便利屋のアルバイト 作:一般通過アルバイター
──この巨大学園都市"キヴォトス"において最強の生徒とは誰だろうか。
アドビス所属の強い神秘を内包した小鳥遊ホシノ。
トリニティの決戦兵器と称される剣先ツルギ。
ミレニアムのC&Cの部長美甘ネル。
百鬼夜行連合学院所属の七囚人"災厄の狐"狐坂ワカモ。
ゲヘナ学園風紀委員長の空崎ヒナ。
そんな話題があれば、出てくる生徒の名前。
そんな中、とある人物の話題が上がるのはもはや必然のことだった。
──便利屋の"彼"はどうだろう?
ゲヘナ学園所属の"5名"で構成された部活、【便利屋68】
そこにいるのはキヴォトス内において数少ない男子生徒の1人。
しかし、この"最強の生徒"という話題においてこの男は例外の存在となっている。
キヴォトス内のあらゆる学園から警戒される彼は……端的言ってしまうのであれば正しく"自由"な男だった。
気がつけばそこにいる。
常に何かしらのトラブルを起こす。
面白いと感じたのなら首を突っ込む。
政治?戦争?そんなの関係ないとばかりの行動力。
銃も、武器すらも持たないゲンコツ主義。
果てにはあらゆる組織が、あらゆる部活が総力を上げても押さえつけられないほどの戦闘能力。
最終的には『キヴォトスにおいて絶対に敵対してはいけない生徒』とまで言われるようになっている。
曰く、敵対した組織は服をひん剥かれ、翌日には街のど真ん中に吊るしあげられるとか。
曰く、陰口でも叩こうものならいつの間にかメリーさんの如く常に背中に張り付かれるとか。
曰く、シリアスな戦闘場面でも戦場ど真ん中でゴザを広げ茶をしばくとか。
曰く、あらゆるデータベースに侵入できるほどのIQがあるとか。
とにかく、あれほどの自由人はいないと言われるほどの身勝手ぶり。
彼に直接出会ったものは口を揃えてこう言う。
──あれはもうただの"災害"だ、と。
そして、その男におまえは何なんだと聞くと決まって帰ってくるセリフがある。
それが──
──ただのハジケリストです。
≈≈≈≈≈≈≈
午後の優雅な時間。
ここ、便利や68のオフィスである一室で4人の女子生徒は各々に寛いでいた。
一人は愛用の銃のお手入れを、一人は携帯ゲーム機を手に、一人はソファに腰かけテレビを、そしてもう一人はオフィスチェアに腰掛けコーヒーを片手に。
最後の一人の"とある男子生徒"がいないだけでかなり静かな時間。
嫌われている訳では無いが、やはり彼がいるいないだけで心の余裕はかなり変わるのである。
さて、空になったコーヒーカップ。もう一杯淹れようと腰を上げようと──
「………ん?」
──その時だった。
窓に差しかかる一つの影。
それに気づいた三人は即座に物陰に隠れ、残った一人はあたふたする。
ガッシャァァァアンッ!!
そうしていると窓ガラスを割り、中へと飛び込んで来たその人影。
「ぐえ…!」
ソレはそのままあたふたする一人へと激突し、押し倒し着地。
そして下敷きにした彼女へ満面の笑みで声をかけた。
「よぉ!ただいま!」
「お、おかえり……な……さい……」ガクッ
突然のことに気絶した。
それを見て飛び込んできた"男"は彼女を片手で持ち上げながら立ち上がり物陰に隠れる三人へ声をかけた。
「死んだー。次の社長決めよーぜ」
「あ、アル様本当に…!?」
「いや、死んでないから。とりあえずソファに寝かせておいてあげて」
「相変わらずダイナミックに帰ってくるねー」
三者三葉の反応。
それを聞いて男は手にした彼女、"社長"をソファーへと寝かせ担いでいた大荷物を地面に置いた。
「それ何ー?」
そう聞いてきたのは小柄な白髪の室長。
社長の幼なじみでもある彼女だが、既に興味は社長の身ではなく男が持ってきた大荷物に移っていた。
そんな中でこっそりと荷物を覗くのは平社員。
中身を見た瞬間、彼女は腰を抜かしアワアワと顔を青ざめた。
「……どうしたの?」
「お、お、おおおお」
「お?」
「お金ですぅー!中身全部!お金です!」
「「……は?」」
平社員の言葉に素っ頓狂な声を上げる他2人。
男は既にそんなことお構い無しとばかりに気絶する社長の顔に油性のマジックで落書きしていた。
「ちょっとこれ、アンタ……」
「んー?どしたカチョサン」
「まさか盗んだわけじゃないよね?」
「安心してよー。ただのギャンブル。増やしてきただけー」
そうは言うが、リュックサックいっぱいに詰まる札束だ。これをギャンブルだけで増やすなど……。
いや、待てよと頭を抑える男からカチョサンと呼ばれた少女。
この男なら有り得る。常識的な物差しで測れる男じゃないことなど嫌という程理解させられてる。
「じゃあ今日は焼肉食べよーよ」
「お!いいゾォ〜!ついでに"ねるねるねるね"を100個買うか!」
「そんなにいらないかな〜」
「久しぶりにお腹いっぱい食べられるんですか…?」
「……アイツ次第だけど」
「………」
くふふと笑う室長に嬉々として反応する男。
それを傍から見る2人とイタズラ書きされた気絶している社長。
「そうと決まればお出かけだ!さあみんな準備して!」
「……窓ガラスはどうするの?」
「そんなん唾つけとけば直る!」
「直るか」
社長を肩に担ぐ男に突っ込むカチョサン、もとい課長。
そんな中、平社員と室長はいつの間にかお出かけの準備を終えていた。
「やっきにく〜やっきにく〜♪」
「やき、にく♪やき、にく♪」
「おい起きろ社長。寝たら死ぬぞ」
「…………」チーン
「………はぁ」
ため息が溢れる課長。
しかし、その口元は弧を描いていた。
これが便利屋68、アルバイトの【田中タロー】の日常である。
モチベが続いたら続くよ。