お気に入りの増え方を見て
今回は簪中心の回です
簪がフロイト・ヴェスパーの名前を初めて耳にしたのは、彼が二人目の男性操縦者として世界に広まってからのことだった。
その時の簪は倉持技研に世界初の男性操縦者である織斑一夏の専用IS製作の為、自身の専用機の開発を中断されたときにその話を耳にした。
その時の簪は荒れに荒れていたと、大嫌いな姉がそう言っていたらしい。
姉は優秀だった。自分よりも勉強が出来て、ロシアの代表にもなって・・・自分のISでさえ、一人で作ってみせた。
もちろんそんな姉に簪も努力した。勉強も上位をキープしてIS操縦者の日本代表候補生になって。
だが───ISは作れなかった。
そんな姉との差を簪は埋めることが出来なかった。
泣く泣くIS開発を倉持技研に頼み、自身のISを作ってもらう話になり、しばらくたった後、あの出来事が起こった。
世界初のIS男性操縦者が現れたのだ。
それによって世界が注目した。世界初の男性操縦者のISを作るのは自分達だと。
あの織斑千冬の弟であり、世界初の男性操縦者である織斑一夏のISを作れば世界に名が上がる。
数ある企業の中で選ばれたのは倉持技研だった。
そして倉持技研は織斑一夏の専用ISの製作の為、簪の専用機開発は中断となったのだ。
そしてヤケになった簪に姉が言った言葉が────
『あなたは何もしなくていいの。私が全部してあげるから』
そしてそれ以上何も言っていない姉の───簪が無意識に作り上げた幻聴が耳もとで次の言葉を囁いてくるのだ。
無能なままで、いなさいな。
完璧な姉に対するコンプレックス。そのストレスで簪は過去に一度、潰されてしまっている。
それに復帰出来たのは、そんな姉に対する対抗心がまだ簪の中にあったからだった。
それ以降、簪はその姉とは顔を合わせていない。
そんなギリギリの状態の中、簪はIS学園に入学し、今も倉持技研から引き取った打鉄弍式の開発に力を入れているが、それもうまくいっていなかった。
そんな中で、だ。簪がフロイトに出会ったのは。
『ほう・・・中々面白いアセンブルじゃないか』
『───ッ!?』
ソレが最初のコンタクトだった。
無遠慮に簪が作り上げた打鉄弍式の設計図を眺めながら、彼は機体コンセプトに口出ししていく。
『打鉄の高出力と高耐久を生かした遠距離射撃機体か。マルチロックオンシステムで複数人に対するミサイルの制圧攻撃は悪くないが、近距離戦に薙刀は弱いな。重量面を気にしないのなら近距離射撃武器のショットガンを持った方がいい。それなら多少離れていても散弾なら近距離でも当たる。後は・・・荷電粒子砲は威力は高いが、オーバヒートした時に中距離戦がほぼ出来ないだろう。それなら火炎放射器を持て。継続的に相手には圧をかけられるし、視界不良も起こせるから出来るならその方がいい設計図はそれでいいとしてシステム面は・・・なんだ?マルチロックオンシステムが出来上がっていないのか?それに機体も見る限り、製作も上手くいっていないみたいだな。製作機体にお前の技術が追いついていないのか。このままだと当分完成しないぞ』
『・・・・ッ!うるさい!』
フォローしているのか煽りに来たのか分からない上から目線の言い方に、簪は怒りに身を任せて吠えていた。
お前に何が分かる!と言いたかった。
だがそんな余裕がない簪に対し、この男は笑うように答えてきたのだ。
『おいおい、本当の事を言っただけでムキになるなよ。お前は経験が浅い。機体を作りたいならまずは興味を持て。対抗心だけで作ろうとしても上手く行くわけないだろ』
『──────』
その返答に簪は何も───言い返せなかった。
目の前の男は対抗心だけでは上手くいくわけがないと言った。機体を作りたいならまずは興味を持てと。
私は───“いったい何を持って機体を作ろうとした“?
興味?違う。ISにはそこまで興味はなかった。
私を突き動かしていたモノ。それは───
完璧な姉に対する対抗心
『──────』
それに気付かされた。
最初から好きでISを作っていた訳じゃない。優秀な姉に対するコンプレックスに突き動かされて作っていたのだ。
『お前の考えたデータは面白い。だから俺にもみせろ』
『う、うん・・・』
始めて本当の自分を見てくれた。姉ではなく、自分が作ったモノを面白いと言ってくれた。
その事が嬉しくて彼女の荒んだ心にゆっくりと染み込んでいった。
◇◇◇◇◇
何度目かのコンタクトで簪はフロイトのことを知りたくなった。
二番目の男性操縦者。問題児などと学校では騒がれているが、実際に話して見てそうは思えない。
なのでコッソリとクラス代表を決める決闘でフロイトの試合を見た時、声が出せなかった。
「──────」
ただただ圧倒的。機体性能の差などものともせず、ただ実力だけでイギリスの代表候補生を叩き潰した。
(・・・凄い)
究極になるほど陳腐になると昔、誰かが言っていた気がするが、まさにその通りだと言わざるを得ない。
何故なら簪もフロイトの動きを見て、そんな感想しか出て来なかったのだから。
シミュレーションとはいえ、“お姉ちゃん“に圧勝するほどの実力者。
だが、同時にフロイトの恐ろしさが彼女の中から溢れ出てくる。
あの目だ。
興味を無くしたゴミを見るような目。
あの目を向けられたくない。
あの目を向けられたら最後、自分自身がへし折れるような気がしてならなくなる。
簪はアリーナの会場から逃げるようにその場所から去る。
そしていつもの場所でいつも通りの会話をフロイトとするのだ。