・富田トウマ…文武両道な高校生。テグサー1に変身する。
・飛田慶喜…天才的な頭脳を持つ高校生。
・三千院穂乃花…トウマの幼馴染みである女子高生。テグサー2に変身する。
・森涼…冷静沈着な成人女性。卓越した剣術の持ち主。テグサー3に変身する。
・大城茜…天才的なバイクセンスを持った女子高生。テグサー4に変身する。
・レミー・旋風…小生意気な少女。自称『社長』。
・マツナガ…ジン・ガイア帝国の兵士。
・コブンロ…マツナガの部下。
・イーヴィル・ディーン…ジン・ガイア帝国のエリート兵士。
8-1
「あれからどう?容態は?」
今はジン・ガイア帝国の本拠点となっている未来島の三階。そこではジン・バイル総統の秘書、ミルメが、器具を使ったリハビリを終えたディーンに話しかけていた。
「あぁ、どうも。わざわざ来て頂いてありがとうございます。先週から歩ける様になったので、もう少しで完治すると医者は言ってましたが…」
周囲では打倒人類と言わんばかりにジン・ガイア人の兵士が一生懸命にトレーニングを行っている。そんな中、リハビリで流した汗を拭きながら、ディーンはミルメに目を合わせる事なく答えた。
「ところで、俺になんの用です?単に俺の容態を聞く為にここまで来た訳じゃないでしょう?」
ここで彼はやっとミルメに目を合わせて質問した。ミルメは分かっているなら話は早い、と言わんばかりに持って来た薄い封筒を彼の前に差し出した。
「なんです、この封筒?次の指令書?」
「…この封筒には日本のお金が何日か生活出来る位に入ってます。このお金を使ってこれから侵略する日本を学んで来なさい。そうすれば、少しはあのテグサーマンや防衛軍の事が分かる筈です。船は後三十分後に出るので用意するように」
「…」
ディーンが封筒を無言で受け取る。と、ミルメはその場を後にした。
「日本…か。この前の戦闘以外では初めて行くな。あのテグサーマンを造る程だ。一体どんな所なんだ?」
8-2
涼しくなり始めた秋の昼頃、人気のない沿岸に一隻の小型船が向かっていた。その船が沿岸に到着すると、黒のバケットハットを深く被り、黒のトレンチコートの襟で顔を隠した者が乗降口から降りた。その者が左右を見渡し、周辺の倉庫や貨物に人影がいないことを確認すると、親指で帽子を引っ掛け、少しだけ上げた。その男の正体はディーンであった。
「よし、誰も見ていないな…さて、街の方に繰り出してみるか…」
彼はコートのポケットに手を入れる。そして、コツ、コツと革靴を鳴らしながら歩み始めた。
(テグサーマン。俺があれだけの数に初めて完敗を喫した相手、恐るべき性能だ。奴を負かすにはどうすればいいんだ?)
降りた場所から少し歩き、ディーンはバスを待ちながら目を瞑ってあの時の戦いを反芻していた。どれだけ傷付けても立ち上がるテグサー3、彼女の元に駆け寄り、勇気を振り絞るテグサー2。そして、自分の体を投げ打ってでも人を守るテグサー1。そんな彼らを考えている内にディーンに一つの疑問が浮かんだ。
(…しかし、彼らの強さは単なる性能の違いなのか…?戦い方を軍と比較するとまるで素人集団だったじゃないか。ということは、彼らの強さの秘密はどこか別にあるというのか。だとしたら一体なんだ?)
考えがまとまる前に一台のバスが目の前に停車し、ブザーを鳴らして扉を開けた。これが乗れという合図か、と考えたディーンは開いた乗降口から乗り込む。
(ま、そう言う事はこれから分かる筈だ。金も貰った以上、徹底的に調べるか)
バスの席に座ったディーンは今朝のリハビリの疲れからかバスのエンジン音を子守歌にして深い眠りについた。
「…スー、スー」
そして…
「…乗り過ごした」
目を醒まして降りた場所は街の中心部、バスの終点であった。
(はぁ~、アホか俺は。少しずつ、特に軍事関係の所を降りて、色々見て回ろうと思ったのに、こんな街中じゃ何も見る物なんかないじゃないか…まぁここで愚痴を零しても仕方がない。街を見て回るか)
ディーンは降りた場所の目と鼻の先にある街のアーケード街に向けて歩みを進めた。アーケード街には人で活気づいていた。笑顔と談笑を交わす友人達やカップルに家族。そんな人々に呼び込みを行う店の人。そんな光景をディーンは人混みをかき分けながら『街』に関心を向けていた。
(やはり思っていた通り帝国と大違いの賑わいだな…本部の未来島の住民はこんなに外で大っぴらに遊ぶ事はなかった…そんな事をしている暇があったら勝つ為の勉学に励めだの栄養を蓄えて体を休めろなんて大人に言われるからな...ん!?アイツは!!)
その目線はピタリと止まった。なぜならば忘れられない宿敵、テグサーチームのトウマと穂乃花、そして誰かもう一人、ポニーテールの少女がこちらに向かって歩いていたからだ。ディーンはすかさず険しい顔で構えたが、次の瞬間には拳を降ろして落ち着いた表情へと変化していた。
(いや、ここで戦っても勝てる筈がない...第一戦えと命令されてないしな...それより今は街の偵察と強さの秘訣に迫る事が優先だ...)
(ところでアイツら、何食ってんだ?)
いよいよと、こちらに気づかず通り過ぎるトウマ達の手元にはクレープがあった。しかし、ディーンはそれを知らずに首を傾げるばかりであった。
(あの黄色い皮…食べている奴の表情を見るに甘い様だがあんな腹に貯まりにくい物を得に能力のない奴が食べていたら配給の無駄だって周りから大顰蹙を買うだろうな…それにしてもアレ、そんなにいい物なのか?)
(そうか…ひょっとするとあのテグサーマンはああいった食べ物を食べてパワーアップしているのかもしれないな…栄養薬剤を過剰に投与して短期間で強化した怪人と同じくな)
(…どうやらあの車で売っている様だな。行ってみるか)
ディーンが向かったのは真正面先の公園で路上販売しているクレープ屋であった。
「いらっしゃいませー!おいしいクレープはいかがですかー!?」
車内から威勢良く呼び込みを行う男性従業員。彼の前にディーンは立つ。
「今、頼んでもいいかな?」
「いらっしゃいませ!!はい、大丈夫ですよ!どれにしましょう?」
従業員が指差す先には約二十種類のメニューが並んでいた。
「そうだな…全部にしよう。」
「はい、全部ですね。かしこま…えっ、全部!?」
「そうだ」
数分後。公園の人々は販売車の前に設置している席に驚きの目で注目していた。そこに座っているディーンがまるで早食い競争の様にテーブルを覆う程の大量のクレープを次々にたいらげていたからだ。その凄まじい食いっぷりに人々から「すげぇガキンチョだなぁ…」「胃以外にも詰めてるのか?…肺とか?」と呟かれるが、ディーンはそんな事はお構い無しに次々とクレープを口に運ぶ、運ぶ。そして、あっという間に山となっていたクレープはディーンの胃に収まり、テーブルに残ったのは乗せていた紙皿だけとなった。
「ふぅ~」
食後の一息をついて背もたれに寄りかかると、彼は心の中で考えていた。
(…上手い、な。いつも戦場で味気ないブロックの栄養食とは全然違う。成る程、これはテグサーマンの強さの秘訣になる訳だ)
一瞬間を置いてディーンは立ち上がると突如正拳突きの素振りを始めた。その挙動を前に人々は「なんだアイツ、突然に!?」とざわめかれたが、特に構わず何度も素振りを続けた。しばらくすると、ディーンの表情は不満顔へと変化し、拳を止めた。
(ダメだ...そんなに変わっているとは思えない...ということはこれはパワーアップの為の食べ物ではないという事か….だとしたら、一体何で奴らは力を付けているんだ?わからん、さっぱりわからん!)
それからのディーンは疑問を抱えながら街をさまよい続けた。商店街の小さな店からショッピングモール、喫茶店からファストフードへあてもなくふらふらと。しかし、金が限られている為かこれといった物を買えず、得る物は人々の笑顔と活気以外何もなかった。そして長時間歩き続けたが為に頂点まで昇った陽は地平線に向けて落ち続け、気がつけば辺りは僅かに薄暗くなり始めていた。まるで彼に今日の残り時間を告げるかの様に。
(クソッ、その日毎に報告書を送信しなくてはならないというのに、このままじゃ何も書けない上に秘訣も分からず仕舞いじゃないか!何か、何かないか…!?)
「あのぅ…突然すみません」
「は?何か用かい!?」
悩んでいる最中に突然後ろから話しかけられた事に苛つき、おもわず険しい表情で声を荒げるディーン。その声の威圧感に思わず話しかけた若い女性は「ひぃ!!」と悲鳴を上げてしまう。その声に周りの人々はディーンに注目した。この状況に気まずさを感じた彼は帽子を被り直し、表情を柔らかくしてさっきより優しい声で返答を続けた。
「ん、あぁ、すまない。俺に何か用かな?」
「え、えと、その、カラオケとかいかがですか~、とオススメしたかったんですけど、いらない、ですよね…」
「カラオケ…?なんだい、それは?」
「え…!?あ、カラオケというのはですね、個室に入って頂いてお好きな歌を好きな時間だけ歌って楽しむ事が出来るプレイルームの事です。」
「ふーん、歌か…俺はあまり歌とか聴かないし、聴く事もあまりないから別にいいかな…悪いけど、今回は断…!?」
断ろうと首を振ろうとしたディーン。だがその目は、街のアーケード街を歩く涼と飛田、そしてレミーの姿を捉えた。ショッピングセンターの中に入る彼らを見送ったディーンはその建物を指差して女性に問いかける。
「一つ聞くが、あの建物は君の言うカラオケがあるのかな?」
女性はディーンが指差した方を振り向きながら答える。
「え、えぇ…あの建物の地下にございますけど、それがどうかされましたか…?」
それを聞いたディーンはさっきより明るい表情になった。
「よし決めた、今日の〆はカラオケとやらにしてみるか!」
「ありがとうございます!それではご案内します!!」
女性に案内され、ついて行くディーン。と、この時彼は思った。
(個室という事は歌と共に誰にも見られてはならない秘密の特訓、もしくは作戦会議を行っているに違いない!!待っていろテグサーマン、お前達の秘密を暴いてあげるよ!!)と。
8-3
受付を済ましたディーンは一人個室のソファーでポツンと座っていた。ボーッとしたいからではない。
「しまった…どうやって曲を選ぶのかやり方を聞くのを忘れていた…まぁいい、歌うのはメインじゃないからな。それにしても、マイクを持って歌って楽しむなんて帝国じゃありえないな...マイクを使う時と言えば集団での訓練、もしくは総統閣下の演説の時だものな...」
ディーンは先日行われた帝国の兵士や国民を集めたジン・バイル総統による帝国十周年の式典を振り返った。総統の演説が彼の脳内で再生される。
『...我々ジン・ガイア帝国は海中より究極の進化を遂げて十年、今日までこの国を造り上げた。何故我々が生まれ、戦い続けるのか?それは我々こそがこの星のヒエラルキーの新たなる頂点に立つ為である!!』
『今この地球で頂点に君臨する人間共はかつて野生の猿から進化したと言われている。その人間達は生まれてから何千年、なにをし続けていたか諸君らも知っているだろう、そう、我々の様な高度な知能を悪用して地球に住む者を脅かし、蹂躙をし続けている事だ!!』
『にも関わらず、奴らは己を省みずに我々を化け物だ、異種生命体だと罵り続け、挙げ句の果てには地上に上がったばかりの我々を実験動物の様に捕らえようとした!!』
『己以外の高度な知能を持つ生命体を認めず、己の欲望を満たさんとする奴らこそが本当の化け物だ!!私はここに宣言する!!ジン・ガイア帝国は必ずや地球に巣くう人間を征服し、完全なる管理・監視を徹底する事でこの国は勿論、地球に新たなる秩序と平和をもたらす事を!!それには諸君らの知恵と力、そして勇気が必要だ!!ジン・ガイアの国民よ、今一度私に力を与えたまえ!!』
ジン・バイル総統の威風堂々とした演説を前に、人間の姿から感極まって『化け物』の姿に変身した兵士と国民から歓声の声が上がる。
「ジン・ガイア、ジン・ガイア!!」
「ジン・ガイア帝国バンザーイ!!」
「ジン・ガイア、ジン・ガイア…!!」
ここまで振り返ったディーンはハッとする。今自分がすべき事を思い出したからだ。
「…今こんな事思い出してる場合じゃないな。幸いこの部屋の隣はあのテグサーマン達のいる部屋だったな。どれ…」
ディーンはトウマ達のいる方の壁に耳を当てた。ディーンは人間の形態になっても身体能力は優れており、集中すれば多くの雑音から聞きたい声を聞き分けられる程の聴力をもっているのである。集中して数秒、早速若い落ち着いた女性の声が聞こえてきた。それは涼の声であった。
「まさか親睦を深める為にカラオケを選ぶとはな…先に言っておくが、私はカラオケに行った事が無いからしきたりだのノリって物が分からんぞ?それに今の流行りの曲も聞かないし…」
涼の愚痴の様な意見に飛田のそうそう、そうですよと相槌を打った。そんな二人の意見に今度は穂乃花の言葉が聞こえてきた。
「大丈夫、大丈夫。その場のノリを気にして流行りの歌だけを歌う人って友達で結構いるけど、今回の親睦会は歌を通じて皆がどんな人でどんな曲が好きなのか知りたいから気にしないでドンドン歌ってよ!」
多くの友達と今を青春する女子高生の返答に涼はそ、そうか…と返した。その時、一安心した涼と飛田に今度はトウマが穂乃花の返答に補足し始めた。
「ま、言葉を言い換えると、どんな曲を無理矢理聴かされても我慢しろって事だけどな。」
トウマの引っかかる不安を煽る様な発言に茜は「えっ、そうなの!?でもそんなに…」と言い掛けたが、その瞬間、勇ましいBGMが流れてきた。茜が振り向くと、なにやら昔の特撮番組らしき少々画質が粗い映像が映し出されていた。横では穂乃花がマイクを握りしめている。
「この星護るため、生まれた彼らは今歩き出す…!!その名は!!」
「緊急部隊、ビクトレンダー!!」
「あーおいこの星に、流れる誰かの涙、護るのは誰だ、明日の朝を呼び覚ますのは誰だ、そう僕らの味方…」
「ビクトレンダー!!」
全力で古い特撮主題歌を歌う穂乃花に茜は一歩引いた。そしてトウマに問いかける。
「な、なぁ、トウマ、なんだコレ!!」
「コレか?これはビクトレンダーっていう、1997年に放送された奴で…」
「いや、そうじゃなくて!穂乃花ってああいうのが好きなのか?」
「あぁそうだ、そういや言ってなかったな。アイツは他のクラスメイトの前じゃ皆に合わせて普通の邦楽を歌うが幼なじみの俺の前じゃ遠慮せず本当に好きな物を歌うんだ。」
「ま、マジか…それにしても意外だった…」
「でも良かったじゃねーか。穂乃花が堂々と歌うって事はそれだけお前達を信頼してるってことだからな。」
「う、うん…いいのかな?」
今までの穂乃花のイメージとまるで違う選曲に茜は唖然とし続けていた。穂乃花は誰も選んでいない為二曲目を歌っていた。
「ダイヤ!!エメラルド!!スパーク!!地球の平和を守るため~…」
熱唱が終わると、誰からも選曲されていないカラオケ機器は暇を持て余すかの様に広告映像を流していた。
「あ、あれ?皆歌わないの?」
誰も曲を選ぼうとせずうつむく仲間に穂乃花は困惑した。
「そうだぜ、早く歌って親睦を深めようぜ~」
誰も知らない上に古い曲を聴かされた為、次の選曲者はこの場を持ち直さなければならないというプレッシャーが自動的にかかる。その事を知ってか知らずかトウマはにやつきながら背もたれにもたれかかって煽った。
「…そんなら、アンタ選びなさいよ」
レミーはトウマに促すと、「え、やだよ」と即座に答えた。
「な!?アンタ人が嫌がる事を平気で押し付けるんじゃ…」
「よ~し、皆歌わないなら、もう一曲行ってみよう~!!」
「ちょ、ちょっと待って!!穂乃花ストップ!!」
カラオケ外で大騒ぎする高校生組とレミー。そんな様子を飛田は微笑み、涼はやれやれと言わんばかりに見つめていた。
「…よかったですね、皆仲良くなって」
「あぁ、トウマが自分の過去と本音を話してくれてな。まさか、アイツに過去があって、同情や特別扱いはしなくていいなんて自分から言うとは…」
「えぇ、これでお互い隠し事はなし…ですよね」
「そうだな。よし、私も隠し事はなし、とするか」
「はい…ん?」
飛田が涼の方を見ると、彼女はマイクを強く握りしめていた。
「よし、この静まりかえった状況は私に任せろ」
「りょ、涼!?」
次に歌うのがまさかの涼にレミーは少々不安の声を上げたが、その表情は涼ならなんとかしてくれると期待に喜ぶ表情をしていた。それは茜も同じであった。そんな中、涼が選んだのは…
『城下町恋歌』
「なんか渋そうなの出てきたーっ!!」
叫ぶレミーは思い出した。さっき涼がカラオケのノリが分からないと言っていた事を…
「今までの恋は~偽りだったというの~」
「そしてなんか歌詞が重い!!ねぇトウマ、やっぱりアンタがこの場を…」
レミーのツッコミまで聴いたディーン。彼はそんな賑やかな声を前に一人呟く。
「よくあんなに騒げるなアイツら…あんなに無駄に騒いで疲れないのかな…」
「…そういえば、俺が他の戦闘員達とあんなに馬鹿騒ぎした事あったっけ…」
ディーンは日本に来るまでの戦いの日々を思い出していた。
8-4
火薬と煙の臭いが染み付いた昼の街。その街で人間達は怒声をあげながら銃を連射。その人間に向けてジン・ガイアの兵士は光線を放つ。その衝撃で吹き飛ぶ建物、車、そして人々。その横で恐怖と絶望で泣き叫ぶ人間の子供。そんな姿を横目に怪人となったディーンは颯爽と駆ける、駆ける、人間と兵器を切り裂く。
ディーンは地面を蹴って数センチ宙に浮くと飛び交う砲弾と銃弾をバレルロールで避けながら超スピードで前進し、百メートル先の戦車に目をつけた。目をつけられた事に気付いたのか戦車は狙いを定めて機関砲を連射する。しかし間一髪ディーンは更に空高く垂直に飛んだ。そして太陽を背に受けて、手に持つ青竜刀を戦車の砲台に押し当てる。装甲は、スポンジケーキを包丁で切る様に、いとも簡単に一刀両断で切り裂かれた。その瞬間、戦車は爆発、炎上。ディーンは巻き込まれても平気な顔でその場から飛び上がり、見事に地面へ着地した。
ジン・ガイア帝国の戦闘員が去り、瓦礫の山となった街は先程までの爆音から打って変わり、火の瞬く音だけが残っていた。その街で、ある大人は子供の亡骸を抱えて虚ろに彷徨い、またある赤ん坊は地面に倒れて動かない親の前で寄り添い、そしてそのすぐ近くでは人間の兵士が怪我で肉が抉れ、血が溢れても誰も助けに来ず、徐々に息が絶え絶えとなっていた。そんな光景が散見するこの街をディーンは残った高い建物の屋上から眺めていた。
「さて、行くか...」
街を見終えるとディーンは飛んで他の戦闘員達の元へと向かった。到着した広場にはジン・ガイア帝国の大型浮遊艦「ヘクト・バーン」が停泊していた。艦に乗り込むと、先に多くの戦闘員が先に乗り込んでいたが、誰もが疲れきった顔で会話をする事もなく狭く、殺風景な通路で対面する椅子に座って体を休めていた。
「ヘクト・バーン発艦します、ヘクト・バーン発艦します」
ディーンがその通路を通りかかったその瞬間、艦内放送と同時に艦は宙へと浮かんだ。殆どの戦闘員は疲れと油断していた事もあって振動で思わずよろめいたが、すぐに座り直した。いや、一人だけそのまま地べたに伏せ続けている戦闘員がいた。他の戦闘員が近づいて彼を仰向けにさせると彼は既に息はなかった。起こした戦闘員は息のない戦闘員を無表情、無言で引きずると艦のダストシュートに突っ込んだ。息のない戦闘員はそのまま艦の外に飛び出され遥か彼方の地面へと落ちていく。ディーンはその光景を当たり前の様に眺め、その戦闘員のいた椅子へと座り込んだ。
「...大変です!!どうやらジン・ガイアの怪人級が現れたみたいです!!場所は近くの都ウルトラアリーナ外の広場です!!」
と、突然の飛田の声にディーンはハッと我に返った。今は自分の思い出に耽っている場合ではないと、慌てて壁から離していた耳をもう一度近付けた。今度はレミーの声が聞こえてきた。
「そこならこのカラオケのすぐ近くね...テグサーチーム出動よ!!」
テグサーチーム全員の「了解!!」という声と共にカラオケのドアは勢いよく開かれ、全員出入り口に向かって駆け出した。その光景をドア越しで見ていたディーンは考える。
「...奴らは今カラオケを堪能し疲れた表情を微塵も見せていなかった。恐らくこのカラオケでストレスを発散する事が戦いの勝利への秘訣に違いない。流石はテグサー1だ。今見学に行けば第三者の視点で見る事が出来るな。…よし、見に行くか」
ディーンも同じ様にドアを開いて出入り口に向けて駆け出した。その表情は新たなライバルの強さの秘密を理解出来た事への嬉しさなのか僅かにほくそ笑んでいた。
ディーンが外に出るとアリーナから我先に逃げ出す人々に溢れ、パニック状態に陥っていた。その中で立つ彼はアリーナの方向を見ると先に出たトウマ達が怯え惑う人々の中をかき分け進んでいた。ディーンもその戦士の後ろ姿を追って走る。しばらく走ってアリーナに着くと、そこにはマツナガが未だに残っている人々に向けて腰に手を当て高笑いをしていた。
「ハッハッハッハッ!!怯えろ人間共よ!!この俺様が造った生命体兵器『エレキデンジャー』によってなぁ!!それ、やれ!!」
全身に黄色と黒の横縞が入った二足歩行の怪人は後ろにいるマツナガの合図を受け、プラグ型の腕から電撃の光線を天高く放った。瞬間、その電撃はガラス張りのビルに着弾し、爆発音と共に辺り一面にガラスの雨を降らせた。人々はその破壊力に恐怖し、悲鳴を上げた。
と、その時。
「待て!!ハァッ!!」
未だに人間の姿でドヤ顔をキメるマツナガの後頭部に駆けつけたトウマの飛び蹴りが炸裂した。油断していたマツナガは勢いよく前のめりになり、受け身をとる暇もなく、地面に鈍い音を響かせて真正面に突っ伏した。だが、負けじと素早く上半身を起こして怪人態になり、トウマのいる方向を振り向く。
「いってーなぁ、コノヤロー!!折角気持ちよく破壊活動をしてんのに、邪魔すんじゃねー!!」
「うるせぇ、テメーの気持ちの為だけに街を破壊されてたまるかっ!!」
トウマが啖呵を切る間にトウマに追いついた穂乃花、涼、茜が彼の元に横一列に揃った。後方には飛田が指揮をする為にパソコンを持ち、更にその背後でレミーが見守っている。全員の姿を確認したトウマはテグサロイドを持って叫ぶ。
「いくぜ、皆!!」
彼の叫びに応える様に他の三人も各々のテグサロイドを構えた。
「チェンジ、テグサーマン!!」
眩い光と共に四人はテグサーマンへと変身した。
「テグサー1!!」
「テグサー2!!」
「…テグサー3」
「テグサー4!!」
「「「「我ら、テグサーマン!!」」」」
名乗り口上をキメるテグサーマン。それを間近に見たマツナガは聞こえないように呟く。
「クソ~、カッコいいポーズ決めやがって。こっちはお前らとディーンが帰ってきたせいでドンドン隅に追いやられているっていうのに…こうなったらここでテグサーマンを倒して名誉を必ず挽回してやる!!やれ、エレキデンジャー!!マルチロック式エレキ光線だ!!」
「デ~ンジャ~!!」
マツナガに指示を受けたエレキデンジャーは腕に力を集中させ、電気のスパークの塊をバチバチと輝かせた。
「ジャッ!!」
エレキデンジャーは叫ぶと同時に先程の電撃光線を四本同時に放った。その光線はテグサーマン達の前に着弾し、爆発が起こった。それに伴い、燃え盛る炎。
「「「「やぁぁぁぁぁぁーっ!!」」」」
その炎を潜り抜けて、テグサーマン達は激しい雄叫びと共に飛び出した。
「風竜剣!!」
その勢いで突撃したテグサー2は槍となった風竜剣を縦横無尽に振り回し、エレキデンジャーを切り裂いた。
「天下無双刀、一閃斬り…!!」
間髪入れずテグサー3が接近し、居合い切りでエレキデンジャーの胸部に深い一撃を与えた。
「マッハ・ストライク!!」
側頭部に付けたバイクのマフラーからエンジンの煙を排出させながら爆走、接近したテグサー4は柄がバイクのスロットル部分を模した警棒「スロットル・ロッド」でエレキデンジャーの頭部に何度も何度も振り下ろした。
「ブレイジング・ナックル!!」
最後の締めに駆けたテグサー1は火の着いた固い拳を固め、重い音が響く程のパンチをエレキデンジャーの腹部に一発、二発と命中させた。
「グェアッ!!」
素早い連続攻撃にエレキデンジャーは後方に吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられ、何度も転がった。終わった頃には、エレキデンジャーはそのダメージで体の節々に火花が散っていた。
「よし、いいぞ…あのフォーメーション、一生懸命考えた甲斐があった」
勝利は確実。飛田はテグサーチームの鮮やかな連続攻撃にそう感じ、喜んでいた。その姿に後ろで見続けていたレミーも大いに喜ぶ。
「フフン、流石私が作ったチームだけあるわ!!…ん?」
鼻息を鳴らすレミーは視界の端、テグサーチームの死角となる木の根本に倒れている子供を捉えた。そして、視界の中心、子供の前では起き上がったエレキデンジャーが電撃を溜めていているのか全身が青白く光り輝いている。その時、横にいる飛田が叫んだ。
「アイツ、体内で電撃をチャージしている...まさか、一気に広範囲に放電するつもりか!?皆、急いで離れて下さ...社長!?」
このままでは電撃があの子供に当たってしまう。そう考えたレミーは今まさに戦場となっている場所を横切って子供に向かって駆け出した。
「な、なにやってんだ、アイツ…!?」
そんな駆ける彼女を、一番に気付いたテグサー1。思わず駆け足で追いかけた。
「…!!まさか!?」
その二人の姿にテグサー3は現状を察し、二人に続く。その全景を遠くから見つめていたディーンは怪訝な表情をしていた。
「まさかアイツら、あんな子供を助けるのか…?一体何故…?」
「大型の電撃、来ます!!」
レミー、二人のテグサーマンが子供にたどり着いた瞬間、飛田が叫ぶ。それと同時にエレキデンジャーは全身から幾多もの電撃の光線を放った。刹那、辺り一面に連続して巻き起こる爆発、爆発、爆発…。爆発の後には多くの瓦礫が残った。
「ぷはぁっ、み、皆どうなったんだ…?」
飛田と彼の警告を聞いていたテグサー2、4は遠くに離れ、難を逃れていたが、子供を庇った三人の姿が煙でよく見えない。それでもなんとか目を凝らして探していると、飛田はやっと三人の姿を捉えた。
「あ、あぁ…!!」
飛田は目の前の光景に一瞬絶句した。
「涼さん!!」
飛田が心配そうに叫ぶテグサー3は倒れた子供を覆い被さってかばった為に背面に電撃が直撃、大きく焼け焦げていた。
「トウマ!!」
テグサー2が悲鳴に近い呼び掛けをした。一方のテグサー1は子供の元に間に合わなかったレミーを抱く様に庇い、更にエレキデンジャーに最も近い場所にいた為に背面が焦げるだけでなく、肩やアンテナが大きく破損していた。
「と、トウマ...」
現状をようやく理解したレミーはテグサー1の装着者の名を弱々しく呼んだ。しかし、反応はなかった。
「ご、ごめんなさい...!!何の力も持っていないのにでしゃばって...私、私...本当にバカだっ...!!」
最悪の結末を知り、レミーが目に涙を浮かべて語りかけた。だがその時、テグサー1が彼女の頬を優しく撫でた。
「トウマ...!!」
テグサー1に意識がある事にレミーの表情は僅かに明るくなった。
「へっ、気にするなよ社長...危険を省みず、目の前の人を見捨てずに助けたその根性、正に会社のリーダーの鑑だ、大したモンだぜ、全く...」
「トウマー!!」
トウマの軽口を聞いて安心したレミーは抱きつき、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をテグサー1の胸に擦り付けた。
「わっ、ちょっと、汚ねぇなぁ。前回といい俺の事鼻拭きだと思ってないか!?」
「ば、馬鹿…!!折角のムードを壊さないでよね…!!」
「へいへい…」
無事を喜び合う二人。一方でテグサー3は倒れていた子供を抱きかかえて怪我の様子を見ていた。
「うぅ、なんて事だ…!!」
その子供は服がボロボロになり、顔面は完全に焼け焦げていた。
「すまない、私が庇いきれなかったばっかりに…せめて、安らかに…」
テグサー3がその子の頭を優しく撫でたその時、彼の髪の毛全てが一つの『塊』となってズルリと落ちた。
「う、うわぁぁぁっ!!って、まさかコレ、マネキン…?」
よく見ると、丸坊主となった子供の顔は生気のない作り物であった。
「よかった、皆無事だ…」
その両方の姿を見て胸を撫で下ろしたテグサー2はあの二人に駆け寄ろうとした。しかし、その歩みはマツナガの卑屈な笑いで止まった。
「ヘッヘッヘッ、あんな小せぇガキを庇ってなんの得があるっていうんだ?ウチの国なら育成中の戦闘要員、怪人以外ならあんなの放っておくのが世の常識だぜ。まぁいい、これで俺の株も上がるってモンだっ...!!」
瞬間、彼の頬を光線がかすった。誰が自分を攻撃したのか。マツナガが飛んできた方向を見ると、そこにはテグサー2が剣を銃撃形態に変形させて構えていた。
「...ってーなぁ!!なにしやがる!!」
突然の銃撃に切れて血が流れる頬を抑えながら激怒するマツナガを前にテグサー2はゆっくりと剣を下ろす。そして睨み付けながら静かに口を開いた。
「...あなたに、トウマや涼さんのなにが分かるの?私達は皆を守りたい、皆の絆を壊したくないという想いがあって戦っているの。だからこれまでどんな強敵が相手でも戦い抜いた。そんな想いを自分の名誉や地位の為に暴れる奴に笑う資格なんてないっ!!」
その言葉に、テグサー4も続いた。
「そうだ、自分の事しか考えられないテメーなんかに…」
「「私達は負けない!!」」
二人の強い言葉にたじろぐマツナガ。その時、飛田のパソコンに通知音が流れた。飛田はモニターを見る。と、そこにはテグサー2、4のパワーメーターが上がってる事が記されていた。
「こ、これはいつもの三倍のパワーが上がっている…!」
予想以上の出来事に飛田はすかさず二人に向けて叫んだ。
「二人共、是非今追加パーツを使って下さい!!今の二人なら使いこなせる筈です!!」
二人は頷き、テグサロイドを構えた。
「セット・ウィング!!」
叫ぶテグサー4にウィングパーツが装着され、テグサー4ウィングへとフォームチェンジした。
「セット・ビルド!!」
同じく叫ぶテグサー2に左腕にクレーンアーム、右手に新パーツ・ドリルハンドが装着され、テグサー2ビルドへとフォームチェンジした。
「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」
装着が完了した二人はエレキデンジャーへ向けて飛びかかり、各々の武器、ドリルハンドとスロットル・ロッドを振り下ろした。
「キシャー!!」
しかし、エレキデンジャーの雄叫びと共に発せられた、全身に稲妻をまとわりつかせる電撃バリアーが二つの武器を弾いた。
「キャッ!!」
「ううっ!!」
その衝撃に後ずさる二人。その姿に飛田は叫ぶ。
「穂乃花さん、そのクレーンには電気のアースの役目もあります!!なので茜さん、風で一瞬奴の電撃で吹き飛ばし、それに間髪入れず、奴の体にクレーンを突き刺して下さい!!時間は約2秒程ですが、二人なら必ず出来ると信じてます!!」
飛田のアドバイスに二人は「了解!!」と応答し、まず最初にテグサー4はウィングで空高く飛び立った。
「エアロ…シュータァァァァーッ!!」
テグサーは両翼から竜巻をエレキデンジャーに向けて一直線に放った。バリアーと激突したその一瞬、二つはバチバチと轟音を立たせながら相殺され、最後にはフッ、と消えてしまった。
「今だ、穂乃花!!」
「うん!!行くよ、茜!!」
竜巻と電撃が止んだその刹那、テグサー2はダッシュで頭から滑り込み、右手に持ったクレーンのフックをエレキデンジャーの土手っ腹に突き刺し、クレーンパーツごと腕から取り外して地面へと突き刺した。
「な、なんだアイツらなにしやがった!?まぁいい攻撃続行だ、エレキデンジャー!!」
しかし、マツナガの命令にエレキデンジャーは応える事は出来なかった。彼が電撃を放とうとしても地面に刺したクレーンのワイヤーが電撃を地面に逃がし続けていたからだ。そうとは知らずにエレキデンジャーは何度も何度も電撃の光線を放とうとポーズを決めるが全て不発に終わってしまうのであった。慌てるエレキデンジャー。その姿にテグサー2はテグサー4に通信を飛ばす。
「よし、トドメといこうよ、茜!!」
「OK!!穂乃花!!」
お互い通信を介して相づちを打ち、着陸してパーツ装備を解除したテグサー4はデグサロイドでフォーチェイサーを呼び出すと、即座に無人のフォーチェイサーが彼女の元へ駆け付けた。
「照準、セット...!!」
飛び乗ったテグサー4はすぐさまスロットル・キャノン発射の体勢に移った。照準の先にはエレキデンジャー。狙いを定めたテグサー4は横のテグサー2の方を向いた。
「準備完了!!チャージの間、穂乃花、頼んだ!!」
「OK!最初は私のドリルで行く!!」
テグサー4の合図でテグサー2もドリルを構えて戦闘の体勢に入った。
「必殺、ダッシュドリル!!」
テグサー2は俊足で駆けると同時に右腕のドリルを回転させた。駆けるスピードと超高速のドリルの回転。この二つが合わさって青白いオーラがテグサー2の体を覆った。そのオーラと共にテグサー2はエレキデンジャーの腹部をドリルで貫いた。腹部に大穴が開いたエレキデンジャーは苦しそうに穴を抑えながらもがいた。それを見たマツナガも自身の危機を察したのか、苦しそうな表情で大きく口を開けていた。
「スロットル・キャノン!!」
そしてテグサー2が通りすぎた後に間髪入れず、その腹部には強力な直線の光線、スロットル・キャノンが命中。必殺の光線を前にエレキデンジャーはその場にうつ伏せに倒れ、激しい爆発と共にその体は四散した。
「あぁ、これで俺も留守にしといたコブンロもこれで閑職行きだぁ...くそぉ~、覚えてろ、テグサーマン!!」
マツナガは分かりやすい悪役の捨て台詞を吐きながら、スタコラサッサという擬音が聞こえそうな駆け足でその場を後にした。一方で戦いが終わり、変身を解除した穂乃花と茜は手を振りながら別の場所にいる他の四人の元へと合流した。
「二人とも、無事か?」
変身を解除し待っていたトウマ達四人の中で一番最初に口を開いたのは涼であった。
「うん、大丈夫!!」
涼達を安心させる様に、茜は元気に返した。
「そういえば涼ねぇ。さっきのマネキンはどうしたの?」
「…あの子なら、近くにいた持ち主、ブティック関係の従業員に返してきた」
「もっとも、渡した瞬間、ボロボロになって崩れたがな…」
「そ、そっか。良かった~」
「それにしてもあの一瞬のコンビネーション、中々出来る物じゃない。二人ともよくやったな。」
「へっ?ふ~ん...」
茜は涼の褒め言葉に一瞬驚き、きょとんとしたが、その表情はすぐにニヤつき、涼の顔をジロジロと上目遣いで眺め始めた。その表情に涼は不思議そうな表情をした。
「な、なんだ茜?突然ニヤついて...?」
「いや~、何も~?只、涼ねぇが褒めてくれるなんて珍しいなぁ~と思ってね~。これもカラオケでお互いの親睦を深めた甲斐があったな~...あてっ。」
ニヤつき続ける茜の額に涼は軽くチョップを当てた。
「調子に乗るんじゃない...まだまだフォーメーションの課題はあるんだからな。」
「はーい」
「あっ、いっけない!!」
突然、茜の横にいた穂乃花が叫んだ。全員が一瞬で真剣な表情に変わり、彼女に注目した。
「どうした穂乃花!?今の戦いでなにか大事な事見落としていたか!?」
一番最初に穂乃花に問いかけたのは彼女の横にいるトウマであった。と、真剣な顔で迫る幼なじみを前に穂乃花は皆の気持ちを察し、しまったといわんばかりの表情で全員から目を反らし、頬を人差し指でかき始めた。
「あ~、ゴメン、そうじゃなくて。まだカラオケの途中だったな~と思い出して叫んじゃったの..お金もまだ払ってないし...ね?」
あまりにも馬鹿馬鹿しい返答。穂乃花を除いた全員が「はぁ~」と深くため息をついた。それを前に申し訳なさそうにうつむく穂乃花。その時、横から軽いチョップが飛んできた。
「あてっ、なになに!?」
穂乃花が横を見ると、それはトウマの手であった。
「まったく、お前という奴は...」
「だからゴメンって言ってんじゃん!!」
「ハイハイ、よし皆、お金払ったらさっさと帰るぞ。」
トウマの指示に「はーい」と返したテグサーチームは穂乃花を置いてゾロゾロとカラオケに向かった。
「ち、ちょっと皆!!まだ私歌い足りてないんだからね!!なるべくPVある奴優先で!!」
穂乃花の主張を無視して歩き続けるテグサーチーム。
「ね、ねぇ、ちょっとは聞いてくれてもいいんじゃない!?」
それでも無視する皆を穂乃花は駆け足で追いかけるのであった。
テグサーチームも去り、静まりかえるアリーナ広場。残ったのは爆発の煙、そしてディーン。彼はテグサーチームを見送る事なく木を背もたれに立って自分の握り拳を眺めていた。
「守る、絆か...俺は進化で物心着く前からジン・ガイアの軍で数年間戦い続けたが、今まで国や自分の為にじゃない、誰かの事を考えてこの手を振っただろうか?」
「...アイツらはそれがあっから、たった数人で俺に勝てた、ということか...」
「フッ、面白いな。力は弱くても人同士の強い想いとやらでジン・ガイアに立ち向かう人間ってのは...」
ディーンは帽子を深く被り直し、拳をポケットに突っ込んでその場を後にする。一人寂しく歩く彼の後ろには小さな一つの風が吹き、落ち葉がカサカサとコンクリートの地面を転がっていた。まるで彼の後を追うかのように。