・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
2-1
高層ビルが立ち並ぶ市街地の広場。暖かい日差しの中、トウマはテグサー1として変身、十体の敵兵士を前に構えていた。相手は黒いバイザー付きのヘルメットに黒く光る硬質のアーマー、その下に黒地のアンダークロスを装着、手には武器として棒や拳銃を各々構えている。
「はあっ、はあっ…うりゃあっ!!」
息を整える暇もなく、テグサー1は真ん中の立つ敵、ヘルメットの角が一角として装着されている、指揮官であろう兵士を目掛けて蹴りを放った。攻撃は見事に腹部へと命中したが深手とはならず、お返しにと、指揮官が持つ棒で腹部を突かれた。追い打ちをかける様に、他の兵士は構えた銃から弾を乱射した。
「ぐぅ、あぁっ!!」
避ける間もなく直撃し、大きくのけ反るテグサー1。彼の体から火花が何度も激しく散った。深手となったのか、力なく片膝を着く。しかし、すぐさま立ち上がり、駆け出すと近くの兵士の顔面に強烈なパンチをお見舞いした。吹き飛ぶ仲間に触発されて動く他の兵士。テグサー1一人に対して十体の兵士の殴り合いに発展した。
「はっ、つありゃっ!!」
肘打ち、ハイキック、膝蹴り。テグサー1はありとあらゆる技で迫る兵士達に反撃した。しかし、多勢に無勢。誰か一人にパンチを当てれば、後ろから棒で突かれ、他の誰かに飛び蹴りを放てば着地した瞬間に銃弾の雨あられ。そうこうしているうちに、装甲はみるみるうちに所々破損していた。一気にジャンプしたテグサー1は胸のアーマーを開いて撃竜波の構えを取った。徐々に溜まる、光のエネルギー。そして今まさに放とうとした前のめりになったその時、二本の棘が胸の発射装置を突き刺した。
「な、なにっ!?」
驚いたテグサー1は飛んできた方向を見た。そこには増援として現れた全身棘だらけであるハリネズミの姿を模した怪人の姿があった。腕を上げて唸る怪人。その横では兵士達が銃を構えて、気が付けばテグサー1を囲っていた。
「くっ、早く抜かねぇと…」
危険を察知したテグサー1は刺さった棘を抜こうと力一杯に引っ張った。しかし、深く刺さったそれは僅かにしか動かない。その隙を狙ってハリネズミの怪人は走る。同じく迫るは鋭利な無数の棘。
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
防ぐ事も避ける事ももう間に合わない。テグサー1は叫ぶ。接触するまで残り数cm。その時であった。視界に白い光が広がったのは。
2-2
「うわぁっ!!」
「はぁっ、はぁっ…」
トウマは大がかりなゴーグルを外して椅子から飛び上がった。汗をかき呼吸を整える彼の視界の先は街ではなく、テグサーマンの研究室であった。
「お疲れ様です、トウマさん。今のヴァーチャル戦闘を見てましたが、大敗を喫していた様ですね」
トウマの横で飛田が話しかける。彼の背後には大きなコンピューターが設置されており、モニターには先程の兵士達、怪人が映し出されていた。それを見ながら、トウマは飛田に言葉を返す。
「そんな事言ったってお前、いきなりあんなのが出てきたら勝てる訳ないだろ…反則だ、反則」
「でも、あれぐらいを想定しなきゃ実験のデータが得られませんよ」
「俺はあくまで涼って奴のアシスト、テグサーマンのデータ取りの手伝いをやるだけなんだろ?だからって、あんなにハードにする必要、あるか?」
「あります。バイオユニットは装着者の感情をフィードバック、テグサーマンはそれに呼応する様に強化されるんです。だから、多少ハードでないと実験の結果はより良い物が出ません」
「しかし、今回のトウマさんは戦闘結果はボロボロ、バイオユニットの力を引き立てる事も出来ずにグダグダ。これじゃあ、試験の意味がありません。一体、この前の戦闘はどうやったんですか?」
「それは…あの時は夢中だったから…」
「え!?飛田が連れてきた奴、全然ダメな奴なの!?」
二人の話に割り込んできたのはレミー。トウマが座る椅子の手すりに手を置いて、身を乗り出して話しかけてきた。
「社長…そうなんですよ。この前のはデータとしても非常に良かったんですが…このままじゃ、二号機が完成するのはかなり後になるかもしれません」
「えぇ~っ!!それじゃあ困るわよ!!ただでさえ涼が怪我して出られないってのに、データも取れないんじゃ話にならないわよッ!!飛田、コイツはアンタの眼鏡にかなう相手だったんでしょ!?これじゃあ全然ダメダメのダメ人間じゃない!!」
「社長、そんなに言わないで下さいよ。トウマさんは体力だけはありますから、まだギリギリダメじゃない、及第点人間と呼ぶべきです」
「おい、お前ら!!…本人を前に酷くない?わかったよ、兎に角明日には必ず結果を出せる様に努力するよ。それじゃあ、時間だから俺は帰るぞ…」
トウマは椅子から立ち上がり、傍の籠に置いたバイクのヘルメット、ジャケットを持って去ろうとした。が、その挙動に飛田が「待って下さい」と声をかけた。
「一応言っておきますが、トウマさん。本社に渡す履歴書等の書類、必ず忘れないで提出して下さいよ。一応、ここで働いている以上、それは必要となりますから…」
「あぁ、分かっているよ。それじゃあな。お疲れ~」
「お疲れ様でした」
後ろで手を振るトウマに挨拶をする飛田。レミーは少しの間を置いてから口を開いた。
「ねぇ、飛田?アイツが強いってのは聞いたけど、それだけじゃテグサーマンは強くなれないのよね?」
「はい。テグサーマン自体も性能は良いんですが、肝となるのは中に内蔵しているバイオユニット。装着者の想い、気力で大きく変わります。なので、その時のデータ基にして二号機を造る予定だったんですが…トウマさんがああでは雲行きが怪しいですね…」
「そう…アイツ、上手く引き出してくれるといいけど…」
2-3
バイクで駆け抜けるトウマは後ろに流れるビル群。その中で、物思いにふけっていた。
(俺はあの時…涼が倒れた時、俺は夢中であの怪人に立ち塞がった。明らかに勝てないのは分かっているってのに…)
(結果として、テグサーマンが奇跡的に俺に反応して勝ったみたいだが、今考えればもしアレがなければ完全にアウトだった…)
(しかし、なんでだ?なんでテグサロイドは俺に反応した?そして勝てた?一体俺の何が動いたってんだ?)
「っと、ここか…」
近くの超高層ビル、『旋風重工』の本社に気付いたトウマは近くの地下駐車場から専用駐輪場にバイクを停め、出入口の案内板を覗いた。
「えぇ~と、総務課、総務課は…と」
「電機課、流通課、営業課…げ、芸能課!?文庫・書籍課!?なんでもあるな、この企業…」
旋風重工は名前こそ製造業をイメージさせるが、実際はありとあらゆる業種、業界を運営している会社である。更に言えばそれら一つ一つの運営力や売り上げはどの種においてもトップレベルであり、世界のありとあらゆる国際的企業を相手にしても引けを取らぬ程であった。
「あ、あった総務課…十五階か…」
トウマがエレベーターで上がった地上階は車両がひしめく地下とは打って変わって明るく、外を覗けるガラスから見えたエントランスホールは広々とした空間であった。エレベーターはぐんぐんと上がる。十五階、総務課事務所に着いて書類を渡したトウマは引き返し、地下階を押そうとした。が、脳内でふと、ある事を自身に提案した。
(そうだ、折角来たんだから、せめて会社の見学くらいはしておくか…)
思いつくなりトウマは指を跳ねさせて一階のボタンを押した。乗り込むなり、今度はビル街を望む。その先にはビル群とその間をすり抜ける様に走る道路、豪快に白い煙を吐く大規模な工場、そしてその奥には蒼く光る海と地平線、そして夕陽といった色とりどりの風景が広がっていた。
「おお、綺麗…絶景だな。こういった風景はずっとあって欲しいよな…」
下降するエレベーターの中、近付く風景を見ながらトウマはそう呟いた。気が付けばスーツ姿の人々が同乗する。彼らの貫禄溢れる姿に、トウマは考える。
(やっぱり大企業の会社員は違うな…皆なんつーか、貫禄があるって言うか、パリッとしているって言うか、しっかりしている雰囲気があるよな…っていうか俺、私服で着てよかったんだろうか)
一階に着き、同じ目線から広がるエントランスの風景。それは正に優雅と呼ぶに相応しかった。外に繋がる高い壁は前面ガラス張り、常時百人以上は往来している床は一面大理石。中央には優雅に泳ぐ熱帯魚の水槽、のびのびと育つ観葉植物が設置されていた。せわしない人々が行きかう中、それらのお陰で重工にはゆったりと、落ち着いた雰囲気が流れていた。
「さて、折角名札を手にしたんだ。まだ時間もあるし、社員食堂でも行って、格安で美味い飯でも頂くとするか。腹減った…」
トウマは目の前の階段をリズムよく降りて、案内板を見ようと入り口に近付いた。しかし、案内板と彼の間に設置されている物、流れる音声が彼の足をピタリと止めた。
「ん?」
それは高い壁に掛けられている大型のモニターであった。本来であれば気にも留めず進むトウマであったが、流れるニュース映像を見て、止まらずにはいられなかった。
「あ、ああ…」
映像はジン・ガイア帝国がまだ人としての知識を得る前に襲撃される未来島を空撮した物であった。大海原に浮かぶ広大な金属の塊。それこそが未来島であった。そんな島は所々から火や煙が上がり、穴も開いている。それは天井があり、内部が見えない島の被害状況を物語っている様であった。そして次の空撮映像。ジン・ガイアの生命体は本州に上陸し、人々を次々と襲った。但し、その襲撃は獣の様な襲い方ではなく、道具や作戦、態勢の整った極めて人間に近い理知的な物である。これに対し、当時の防衛軍は予想外の攻撃に対応しきれずに手こずり、最後には帝国の圧倒的な勝利の様子、惨状と化した街が映し出された。そして最後に映し出されるのは総統閣下、ジン・バイルが整列した兵士を前に高々と演説をする姿であった。
「はあっ、はぁっ…」
終了した当時の映像に、残されたトウマはみるみるうちに悲観的な表情を見せた。呼吸が乱れ、手も震えている。冷たくなった人々の身体と冷めきった血で死屍累々となったその光景に、その場に膝を着こうとさえした。しかし、その動きは最後に奮い立たせた気力によってピタリと止まる事となった。
「落ち着け、落ち着くんだ…よし…」
呼吸を落ち着かせたトウマは近くにあったソファーに腰かけた。その頭はうなだれている。
「俺はあの時なにも出来なかった…いや、しようともせずにただ泣きじゃくっていた。今また俺はあの時と同じ事を繰り返すだけなのか…?」
脳内に再度繰り広げられるフラッシュバック。そこでは少年は先程の死屍累々となった現場で大粒の涙を流していた。そんな脳内を包むように、夕陽は徐々に沈み、闇を広げる。その時であった。
「トウマ…!!」
凛とした女性の声。その声にハッと我に返るトウマは、「あ、あぁ…!!」と、顔を見上げるなり言葉にならない声を出した。彼の目の前には包帯が痛々しく巻かれている、涼の姿があった。
「トウマ、一体どうしたんだこんな所で…?一応、お前はここの人間だ。あまりエントランスで妙な事をされても困るぞ」
涼はトウマに対して苦言を呈してはいるが、見下ろすその表情は慈悲深い物であった。その顔を見たトウマは今自分がどんな状態であるかを察し、両手で顔をこすってからいつもの表情へと戻った。
「い、いや、大丈夫だ…何でもない。悪い、すぐにこの場を去るよ。どうもここの空気は俺には似つかわしくないしな」
そそくさとその場を去ろうとしたトウマを、涼は立ちはだかって引き留める。
「…待て、別に出ていけといった訳じゃない。折角来たんだから少しくらいは話でもしないか?」
トウマは一瞬怪訝な表情をしたが、最終的には会社の奥、狭い休憩スペースで二人、横並びの形で長椅子に座る事となった。
「それで、もう一度聞くがどうしてあんな所でああなってたんだ?」
未開封の缶コーヒーを手に、涼は横目で問いかける。
「あぁ、ちょっと昔の事を思い出してな…それで苦しんでいたんだ」
「昔の事…?」
「ちょっとした苦い思い出だよ。情けない話、俺は未だにそいつを引きずって、時たま怯えているんだ…」
「そうなのか…だが、飛田の話じゃ、かなりの勇気を持って戦っていたと聞いたが…」
「あの時は無我夢中だった。だけど、今思い返すとよくあんな無謀な事が出来たと我ながら思うよ…それより、俺もお前に一つ聞きたい事があるんだが、いいか?」
「…なんだ?」
「お前はあの子供…社長から頼まれてこの計画に参加したんだろ?」
「そうだが…」
「頼まれて断ろうとはしなかったのか?戦うってのは、自分が傷つくのは勿論、誰か傷つくのを見る可能性だって十分あるのに、どうして…」
「そうだな…」
涼は目を伏せて考えてから、ゆっくりと目を開いた。
「給料と待遇がいいから…かな」
「…え!?」
「フッ、冗談だ…私はこの仕事に就く前は先祖代々の武術館の館長の候補をしていたんだ。しかし、勤めて始めた現状、この世界は既にジン・ガイア帝国との戦いは蔓延化、刃と銃弾、ビルをも溶かす熱戦と原理不明の精神攻撃が立て続けに勃発していた…」
「その時、私は常日頃考えていた。武器や兵器が飛び交う世界で私や先祖の武術は何の役に立つか、何の為にあるのか…ってな」
「で、そんなある時だ。私の元にあの社長、そして本来の本社の社長…まぁ、あの子の父親だな。その二人が訪ねて来たんだ。これから始める我が社のプロジェクト、娘と共に参加してくれってな」
「私は当初迷ったよ。お前と同じで、今言った事を踏まえた上で何にも役に立たずに足を引っ張るだけ、そしてなにより、自分や誰かが傷つくのを見るハメになるんじゃないかってな」
「その時、本来の方の社長が言ってくれたんだ。『そう悩んでいるのは、君は奥底では誰かを守りたいと考えているからだ。もし誰かの事を想わなければそんな考えにはならない。今の君は実に素晴らしい事だ』『でも、こうも考えられないかな?今行ってたら、救えた命もあるってもっと後悔し、悩むんじゃないか…と』『我々の計画は人として戦う装着型のスーツを計画中だ。それならば、君の技術、そして想いは無駄にならないよ…』と言われたんだ…」
「私はその言葉に賭けてみたくなった。自分は今この世界で何が出来るか、どこまで救えるかを、な。で、数日考えて、今に至る…って訳だ」
「…まぁ、怪我した今の現状では何も出来ないがな…」
涼は自虐気味に微笑みながら、腕に巻かれている包帯をトウマに見せた。
「だからトウマ、今は深く考えず、やれる事は全部やってみるんだな。飛田から聞いたが、今はデータ収集の仕事だけしてるんだろう?なら、今はそれに集中して、私の怪我が治るまでには完璧にしてくれよ、な」
「あ、ああ…分かった」
「さて、私はこの辺で失礼するよ。本社で片付けなくてはならない仕事があるんでな」
涼は缶コーヒーを開けて一気に飲み干すと、スッと椅子から立ち上がった。
「…涼」
「なんだ?」
その場を去ろうとした涼に、トウマは後ろから呼び止める。
「ありがとよ、色々話してくれて…後、悪かった。嫌味で無茶苦茶な奴だと思っていたが、意外と話せる奴だって、今実感したぜ…」
「フン、それはお互い様だ。ぶっきらぼうだと思っていたお前は結構悩むタイプだって、今知ったからな」
2-4
「それでねそれでね!!先週までお互いが守りたい大事な人を助けるために、昨日の回で争っていた二人のヒーロー、ヘビーマンとジャクネークが手を取り合っていよいよ敵の基地に乗り込むの!!それで…」
翌日の早朝、穂乃花は一緒に登校するトウマに昨日見た特撮ヒーローについて熱心に語っていた。しかし、聞き手は興味がなさそうに少しだけ頷くだけであった。
「トウマ、どうしたの?な~んかいつもと様子が違くない?」
それを察した穂乃花は話を止め、彼の前に立ち塞がると大きな瞳でじっと見つめた。
「あぁ?いつもの俺はこんなのだぞ?」
「嘘。だってこの話、トウマも見てるのに全然興味持ってないもん」
「だって俺、録画派だし…」
「知ってるよ。でも、それでもトウマ、いつもは『あー、そー』とか『そうなんかー、そうなんかー』位は答えてくれるもん」
「いや、今日は本当にたまたま…って、お前、俺が録画してるって知って、今週のネタばれかましてくるのか?」
「あ、そうでした。えへへー…」
いつもの日常的な会話を続けている二人の視界に高校が見えてきた。山の上にあり、木々に囲まれる校舎。周りには坂を駆け上がる生徒の姿もある。目に入った瞬間、トウマは静かな口調で穂乃花に問いかけた。
「…なぁ」
「ん、どうしたのトウマ、急に話し始めて」
「今さ、俺達の時代ってこんな感じじゃん?」
「感じって?」
「ホラ、今この世界ってさ、お前がいつも見てる特撮ヒーローみたいな怪人が幅を利かせて世界各地で暴れている訳だろ?それなのに、空想のヒーローを追い求めて空しくならないか?番組が終わって、現実に戻ったら日々の襲撃事件、悲しい事件が自分の耳に入るってのに…」
「う~ん、そうだな~」
穂乃花は唇に人差し指をあてがって考え、纏まると語りつくす先程とは打って変わって諭すように答え始めた。
「…確かに、現実は暗くて辛い事ばかりだよ。ため息だって出てくる。でもさ、現実がこうだ、空しいからって腐り続けていたら、持てる少ない希望も持てなくなるんじゃないかなぁ?」
「要するに私がヒーロー物を見ているのはさ、そんな希望を忘れない為にあると思うの」
「希望か…」
「そーそ。これは私の想像だけど、作っている人達も希望を持ってほしい。終わらない戦いはない。そう考えて制作に望んでいると思うんだ。実際、そういった感想も書いている人もいるし…ん?」
その時、二人のスマホからけたたましい警報音が鳴った。
「な、なになに?」
穂乃花は慌ててポケットからスマホを取り出した。彼女のスマホの音声はマナーモード。それでも鳴るという事は余程の緊急事態である事を彼女は熟知していた。
「え~と、怪人級一体と戦闘員級十数体が出現。現在、防衛軍が対処中で…場所は…うわっ、六角町って隣町じゃん!!避難勧告、ここも対象に入ってるし…」
穂乃花が画面を注視し、町名まで読み上げた瞬間、傍らで誰かが駆け出した。その風を肌で感じ、顔を上げて思わず確認した。その時の彼女が見たのは、元来た道を走る、トウマの後ろ姿であった。
「ちょ、ちょっとトウマ!?どこ行くの!?」
「忘れ物を取りに行ってくる!!先に行っててくれ!!」
「い、いいけど今から行ったら遅刻になるよ!?」
「そんなら代返しといてくれ、じゃ!!」
「だ、代返って…席決まってるから無理に決まってんじゃ…行っちゃった」
穂乃花と別れたトウマは怪人級のいる現場であるビル街へと到着。陰から覗いた瞬間、彼は絶句した。
「フシュルルルルル…」
不気味な鳴き声を放つ、ハリネズミの姿を模した様な背中から腹まで全身針だらけの獣顔で二足歩行の丸い怪人。周囲には彼が飛ばしたであろう針が人々を刺し貫いていた。
「ひ、ひでぇ…」
怪人に襲われ、白い石の地面が赤い血で染まる。そんな中で、倒れている人々をトウマは見た。怪人に立ち向かったであろう防衛軍兵士達にスーツ姿の男性、私服の若者の集団など様々であった。
「!!あれは…」
見渡したトウマはある人達に目を止めた。それは、刺されて倒れる女性、そして、その傍らで泣きじゃくる幼稚園児の二人組であった。
「う、うぅ…同じだ、あの時と…」
その様子から、トウマの脳裏にあの時の光景が蘇る。幼い頃に見た、惨い光景。その瞬間、頬に汗を滴らせる彼の耳に高笑いが聞こえてきた。
「ハッハッハッ、どうやら防衛軍の連中、手も足も出ないみたいだなぁ!?」
その笑い声の主はマツナガであった。その背後にはコブンロと、黒いアーマーにフルエイスのメットを着用したジン・ガイア帝国の兵士達もいる。そして、彼の言う通り、彼の視線の先には頑強な防具にフルフェイスのヘルメットを装着した防衛軍の兵士『メニー』達が盾や銃を持って待ち構えている。というより、攻めあぐねている、といった感じであった。
「それにしても、試験的にコイツ…ホッグルを運用してみろなんて、いきなり言うんだもんな~。しかし、だ。こんなに活躍出来るとはなぁ?やっぱり、これはひとえに俺の手腕があってこそ、って事かなぁ?な?」
マツナガは得意そうに後ろの部下達に話しかける。彼らはヴァーチャル戦闘の時と同じ姿をしていた。
「そうですな~、アッハッハッハ!!」
コブンロを筆頭に、彼らは一斉に爆笑した。
「よぉし、それなら一気にフィニッシュを決めようぜ。おい、ホッグル。周りの人間に向けて一気に針を飛ばしな!!」
笑いが止んだと同時にマツナガはホッグルに命令を下す。
「フシュルルルルル…」
命令を受けた怪人は膝と腰を曲げて構える。攻撃に備えてか、防衛軍の兵士達は盾を先ほどよりしっかりと構えている。
「あ、そうだ。特にあれだ、アレをメインに狙いな。あそこにいる女とガキをな!!」
マツナガの命令に、人間達は一気にざわついた。彼の指差す先には、未だにその場から離れていない女性と幼稚園児がいたからだ。
「い、イカン!!撃て、撃てっ!!」
防衛軍の隊長の号令の元、メニー達は一斉にマシンガンを構え、怪人を狙い撃ちした。しかし、怪人は銃弾を全身に浴びても一切怯む事はない。針が数本折れるだけであった。その間にも、怪人は数歩歩んで狙いを定める。
「あ、あぁ…」
この瞬間、幼稚園児は自身に怪人が迫っている事に気付いた。女性を引っ張って逃げようともした。しかし、怪人は無情にも迫り続け、次の瞬間、「グワァッ!!」という雄叫びと共に、彼の腹を覆う針を数本発射した。
「キャアアアアアッ!!」
「あああああっ!!」
傍観するだけの兵士達の阿鼻叫喚。高速で迫りくる針の風を切る音。彼らは気付いていない。その声の中に「チェンジ、テグサーマン!!」と叫ぶ声があった事を。
「あ、あぁ…あ?」
恐怖で目を伏せた幼稚園児は迫って来る筈の針が来ない事に疑問を持ち、怯えながら目を開いた。彼の視線の先。そこには自身を針から庇った戦士、テグサー1の背中があった。
「ゲッ、アイツはこの前の…」
宿敵の登場に、マツナガは口に手を当てて不安そうに眺めた。
「はぁぁぁ…ハッ!!」
テグサー1は腕や肩に刺さっている針を力任せに一気に引き抜いた。それを投げ捨てると、飛ばした張本人、ホッグルに向かって、一気に駆け出す。その時、彼の脳内にとある声が響いた。
(遂に開いたか、戦士への道…頼んだぞ、どれだけ辛い道でも、私が愛したこの星を、希望を守ってくれ…)
(だ、誰だ!?この声、夢で聞いたのと同じ声だ…久しぶりに聞いた懐かしい声のような気がするが一体…)
「やれ、行け!!」
テグサー1が疑問に思う中、マツナガは実験体を倒されんと部下に指示を出す。彼らの手には各々ナイフやロッドを携えていた。
「「はぁっ!!」」
手始めに部下達は二人同時にロッドを振り下ろした。テグサー1は臆する事無く片手で掴み、一気に投げ飛ばす。
「「ぐわぁっ!!」」
吹き飛ばされ、地面に激突する部下達。二人を跨ぎながら、他の部下達も一気に迫る。人海戦術で彼らは一気にテグサー1を囲った。
「ッシャ!!」
部下の一人がナイフを突き刺す。テグサー1は腕のアーマーで刃先を受け止め、反撃に強烈なキックを腹部にお見舞いした。
「えっ!?うわっ!?」
後方に大きく吹き飛んだ彼の先にはコブンロがいた。不意に飛んできた仲間に対処しきれず、受け身を取る事無く、コブンロは二人仲良く地面に激突。そのまま気を失ってしまった。
「はっ、はっ!!」
その間にもテグサー1の激闘は続く。固い拳、つま先から繰り出される強烈な殴打、蹴りに兵士達は次々と倒れ、最後の一人が吹き飛ばされた瞬間、二人の若者が姿を現した。
「トウマさん…!?凄い、テストの時とは全く違う…!!」
「フン…」
その二人は飛田と涼であった。彼らが隠れてテグサー1の様子を見ていた。その瞬間、マツナガはホッグルに指示を出した。
「クソッ、このままじゃ、俺らの評価が爆下がりだっ!!行けホッグル!!頑張れ、お前が頼りだっ!!」
マツナガは激励する様にホッグルの背中を思い切り叩いた。当然刺さる、怪人の針。
「あっ、イッテー!!」
悶絶の声と出血を合図にホッグルは突進をテグサー1に向けて放った。
「なにっ!?ぐわっ!!」
兵士に気を取られていたテグサー1はホッグルと激しく衝突、後方へ大きく吹き飛んだ。
「く、クソッ…」
突然の襲撃でも足を踏ん張らせ、倒れないテグサー1。そしてすぐさま反撃の拳を上げたが目先の怪人を見て躊躇した。何処を攻撃しても、自分へのダメージの方が大きくなると感じたからだ。
「くっ、一体何処を狙えば…」
「トウマさん!!腰のホルスターにナイフがありますっ!!そいつを使って下さいっ!!」
「飛田…よしっ!!」
テグサー1は後方に飛田がいる事に気が付いた。彼の傍らでは涼が女性を運び、幼稚園児を連れている。
「グワァッ!!」
テグサー1が意を決した瞬間、痺れを切らしたホッグルは再度一直線に突撃した。テグサー1は針に狙いを定めて両手で別々の針を掴んだ。
「グワァ!?」
突然、自身の針を掴まれたホッグルは戸惑いを隠せない。その隙を狙って、テグサー1は足を踏ん張る。
「うおりゃああああっ!!」
ホッグルの足が止まったその瞬間、テグサー1は一気に持ち上げ、ジャイアントスイングで振り回した。
「だぁっ!!」
テグサー1は誰もいない場所に目を付けた。そしてその瞬間、彼はそこ目掛けて全力で投げ飛ばした。
「ギュワッ!?」
投げ飛ばされたホッグルは地面を転がり、仰向けで足をジタバタさせた。しかし針が邪魔で上手く起き上がれない。まるでひっくり返されたリクガメである。その隙を狙って、テグサー1はホルスターからナイフを取り出し、一気に迫った。
「えい、はぁっ!!」
テグサー1の持つ、鋭利なナイフは針の側面を次々と切り裂いた。下部から切り裂いている為、徐々に見えるホッグルの腹部。
「ズェアッ!!」
自慢の針を切られ、ホッグルは我慢出来ずにテグサー1の足を蹴飛ばした。
「うわっ!!」
後ろへ転がるテグサー1。同時に腹筋を使ってなんとか起き上がるホッグル。腹部は密集していた針がなくなり、ピンクの腹が露出していた。
「よし、行くぞ!!つあぁぁぁっ!!」
好機と見たテグサー1は飛び上がり、ホッグルの腹部へ強烈なパンチを放った。
「ギャッ!?」
今まで腹部へのダメージはなかったのか、ホッグルは悶絶の声を上げる。その次の瞬間、テグサー1は両手で連続してパンチを浴びせた。そして最後の一発、大きく振りかぶった拳に腹部は大きく歪み、全身を共鳴させるようにホッグルは吹き飛ぶ事となった。
「よし、今だっ!!」
ダウンしたホッグルを前に、テグサー1は撃竜波の構えを取った。徐々に溜まっていくエネルギー。
「ゲキャアッ!!」
自分に迫るであろう必殺技を前に、ホッグルは針を飛ばした。
「やらせるかっ!!」
エネルギーを溜めながらも、テグサー1は足で針を蹴飛ばし、すぐさま足を地に着けた。その瞬間、彼は叫ぶ。
「撃、竜、波ぁぁぁっ!!」
チャージを完了し、胸から一直線の光線が放たれた。ホッグルは避ける間もなく直撃、彼の体は一瞬光ったと同時に、一気に爆散した。針だけが、辺りに散らばった。
「ゲッ、またアイツ…!!畜生、覚えてやがれっ!!」
目の前で吹き飛び、炎の一つとなったホッグルを前に、マツナガは腕を振ると、そそくさと帰っていった。一人、我先にと。
「あ、兄貴!?置いてかないで下さいよ~」
なお、目が覚めたコブンロが慌てて後を追ったのは言うまでもない。
「ふぅ…」
テグサー1は一息ついた。と、彼の後ろから防衛軍の兵士達がドドドッと迫り、人々の救助に向かった。
「やれやれ、後は国の人に頼むか…」
テグサー1は人だかりならぬ兵士だかりの間をすり抜けて、人気のない場所に移動した。それと同時に変身を解除、トウマへと戻った。
「や、やりましたね、トウマさん!!」
近くの茂みから飛田が飛び出した。その後ろでは涼も顔を覗かせている。
「飛田…サンキューな、あの時のアドバイス、助かったぜ」
「いえ!!それより、どうやってあんな力をつけたんですか!?昨日のとはエラい違いみたいでしたし…」
「そうだな…」
トウマは目を伏せて思い出した。幼き日に見た、無残な光景。そして、今日もまた繰り返された光景。そして、『やれる事を全力で』『皆の希望になりたい』という二人の言葉を。それらを反芻したトウマは目を開いて答えた。
「誰かの希望でありたい、見ているだけの存在でありたくないって想ったからかな」
「なんですかそれ…えらい抽象的ですね」
「あ、あれっ!?参考にならなかったか!?」
飛田の予想外の返答に、トウマはズッコケる。
「ん~、分かるような分からないような…まぁでも、今回の戦いで大きく進歩しました。早速事務所に持ち帰って、参考にして来ます…」
「お、おい待てよ。なんか釈然としないぞ…!!おい待てって…!!」
さっさと行ってしまう飛田を、トウマは追いかける。
「トウマ…」
その背後で涼は静かにトウマのある部分、首筋を見ていた。なんと、そこには彼の血がべっとりと付着している。しかし、それに気付かずに本人は飛田を追いかけ続けている。そんな様子を涼はトウマの怪我と自身の怪我を見比べ、怪訝な表情で見つめ続けた。
「くっ、私がいればアイツは…」
涼は悔しそうに呟くと、彼らを追いかけた。こうして、テグサーマンも帝国の兵士も帰り、平穏を取り戻したビル街はまたいつもの一日が始まるのであった。
こんばんは!!
第二話の投稿となります!!
そして、下手で申し訳ありません!!
この話までに登場した怪人の絵を投稿致します!!
よろしくお願いします!!
【挿絵表示】
・(右上段)マツナガ(枠内、前数値は人間態):身長1.8m、体重75~95kg
カメレオン型の幹部級で、変装が得意。
・(右下段)コブンロ(枠内、前数値は人間態):身長1.8~2.1m、体重90~180kg
イノブタ型の怪人級で怪力が自慢だ。
・(左上段)イエティマン:身長2.8m、体重580kg
雪男型の役獣で冷凍光線を放つ。
・(左下段)ホッグル:身長1.7m、体重100kg
ハリネズミ型の役獣で、全身から針を飛ばす。