テグサーマン   作:クロッカーズ

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《登場人物》
・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。テグサー2に変身する。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。テグサー3に変身する。
・大城茜…天才的なバイクセンスを持った女子高生。テグサー4に変身する。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
・イーヴィル・ディーン…ジン・ガイア帝国のエリート兵士。
・イリア・ラントム…高飛車な若き女性社長。メデューザに変身する。
・モーラ・フォーゲル…ラントムチームの姉的存在。ロックオン・スナイプに変身する。
・ジョージ・スミス…陽気でチームのメーカー的存在。キャノン・ダイザーに変身する。
・浦島ヒロシ…物静かな男。ダイ・ソードに変身する。
・甲斐田光雄…トウマ達のクラスメイト。
・ゴッドラスト…十年間、ジン・ガイア帝国の陰で憎悪と成長を続けた『元人間』。
・バドリード…マツナガの上司。ゴッドラストに肩入れし、地球上の君臨を目指す。


第二十二話『放浪』

22-1

 

かつて、未来島で執務室と呼ばれた一室には三人の種族違いの者達がいる。

 

「ゴッドラスト様、日本の救援に来ていた米軍艦十数隻はご命令通り役獣を使って全て轟沈させました。恐らくこれで、しばらくは日本に住む者達は脱出出来ないでしょう」

 

作戦報告をするジン・ガイア人のバドリード。

 

「うむ、わかった」

 

人間とジン・ガイア細胞の合成生命体へと進化したゴッドラスト。

 

「くっくっく、これでもっと日本は他国から非難される。そうすれば僕を蔑んだ奴らももっと苦しむ。全くいい気味だよ」

 

そして、バドリードの報告を嬉々として受け入れる甲斐田。彼らは今、この地球をたった三人で作り替えようとしていた。全ては、自分を蔑ろにした意思ある者達を排除する為に。

 

「それにしても光雄よ」

 

「は、はいっ!!」

 

光雄とは甲斐田の名前である。修の時と変わらず、自分の名前を呼ぶゴッドラストに甲斐田はぱぁっ、と明るくなり、はきはきと返事をした。

 

「まずは数日、存分に地上を壊滅させ、その後はしばらく様子見、人間達に不信感や憎しみ、他人を蹴落としてでも生きようとする心を芽生えさせてお互い自滅させる作戦を思いつくとはな。お陰で防衛軍も治安回復に手間取り、効率よく地下や空の環境を腐らせる事が出来る。感謝するぞ」

 

「ふっ、人間というのは重大であっても目に見えなければ放っておくもの。だから、環境が崩壊するなんて重要な事より、口先だけが目立つ人間の方を優先するんです…まるで、自分には関係ないと他人に無視され続けた僕と、やかましく動き回り、くだらない連中と同じようにね」

 

「ふむ、そうだったか…ところで、テグサーマンの様子はどうだったかな?奴は、かなり厄介だからな」

 

「あぁ、あいつらですか?会いに行きましたが大した事ありませんでしたよ。もう少しの所で倒せそうでしたし」

 

「なにっ!?甲斐田、お前、テグサーマンと戦ったのか!?」

 

テグサーマンの名を聞くと同時に、それまで椅子に座っていたバドリードは一気に立ち上がった。

 

「え?そうですけど?まぁ、あんなの大した事ありませんよ。例のジン・ガイアの細胞でパワーアップしたレミーもいましたが、それもひっくるめて僕が選んで連れて来た怪人で優勢まで行きましたし」

 

「…光雄よ、レミーもいたのか?」

 

ゴッドラストは両腕を組んで問い掛けた。

 

「はいっ!!残念ながら逃げられましたけど…」

 

「…目覚めた人間とジン・ガイアの細胞のハーフを私の体内に取り込めば私の体は更に強力な物となる。それは今後の為には必要だ。先に言うべきだったな」

 

「えっ!?そうなんですか!?でも、今の修博士には必要ないですよ!!十分に強いんですから!!」

 

「ふむ、かもしれんな…」

 

ゴッドラストが下を向くと同時に、バドリードは退出せんと、ドアノブに手をかけていた。

 

「あれバドリード?どこへ?」

 

「…次の作戦の準備だ。残ったジン・ガイア帝国の処理もしなければならないしな」

 

「そっか~、それじゃあ頑張ってねぇ~」

 

甲斐田は手を振ってバドリードを見送る。その顔は、ニタリとした笑みを見せつける様であった。最も、見送られた側はなんの反応も示さなかったが。

 

「…アレ?なんだか寂しい奴だなぁ?挨拶も返さないなんて」

 

「そう言うな。種族によって色々とある。それより、ホラ」

 

「え?」

 

甲斐田が振り向くと、ゴッドラストは絨毯の上で正座をしていた。

 

「やっと二人きりになったんだ。久しぶりにしないか?」

 

彼は自身の太ももを軽く叩く。

 

「あ、はいっ」

 

と、甲斐田は寝そべって後頭部をその膝に乗せた。

 

「本当に久しぶりですね、こうして膝枕をしてもらうのは…」

 

さしのべられた白い右手を両手で握りしめる甲斐田。

 

「うむ…」

 

ゴッドラストは左手で彼の頭を撫でる。

 

「…この十年、僕は人間達にぞんざいに扱われてきました。家でも、外でも、力に振り回されながら」

         

「僕が右だと言えば、皆は左を選ぶ。正解だと言えばそれは間違いだと頭ごなしに否定する。そして、いつの間にか皆、僕と距離を置くようになった」

 

「それはどうして?理由は自分でもわかっている。不器用だから。顔が悪いから。話術もお金もなにもなくて、付き合うにはなんのメリットもないから。でも…でも、でもさぁっ!!それならなんで冷たく突き放すの!?なんで嘲笑って、僕をからかうの!?これじゃ萎縮して、なにも出来ないのは当たり前だよ!!」

 

「そうか、色々と大変だったな…」

 

「そうですよ、大変でしたよっ!!ハッキリ言って、ムカつくんですよっ!!死んだ祖母も、白い目で見ていた近所の主婦連中も、いたずら心に馬鹿だの阿呆だの言って、悪口を投げてくるガキ共もっ!!」

 

甲斐田は怒りに任せて、ギュッとゴッドラストの手を強く握る。握られた方は顔色一つ…といっても元々表情はないが、変える事はなかった。

 

「特にムカつくのはねぇ、学生生活ですよっ!!なんなんですかアレは!!僕の事をよってたかって見下して、馬鹿にして!!!!なのに他のお友達とは絆なんて下らない物で繋がって馴れ合って!!夢を持って、それに向かって己の技量で頑張って!!ちやほやされて!!そんな想いあるんなら、僕にも向けてくれよって話だっ!!」

 

「前に、僕は教員に仲良くしたい事を相談しましたよ。それなら話しかけてみたらとアドバイスされ、勇気出してクラスメイトにそれを実行しようとしました…でも、結果は半笑いで避けられて、あっち行けと悪態をつかれて終わりでした。それに対して教員はなんて言ったと思います?半笑いで『頑張れ。なにか取り柄を手にすれば振り向いてくれるかも』その一言ですよ。相手にされてないのに、どう頑張れと!?どう努力しても人未満の僕で!?…ハハッ、笑いたいのはこっちだよ、こっち…あぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」

 

「憎い…憎い憎い憎い!!この世の意思ある生き物共が憎いっ!!下らない絆なんて僕の手でぶっつぶしてやるっ!!」

 

甲斐田は突然、足をバタつかせ、絨毯を激しく踏み続ける。埃が舞う程に何度もだ。その姿はまるで、思い通りにならず、癇癪を起こす子供の様であった。ゴッドラストはそんな姿をただジッと、黙って見つめる。と、甲斐田はピタリと足を止めて話を続けた。

 

「…こんなんだから、いつか僕は刃物でも持って暴れるかもしれないなんてしょっちゅう考えていました。けど律して我慢していましたよ。きっと返り討ちに遭うか、捕まって独房に入れられて終わりだと思っていましたからね」

 

「辛かったな…」

 

「えぇ、だから全て終わらせようとしましたよ。でもその直前、救いの手が舞い降りて来ました…修博士、あなたの…一通のメッセージです…」

 

「む、そうだったか」

 

「僕は、二度もあなたに助けられた。幼かった時も、追い詰められた今でも…だから、だからこそ、深く博士に感謝し…蔑んだこの景色の向こうの奴らには…ざまあみろって思いますね!!」

 

甲斐田が指差す大型のモニターには日本列島の遠景があった。工場地帯からは煙が立ち込め、ビル街や学校は巨大茎が静かに巻かれている。先週と全く違う、変わり果てた景色に甲斐田は口角を引きつったかのように上げていた。

 

「これぞ因果応報!!神は見ておられるのですね、不幸な人間に、盛大で最大な幸福を与えるなんて」

 

彼は首を大きく上げ、ゴッドラストを見上げる。

 

「ねぇ、博士?これから先、人間とジン・ガイア人滅ぼしたら博士の能力で新しい世界…僕らを想ってくれる生命に溢れる世界を作るんですよね?」

 

「そうだ、それが沢山いる中で、我々二人きり頂点に立って生きようではないか」

 

「ははっ!!それはいいっ!!楽しみ、だなぁ…ふぅあ~…」

 

心躍る中、甲斐田は強烈な睡魔に襲われた。

 

「どうした、眠くなったか?」

 

「えぇ、興奮しっぱなしで、今疲れがドッと出てきました。少し、眠っていいですか?」

 

「あぁ、後は任せておけ」

 

「はい。では、おやすみなさ…い」

 

甲斐田はぐっすりと眠る。彼の安らかな表情に、ゴッドラストは飼い犬を扱うかの様に優しく髪の毛を撫でた。

 

「そうだ…私はこの世界を変える…生き残るべきは、真に、天より力を持った者だけなのだ…」

 

『最後の神』は呟く。不安と恐怖が入り混じり、暗雲立ち込める人間界を見つめながら。

 

22-2

 

地球が未曾有の危機に陥ったのを知ってか知らずか、陽は昇り、またも地上を照らす。飛田は鉄橋下の河原の土手で一人、目を覚ました。

 

「んん…朝になったか」

 

退職日から翌日、彼はここで一夜を過ごしたようだ。それを物語る様にジーパンには泥が付着している。

 

「これから先、どうしよう…仕事辞めて…学校もやってないし…こんな事なら、お母さんと一緒に被害の少ない所に避難すればよかったか…それとも、やっぱり辞めるべきではなかったか」

 

迷う飛田。しかし彼の脳内に、これまでの激戦で傷つくトウマ達、怒りに任せて散っていった女性、変わり果てたレミーの姿が過ぎていった。

 

「…いや、イヤだ!!もうあんな目にあっても、頑張っても、原因を産み出したあの会社と、国にただ奉仕しているだけじゃないか!!もう戻らないぞ!!もしかしたらこの先、あのゴッドラストみたいになるかもしれないし、なにより皆のあの悲しい姿は見たくないし…でも」

 

決意しても、やっぱり迷う飛田。すると、リュックにつけたGooGooZのキーホルダーが彼の視界に入った。

 

「…そうだ、GooGooZだ!!あれから連絡はつかないけど、確か先週の全国ツアーでこの県内にいる筈…きっと会いにいけば元気になってこれから先の方向性がわかるかも!!よし、そうに違いない!!行こう、都市部に!!」

 

今度は確実に決意した。飛田はすくっと立ち上がる。それまでの鬱々とした気分が嘘であったかのように。それから数十分。彼の足取りは軽く、町外れの土手から一気に多くのビルが立ち並ぶ都市部へとやって来た。

 

「はぁ…やっと着いた。それにしても、変わっちゃったな…」

 

公園で休むと同時に、飛田は周囲を見渡す。上階が溶けた古ぼけたコンクリートのビル。裂けた道路。どこからか立ち込める黒煙。崩壊した日常が、そこにはあった。

 

「ん?なんだ?」

 

周囲に気を取られていた彼は不意に頭になにかが落ちてきたのを感じた。拾うと、それはイチョウの葉っぱであった。ただし、それは真っ黒にまで変色し、軽く握っただけでボロボロに崩れ去る程に脆くなっていた。異変を感じた飛田が頭上を見上げると、イチョウの木は腐り、枝や大木が完全に白く変色しているのがわかった。

 

「そうか…ゴッドラストの力で地層の環境まで狂ってしまい、妙な病気にまでなったのか…今は十月末だから、もしなにもなかったら綺麗な黄色で彩られていたんだろうな…ゴメンね、イチョウの木…」

 

「…」

 

飛田は木の下のベンチに座る。

 

「よし…!!」

 

そして、リュックを開け、ノートパソコンを膝に乗せてすぐさま立ち上げた。続けて、いつも通りにキーボードを滑らかな手つきで打ち始める。

 

「あのゴッドラストは今までにないタイプだ…他人の能力、養分、大規模なエネルギーを吸収、それに伴った自己再生、更にはいくつもの生命体を産み出し、植物、環境を操るなんて…本当に、奴に弱点はあるのだろうか…?倒せないだろうか?」

 

「いや、必ずどんな相手だって弱点はある筈…誰だって限界はあるし、対処しきれない事だってある…となると、相手は三人だけ。今までの帝国と比べての大人数とは違う。そこに弱点はあるか?それと、吸収するにしても限界量がある筈…それの決め手は、やはり想竜弾。あれなら高エネルギーが凝縮しているから、ゴッドラストでも吸い尽くせない筈…でも、それだけの想いを、皆一つに出来るだろうか…ね、どう思いますか、トウマさ…!?」

 

飛田はハッと我に返る。今ここにいない者の名前を呼んだ時、もう自分は、かつての職場の同僚と袂を分かった事を思い出したからだ。

 

「そうだ…辞めた僕にはもう関係ないんだ…だから、もうゴッドラストとか、戦うとはもう考えなくていいんだった…よし、早速GooGooZの皆に会いに…!!」

 

パソコンをしまいだしたその時、公園の奥から何十人もの人の声が聞こえた。それも、歓声などではない、罵詈雑言、悲鳴とも取れる怒声の数々であった。

 

「な、なんだ…?」

 

気になった飛田は声のする方向へと走った。着いた先は広場であった。そこにいる何百人もの人々は、思い切り叫ぶ。

 

「…旋風重工と政府は、真実を明らかにしろぉぉぉぉ!!」

 

「欲深い権力者に鉄槌を下せぇっ!!」

 

「責任者を出せぇっ!!謝罪しろぉっ!!」

 

「なんでそんな危険物を利用としたぁっ!!」

 

積もりに積もった怒りと悲しみをスピーカーや口先から飛ばして。

 

「息子の命を、返してぇっ!!」

 

中には、遺影を持ち。

 

道路を隔てた、政府管理下のビルへと向けて。

 

そんな様子を、遠くの丘から眺める飛田。

 

(そうだ、そうだよね…この十年、皆ジン・ガイア帝国は突然海底から現れた新種の生命体…それが、誕生した原因が国や大企業なら怒るのは当然か……ん、あの子は!?)

 

すると、群集の中から一人の女子を目にした。

 

(確か、クラスの冴子さん…!?)

 

注目した相手はクラスメイトの女子生徒。GooGooZのコンサートの際、ディーンが会場にいた事を教えてくれた子である。そんな俯く彼女は拡声器を握りしめ、声を張り上げ始めた。

 

「…私、いや、私達はこの十年、帝国からの侵攻に怯え続け、我慢を強いられていました。最近では楽しみにしていた文化祭も壊されて…それでも…それでも!!希望を捨てず、諦めずにいつか幸せになるその日まで、心から願い続けて来ました…」

 

瞬間、バッと顔を上げる。

 

「でも!!その願いの結果がこれですか!?十年間作り上げた物は壊され、滅亡の危機にさらされ、その原因が権力者の手によって騙されていましたってのが、私達に与えられた結末ですか!?」

 

「…ならせめて、返してよ…私達の青春を…返してよぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

冴子の心の叫びに同調する群集。

 

「そうだ、若者の想いを返せぇぇぇっ!!」

 

「責任とれぇぇぇっ!!」

 

と、その時、彼らの前に数台の護送車と装甲車が停車した。そして、車からは大勢の機動隊が飛び出し、群集を一気に取り囲んだ。

 

「…あー、市民の方々にお伝えします!!現在、集会やデモの類は治安維持の点から法律で禁止されておりますっ!!お引き取り下さいっ!!繰り返します、速やかにお引き取り…うわっ!!」

 

拡声器を持つ機動隊隊長格の胸に飲みかけであろうペットボトルが飛び込んで来た。それから、次の瞬間に飛び込んだのは群集による反論の言葉であった。

 

「ふざけるなぁーっ!!意見を大勢で述べるのは禁止だと言うのかぁっ!!権力で黙らせて!!一体いつ、そんな法律が出来たってんだぁっ!!」

 

「…先月からですっ!!このような事態になった際に禁止にすると決めておりますっ!!」

 

「そんなニュース、聞いてないぞおぉっ!!」

 

喧騒の中、考察する飛田。

 

(先月だって!?それって、僕達とGooGooZのコンサートで全国に勇気と希望を与えてた直後じゃ…まさか、その時のどさくさで決めていたのか!?)

 

と、隊長格がまたも叫んだ。

 

「こうなればやむを得ない…実力行使だ、かかれっ!!」

 

命令通り機動隊は突っ込む。そして、彼らは鍛え上げた肉体、盾と警棒で市民を一網打尽に捕らえようとする。負けじと抵抗する者の中、クラスメイトの冴子も同様の行動をした。

 

「離して、離し…離せよ卑怯者!!出て来ぉ~い!!責任者!!指示者!!私達は負けない!!アンタ達の手足に使う力なんかにぃっ!!」

 

彼女の叫びは力と立ち込める砂埃によって埋もれる。それらを目の当たりにした飛田は彼らに背を向け、走り去った。どこか、胸に釣り針を引っ掛けられた感覚を覚えながらも。必死に、目を伏せて。

 

それから飛田は都市部駅前にあるバスターミナルの待合室へとやって来た。ここは現在、単なるバス発着所ではなく、比較的被害の少ない地方へと避難する人々を軍用車等で運ぶ際の待機場所として活用されている。

 

「ここは変わらず、か…母さん」

 

飛田は思い出す。この場所で母と別れた事を。

 

『慶喜、本当にここに残るの!?ここは危険なのよ!?それに、あなたの勤めた所は…』

 

『お母さん、僕は守りたい人達はがいるんだ…ウチの社長が残した、大事な物を』

 

『…そう、そういう所はお父さんとそっくりね。わかったわ。でも覚えていて。いつでもあなたの帰りを待っている事を…』

 

そう言いながら、飛田の母は混雑する人波へと消える。あれから一週間、車を待ち続ける人の波は引いてはいなかった。

 

「どこだ…どこだろう。恐らく、避難するならここにいる筈なんだけど…」

 

飛田は人を搔き分けて見渡す。もしかするとGooGooZはここで車を待っているのではないか、と。しかし、彼女達の溢れ出るオーラを、彼は感じ取る事は出来なかった。

 

「ここにはいないか…仕方ない、別の所に…」

 

「おい、そこにいるのは、飛田じゃないか!?」

 

出入り口から去ろうとする飛田に、男性の声が呼び止めた。振り向くと、そこにいたのはラントムチームの一人、ヒロシであった。

 

「あ、ヒロシさん…どうしてここに?」

 

「あぁ、ラントム社の受けた依頼でね、待合室の人々がストレスで暴れないか見張っているんだ。それに、怪人が大勢の人目掛けて襲ってくる可能性あるしな」

 

「そ、そうですか…それにしても、私服着て見張ってるんですね」

 

「まぁ、俺達みたいな大掛かりな組織が見張ってるとわかると、それだけで暴れる可能性だってあるしな」

 

「なるほど…皆さんお元気ですか?ここ一週間中々会えませんでしたけど…」

 

「うん、元気だ。ジョージは車で街を見回って、隊長は社長として下請けや協力各社と共に色々と指示して走り回っている。ただ、モーラが…」

 

「…いないんですか?」

 

「ああ、なにも言わずにウチを去って、今GRNの元に戻ったらしい…まぁ、今じゃ真実を明かした件で人々から多くの支持を得ているからな…そっちに構った方がいいと思ったんだろう」

 

「はぁ…」

 

「それで、そっちはどうだ?昨日の爆発もあって、大変だと思うが…今日、海斗社長の記者会見だろう?」

 

「…知りません。昨日で僕は…」

 

躊躇い、視線を逸らす飛田であったが、それだけでヒロシは彼の現状をすぐさま理解して頷いた。

 

「…そうか、まぁ自分の勤め先が戦いの元凶だ、しかも友達がああも…いや、すまない。不躾な言い方だったな」

 

「いえ、全て事実ですからヒロシさんは悪くありませんよ」

 

「ん、そうか。それじゃあ君はここに来る車両で地方へと行くんだね?」

 

「いえ、ある人を探しています。僕のこれから先を照らしてくれるかもしれない人を…」

 

「…GooGooZか。それならここで待つといい。もしかしたらここに来るかもしれない。ニュースによると、SNSで今まだここにいると言ってたらしいからな」

 

「えぇ…」

 

ヒロシの言う通り、飛田は待合室で待つ事とした。彼の居場所はなるべく邪魔にならないように奥の壁際の角、古ぼけた暖房機と枯れ果てた観葉植物の間へ挟まる形であった。

 

「うぇ、狭い…」

 

苦悶の表情を浮かべる飛田であるが、一室でごった返す人々、それも絶望に打ちひしがれている彼らを見ればそんな文句はすぐさま消える物であった。

 

(…とりあえず今は耐えよう。この人達に比べれば、今の僕なんて…)

 

「おい!!旋風重工の会見が始まったぞ!!」

 

「…!!」

 

待合室のどこからか聞こえた男性の声に飛田は脊髄反射で対角線上の角にあるテレビを見る。それは、待合室にいる人々も同様であった。

 

「海斗社長…」

 

橋爪や数人の部下と共に、モニターに映ったのは海斗。彼はスーツをしっかりと着て『社会人らしさ』を醸し出しているが、視線はどこか上の空で天井ばかりをぼぉっと見つめている。彼らがマイクと長机のある会見の席に座ると同時に、カメラのフラッシュが乱射された。

 

「え、えぇ~本日はお足元が悪い中、当社の奥浜ホテルへとお越し頂き誠にありがとうございます。早速ではございますが、当社と未来島での関係性、そしてゴッドラストとジン・ガイア人に関する質疑応答に入らせて頂きます。質問のある方、挙手をお願い致します」

 

橋爪が促すと同時に、記者団から手が何本も挙がる。

 

「…では、手前のそちらの方どうぞ」

 

「はい、中央新聞の若林です」

 

その中から指名したのは、一人の女性記者であった。

 

「この十年の騒動は旋風重工と日本政府がゴッドラストの前身、室田修博士への過酷な労働環境と圧力によって引き起こされた物だ…と、GRNがそう会見しましたが、それは事実でしょうか?」

 

「…それに関しては現当社ではそのような圧力をかけろと、先代社長が部下に指示した覚えはございません。と、関係者への調査の中で申しております」

 

「…ありがとうございます」

 

「では、次の方…」

 

次の記者が質問を始めた。

 

「修博士に依頼した…隕石を使った実験、薬品開発は全く未知の化学物質だったと思いますが、進めていく内に未曾有の事態が起こるかもしれないと、懸念されてはいましたか?国に便宜を図って行ったと聞きましたが…」

 

「は、はい。その点は…」

 

橋爪はすがるように同僚と、海斗を見る。しかし彼らは助け舟を出す事なく、俯くだけであった。

 

「え、えぇ~…え?便宜を図った、というよりも政府と協議した結果、隕石は宇宙より飛来した物の為、実験に関する規制などは関連性がないと伝えられた、それに基づき、後押しされ、進めたと今回作成致しました私共の手元にある資料より書かれております…」

 

青ざめて答える橋爪。記者は「…ありがとうございます」と不服そうに述べるだけであった。

 

「では、次の…」

 

「あぁ~、ちょっといいですかね?」

 

気を取り直して次の記者を指名しようとした橋爪。すると、無精髭の中年男性記者が割り込んできた。

 

「は、はい、あの…質問はこちらで指名を…」

 

「いやいやお時間は取らせませんよ。確か、旋風重工が進めた隕石の研究…あれは先代社長が中心となって行ったとおっしゃっていましたよね?」

 

「で、実は我々で調べた事なんですがね、実際の所は、修博士がそういったヤバい代物を開発していたと知らずに、当時は専務であった海斗社長とそのお仲間…あなた達が博士から奪うよう指示したと聞きましたが…本当ですか?」

 

「えぇ!?なにも知らずに奪った!?」

 

どよめく記者団、視聴者。

 

「そんな馬鹿な…それじゃあ先代の社長が全て仕組んだ事じゃないのか!?」

 

そして飛田。

 

「あー、つまりですねこの騒動の発端は親の会社権力を使って危険な開発をし、その子供は危険度といった詳細はなにも知らずに彼か奪ったと、親子揃って不正を、とも取れるという事ですね」

 

「そう思える根拠?ありますね。十年前、あなた方は多くの企業を救う為に緊急の措置として自身の企業の傘下へと入らせた。しかし!!それには条件がありました!!簡単に言えば重工の無茶な命令に従う事、有能な企業であるという厳しく、無茶苦茶な条件がね!!お陰で、俺の親父は、工場の目処が立たず、首を…」

 

「いや、そんな事はどうでもいい!!とにかく、あなた方はどさくさに紛れて自分にとって都合のいい忠犬企業しか相手にしなかった!!その対応があの博士に対する迫害への、紛れもない根拠です!!いずれこの点は明日の朝刊にて公表致しますが、現社長殿、なにか弁明する事はありますか!?」

 

「あ、し、社長は怪我をしております。なので質問は私橋爪に…」

 

「詳しい事を知らずに、どうして奪ったんですか!?」

 

「隕石のデータを自分の身内に入れて、どうされるおつもりだったんですか!?」

 

無精髭の記者の質問を皮切りに、わっ、と一気に迫る記者団。連発するフラッシュ。彼らの威圧感に、橋爪はただただ閉口するばかりであった。すると、一人の若い女性記者が前に出た。

 

「重工社長、この十年、私達は絶えず帝国人によって命の危険に晒されてきました。そして、失ったかけがえのない者も、自由も…そういった事に関してね、なにか考えはないんですか!?是非とも、あなたの口から答えて下さいっ!!」

 

「そうだ!!なんとか言ったらどうなんですか!?昨日の爆発でも、なにか思うでしょう!!」

 

「「そうだそうだっ!!」」

 

記者団のジャーナリズムが大声と共に次々と突っ込んでくる。その時であった。海斗がスッ、と手を挙げたのは。

 

「一つ言いたいんですがね…」

 

海斗は虚ろな瞳しながら初めて呟く。記者団も部下も次に飛び出す言葉を固唾をのんで見守っていた。

 

「私は、開発直後に亡くなった父からそれがそんなに危険な代物だって教わりませんでした。というか、知らなかったんじゃないですかね?ですから、この事件が引き起こされたのは全て、あの室田修のはやとちりが原因なんです。当社に責任はございません。申し訳ありませんが…」

 

「…は?」

 

「なにしろあの当時、これから先はこうやってなんでもかんでも私が苦労を担っておこう、そうすれば開発スピードがグンと上がると考えての行動でした。それを彼は大きく勘違いを起こして…」

 

「しっかりと答えて下さい!!人が、死んでるんですよっ!!」

 

「そりゃあ、これまで亡くなった方には哀悼の言葉をかけますよ、この度はご愁傷様でしたと。しかし根本的な原因は再度申し上げますが、あの室田修です。我々はちっとも悪くありません。これだけは真実をお伝え致します」

 

「な、な、な…!?」

 

言葉を失う記者団。

 

「しゃ、社長言葉を慎んで下さいっ!!」

 

たまりかねた橋爪が止めに入る。しかしそれでも海斗は変わらず飄々としていた。

 

「そうは言うけどさ橋爪くん!!正直言って僕だって被害者だよ、ちょっとチャンスを奪っただけで、あの室田って奴は噛み付いてきてさぁっ!!娘の命奪って、その遺体を行方不明にしてさぁっ!!」

 

「社長、あなたって人は…!!」

 

「知らない知らない、僕はなにも知らない!!第一、よってたかって酷くない?僕だってねぇ、死んだ娘すら失ってるんですよ!!可哀相だと思わないんですか…!?」

 

「す、すみません、カメラ止めて…!!」

 

「おい、いい加減にしっ…!!」

 

ピー…

 

画面は記者の怒号を最後にカラーバーへと変わった。

 

「…」

 

映像が切り替わるかと思われた待合室の視聴者は数秒待ち続けたが、変わらぬ映像に徐々に、次々と口を開き始めた。

 

「なんだよこれ、ふざけてんのかよっ!!」

 

「ちくしょぉぉぉぉっ!!俺達は、こんな奴らに人生狂わされていたのかよっ!!」

 

「くそっ、あんの糞野郎、一発ぶん殴らなきゃ気がすまねぇっ!!俺、いまからあのホテルに行ってくる!!」

 

「落ち着けよ、もし行けたとしても、あのテグサーマンががっちりガードしていると思うぜ」

 

「…!!」

 

聞き慣れた戦士の名を耳にして、飛田はビクッと反応した。自分に言われている気さえしたのだ。

 

「あ、そうか…そうだよな、相手は圧倒的な力の持ち主だもんな…ハハッ、政治家も今じゃだんまり、俺達って結局、お偉い人の力に振り回されるだけの存在なんだな…虚しい人生だったなぁっ!!」

 

「…」

 

飛田はなにも言わずその場を後にする。後方から聞こえた…

 

「もういいっ!!あいつら殺して、俺も死ぬっ!!」

 

自暴自棄となった男の言葉と、

 

「み、皆さん落ち着いて下さい、どうか落ち着いて…」

 

宥めるヒロシの声を背に浴びながら。

 

それから飛田は、当てもなくふらついていた。今自分がなにを考えているか、それすらもわからない。何時間歩いたか忘れた頃、気がつけば、店舗も道路も無惨に引き裂かれた商店街へと辿り着いていた。

 

「…少し前までは、ここも人々の生活があって、活気に溢れていたんだよね…」

 

そこで暮らしていた人々を想いながら飛田は歩き続けた。左右の店の殆どは、ガラスが割られているか、シャッターが引き裂かれているかのどちらでしかなかった。通路に面する場所から見ても、商品はなく、八百屋も家電量販店も全てすっからかんであった。すると、銀行のATMに大きな穴が空いていると、気が付いてよそ見をしていた飛田は不意に誰かと正面衝突。思わず慌てて引き下がった。

 

「あ、す、すいません!!正面を見てなく…て…って、GooGooZの皆さんっ!?」

 

飛田は猫の様にがに股のジャンプで飛び上がる。

 

「と、飛田くん…」

 

目の前の三人は旅の最終目的であった帽子とサングラスを付けたGooGooZ、しかも、ぶつかった相手が最も推しである玲香であったからだ。

 

「い、いやぁ~うれしいなぁ!!こんな所で再会出来るなんて!!無事でいらっしゃって良かったです!!あ、先日のコンサート、行けなくてすみませんでした。ちょっとね、用事がありまして、えぇ、えぇ。そ、そうだ。今待合室はかなり満室なので、もう少し後に行った方が…」

 

「えぇ、そうね…そうするわ」

 

「…?」

 

この時、飛田は彼女達の様子がおかしい事に気がついた。知り合いを見つけてか帽子とサングラスを外した玲香はどこか素っ気なく、背後で同じ事をしている飛鳥も巴も下ばかり向いて、こちらに視線を合わせてくれる事はなかったのだ。

 

(玲香さん、いつもクールな方だけど、なんか変だな…飛鳥さんも巴さんも、二人とも暗いっていうか、テンション低いって感じだし…それに、全員サングラスに帽子を被って、まるでなにかから隠れるような格好をしている…いや、それは有名人だから仕方がない、か…)

 

(…そうか、わかったぞ!!あれだ、あの人がいないんだっ!!)

 

「…玲香さん、その、この前一緒にいたマネージャーさんは大丈夫でしたか?あの人も、確か一緒にいた気が…」

 

「あぁ、あの人は今ここにいないわ。私達の元から去ったのよ」

 

「え、それって…」

 

「違うでしょ玲香、私達、が、置いてかれたんでしょ。ウチらももう、事務所やアイツとは関係ないもんね…クビになったのよ私達、アンタの所のせいでね」

 

「…え!?」

 

突然口を挟んだ巴の一言に、飛田は仰天した。

 

「ちょっと巴!!飛田さんに当たらないでよっ!!飛田さんは悪くないでしょう!?」

 

「そうよ、飛鳥の言う通りだわ。巴、飛田くんに謝りなさい」

 

飛鳥、玲香のメンバーに叱責される巴であったが、当の本人はフン、と冷淡な態度を改める事はなかった。

 

「そんな事言って、二人もそう思ってるんでしょう?飛田さん、旋風重工が原因だって判明してから、あの時関わった私達への風当たりは強かったんだよ。この前のコンサートの類は無茶苦茶な法律を通す為、それから国民の目を逸らさせる為だって言われて、国中から『夢見させるような真似しやがって!!お前ら国と重工のグルだったんだな!!』『散々搾取しやがって俺達はポイか!!そんなに立場と金が欲しいのか!?』『俺達国民の視線を惑わす、国の操り人形がっ!!』ってねぇ?」

 

「で、事務所としてはバッシングから逃れる為に、私達厄介者をクビにした。さっき事務所から連絡があったし、公式サイトにもそう書かれている。ねぇ、どうしてくれるの?もう行く場所ないんだけど」

 

「そ、それは、ご、ごめんなさ…」

 

「アンタ達のせいでねぇ、今までやって来た努力全部無駄になったわ!!こんな、たった一つの私達に関係ない事でねぇっ!!こんな事なら始めからなにもしなければよかった…所詮、私達目指した夢ってのは力ある者の都合のいい傀儡となる事でしかなかったのよっ!!」

 

「返してよ…私達の努力、年月、想いをっ!!返しなさいよっ!!」

 

「巴っ!!」

 

玲香は強く窘める。それでも巴は大きく一歩、飛田に詰め寄る。

 

「巴っ!!いい加減になさいっ!!」

 

と、玲香は二人の間に挟まると同時に、巴の頬を叩いた。静寂であった商店街に、乾いた音が響く。それでも巴は、赤くなった頬をさすりながら玲香を睨みだした。

 

「なによ…今まで周囲にお前は無理だと蔑まれた私の気持ちが、それが全部その通りになった私の心がわかるの!?誰かに当たろうにも、私の力じゃあどうにもならない、このモヤモヤが、アンタに…!!」

 

今度は、飛田が両者の間に入った。

 

「やめて、やめて下さい…!!」

 

そして、必死に搾り出す様に必死に声を発した。

 

「玲香さん、巴さん、飛鳥さん。申し訳ないのですが、今の僕にはなにも出来ません。ですが、これだけは言わせて下さい。本当に、当社がご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありませんでした。そして、今まで皆さんのファンでいられて楽しかったです。ありがとう、ございました…失礼致します」

 

深く一礼をした後、飛田はその場を後にする。

 

「飛田くん…!!待って!!」

 

玲香に呼び止められるのも構わず、その手に、GooGooZのサイン入り写真を、変形するまで強く握りしめながら。

 

22-3

 

「…それが俺が石になっていた時、テグサーマンに力を与えてくれた奴に言われた事です」

 

飛田がGooGooZと別れた頃、旋風重工本社の一室でトウマは仲間と共に事情聴取を受けていた。

 

「…そうか、そんな裏があったとは驚きだな。まさか、宇宙にそんな神秘的なモンがいるとはな…」

 

事情を聴く相手は防衛軍軍隊長、権藤。かつて、トウマ達と工場で知り合った相手である。

 

「まぁ、世界をたった一人で揺るがす奴がいるんだ、それくらいいるかもな。この話はウチの軍と、GRNに報告しておく。君達は今後、そちらの指示に従ってくれ」

 

「…え?政府じゃなくていいんすか?」

 

「あぁ、今この国は今、例の事実確認で忙しいんだとさ。それに防衛軍は本来国の国境を越えた国際的組織。だから、政府管轄ではなく、今最も国民から支持されているGRNと提携してやっていくんだ」

 

「なるほど…ところで権藤さん、一つ聞きたいんですが」

 

「ん?なんだ?」

 

「社長…いや、レミーはどうなるんですか?あれから行方知れずですが…」

 

「…ジン・ガイアの生命体となったあの女の子か。現状、もしなにかあったら射殺の許可は受けている」

 

「なっ…!?」

 

トウマは思わず席から立ち上がって動揺する。それは、傍で聞いていた穂乃花やディーン、茜も同様であった。

 

「あぁっと、言葉が足りなかったな!!正確に言うと、もし彼女が自我を失って、暴走でも始めたら、の話だ!!第二のゴッドラストが誕生したら厄介だからな。それまでは見つけ次第、研究の為に捕獲しろとGRNからの指示があった。この捕獲って点だけはモーラの提案らしい」

 

「そ、そうか…よかった…」

 

ホッと一安心するトウマ。

 

「でも、社長をまるで猛獣みたいに捕獲するなんて…本人が望んで、あの姿になった訳じゃないのに…」

 

と、後の穂乃花がぽつりと不満げに言葉を漏らす。そんな彼女にトウマは振り向いた。

 

「そうは言うが、今はこうするしかない。ただでさえ、周りはジン・ガイアの残党と、ゴッドラストが産み出した怪人がうろついてる。人間の見た目に戻れない以上、下手にうろつかせるのはまずいだろう?皆パニクるぜ、きっと」

 

「そんなのわかってる、わかってるけど…なんだか可哀相だよ」

 

「まぁまぁ…それよりさ、君達も今、大丈夫なのか?」

 

話を切り替えようと、権藤が割って入った。

 

「リーダーの人も怪我して長期離脱、アドバイザーの子も辞めちゃってこれから先、大変だろう。これからやっていけるのか?」

 

顔を見合わせる穂乃花達に代わって、トウマは答える。

 

「それはお互い様でしょう。そっちの防衛軍だって、日本から海外へと管轄が変わったり、人々から文句を言われながらも日夜必死で戦っている。それでも、皆さん大事な人の笑顔の為に頑張っている。だから、俺達もここで負けたりはしませんよ。なにがあってもね」

 

「そうか…工場の会議の時も思ったが、君は強いな、その若さでそうも言えるとは…」

 

「いや、俺は…」

 

バンッ!!

 

トウマが言いかけたと同時に、ドアが勢いよく開かれた。見ると、乱れたスーツを着た橋爪がドアを支えに、息を切らせて立っていた。

 

「はぁ、はぁ…みん、皆…大変よ…!!」

 

「専務、どうしたんすか?」

 

並々ならぬ彼の様子に、トウマは恐る恐る聞いた。

 

「涼が…涼がいないのよっ!!病院のベッドから抜け出したみたいっ!!テグサロイドも、スマホも、いつもの服装も全部なくなってもぬけの殻だって、報告に行ったスタッフから連絡があったわ!!」

 

「えぇっ、本当ですか、専務さん!?」

 

「こんな事で嘘言ってなんになるって言うのよ穂乃花っ!!ホラ、ベッドに書き置きがあったのよ!!」

 

橋爪はそう言いながら駆け寄った穂乃花に書き置きを手渡した。紙にはボールペン字で、『暫く外出します。私の事はお気になさらず、他の方の看護に当たって下さい』と達筆で書かれていた。

 

「た、確かにこれは涼さんの字だ…でも、涼さんあんな大怪我の状態で、どこ行ったっての!?ね、トウマっ!!」

 

穂乃花に話を振られたトウマは一考、全員が注目する中、ゆっくりと口を開いた。

 

「多分、あいつは寄り添いに行ったんだろうな…今、自分はどうあるべきか悩んでいる仲間の元へな…」

 

「えっ、それって…」

 

一方、人気のない砂浜。飛田は波立つ海に向けて走っていた。その手に持つ、GooGooZと共に写る自分の写真を入れたパスケース力強く振り上げて。

 

「ちく…しょぉぉぉぉっ!!」

 

雄叫びと共に、足を止めた飛田はパスケースを海へと放り投げる。煌めく海は、あっという間にそれを飲み込んだ。それを見届けた持ち主は、瞳からぼろぼろ、ぼろぼろ、と、涙を何度も何度も零していた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…うぅ、うぅぅぅっ!!あぁぁぁぁぁっ!!」

 

膝を着き、俯き、両手で砂を激しく掴む飛田。涙は砂にも吸われ続けていた。

 

「僕達の、これまでの戦いは一体なんだったって言うんだ!?強い者だけをのさばらせ、弱い人々は見捨てる、そんな戦いだったって言うのか!?だとしたら、この、守る力、想う力はなんだって言うんだっ!!誰も守れないんじゃ、なんの意味もないじゃないかっ!!」

 

「もう、嫌だ…!!誰かを不幸にするテグサーマンなんて物、最初からなければ良かった…見つけなければ良かったんだっ!!そうだ、こんなパソコンも、全部、壊してしまえば、もう、僕は…僕は…!!」

 

「…それをやって、お前は後悔しないか?」

 

「…え?」

 

突然話しかけた声に驚愕した飛田は、ピタリとリュックを開ける手を止める。背後にいた声の主。それは、重傷である筈の涼であったからだ。

 

「りょ、涼さん!?そんな怪我で外出たらまずいですよ!?」

 

涙を袖で拭いた飛田は涼の元へと駆け寄った。彼女の怪我は見るも痛々しかった。腕に厚く巻かれた包帯。そこから覗くのは火傷で赤黒い。首元も同様であった。そして極めつけは焦げたYシャツから滲んだ鮮血。ここまで来た間に傷口から漏れ出したのだろう。しかし、当の本人はそんな事を気にする素振りすら見せず、飛田を見つめていた。

 

「これくらい大丈夫だ。それより、この一日でなにがあったか教えてくれ。それと…お前が会社を去った理由を」

 

「…はい、実は」

 

飛田はこれまでのいきさつを打ち明けた。レミーがゴッドラスト同様の生命体となった事。彼女を目の当たりにして戦いに嫌気がさして旅に出た事。行く先々で反省の色がない権力者と、か弱き人々の悲哀を耳にした事。そして、GooGooZが自分達が原因で解散させられた事も。

 

「そうか、たった一日でそんな事が」

 

「はい…」

 

二人は地平線を前に横一列、座って佇んでいた。引いては迫る波の音と潮風が、二人の間をすり抜ける。

 

「…確かに、辞めたくなるのはわかるな」

 

「でしょう!?涼さん、僕はその、思ったんです。例え僕らみたいな弱小な存在がどれだけ強い想いを持っても、それに向かって頑張っても、全ては力の前に搾取されてしまうんじゃないかって。だから、思わず飛び出して…そしたらGooGooZも…」

 

「そうだな…私達は知らず知らずのうちに、力ある者の盾となってしまったのかもしれないな…でも、辞めて、後悔はないか?」

 

「え…?」

 

今までそっぽを向く様に海を眺めていた飛田であったが、疑問を投げ掛けられると同時に彼女の横顔を見た。涼もまた海を眺めていたが、その顔は陽に当たり、微笑んだ表情を見せていた。

 

「私なりの考えだが…今のお前は迷っている。誰かを助けたい。今迫る危機を倒したい。しかし、その時にまた、積み上げた科学技術を奪われてしまうのではないか、また、搾取でもされてしまうのではないか…と」

 

「…」

 

飛田は、静かに頷いた。

 

「…私達は場所はどうあれ、誰かを守りたいという想いで集まった。トウマも、穂乃花も、茜も…別に、誰かのスターになる訳じゃないし、将来のし上がる為だって訳でもない。ただ一つの意思だけで、だ」

 

「飛田、心配する事はない。その意思をもった私達がいる間は絶対にテグサーマンは奪わせはしない。ゴッドラストの様に私と、皆がお前を奴のような狂気に変える事はさせはしない。約束する」

 

「涼さん…」

 

「それと、恐らくだが、お前の父さんはいつかこうなる事態を考えてテグサーマンを作り替えた。宇宙に飛び立つのではなく、この星に生きる人を守るため、その助けた人が、いつか誰かを救う為に…こんなのただの推測に過ぎないし、望みでしかないが、今は信じて欲しい。お前が諦めずに誰かを助ける為に動けば、その人がまた平和の為に動いてくれ、繋がりあい、そして最後には正義が生まれると…実際、昨日の私は助けられたからな」

 

「え?それってどういう…」

 

「あの爆発の瞬間、私は咄嗟にテグサー3に変身した。装着するには間に合わなかったが、変身する際の粒子が爆風から命を救ったんだ」

 

「…!!まさか、そんな事が…」

 

「本当だ。だから今、救われた私は飛田の心の支えを救いにいこうと思う」

 

そう言うと涼は、袖をより捲り、靴を脱ぎ捨てると、地平線に向かって走り出した。

 

「な、涼さん!?なにを…」

 

飛田が言うと同時に、涼は波打つ海へと飛び込んだ。

 

「ぐぅ…!?」

 

季節は秋。冬も近い。寒風と海水で傷口が染み、涼は苦悶の声を上げる。しかしそれでも涼は唇を噛んで、海底へと潜り込んだ。

 

「涼さん…ま、まさか…」

 

飛田が立ち上がると同時に、涼は海面へと浮上する。そして、深く息継ぎをすると、再度大海原へと潜った。

 

「…っあった!!あったぞっ!!」

 

弾んだ声と共に、海から飛び上がった涼。その手には太陽によって煌めく、GooGooZのパスケースが力強く握りしめられていた。

 

「ほら、もうなくすんじゃないぞ。大事な人から貰った、大切な物なんだからな」

 

海から上がった涼は、飛田にパスケースを手渡す。砂にまみれたそれは、頭上から降る雫に、徐々に流れ落ちていった。

 

「そうだ、そうだよ…世界はあんなに悪い人たちじゃない…僕の事をこんなに想ってくれる人だっているんだ…やっぱり僕、そんな人達の為に、テグサーマンを…科学技術を使いたい…多くの人を守りたい…」

 

「…ありがとう」

 

涼が頷いた瞬間、背後の遠くの陸地で爆発が起こった。瞬時に、二人はその方角へと目を向けた。

 

「あの爆発…僕がいた街からだ!!」

 

「…行こうっ!!」

 

「…はいっ!!」

 

二人は顔を見合わせ、走り出す。かけがえのない人々を、救うために。

 

22-4

 

「あぁっ、これは…!?」

 

街に到着した二人。飛田は驚愕のあまり大声を出した。横転した乗用車、上がる火の手。構える防衛軍と怯える人々の前には五体の岩石型怪人と、その中心に怪人態となったバドリードが君臨していた。

 

「抵抗を止めろっ!!人間共よぉっ!!」

 

自分が主だと主張するように、バドリードは腕を上げて声高らかに叫ぶ。そして、彼の腕には若き女性が捕らえられていた。それは…

 

「あ、あれは…玲香さん!?」

 

彼女である事を知った飛田はまたも叫ぶ。突っ込もうとも考えていた彼であったが、傍にいた涼がその挙動を腕で止めた。

 

「涼さん…」

 

「飛田、まずは彼女に話を聞こう」

 

「え?あっ…!?」

 

涼の指差す先にいたのは巴と、飛鳥であった。

 

「と、飛田さん…!!」

 

飛田達に気付いた飛鳥はすがるように近づく。その一方で巴は視線を合わせる事すらしていないが。

 

「一体なにがあったんですか!?」

 

「そ、それが…あれから私達三人、避難する人の為の待合室で待っていたら、急にアイツらがやって来たの!!それで、あのリーダーの怪物が『見せしめとしてここにいる人間を抹殺する!!』とか言い出して、玲香を一目見たら一目散に捕まえて…それで…」

 

「な、なんて事だっ…!!」

 

飛田は改めてバドリードを見た。

 

「さぁ、残り十分だっ!!十分でこの歌姫の女の命を奪う!!そうすれば貴様らの心には完全な絶望感を与えるだろうっ!!そうなりたくなければ、残り時間で助けてみろっ!!我がしもべの鉄壁の布陣を突破してなぁっ!?はぁっはっはっはっはっ!!」

 

「う、うぅ…」

 

歌姫の口から流れる血。

 

「や、止めろっ!!」

 

目の当たりにして飛田は立ち上がった。ほぼ全ての人が屈んでいる中、彼の姿はバドリードの視線を釘付けにした。

 

「うん?お前は、誰だ?」

 

「僕は…僕は、テグサーマンを開発した、飛田慶喜だ!!」

 

「ほぉ…私の立場を砕いてくれた、あの忌ま忌ましい…」

 

「そうだ、お前は僕の事を恨んでいるだろうっ!!だから、玲香さんを離して、僕を捕まえるがいい!!その方がスッキリするんじゃないか!?」

 

「…ハッハッハ、なにか勘違いしてるんじゃないか?」

 

「!?」

 

「自分が最も憎む奴は、あっさりと殺すのはつまらん。そいつが好きな物を徹底的に破壊して、絶望感を味あわせてから潰すのが最も楽しいだろう?メインディッシュはとっとかなくてはな、ハッハッハ!!」

 

「そ、そんな…」

 

交渉がいとも簡単に決裂した飛田はショックで両膝を地につける。その様子に、涼は怒り心頭であった。

 

「下衆が…!!貴様、そんな事をして、良心が痛まないのか!?」

 

「痛む訳ないだろうっ!!なぜなら、私はかつて帝国で、散々蔑まれてきたのだからなぁっ!!かつて私は優秀な戦士であった。しかし、ある時の些細な怪我が原因でまともに戦えず、最前線から退かざるを得なかった。それからは地獄よっ!!今までの努力は無駄だったと無力感を感じ、後方指揮しか出来ず、戦況によってはいつか捨てられるのではないかと怯えていた!!それも全て、私の事を後ろ指で指す帝国人共のせいだっ!!」

 

「だから…だから私は、あのゴッドラスト様から頂いた『頂点に立ちたくば、協力せよ』というメッセージを貰って、あの方を復活させたのだ!!私もまた、その頂点に立つ為になぁっ!!そして、手にしたのは…この体だぁっ!!」

 

バドリードが全身に気合いを入れる。その瞬間、彼の両肩が鮫の顔となって一直線、外へと向かって伸びた。次に、両腕、両脚にはカサゴの刺が何本も飛び出し、両膝にはピラニアの頭が装着される。そして最後に、自身の顔面は凶悪なウツボを模した姿へと変貌した。

 

「…どうだっ!!これがあのゴッドラスト様から頂いた力によって変身した俺の姿!!ネオ・バドリードとでも呼んで貰おうかっ!!」

 

バドリードは高らかに叫ぶ。まるで、今までの鬱憤が晴れる様に。

 

「どれ、試し撃ちだ、はぁっ!!はぁっ!!」

 

彼の右手から魚型の光弾が発射される。着弾した大型乗用車は一瞬で爆発し、爆炎の中からは無数の魚群が飛び出すと、一部は周囲の人々を威嚇し、残りは乗用車へと食らいついた。

 

「さぁ、これでもう逃げられんぞっ!!私と同じ、この閉じ込められた世界の中で、苦しみ、醜く怯えるがいい、うわはっはっはっはっはっ!!」

 

「…可哀相な人。こうする事でしか、自分を見出だせないのね」

 

炎と煙が充満する中、ぽつりと呟いた玲香。

 

「あ、あ、あぁっ!?」

 

バドリードは思わず凄んだ。両肩の鮫も牙を向ける。しかしそれでも、玲香は静かに、彼に向けて自身の想いをぶつけた。

 

「…私達みたいに、意思ある者なら、理解しあえ、頂点にならなくても生きていける筈。あなたみたいに誰かを蹴落とさなくても、同じ気持ちのある人達と繋がりあって、安住を求めてもよかった筈よ。それをやらずに憎むだけだなんて、可哀相だと言ったのよ」

 

「黙れ、貴様になにがわかるっ!!人より高い能力を持って、上の立場から見下すような発言をして!!ナメるんじゃないっ!!」

 

「わかるよっ!!だって玲香は、仲間から追い出されても諦めなかったもんっ!!」

 

二人の会話を割く、力強い声。

 

「なにっ!?」

 

その正体は飛鳥であった。

 

「追い出されただと…フフフ、ハッハッハ!!そうか、ソイツはいいっ!!失った者の負け犬の遠吠え、遺言という訳かっ!!」

 

「違うっ!!玲香は、全てを失ったと思って、ふてくされた私を厳しくも励ましてくれた。それと待合室にいた時、私達の事を知っている人達が会えて心が休まると慕ってくれた!!その時、私は思った!!例え居場所がなくても、誰かの傀儡だと言われても、まts誰かの心を救う力があるなら、その力で希望をつなぎ止めるってねっ!!」

 

「そうかそうか、ならば、そんな希望もへし折ってくれるわっ!!」

 

激昂したバドリードは玲香に腕の刺を突き立てる。その時であった。彼の腕に、飛来したクナイが突き刺さったのは。

 

「ぐぅっ!?誰だっ!!」

 

飛ばした相手は、涼であった。その証拠に彼女はその手に残りのクナイを構えている。

 

「き、貴様ぁっ!!」

 

「…ならば私は、その希望を守る刀となるっ!!玲香さん、逃げるんだっ!!」

 

「…は、はいっ!!」

 

バドリードの開いた腕から、玲香は駆け出す。涼もまた、彼女の元へと急いだ。

 

「チェンジ、テグサー…3!!」

 

駆ける彼女の体に粒子が纏い、テグサー3へと変身させる。

 

「グゥアア!!」

 

テグサー3を行かせまいと、五体の岩石型怪人は一気に迫る。

 

「セット、ウィング!!」

 

テグサー3はウィングパーツを装着。彼女の前に怪人達が立ちはだかる。

 

「ちっ、邪魔な…!!」

 

「ハッハッハ、この距離なら玲香は助けられんな!!このままこの女を殺してやろうっ!!」

 

バドリードは再度、腕の棘を立てて、逃げる玲香を追う。

 

「させるか、エアロ、シューター!!」

 

テグサー3はエンジンを回転させて竜巻を起こす。それは、怪人の間を縫い、バドリードと玲香の二人に一直線に向かっていった。

 

「な、なに!?馬鹿な、このまま行けばこの女も…」

 

「わかっているさ!!」

 

竜巻は二人を目前にして方向転換、空へと向けて上昇した。バドリードは思わずその場で踏ん張るが、玲香は暴風で体を上空へと巻き上げられた。

 

「き、きゃぁぁぁっ!!」

 

「今だっ!!」

 

テグサー3は飛んだ。そして、玲香を空中で抱き寄せ、緩やかに飛田達の方へと降下していった。

 

「玲香さん、怪我はないか?」

 

「は、はい…」

 

「すまない、手荒な真似をして」

 

「…大丈夫です、お陰で助かりました」

 

着地したテグサー3は捕われの姫を静かに降ろす。

 

「玲香~!!」

 

「玲香さんっ!!」

 

仲間の無事を知った飛鳥と飛田。

 

「玲香…」

 

そして巴は二人の元へと駆け寄った。

 

「飛田、GooGooZの皆を頼む」

 

「は、はいっ!!…さっ、皆さん!!こっちです!!」

 

飛田は三人を安全な場所へと誘導する。

 

「お、おのれぇっ!!やれっ!!」

 

一方で、人質を取られて悔しがるバドリード。パーツを解除したテグサー3は天下無双刀を抜いて勇猛果敢に突っ走る。多勢に無勢、襲い来る怪人を前にして。

 

「つぅあぁぁぁっ!!」

 

駆けた勢いを力にして、テグサー3は怪人の硬質な身体に斬りかかる。しかし、刀はその身体に通じず、黒い岩石に白い傷をつけるだけであった。

 

「グゥン!!」

 

斬られた岩石型怪人はテグサー3より高い背丈を利用して、上から拳を振り下ろす。見切ったテグサー3は間一髪、前転で避け、攻撃した怪人の背中に対峙した。

 

「涼さん、ソイツの弱点は岩石同士の隙間の…」

 

飛田の指示を受けて。

 

「承知っ!!」

 

怪人の背中、ひしめき合う岩石の隙間にテグサー3は刀を捩込むように突き刺した。

 

「グゥアアッ!!」

 

先程の斬撃と違い、深く刺され、刀身を胸にまで貫通された怪人は呻き声を上げて倒れた。そして、その身体の岩石は磁力を失った磁石のようにバラバラとなった。

 

「やはりそうだ…全身が岩石の生命体なんてありえない…どこかに、内臓やコントロールする部位がある筈なんだ…」

 

ノートパソコンを操作しながら、飛田は力強く確信した。

 

「えぇい、たった一体になにをやっているっ!!全員で一気に仕留めろっ!!」

 

同じ頃、バドリードに発破をかけられるて、攻めあぐねた怪人達は一気に差し迫る。

 

「「グゥアア!!」」

 

「つあぁぁぁっ!!」

 

二体の怪人による、前後から振り下ろされた拳を、テグサー3は半身で躱して前方の怪人の腕を両手で掴む。そして、相手の勢いをも利用した背負い投げ。後方の怪人に全力で叩きつけた。

 

「グゥォォォ!!」

 

激突し、当てられた側の怪人の頑強な胸部は粉々に砕けた。瞬間、テグサー3は投げ飛ばした怪人の首を脚で抑え、同時にコアを露出させた砕けた怪人の身体に向けてクナイを連続で投げた。

 

「グゥゥゥ…」

 

クナイが突き刺さった怪人は意気消沈するように倒れ込む。最後を見届けたテグサー3は膝下の相手にもトドメを刺さんと刀を突き立てた。その時であった。ひび割れた地面から出現した直径1m程のガイアランの茎が彼女の両腕に巻きついたのは。

 

「うぅぉっ!?な、なんだこんな物…!?ぐぅっ!?」

 

テグサー3は引っ張るそれを解こうと両腕に力を込める。しかし、腕から吹き出た流血が彼女を苦しませ、力を緩ませた。その隙を、各々の岩石型怪人は見逃さない。口から一気に何百もの小石を噴出させ、テグサー3の全身にそれらを容赦なくぶつけた。

 

「う、うわぁぁぁぁっ!!」

 

ダメージを受けて大きく吹き飛ぶテグサー3。なんとか両足を踏ん張って着地はしたものの、次に来た怪人と茎による高低差ある同時攻撃は窮地へと陥らせた。茎は彼女の足を取り、怪人の硬質な拳は容赦なく胸部装甲、ショルダーアーマーを砕かせた。それでもテグサー3は刀身を振って抵抗する。攻撃をかすめながらも、茎を斬り裂き、怪人の身体の隙間を突いて。しかし、その猛反撃は長くは続かなかった。テグサー3が長く飛び上がり、一体の怪人の頭を蹴り倒して着地した瞬間、一瞬の間を狙って、怪人の一体が両手を合わせたハンマーパンチが彼女の後頭部にお見舞いされたのであった。

 

「ぐぅぅぅっ!!」

 

テグサー3は衝撃のあまり、その場に突っ伏す。すぐさま起き上がろうとしたが、怪人の踏み付けによる猛攻がそれを許さなかった。その凄惨なリンチから、彼女の劣勢は誰の目に見ても明らかであった。

 

「あぁ、もうダメだ…」

 

不安で見つめる飛田の耳に、成人男性の弱気な言葉が入る。彼に続くように、それまで傍観者であった人々は次々に口を開いた。

 

「俺達は、もうおしまいだ!!テグサーマンが死んだら、次は俺達が殺される番なんだ…!!」

 

「なんだよ、なんだよっ!!結局は尻拭いも出来ないのかよっ!!なら、なんの為にコイツらいるってんだ!?」

 

「今までの戦いは権力者の為のアピールだったもんな…しょうがないよ…」

 

「やっぱり強い者は弱い者に喰われるだけの存在…私達が死ぬのも自然の摂理なのね…」

 

「み、みんな…」

 

人々の傍らで、巴は彼らの悲痛な想いに肩を落とす。

 

「が、頑張れ…」

 

すると、近くにいた子供達の声が聞こえてきた。

 

「頑張れ、頑張れ、テグサーマン!!」

 

「テグサーマン!!テグサーマン!!」

 

「負けないで、テグサーマン!!」

 

巴は思わず子供達に尋ねた。

 

「み、皆、どうしてテグサーマンを応援しているの…?アレが所属しているのは…」

 

彼らの一人の男子が大きく首を振った。

 

「そんなの関係ないじゃんっ!!だっていつも、僕達を守ってくれてるもんっ!!」

 

男子に続いて、隣の女子も答える。

 

「それに、お母さんが言ってたよ!!なにかを見る時、全体だけじゃなく、一人一人の良いところを見てあげなさい、って!!」

 

「…!!」

 

子供達の言葉に、巴は目から鱗であった。

 

「そうだ、私は忘れていた…私がアイドルを目指したのは、ただデカい事務所に入って目立ちたいだけじゃない、歌で誰か一人一人を幸せにして、自分もまた皆の愛に包まれたい…と!!そうだよ、それなら居場所なんか関係ない、自分を輝かせる場所なんかいくらでもあるじゃないか…!!よし、それなら私も…!!」

 

「頑張れ、テグサーマン!!頑張れぇっ!!」

 

巴の声は普段の発声練習もあって、人一倍輝いている。

 

「「「頑張れ、頑張れっ!!頑張れ!!」」」

 

「「「テグサーマン!!テグサーマン!!」」

 

それに負けじと子供達も、そして飛鳥や玲香、飛田までも大声を上げて応援する。そんな様子をバドリードは一人、鼻を鳴らして嘲笑した。

 

「フン、そんな目に見えない物で立ち上がれる筈が…おぉっ!?」

 

雄叫びと共に…

 

「はぁぁぁっ!!やぁっ!!」

 

テグサー3は岩石型怪人を押しのけて立ち上がった。彼女の装甲は完全にボロボロである。しかし、その心と気迫はまだ燃え尽きてはいない。バイザー越しの瞳は燦然と輝いていた。

 

「な、なぜだ、なぜこんな人間の為に立ち上がる!?」

 

「バドリード、お前にはわからないだろう…!!」

 

疑問を吐き出すバドリードに飛田は答える。

 

「誰かを想って戦う人、絶望感漂う中でもその人を見て応援してくれる人の気持ちが、一人よがりのお前には!!」

 

「お、おのれぇっ!!ならば、この俺直々に力こそが頂点だということを教え、てぇっ!?」

 

突如バドリードの後頭部を襲った飛び蹴り。不意打ちで吹き飛ぶ彼の瞳には一人の戦士が映った。

 

「き、貴様は…!!」

 

「よう、やっと会えたな」

 

その戦士の名は、テグサー1。

 

「くっ、もう来たのか…!!」

 

「当たり前だ。こんなに大騒ぎしてたら誰だって来るっての。なぁ?」

 

テグサー1の後ろに現れたのは。

 

「因みに私達もいるぜっ!!」

 

テグサー4。

 

「俺もだぜっ!!」

 

キャノン・ダイザー。

 

「バドリード、覚悟して貰うよっ!!」

 

そして変身態のディーンであった。

 

「トウマ…皆、やっと来てくれたか…遅いぞ」

 

一安心するテグサー3。彼女の元に、ダイ・ソードにメドゥーザ、テグサー2も駆けつけた。

 

「涼さん!!大丈夫だった!?ゴメンね、情報が混雑してて、どこで戦っているのか…」

 

「大丈夫だ…それより、残り三体の怪人を倒すぞ」

 

「う、うんっ!!」

 

「ならば、私が止めるわっ!!スケールヘヤー!!」

 

メドゥーザの伸びる髪が岩石型怪人の足を止める。それを解こうと茎が迫ったが、残りのスケールヘヤーがそれらを押しのけ、払い落とし、地に伏せさせた。

 

「今よっ!!」

 

「天下無双刀、一閃斬り!!」

 

「ダイ・ソードスラッシュ!!」

 

「風竜剣!!」

 

各々の刀身が光り、斬撃は怪人の岩石の隙間を縫うようにコアを一直線に切り裂いた。怪人は断末魔を上げる事なく、その場にガラガラと崩れ去った。

 

「よし、これで…!!後はバドリードを…!!」

 

テグサー3は最後の敵を倒さんと駆け出したが、怪我が祟ってバランスを崩した。そんな彼女を、テグサー2はしっかと抱きしめた。

 

「涼さん、もう無理しないで。今は、トウマ達に任せましょ?」

 

「…しかし、私にはまだ、戦わなくては」

 

「…涼さんはもう十分に戦ったと思う。それに、一人でやり切るのは限度があるよ。だから、お互い頼りあって、頑張りあってもいいと思うの」

 

「そうか…そうだな、なら、ここはトウマ達に任せる、か…」

 

テグサー3は変身を解除し、テグサー2の胸の中に身を預けた。その一方、テグサー1、4、ディーン、キャノン・ダイザーは変わらずバドリードと対峙していた。その背後に、ノートパソコンを持つ飛田を待機させて。

 

「てめぇ、よくもウチの涼をよってたかってボコボコにしてくれたな!!覚悟しやがれっ!!」

 

「ふん、出来る物ならなぁっ!!」

 

テグサー1の威圧に負けず、バドリードは腕組んで構える。

 

「くらえ、カサゴスティンガー!!」

 

そして、両腕のカサゴの刺をミサイルの様に連発した。刺は着弾すると爆発し、周囲に爆炎を巻き起こした。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

突然の襲撃に驚愕する四人。ボディにも傷が付く。その間にもバドリードは腕の刺を復活させていた。

 

「行くぞ、もう一発だぁっ!!」

 

トドメを刺さんと息つく間もなく再度カサゴスティンガーを放つ。この攻撃に対し、目を光らせたのは、充満する煙の中のキャノン・ダイザーであった。

 

「そこだ…シュート!!」

 

キャノン・ダイザーは内部コンピューターの緻密な計算でカサゴスティンガーの軌道を計算、それらを右腕のガトリングで正確に撃ち貫いた。

 

「な、なにぃっ!?」

 

「ふん、この俺に二度も同じ攻撃が通用すると思うなっ!!…隊長、今の見てた?」

 

キマッたと思い込み、キャノン・ダイザーはメドゥーザの方へと振り向く。

 

「…馬鹿言ってないで、真面目にやって」

 

しかし残念ながら、そのアピールは逆に自身の評価を著しく下げるだけであった。

 

「…こうなったら、この俺自身の手で決着をつけてやるっ!!」

 

怒りと焦りで力を込めるバドリードは四人に向かって走り出した。同時に、肩の鮫を十数mも伸ばした。

 

「つぁっ!!」

 

鋭い牙で喰らおうとする鮫頭を前に、近接戦闘が不得意なキャノン・ダイザーを下がらせ、テグサー1は拳で、ディーンとテグサー4は持ちうる武器で対抗した。

 

「うりゃぁっ!!」

 

牙と拳、攻めと守りが交互に連続する激突の中、隙を見たテグサー1は左拳で相手の左頬を殴り、連続して右のアッパーを放つ。

 

「「はぁぁぁっ!!」」

 

もう一方の左の鮫頭はディーンとテグサー4が根本に潜り込み、伸びきった腹を煌めく刃で一気に突き刺した。

 

「うぉっ…」

 

大きくよろけるバドリード。瞬間、キャノン・ダイザー含めた四人はお互いの頭上でうねる鮫頭を両手で抱え、「うわぁぁぁっ!!」と、雄叫び一閃、同時の背負い投げで空高くバドリードを放り投げた。

 

ズ…ズン!!

 

周囲の魚群を踏み潰し、地面がめり込む程の強烈な一撃はバドリードに受け身を取らせる暇を与えなかった。

 

「ぐぅうう、貴様っ!!」

 

鮫頭を戻して立ち上がるバドリード。その間、テグサー1は自身の右拳に怒りの青白い炎を灯していた。

 

「こいつでトドメだ、撃竜拳!!」

 

飛び上がったテグサー1はバドリードのこめかみ目掛けて必殺の一撃を叩きつけた。

 

「ぐぉぉぉっ!!」

 

その衝撃は凄まじく、喰らった相手は十数mも転がり、吹き飛び、やがては岩石型怪人の瓦礫の山へと押し込められる事となった。

 

「や、やったか…?」

 

テグサー4は心配そうに煙で充満する瓦礫の山を見つめる。右手をテグサー1の肩に乗せながら。その時、瓦礫の山が崩れた。体に損傷はあったものの、起き上がったバドリードはまだやる気十分、といった所であった。

 

「ち、撃竜拳で倒れないなんて…なんて野郎だ…」

 

「当たり前だ!!俺にはまだチャンスが残っている!!この世界で頂点に立って、もう誰にも脅かされない…ぐぅぉっ!!」

 

突如、バドリードはこめかみを押さえる。その箇所は撃竜拳を当てた場所、可視化されたいくつもの粒子が、青白く、煌めいていた。

 

「な、なんだこの痛みは…!?焼けるように、痛い、熱い…!!ぐぅっ…!!」

 

「うおぉ!!頭だけではない!!全身が…!!く、苦しいっ!!戻らねば!!」

 

うめき声と同時に、バドリードの姿は元へと戻った。

 

「くっ、覚えていろっ!!」

 

そして、負け惜しみを吐き捨てると、地中へと慌てて潜った。掘り返す音を最後に静まり返る街。徐々に鎮火する火の手。脅威は引き下がった。それを理解した一般人、防衛軍人は次々に歓声の声を上げた。

 

「やったぁ、助かったぞぉぉぉっ!!」

 

「よかった、よかったぁぁぁっ!!」

 

「テグサーマン、ラントム社の皆、ありがとぉぉぉぉぉっ!!」

 

「GooGooZもよく言ったぞ、見直したぞぉぉぉっ!!」

 

「ありがとう、ありがとう…」

 

人々は今を生きている事に喜び、抱きあい、安堵の涙を流した。そんな中、飛田は崩れたコンクリートを机代わりに置いたノートパソコンに一人、真剣に向き合って熟考していた。

 

(バドリードのあの苦しみよう、どうも異常だった…防衛軍が使う普通の兵器ではこれといってダメージを負っている様子はなかったのに突然…)

 

(もしかしていきなり未知のパワーを手にしたら身体に拒絶反応が出る物なのか…それと、最後の一撃が原因…つまり、TE粒子を纏った撃竜拳が決め手だったという訳か?それなら、あのゴッドラストから力を与えられただけの彼がああまで苦しむのなら、ゴッドラストの弱点は…TE粒子か?)

 

(そうだ、それなら合点がいく。未来島で戦った時、ゴッドラストはテグサーマンを喰らおうとはしなかった。やっぱり恐れているんだ、ゴッドラストはこの宇宙の神秘…TE粒子を。そしてその原因は、ゴッドラストですら喰らえない存在なのでは?)

 

仮説を脳内で繰り出していると、不意に誰かの気配を感じた。振り向くと、そこにいたのはGooGooZの三人であった。

 

「あ、皆さん…」

 

「飛田さん、ごめんなさい。それと…ありがとう」

 

「…え?」

 

それまでの暗い顔から一転、はつらつした巴に唐突に礼を言われ、飛田は少々戸惑った。

 

「皆さんの戦いを見て、思い出しました。大事なのはなんの為にアイドルをやってるのか、想いを伝えるならどんな場所だって出来る事を…」

 

「私達、初心に返ってもう一度立ち上がろうと思います。ま、あんなしょーもない理由で首にする、アイドルを自分を守る盾にしか考えてない事務所なんぞこっちから願い下げだしっ!!」

 

「そうですか…それは良かった…」

 

「だから飛田さんも頑張って下さい。私達も陰ながら応援しますから…それじゃあっ、行こう飛鳥、玲香!!新生GooGooZ、レッツラ?」

 

「「ゴォォォォ!!」」

 

GooGooZの三人は掛け声と共にその場を後にする。彼女達の背を見つめながら、飛田の心は感動で嬉しさで胸が一杯であった。

 

「よ、良かったな、GooGooZの三人は元気そうで」

 

そんな心中、飛田に声を掛けてきたのはトウマであった。

 

「あ、トウマさん…それに皆も…」

 

振り向けば、トウマ以外にも穂乃花、茜にディーン、そして涼までもが揃っていた。

 

「えぇ、良かったですよ、辞めてしまって、一時はどうなるかと…あっ、そうだ…その、皆さん」

 

なにかを思い出したように、飛田は一瞬の間を置くと、チームに向けて立ち上がり、深く頭を下げた。

 

「…多忙の中、誰にも言わずに勝手に抜け出してしまってすみませんでした。もし差し支えなければ、もう一度僕を、チームに入れて貰えないでしょうか…?」

 

心の底から詫びる飛田は覚悟していた。もしかしたら悪態をつかれるかもしれない。最悪、殴られるかも、と。しかし、意外にも来たのは、自身の肩に手を置くトウマの手の平であった。

 

「もう、大丈夫か?」

 

「へ?え、えぇ、もうバッチリですけど…」

 

不思議そうに顔を上げる飛田。見えたのは、仲間達の笑顔であった。

 

「よし、それじゃあ帰るか。腹も減ったし、な」

 

「あ…はいっ!!」

 

飛田は嬉しかった。ぱぁっ、と自身の表情が明るくなったのを肌で感じていた。

 

「お~い、行くぞ~」

 

「飛田くん、行くよ~!!」

 

トウマと穂乃花に呼びかけられた飛田は駆け出した。そしてまた、いつものように並んで歩き出す。信じ合える仲間と共に。

 

「トウマ、皆…」

 

だが一人、彼らの和気藹々とした姿を眺めるだけ、入る事を許されないと考える者が崩れたビルの陰に潜んでいた。天使の様な背中の羽で、こぼれる涙を拭いながら。

 

22-5

 

「…で、権藤さんにも伝えたが、俺が石になっている時にTE粒子の集合体が俺にそう伝えたんだ」

 

「ふむ、そんな事を言われたんですか。まさか、TE粒子の正体が、この宇宙で亡くなった人の意識の集まりだったとは…」

 

旋風重工本社ビル、高層階の一室で飛田はトウマの報告を受けていた。彼所有のノートパソコンに文字を打ち込む音が、室内に響いている。

 

「それにしても、気になる事は山積みだな。ゴッドラストはどうやったら倒せるか、レミーは今どうしてるか。そして、今なりをひそめているジン・ガイア帝国はどうしてるかってな…」

 

「そうですね。ディーン、どう思いますか?帝国の現状は?」

 

無造作に置かれたソファーでくつろぐ中、飛田に話題を振られたディーンは二人に視線を合わせた。

 

「そうだな…」

 

熟考する彼の様子を、涼、穂乃花、茜は見守っている。

 

「恐らく、今は様子見をしているんだろう。突然本国が崩壊した。自分達の出自が造られた物だった。更に、人間にとって戦車や戦闘機といった兵器とも言える役獣達が突然牙を剥いた。となれば大陸のどこかに潜んで、人知れず反撃の時を伺っているに違いない。今後どうするか、どうなるかを見ながらね」

 

「…つまり、なにするかわからないって事ですか」

 

「うん。なにしろ軍事マニュアルには『帝国が敗北した時、反撃の時期を待て。決して焦るべからず』と書かれているからね」

 

「なるほど…なら今はゴッドラストへの対策に専念出来る訳ですね…」

 

「そうだね、しかし、奴をどうやって倒すか…」

 

「その件ですが、もしかしたら…まだ予想の段階ですが奴の弱点を見つけたかもしれません」

 

「な、なんだって!?本当かい、飛田!!」

 

ディーンの立ち上がりを皮切りに、全員の視線が一気に飛田に集まる。

 

「はい、未来島と、さっきのバドリードとの戦いでわかった事があります。それはテグサーマンの使うTE粒子が苦手という事です。それを一気に流し込めばいいんです」

 

「つまり、それが出来るのは想竜弾。皆の想いが集まったそれなら85%で倒せると計算で出ています」

 

「想竜弾…俺がTE粒子の中の黒いテグサーマンの力を借りて出来る技か…でも、それをするには一つ欠点があるな」

 

「はい…それは─」

 

「いよっ、やってるかい!?」

 

突然の乱暴なドアの開く音と共に、陽気な声を発する海斗が入ってきた。

 

「しゃ、社長…!!雰囲気を読んで下さいっ!!今で言うKYですぞっ!!」

 

彼の後ろには橋爪がおり、これ以上入り込ませないように必死で抑えている。しかし立場上強く出る事も出来ず、努力の甲斐なく飛田の元へと近付かせてしまった。

 

「よ、帰って来たのか!?全くどこほっつき歩いていたんだ!?こんな多忙な時になに考えてんだか…」

 

「し、社長…!?」

 

海斗の目を見た時、飛田は戦慄した。社会的に責められてか、それとも娘を失ってか、はたまた爆発の衝撃か。彼の目は両目とも焦点が定まっていなかった。口からは涎が一筋垂れている。変わり果てた彼の姿に引いている飛田。すると、海斗は涎を拭く事もせず、くちゃくちゃと音を立てて開いた。

 

「いいかい、君はねぇ、この会社に雇ってあげているんだよ?なら、日々の仕事に感謝し、どんな荒波が来ようとも、皆仲良く、絆を考えて、歯を食いしばって、そしてこの会社の絶対的なる規律は守らなきゃ。それくらい、十歳以下の子供でもわかることだろう?なぁ?」

 

「…わかりたくありません」

 

「…あ?」

 

「僕はあくまであのゴッドラストを倒し、皆の安全と平和を守る為にここにいるだけですっ!!今のあなたに忠誠を誓い、権力の笠に隠れるだけのあなたの立場を守るだけの存在になるつもりはありませんっ!!」

 

「な、ななななな、なにぃ…!?ふざけるないっ!!」

 

海斗は顔を真っ赤にして飛田に掴みかかった。

 

「僕はねぇ、偉いんだぞっ!!この日本をコントロールしているんだっ!!国からだって頼られている!!政治家だって僕に頭を下げるんだっ!!なんてったって百位の海外にも僕の企業がでぇぇぇっかく門を構えているんだから!!君達がどう逆立ちしたって敵わないんだ、クビにするぞ、クビにぃ!?」

 

「社長、その話は私が聞きますっ!!」

 

橋爪は海斗の肩を掴んで引きずるように部屋を後にする。見かねた涼は彼らの後を追おうとしたが、去り際の橋爪が首を横に振る様子を見てその場に立ち止まるのであった。

 

「全く最近の若者はなっとらん!!あいつらもGooGooZもそうだっ!!言う事聞かず、なんの役にも立たないじゃないか…」

 

廊下から響く、海斗の絶叫。それが聞こえてこなくなると、トウマは震える飛田の背中をさすった。

 

「…大丈夫か、飛田?」

 

「え、えぇ…やっぱり無理なんでしょうか」

 

「え、なにが?」

 

「…ゴッドラストを倒すにあたって、まだぼんやりですが大勢の人の協力が必要だと思っています。でも、それを指揮するトップの人たちがああでは、勝利には程遠いんじゃないか、と…」

 

「心配するな、俺達を見てくれている人は必ずいる。だから今は信じるんだ、皆が一つになって、平和の時が来るのを…」

 

「トウマさん…」

 

世界を動かすトップは只今狂乱。その一方未来島でも世界を揺るがす存在の一人、甲斐田もまた怒りで狂乱していた。

 

「あぁぁぁぁぁっ!!なんだよ、なんだよっ!!GooGooZめ、クビになって没落するどころか、三人で盛り上がって!!これじゃあ、僕がネットや他の人たちが流したGooGooZと重工の癒着の噂が無駄になったじゃないか…!!折角、日にちを掛けて一生懸命拡散したってのにっ!!」

 

そう言いながら甲斐田はパソコンを載せるテーブルを叩く。画面にはいくつもの掲示板が表示されていた。

 

「大体、あんなアイドル連中なんて、なにがいいんだっ!!どうせファンやそれ以外に対し絆だの想いだのなんてない、ただの金づるにしか思っていない癖にぃ!!どうせあれだろ、使えなくなったら見捨てて貶し、なんだろっ!?クラスの馬鹿共と同じでさぁっ!!わかってんだよ僕はぁっ!!」

 

彼がこう考えるには理由がある。それは高校一年の秋頃。祖母が死んだ頃に、校舎裏で名も知らぬ野生の花が生えていたのをふと見かけた。甲斐田はなんとなくそれが気に入り、育ててみる事にした。水や肥料を与え、ネームプレートをその前に刺し、毎日愛情を注いだ。そして、すくすくと育ったその姿に、本当の家族の様に感じていた。

 

だがそんなある日の放課後。水を与えようと校舎裏に行けば、手にしたコップを落とす程の惨状が目に入った。

 

「けっ、なによこの花、邪魔でしゃーないわっ!!」

 

甲斐田の視線の先では桃子というクラスメイトが花を踏みつけ、引っこ抜き、近くのゴミ集積所に放り投げている様子が飛び込んできた。近くには彼女の友人である男女数名のクラスメイトがいる。

 

「あっははははは!!桃子やりすぎだってぇ!!」

 

「うわー、桃子機嫌悪ぅー!!」

 

「先生に怒られたからってそんな目くじら立てんでもっ!!」

 

だが彼らは桃子を戒めるどころか手を叩いて笑い合うばかりであった。

 

「…!!」

 

何故、明らかに人が育てた物を簡単に壊すんだ。

 

何故、ストレス解消の為だけに花をターゲットにしたんだ。

 

甲斐田は心の底から怒りを感じた。握る拳に、爪が食い込む程の力が入った。

 

だが、甲斐田はその場を立ち去る事しか出来なかった。見逃し、なかった事にしなければ最低な自分を守る事ができないから。暴れた所で、勝てる筈もなく目を付けられる羽目となってしまうから。

 

「…あぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!」

 

ここまでの記憶がフラッシュバックし終えた甲斐田は怒りと悔しさのあまりに、目の前のゴミ箱を思いきり蹴っ飛ばした。転がったゴミ箱は中身を吐き出し、当たり一面にコンビニ弁当、カップ麺の空き容器を撒き散らした。

 

「…なにが絆だ、皆で頑張ろう、だ、気持ち悪いっ!!そんなのはなぁ、所詮力のある奴の都合のいい内輪だけの綺麗事だっ!!僕の事を仲間外れにした癖にっ!!権力者に捨てられた癖にっ!!もういい!!全部壊してやる!!僕に関わった奴も、これから出会わなくてはならない奴もっ!!修博士!!」

 

「ん?」

 

それまであぐらをかいていたゴッドラスト。呼ばれて僅かに首を動かした。

 

「今度は僕が行ってきます!!ちょっと兵士を借りますねっ!!」

 

「あぁ…いってらっしゃい」

 

「では…おい、そこの奴ら、ついて来いっ!!」

 

ゴッドラストの承諾の下、甲斐田はその場で待機する怪人を引き連れ、その場を後にする。喧騒となった室内はしんと静まった。

 

「さて…」

 

甲斐田を見届けたゴッドラストはゆっくり立ち上がる。そして一人、呟いた。

 

「そうだ…この世界の頂点に立つのは絆だの意志のある人間ではない…崇高な力を持つ物だ。さて、始めるか」

 

彼の視線の先、本州の大陸は静かに佇んでいた。まるで、新たなる脅威に待ち構えるかのように。

 




どうも皆さん!!

崩壊した世界で、色々と乗り越えながら彼らは今、一生懸命頑張っておりますっ!!

果たして、平和は訪れるのでしょうか!?

それでは今回も、第二十二話のハイライト、


【挿絵表示】


それから、怪人のご紹介で失礼致しますっ!!


【挿絵表示】


※第二十話~第二十二話までの登場怪人。
・(右上段)ミルメ:身長1.7m、体重85㎏
乳牛の幹部級で、角から電撃光線を放つ。
・(右下段)ジン・バイル:身長2.3m、体重850t
全身マグマの帝国トップ。
・(中上段)ゴッドラスト(左の絵は胸部の口を開放した物):身長2.4m、体重500㎏
ジン・ガイア人の産みの親である室田修が隕石の中で十年の歳月をかけて変わった姿。ジン・ガイア人を食す、高い再生能力を持つ。
・(中下段)ガイアラン(巨大茎):身長不明、体重150㎏(1mあたり)
ゴッドラストが操る巨大茎。人間など数多くの生物を喰らい、街を破壊した。
・(左上段)レミー(怪人態):身長1.4m、体重35kg
隕石の細胞によってレミーが変貌した姿。天使の様な姿をし、力を与えたり、回復をする能力を持つ。
・(左下段)ネオ・バドリード:身長2.5m、体重950㎏
ゴッドラストの力によってパワーアップした姿。肩の鮫を駆使して相手に噛み付かせる。

それでは、次回をお楽しみに~っ!!

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