魔王大戦記3
食堂に着くと献立表を見る
「今日は野菜ばかりだね、ぼくは問題ないけど…」
エーリヒが露骨に嫌そうな顔をしている
「雑草ばかりじゃないか、このサラダなんて雑草の盛り合わせだし…」
ペトラは呆れつつ叱り口調でエーリヒ窘める
「雑草雑草って、野菜を食べないと健康的で活発なエリート兵にはなれませんよ!」
ヴィルヘルムは苦笑いする
「お前はエーリヒのお袋かよ」
それにエーリヒはムスッとした顔で反応する
「本当に俺のお袋みたいな事言いやがって、ヴィルヘルムも笑ってんじゃねぇよ」
ついてきた新兵3人は(この仲良しは一体なんなんだ)という顔をしていた
…
昼食を終えエーリヒとは別れる
「じゃあ俺は新兵3人の指導しなきゃいけねぇから行くわ」
3人の新兵を連れて訓練場へと歩いていった
「エーリヒの奴も休みなのに大変だな〜」
ペトラは「そうだね」と返すがふと
「所でヴィルヘルムは他に行くところがないのかい?
色んな所で『偶然』会っている気がするんだけど」
偶然、偶然?ホントに偶然?
少し懐疑的な目を向ける
「ん?あ、ああ〜…そうだな、俺も昼食が終わったら中隊本部に顔出そうと思ってたんだよ。
じゃあな〜」
明らかに挙動不審だったがさっさと行ってしまったので気にしない事にした。
「ん〜…部屋に戻ろうかな」
部屋に向かって歩いて行くペトラの後ろ姿を影から見守っていたヴィルヘルムが呟く
「危なかった」
…
部屋に入ると、ベッドの上でフランチェスカが相変わらずゴロゴロしていた。
「ちょっと、フランチェスカ
もう少し有意義な時間の使い方とか出来ないの?」
このペトラの発言にムッときたのか、フランチェスカが反論する
「フーンだ!ペトラには分からないでしょ、こうやってゴロゴロして英気を養っているんだもんね〜!」
ペトラはその発言に、ハイハイと頷きながらベッドに座ると
「最近ヴィルヘルムと偶然出会う事が多いんだよね、食堂にご飯食べに行く時間とか」
それを聞いたフランチェスカがピクリと反応する
「それ、ストーカーって奴じゃない?!
アイツちょっとそういうとこあるんじゃないの?
きゃー!ヤダヤダ」
ニヤニヤしながら人をストーカー呼ばわりしている
「さすがにそれはないでしょ、どうしてヴィルヘルムがぼくをストーカーするのさ?
あいつはイケメンだからモテるでしょ、こんな140しかない小さい女よりもよっぽどいい人はいっぱいいるよ」
といいながら遮陽眼鏡を外し、薄いブロンド色の髪を後ろで束ねた髪留めを外すと、少し頭を振る。
溜息をつきながらベッドに横になると、フランチェスカからの提案が入る
「今日の夜は酒場に呑みに行こう!!」
ペトラは驚いた、フランチェスカからそういった誘いがあったことはほとんど無かったからだ
「いいね、最後の平和な日常なんだ…たまには呑みに行くのもいい…」
それまで一眠りする事にした
夜になり駐屯地の中にある酒場に2人でやって来た
「んー!久しぶりに来たなぁ、この感じ!やっぱりいいね!!」
相変わらず下戸の癖に、酒場は好きなんだからと呆れるペトラであった
酒場のドアを開けると、既に先客が大勢いた。
どうやら一部の人が被っている略帽を見るに、要塞砲兵のようだった。
「だいぶ出来上がってるみたいだねぇ」
とフランチェスカに向き直ると既に席に座りヴルストを注文するところであった
相変わらずだと席に着くと同じものを頼む
実はペトラとフランチェスカは、兵学校時代からの腐れ縁で、野外訓練の際何故かいつも同じ班に割り当てられていた。
そうしている内に友情が芽生え、卒業後の配属先も同じ所を希望したところ、部屋すら同じになったのである。
そんな事を思い出していると、バンドマンが勇ましい軍歌を演奏し始めた。
「女神の砲兵か」
ペトラが曲名を呟く
ガヤガヤと騒いでいた要塞砲兵が静かになると、肩を組んで歌い始める
『我等が心、紅く清らかなる焔の如く
愛する祖国を護らんがため、
我等は進む
東より現れしは悪魔の下僕
北の聖なる森より現れしは
美しき金色の乙女』
『おお!バルバラよ!
雷の女神、我等に雷の祝福を!
我等は進む、愛する祖国の為に
進め、進め!
我等が砲兵よ
神聖なる帝国の為に
進め、進め!
我等が砲兵よ
広大なる我等が大地の為に!!』
『我等がこの身、冷たく堅き鋼鉄の如く
祖国に仇成す敵を打ち砕かん
東の森より現れし悪しき兵(つわもの)どもよ
我が聖なる雷光をその身に受けよ!』
『おお!砲兵よ!
バルバラの加護を受けし神兵よ!
我等が砲声は雷鳴が如く!
進め、進め!
我等が砲兵よ
秀麗無比なる大地の為に
我等が砲火は稲妻の如く!
その稲光を敵に叩き込め!
神聖なる帝国と雄大なる大地の為に!!』
わーっと砲兵が歓声をあげると
「「我ら要塞機甲中隊も負けていられんぞ」」
士官帽を被った男が叫ぶ
「我ら帝国の剣となりて、盾とならん!!」
軽快な曲が流れ始める
『堅牢なる装甲、軽快なエンジン。
強力なる大砲、重厚な無限軌道。
我等は戦車兵、帝国の盾!
我等は戦車兵、帝国の剣!!』
『帝国に仇なす者あらば
一撃で屠り去ってくれよう。
重厚な無限軌道、強力なる大砲で!』
『我等が愛する大地、愛すべき国。
我等が愛する民、愛すべき街。
我等は戦車兵、国民の盾!
我等は戦車兵、皇帝陛下の剣!』
『見よ、空を覆う暗雲を
我等が祖国を、我等が家族を貶めようとする者共を懲罰せよ!!』
どうやら…彼らは要塞機甲中隊の威風堂々号と、鎧袖一触号の乗員のようだ…
「多砲塔戦車の人達って熱血な人が多いのかな?フランチェスカはどう思う?」
振り返ると…
フランチェスカは半分ほど残ったビールジョッキを握りしめ、うつ伏せで寝ていた。
「嘘でしょ?ここまで弱かったかな?」
フランチェスカの頬を指でつついていると
「如何されましたかな?フロイライン、お困り事ですか?」
背後からの聞き慣れない声に振り返る
「大尉殿!問題ありません、同行人が酔いつぶれただけですので…」
要塞機甲中隊の大尉だった
「そうか、しかし1人では抱えていくのが大変であろう?
エヴァンス!このお嬢さん方宿舎まで送って差し上げろ!」
フランチェスカを抱えあげる
「宿舎はどこです?」
とても申し訳ない
「4号棟です、ウチの駄肉オッパ〇がご迷惑をお掛けします」
会計を済ませると酒場を後にする
「4号棟なら近いですね、さすがに中までは入れませんが…」
道中少し世間話をする
「軍曹は有翼人族でありますよね?という事は飛偵兵ですか?」
有翼人族は基本的に目が良く、空を飛べるので偵察兵に起用される。
「選抜射手兼飛偵兵ですよ、基本は選抜射手の方がメインですけど」
エヴァンス伍長は納得したように唸る
「なるほど、有翼人族の方々は目が良いと聞きますからね。
眼鏡をされているのは何故です?」
なるほど知らない人からすれば当然だ
「これは眼鏡ではなく遮陽鏡ですよ、いわゆるサングラスですね」
少し青っぽい眼鏡を取ると汚れを拭き取る。
「なるほどですね、目を太陽から保護するためですか。」
頷くと
ペトラも質問をする
「エヴァンス伍長は機甲中隊の方ですよね、どちらの車両に搭乗されているんですか?」
エヴァンス伍長は自信満々に
「鎧袖一触号ですよ、搭乗員は18名で15cm榴弾砲を主武装に4.5cm副砲を2門、ベルケ7.62mm重機銃を4門、ミールケ2cm同軸機関砲を1門搭載しています!
ノロノロしているのが弱点ですがね!
しかし我らが鎧袖一触号は魔王軍も恐れはしません」
拳を握りしめ振り上げる
本当に誇りを持っているんだな、と感心したペトラであった
「我々は魔王軍襲撃の際、跳ね橋の前進守備を行いました。
残念ながら…その際に僚車のボーデンプラッテ2両がやられて、8名が殉職しました…」
なるほど、小隊長達が話していたあの…
「心中お察しします」
少ししんみりした所で兵舎の前まで辿り着く
「ありがとう、エヴァンス伍長。
こんな重いおっ〇いを運ばせてしまってすいません。」
エヴァンス伍長は恐縮した様に手を振る
「いえいえ、ここまでの道中楽しかったですよ。
それでは明後日の奪還作戦はお互い頑張りましょう!!
お気おつけて!」
そう言うとエヴァンス伍長はフランチェスカをベンチに座らせて帰って行った
「お気おつけて…」
さて、フランチェスカの頬をペチペチと叩くと呻き声をあげる
「うーん、もう一杯」
ペトラは呆れる
「はぁ、フランチェスカ?起きないと置いていくよ?
そのご立派なおっぱ〇がどうなっても知らないよ?」
またうーんと呻き声をあげる
……。
ペちーーんと良い音が鳴る
「いたっ!!ちょっと!ペトラッ何するのさッ!!
人の胸を気安く叩かないでよ!」
…ペトラは何気に怒っていた
「…。
フランチェスカ?はやく部屋に帰るよ…」
フランチェスカの抗議の声を無視して、そそくさと兵舎の中に入っていくペトラ
フランチェスカがそれを追うようにして入って行く
その日、ペトラは眠れなかった
死ぬのが怖いから?
友人が無惨な姿を晒しているのを、見るのが恐ろしいから?
ただ殺伐とした不安がペトラの心の中で渦巻いていた、有翼人族の勘と言うやつだろうか?
本当に奪還作戦は成功するのだろうか?
そんな不安がペトラを寝かせてはくれなかったのである。
…
おっ〇い……