(・・・思ったより話込んじゃった。急がないと)
簪は次の授業に間に合うように少し駆け足気味で廊下を走る。本当は廊下を走っているのがバレてしまうとお叱りを受けるのだが、授業に遅れてしまうよりかはマシだ。
と、そんな簪の耳にどこからか声が聞こえてきた。
(あれ?この声って・・・)
何処かで聞いた声に、簪は足を止めて少し離れた曲がり角から顔を覗かせると、そこには例の転校生と織斑千冬がいた。
「なぜこんなところで教師など!」
「やれやれ・・・・」
どうやらお取り込み中のようである。あの転校生が織斑先生に対して何か物申しているようだった。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」
どうやら今の織斑先生の仕事に対する不満を彼女は言っているようだった。簪は少し気になり、耳を傾ける。
「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を!ここでは貴方の能力は半分も生かされません!」
その言葉に織斑先生は眉を上げる。
「ほう?」
「大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」
「それはなぜだ?」
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど───」
「───そこまでにしておけよ、小娘」
そう言いかけたところでドスの聞いた織斑先生の声が廊下に響いた。
「っ・・・・!」
凄みがある声に、簪は自分に対して言われている訳でもないにも関わらず、思わず身がすくんでしまった。
面と向かって対峙している転校生はさぞ、恐ろしい思いをしていることだろう。
「少し見ない間に随分と偉くなったな?十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ、私は・・・」
その声が震えているのがここからでもわかる。圧倒的な力の前に感じる恐怖と、かけがえのない相手に嫌われるという恐怖。
「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れ。次の授業で私はヴェスパーのヤツが余計な事をしないようにしなければならんのだ」
アイツの相手は疲れるといった様子の織斑先生に対して例の転校生は顔を俯かせたまま何かボソボソと言っていたが、簪の耳にその内容が入ってこず、結局そのまま早足で去っていった。
話は聞いた。ならさっさと教室に戻ろうと思い、簪は身を翻した瞬間───
「そこの男子。盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ」
一瞬──自分の事かと思い、ビクンと身体が跳ね、足を止めたが、そこの男子と織斑先生が言っていた事に自分ではないと安堵する。
「な、なんでそうなるんだよ!千冬ね───」
ばしーん!
あ、叩かれた。
「学校では織斑先生と呼べ」
「は、はい・・・」
痛そうにする一夏の声に対し、織斑先生は呆れた様子で言った。
「そら、走れ劣等生。このままじゃお前は月末のトーナメントで初戦敗退だぞ。あの問題児を見習えとは言わんが、勤勉さを忘れるな」
「分かってるって・・・」
「そうか。ならいい」
そんな家族のやり取りを聞いて簪はふと自分の姉の事を思い出す。が、それもほんの一瞬で、簪はすぐに姉の事を考えるのを止めた。
───だって私にはフロイトがいるから