イルミネ、海賊王を目指す。   作:バナハロ

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三船長、集結。

 ある日の午後、櫻木真乃はのんびりとお散歩に出掛けていた。鳩のぴーちゃんを連れて外を歩く時間は好きだ。本当ならお昼寝もしたいけれど、ぴーちゃんを放っておいてお昼寝は出来ない。

 一先ず、公園でのんびりとベンチに座りながら、歌を口ずさむ。いつのまにか、ぴーちゃん以外の鳩も周囲に集まってきており、少しずつポカポカした感じに意識を手放しそうになっていた時だった。

 

「1、2、Sunshine、4、ウィーゴー!」

「ほわっ⁉︎」

 

 急な爆音と同時に公園に飛び込んできた音でぴーちゃん以外、みんな逃げてしまった。驚いて顔を向けると、そこにいたのは一人の少年。チワワを連れており、元気爆発といった様子だ。

 

「よし、赤犬! 『犬噛紅蓮』!」

「ぐわっぎゃぶるる!」

「うおおっ! お、俺にじゃねーよ! やめろバカ!」

 

 命令した側が襲い掛かられており、ちょっと面白かった。ていうか、チワワがあんな風に襲い掛かるところは初めて見た気がする。

 

「だ、大丈夫ですか……⁉︎」

「だ、大丈夫大丈夫! 誰だか知らんけど! こんな奴、覇王色の覇気で……」

 

 そう呟いてから、少年は軽く息を吸い込むと、目を見開いて大声を出した。

 

「やめろっつってんだろうがァ‼︎‼︎」

「ほわっ……!」

 

 思わずビクッと肩を振るわせてしまう。なんて大きな声なのか。耳にビーンっと来てしまったし、ぴーちゃんも驚いて真乃の頭の上に逃げる。

 ……しかし、チワワはそのまま少年の頬を舐め回す。

 

「ハッハッハッハッ」

「ぬおっ……く、腐っても三大将か……! あの、くすぐったいし痛いからやめっ……!」

 

 ていうか、襲われていなかった。思いっきりイチャイチャしていただけのようだ。

 

「ったく、いい加減にしろ! いくら仲間同士でもやって良いことと悪いことがあんだろ! 船降りろって言いかけてサンジに蹴られたルフィの頭を忘れたか⁉︎」

「わふっ……わふっ!」

「家でならいくらでも来て良いから、ここではやめろっつの……!」

 

 家では良いんだ、なんて少し優しいと思わないでもなくて。

 さて、ようやく落ち着いた様子で、チワワも少年から離れる。そして、頭をわしゃわしゃと撫でた。

 なんか……ちょっと微笑ましい。なんか……主人とペットというより、兄貴と弟みたいだ。

 

「ふふ、仲良しなんだね……」

「今のやりとりの何処でそれを……こいつ、うちで俺にだけこうやって牙を剥くんだぜ」

「ほわ? 懐かれてるんじゃないの……?」

「何処がだよ。サンジとゾロだって、アレ仲間という意識はあるからお互いにフォローし合うし、嫌悪感ばちばちだし、いちいち喧嘩するけれど、基本はお互い嫌いだからねアレ」

「じゃあ……君はこの子のこと嫌いなの?」

「……」

 

 黙って顔を赤らめながらそっぽを向いた。あ、この子素直で可愛いかも、なんて思ってしまった。同じユニットにいる、口下手だけど観察してみれば態度に出ている子とそっくりだ。

 

「あの……私、櫻木真乃って言います。あなたは?」

「俺? 俺は……そうだな。マーシャル・D・ティーチ」

「ほわっ……が、外国の方だったんですね。日本語お上手です」

「あれ、信じた?」

 

 すごく日本人っぽい顔をしている。とりあえず……なんて呼べば良いだろうか? 

 

「ティーチさん、で良いですか?」

「あ、あー……うん、それで良いや」

「このワンちゃんはなんて言うお名前なんですか?」

「こいつ? 赤犬」

「……赤くないよ?」

 

 ていうか、名前に「犬」が入っている犬って斬新な気がする。どういう想いを込めてつけた名前なのだろうか? 

 

「違う違う。赤犬ってワンピワースのキャラの名前。いや名前でもないけど」

「ワンピース?」

「……え、知らない? 宇宙で一番面白い漫画」

 

 とんでもないスケールで言い切った。つまり、ワンピースが好きなのだろう。

 ちなみに、真乃だって名前くらい知っている。

 

「ワンピースの……どんなキャラクターなの?」

「そうだな……厳格な正義の執行者、と言った感じか。ああいう人が一人はいないと組織は成り立たないんじゃないかな、という象徴とも言える」

「ほわっ……なんか、すごそうな人だねっ」

「勿論、すごいとも。我が家の人間はワンピースの為なら仕事も学校もサボるバカが多いからな。そんな自分達の自堕落さを取り締まる役割を担うという赤犬だ」

「……」

 

 えっ、それ犬にお願いしちゃうの? どんな家族? と思ってしまったけれど、何も言わないでおく。それに、たまに真乃も目覚ましをかけ忘れてピーちゃんに起こしてもらう事もある。

 

「すごい子だね、赤犬ちゃん」

「オスだよこいつ」

「あ、赤犬くん」

 

 細かいな、と思いながらも訂正に従っておく。

 すると、ティーチは今度、真乃の頭の上のピーちゃんを眺めた。

 

「そっちのは……青キジ?」

「ほわ? キジじゃないよ?」

「じゃあ……カルー?」

「いや、ちがうよ」

「あ、分かった。マルコか。あ、それともペル? ラフィットの説もあるか」

「待って。お願いだから待って」

「え、もしかしてトリノ王国の鳥? それはちょっとマニアック過ぎるよ〜」

「この子はピーちゃんだよ」

 

 聞いてくれないってことを薄々敏感に感じ取った真乃は、笑顔で訂正せずに紹介した。

 

「櫻木家でその子はなんの役割を担ってるの?」

「いや、そういう役割はないけれど……」

「『俺はまだ、自分の役割を分っちゃいねェが……!』ってこと? やっぱマルコじゃん」

「強いて言うなら、癒しの役割かな……」

「つまり……船医か。さらにマルコじゃん。すごいなーお前」

 

 なんかよく分からないけれど、ピーちゃんを褒めてくれたのだから悪い気はしない。

 それよりも気になるのはマルコの方だ。ワンピースのことは分からないけれど、どんなキャラなのだろう? 

 

「そのマルコさんって、どんな人なの?」

「ん、画像見る?」

「あ、う、うん」

「ちょい待ち……」

 

 名前的に可愛い人だし、女の子なのかな。と思っていると、その子は何故かスマホで画像検索ではなく鞄の中からカードケースを取り出した。

 そして、カードを何枚か漁った後、一枚のカードを見せてくる。

 

「これ」

「ほわっ……ほわ?」

 

 見せられたのは、パイナップルみたいな頭の男の人。両手が青い炎になっており、どう見ても白い鳩のピーちゃんではない。一ミリも被っている部位がない。

 

「あの……この人の何処がピーちゃんなの?」

「癒しなんでしょ?」

「え……この人の何処に癒しが……」

「馬鹿野郎、この人すげぇんだぞ」

「ど、どういう風に?」

 

 聞いてみると、その少年の瞳がキラリと光る。そして、その場でしゃがみ込むと、木の枝で絵を描き始めた。

 

「まず、マルコの説明からな」

「え? あ、うん」

「マルコ。通称『不死鳥マルコ』。トリトリの実モデルフェニックス」

「トリトリ? ゴムゴムみたいな?」

「そうそう。悪魔の実って言って、食べるとくぞ不味いけど特別な力が得られる実のこと。トリトリの実って言うからには鳥になれるわけだ」

「すごいな……私もトリトリの実を食べて、ピーちゃんとお話ししてみたいな……」

「え? ……あ、それいけんのかな……チョッパーもヒトヒト食って喋れるようになってたしな……」

 

 なんか考察が始まってしまったが、チョッパーの名前も真乃は知っている。有名だから。あの可愛いトナカイは真乃も好きではある。

 

「チョッパーって……あの、可愛い子だよね。赤い帽子の」

「そうそう。……あ、マルコとチョッパーは手を組んで戦ったこともあんだぞ」

「え、そうなの?」

「マルコは不死鳥だって言ったろ? 再生する炎を扱えるからそれを利用して船医をやってたんだけど、チョッパーも麦わら海賊団の船医だからそれで。敵がウイルスを利用して攻撃して来るから、チョッパーがそのウイルスに対抗する薬を作る間にマルコはそのウイルスの症状を止めてたんだ」

「へ〜、すごいね」

 

 本当にすごい。どんな戦況なのかはいまいち分からないけれど、医者ならではのコンビだった、という事だろう。そもそもチョッパーが船医であることを知らなかった事は差し置いて。

 

「とにかく、マルコは今言った通り不死鳥の能力を利用した船医。その上、強くて、仲間のサポートという点ではワンピースでは最高クラス。再生する能力によって自らの体を盾にして仲間を守り、飛行を活かした高機動による偵察と一方的な奇襲、その上で味方の治療もこなせる万能型」

「はづきさ……じゃない、事務員さんみたいなもの、なのかな?」

「そうなんじゃね? 知らんけど」

 

 自分が所属する283プロダクションの事務員、七草はづきを思い出す。プロデューサーの手伝いだけでなく、アイドル達へのサポートは普通のレベルではなく、犬のお世話から虫の処理までなんでもござれだ。

 ……そう思うとつまり……「マルコ=ピーちゃん+七草はづき」ということになる……? 

 なんだか、少しずつマルコに興味が湧いてきた。

 

「あ、あの……マルコって人、ワンピースでいつ頃出てくる?」

「25巻。……え、もしかしてワンピースに興味出てきた?」

「う、うん……」

 

 ワンピースというよりマルコにだが、まぁ似たようなものだろう。

 とはいえ、あの漫画は確か最近になって100巻を超えたと聞く。それを全部読むのは少ししんどい……と、思わないでもない。

 特に、今はアイドルをやっているし……なんて思っている時だった。

 

「じゃあ、ちょっとおいで」

「? 何?」

「ほい」

 

 すると、手渡されたのはイヤホンの片方。つけろ、と言うことだろう。そのイヤホンが繋がっているのはティーチのスマホ。

 

「今から30分くらい平気か?」

「え? うん」

「じゃあ、とりあえず1話だけ見ようぜ。アニメの」

 

 そう言いながら起動されたア○ゾンプライムビデオ。今からアニメを見るらしい。

 まぁ、今日は天気が良いし別に用事があるわけでもないから構わないけれど……でも、ピーちゃんとのお散歩の最中。退屈しないかな? と思っていると、いつの間にかピーちゃんは赤犬と遊んでいた。可愛い。

 それならば少しは時間は空くか、と思い、笑顔で頷いた。

 

「じゃあ……少しだけ見てみようかな……?」

「よっしゃ!」

 

 とはいえ……男の子とイヤホンを共有できるほどの距離に近付くのは少し気恥ずかしいけど……と、少し複雑に思いながら、イヤホンを借りた。

 第一話が始まり、オープニングテーマが流れる。

 

「ほわっ……この曲、知ってる」

「有名だからな。いまだに映画で流れたりすんだぜ」

「へ〜……」

 

 それは凄いことなのかは分からないが、まぁすごいことなのだろう。ワンピースのアニメは自分達が生まれる前からやっているものだから。

 

「じ、じゃあ、ティーチさんはカラオケとかで歌ったりとかしてるの?」

「いやいや、俺音痴だからカラオケとか行かなくてさー」

「そうなんだ……」

 

 そういえば、この公園に来るまでの間にも何か歌っていたが、どちらかと言うと騒音だった。

 

「あ、てか、櫻木歌上手だよね」

「え、い、いつ聞いたの?」

「ここ来る前。誰か歌ってたなーって。周りの鳩とかすごく聞いてたじゃん」

「あ、あはは……恥ずかしいな……」

 

 聞かれてたとは……ていうか、あの騒音を発しておいてよくこっちの声が聞こえたものだ。

 

「櫻木が歌ってよ。ウィーアーでもBelieveでも新時代でも」

「えっ、わ、私? それ、どんな曲なの?」

「ごめん、アニメ始まる」

 

 そう言う通りオープニングが終わり、始まった。

 

 〜1時間後〜

 

「次、次のお話……!」

「いや、4話までにしておいた方が良い。5話以降は続き物の話がいくつか始まる」

「じ、じゃあオープニングとエンディングだけ……!」

「それ全部じゃん」

 

 ハマった。

 

 ×××

 

 お休みの1週間が終わり、283事務所においてイルミネーションスターズの三人は集っていた。……のだが、今日は何故だかシンっとしている。

 三人ともソワソワしているというか、目が泳いでいる。若干、頬を赤らめながら、周囲を見回して、お互いの動きを牽制・観察し合いながら、隙を窺う。まるで侍が三つ巴で対峙しているかのように。

 ……何を、そんなに緊張しているのか? それは一つしかない。

 

『他の二人はワンピース好きなのかな……』

 

 であった。

 だが、女子高生がワンピースはおかしい気もする。自分がおかしいと思われるのは構わないが、そんな話をすれば「え、そんな漫画の話別に興味ないんだけど。まだ続くの?」とか思われてもおかしくない。

 つまり……ここをしくじれば、今後のコミュニケーションに関わるかもしれない。

 そんな時のために、灯織は一つ秘策を用意していた。それは……鞄に付けているルフィとシャンクスのストラップである。

 

「……」

 

 だが、誰も触れない。触れてくれない。少し、シャンクスはマニアックすぎただろうか? 

 しかし……真乃もめぐるも気が付いていた。「あ、あれルフィとシャンクスだ」と。

 実際、シャンクスはワンピースを知らない人でも顔は分かるかもしれないが、名前は知られていないこともある。めざましジャンケンには出ていたが。

 なので「あ、ルフィとシャンクス!」なんて言ってしまえば速攻でオタクがバレるかもしれない。

 その為、二人とも口を紡ぎながら、様子を伺う。結果、灯織はしれっとルフィとシャンクスをはずした。

 その一方で、真乃にも作戦があった。それは……ワンピースのオープニングを口ずさむことだ。

 たまに事務所で鼻歌を歌っていることもあり、不自然ではないだろう。

 

「こほん」

 

 咳払いをして、作戦決行。選んだ曲は「ココロ○ちず」。

 

「〜♪」

 

 鼻歌で歌い始めた。

 それに、灯織とめぐるはすぐに気がついた。これは……ワンピースのエンディング。聞いたことはある気がする。……でも、残念ながら、二人とも単行本派で細かく知らなかった。鼻歌なら尚更だ。

 反応しづらい。そして、反応したとしても「え、こいつ思った以上にワンピースオタクなの?」となる。

 当然、反応してくれると思った真乃は「あれ?」と小首を傾げる。二人とも、気付いていない? と少し声を大きくしようとした時だ。

 

「真乃、ご機嫌だね。何かあったの?」

 

 めぐるが触れると、真乃は頭の中で「ほわっ?」と小首をかしげる。おかしい。リアクションが思っていたのと違う。計画では「あ、ワンピース!」となるはずだった。

 

「え? あ、う、うん……ちょっとね」

「そ、その曲聞いたことあるなー。なんだっけ?」

 

 めぐるなりに拾ったつもりだった。知ったかぶりすると悪いのは分かっているから。

 しかし、真乃にとっては「あれ、そんなものだったの?」と言う感じ。

 

「……え、えと……わ、私も聞いたことあるなって……」

 

 その一言はミスだった。逆にめぐるにとってみれば「あ、やっぱ知らずに歌ってたんだ」と言わんばかりである。

 

「そ、そうなんだ……」

「……う、うん……」

 

 ……何一つ険悪な空気は出ていないのに気まずかった。

 そんな時だった。めぐるが、意を決したように「よしっ」と呟いた。何を決心したのか? そんなの決まっている。思い切って、ワンピースの話題を切り出すことだ。

 そもそも、そんなに悩む事でもない。好きなものは好き、それにおかしな事はないし、好きなものは誰かと一緒に語りたいのは当たり前だ。

 

「ねぇ、二人とも!」

「「は、はいっ?」」

「ワンピースって知ってる⁉︎」

 

 今までの攻防を台無しになるかもしれない強烈な一撃。リュウグウ王国でなんか知らんけど閻魔を持っていたゾロがヒョウゾウ相手に飛龍侍極を撃っちゃって勢い余ってシャボンを割っちゃったくらい台無しになるかもしれない一撃。

 それに対し、灯織は……ストラップを鞄からとってしまったので気付かれていたと思うと「なんで鞄からストラップ取ったの?」ってなるのが怖かった。

 そして、真乃としては……「じゃあさっきの曲普通に知ってたんじゃない?」となるのが怖かった。

 故に……。

 

「「し、知らない! 聞いたこともない!」」

「あ……そ、そっか……」

 

 結局、ワンピースの話をすることは、その日には無かった。

 

 ×××

 

 こうなったら、もうあの少年と語るしかない、そう思った灯織は決意した。もうワンピース語りをするにはあの少年をもう一度探すしかない。この前の話的にめぐるはワンピースについて知っているような空気は出していたが、みんなの前で「知らない!」と言ってしまった以上は下手に話題に出すことはできないだろう。

 その為、イルミネ以外で仲間を作らなければならない。

 だが、あの少年の名前も連絡先も知らない以上、簡単には見つからないだろう。

 だからこそ、作戦がある。その名も「ビブルカード作戦」だ。

 ワンピースの世界には「ビブルカード」という不思議な紙がある。持ち主のDNAを配合させた紙のことで、それを置くことでふわりと浮き上がり、その持ち主がいる方向を指し示してくれるものだ。

 そして、世の中にはワンピースカードというものがある。あの少年も持っているものだ。大会などにも参加しているらしい。

 なので……灯織もワンピースカードを始めて大会に出れば、いずれ強者同士引き合わされることだろう。

 

「よしっ……!」

 

 そんなわけで、ワンピースカードを買うことにしたのだ。今日は早速、ワンピースカードの公式ショップに来たわけだ。

 ワンピースカードに関係する物しか置いていない店だから、棚も少ない。ざっと見た感じ、スターターデッキ、ブースターパック、スリーブ、デッキケース、ストレージボックスがある。

 デッキは構築済みのもので、初心者が始めるに一番最初に買うべきものなのだろう。

 パックは、そのデッキを強化するためか、一からデッキを組むためのもの。慣れてきた頃に買うものだ。

 スリーブはカードの傷を保護するためのもの。カードショップにならば透明でシンプル故に安いスリーブが売っているらしいが、ここはワンピースカードのショップなので裏面にはワンピースのキャラクター達が載っているものだけがある。

 デッキケースはそのまんま。デッキを入れるための箱だ。これもワンピースのキャラが描かれている。

 ストレージボックスは、逆にデッキには入らなかったカードを収納するためのものだ。絵柄は言わずもがな。

 ここまで、スマホで調べて理解した。

 

「私は……やっぱりスターターデッキ、だよね」

 

 それと、スリーブとデッキケース。このお店にはワンピースカードをプレイするための席も設置されており、そっちの方で遊んでいる人達を見ると、ケースとスリーブをちゃんと用意していた。やはり、形から入るのは大事だ。

 でも、とりあえず今はシンプルで構わない。なので白い羅針盤のケースを手に取る。スリーブは……キャラクターが色々いたのでデッキを決めてからにすることにした。

 さて、大事なところだ。どのデッキにするか。

 

「うーむ……」

 

 麦わら海賊団か、王下七武海か、最悪の世代か、百獣海賊団か、ワンピースfilmか、海軍か、ビッグマム海賊団か、ヤマトデッキか、ルフィデッキか。

 ここは、灯織の目的を見失うわけにはいかない。強くなってあの少年と出会う為に始めるのだ。強いデッキを選ばないわけにはいかない。

 そんなわけで、調べ始めた。どれがおすすめなのかを。

 

「ふむふむ……」

 

 スマホで色々と調べている時だった。後ろのレジで買い物している人の声が聞こえてくる。

 

「合計で2640円でございます」

「3000円でお願いしまーす」

 

 聞き覚えあるな、と思って後ろを見ると、そこにいたのは目立つ金髪の八宮めぐる。

 

「あっ」

「? ……あっ」

 

 思わず声を上げてしまったことで振り返られてしまった。昨日の今日でまさかの顔合わせ。ワンピースカード公式ショップなだけあって、言い訳は全く出来ない。

 

「……ひ、灯織?」

「め、めぐる……」

「……」

「……」

 

 沈黙が続く。気まずい。酷く気まずい。あのコミュ力お化けのめぐるでさえ黙り込んでしまっている。

 とりあえず、めぐるは買い物を済ませなければならない。お釣りをもらって袋に入れてもらって手に取り、レジから外れてこちらに来た。

 

「ひ、灯織も来てたんだ……」

「う、うん……す、好きなんだ、ワンピース……」

「そ、そっか……」

「うん……」

「……」

「……」

 

 気まずい……何がって、知らないとまで言ってしまったのにカードゲームにさえ手を伸ばしてしまっているからだ。

 どうしよう、でも逃げたらそれはそれで今後の関係に響きそうだし……なんて話していると、そこにさらに聞き覚えある声が参入してくる。

 

「ほわっ……こ、ここがワンピースカードショップ……」

 

 ほわっ、の時点で察していた。振り返ると、そこにいたのは櫻木真乃。当然、顔を合わせるなり何とも言えない表情になる。

 

「あ、ま、真乃……」

「め、めぐるちゃんと灯織ちゃん……」

「う、うん……」

「……」

「……」

「……」

 

 まるで「クリスマスには予定がある」と言ってクリスマスパーティをやらなかったのに当日、ネットカフェで顔を合わせてしまった男子高校生のような空気が流れていた。

 

 

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