら最悪始末されかねないかも…」
コブンロのポツリと呟いた一言に、マツナガは身の危険を察知し、机に手をつき、身を乗り出して必死に懇願した。
「かか、閣下!!次こそは必ずや、必ずやテグサーマン達を倒して見せますっ!!どうか、どうか寛大な処置を!!」
「落ち着けマツナガ、閣下は不要な者として我々を処分するとは言ってないぞ」
バドリードに宥められて落ち着くマツナガ。
「へ?」
ジン総統はバドリードに続いて話を進めた。
「その通りだ。貴様達はかつて北アジア地区での働きがある。そうそう処分はさせん。取り敢えず一旦、マツナガとコブンロ両名にはこの島で謹慎という体にし、冷静になって作戦を練り直せという事だ…その間、別の者にテグサーマンの対策を取らせる」
「し、しかし閣下、それでは周りの者に示しが」
「以上だ…下がれ」
「う、うぅ…」
トップの有無を言わせない命令にマツナガは二人と共にその場を後にし、やりきれない気持ちで冷たく無機質な廊下を歩いていた。
「あっ、マツナガ様だ…相当閣下に絞られたのかな…」
「やはり、流石のマツナガでもテグサーマンには敵わず…か」
「なにしろ閣下自ら指示して作ったヤドカリヤンでも…だからな」
人間から見れば異形な姿をした者達が陰口を叩く。その一言一言がマツナガには重くのしかかった。すると、顔がカバに似た、白衣を着た怪人が部下を数人連れてマツナガ達の前に立ち塞がった。
「クックック…マツナガよ、どうやら貴様の提唱したエリート街道もどうやらここまでのようじゃな~?」
「あ、あなたは…ドクターヒポポタマス!?一体なんの用ですか!?」
マツナガにドクターヒポポタマスと呼ばれた怪人は質問に答える事なく自慢げにぷるぷるの顎を揺らした。それだけで、マツナガは彼がなにを言いたいのかすぐさま察知する事が出来た。
「ま、まさか、閣下が仰っていた別の奴って…ドクターが!?」
「その通り。ワシが自ら閣下に進言してテグサーマン対策に取り組む事にしたのじゃ」
「そ、そんな…開発部長官、トップのあなたが、どうして!?」
「それは簡単、超強力な役獣をワシ自らが開発したからじゃ」
「い、一体なにを作ったんだ…」
「それは秘密。だが一言言っておくと、人間共の絆などいとも簡単に断ち切る秘密兵器だと言っておくかの。それじゃあワシは早速外へ出て、作戦を実行してくるかの…」
「あっ、待って下さい…!!それなら、俺とコブンロも一緒に…!!」
「断るっ!!貴様はワシの開発したのを次々とダメにした。ホッグルもイエティマンも、ワシの自信作じゃったのにっ!!バドリード共々、閣下のお気に入りだったから我慢していたが、失望された以上、もう我慢する必要なんかないものなぁっ!!貴様はこの島でワシら開発部の活躍を目にし、見事なまでに落ちぶれるがいいわっ、わっはっは!!行くぞっ!!」
そう言って部下を引き連れるヒポポタマス。部下達はマツナガの横を通り過ぎる度、ニヤついた表情を当てつけに見せつけるのであった。
「もうダメだ…ドクターならテグサーマンを倒せるかもしれない…これじゃあお終いだぁ…オ~イ、オイオイ…」
マツナガが絶望に跪き、見えない空を仰いだ時、バドリードがポン、と肩を優しく叩いた。
「待てマツナガ、ピンチの時こそ堂々と突き進む物だ。私にいい考えがある」
「ふえ?」
上司の提案に顔を向けるマツナガ。その顔は涙と鼻水にまみれてヌメヌメのテッカテカであった。
「…今、奴と部下が外に出ているという事は、開発部の警備は手薄だ。ならば、開発部の研究室に潜入するチャンスだ。そこで我々の力で役獣、もしくは自分の体を強化して見返そうではないか。どうだ、それで?」
「えぇっ、ででで、でも、そんな事したら我々は本当に処分されるのでは…」
「ならば貴様は今のままでいいのか?テグサーマンを倒す事も叶わず、帝国の足を引っ張った張本人として汚名を被ったままでな?」
「…」
マツナガの脳内はこれまでの戦いを振り返る。もう少しで人類の希望を奪えそうだった所をまさかの暴力で横取り、次には黒髪の美女に刃で額を突き刺され、最後にはその希望に打ちのめされた事を。それからは希望に打ち勝とうと何度も試行錯誤を重ねた。にも関わらず重なる失敗。増える強敵と技術。そして逃がしてしまう同胞(一応)。挙げ句の果てには人間の心をへし折ろうとしたが逆に結束を固めてしまった事を。
「で、どうなんだマツナガ?来るのか、来ないのか?」
「やります、俺、やりますよっ!!」
キリリとした表情で一大決心したマツナガ。その様子にバドリードはウンと満足げに頷き、コブンロは小さく拍手した。
「よく言ったマツナガ、ではすぐさま決行だ。準備しておけ」
「ハッ!!バドリード様!!」
そして、静寂で無機質、窓一つない真っ白な通路。その突き当たりで頑強なシャッターの前で警備をしている兵士がいた。そんな彼の首根っこは突如、鱗のある手によって締め上げられた。
「ぐぅ!?あっ…がっ!!あ、あな…たは…」
傍にある非常警報のスイッチを押す前に、兵士は事切れる。鱗の手の主、怪人態のバドリードは大口を開けて兵士を一飲み。警備を跡形もなく消した彼は口から開発部へと通じるセキュリティカードだけを吐き出し、そのカードでシャッターのロックを解除、マツナガとコブンロ、そして数人の人間態戦闘員級を連れて『潜入』に成功するのであった。
「よし、第一段階は成功だ。さて、次は…」
人間態に戻ったバドリードは開発部の研究室に入るや否や、物陰から残った研究員達の体を次から次へと食らいつく。こうして内部の奥へと更に入り込む『第二段階』に容易に成功した。
「さぁ、次は最深部へと向かう…どうしたマツナガ?」
潜入してからなにかに迷うように挙動不審になるマツナガを見て、バドリードは問いかける。
「バドリード様…!!私はドクターや閣下に見直されたいと確かに言いました…!!でも、なにもしてない仲間や部下を暗殺してでもそうありたいとは思っていません!!こんなのは、その、間違っているのでは…」
「マツナガ、甘いぞ貴様は。ここまでしなければ我々は生きていけない。最早そこまで来ているのだ。いや、軍部に配属されてからがこうなのかもしれんがな」
「し、しかし…!!」
「心配するな、全員食い殺して証拠は残らんし、この島での雑魚の生きる死ぬは日常茶飯事だ…オイ!!」
話を適当に切り上げたバドリードは乱暴に手を横に振って人間態の部下に合図を送る。特殊な装置を持った部下が向かったのは天井のない、広く開放的なエレベーターであった。部下はエレベーターのコンピューターに装置から伸びる端子を接続すると、キーボードを超高速で叩き、バドリードに報告した。
「おおよそ五分でこのエレベーターを動かせます」
「三分でやれ。さてマツナガ、今回の潜入は役獣の開発だけでなく、ある真実を探求する為に動いた。だからこんな危険なリスクを冒したんだ」
「ある真実…ですか?」
バドリードの投げかけに、マツナガはコブンロと仲良く首をひねった。
「そうだ。我々の始祖…ガイアラン誕生の秘密だ」
「我々ジン・ガイア人はガイアランという植物の果実から生まれる。十年前にこの星の新種としてからな。ならば、この海底には今だに眠る植物がある筈と世界中探し回った。しかし、育つ気候の点からそんな物はどこにもなかった。では我々はどこから初めてこの地で種子を撒き、開花したのか。気になった私は数ヶ月かけて調べた。そして出た結論は…」
「ジン・ガイアの源である種子は我々が管理した物、未来島からしかない、という事だ」
「「ご、ゴクリ…」」
バドリードの出した結論に、二人は生唾を飲み込む。
「…思えば何故、なんの為に我々はこの地で突然誕生したのか。詳しくは知らなかった。なにしろ、何千年も生きて、考える人間共でも自分の事が知らないだからな」
「そこで私はこの島に残る謎、我々の誕生すら管理するこの研究室の最深部に潜入し、我々を作り出した始祖は一体なんなのか、種子はどこから来たのかを見極めようと思う」
「…その確証はあるんですか?」
コブンロが質問すると、バドリードは静かに頷いた。
「あるさ。ある日、私は開発部を見学した事がある。その時に『ヤドカリヤン』と書かれていた大型試験管の一部のチューブが下の階に繋がっているのに気付いた。そこでドクターヒポポタマスにこの疑問をぶつけたのだが、はぐらかされるだけで答える事はなかった。間違いない、あの慌てた態度、彼と彼の一部の部下、そして閣下だけが行く事を許されるこの最深部になにかある、だから私はこのピンチ、彼らの居留守を使おうと言い出したんだ」
「バドリード様、エレベーター、動きます」
潜入者を乗せたエレベーターはゆっくりと降りる。緊張感で張り詰める空気。その隙間を縫う様に流れる機械音。その音はまるで侵入者を阻もうとする門番の獣の唸り声にも聞こえた。
「…着いた」
エレベーターの機械音が獣の唸り声だとするなら、目の前の薄暗い通路はその主へと続く洞窟とすべきだろうか。長年住んでいる島で一度も感じた事のない異様な雰囲気に躊躇するマツナガ達。そんな中でも恐れず、バドリードは先陣を切って第一歩を踏み出した。
「間違いない、床に続いているのはやはりあのチューブだ。つまり、一部の役獣はこの先にある物に力を供給されて強大な力を得た訳か…」
「あっ、待って下さいよバドリード様~!!」
マツナガは急ぎ足で、先に進むバドリードを追った。コブンロも頭にヘッドライトを巻き、部下達もまた懐中電灯を持って後を追う。
コツ…コツ。
数人が横一列では狭いこの通路を踏みしめる。一歩一歩。確実に。流石のマツナガもこの異様な空間に臆したのか、無意識にその手をコブンロの肩に乗せる。乗せられた本人もまた、自然とその手に自身の手を重ねた。
「…全員止まれ。あのチューブがここで途切れている。つまり、このシャッターの先が我々の求めている物に違いない」
バドリードの言う通り、チューブは先程より頑丈で巨大なシャッターに設けられた隙間を縫って更に奥に入っているようであった。
「さて、念のためにドクターからくすねてコピーしたキーカード、使えるといいが」
バドリードはシャッター横の電子錠にカードをスライドさせる。解除音が鳴った。シャッターは主へと案内せんと横にスライド式で開放した。
「さぁ、見せて貰おうか。我らの始祖とやらを…!!」
バドリードは真実への目撃者第一号にならんと駆け足で開ききっていないシャッターを抜けて入室。そこにあったのは…
緑色の鉱石らしき物が一部にある、巨大な隕石が頑丈な金属の壁、そして複雑な機械に囲まれて鎮座しているだけであった。
「な、なんだこれは…?これが私達の始祖、か?」
隕石に接続されているチューブを見れば、確かに上階からのチューブと繋がっている。
「…どうやらその通りらしいな」
バドリードは近くにあったパソコンを起動させた。彼の背後で部下が一斉に集まる。
「おい、押すな馬鹿者!!」
「マツナガ様、しゃがんで下さい!!背が高くて見えません!!」
騒ぐ彼らを気にせずバドリードはドクターヒポポタマスの研究ファイルをクリックさせた。
「ふむ、やはりあの隕石に関するデータか…だいぶ古いな、我々が進化し、自我を持ってからか」
『まず始めに、この隕石は何故ここに置かれているのかはわからない。しかしこれだけは言える。この隕石にくっついている鉱石部分(以下、シードロック)の中はガイアランの種子が中に含まれていた。つまり、我々は十年前、ここから誕生したと考えられる。隕石と言えば大気圏を越え、地面に激突する物。それでも種として残り、繁殖性能が残っているのは流石は我らが始祖というべきか…』
「なんだって…それじゃあコイツが俺達の先祖様…!?」
「俺達、宇宙から来たのか…!?」
ざわめく部下達を尻目に、バドリードは次の項目を開いた。
『しかしこの始祖、一体どこから来た何者だろうか?私は以前より(中々忙しくてかなり遅くなったが)一年間、この隕石の内部まで調べる事にした。そして出た結論がある。それは…』
『この隕石の内部…コアには強大な力を宿す人間が眠っている事だ』
『何故判明したかというと、コアでうずくまって眠る人型らしき物と、人間のDNAが確認出来たからだ。そしてこの人間は恐ろしい事に島の外に触手を伸ばして地球から養分を吸い取り、さらには海底に排水穴から種子をばらまき、それが育って茎や花が育っている事が判明した。全く、この島の動きを利用しているようだな』
『それにしても、この人間は恐ろしい力をこの十年間、絶える事なく蓄えている。もし目覚めればどうなるか、味方になるか、それとも…閣下は、この力を完全に目覚めさせず、節度を持って利用すれば問題ないとおっしゃった。そうであればいいが…』
「は、は、はははは…こんな未知な物があったとは…なんだか寒気がして参りましたな…」
マツナガの部下の一人、飄飄とした羊の怪人であるシープランドはその場を和まそうと軽口を叩いた。
「どれ、少し温度を上げましょうか。ここにずっといたら風邪ひきそうだし…」
よく感じるとここは低温の室内となっていた。壁や床の約半分が凍っているのを見るに、かなりの間冷凍させているのがよく分かる。シープランドは冷たい息を吐きながら壁にある温度調節のレバーに手を掛けた。すると、その様子を見たマツナガの脳裏にある考えがよぎった。
(そういえばこの中は異常に寒い。最深部だからだと思っていたが、まさか、あえてこうして…!?)
「ダメだシープ!!そのレバーを上げるなっ!!」
「へ?」
マツナガの呼び止めは一足遅く、シープランドはレバーを上げた。一旦停止した天井の巨大ファンは再稼働、羽を回して温風を送り始めた。
ピク…ピク。
温風を浴びた隕石は僅かに揺れる。そして次の瞬間、無数の巨大な触手が隕石の内部から、岩肌を貫いて伸び始めた。
「な、なんだこれはぁ!?」
威嚇するようにうねる触手。目の当たりにした戦闘員級の一人が叫ぶと、触手は獲物を見つけたと言わんばかりに彼の肩を貫いた。
「う、うわぁぁぁっ!!あぁ、ぁぁぁぁぁ…」
貫かれた戦闘員級の身体はドンドンとしぼみ、皺だらけになり、そして、まるでミイラの如く干からびた。そして、その場で倒れ、僅かに残ったどす黒い体液だけが口から吐き出された。
「こ、コイツ…俺達の養分を吸収しているのか!?」
マツナガは喰らった触手の一部が膨らんで、本体であろう隕石へと運ばれる様を見てそう考えた。
「う、う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
大暴れし、荒れ狂う触手達は獲物を捕らえようと壁、床を次々と叩き壊す。その恐るべき破壊力にマツナガの部下達は一斉に怪人へと姿を変え、各々口から光弾や光線、炎や針を触手に放った。その瞬間、触手は先端を振り、攻撃を全て弾いた。
「あ、あ、うわぁぁっ!!」
攻撃が効かない事で、敵わないと感じた部下の一人が出口に向かって一気に逃げ出した。しかし伸びた触手が彼の足首を突き刺して吸収、部下はたちまち干からびた藻屑と化した。
「な、なんて奴だ…」
マツナガ、その後ろのバドリード、コブンロは持ち前の技術で触手を避けて、受け流す。しかし部下達や戦闘員級はその技術を持ち合わせずに、必死の抵抗も虚しく次々と喰らわれ、例えるならば蛇の前で阿鼻叫喚するだけの『鼠』となっていた。無惨な光景、一瞬のうちに奪われた部下達を目の当たりにしたマツナガの視界に、レバーの前で恐怖でへたり込むシープランドの姿が入った。
「シープ!!早くそのレバーを戻せっ!!奴をもう一度眠らせるんだっ!!」
「はっ、はっ、はぁぁぁぁ…」
凶悪な怪物のへの恐怖感と、自分が原因で同胞を死なせてしまった罪悪感。シープランドの耳にはマツナガの指示が入らない。そんな彼に触手の魔の手が伸びる。
「シープッ!!」
マツナガは必死でシープランドに呼びかけた。しかし無情にも触手は彼の腰に巻き付き、すぐさま隕石の方へと引きずり込み始めた。
「わぁぁぁぁあっぁぁああぁぁっ!!!!」
半狂乱で叫ぶシープランド。彼の元へ駆け出すマツナガと、レバーへと向かうコブンロ。マツナガは間一髪、シープランドの腕を掴んだ。
「た、助けて、マツナガ様!!」
「当たり前だっ!!くうぉのぉぉぉ…」
マツナガとシープランドは怪人の全力として踏ん張る。それでも触手は止まる事なく、徐々に隕石の方へとズル、ズルと引きずる。
「くぁぁぁぁぁぁっ!!」
マツナガは腰を落として更に踏ん張る。その悪あがきに触手はいらついたのか、もう一本の触手でマツナガの体を力いっぱい弾き飛ばした。その衝撃でマツナガは思わず手を離してしまう。
「ぐわっ!!し、しまっ…」
触手は力が弱まった獲物を一気に引っ張り上げる。その一方でコブンロはようやくレバーの元へとたどり着いた。
「は、はぁぁぁ…」
たった一本の触手で宙に浮き、隕石と無数にうごめく他の触手達を前に、恐怖と絶望で目を見開いて涙を流すシープランド。彼の涙が岩肌に落ちた瞬間、触手はシープランドを隕石内部へと一気に引きずり込んだ。
「シープランドォォォォォッ!!」
マツナガが叫ぶと同時に、コブンロは全体重を掛けてレバーを下げる。爆音を上げて吹き出す冷風。触手は寒さで力が弱まり、シュルシュルと隕石の中へと戻った。
「し、シープ…」
静寂さを取り戻した室内。マツナガは一抹の希望を持って隕石に近寄った。しかし触手が引っ込んだ穴から溢れ出た体液が、シープランドの最後を物語っていた。
「シープランド…皆…すまねぇ、俺が…俺がもっと早く言えばこんな事には…」
嵐の様に過ぎ去った怪物の猛威に打ちひしがれるマツナガ。そんな彼の元にコブンロが近寄った。
「兄貴、今はへこんでも仕方がねぇ。とにかく生きてる奴を助けなくては…」
「あ、あぁ…」
マツナガは周囲の怪我でうずくまる同胞を見て気合いを入れて立ち上がった。
「よし、まずは怪我の重い奴は先に上に行け。歩けないなら、上下関係問わず助けを求めろ。それから、怪我の軽いのはこの場を処理として、証拠を隠滅して…」
マツナガの指示で部下達は一斉に動き出す。そんな中、バドリードは一人、パソコンへと向き直した。
(少し目覚めただけであれだけの力とは…!!もし、完全に覚醒したら、私は間違いなく人間だけでなく、この帝国までも支配出来る…!!なるほど、閣下やドクターが隠す訳だ…)
周りの部下は後処理とお互いの怪我の手当てを一所懸命に行っている。にも関わらずバドリードは興味深げにパソコンの前の椅子に座った。
(どれ、博士の集めたデータを見てみるか…)
『…以上の点から、この隕石のコアの力は凄まじいが、安易に復活させると人間のみならず、帝国まで危険が及ぶと考えられる。強い冷風を送り続けて気温を下げていれば一応は大丈夫だと思うが…』
『しかしもし万が一、これを目覚めさせたければ高火力のエネルギーと、我々の中で育ち切り、能力の高いジン・ガイアの細胞を持つ者を養分…いや、生け贄として食わせれば可能だと考えられる』
『…私個人としては、コレを完全に蘇らせずに人類を完全支配したいと思っている。自分の手に負えない力はどの種族でも危険だ。過剰にさえ使わなければ安全な筈だから…』
バドリードがここまで読んだ時、パソコンのモニターの隅にメッセージ送信完了の通知が入った。
(ん、なんだ?私はなにも触っていない。一体誰に送ったのだ?)
(これは…地上の、それも日本の端末に送ったようだな…どれ、なにを送ったのか)
(………)
(…!!)
バドリードの読んだメッセージはたった数行の簡単な文章であった。
(ふふ、ふははははははっ!!はははははははは…)
しかしそれでも、読む度に彼の心臓は大きく鼓動し、手を震わせ、息を荒げさせた。そして、心の中で耐えるとはいえ半狂乱に笑わずにはいられなかった。
(あーっはっはっはっはっはぁっ!!あーひゃひゃひゃ!!はぁっ、はぁっ、はぁっ…)
(そうか、そうだったのか…我々の『真実』はこんな物だったのか…確かにこれじゃあ他にガイアランの植物が見つからん訳だ…)
(いいだろう、貴様の復活を手伝ってやる。その代わり、この帝国の次期総統はこの私にさせて貰うぞ…)
(いいな…修博士…)
一人のジン・ガイア人が知ったその真実。背後のマツナガとその部下達はそれに背を向けてただひたすらに働くだけであった。
16-3
未来島で『胎動』が起こり始めていた頃、テグサーチームの事務所は嵐の前の静けさを体現するかの様に、橋爪による研修兼会議が粛々と行われていた。
「…この点から、我が社が構築した国際インタラクプロテクトは甲企業から乙企業へと技術向上と供給確保をもたらすだけでなく、横の企業の繋がりも強化し、そして現在、国際経済においては最適解なファクターとなっている訳です」
「実例として十年前、未曾有の危機に瀕した百種類以上の業種を我が社の手で救い、現在も我々の下で運営しています。あ~、それから…」
横文字の専門用語と縦書きの難解文字。この二点が交差して、座学のトウマ達学生組に長時間襲いかかる。その様子を涼は橋爪の隣で、レミーは後ろのソファーで心配そうに見守っていた。
「…よし、これで座学研修は終わり。次はチーム会議を行うわ。全員資料を出しなさい」
橋爪に言われ、全員素早く、分厚く華のない無機質な資料を机に出した。
「では、第一回テグサーチーム会議を始めます。では、飛田。今週の戦闘データの報告を」
「はい。まずは第一項目を開いてください。三日前の対鮫型怪人級ザメリアンとの戦闘においてテグサー1は…」
パソコンを開いて淡々と報告する飛田。彼を前にトウマは不安げな面持ちであった。
(会議が始まって一週間…今までと違って、ケーキ食いながら和気あいあいと意見言いながらやってる訳じゃないからか、めっちゃ堅苦しいな)
(しかし、この少しでもだらけてはいけない、しかも難しい単語の羅列が体力を削るなぁ…俺や飛田、涼はともかく、その難解さで穂乃花の脳はオーバーヒート寸前だし)
右端に座る穂乃花は頭から煙を吹きつつ、可愛らしいクマちゃんの頭がついたシャーペンを握って微動だにしていなかった。
(左の茜に至っては完全に寝てるし…えっ、寝てるっ!?)
自分の言った事実が信じられず、トウマは思わず二度見した。そこには船をこぐどころかオールが外れて机という名の水底に沈没した茜の姿が確かにあった。
(な、なにやってんだ、お前は…!!俺みたいに怒鳴られるぞ!!ホレ、起きろっ!!)
トウマは沈没船をサルベージしようと茜の肩を指でつつく。
「ん、んん…」
何度かつついた頃、茜はなにかに触れられているのに気付いてようやく目を覚ます。
(よかった、これで…)
トウマがホッとしたその瞬間、寝ぼけた茜は自身を目覚めさせたその指に思い切り、パクッと食らいついた。
「あーだだだだだだだだっ!!」
歯で噛まれた痛みでトウマは思わず立ち上がり、絶叫した。当然対面に位置する橋爪はこの叫びを耳にしない訳がない。
「コラァッ!!またお前かっ!!少しは真面目にやらんかっ!!」
「い、いや茜が寝てて…」
「言い訳に友達を出すんじゃないわよっ!!全く、お前のような不真面目な従業員は指導員になってから始めてよ…」
「う、うぅ…」
再び叱咤され、事実、最低の人間だと言われたトウマは萎縮してそれ以上言い返せなかった。
「…まぁいいわ。今はちょうど午後五時…ちょっとテレビを見ましょうか」
高級感溢れる腕時計から目を離した橋爪は近くにあったリモコンで電源をつけた。映ったのは午後のワイドショーで、ちょうど以前のGooGooZコンサートのドキュメンタリーVTRを流している最中であった。
『よし、看板上げるぞっ!!』
『おっしゃ!!俺達陽観魂を見せてやろうぜ』
コンサート準備真っ最中の高校生達の一致団結、一生懸命な活動を番組は画面一杯に流す。
『…皆を励ましたい。皆の力になりたい。遠くの人達にも元気を分け与えたい。そんな想いが、GooGooZコンサートを設営する若者達の原動力となっています』
彼らの様子を女性ナレーションは優しげな声で言い添える。それが終わると、ドキュメンタリーは次の場面、高校生へのインタビューに切り替わっていた。
「あっ、桃子だ…」
穂乃花の言う通り、インタビューを受けていたのは友人の桃子。以前、甲斐田が教室を飛び出した際にいの一番に叫んだクラスメイトである。
『…私は幼い頃から、近隣から入る帝国の襲撃情報に絶えず怯えていました。それでも自分の未来を諦めなかったのは、皆さんの励ましや熱い歌、そしてなによりも友達との絆があったからだと思います!!』
『私は今回のGooGooZへの襲撃でもうなにもかも全部、希望もダメだと不安がっていました。でも、友達と共に作り上げた会場で一致団結、それを守ってくれた旋風重工さんのテグサーマンが私、そして見てくれた皆さんの心の支えになったと思います!!』
『…私は小さい頃からドルフィントレーナーになろうと夢見ています。ですが、こんな時代だから無理だと諦めかけていました』
『それでも、今回の件で考えが変わりました。私は孤独なんかじゃない、周りに応援してくれる両親、そして大事な友人が支えてるって事を…』
『卒業後、私はトレーナーに関して進学を考えていますが、この事を胸にして、最後まで諦めずに合格、自分の活躍を通じて多くの人達に希望と勇気を与えたいと思っています!!』
「ふっふ~ん!!さすが私の親友!!いい事言うね~!!」
「そうよ!!アナタ達は皆の希望、未来を背負って立つヒーローなのよっ!!」
オーバーヒートから一転、エンジンを再始動させてご機嫌な穂乃花に、橋爪は立ち上がって同調。リモコンを持って次々とチャンネルを変えた。
『皆さん、諦めないで下さい。希望は頑張ってからこそ…』
『『人類皆、ファイト、オー!!笑顔、笑顔!!』』
『繋がろう、絆。明日の為に…』
チャンネルの先々では著名人や人気のスポーツ選手、芸能人が激励、応援の言葉を投げかけている。映る全てのチャンネルを一周した時、橋爪はリモコンを置いて満足げに頷いた。
「今の映像の数々見たでしょう?アナタ達のように、力ある者達の行動一つで、大勢の皆が一斉に他者を支えあい、次々と動き出した…それって、素敵な事なのよっ!!」
「思えば十年前、今映っていた芸能人、文化人も、この旋風重工が事務所ごと支えていたからこそ、皆を照らす文化を持続させたのよね。そして、気がつけば我が社は世界でも有数の大企業…それは皆さんの頑張りと絶対なる絆があったからよ…」
そう言いながらクルクルとその場で橋爪はスピン。瞬間、ピタリと止まると、彼は三度トウマ達にビシッと指差して向き直した。
「いい?あなた達が持っているテグサロイドは単なる変身装置じゃない。旋風重工やその他の数多くの企業を背負っている物なの。考えられる?その若い年代で世界を股にかけた代表となったのよ?」
「は、はぁ…」
「だからあなた達、今や大注目の世界的代表である事に誇りに思いなさい?そして、これからはそれを胸に、人々から感謝を集めなさい?そうすればあなた達はもっと輝ける筈よっ!!ここにいない社長ならそうおっしゃってるわ!!」
わかったような、わからないような。橋爪のアドバイスに茜と穂乃花は顔を見合せる。その微妙な反応に橋爪は更に話をまくし立てた。
「全く、その顔からして今まで意識してなかったみたいね…全く、これじゃあダメよねぇ、涼!?」
「はっ、申し訳ありません。私の教育不足でした」
突然同意を求められた涼は冷静な判断で謝罪した。
「最近じゃあ、企業に勤めながら重役の名前も覚えていない社員がいるって言うじゃない。私はそんなの許せないわ!!よし涼、あなたが手本となって私のかんっ、たん!!な質問に答えて貰うわ!!
「はい、よろしくお願いします」
「よし、じゃあ第一問!!我が社には約五十年前、先々代の社長がモットーを作り、今日でもそれを理念に業務を進めているけど、『陣頭』『誠実』…あと一つは!?」
「え?」
「え?」
一瞬、詰まる空気。涼の横で飛田は『社長』というキーワードから、橋爪に質問した。
「そ、そういえば橋爪専務。以前社長はこの事務所から未来島のUSBを持って行ったとおっしゃっていたんですが、それの解析はどうなったんでしょうか?」
「えぇっ?そんなの知らないわよ」
「え!?コンサートの際に聞いたんですが、あの、なにも聞いてないんですか?」
「ええ、聞いてないわよ。確かテグサー1が誘拐されて、奪還の時に潜入した島内部のデータは軍に渡した…って聞いたけど、そこまでは…」
「そんな馬鹿な…あれはトウマさんの父が生前残した物で、しかもこっちの社長の名前が何故かある物…だから、重要な物として周知されているとばかり…あっそうだ、室田博士がなにか研究して事にヒントがあるみたいで、僕のクラスメイトに言われたんですが…」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。いっぺんに色々言われても…」
橋爪が困惑し始めたその時、事務所に新たに設置した赤色灯がけたたましいサイレンを鳴らしてチームに警告を促した。
「これは…!?皆さん、三道町にジン・ガイア帝国が出現したようです!!」
「よし、テグサーチーム全員しゅつげ…」
飛田の報告を受けて出撃命令を出そうとした涼であったが、彼女の前に橋爪が背を向けて立ち塞がった。
「行くわよ、テグサーチーム!!さっき言った事を意識して戦うのよ!!さ、涼。現場に行くわよ、私も着いていく!!」
「え!?専務も、ですか!?」
「当然!!部下が頑張るってのに、上司が行かなくてどうするの!?さ、レミー社長!!あなたもですよっ!!」
「わ、わかりました…」
「えっ!?アタシも!?」
こうして、橋爪を連れて現場へと到着したテグサーチーム一行。テグロードから降りた先には、ラントムチームが先に来ていた。
「あら、皆。来てくれたのね」
テグサーチームに一番早く気付いたロックオン・スナイプ。涼は彼女に話しかけた。
「ああ。それで今、どうしたんだ?まだ戦っていないようだが…」
「えぇ、それが妙な相手なのよ」
「妙?」
ロックオン・スナイプは中心となった現場である石畳の広場を指差す。そこでは中年層の男女がドクターヒポポタマス率いるジン・ガイアの兵士達に取り囲まれて捕らえられている様子があった。もっとも、その周りを防衛軍のメニーが銃を構えてもっと大きく囲っているが。
「なんだアイツら。まさか人質取ってなにか要求でもしてるのか?」
現状に疑問を持ったトウマが首を傾げる。補足として、キャノン・ダイザーが説明に入った。
「まぁそうなんだが、その要求が『人質を解放する代わりに我々をそちらに受け入れてくれ、テグサーチーム、ラントムチームに会わせてくれ』って言ってるんだ。妙に怪しいから今、防衛軍の交渉担当がドクターヒポポタマスと話し合ってるんだが…」
「その通り!!ワシを入れてくれんかっ!?」
両チームの耳にドクターヒポポタマスの声が届いた。どうやら交渉人との話は打ち切られたようだ。
「突然人質を取ったのはすまない!!しかしこうでもしないと君達に会えないと思ったからこうせざるを得なかったのだ!!」
「…ワシはこの十年、周りから最低の烙印を押されていた。しかし、以前の君達の絆のあり方、はい上がる姿を見て感動、今ここに最強の兵器を土産に持ってやって来た。見よ、最強の名を欲しいままとする、このフォルムをっ!!」
ドクターヒポポタマスが指差す先にあったのは直方体の金属を胴体とした、てっぺんに丸い頭を付け、片方三本の計六本の腕、四本の多脚が生えているだけのお粗末な人間サイズのロボットであった。
「ワシはこの発明品を『ブリレト』と名付けた。さぁどうだ大企業に勤めし諸君!!この機体、欲しくないかっ!?」
ドクターヒポポタマスのアピールに合わせて、ブリレトは腕を上げて威嚇する。動く度ギシギシ言わせるその姿に、両社チームは顔を見合わせた。
「おいどうする?明らかに怪しくないか?」
茜の考えに、全員腕を組んでウ~ン、と唸った。そんな彼らにメニーの部隊長が近寄って来た。
「両社共、今は相手の要求を飲んで下さい。穏便に済ませるならそれがベストでしょうし…」
「そうよっ!!ここであなた達の強さと優しさをアピールなさいっ!!」
部隊長を押しのけて、橋爪が命令した。
「彼がああ言うのはテグサーマンの力について恐れではなく、優しさがある事に気付いたんだわ。それは今ここで見ているやじ馬も同じ」
彼が指差す先には物陰や高台からスマホを構えて見物している人々がいた。
「だから今ここで戦って物を壊す事なく、平和に済ませれば皆あなた達に感謝、尊敬の眼差しを送る筈よっ!!さぁ行きなさい正義の勇者よ、今こそ平和の扉を叩く時っ!!」
「なんだこのオッサン?突然出て来て偉そうに…」
息巻く橋爪を前に困惑するキャノン・ダイザー。
「ま、まぁまぁ…とにかく人質を取られている以上行くしかないだろう。行くぞ皆」
涼は彼を宥めつつ、トウマ達に指示を出す。全員、懐から一斉にテグサロイドを取り出した。
「「「「チェンジ、テグサーマン!!」」」」
トウマ達は光と装甲に包まれてテグサーマンへと変身。各々構える姿に、見物人は観客の如く大はしゃぎ、記録に残そうとスマホのカメラ機能を連写した。
「キャーッ!!素敵ーッ!!」
「おーい、頑張れよーいっ!!」
それは、ドクターヒポポタマスも同様であった。
「遂に来たかテグサーマン!!よしならば、両社共に一度に来てくれっ!!その後に解放する!!」
「よし、行くぞ…」
テグサー3とメデューザを先頭に、両社の戦士は一様に帝国の兵士達の元へとゆっくりと向かう。
「…トウマ。相手の雰囲気は妙だ。十分に警戒しろ」
「わかってる。アイツはどうもドルカの時とは違う気がするからな」
テグサー3は刀の柄に、テグサー1は拳銃のグリップに手を触れながらバイザー越しに視線を上下左右に動かす。その背後ではテグロードの近くで飛田がノートパソコンで周囲の変動を計測していた。
「よし、今の所は異常なし…やっぱり、本当に逃げて来たのかな?」
飛田はゆっくり進むテグサーチーム、ついでに満足げな橋爪を横目にこのまま平穏に終わる事を願っていた。しかし、両社が人質の横を通りかかった瞬間、その想いを掻き消すように、ノートパソコンの地上探知レーダーがけたたましく鳴った。
「げ、下水道から、反応ありっ!!」
「えぇっ!?」
飛田が通信で叫ぶと同時に、両社は一斉に後方へと下がった。それと同時に、人質を中心に地面がズン、という振動音と共に一気に漆黒へと染まった。
「ぐぅ、うわぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げる人質達。飛田はすぐさま目の前の異常事態を調べた。
「こ、これは…!!超重力地帯!?まずいぞ、今あの人質には通常より重い負荷がかかっている!!」
「その通り!!来い、グラビトリー!!」
ドクターヒポポタマスの呼び声を聞き付け、地面を破壊して飛び出したのは二足歩行型の怪人級。全身の内、胸や腕、上部下半身を黒、腹を白の羽根で覆い、頭部に煌めく宝石のような目と、鋭いくちばしや硬質な脚を構えたグラビトリーはグラァ~!!と吠えて威嚇した。
「間違いない、奴の手から超重力を発生させているんだっ!!トウマさん、アレを破壊して下さい!!」
「なんだと、よしっ!!」
飛田に指摘されたテグサー1はホルスターからハンドシューターを抜くと、グラビトリーの硬質の手に向かって発砲した。しかし、エネルギーの塊である銃弾は彼の手にまるで水中へと落ちるかのようにいとも簡単に吸収された。
「なっ!?そんな馬鹿な…」
テグサー1が目の前の出来事が信じられず銃を下ろす。同時に、またズン、と低い音が鳴って、人質の悲鳴が更に強くなった。
「え!?まさか…なんて事だ、重力の負荷が更に重くなってる!!」
「そうだ、テグサーマンの科学者よ、コイツは相手のエネルギーを喰らってパワーアップするのだ!!」
飛田の報告を耳にしたドクターヒポポタマスは自慢げにそうなった原因を教える。その間にメデューザが割って入った。
「つまり、肉弾戦で一気に息の根を止めればこの重力は止まるって事ね…いいわ、やってやるわっ!!」
「フッ、君達に出来るかな?以前ヤドカリヤンを増殖させた原因を作った君達が、ね?」
「う、ぐぅ…」
ドクターヒポポタマスに古傷をえぐられて躊躇するメデューザとその一行。彼は更に言葉を続けた。
「まぁ、仮になにもしなくてもこの範囲とパワーはどんどんと広がっていくけどな。見ろ、重力地帯を」
言われて見ると、確かにその地帯、黒い円が大きくなっているのが見て取れた。
「このまま行けば、あと二十分で一気にこの町を包むだろう。だが抑える方法はある。それはテグサーマン四人がTE粒子によるパワーをフル稼働させればいい事だ」
「…確認しました。どうやらドクターヒポポタマスの言ってる事は本当です」
ノートパソコンを叩く飛田がそう結論づけた。
「さぁどうするテグサーマン!!このまま苦しむ人々を放置するか!?このままいけばあの人間はもう間もなく死ぬ!!特に年寄りが多いしなぁっ!!」
「ダメよテグサーチーム!!今入ったら勝てる可能性は低くなるのよっ!!罠に自ら入るなんてダメよ!!いいわねっ!!きっと今に方法が…」
迷うテグサーチームに飛び込む橋爪の命令。
「ウゥッ、アァッ、グゥゥゥ…」
「ガッ、ガフッ!!」
それと同じくして視界に入る呻き声と怪我と体力の限界で倒れる人々。テグサー1の拳は決意を固めるように強く握られた。
「…専務、例え危険だとわかっている。でも、俺達が守るしかないっ!!」
「ば、馬鹿っ!!それでは…」
「ラントムチーム、俺はお前達を信じるぜ!!はぁっ!!」
テグサー1は飛び上がって超重力の中へと入り込んだ。
「トウマ…よし私もっ!!」
次に、テグサー2もその後を追う。更に3、4も。
「ぐぅっ!!」
慣れない重みにテグサーチームは呻き声を上げる。それでも退く事はせず、テグサロイドを操作して、溜め込んだTE粒子を一気に放射した。
シュウゥゥゥゥゥ…
エメラルドに煌めく霧状の粒子が外部に放出される。粒子が重力地帯の端まで届くと、広がる円はピタリと止まった。パワーも緩んでか、倒れた人も僅かに上体を起き上がらせていた。
「こ、これで…!!頼んだぜ、イリア達!!」
「えぇ、任せて!!ヒロシ!!」
「あぁ…」
先程の弱気な態度と打って変わって、メデューザはでダイ・ソードの変身者の名を呼び、背中の剣を両手で構えて一歩前へ出た。
「いい?私達が周りの戦闘員級を倒すわ。あなたはその隙を見て、必殺のウェイブ・クラッシュで一気に止めを刺して頂戴!!」
「了解」
メデューザの命を受けたダイ・ソードはサーファー・ソードにあるスイッチを押して、剣を宙に浮かせると、それにサーファーの要領で側面に乗った。
「よし、ラントムチーム、アタック!!」
「「「ハッ!!」」」
メデューザの号令でダイ・ソードを除くラントムチームは一気に突っ込む。戦闘員級もまた、手柄を立てようと銃や槍を持って一斉に立ち向かった。
先攻はキャノン・ダイザーの腕部ガトリング連射。超高速で回転する銃身から連射された銃弾は戦闘員級を寄せ付けず、続く左腕のキャノン砲撃で広範囲に吹き飛ばした。その横でメデューザはうねるスケールヘヤーで残りの戦闘員級を捕らえては投げ、叩き、払い、様々な技で応戦した。その背後、ロックオン・スナイプはスケールヘヤーの隙間に向かって照準を敵に合わせていた。
「狙い…撃つわよっ!!」
発射された銃弾はスケールヘヤーの間をすり抜け、遠くの高台に隠れて今か今かと構えるブリレトの眉間に命中。撃たれて前に倒れたそれは腹と手すりを支点にして半回転、その場から強制的に飛び降りる事となった。
「邪魔者はいなくなった…これで!!」
メデューザは蹴散らした戦闘員級を横目に、スケールヘヤーは一気に伸ばす。狙うはグラビトリーの頑強な両脚。ダイ・ソードの一撃をより確実にする為であった。
「グラッ!?」
グラビトリーは俊敏なスケールヘヤーには対処出来ず、身動きを取る事なく両脚に鞭が巻き付いた。
「今よ!!」
「おうっ!!」
メデューザの合図で、ダイ・ソードはサーファー・ソードの柄の先端にあるロケットブースターを点火。
「ウェイブ・クラッシュ!!」
と、技の名を叫んでグラビトリーの胸部にに向かって一直線に飛んだ。
「よし、これで…!!」
飛田は息のあったコンビネーション技に勝利を確信した。それは周囲の見物人も同様であった。ただ一人、ドクターヒポポタマスを除いては。
「馬鹿め…そう簡単に倒される物かよ…グラビトリー!!」
主の合図で、グラビトリーはくちばしを開き、口から黒いエネルギーの塊を吐き出した。
「くっ、だがこんな物!!」
ダイ・ソードは避けようと上空へと進路を変えた。だが、その先にいたのは上半身だけで飛んでいるブリレトであった。
「なっ、なんだと!?」
ダイ・ソードが避けようとして身を翻すも間に合わず、ブリレトと真正面から激しく衝突。瞬間、ブリレトは自爆。
「ぐわっ!!」
ダイ・ソードはきりもみ回転をして、地上へと墜落、サーファー・ソードは地面に突き刺さった。
「ヒロシッ!!キャッ!!」
メデューザが一瞬、力を緩めた事をグラビトリーは見逃さない。くちばしを開いて吐き出した黒いエネルギーの塊はメデューザにも命中。彼女は潰されるスチール缶のように、側面から徐々に徐々に、超重力で挟まれ始めていた。
「ぐぅ、うぅ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
装甲と共に皮膚や骨、内臓を押し潰されて叫んで跪くメデューザ。
「隊長!!」
「イリア!!」
キャノン・ダイザーとロックオン・スナイプが急いで駆け寄ったが、どうする事も出来なかった。
「ぐぅ、うぅ…力が強まってきた…トウマ…」
「堪えろ、茜!!じゃなきゃ皆ここで…」
超重力で押し潰され、膝をつくテグサーチームと人々。必殺技を防がれて、少ない戦力で立ち向かうラントムチーム。そんな人間側の窮地の様子を、ドクターヒポポタマスは高笑いで高みの見物をしていた。
「はぁっはっはっはっは!!どうやらここまでのようだなっ!!よし、残りの者は動けないテグサーマン達に止めを刺せっ!!」
彼の指示で伏兵の戦闘員級が物陰から飛び出した。
「撃てっ!!」
戦闘員級は小銃を構えて超重力の中にいる人々に狙いを定めた。
「や、やべぇっ!!」
照準を察知し、テグサー1は人々の前に立つ。後から2、3、4が来たと同時に小銃は銃弾を連射。動けない彼らに銃弾が全弾命中した。
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
銃弾のダメージでテグサーマンの装甲から火花が散る。
「ま、まずいっ!!」
仲間の危機に、キャノン・ダイザーとダイ・ソードは駆けつけようとした。
「グラァ~!!」
しかし彼らの前にグラビトリーがくちばしを開けて立ちはだかる。
「くっ、これでは近づけない!!どうすれば…」
下手に戦えばあの超重力の餌食になる。それは背後のメデューザが身をもって教えてくれた。キャノン・ダイザーがそう考えているのを知ってか知らずか、グラビトリーは腕を上げて襲い掛かった。
「グッ、野郎…!!」
ダイ・ソードは相手の脳天目掛けてサーファー・ソードを振り下ろす。対してグラビトリーはその斬撃を避ける事なく、頭突きで立ち向かった。
パキンッ…
グラビトリーの硬質な頭は剣の刃を欠けさせた。
「なっ…」
手元に落ちる刃であった破片。それに気を取られたダイ・ソードはグラビトリーの右拳の一撃を防ぐ事なく真正面から受け止めてしまった。
「ぐぁっ!!」
吹き飛び、ダイ・ソードは近くの壁に叩きつけられた。グラビトリーはその獲物が動かないのを視認すると、ターゲットをラントムチームの残りの三人に決めた。
「シット!!うぉぉぉぉぉっ!!」
メデューザを庇うロックオン・スナイプを除けば後は自分一人。焦るキャノン・ダイザーはガトリング砲をがむしゃらに撃ちまくった。グラビトリーに無数のガトリング弾が迫る。しかし彼は臆することなく、両腕を顔面の前に立てて防御。銃弾は命中したものの、全て跳ね返るだけでそれが深手になったとは到底思えないのは、グラビトリーのにやけた顔を見れば一目瞭然であった。
「そ、そんな…」
「グラァ~!!」
グラビトリーは吠えると同時にくちばしから超重力を発射。なすすべなく、三人は超重力空間の餌食となった。
「「きゃあああああっ!!」」
「うわぁぁぁぁっ!!」
三人は同時に悲鳴を上げる。その間、防衛軍のメニーは戦闘員級との戦闘で散り散りに。その背後で飛田は必死でノートパソコンのキーボードを叩いていた。
「く、このままじゃ…どうすれば!?」
「トウマ…皆…!!」
彼の横でレミーが手を合わせて祈る。その表情は、飛び出したくてもどうする事も出来ない。そんな彼女の悔しさと無力感を表す複雑さが表れていた。
「そ、そうだわっ!!」
その時、橋爪はなにかを閃き、未だに残る多くの見物人の元へと走った。
「皆さん、想竜弾です。覚えていらっしゃいますでしょうか!?」
その問い掛けに、見物人は頷いた。
「ありがとうございます…実はあの技、皆様のお力添えがあったからこそ放てた技なのです!!そこで皆様にお願いがございますっ!!どうか当社のテグサー1に、今一度協力して頂けないでしょうか!?当社は皆様のご愛好によって成り立っておりますっ!!どうか、どうか何卒よろしくお願い致します!!」
深く頭を下げる彼を前に静まり返る見物人。橋爪は彼らが自分の誠意が伝わったのだと百点満点の笑顔で顔を上げた。しかし視線の先にあったのは躊躇してお互いの顔を見合せる彼らの姿であった。
「そ、そんな事言われても、なぁ?」
「あぁ、うん。想竜弾って自分のエネルギー吸われるんだっけ?なんだか危なそう…」
「そうそう。第一助ける必要あるの?だってアイツら、この地域にミサイル発射場建設を提案した奴らだし」
橋爪は超重力で苦しむ人々、特に年長者の男の顔を見た。
「確かに、あそこにいるのはここに建設を提案した政府高官の…!!で、でもそれでもお願いが!!」
「想竜弾ってもしかしたら寿命が削られる可能性があるってのに、なんであの人達の為にやらなくちゃならないの?」」
「「そうだよ、そうだよっ!!」」
願いを引き裂くように、見物人達は騒ぎ、橋爪の説得を遮った。
「ああいう人達はさぁ、なんもしない癖に威圧的に頑張ろうって言ってた…俺や皆はそれが気に入らねぇんだよっ!!」
「一致団結なんて無理無理!!あの人達の顔を見りゃ本気なんて出せないよっ!!もしかしたらアンタ達、相手が役人だからえこひいきしてんじゃないの!?」
「俺、この街に来たのショッピングなんスよ。でも今日あの人らが視察するって言うからボディーガードめっちゃ連れて来てて、お陰で店も閉まってて大迷惑だったんスよね~」
「そ、そんな、皆さん…」
各々の意見に、橋爪はショックでそれ以上はなにも言えなかった。その時、ドクターヒポポタマスの高笑いが耳に入った。
「ハァーハハハハ!!今のを聞いたかテグサーマンよ!!以前の必殺兵器はどうやら出来んようだな!!」
「ぐ、ぐぅ…」
テグサー1は嘲笑れてか片膝を落とす。そんな様子を一人、ニヤリと笑う人間がいた。それは見物人の中に紛れる甲斐田であった。
(よし、いいぞ…ここの人間はもしテグサーマンが倒されれば次は自分だって自覚がない…このまま行けばクラスメイトと同じ位鬱陶しい連中が死ぬ。いい気味だよっ、ハハッ!!)
彼の願いを知らずとも、ドクターヒポポタマスは更にテグサーマンを嘲笑う。
「GooGooZの一件を見たが、なにが一致団結、皆で団結しあおうだっ!!所詮人間は見返りがなければなにもしないっ!!そしてなにより、その輪の中で忌み嫌う者がいれば、仲間外れにし、都合のいい者しか見んのだっ!!これでわかったろう!!人間など我々から見ればどう飾っても力がない癖にいきり立って醜い生命体でしかないのだ!!ハァーッハッハッハ!!」
散々我々を苦しめた連中を、これで一網打尽に出来る。
最早、勝利は確実。
総統閣下もお喜びになるだろう。
それも、もう間もなくで…
しかし。
「ゴチャゴチャうるせぇぞ、デカ口野郎…!!」
「なぁっ!?」
怒りと共に、テグサー1は徐々に立ち上がった。優越感にさえ浸っていたドクターヒポポタマスは、眼前の勇ましい戦士の姿に、口をあんぐりと開けざるを得なかった。
「俺は…俺達は感謝だの見返りを求めて戦ってねぇ…!!そこに困っている人がいるから助けに行くんだろうが…!!」
「そ、そうだよ…トウマの言う通りだよ…!!」
テグサー1の肩を借りてテグサー2は立ち上がる。
「どんなに苦しくても悲惨でも、それでも皆に生きていたい、笑顔でいてほしいから、私達は皆を守るんだよ…!!だからここで退きはしない…!!」
「そうだ、それが力を持つ者の使命…!!」
続いてテグサー3も立ち上がる。自身の肩にテグサー4の腕を回して支えながら。
「一人が元気なら、隣の人がその元気を貰って…更には別の人が…そんな人々の繋がりをやらせはしない!!今ここで、アンタらを倒すっ!!」
テグサー4を最後に、テグサーマンは全員立ち上がった。ドクターヒポポタマスはその覇気に気圧されそうになったが、それがバレないよう、ニヤケ顔を崩さなかった。
「ハ、ハッ!!面白い!!その状況でどう助ける!?」
「ここにいるさ、繋がった奴がなっ!!」
突然聞こえてきた声と共に、一本の青竜刀が飛んできた。
「グラァ!?」
刀はグラビトリーの軟質部分、首をかすめるだけであったが、それでも十分な威力で相手を転ばせる事に成功した。
「な、何者だ!?」
ドクターヒポポタマスは飛来した方向である上空を見た。そこにいたのは宙に浮かび、腕を組んで格好つける変身態のディーンの姿があった。
「き、貴様はディーン…!!我が帝国の裏切り者がぁ…!!」
「ふっ、俺は常に面白くて、心が踊る方につくのさ…モーラがGRNに連絡して出してくれたのが幸いだった…さ、トウマ!!今だ!!今なら超重力空間の力が弱まった筈だっ!!」
「ディーン…よ、よしっ!!」
仲間の援護にテグサー1はTE粒子の放出を止め、気合いを入れ直した。
「聞こえるか、テグサー1…いや、TE粒子…!!前と違って、今は自らの力で皆を守りたい!!だから、俺に力を貸してくれ…!!」
装着者であるトウマの願いに、テグサー1の全身は蒼く煌めく。そして、地面の重力地帯に特に輝く両掌をかざした。
「うぉぉぉぉぉ…!!」
テグサー1は黒いそれを一気に吸収。その場とラントムチームにかかる負荷を全て戻した。
「そ、そんな馬鹿なぁっ!!重力を吸い取るとは…!?」
「今までの分、帰すぜカバ野郎っ!!」
テグサー1はその場に立ち尽くすドクターヒポポタマスに、吸い込んだ漆黒の円盤状重力を思い切りブン投げた。超高速で接近し、ドクターヒポポタマスに命中する重力。凝縮されたそれは彼の体を一気に圧縮させた。
「ぐ、ぐ、ぐぁあぁぁっぁぁぁああっ!!」
押し潰され、横幅の縮尺が狂ったドクターヒポポタマスは悲鳴と共に爆散した。
「行くぞっ!!」
テグサー1は止まる事なく、最後のグラビトリーの元へとジャンプ、彼の脳天に強烈な蹴りを浴びせた。その衝撃で再度転がるグラビトリー。彼が立ち上がる時、その頭部にはヒビが入っていた。
「グラァ!!」
グラビトリーは反撃として着地したテグサー1にストレートパンチを放つ。風圧の音が聞こえる程の素早さであった。テグサー1はその拳を右のクロスカウンターで返し、続けて左の拳で顔面を叩く。強烈な激突音と共に、相手がヒットして怯んだその隙に、間髪入れず腹部へと蹴りを放つ。そしてトドメの一撃として巴投げ。受け身を知らないグラビトリーは宙でばたつき、背中を激しく打った。
「よし、今だっ!!」
テグサー1は胸の装甲を開き、撃竜波のエネルギーを溜める。狙いは前方の怪人級、グラビトリー。照準が定まったその瞬間、撃竜波はチャージを完了させていた。
「撃、竜、波ぁぁぁぁぁぁっ!!」
技の名を呼ぶと同時に発射される光線、撃竜波。直撃を浴びたグラビトリーは叫び声を上げる事なく、防ごうとした手を広げてしまい、炎を上げて爆発した。
「お、終わった…」
テグサー1の宣言。撃竜波発射終了。一瞬の静寂。戦いの勝利を実感した見物人は、一斉に湧いた。
「やった、流石テグサーマンだっ!!」
「ありがとう、ラントムチーム!!」
「いいぞ、いいぞぉーっ!!」
「トウマ、みんなーっ!!」
歓声を背に、レミーはテグサーチームの元へと駆けつけた。その瞳に涙を浮かべながら。
「みんな大丈夫!?怪我はない!?」
「うん、大丈夫だよ社長!!流石に怪我はあるけど」
「よ、良かった…」
テグサー2から無事を聞いたレミーはその頬に涙をこぼす。そんな彼女に、テグサー1は足をふらつかせながら近寄った。
「おいおいなんだよ社長?俺達がやられると思ったのか?」
「だ、だって…」
「心配すんな。俺達はやられない。平和が訪れるその日までは、な…」
「トウマ…」
レミーがテグサー1の手を握ったその時、近くの瓦礫が破片となって吹き飛んだ。見ると、そこにいたのはブリレトの下半身が煙を吹いてテグサー1へと走り寄っていた。
「ま、まずい…あの熱量、ブリレトは自爆する気だっ!!」
「な、なんだと!?」
飛田に指摘されたテグサー1はハンドシューターを構えようとホルスターに手を掛ける。しかし、疲れから手が滑り、銃を地面に落としてしまった。
「し、しまった…間に合わ…!!」
テグサー1とレミーに爆発寸前の下半身が襲い掛かる。
「キャァァァァァ!!」
その時であった。レミーが悲鳴と共に手を前に出すと、二人の前に、全身庇う程の半透明の六角形バリアが発生したのは。バリアに突撃したブリレトはバタつかせた脚をだんだんと急停止させ、煙が止まった上に先程の熱が嘘の様に冷めきってその場にバタリと倒れてしまった。
「うぉぉぉぉーっ!!すげぇーっ!!」
「爆発させる事なく、止めたぁっ!!テグサーマンってとんでもねぇな~!!」
二度、歓声に沸き立つ見物人。
「い、今のは一体…」
だが、そんな歓声を気にかけるより、テグサー1をじっと掌を見つめていた。思わずレミーは、テグサー1の顔を見上げた時。
「と、止まった…?ね、ねぇ今のってテグサー1に…うぅっ!!」
背筋に悪寒が走った。いつもの見慣れた顔にも関わらず、日光に照らされたそのメットは、言いようのない威圧感で満ちあふれていたからだ。
「…どうした?」
「う、ううん、なんでもないわ」
レミーは恐怖感を振り払う様に気丈に振る舞って誤魔化す。すると遅れて橋爪がやって来た。
「アンタ達ぃ…」
「げっ、まさかここで小言かよ…」
橋爪の登場に、テグサー4はつい悪態をついた。しかし彼の口から出たのは誰もが予想だにしなかった一言であった。
「ふむ、今回はアンタ達の意見…『誰かからの見返りを求めず突き進む』って考えも悪くないわね…さ、帰ったら会議の続き、始めるわよ、勝って兜の緒を締めよって言うじゃない?」
変身を解除したテグサーチームはうんざりと言わんばかりに肩をすぼめる。
「…その前に、途中でケーキでも買ってね…糖分は集中力に必要だし…勿論私の奢りでね」
橋爪の付け足した言葉にチームは、ぱぁっと明るくなった。それもその筈。『ご褒美』を前にして足取りが軽くなるのは、人のみならず生きとし生ける者全てにとって当然の事だからだ。
だが、その一方、見物人の群集から離れた甲斐田の足取りは重い物であった。
16-4
時刻は夕闇の時。住宅街の隅にある古ぼけたアパート二階の一室に、主である甲斐田は虚ろな表情で帰宅していた。玄関に靴を脱ぎ散らかし、電気を点ける事すらせず、彼は真っ先にソファーへと倒れ込む。その時、多量の埃が宙を舞うが彼は気にしない。それよりも思う事が彼の心の中にあったからだ。
(…僕は、この世界では無能で無用なんだ。なにもないから、アイツらとは違う)
甲斐田の脳裏に、先日のGooGooZの件、そして今日活躍していたテグサーマンの活躍が浮かぶ。
(テグサーマンは力があるからああやって人間守って、笑顔を作る…それに比べて僕はどうだ?今まで向けられたのはなんだ?)
『人間』の期待を背に受け戦うテグサーマン。彼らがフッと消えると同時に、自身の過去が蘇る。
『ワルーイ星人め!!ジャスティス光線を食らえ~!!』
『ジャスティスキック!!』
未来島で過ごした幼少期、仲間外れの自分は『悪』と断定され、正義のヒーローごっこでは同級生達から暴力を受けていた。痣も出来ていた。しかしそれでも、両親は相手が島の中で一流の科学者で、立場が上という理由で体裁を気にして見て見ぬ振りをしていた。それどころか、この島で偉くなれという理由だけで勉強を強要させ、出来なければ折檻をするという日々さえ与えていた。しかも、どれだけ頑張っても成績が報われず、最低の結果しか出せなかった為なおのことである。
『この疫病神!!お前がいなければ、弘明は死なずに済んだのに…』
後に呼ばれるジン・ガイア帝国の襲撃後、今は亡き父方の祖母に引き取られた際、このアパートに着いた瞬間に言われた一言である。確かに父は我が子の後学の為に産まれてすぐに未来島に来たと言っていた。勿論そこに、その子自身の意思はない。憤る祖母は元からか不明だが、息子の残した遺産を使って酒浸りにパチンコ通い。引き取った孫に対して深く接する事はなく、食事は最低限の物しか与えなかった。
『チッ、甲斐田、来たのかよ…』
記憶はつい最近にまで飛ぶ。GooGooZのコンサートの中止の可能性を聞き付け、いつもからかうクラスメイトの阿鼻叫喚が見られると感じた甲斐田は久々に笑い、意気揚々と会場へと向かった。しかしそこにあったのは予想外にも絆で結ばれた人間達の輪が作り出した、復活の二文字であった。彼らの期待に満ち溢れ、和気あいあいとした様子に絆を結べると甲斐田は一歩、勇気を踏み出し、会場設営を手伝った。が、そこでも先の言葉を聞こえよがしに言われ、つまはじきもののレッテルを張られた挙句、ちょっと意見を言っただけで暴力の日々へと変貌した。
(どうして…どうしてここまで邪険に扱われるんだろう…皆、他の人と話す時は温和だというのに、僕だけは邪険に扱うの…?)
(もしかしたら顔つきのと雰囲気のせいかもしれない、そう考えてあのトウマの様に斜に構えて目つきを悪くして登校した事もある…でも祖母には『馬鹿じゃないの』と言われ、学校では調子に乗るなと笑われただけだ…)
(大人しくするのもダメ、身構えるのもダメ…一体僕はどうすれば良かったんだ?)
甲斐田はソファーから力なくぶらりと腕を下ろす。腕の先にあったのはテレビのリモコンの電源スイッチ。彼の意図なく、テレビは暗がりの部屋のごく一部を照らし始めた。
「…!!」
テレビを消そうとした甲斐田であったが、画面に映ったのは彼のクラスメイト、それも、今日もまた自身を殴りかかった男子生徒であった。
『…今回のコンサートで、自分は皆との絆を大事にするべきだと感じました。自分はこの事を忘れず、これから社会に出る時は出会う人達を大事にして、苦しんでいる人を助けていきたいと思います…』
甲斐田には一度も見せた事のない爽やかな笑顔で対応する男子生徒。気がつけば甲斐田は、テレビの前に立ち尽くしていた。
『いや~、立派ですね。彼らのような立派な志を持った若者が、これからの未来を造るんでしょうね~』
スタジオからお送りするキャスターのお褒めのお言葉。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それを耳にした甲斐田は怒りの形相でリモコンをテレビに向かって投げつけた。画面は一瞬の内に消える。モニターがヒビ割れたからだ。
「なんでだ…」
「なんでだ、なんでだ、なんでだっ!!」
「アイツは僕から金を取り、暴力を加えた!!仲間外れにもした!!世間から見れば『悪』の筈だっ!!なのに、何故アイツだけは他の連中にはいい顔をする!?僕には態度を切り替えて排除する!?更には、その手で、苦しめている人間を増やして!!」
「ふざけるなっ…ふざけるな、ふざけるなぁっ!!人を傷つけて、いらない者扱いして、都合のいい奴とばかり繋がってなにが絆だぁっ!!」
甲斐田は部屋で一人思いのままに暴れた。
なぜ自分だけ?なぜ、お前達の言う『絆』とやらには自分を入れてくれない?所詮は、どう言っても今まで通り仲のいい者だけでつるみたいだけの話ではないのか?
憎い…!!心の醜い化け物達が憎い。憎い。憎い!!
嫌いだ…嫌いだ、嫌いだ!!家族も今までに知り合った人間もなにもかも!!
消えろ…消えろ、消えろ…消えろぉっ!!
怒りの衝動で振り回した手は棚の小物を落とし、蹴飛ばしたガラス瓶は音を立てて割れた。そんな彼の脳内では、テグサー1がこちらを見て笑っていると感じ、より一層暴れる事となった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
体力を使い果たした直後、物が散乱した部屋の中で、彼の表情は虚ろな物へと変貌していた。力のない笑みさえ見せていた。
「…やっぱり、この世界は能のある人、繋がりのある奴しか生きちゃいけないんだ…」
「それならば、僕はこの世界の『絆』にいられない存在…ハハッ、なにしろ、能力もない、金もない、どこいっても人と衝突するだけだもんな~…そりゃ、誰も繋がろうって思わないよなぁ」
甲斐田の足は徐々にタンスの方へと向かう。そして、引き出しから取り出したのは、一丁の拳銃であった。自己防衛用である。
「…もう、この世界に僕の居場所はない。なら、いなくなった方がいいよな…いくか…」
現世から羽ばたこうと、引き金を引きだす甲斐田。シンと静まり返る一室に、カチカチと音が響く。その時であった。彼のスマホが、持ち主の気を引くように振動したのは。
「…え、なに?こんな時に…」
条件反射でスマホを取り出す甲斐田はメールの送信者の名前を見た。登録した名前ではない為、なにも書いていない。その代わり題名にはただ一言、『修博士より、親愛なる友人へ。真実を添えて』と書いてあるだけであった。
「しゅ、修博士!?馬鹿な、博士は十年前に死んだ筈…スパムではないと思うけど…」
疑心暗鬼になりつつも、甲斐田は添えられた真実を読み始めた。
「…」
「……」
「………ふっ」
「は、はははは、そっかぁ、アハハハハ、ハハハハハハ!!」
「これが、これがジン・ガイア人の産まれた真実かぁっ!!これが、こんな事が!!こんな単純な事が、かぁっ!!」
「いーこと、きーちゃった、きーちゃった!!イヒヒ、アハハ!!」
喉をグッと上がるの感じつつ、銃を投げ捨てる甲斐田。その表情は虚ろな様子から一転、非常に晴れ晴れとしていた。
「よし、死ぬのは止めた。なにしろこんな面白い事が始まるんだから」
「それにしても、クックック。…この真実、そして修博士が目覚めた時、アイツらはどんな表情をするかな~?絶望か、それとも狂乱か?なんにせよ楽しみだなぁ、えぇ?クラスメイトの馬鹿共、そして…旋風重工、テグサーマン!!」
「それまではなんとしてでも生きてやる…イヒヒ」
甲斐田が暗い部屋で、一人、笑う。
その頃、遠く離れた別の場所でもう一人、暗がりの中でスマホで連絡している者がいた。彼女の名はモーラ。ラントムチームの一人でもある。
「はい、間違いありません。テグサーチームにはあの子達は知らない秘密があります…イリアに彼らと交流するよう提案した甲斐がありました」
「いえ、まだ決定的な証拠は見つかっていません。が、今日の戦闘でテグサー1がバリアを張っていました。でもそれはテグサー1自身の物ではありません。あれは旋風重工社長令嬢…レミーが張った物です。彼女は自覚がないようですが、記録映像がその様子を映していました」
「私も信じられませんが、真実です。やはりあの子に旋風重工はなにかを施し、政府と共にそれに乗っかった可能性があります…」
「今後は旋風重工にもっと探りを入れてみたいと思います。なにも知らされず、あの子達が重工にこき使われているのは見るに堪えませんからね」
「必ず、十年越しの真実を白日の下にさらして見せますよ…それでは、GRN長官…」
十年前に存在し、時が止められたその『真実』。果たしてそれはなにか?各陣営の働きによって止まった時は、その秒針を刻一刻と刻みつつあった。
どうも皆さん!!
どうやら物語は少しずつ、過去から動きつつあるようです!!
今回は第十六話のハイライト、
【挿絵表示】
ここまでの怪人のご紹介で失礼します!!
【挿絵表示】
※第十三話~第十六話までの登場怪人。
・(右上段)ヤドカリヤン:身長1.8m、体重100㎏
ヤドカリ型の怪人級で、寄生する、卵を産んで増えるといった能力を持つ。
・(右下段)オオヤドカリヤン:身長10m、体重30t
ヤドカリヤンが成長した姿。
・(中上段)デッドフィン:身長1.9m、体重95㎏
イルカ型の幹部級で、強力な超音波で戦う。
・(中下段)ガウスピード:身長2.3m、体重100㎏
チーター型の幹部級で、超高速で襲い掛かる。
・(左上段)バーンバード:身長1.8m、体重180kg
火炎鳥型の幹部級。全身に凄まじい熱を帯びている。
・(左下段)ドクターピポポタマス:身長2m、体重200㎏
役獣開発部長官。グラビトリーを使って前線に出るなど好戦的。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!!
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