・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。テグサー2に変身する。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。テグサー3に変身する。
・大城茜…天才的なバイクセンスを持った女子高生。テグサー4に変身する。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
・イーヴィル・ディーン…ジン・ガイア帝国のエリート兵士。
・イリア・ラントム…高飛車な若き女性社長。メデューザに変身する。
・モーラ・フォーゲル…ラントムチームの姉的存在。ロックオン・スナイプに変身する。
・ジョージ・スミス…陽気でチームのメーカー的存在。キャノン・ダイザーに変身する。
・浦島ヒロシ…物静かな男。ダイ・ソードに変身する。
・ゴッドラスト…十年間、ジン・ガイア帝国の陰で憎悪と成長を続けた『元人間』。
27-1
十年前、人間が住んでいた未来島。島内の最下層にて、一つの巨大隕石がいくつものチューブに繋がれて研究を続けられていた。室田修は、自室にてこの隕石の研究に没頭していた。
「もう少しだ、もう少しで俺にも『脚光』を浴びる事が出来るんだ…あの富田や、飛田のようにな…」
修はぼさぼさに伸び続けている髪も、無精髭も気にせずにカバーの裂けた椅子に座ってキーボードを叩き、モニターにぼぉっと映るレポートをまとめている。この様子となれば無論、カップ麵や紙くずも部屋中に撒き散らしている有様であった。すると、自室の研究室の自動扉が開かれた。振り向くと、そこにいたのは黒服の男性二名であった。
「あっ、お疲れ様です。まさか、旋風重工の方がわざわざ来て下さるとは…あぁそうだ、もう間もなくでレポートは纏まります。それまでコーヒーでも…」
修は二人を手厚くもてなす。低いテーブルに置かれたコーヒーの紙パックから、近くにあった紙コップ二つに注ぐ。しかしその意に反して、黒服は座る事もせず無愛想に話しかけた。
「我々が来たのはレポートを見る為ではありません。例の隕石に関して来ました」
「は、はぁ…?」
「あなたの研究データの下、我が社と我が国の専門家に検証させた所、あの隕石は計り知れない力を持っていると結論が出ました。そこでですが、今後はあの隕石を我々の名と共に研究を続けてもよろしいでしょうか?」
「え!?あ、いや…えっと」
言葉に詰まる修。『我々の名の下』という事は重工と国の名前で研究を進め、自身が作り上げたデータを協力という形でそっくりそのまま提供するという事は熟知していたからだ。
「いかがですか?なにかあった時、必要な経費がかさむ時、便利ですが…」
「う~む、わかりました…お任せいたします」
「…ありがとうございます。では、これにサインを…」
書類を手渡す黒服二人。この時、修は思った。
(国の名前って事は、俺の名も広がるという事だ…やったぞ、栄光は、俺の物だっ!!)と。
その日は大手を振って喜んでいた。小躍りもする程の上機嫌でもある。
少なくとも、この日までは。
「な、なんだこれは!?どういう事だっ!?」
翌日。研究室のデータ、実験用のビーカー、ありとあらゆる物がねこそぎなくなっていた。
「ま、まさか…!!」
修は駆けた。港へと。そこあったのは、自身の資料を持ち去らんとする重工の手の者と、出港間近の船であった。
「くそ、待て、待ちやが、れ…!!」
修は飛びかかる勢いで船へと向かう。しかし、港のスタッフがその手を阻んでいた。
「お待ち下さい研究者の方。当港は現在、整備の為に立入禁止となっています」
「頼む、行かせてくれ…!!」
「なりません、いくら博士クラスの指示でも…」
「行かせてくれっ!!あの船には、私の、私の…」
「私の『想い』がぁぁぁぁぁっ!!」
結局、無情にも港奥には立ち入る事が出来なかった。どんな抜け穴からでも。疲れ果て、心身共にボロボロとなった修は廊下で思った。
「あぁ…船が行ってしまう。もし行ってしまえば、研究は奴らの独り占めで私はお払い箱…か。恐らく、一人で告発しても揉み消されるだろう…」
「…あ」
修の目先にいたのは、昨日の黒服であった。その瞬間、消沈していた彼の怒りが沸き上がった。
「き、貴様らぁっ!!わ、私の研究を、なんだと思っているんだぁっ!!ふざけるなぁ!!返せ、返せぇっ!!」
睨んで掴みかかる修。それでも黒服は飄々としていた。
「しかしですね、昨夜は署名したではありませんか。『国選の研究員に研究を渡し、その名で発表をする』と」
「そ、それは…お前達が疲れている時に来たからだっ!!重労働を押し付けられて頭が回らなかったんだよっ!!」
「…それと、あの隕石は大変危険な物です。よって我々が占有する権利が発生します。お忘れですか?この島はこの島だけの法律がある事を」
「…う、うぅ」
「我々はもう間もなくで出港します。それではっ!!」
突き飛ばすように、掴む手を追い払う黒服。修はその場に倒れ込んだ。
「待て、待てぇっ!!待てよぉ…」
修には最早返す力も残されていなかった。壁にもたれかかる彼の瞳には光る物が浮かんでいた。
「ははは…そうか、所詮どんだけ頑張っても、最後には偉い奴が全部かっさらっていくんだな。俺、努力したのがバカみたいだな…これではまるで、小さい頃からと同じではないか」
「…あは、はは…」
修は、笑う。
「あははははははははははははははははは!!あーっはっはっはっはっ!!」
廊下に響く程に、笑う。だが誰も、来てはくれなかった。
「…よし、わかったよ。誰も俺も認めない世界、俺の手でぶっつぶしてやる。そうだ、俺が持つ、この石で!!」
冷静になり、修が胸元のポケットから取り出したのは、隕石のかけらであった。彼はそれを握りしめ、ゆっくりと廊下を歩み始める。それからであった。
世界が、大きく変わり果てたのは。
「室田修ゥゥゥゥッ!!」
「…」
そして現在、テグサー1とゴッドラストの一騎打ちが始まった。
「てめぇは俺から、皆から多くのモノを奪った…ソイツを、俺は、ぜってぇ許さねぇっ!!」
テグサー1の怒りの拳は何度もゴッドラストに命中する。しかし、当の相手は微動だにせず、お返しにと掌底打ちを放った。
「ぐあっ!!」
圧倒的なパワーに転がるテグサー1。彼の下に、テグサーチーム、飛田が駆け寄った。
「トウマっ!!」
「ぐっ、コイツ、強いぜ!!穂乃花、本当に爆弾は起爆したのかよ?」
「う、うん、そうなんだけど…」
テグサー2は思い出す。心臓の様に脈打つ、自身の身長より一回り大きい繭に爆弾を皆で設置していた事を。
「よし、起爆させるぞ…」
ディーンは起爆スイッチを押した。瞬間、大爆発が起こり、粒子が大きく散らばった。同時に、室内には煙が立ち込める。
「いいか、皆…奴はまだ死んではいないが、弱っている筈。なので、先程連絡があった様に、ゴッドラストを倒すと同時に社長を…」
テグサー3が指示を出したその刹那、煙から伸びた腕が彼女の首を絞めた。
「が、っぐ!?」
「りょ、涼さ…!!」
テグサー2が慌てて駆け出した。同時に、彼女の腹部を光弾が襲った。
「な、なに、が…!?」
衝撃で倒れたその時、彼女は見た。雄々しく歩む、ゴッドラストの姿を。
「ふっ、残念だったなぁ。私はこうして、生きている」
そして、今となる。
「…なるほど、アイツ、そこまでパワーアップを」
テグサー2の話を聞いたテグサー1は静かに納得した。
「…話は終わりかね?なら、これを見るといい」
ゴッドラストは両手で胸部を大きく開く。すると、露出する、もう一つの『顔』。よく知っているその顔に、テグサーチームは、叫ばずにはいられなかった。
「「「「「れ、レミーッ!!」」」」」
と。
「トウ…マ、みん、な…」
胸部のレミーは、虚ろな瞳で仲間の名を呼ぶのに精一杯であった。対して真上のゴッドラストは蔑む様に笑った。
「ふふふ、忘れた訳ではあるまい。この子の事を。私はこの子を取り込んで力をつけたからこそ、爆弾の衝撃を耐えきったのだよ。そして、その返礼として、この子には私の中で、最期までの養分になって貰おうと思う」
「な、なんだとっ!?まさかてめぇ、レミーの力を…」
「思いの通りだよ、テグサー1。レミーの能力は誰かに力を与える能力。しかしそれは無限ではない。自身の体力が尽きれば、それは死を意味する。ふはははははは…!!この十年、彼女は随分と温室で育てられたようだな。お陰で、栄養は満点だよ」
「てめぇぇぇぇぇっ!!」
テグサー1は立ち上がり、その拳に撃竜拳を灯す。ゴッドラストは胸を閉ざし、レミーを体内に仕舞うと両手を胸の前で合わせて構えた。
「無駄だと言っただろうっ!!私は甲斐田のように、上手くはいかんぞっ!!」
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
テグサー1の怒りの拳はゴッドラストの掌に激突する。右フック、左ジャブ、右ストレート…確かに傷を負わせているが、決定打になりうるとは言えない上、すぐさま再生してしまっているのが現状であった。
「効かんわっ!!」
合わせたままのゴッドラストの掌から衝撃波が巻き起こる。テグサー1は激しい回転と共に後方へと吹き飛び、壁へと激突した。
「ぐわぁっ!!」
そこに衝撃の煙幕が立つ。晴れると、テグサー1はトウマへと変身解除をし、ぴくりとも動かなかった。
「と、トウマ!!」
駆け寄ろうとしたテグサー2。それより先に、テグサー3の命令が。
「穂乃花、トウマは無事だ、それよりも私達も戦うぞっ!!」、
「…はいっ!!」
かくしてゴッドラストを囲むテグサーチーム。戦意を失わない彼らに対して、中心核の『神』は余裕綽綽であった。
「ふん、無駄な事を。私が前形態の時でも負けなかったのを忘れたか?」
「それでも…私達は諦めないっ!!大勢の人の命と、想いがかかっているんだからっ!!」
「ほう…しかしそんなモノは苦労するだけ無駄だと、教えてやろうっ!!」
ゴッドラストの俊足は反論した相手、テグサー2に急接近。彼女が意識する以前にその華奢な首根っこを右手で掴んだ。
「あっ!?がっ!?」
ギリギリギリ…締め付けの音が鳴る。
「か、かっは…!!」
強烈な首絞めにもがくテグサー2。
「ふぅん…!!」
トドメを刺さんとゴッドラストはその力を強める。
「ほ、穂乃花さんっ!!」
飛田の悲鳴でやっと気がついたテグサーチーム。三人が各々持つ刀、ロッド、青竜刀がゴッドラストの背中を狙った。しかし。
「…無駄だと言っただろうっ!!」
ゴッドラストの背中の羽の羽ばたきが、三人を押し返す。
「「「うわぁぁぁぁっ!!」」」
「ついでに、これも返してやろうっ!!」
風で宙を舞う三人に向けて手中のテグサー2を放り投げる。同じく宙に舞った彼女の身体はテグサー3とぶつかった。無惨にも床にたたき付けられる四人。その姿に、あえて風を止ませたゴッドラストは嘲笑う。
「ふはははははは…無様なモノだ…無駄に命を散らす事もなかろう。どうせ、今日中にも隕石が地を襲うというのに」
「くっ、まだだ、まだ終われないっ!!」
ディーンはゴッドラストが語るこの星の運命に抗う。それはテグサー2、3、4も立ち上がり、飛田も身構えた。
「ディーン・ブレイカー!!」
ディーンの角から放つ超音波。ゴッドラストは手刀で弾く。
「天下無双刀、唐竹割りっ!!」
テグサー3の斬撃。刀を掴まれ、反対に衝撃波で胴を撃たれた。
「風竜剣・フルバースト!!」
テグサー2の風竜剣、銃撃モードから発射された光線。突き出した掌で握り潰された。
「アクセル・ロッド!!」
隙を狙った、テグサー4の側面からの喉突き。届く前に蹴りで制された。
「うああああああっ!!」
必殺技を防がれ、一斉の接近戦に挑む四人。絶対不利の人数にも関わらず、ゴッドラストはいとも簡単にいなしていた。体育館に響く衝撃波、ひび割れるメット、武器。その様子をトウマは飛田の傍で倒れたまま、薄れた意識の中で見つめていた。
(み、皆…すまねぇ、俺が、動けねぇばかりに…)
(今までは色んな後ろ盾があったが、もうそれも通じねぇ。畜生、今度こそ終わりなのかよ…)
(…思えば十年、俺はなにも守れなかった。島の皆も、今も…)
彼は思い出す。十年前、この地で命が失われ、そこで一人泣いていた事を。
(あん時は、こうも悲しいなら人には深く関わるまいとしていたが…戦うとは思わなかったぜ)
(しかも、そうなった原因が十年目にして勤めた仕事先だってんだから、笑える…いや、笑えねぇわ)
(もう、ここまで、か…)
「終わりだっ!!」
ゴッドラストの風をも巻き起こす回し蹴り。戦う四人を軽く吹っ飛ばした。その先は、トウマの倒れた真横。四人もまた蓄積したダメージによって変身を解除し、床にその身を叩き付けられる破目となった。
「う、うぅ…」
「く、く…」
そのままうろたえる穂乃花と茜。無意識にトウマの手を握っている。
「くっ…」
怪我で中腰でも、刀を構える涼と、ディーン。飛田はそんな彼らを庇うように立ち塞がっていた。
そして、ゴッドラスト胸から出て来たレミーが叫ぶ。
「み、皆…!!逃げ、て!!」
しかし逃げられない。逃げたとしても隕石の嵐が待っているからだ。
「これまで、か…!!」
歩み、迫るゴッドラストを前に、トウマは呟く。その時であった。
彼らに、人々の『声』が聞こえたのは。
『…ばれ、負けるなーっ!!』
(なんだ、声が聴こえる…?誰が喋ってるんだ?)
飛田は耳を傾けながら周囲を見渡す。しかし自分達以外誰もいないし、喋っていない。幻か。だが、トウマ達もまた、どこから声がするのか探っている最中であった。その声の主はやがて、テグサロイドの画面から彼らに映し出される。外で共に戦う戦士の姿を。
『テグサーマン、負けるなっ!!』
『君達の背中は人間と、ジン・ガイアがついているぞぉーっ!!』
岸壁で一列になって、怪人態のジン・ガイア人と、老若男女の人間達が手を繋いで叫んでいる、よく見ればその列の中には闘牙と凛奈の姿もあった。
『にぃにぃーっ!!ファイトー!!』
『最後まで諦めるんじゃあねぇぞぉーっ!!お前には俺達がいるんだからなぁっ!!』
「おっちゃん、凛奈…コイツは、TE粒子が見せている奴、か…」
トウマは嬉しそうにニヤリと微笑む。ディーンも同様であった。
集まったのは彼ら関係者だけではない。
『穂乃花ーっ!!この前は見捨てるような事言ってゴメンッ!!仲直りしたいから、必ず帰ってきてぇっ!!』
桃子に続いて追い払おうとした陽観高校のクラスメイトもまた、ジン・ガイア人と手を繋いで叫んでいた。
「皆…今更仲直りなんて、必要ないのに…」
穂乃花は感慨深かった。胸に熱く感じる想いがあった。同じくして茜も見た。
『『茜ちゃ~んっ!!』』
「おじさん…おばさん…」
やさぐれた自分を暖かく見守ってくれたバイク屋夫婦。
『『『『茜~っ!!』』』』
と、あれ程仲の悪かった父母と兄二人。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん…」
共に自身の名を呼んでくれるのを。
『『『涼せんせ~いっ!!』』』
「あの子達は…ありがとう、皆」
涼が見たのは、実家の道場の門下生。剣道着姿の小中学生が大人に負けず叫んでいる。
「あっ、GooGooZの皆さん…!!」
そんなテグサーマンの傍らで、飛田は別の映像を見ていた。小さなスタジオで歌うGooGooZの姿があった。
『吹っ飛ばせ踏みにじられた未来ッ!!掴もう、隣人の手を~っ!!』
背後には、彼女達の協力者であろう人達が満足げに頷いている。歌は、間奏となった。
『『『…この配信をご覧の皆さん、信じましょうっ!!テグサーマンやラントム社、ジン・ガイアの方々が勝つって!!』』』
激しく流れる音楽と共に、三人は叫んだ。思いの丈を。力いっぱい。
ゴッドラストはこの映像にここで初めて怒りを見せた。
「ぐぅ…貴様らわかっているのか!?こんな想いなど、隠された強大な力の前では無駄である事を…!!私がそうであったようにっ!!」
動揺したか、レミーを体内に仕舞う。すると、トウマの声が聞こえた。
「わかってねぇのは、お前だ」と。
「テグサー1…!!むぅっ!?」
ゴッドラストは振り向いた先に驚愕した。トウマを中心に、五人の戦士が立ち上がったからだ。それまで立ち上がる事すらままならない程に怪我をしたのが嘘のように。瞳に闘志を燃やして。
「確かに、こうなったのはこの世界を牛耳る権力者に原因の一端があるかもしれないし、弱い者同士が一致団結しても、美談としてその想いを利用されるだけもしれない…!!無駄になるかもしれない…!!」
「だがなぁ、俺達は世の中そんなモノだと割り切って諦める程に出来ちゃいねぇんだよ、なんてったって、平和が一番で大好きな、不完全な人間だからなぁっ!!」
「そして、皆が俺達にくれる想い…無駄に出来るかよっ!!…行くぜ皆、俺達が貰ったこの想いに乗せて変身だぁっ!!」
「「「「おうっ!!」」」」
「「「「「チェンジ、テグサーマン!!」」」」」
五人に力が宿る。神々しき光の粒子と共に。そして弾ける粒子は戦士を蘇らせた。
「テグサァァ…1!!」
圧倒的なパワーを誇る希望の戦士、テグサー1。
「テグサー2!!」
韋駄天の様な速さで優しさと明るさを振り撒く戦士、テグサー2。
「テグサー…3」
寡黙で強靭な意志を我が刀身に宿らせる戦士、テグサー3。
「テグサー4!!」
自身の願いを二輪と共に突っ走る戦士、テグサー4。
「イーヴィル、ディーン!!」
己の存在を否定してでも、正しさの中で生きる戦士、ディーン。
「「「「「我ら、テグサーマン!!」」」」」
五人は名乗る、それぞれの想いを貫く為に。人々の願いを叶える為に。
「行くぞぉぉぉぉぉっ!!」
27-2
「はぁっ、はぁ…」
「ぜぇ~…ぜぇ~…」
狭苦しい廊下には役獣の死骸が無数に転がっている。それらを椅子代わりに座るのは、呼吸を整える最中のラントムチームであった。
「なぁ、さっき見た幻、外の人達だよな…?」
唐突に話しかけたキャノン・ダイザー。
「あぁ、そうだな…」
ダイ・ソードは頷く。
「ってコトはよ、俺達が頑張っている間に、ホントに両種族の和平が実現したって事か!?」
「だろうな、全く嬉しい事だ」
「やった…やったぜっ!!俺達がやってきたコトは無駄じゃあなかったって結論でいいよな、ね、隊長!?」
「えぇ、まぁね…」
「yeah!!これで残りはゴッドラストだな!!…って、それが一番の問題だった。どうしようモーラ!?俺達にはもう残りの弾も燃料もないぜ!?これじゃあ援護に行けず、最悪、ゲームオーバーじゃあ…」
「落ち着きなさいジョージ、彼らを信じなさい。あの子達は絶対不利な状況だって戦い抜いたんだから。それに、これはGRNで出ていた推測だけど、確かTE粒子は亡くなった人々の魂が宿るというなら、もう一つ勝利への『奇跡』が起きるわよ、きっと」
「え、それって…!?」
「…」
ロックオン・スナイプは天井を見上げる。それと同じ頃、テグサーマンはゴッドラストとの決戦に挑んでいた。
「やぁぁぁぁぁっ!!」
ゴッドラストを取り囲んでテグサーマンは一気に攻める。己の持つ武器に力と想いを込めて。
「ふん、馬鹿め、同じ事よぉっ!!」
ゴッドラストはその場で地面を踏み、周囲に衝撃波を巻き起こす。しかし、テグサーマンはその衝撃波は全身を包む粒子によって防ぎ、斬撃の届く距離まで詰め寄った。
「な、なにっ!?まさかこれが、両種族の…ぐぅあっ!!」
四つの刃がゴッドラストの腕、肩、背中を斬る。彼は大きくよろめく。構えも解いた。その瞬間、2、3、4、ディーンの後ろ蹴りが脚に命中した。
「ぐあっ!!」
連続攻撃にダメージが入り、その脚がふらついている。同時にテグサー3が叫んだ。
「今だ!!」
「うりゃあああっ!!」
彼女を越えて、テグサー1がゴッドラストに飛びかかる。右拳に撃竜拳を光り、輝かせて。
「撃、竜、拳!!」
「し、しまっ…」
防御させる間もなく、撃竜拳はゴッドラストの左側頭部を正確にめり込ませる。凄まじい衝撃が全身を駆け巡り、ゴッドラストは激しく床を転がって、体育館ステージに激突した。
「ば、馬鹿な…こんな事が、たかが人の想いだけだと、言うのにっ…!?」
「…真実はどうあれ、この島では大勢の人が未来の為、子孫の為に頑張っていた人達の想いで出来ている。それを無下にしたお前の負けだ、室田修」
テグサー1は床に横向きで倒れるゴッドラストを見下ろしながら、静かに答える。彼に続いて、飛田も口を開いた。
「今、あなたにTE粒子を照射して、ウチの社長とあなたを分離させて貰います。あなたはこの十年隕石の中で力をつけていたのでもう元には戻らず、苦しみ続けますが、覚悟してもらいますよ。さ、トウマさん、キメて下さい。そして、この十年の戦いに、ピリオドを…!!」
「あぁ…レミー、待ってろよ。今、助けてやるからな」
「…」
体内からのレミーからは、返事がない。それでもテグサー1はゴッドラストに向けて一歩一歩、歩みを進める。するとゴッドラストが唐突に笑い出した。
「クックック…そんな簡単に終わるモノか、よ~く見ておくがいい」
立ち上がる彼。
「あ、アレは…!?」
飛田は驚愕した。開いた胸部、眠るレミーの周り、腕や脚にはのジン・ガイア人の人間態が有象無象に纏わり付いていたからだ。彼らの表情はどれをとっても苦悶の表情を浮かべている。
「クックック、驚いたかね?コレは私が以前喰ったジン・ガイア人を体内で改造し、肉壁として再利用した物だ。コイツらはそうそう崩す事は出来ん。それに、死体を蹴る事になって、気分も最悪だろう?どうだね、最高の盾だと思わんかね?」
「てめぇ…卑怯なマネをっ!!」
「さ、時間もないだろう。もう間もなく隕石も落ちるしな。かかってきたまえ」
「言われなくてもっ!!」
テグサー1は突っ走る。
「と、トウマさんっ!!」
飛田の制止も聞かず。その後を、テグサーマンとディーンの4人も追う。
「無駄だ、命と隕石、どちらもお前は取る事は出来んっ!!」
言うが早いか、ゴッドラストはレミーをしまい、無数のジン・ガイア人の肉壁から一直線状の光線を発射。
「ぐわっ!!」
突然の連続猛攻で吹き飛ばされるテグサーチーム。なんとか起き上がる彼らに、ゴッドラストは高笑いする。
「はっはっはっはっ!!こんな事もあろうかと、ジン・ガイア人の身体を消化せんでよかったわっ!!所詮、弱き者は強者の餌となるのだっ!!」
その様相は、まるで自身が本物の無敵の神にでもなったかのようだ。
だがその時であった。
『そこまでだぜっ!!』
体育館の扉が開かれ、一人の怪人が姿を現したのは。
「ま、マツナガ!!」
その名をディーンは呼ぶ。そして彼は危険を顧みず、ズンズンと館内へと入った。ゴッドラストはじろりと彼を睨んだ。
「マツナガめ、我が餌の分際でなんの用だ?」
「へっ、餌かどうかは、わからねぇぜ?コイツを使えばなぁっ!!」
マツナガが取り出して掲げたのは、一つの手のひらサイズの機械。いち早く気が付いた飛田は、おもわずその名を呼んだ。
「あ、アレは、TE粒子集束機!?一体なにを…?」
「まぁ見てな飛田…おい、ゴッドラストに喰われた皆、聞こえるか!?」
マツナガはゴッドラストに、かつての同胞に呼びかける。当然、返事はない。
「お前達は人間より優れた存在だと信じ、今日まで戦ってきた。でもそいつは、一人の野郎によって作られた思想であった。そこで今、俺達は人間と手を組み、諸悪の根源に立ち向かい、ひとまずの決着をつけてから一歩を進もうとしている!!それには一人でも多くの人を助ける必要がある、希望を繋がなくてはならねぇっ!!」
「だから…だから!!今を生きる仲間の為に、目覚めてくれっ!!ゴッドラストを止めてくれっ!!俺が持っているコイツなら出来るっ!!人間を越えた存在だと信じるお前達なら、出来る筈だぁ!!」
「ま、まさか、マツナガさん…やめるんだ!!ジン・ガイア人がそれをいじったら…!!」
飛田が言い終えるより早く、怪人化したマツナガは右手で掲げたTE粒子集束機を起動させる。機器は周囲の空気と共に、青い粒子を吸い込んだ。それは、美しく煌めく。しかしジン・ガイア人とっては、『猛毒』ともなり得るのだ。
「う、うおぉぉぉぉぉぉっ…!!」
機器が粒子を吸えば吸うほど、持ち手であるマツナガの皮膚はボロボロと崩れ落ちる。すぐにも悲鳴を上げる事すら出来ない。自身が苦しむ『仲間』を前に飛田は、見てはいられなかった。
「マツナガさんっ!!僕が持ちますっ!!早くこっちに!!」
「来るな、飛田!!コイツは、共に戦ってきた俺だから出来る筈だっ!!粒子は人の想いを乗せるんならなぁ、俺の想いと身体を持って行きやがれぇ…!!」
「マツナガさん…」
二人の間を、ゴッドラストは嘲笑う。
「ふん、無駄な事を…どれ、止めてやろうか」
瞬間、何者かが彼の腰にしがみついた。それは足下で踏ん張る、いつの間にか来ていたコブンロであった。
「行かせない、兄貴の想いを、邪魔させない…!!」
「…邪魔だっ!!」
ちょっかいを出す野猿を追い払うかの様に、ゴッドラストはコブンロを蹴り飛ばす。
「余計な事をしなければ、少しは生きながらえたかもしれないものを…どれ、ここでトドメを…ぐぅっ!!」
すると突如、ゴッドラストは膝をついた。苦しみだしもした。彼の身体中に現れていたジン・ガイア人が怪人態となり、次々と動き出していたのだ。
「な、なんだありゃっ!?」
その様子にテグサー1は驚愕。飛田もまた同様であったが、それよりも冷静な観察眼が勝っていた。
「こ、これは…!?そうか、TE粒子は死した人の想いも乗せている。だから、ジン・ガイア人の想いも集めているんだっ!!それも、最も想いの熱い、今の彼らなら、尚更っ!!」
「ぐ、ぐぉぉぉぉっ!!」
続々と、ゴッドラストの胸部、腕部、脚部、背中には、彼が喰い漁ったであろうジン・ガイア人の怪人態の顔が浮き出てくる。そして、最後に現れたのは唯一の生体、眠ったままのレミーの上半身であった。これはチャンスだと、マツナガはニヤリと笑った。
「へっへっへ、暴飲暴食が過ぎたな神様よ。テグサーマン、今だっ!!ダチを助けるんだろうっ!?」
「そ、そうだ…行くぞっ!!」
テグサー1の掛け声。
「「「「おおっ!!」」」」
彼と共にテグサーチームは駆け出す。ゴッドラストの胸中、眠るレミーの下へ。
「へへへ、これで俺も…」
そんな彼らを見送り、マツナガは駆けつけたミルメの胸で、静かに目をつぶるのであった。
「レミー!!」
テグサー1はレミーを抱き上げるように掴む。2とディーンは並んで彼の背中を支え、3と4はゴッドラストの背中から羽交い締めで抑えつけた。
「貴様ら、勝手は許さんぞ…!!ぐぅぅぅっ!!」
レミーの寄生主は必死で抵抗する。しかし、魂に力を奪われてか、身動きが出来なかった。
「レミー、レミー、聞こえるか!!」
テグサー1は必死でレミーに呼びかける。反応はない。それでも、彼は続けた。
「お前がいなくなる前、俺達に二つ言ってたよな?『自分はなにが出来るか』って事と、『世界がこうなったのは自分のせいだから殺してくれ』って。俺はあの時なにも言えなかった。でも今なら言える。お前がいるってだけで俺達は幸せなんだ!!喧嘩して、馬鹿な話をして盛り上がって、喜びを分かち合って…それだけで十分なんだっ!!」
想いは、皆同じ。
テグサー2は友人として迎え入れる気持ちで一杯であった。
「そうだよレミー、だから帰ってきて!!これからは友達としてまた、カラオケにでも行こうっ!!ショッピングもしてさぁっ!!」
テグサー3は年長者として、チーム内の古株として語りかける。
「…最初に私の道場に来た時、冗談だと思っていた。でも今は違う。レミーが来てくれた事で多くの人の命を救えた…呼ばれてよかったと、心からそう思うぞ」
テグサー4は上ずった声で未来を提案する。
「私も、私もだよっ!!今度さ、戦いが終わったフォーチェイサーでさ、二人乗りで旅に出ようよっ!!辛い事なんか吹っ飛ばしてさぁ!!一人で走るなんて淋しいもんっ!!」
そして、ディーンはあの時の礼を伝える。
「…ヤドカリヤンや幹部級と戦ったあの日、GooGooZの曲を俺達に聴かせてくれたのは、確か君だったね。あの時、アレがなかったら気持ちで負けていたかもしれない。だから、君の思いやりとやさしさは俺達に必要だ…」
より、デグサー1は力を込める。
「だからよ、レミー…」
「「「「「「帰ってこぉぉぉぉぉぉぉぉっい!!」」」」」」
飛田含め、六人の叫びは一つとなった。そして、想いに呼応して、レミーの瞳はようやく、日の目を見た。静かに流れる涙と共に。
「トウマ…皆…私、生きててもいいの?こんな、化け物の姿、でも…」
「そんな事一々聞くもんじゃねぇぜっ!!よし行くぜっ!!せ~の、せっ!!」
テグサー1はぎゅっと力をこめてレミーを引っ張りあげる。彼女の身体はずる、ずるとゴッドラストから離れていく。
「や、やめろぉぉぉぉっ!!」
ゴッドラストの雄叫びと共に、レミーは寄生主と完全に決別した。彼の翼は失われ、文字通り羽をもがれた悲しき獣へと変わり果てていたのだ。
「レミー…おかえり」
テグサー1は抱き抱えた彼女にそう告げた。
「トウマ…うん、ただいま」
レミーもまた、たった一言だけ告げた。
「貴様、よくもぉぉぉぉぉぉっ!!」
ゴッドラストはテグサー1を襲おうとした。が、突然としてその挙動はピタリと止まった。テグサー1の右拳が緑の光に煌めいていたからだ。
「あ、あぁ…それは…」
「そうだ、コイツは先日てめぇに食らわせた技…それの撃竜拳バージョン…」
「名付けて、『想竜拳』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
テグサー1の拳と光は、怯むゴッドラストの胸部へと減り込んだ。
「あ、がぁぁぁぁぁっ!!」
なすすべなく、ゴッドラストは大きく吹き飛んだ。床にも容赦なく叩き付けられた。一回、二回、三回と激しくバウンドして。それからの彼は、微動だにしなかった。全身にも、亀裂が走っている。
誰もが『これで終わった』。そう思っていた。
その時であった。
『皆さん、大変ですっ!!』
テグサーチームに通信が入る。谷田からであった。
『隕石がコースを変えません!!未だに意思を持っているように飛んできていますっ!!』
「な、なにっ!?」
ざわめくテグサーチーム。
「ふふふふ…もう、手遅れだったのだよ」
彼らに、ゴッドラストが冷酷に笑った。
「レミーを取り除けば、あの光の柱は消え、隕石が回避出来ると思ったか?残念だったな、隕石を呼ぶ能力自体は私を倒せなければ無駄なのだよ。私をずっと追い続けるからなぁ?さぁどうする?私の肉体の処理は時間が掛かる。なぜなら、再生能力の方にエネルギーをフルに使っているからなぁっ!!間に合うとは思えんなぁっ!!」
そう言いながら、彼の傷は徐々に治りつつあった。間に合うかどうか、その場の者達には誰も分からない。
「く、くっそぉっ!!ここまでってのか!?」
テグサー4は絶望に叫ぶ。すると、続けざまに起き上がった人間態、マツナガが続けて叫んだ。
「待ってくれ皆、こんな事もあろうかと、俺が用意した物があるっ!!」
27-3
「マツナガ、そいつは…!?」
以前見たのと多少差異はあれど、ディーンはマツナガが持つ装置、一本の腕輪に見覚えがあった。
「あぁ、コイツはお前が世話になった瞬間移動装置だ。コイツを使ってゴッドラストを追い払う」
「しかし、どうやってだ?同じ地球の中じゃ意味ないぞ?」
「人間側によると、コイツは同じ範囲の空間を交換する形で瞬間移動を可能とさせるんだ。それで飛ぶ場所を選ぶには、どの環境と交換するか予め設定すればいいって訳だ。つまり…」
代わって、飛田が叫ぶ。
「そ、そうか…!!宇宙空間を選べば、ゴッドラストを宇宙に飛ばせる…!!」
「その通りだ飛田。今から俺はコイツをゴッドラストに取り付ける。皆、下がってろ」
マツナガは一歩進む…といっても、おっかなびっくりといった具合だ。するとその時。
「…なるほど、弱ってる今なら、可能かもしれないな、だがっ!!」
言うが早いか、テグサー1はマツナガの手から装置を奪い取った。同時に、腕輪を自身の左手首に取り付けた。
「と、トウマ…!?お前!?」
「コイツは俺がやる。恐らく飛んだ先でゴッドラストは力をつけて帰って来る可能性がある…そして、選ぶ場所が宇宙だとしても、二度と地球に帰れないかもしれないんだろ?場所がアバウト過ぎるからな」
「し、知ってたのか…」
「まぁな、経験者だし。だから俺が行く、最後の決着は自分がつける」
「…チッ!!わかったよ、好きにしろっ!!ったく、せっかくのオオトリは俺がしたかったのに…」
「マツナガ、ジン・ガイアと…レミーを頼む」
「あぁ…任せとけ」
ゴッドラストの脚は修復しつつある。テグサー1は意を決して歩みを進めた。
「…それじゃあ皆、元気でな」
仲間達は咄嗟に、彼の名を呼ぶ事しか出来なかった。
「と、トウマ!!」
「トウマ!!」
「トウマァァ!!」
瞬間、テグサー1は座ったままのゴッドラストを抱くかの様にしがみついた。
「き、き、貴様考え直せっ!!私は生きられるが、宇宙でテグサーマンの活動は限られているんだぞっ!!無駄に命を散らすなっ!!」
予想外の装置にゴッドラストは焦る。彼の歪む表情の下で、テグサー1、トウマはマスクの中で不敵に笑った。
「へっ…この十年の想いにケリつけてやる」
「き、貴様ぁぁぁぁっ!!」
ゴッドラストはテグサー1の背中を執拗にだだっ子のように叩く。見かねたレミーは駆け寄ろうとした。が、腕を引っ張る形でテグサー3がその行動を阻止した。
「りょ、涼…!!」
「…トウマは私達を巻き込まないように戦っている。そんなアイツの想いを無駄にするな…!!」
「トウマ…」
「トウマァァァァ!!」
レミーは叫ぶ。同時に、テグサー1とゴッドラストは光に包まれ、文字通り『地球』から消え去った。
『あぁっ、隕石が軌道を変えた…!!』
テグサー1の耳に微かに聞こえた谷田の報告。それを聞くだけで彼は嬉しかった。
「…ぐわっ!!」
広大で無機質な宇宙空間。光が散らばって、二人が落ちた先は小惑星の地表であった。
「…!!」
テグサー1は同時に起き上がる。離れた位置にいるゴッドラストは、立ち上がる素振りを見せず、震えるだけであった。
「ふふふ、ふふふふふ…!!」
その笑みは不気味だ。そう考えるテグサー1はおもわず声を荒げた。
「てめぇ、なにが可笑しい!?」
「…私はずっと貴様の父親を見ていた。しかし、彼の才能には決して追いつけなかった。つまり、私は誰にも認められず、彼は認められていた。だからいつか追いついて、この憎しみに決着をつけよう、いやがおうでも認めさせようとも思っていた。まさかその願いは、その息子…またも世界に認められた者に阻まれるとは思わなかった。このとてつもない運命の巡り合わせ、余りにも可笑しいと思って笑っていたという訳さ。しかしだ、私は諦めん、ここで息子を倒し、必ず私をつまはじいた人間共に復讐をしてやろうっ!!貴様の父の想い、ここで終わらせてくれるっ!!」
「…そうはさせねぇ。偶然とは言え、俺はとんでもねぇモンに会ったと思うぜ。だからよ、こいつは『運命』としてケリつけてやる」
「ふん…だが隕石はもう間もなくで我々の元に降り注ぐ。それまでに勝てるといいがな」
ゴッドラストは立ち上がり、拳に力を込める。
「勝ってやるさ。俺はこの十年間、この時を待っていた…来な、ゴッドラスト。てめぇの野望と俺の想いは、ここで終わりだ!!」
テグサー1も構え、睨む二人。この十年における、地球の運命の戦い。宇宙で静かに漂う石だけが見つめていた。
「はぁぁぁっ!!」
「うぉぉぉぉぉっ!!」
両者は激しい格闘戦を繰り広げる。ゴッドラストの右のストレートパンチがテグサー1の頬に決まる。一歩、後ずさりさせる程だ。
「でやっ!!」
しかし痛みに耐え、踏ん張り、テグサー1は膝蹴りで相手を追い払う。予想外の反撃、なにより反動で距離を置くゴッドラスト。テグサー1は一気に間合いを詰める。その足下で小惑星の小石と砂が宙を舞った。そして、無重力を利用して高く飛び上がり、一気に急降下。両脚でキックを放った。
「ぬおっ!!」
肩を蹴られたゴッドラストは受け身を取れずによろめく。間髪入れずに足を地に着けたテグサー1は両腕の握り拳で連続してパンチを見舞った。
「やっぱりそうだ…てめぇは能力自体は吸収したのかもしれないが、戦闘経験自体はからっきしのようだな」
打撃を与えるまま、彼は言い放つ。
「まぁそうだろうな、体力をどこからか吸うだけで、ただ十年、恨みがましいだけの人間だものなぁっ!!」
「ほざくなぁっ!!」
ゴッドラストの不意打ちの右水平チョップ。テグサー1は左腕で受け、カウンターの右ジャブを食らわせた。
「えぇいっ!!」
ゴッドラストはジャブが戻る瞬間、目から光線を放った。それはテグサー1の胸部装甲に命中し、火花を散らして膝をつかせた。
「野郎…いきなり光線をぶっ放す余力を残していたとは…」
「君と違って、生命維持に力を回していないんでね…さぁ、トドメを刺してやろうっ!!」
「させるかぁっ!!」
テグサー1は拳銃、ハンドシューターを抜いて、乱射しながら突っ込む。ゴッドラストは銃弾を腕で弾く。その隙を狙ってテグサー1は腕を取り、一本背負いを決めた。ゴッドラストを中心に、衝撃で辺りに散らばる小石に、砂。連続してかかと落としを浴びせようとしたが、砂埃から飛び出した脚によって阻まれてしまった。
「「はぁっ!!」」
舞い終わった砂埃を合図にしてか、立ち上がったゴッドラストにテグサー1は再度格闘戦を始めた。お互いの格闘がぶつかり合う中、トウマは思い返していた。
誰も守れず、ただ泣く事しか出来なかった十年前。
仲間を庇った女性を前に、涙する少女を守る為、初変身した時。
次々と集う仲間、迫る強敵。
つながり合う絆とそれを否定する者。
腕の中で息絶える少女。
争いの原因は力ある者の陰謀という真実。
人々の悲しみは怒りに代わり、権力者は今もなお口八丁手八丁で誤魔化している。
そして、それらの悲劇を今、自分の身一つを持って終わらせようとしている事を。
「…ぐはっ!!」
思い終えた時、テグサー1は両膝をつく。ゴッドラストは怪我を負いながらも余裕綽綽と見下していた。
「ふっ、そろそろ生命維持装置も燃料切れかな?隕石も間もなくやってくる。どちらにせよ君はどうにもならない。残念だったなぁ?」
「はぁ、はぁ…」
「最期に教えてやろう。君はこの戦いが終わったらこの争いを起こした張本人、国の偉い人に責任を負わせようと考えているだろうが…残念ながらもう奴らはいない。十年前、私が殺したか、年老いて死んだからだ」
「…!!」
「フハハハハ、驚いたかな?つまるところ、君の十年の怒りはもうどこにもぶつけられない。やり場のない怒りが心を蝕むのだ!!そしていずれは私のようになるのだ!!どこまでも腐り果てた世界に、嫌気がしてなぁっ!!…さて、最期に聞いてやろう。私と来ないか?あんなに醜い地球に命を散らす事はないだろう?力も残っていないだろうからな?」
「…へっ、馬鹿か、お前?」
「…貴様っ!!」
ゴッドラストは怒りの右拳を振り下ろす。だが、テグサー1は広げて合わせた両の掌でガッシリと受け止めた。
「…!!まだ、こんな力がっ!?いや、もうよせっ!!それ以上パワーを使うと、燃料が…」
ゴッドラストは力を込めて突き進もうとした。しかし、それ以上動く事は叶わなかった。
「お前は、人間、ジン・ガイア人問わず応援する姿を目にしなかったのか?俺はアレを見て思ってんだよ。これまでもこの先も世界が腐ってようとも、見捨てる訳にはいかねぇ…俺がこれまでやってきた事を、無駄にできっかよっ!!」
テグサー1は拳を振り払うと、両腕で胸部装甲を開く。装甲下では既に『必殺技』の発射態勢は整っていた。
「ちぃっ!!」
ゴッドラストは一歩下がり、足を踏ん張って防御の態勢に移行した。
「正真正銘、最後の必殺技だ…よく受け止めやがれ…!!」
「撃、竜…」
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ガォッ!!
必殺の光線『撃竜波』は地面をえぐり、発射地点にクレーターを作り上げながら一直線に放たれる。
バチィッ!!
ゴッドラストは光線に真正面から向かい打ち、両腕で受け止める。
「おおおおおおっ!!」
テグサー1は放ち続け、
「ああああああっ!!」
ゴッドラストは耐える。
「く、く、くぅぅぅ…」
まばゆい閃光と、強烈な反動。テグサー1は膝を折る。胸部装甲も溶け始めた。その瞬間であった。
「あ、あ、あぁ…!!」
防御する許容範囲を超え、ゴッドラストは構える腕をおもわず解いてしまった。全てを喰らいつくしたあの口に、光線を浴びる事となった。
「ば、馬鹿な、こんな事が、奴にはこんなパワーが残ってないはずでは…」
溶け行く身体で、ゴッドラストは見た。テグサー1に立つ、いくつもの魂が、彼に力を貸してくれた事を。
「そ、そうか…これが、TE粒子…人の想いが…えい、えんに…」
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
瞬間、ゴッドラストは爆発。その場に、彼は、跡形もなく消え去っていた。
「はぁ、はぁ…終わった…か」
撃竜波を撃ち終えたテグサー1は更に深く膝をつこうとしたが、ボロボロの全身に鞭打ってすぐさま立ち上がった。頭上に動く物、無数の隕石がこちらに向かっていたのが見えたからだ。
「世界を滅ぼす程の隕石…果たして逃げ切れるか…セット、ウイング!!」
テグサー1はウイングパーツを装着し、地面を蹴って飛んだ。
「少しでも、少しでも…!!」
一瞬の内に小惑星から離れるテグサー1。しかし、許された時間はその『一瞬』であった。隕石が小惑星を砕いた。硬質の巨大な無機物がぶつかり合い、周囲に嵐のような石が散らばった。
「うぉっ…!!」
テグサー1の装甲はそれらによって徐々に徐々に削がれていく。やがてはウイングパーツの翼をもがれて失速するだけ。そして彼の目先には、自身の数十倍もの岩石が襲い掛かった。
「お、終わるかよぉぉぉぉぉっ!!」
互いに激突。テグサー1はなすすべなく、無限の空間へと投げ出されていった。
それから宇宙は再び静寂さを取り戻した。
「…っ」
少しして、宇宙に漂うテグサー1は目を覚ました。
「…やっぱ、帰れる訳ねぇ、か…」
目の前に広がる黒く、無機質な空間。ある物といえば遥か先に瞬く星位か。
「この瞬間移動装置、使えるのは一回限り、しかも大気とかの検索はぶっ壊れて出来なくなってるぜ…地球に帰るなんて、天文学的確率で無理だなこりゃ…維持装置の燃料も少なくなってきた。俺の命も僅か、か…ま、いいか、地球守れたし」
「…」
「あ~やべ、せめて目、拭きてぇな…」
『…諦めるのは、早いんじゃないか?トウマ』
突然、聞こえる声。
「…その声は!?父さん!!」
素早く起き上がる上半身。彼の目の前に立つのは、光に包まれたトウマの父、母であった。
「母さんもいるのか!!」
忘れもしない。微笑む彼らにトウマは嬉しげであった。
『トウマ…お前が室田博士…ゴッドラストを倒したおかげで俺達の魂は解放され、今、TE粒子の力によって話す事が出来た…ありがとう、皆を代表して、礼を言うぞ』
「皆…?あっ!!」
いつの間にか父の背後には中年から幼い子供達まで、笑顔と共に光輝く人々で溢れていた。
「そうか、俺の友達も未来島の人達も、ここにいたのか…」
『そうだ、トウマ、お前はよくやってくれた…テグサーマンの力を受け取り、この地球を守ってくれたんだ』
「えへへ、よしてよ。俺は最後にいいとこどりしただけだよ。これまで色んな人がいたから頑張れたんだしな」
『…大勢の人、か。思えば、彼らには辛い思いをさせてしまったな…』
「え、なんだよ急に…」
『知っていると思うが、室田は島の研究員に選ばれたとは言え、過酷な労働を強いられ、夢叶うまであと一歩のところで全てを奪われてしまい、このような凶行に走った…』
父の微笑みがふっと消える。
『あの時、私がしっかりと彼を支えておけばこうはならなかった。重工に目を光らせておけば、ああはならなかった筈だ、と今でも悔やんでいる。すまないことしてしまった。そしてこれからも…種族同士の争いの重荷を負わせてしまうのではないか、と思うと…』
「父さん、その点なら大丈夫だよ。俺は見たんだ。両者が手を組んで、俺を応援する姿を。恐らく皆、この時の想いを忘れない、平和を願い続けると思う。もし、知らない奴、蔑ろにされる奴がいるなら、伝えあって手を差し伸べればいい。それが、意思ある人間が出来る事だと、俺は思うぜ」
『…そうか、それを聞いて安心した。私達はこれよりこの粒子の中で生き続ける。そして、力が必要になった戦士にこの力を与える者へとなる』
「あの、黒いテグサーマンみたいにか…」
『そうだ、死しても、生ける者への想いを繋げようというのだ…その前にトウマ、お前に最後の孝行をしてやろう』
そう言うと、光を一粒、テグサー1の手首に飛ばした。瞬間移動装置は一瞬煌めくと、正確に起動を始めた。
「こ、これは…」
『今一度だけ、皆の想いで飛べるようにした。感じるんだ、地球の仲間達の想いを…』
「皆の…」
トウマは瞳を閉じ、集中した。すると、地球が見えた。その次には、その惑星に住む動物、人間、ジン・ガイア人達の姿が。
「見えるぜ…皆が。これなら行けるかもしれねぇ、よし、飛ぶぜっ!!…と、その前に」
「父さん、母さん、皆、これでお別れだな。遠くから見ててくれよな」
『あぁ…強くなったな、トウマ』
「おうっ!!それじゃあっ!!」
瞬間、テグサー1は流星となった。
(ありがとう、ありがとうよ、皆…)
宇宙で一筋の光となった息子に、トウマの父と母は頷き、彼らもまた光へと消えていくのであった。
その一方、ガイアランの巨大茎が全てしおれ、金属の大陸をあらわにした未来島上では変身を解除したテグサーチーム、ラントムチーム、マツナガ達ジン・ガイア人が慌ただしくキーボードを叩く飛田を囲っていた。
「は、早くトウマを探してよ飛田くん!!このままじゃあ、トウマ死んじゃうよっ!!」
「せ、急かないでくださいよ、穂乃花さんっ!!確かに隕石は地球から遥か遠くに通り過ぎた。防衛軍によれば、ゴッドラストは跡形もなく消えたと報告もあった。で、そっから算出するに、恐らく、は…」
焦る二人を前に、レミーは静かに祈る。
「トウマ…」
と、その時であった。
一つの光が彼らの前に降り立ったのは。
「な、なんだぁっ!?」
マツナガは輪から飛び出して前に出る。光が消えた。そこに残った、倒れている者に、各々が叫ぶ。
「と…」
「トウマ!?」
「トウマだっ!!」
「トウマ!!」
トウマは目を開け、起き上がる。
「ん、ここは、地球か…?」
そして、自分のいる地、知っている顔を見て、上半身だけを起こしてふっと笑みをこぼした。
「え、えぇ~と、皆、ただいま…帰って来ました」
「「「トウマァァァァァ!!」」」
テグサーチームは一気に駆け出す。いの一番に彼の下に着いたのはレミーであった。
「トウマ!!トウマ!!トウマッ!!」
彼女は飛び上がると、のしかかる様にトウマを強く抱きしめた。
「う、おぉっっと!!」
突然の抱擁に腰を反らせるトウマ。驚きの表情も隠せなかった。
「い、いきなり抱き着くなよ。びっくりするじゃねぇか」
「だって、だって…もう、心配させないでよっ!!」
「へへ、悪い、悪いな…」
泣くレミーに、トウマは微笑む。そんな二人の前に、テグサーチーム、飛田が揃う。
「トウマさん…」
「おぉ、飛田、ありがとうよ、お前の開発したモンのお陰で、帰ってこれたぜ。それと、島の皆に会ったよ」
「…元気そうでしたか?」
「うん、これからはこの宇宙を見守るってさ」
「そうですか─」
「うわぁぁぁぁぁん、トウマァァァァァ!!」
飛田を割り込んで、大泣きする穂乃花がレミーとトウマに抱き着いた。
「おい、二人も抱き着くな!!重いし、こっち怪我人だぞっ!!」
「私だって、私だって心配したんだもん!!しょうがないでしょっ!!」
「わ、私も混ぜろぉぉぉぉぉっ!!穂乃花ぁぁぁぁっ!!」
続いて、茜も飛びつく。流石のトウマでも支え切れず、全員その場にドスン!!と倒れ込んだ。
「いててて…お前らなぁ、ちょっと加減を知ってくれよぉ…」
三人の下敷きになって、頭を掻くトウマ。
「やれやれ…ほら、離れて離れて」
苦笑しつつも、ディーンが女性達の手を取り、起き上がらせる。涼も手伝う。
「それにしても本当に良かったわ、これで本当の終わりなのね」
続いたイリアは感慨深げに頷く。すると、ジョージがそろりと彼女に近寄った。
「あ、あの~、さっき言ってた、こ、婚約の話ってOKでいいですよね?」
「…アナタね、そんな事、今言うべき?」
「え?」
「まず今は帰還者のお迎え、そう、胴上げよ!!それっ、モーラ、ヒロシ!!私に続けっ!!」
「「はっ!!」」
「ちょ、ちょっと待って、俺も!!」
駆け出す三人に、ジョージも走って追いかける。
「よっしゃ、俺もだぁぁぁっ!!」
マツナガの雄叫びから、ミルメ、コブンロも続く。
「おーいテグサーマン、胴上げするぞっ!!」
「え、ちょ、いきなり…」
迷うトウマ。
「いいねいいね、やろうやろうっ!!」
彼を余所に、穂乃花は大きく頷いて同意。
「それぇ、わっしょい、わっしょい!!」
仲間達の手によってトウマは高く胴上げされる。
「いやいや、高い高いっ!!ってか、こんなんやってる場合かよ!?早く本国に帰って報告を…」
「「「わぁ~っしょい、わぁ~っしょい!!」」」
「あ、ダメだこりゃ聞いてない。もう、好きにしてくれ…」
喜びを分かち合う仲間の頭上で、何度も宙に舞うトウマ。彼の目尻には光る物があった。
ジン・ガイアという生命体が地上を襲撃して十年と二百五十八日目。人類とジン・ガイア人はお互いの手を取り合った。
彼らはこの日を忘れないだろう。両者に訪れた、久しぶりで、初めての平和なのだから。
27-4
晴れやかな青空の下で、飛田は父の名が刻まれた墓の前を訪れていた。
「お父さん、戦いが終わって、それから一年経ちました。この一年で人類とジン・ガイア人の両者で復興作業を続けて、今じゃ争いの跡は見る影もありませんよ」
「今回の騒動…国は責任を負うって言い始めまして、和平としてジン・ガイア人の受け入れに重い腰を上げ、彼らと共に、どちらの生活や立場に困っている人を助ける事にしたんです。やっぱりいい人もいるにはいるんですね」
「勿論、重工も責任を負う事になりまして…重工は実質的に解体、有り余った権力や財を、不要になったGRNと一緒に両種族を見守る団体を設立しました」
「これに関しては橋爪専務が頑張りました、なにしろ、社長の方が、その…ゴッドラストに迫られたショックで頭が…って事になりましたんで」
「まぁとにかく、まだまだ問題は残ってるし、中には『化け物であるジン・ガイアは滅ぼすべし』って人もいますが、平和には徐々に近づいています、そう、肌で感じています」
「事実、コブンロさんとミルメさんが責任者の下、ジン・ガイア人の一部の方々が頑張ってるんですよ。社会的弱者や搾取され続けて冷遇される人類に寄り添い守り、その上で情報を聞き付けては彼らの上の存在との間に介入したり、なんだったら島に移住させてあげたりして…すごいですよね。お陰で多くの技術者、科学者、文化人が助かって、ジン・ガイア人の技術と併せて十年分の停滞を一気に解消出来たんですから。なんでも室田修のような人物を増やさないように、いつぞやのアイドルのように素晴らしい人がずっと笑顔でいられるように、っていう願いで行ってるそうですが」
「…あ、僕達ですか?戦いが終わった直後、無事に学校に復帰出来ましたよ。皆、僕達を受け入れてくれたんです。それから昨日で、皆仲良く卒業しました…残念ながら、甲斐田君と、彼をいたぶっていた子達は来ませんでしたけどね」
「やはり、あの時の大事な物を失った心の傷が原因なんでしょうね。正直な所、原因を作ったのはあの桃子って子達なんでしょうが…」
「この一連の騒動、クラスの中から、僕は心の隅で思うんです。やはり人は誰かを傷つけ、弱者を爪弾く生き物ではないかって。でももう一つの心が否定するんです…人はそれだけじゃないって事を。だから僕は行きます。この力で少しでも人を救えるって事を信じて─」
「…飛田、時間だ。空港に行かなきゃならないぜ」
背後に立つトウマの声。飛田はは一度振り向いて頷き、再度墓を見つめ直した。
「それじゃあお父さん、しばらくはお別れです。これからは戦いじゃない、新しい道を歩みます。それが一段落したらまた帰ってきます。それじゃ!!…よし、行きましょうかトウマさん」
「おうっ!!」
笑顔を交わし、二人は墓を後にする。飛田が置いた仏花が風に揺れる。それはまるで、新たな門出の二人を、手を振って見送るようであった。
国際空港個室。通常のロビーと違い、外部の一般人から完全に見る事が出来ないVIP室にトウマと飛田は来て、ソファーに座って待機していた。わざわざこの部屋で待つのには理由がある。窓から見えるプライベートジェットに乗る為、そしてなにより…
「大丈夫かレミー?体調はバッチリか?枕と布団持って来たか?」
「枕はともかく、なんで布団持って来なきゃいけないの!?向こうで用意するわ、そのくらい!!」
顔に涙跡のような赤い線が残るものの、トウマの左隣で人間の姿に戻っているレミーと共に乗る為であった。かくして三人は時間になるまで、ゆっくりしていたのだ。
「ははは、その様子なら大丈夫だな。それにしても、元の姿に戻れてよかったな。あ、そうだ。今やってるニュースであいつらの事言うかも、どれ見てみっか」
トウマは傍にあったリモコンを手に取り、テレビをつける。ちょうど正午のニュースを放送している真っ最中であった。アナウンサーが淡々と原稿を読み上げている。
『次のニュースです。本日正午より、ジン・ガイア国首相のマツナガ氏が、任命初の全世界生中継の演説を行いました』
映像が切り替わり、黒いスーツに身を包み、コブンロを連れて登壇したマツナガがマイクとカメラに向けて一生懸命に語っていた。
『…皆さん、この十年に起きた憎しみ、悲しみは忘れろとは言いませんし、我々でも不可能かもしれません!!しかし!!それらに囚われて、戦いを続ければ、また新たな火種が産まれてしまいますっ!!どうか、冷静に大局を見て、一歩を踏み出して下さいっ!!我々はその為の活動を邁進して参りたいと…』
「マツナガ、いい事言うじゃねぇか…」
トウマは感心して頷く。ニュースは次の話題へと切り替わった。
『次に、昨日完成した和解記念公園の完成式典を行いました』
次に映ったのは人類の代表、次世代の担い手である人間の子供達と、ジン・ガイア人代表の子供達が共に、花壇に小さな花を植える映像であった。植え終えると同時に、周囲の人々から拍手が沸き起こった。
「綺麗…」
レミーが言う通り、石碑の周りには色とりどりの花が咲いている。彼女はその風景をうっとりと眺めている。するとトウマが不意に話しかけた。
「それにしてもレミー、本当によかったのか?」
「え、なにが?」
「お前はこれから未来島の研究所に渡って、お前の体を調べて、難病に対する治療薬を開発するんだ。それは結構時間もかかるし、拘束だってされるんだぞ?」
「うん、いいの。この身体が少しでも皆の役に立つのなら、死んで詫びて、無にするよりはずっとマシだもん…それに、飛田とトウマが研究員として、TE粒子の平和利用の研究と並行して来てくれるんでしょ?なら、安心して行けるし」
「そうか、よしよし、お互い頑張ろうな。さてそろそろ…」
「うぉぉぉぉぉぉっ!!GooGooZ改め、『Hopes』の皆さぁぁぁぁぁん!!」
突然の飛田の絶叫。ニュースでは新しく出発した三人組アイドル『Hopes』のライブ映像が映し出されていた。
「ハイッ、ハイッ!!い~ざゆけ、希望の戦士よぉぉぉぉっ!!」
盛り上がる飛田を尻目に、トウマは手を飛田の肩に乗せた。
「さ、時間だぞ飛田。荷物持って乗り場に行くぞ」
「えぇっ!?そんな殺生な!!せめてインタビューの方も見せて下さいっ!!」
「それ、早朝のニュースで同じのやってたろ?ホラ、皆待ってんだから」
「が、画質が違うかもしれませんし、せめて確認だけでも…」
「…置いてくぞ」
「あぁっ、待って、待って~!!」
レミーと共にトウマはさっさと部屋を後にし、飛田はもたつきながら部屋を飛び出す。
「…クスッ」
レミーはそんな彼のあわてふためく姿に苦笑するのであった。そして、ついたままのテレビは次のニュースを報道した。
『ラントム社は当社の社長を二人態勢で運営していく事を発表しました。また、イリア、ジョージ両社長は先日婚約を発表し…』
「…おっ、来てくれたか」
トウマ達が来た、個人用の乗り場には見慣れた顔ぶれが揃っていた。
「いよいよ、お別れね…もうないけど、ウチの部署から若くして海外に行ける子がいるなんて、上司冥利に尽きるわっ!!三人共、向こうでもしっかりやりなさいよっ!!日本からずっと見てるからねっ!!」
「橋爪専務…」
二人は固い握手を交わす。と、よく知る仲間からも励ましの言葉が。
「…こっちの事は私に任せろ、これからは後輩の指導をして、有事の際のテグサーマンを扱える者達を増やしていく予定だからな」
「俺も涼と一緒に協力していくぜ。もっぱら、ジン・ガイア人専門でいくけどな」
「涼…ディーン」
「飛田くん、私は新しくなったGRNで平和に向かって突き進むわ。お互い、別の国だけど頑張りましょ?」
「トウマ、君のファイトを見せて貰った。俺はこの国で君に負けないよう、ラントム社日本支部代表として頑張ろうと思う」
「モーラさん…」
「ヒロシさん…」
「「うぉぉぉぉぉぉっ、間に合ったぁぁぁぁっ!!」」
突如、雄叫びと共に二人の男女が滑り込んだ。Yシャツがはだけたままのジョージとイリアであった。
「おう二人も来てくれたのか。忙しいから来ないのかと思ったぜ」
苦笑するトウマに、ジョージは強気に答える。
「馬鹿言うな、俺の恋路の相談に乗ってくれたんだ。意地でも来るってのがスジってもんだぜ!!ぜぇ、ぜぇ…」
イリアも同様だ。
「ハァ、ハァ…え、アンタそんな事してたの?まぁいいわ。二人が研究する先の研究所はウチの管轄内よ。なにかあったら相談してちょうだい。無理はダメよ、いいわね?」
「あぁ、ありがとな。さて、時間かな…?」
「ちょっと待ってぇ~っ!!」
「私らまだなんも言ってな~いっ!!」
ジョージ、イリアを押しのけ、茜と穂乃花が飛び込んで来た。
「トウマ、ハカセ!!私今度ね、試験に合格して、バイクレーサーになって活躍する事になったの!!近いうち海外にも進出する予定だから、絶対見てよねっ!!」
「茜さん。よかったですね!!」
「トウマ、私さっき、志望の大学に合格したの。これもトウマと飛田くんの指導のお陰だよ、二人ともありがとうねっ!!」
「穂乃花…奇跡って、ここにもあったんだな」
「…なんか私だけ言い方おかしくない?ちょっと、トウマ~!!折角最後だってのに…」
「あぁ、悪かった悪かった…アレ、おっちゃんと凛奈は?」
「うん、それなんだけど、凛奈ちゃん泣いちゃって…奥でおじさんが宥めてる最中だよ」
「そうか。悪い皆、ちょっと行ってくる!!」
そう言うとトウマはその場を後にし、長椅子に腰掛ける闘牙と凛奈の元へとやって来た。
「…おっちゃん」
「おお、トウマ。いやぁこの通り、凛奈泣いちまってな。どうしたものか…」
「よし、俺に任せな」
トウマは泣きじゃくる凛奈の前にしゃがんだ。見上げる形でトウマは凛奈の涙をハンカチで拭いた。
「どうした凛奈?昨日までは俺が行く事に賛成してたじゃねぇか?」
「だ、だっで…もう明日からにぃにぃがいないって思うと…折角平和になったのに…!!」
「心配すんな、今時はいつだって連絡出来るんだから、淋しくなんかないぜ。それに、俺達はどんなに離れていても家族の心は一緒だ。そんな気持ちで過ごしたら気が楽だろう?…たはっ、ちょっとキザだったかな?よし、もう大丈夫か?」
「うん…うん!!それじゃあ皆の元へ戻ろう!!ホラ、早く早く!!」
泣き止んだ凛奈は立ち上がり、男二人の腕を引っ張る。二人はやれやれと言わんばかりに一息つき、皆の待つ乗り場へと戻った。
「それじゃあお母さん、お父さんの墓、頼みます…あ、トウマさんっ!!」
飛田は母にお願いをすると同時に、戻ったトウマに気づいた。
「悪い悪い、遅くなった。さ、二人とも今度こそ本当に行くかっ!!」
「はいっ!!」
「うんっ!!」
レミーも続いた。そして、三人は皆の方を見つめ、笑顔で別れを告げる。
「それじゃ皆、元気でなっ!!」
トウマ。
「さよなら、またいつかっ!!」
飛田。
「バイバ~イ!!」
レミー。
彼らは背を向けると、飛行機へと向かう通路へと静かに歩んだ。
「三人とも!!夏休み位は帰って来てよねぇぇっ!!」
「吉報を待っているぞ!!」
「元気でな~っ!!」
その背に仲間達の声援が送られる。そうして三人はプライベートジェットの席に揃って座る事となった。
「あぁ、これで日本とお別れか~、アバよ日本…」
名残惜しそうにトウマは呟く。すると不意に、隣のレミーが服を引っ張った。
「あ?どうした?忘れ物か?」
「うん、一年前からの忘れ物、トウマ…」
「…私、トウマの事が─」
「あぁっ!!しまったぁっ!!」
突然の飛田の絶叫。
「わっ、どうした飛田!?」
驚いたトウマは思わずそちらに耳を貸した。
「大変だ、僕、僕…」
「枕を家に忘れました…」
「いやお前が忘れんのかいっ!!ってか、枕とかどうでもいいだろ?」
「ダメです。あれじゃないと僕の脳みそは眠れません!!お〜い、運転手さ~んっ!!降ろして下さいっ!!」
「バスじゃないんだから無理言うな!!いや、バスでもだめだっ!!」
そんなやり取りと同時に、飛行機は日本を飛び立つ。レミーは不満げな顔をしたが、すぐに機嫌を直した。
なぜならば、彼女の手を、トウマが握ってくれたからだ。見つめ、微笑みあう二人。彼らは『人』としてこれからも戦い続けるであろう。
世界に、そして宇宙に、新たな『希望』を見出す為に。
テグサーマン・完