イルミネ、海賊王を目指す。   作:バナハロ

6 / 11
デッキ作りに必要なのはモチベーション。

「ワンピースカードやろう!」

 

 そんな事をめぐるから言われたのは、机の上にシャーロット・アナナのミニフィギュアが置かれている日、つまり4月17日のことだった。

 真央の机の前に現れためぐるにそう言われるが……唐突な気がしないでもない。でも、唐突かどうかはどうでも良い。ワンピースカードをやる、という提案を断る理由なんかないから。

 

「良いよ。今日、うちで良いか?」

「うん!」

 

 しかし、まさか真央に挑んでくるとは……もしかしたら、デッキを変えたのだろうか? 

 

「何、デッキ組み替えたの?」

「ううん?」

「は? じゃあ何?」

「強くなるには、カードゲームを上手くなるしかないかなって思って! その為には、やっぱ何度も練習しないと!」

「……」

 

 どうやら、この前真乃だけでなく灯織にも負けて火がついたらしい。

 まぁやる気を見せてくれるのは良いし、強くなる意志があるのも嬉しい。そういう奴とやるから、ワンピースカードは面白いのだ。

 だが……ちょっとそれにも限度がある。

 

「いや、悪いけど俺とやるならもう少しデッキ強化しないと無理だよ」

「そんなの分かんないじゃん!」

「いや分かるわ。レベル的には、序盤のゾロとミホークくらい差がある」

「なおさら引けないから! 私はこれからこの胸をおもちゃに貫かれるとしても、なおさら引くわけにはいかないの!」

「いや、もう貫かれた後なのお前は。だから、そろそろ『二度と負けねェから‼︎』って言って強くなるために鍛えるパートなの」

「だから、特訓するんでしょ!」

「カードゲームの特訓は回し方の前に素材から集めないと強くならないから。使い込めばコストが下がったりパワーが上がったりするわけじゃないから」

 

 この子、熱くなりすぎて頭が悪くなったのだろうか? いや、それはこの前から薄々勘づいていた。そもそも、割と頭を使う黄色デッキはこの子には向かない。

 

「そもそも、作るデッキから考えたら?」

「な、なんでよ?」

「八宮はもう少しシンプルなデッキのが良いと思う。もしくは、逆に好きなキャラのデッキに特化するか」

「うー……」

「ていうか、強いデッキって今なら割とリーダーで全部決まっちまうからなぁ。調べりゃ分かることだけど、今だとゾロか白ひげか……あ、あとローとかカタクリ? とにかく、あんまりマムに拘らない方が良いと思う」

 

 もうデッキを買ってしまった後の人にこんなことを言うのは申し訳なかったけれど、事実なのだから仕方ない。ジンベエだってルフィに「エースは死んだ」とはっきり言った上で前を見るように言ったのだから。

 

「そういう相談なら、いつでも受け付けてやる。俺は本当に八宮がワンピースにハマってくれて嬉しいから」

「っ……あ、あのさ……」

「ん?」

 

 何故か少し頬を赤らめながら目を逸らされる。何かおかしなことを言っただろうか? 

 

「よ、よくそういうこと少しも照れないで言えるよね……?」

「? どこに照れる要素が?」

「……いや、何でもない」

 

 そんなことよりも、まずはめぐるが組むデッキについてだ。スマホでワンピースカードについて検索し、カードリストを覗く。

 範囲を絞って、リーダーカードに焦点を当てた。

 

「ほれ、見てみ」

 

 言いながら見せる。すると、めぐるは少し目を丸くした。

 

「え……こ、こんなにいるの?」

「そりゃいるよ。デッキじゃなくても組めるリーダーはいるし、それぞれ割と個性がある」

「ほぇ〜……見せて」

「良いけど、ネタバレとかあるから気をつけろ。……や、マムのデッキ組んだ時点で手遅れ感はあるけど」

「大丈夫。新しいキャラ出てきすぎても逆に訳わからないから」

 

 それはそうかもしれない。今のめぐるがルナーリア族だの天竜人だの言われてもピンと来ないだろう。

 真央のスマホを操作しつつ眺めながら、めぐるはリーダーに最適なカードを探す。

 

「うーん……色々いるね、ホントに。……あ、このゾロが?」

「そう。強い奴。効果読んでみ?」

 

 リーダーのゾロ。色は赤、効果は自分のターン中、ドン‼︎カードを1枚つけておくだけで味方全体のパワーが1000上がること。シンプルに鬱陶しい。

 だが、めぐるはイマイチピンと来ていない様子で小首を傾げている。

 

「……これ強いの?」

「パワーが1000上がるってのはな、リーダーにとってすごく鬱陶しい事なんだよ。リーダーのパワーは大抵が5000。場にパワー5000のキャラがいれば6000で襲いかかって来る……つまり、カウンターするには1000のキャラ2枚か、2000のキャラ1枚使わないといけないし、そうでなくてもパワー4000のキャラはドン‼︎なしで斬り掛かってくる」

 

 言われためぐるは腕を組んで想像する。

 昨日、真乃の場にはルフィ、サンジ、ナミがいた。ナミはおそらく動かないとして、ルフィは7000になるし、サンジも5000。リーダーのゾロ自身だってドン‼︎がついているから6000。

 それが自分のリーダーに襲いかかって来たら……ライフも手札もいくつあっても足りない。

 

「つ、強いね……」

「だろ?」

 

 他にも強みはあるが、まぁ最初はそんなもので良いだろう。

 そのままめぐるが次に注目したのは赤緑のルフィだ。

 

「あ、ルフィのリーダー。……赤と緑?」

「2色だな」

「そういえば、この色って意味あるの? 私、よく分からないんだけど……」

「ああ……filmもマムも麦わらも単色だしな。リーダーの色のカードじゃないと使えないってこと」

「……ああ〜、なるほど。え、じゃあ2色のデッキって強くない?」

「そうな。ざっくり言うと、大体のカードは色ごとに効果の方向性みたいなものがあるんだよ」

 

 そう言いながら、わかりやすく説明するためにルーズリーフを取り出した。

 6つの色、赤、緑、青、紫、黒、黄と書いて、それらの特徴を書きながら説明する。

 

「存在するカードはこんな感じ。この中で、赤はパワーを操作するのが特徴だな。相手のパワーを下げたり、自分のパワーを上げたりして、低コストのカードでまとまってる」

「ああ〜、今のゾロみたいに?」

「そう。昨日の櫻木のデッキは特にレストのドン‼︎を使ってパワーを上げたりしてたし、そうでなくてもジンベエやサニー号みたいなバフもある」

「なるほど……」

「顕著なのが白ひげだな。SRのエースが、出て来るだけで相手のキャラ2枚までパワー3000下げるし、逆に白ひげはリーダーのパワーを2000あげる」

「つ、強くない⁉︎ 3000も2体って……!」

 

 強い。だから厄介なのだ。使っている分には楽しいが。特にリーダーの白ひげはパワー6000ある唯一の存在なので、ゴリ押しで殺せるし逆にゴリ押しはされない。

 

「これが本当に強いんだ。モビー・ディック号っつーステージカードもあんだけど、ライフ1枚以下の時に白ひげ海賊団のキャラと白ひげのパワーを軒並み2000あげる」

「2っ……ず、ズルじゃん」

「実際、今使ったらズルだからな。禁止カードになってる」

「えっ、禁止なんてあるの?」

「ある。今のところ2枚だけ」

 

 まだ始まって1年のカードゲームだから、多少バランスが崩れるのは仕方ない。

 そろそろ次の色に移ろう。

 

「次は緑。これは相手のキャラをレストにしたり、逆に自分のキャラをアクティブにさせて戦う感じだな」

「レスト……ああ、横にする奴」

「そう。昨日ので言えば、櫻木のナミだな。あいつ鬱陶しかったろ?」

「うん……何度もドン‼︎を再利用してさー……」

「あのナミを倒せなかったのは、ナミ自身がレストになることが無かったから。でも、緑のデッキなら効果であいつをレストにさせて上から轢き殺せる」

「あ……な、なるほど」

 

 強みはそれだけじゃない。レストにする、という効果は他にも使える。

 

「他にも、敵の場のブロッカーが邪魔ならレストにさせて動きを止められるし、相手が出したばかりでアタック時効果がある奴もレストさせて効果を使わせる前に殺せるし、意外と便利な感じ」

「ほえ〜……な、なるほどね」

「逆に、自分のキャラをアクティブにするのは、早い話が2回攻撃出来るってこと。アタック時効果がある奴は2回効果を使えたりもするな」

「うわー……な、なんか悪質な気もしてきた……」

「悪質だよ実際」

 

 だが、緑なんてまだ優しいものだ。悪質なデッキはまだまだある。

 次の説明は青。

 

「次、青。これは相手のキャラを手札やデッキに戻したり、自分のドローソースを増やしたりする」

「え、それ強いの?」

「めんどくせーぞこれやられると。こっちがコスト支払って出したカードが何も出来ずに手札に帰らされたりするのはマジでクソ」

「……そうかな?」

 

 ピンと来ていないが、まぁめぐるが昨日使っていたデッキにはカタクリとかキャラのリンリンみたいに登場しただけで効果を使えるキャラも多いから、ピンと来ないのも分かる。

 だが、分かりやすく面倒な奴もいるわけで。それが、9コスト9000のミホーク。

 スマホ……は今めぐるが使っているので、実物のカードを見せた。

 

「ほれ、こいつ」

「? あ、ゾロの三千世界見切った人!」

「そう、世界最強の剣士。こいつ、出て来た時に相手の7コスト以下をデッキの一番下に戻すんだよ」

 

 確かに登場時効果は使える。だが、7コストともなると中々、高火力のカードも多い。つまり、アタッカーとしても使われるのだ。

 それが、手札に返されるなら次のターンで使えるにしても、デッキの1番下。死ぬわけじゃないからKO時効果も使えない。

 

「……嫌だねなんか」

「嫌だよ」

 

 理解したらしく、うげっとげんなりした顔を浮かべる。これが本当にストレスなのだ。

 さて、次は紫。

 

「紫。これは自分のドン‼︎を増やして高カードを最短で出すか、或いはマイナスする事で強力な効果を得るデッキだな。……これは昨日、風野がやってたな」

「うん……バレットは一生のトラウマだよ……」

 

 あのデッキの切り札とも言えるダグラス・バレット。8コストパワー10000というゴリラな上に、起動メインでドン‼︎を4枚減らすことで相手のキャラのパワーを下げる上にダブルアタックをかましてくる。

 めぐるのデッキは、それはもう良いように蹂躙されていた。

 

「正直、ドン‼︎を減らすってところ以外に紫は系統があるわけじゃない。相手のキャラをレストにしたり、KOしたり、ドン‼︎を減らさせたり、何でもできる。応用の幅が一番広いデッキかもな。ただ、ふざけてるとドン‼︎がいつのまにかめっちゃ減ってたりするから、そこは匙加減を利かせないと」

「えっ、そうなの? 灯織、昨日全然減ってなかったじゃん」

「上手く使ってたんだろ」

 

 そう言うとおり灯織の動きは中々、上手かった。事前にデッキのカードの特徴を掴んでおいて、バレットを切り札と決めるとドン‼︎の加速を重点において可能な限りドン‼︎を減らさないように立ち回り、最後に切り札を出して一気に制圧する。

 ……どちらかというと、真央としては灯織と戦うのが楽しみだったりする。

 

「よし、次は黒な。これ、俺の中では一番、悪質なデッキ」

「どういう事?」

「コストの操作だ」

 

 一見、あまり強そうな効果ではない。コスト? 下げたから何なの? と、真央も思っていた。

 

「それ意味あるの?」

「これがエゲツない真似してくるんだよな……まぁ、見た方が早いか」

 

 そう言うと、また鞄の中からデッキケースを漁る。

 

「あの、デッキいくつ入ってるの?」

「11」

「……なんで?」

「一緒にいる事でデッキと仲良くなり、欲しいカードを欲しい時にドローさせてくれるかもしれんだろ」

 

 そういうの大事である。ボールは友達とか言うセリフの気持ちがよくわかるのだ。まぁ欲しいカードをドローできたことは4割というところだが。

 

「……私も持ち歩こうかな」

「そうしろそうしろ。それに、常に持っておけば俺といつでも戦えるぞ」

「うん。そうする」

 

 話しながら、真央はケースから2枚のカードを取り出した。モンキー・D・ガープと書かれたカードとクザンと書かれたカード。

 

「ガープの効果読んでみ」

「うん。……えーっと『自分の手札1枚を捨て、このキャラをレストにできる:相手のコスト4以下のキャラ1枚までを、KOする』?」

「そう。で、次にクザン」

「あー『【登場時】カード1枚を引く。【アタック時】相手のキャラ1枚までを、このターン中、コスト-4』ん?」

「はい、これで8コス以下KO確定」

「……えっ? ズルくない?」

 

 ズルい。実際、これやられるとムカつく。恐ろしいのが、これクザンはクザンじゃなくても良いところだ。コストが下げられれば何でも良いのだから。

 

「そういうデッキなんだよ。黒のカード、多いのは海軍だろ? 卑怯な手段ばかり使う所が見え隠れしてるよね」

「……あ、ホントだ! ネズミ大佐とかフルボディ大尉とかモーガン大佐とかホント卑怯な真似ばかりしてたのってこういうこと⁉︎」

「いやそれは逆。そういう卑怯な連中が多いから黒は卑怯なの」

 

 先に出たのは原作なので、そこはおさえなくては。

 実際、頂上戦争でさえ正面からはぶつからず包囲壁とかスクアードの操作とか大分コスい真似をしていた。

 

「じゃあ私、黒は組まない。今の所海軍に良い点ないんだもん。ケムリンくらい?」

「どこまで読んだっけ?」

「昨日、ノロノロビームの人と戦ってるとこ」

「あーそう。じゃあそういう印象になるわな」

 

 まぁ何にしても、組まないなら良いだろう。最後だ。

 

「で、最後の黄色。これは使ってたからわかるな?」

「うん。ライフの操作」

「そういうこと」

 

 これだけ説明したし、あとはめぐるの好きにすれば良いだろう。

 

「色々と説明したけど、後はお前の好み次第だから。結局、リーダーも好きなキャラで組むのが一番良いと思う」

「そっかー……そう言われても、結構知らないキャラが多くて……」

 

 呟きながら、真央のスマホを操作している時だった。めぐるが「あっ」と声を漏らす。

 

「どうした?」

「ナミがリーダーのデッキなんてあるんだ……」

「あるよ」

 

 ただ、かなりピーキーだ。リーダー効果は『ルール上、自分のデッキが0枚になった場合、自分は敗北する代わりに勝利する。【ドン!! ×1】このリーダーのアタックによって、相手のライフにダメージを与えた時、自分のデッキの上から1枚をトラッシュに置いてもよい』というもの。

 つまり、初心者が手を出すべきでは絶対にない。何せ、ルールそのものを変更してしまうようなデッキだから。……値段は手頃に作れるけれど。

 だが、めぐるの瞳は爛々としている。

 

「私これにする!」

「……」

 

 だが……この子のナミ推しは知っていた。だから、こうなることも想像できなかったわけではない。

 しかし……最初からナミのデッキを作るとなると、他のデッキを使いたくなった時にルールとか把握するのに苦労しそうだが……。

 

「どんなカード入れたら良いか教えてよ!」

 

 ……まぁ、本人が楽しそうにしているし、強いデッキではあるし、何より好きにした方が良い。ルフィもよく言っているが、一番自由な奴が海賊なのだ。

 

「分かった。帰りにカード屋寄るか」

「よーし、行こ……あ、ごめん。今日は無理」

「? なんで?」

「ちょっと用事あって。明後日くらいでも平気?」

「あそう。別に良いけど」

 

 残念だけど、致し方なし。じゃあ明後日に、カードを買いに行くことにしよう。

 

 ×××

 

 レッスンが終わった。運動神経抜群なだけあって、ダンスの覚えもキレもイルミネーションスターズの中ではピカイチ。今日も絶好調だった。

 ……なので、当然仲間が少し苦労していたら手伝ってあげるくらいのことはする。

 

「そうそう、灯織。良くなったよ!」

「はぁっ、はぁっ……あ、ありがとう」

 

 二人で居残りの自主練をしている。正確に言えば、ダンスのコツのようなものを教えてあげていた。真乃はピーちゃんの餌を買って帰らないといけないので先に帰宅してしまった。

 

「じゃあ、今日はここまでね」

「もう少しできるよ……!」

「休むのも練習だよ、灯織。中学の時、部活やってる子が無理して頑張って怪我したなんて話、結構聞いたんだから」

「っ、そ、そっか……」

「またいつでも付き合うから、その時は声かけてよ」

「う、うん……ありがと」

 

 頑張りすぎちゃうのが灯織の良いところでもあり、悪いところでもあるのだろう。真面目過ぎる事もあって、出来ないところとかがあると出来るようになるまでやり込んでしまう。

 結構、汗をかいたのだが、今日は早めに帰らないといけない。何故なら、夕食が唐揚げだからだ。

 そのまま更衣室に入り、着替え始める。

 

「ごめんね、めぐる。遅くまで」

「気にしないで。同じユニットの仲間なんだから」

「うん……私、真乃みたいに歌上手くないし、めぐるみたいにダンスも上手くないから、もっと頑張らないと」

 

 やはり、不安だ。このままだと家でも練習してしまいそうな気がする。今日だって、忘れ物のタオルを取りに戻っためぐるが偶々、こっそりと居残りしている灯織を見つけてそのまま2人で自主練する流れになっただけだし。

 ここは一つ……これで縮めるしかない。そう、ハグだ。

 

「灯織」

「ん?」

「ぎゅーっ!」

「マントラ」

「えっ……よ、避けた?」

 

 まさかの回避である。わざわざエネルみたいなことして。

 

「いや、なんか気配を感じて……」

「ここはハグの場面だよ!」

「え、いやなんで?」

「だ、だって……えっとー……」

 

 諭そうとしたのだが……確かに、ハグである必要を論理的に説明しろと言われると困る。ていうか、2〜3週間前よりはマシになったものの、灯織はいまだにめぐるとのハグを避けるのは何故なのだろうか? そんなに嫌なのか。

 いや、今はそれよりも灯織のことだ。ハグがダメならば、他の説得の方法を考えなければ。

 どう言おうかちょっと考えた後、頭に浮かんだのは、ワンピースの1シーン。そうだ、自分の好きなアーロンパーク編のあそこで行こう。

 

「わ、私は剣術を使えねェんだコノヤロー‼︎」

「……剣道やったことある人だけじゃないのそれ?」

 

 ……それはそう。誰でも基本出来ないことではなく、誰でも出来るけどめぐるは出来ないことで言わないと意味がなさそうだ。

 

「勉強も苦手だし‼︎ 料理も作れねェし‼︎ あーえっと……ひ、人との距離感も間違える‼︎」

「……」

 

 この子は何を言い出すんだろう、という顔をされてしまう。が、その灯織も何かピンと来たように答えた。

 

「し、シャハハハハ‼︎ てめっ、自ぶっ……てめェの不甲斐無さを全肯定とは歯切れの良いおと……女だ‼︎ てめェみてェな無能な男を船長に持つ仲間達はさぞ迷惑してるんだろう。なぜ、てめェの仲間は必死に助けたんだかなァ……」

 

 少し照れながらも真似をしてくれる。ちょいちょい良い子が見え隠れしていたりするあたりは本当に可愛いけれど、そもそもごっこ遊びがしたいんじゃない。

 

「ごめん、アーロンパーク編ごっこがしたいんじゃなくてね」

「え? ……ご、ごめん……!」

 

 顔を真っ赤にして俯かせてしまった。なんか悪いことした気がしないでもないが、そのまま続けた。

 

「えっと、要するに……私が助けて欲しい時は灯織を頼るから、灯織も私を頼ってよ。麦わらの一味みたいに、一人の足りないところを三人で補い合うようなチームになりたいなって」

「……」

 

 そう言うと、灯織は少し黙り込む。やがて、ちょっと目を逸らした後、小さくため息をついた。

 

「はぁ……分かった。ごめん。今日は帰った後も休む」

「あー、やっぱり自主練するつもりだった?」

「分かってたの?」

「えへへ、なんとなく」

 

 言うと、頬を赤らめて目を逸らされる。ヤバい、やっぱりこの子かわいい。萌が頂点に達し、思わず両手を広げてしまった。

 

「灯織ー!」

「ゴムゴムの、盾」

「むにゅっ!」

 

 両手を組んで顔を押さえられてしまった。ひどい。あまりにもひどい。

 

「早く着替えて帰ろう」

「う〜……」

 

 とのことで、改めて着替えを始める。そんな中、スマホが震えた。画面にメッセージが届く。真央からだ。

 

「あ、真央からだ」

「日吉くん?」

「そう。……え、今から?」

 

 内容は「今からそっちの最寄りの改札まで来れる?」だそうだ。まぁどうせこれから帰るから行けるが……何か用事だろうか? 

 

「会うの?」

「うーん……まぁいっか。どうせ帰り道だし」

「……大丈夫なの?」

「? 何が?」

 

 灯織が少し心配そうな顔で声を掛けてくる。

 

「だって……友達とは言っても男の子でしょ? こんな時間に会うなんて……」

 

 何せ、時刻は20時を回っている。高校生ならそれくらい普通かもしれないが、それでも今から遊ぶには遅過ぎる。

 

「大丈夫だよー。あの子、別に変なことするような子じゃないし」

「いや、変なことはするでしょ……変なことも言うし……ただでさえ、めぐると変に距離近いのに……」

「そんなに心配なら一緒に来る? ていうか、うちでご飯食べてく? 今日唐揚げだし」

「えっ……あ、あー……」

 

 少し迷った灯織はちょっとだけ唸った後、すぐに頷いた。

 

「あ、でも男の子と会うならシャワーくらい浴びたいかも」

「大丈夫だって。スプレーしておけば」

 

 そのまま二人で事務所を出た。

 

 ×××

 

「真央ー!」

 

 声を掛けた直後だ。改札前にいる男の子にしては背が低い少年は、邪悪そうで不敵な笑みを浮かべると、渋い声を無理やり絞り出して告げた。

 

「きたか、めぐる」

「きたよー」

「おい、みんな‼︎ 飲むぞっ‼︎ 宴だァっ‼︎」

 

 すぐにピンと来た。ここ、久方ぶりにシャンクスが出たシーンだ。ならば乗るしかない。

 

「飲むってあんた今、飲みすぎて苦しんでた所じゃねェか‼︎」

「ばかやろっ‼︎ こんな楽しい日に飲まずにいられるか‼︎ 鷹の目、お前も飲んでけ‼︎ なっ‼︎」

 

 最後のは灯織に向けて言いながら、オ○ナミンCを手渡した2本持っていて、もう1本はめぐるに渡す。

 

「あ、ありがとう……?」

「買っておいてくれたの?」

「いや家にいるもんだと思ってたから、わざわざここまで呼び出して何も用意しないのは悪いなって思ってたんだけど……まさかのホームから来るとは。2人で遊んでたの?」

「あ、あー……うん。そんなとこ」

「ていうか、それならもう一本、日吉くんのなんじゃ……」

「いや、すぐ帰るから気にすんな」

 

 意外とそういう空気読める奴なのだ。空気読まずにワンピースネタをぶっ込んで来る癖にこういうとこあるから、絡んでいて全く疲れない。

 

「でも、風野来ると思ってなかったから、何も用意してないんだけど……」

「? 何もって?」

「いや、これ八宮に渡そうと思ってて」

 

 そう言うと、コホンと真央は咳払いする。そして……腕を組んでまっすぐな目をしてめぐるを見据えて言った。

 

「レアリティはパラレル、種類はリーダー、青属性現状最強のナミ。うちは大した店って言うか店でさえねェが、これが俺の最高のカードだ。金はいい、もらってやってくれ‼︎」

 

 そう言いながら差し出されたのは、一枚のワンピースカード。裏面は赤色。受け取って表に返すと……そこには、白黒で髪だけオレンジに塗られたナミが描かれていた。

 

「わっ……か、カッコ良い! くれるの⁉︎」

「もらってやってくれ‼︎(2回目)」

「ありがとー!」

「えっ、い、いや待った待った!」

 

 慌てて灯織が間に入る。その表情はやけに焦っていた。

 

「どうしたの?」

「これ……!」

「風野」

 

 何か言おうとした灯織だが、それを真央が止める。その眼光は心なしか少し鋭く見えた。

 

「? どうしたの?」

「や、なんでもない。うちに余ってた奴だから遠慮するな。青ナミデッキ作るって言ってたからあげるだけだし」

「ありがと。いやー、真央超良い奴だねー。ね? 灯織?」

 

 さっきは警戒していたが、これを見ればその限りでもないだろう……と、思ったのだが、なんかやたらと焦っている様子だ。

 その灯織に、真央は続いて言った。

 

「風野も、組みたいデッキがあったら言えよ。うちにカードだいぶ余ってるから、あげられる奴はあげる」

「う、うん。考えとく」

 

 それだけ話すと、真央はそのままホームの方へ歩き始める。

 

「じゃあ、俺もう行くから」

「うん。また明日、学校でね」

「じ、じゃあね……」

「また逢おうぜ‼︎ クソ野郎ども‼︎」

 

 そのまま走って駅の方向へ行く真央の背中を眺めながら……もう一度、カードの絵柄を見る。リーダーパラレルのナミ……カッコ良いし可愛い。これは本当にデッキを作るしかない。

 

「……なんで今なんだろ。カードくらい学校で渡せば良いのに」

 

 相変わらず変な人……と言わんばかりのことを呟きながらも、とりあえず今は喜んでおく。

 

「えへへー、早く組まないとなーデッキ」

「じゃないよ、めぐる! 何かお礼しないと!」

「? 何を?」

「リーダーパラレルはすごく高いの! めぐるや私が持ってるスターターデッキがいくつも買えるくらいの金額するんだから!」

「いやいや、でもカードだよ? 大袈裟だって」

「論より証拠! 調べてみて!」

 

 言われて、めぐるは仕方なさそうにスマホを取り出す。「ナミ、リーダーパラレル、値段」で検索……してみると、思わず固まってしまった。

 トップに出てきたのは駿○屋のお値段。8640円と書かれている。

 

「……えっ」

「い、言ったでしょ⁉︎」

「い、いやいやいや、まさかでしょ。だってこれ……カードだよ? このサイトがアレなんじゃないの?」

「じゃあ他の!」

 

 続いて、メルカリ。お値段、9000円。

 

「上がった⁉︎」

「ほら、ヤバいってば……!」

「他!」

 

 慌てて別のサイト。今度は7870円……などなど、いくら探しても最低6000円のものしかない。

 これだけ高額なカード……仮に、本当に青ナミのデッキを組んでいなくて使っていなかったとしても、真央ならコレクション目的で集めていたりもするはず。

 ……つまり、余っているわけがないのだ。

 

「……明日、お礼言いな?」

「うん。そうする。ハグもする」

「いや、ハグはやめな?」

 

 そんなことを言いながら、とりあえず2人でめぐるの家に向かった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。