見てない間、ホント何があったの・・・?
ぼんやりとした視界の先に見慣れない白い天井があった。
いつも自分が使用しているベッドと比べ、固めのそれに横たわっている事に眉を顰めそうになるが、そもそも自分がどうしてそのベッドに寝ているのかを思い出せないことに、セシリアは疑問に思った。
「・・・目が覚めたようだな」
「───っ!織斑先生?」
上半身をベッドから起こし、記憶を探ろうとした彼女の隣から担任教師の言葉が掛かる。
その登場に、一瞬身構えてしまうセシリアであったが、スーツ姿でありながら授業中のような威圧的な雰囲気がない彼女に、自然と強張った筋肉が解れた。
「織斑先生、私は───一体・・・」
「色々と聞きたいことはあるだろうが、少し待て。保健医による軽い検査を終えてからだ」
そう言ってからの千冬の対応は早かった。
セシリアが寝ていたベッドから少々離れた位置にいた保健教諭に、彼女の診断をしてもらい、特に異常がないことを確認させる。
そしてそれらのことを全て終えて、保健教諭からの安静にしていなさいと言われてから千冬はベッドの隣に丸椅子を持ってきて、そこに腰を下ろした。
「さて尋ねたいことは多々あるだろうが、まずは確認しておこう。何故この保健室で自分が寝ていたのか覚えているか?オルコット」
彼女の質問にセシリアは曖昧な記憶を辿りながら自分に起きたことを順に並べていく。
「確か・・・一夏さんと戦って・・・それから・・・」
「オルコット。回りくどい言い方はお前に余計な混乱を招く恐れがあるから事実だけを言うが・・・・・お前は昨日の試合───フロイト・ヴェスパーに敗けた」
「・・・・はい?───っ!?」
セシリアがその言葉を理解すると同時───彼女の蓋をされていた記憶が溢れ出した。
急接近し、自分に向けられた銃口。
爆音と共に叩き込まれる巨大な杭。
そして自分をつまらなそうに見る無機質な目。
「──────ッ」
呼吸が荒れる。思い出しただけだというのに、その事柄が怖い。
「大丈夫だ。落ち着け」
千冬は呼吸を荒くするオルコットを宥めるように、彼女の肩にその手を置く。
「試合はもう終わった。今はゆっくりと休め」
「・・・は、い」
起こしていた上半身をゆっくりとベッドに寝かせてやりながら、彼女の手を優しく握る。
その仕草に安堵したのか、身体を脱力させたセシリアはスイッチが切れるように再び眠りについた。
彼女が眠るベッドの仕切りとなっていたカーテンをくぐり、この場を後にしようとした千冬はチラリと彼女の寝顔を見てから小さく呟いた。
「・・・・・無理もない」
自分でさえ、本当の顔のフロイトは異常だと思えたのだ。それを間近で見て、感じたセシリアが恐怖を覚えるのも無理はない。
「どのような経緯を辿ればあのような人間に成れるのだろうな・・・束」
ここには居ない彼女に問いかけるように千冬はそう呟いて、部屋から出ていった。
◇◇◇◇◇
「あっ・・・お疲れさま」
「ああ。それで?機体はどうだ?」
試合が終わっていつもの放課後。
格納庫に来たフロイトはさっき自販機で買ったコーヒーを簪に投げ渡す。
「ブラック・・・・」
「好きじゃないのか」
「別に・・・・」
渡されたブラックコーヒーに簪は少しだけ渋い顔をするが、別に飲めない訳では無い。
カシュッっと音を鳴らしながら缶を開け、少しだけ口に含む。
「・・・・苦い」
泥水を啜っているような苦さに簪は顔を歪めた。
そんな中、フロイトは遠慮なく彼女の隣に座りパソコンのディスプレイに目を通していく。そして上手くいっていないのが分かると、フロイトはディスプレイに指を指して簪に言った。
「腕部のシールドバリア発生装置の出力が過剰だな。恐らくこれが原因で姿勢制御に影響が出ているだろう。少し出力を落とせ。だからといって落とし過ぎるなよ?それだと浮遊した時、姿勢が片側にズレるぞ」
「う・・・うん・・・」
的確なアドバイスを貰いながら簪は各種パラメータの出力を変更していく。
「あれ・・・エネルギー不足・・・?なんで・・・?」
「見せてみろ」
急にエネルギー不足の表示に焦りを見せる簪に対し、フロイトは打鉄弍式のパラメータを確認すると、原因になった部分に指を指した。
「ブースターにエネルギーを割きすぎだ。お前の機体は他の機体よりも重量がある。お前はソレを本来は軽量機体が扱う高速戦特化のブースターを使っているからエネルギー不足になっただけだ。その機体は高速戦には向いていない。諦めて重量機体のブースターをつけろ。そしたらエネルギーは不足になるどころか多少余る筈だ」
そう言ってフロイトは簪が口につけた缶コーヒーを一気に飲み干した。
「あっ・・・・」
「どうした」
「な、なんでもない」
簪はフロイトがしたことに顔を赤くするが、フロイトはそれに気付かない。
簪は何も見なかった。そう思いながらキーボードを打つ。が、胸から溢れ出る熱は、作業が終わるまでどうしても冷めることはなかった。