何で学校にわざわざ持ってきたのか、とか、その辺の諸々の事情は何となく察した。盗られる可能性があるからだ。今の時代、カードゲームのカードはなぜかやたらと高い。希少度が高いのは分かるが、そこまで欲しがるものなのだろうか?
だってこれ……ワンピースカード以外の用途がない。それなのに何故、そこまで高額になり、それを買う人間が出て来るのか。
何にしても……とりあえず、今日することは一つだ。
「何でこんな高いカードくれたの⁉︎」
「えっ、一緒にやりたいから」
「そうじゃなくて!」
一応、盗難の恐れがあるので家の引き出しの中にしまっておいたが、思わずヒョウゾウのミニフィギュアが置いてある机の主を問い詰めてしまった。
「え、てか何。値段調べたの? 売る気? 殴るよ? 天竜人みたいに」
「う、売れるわけないでしょ⁉︎ 値段は、その……灯織が高いこと知ってて、調べちゃった……」
「お前にやったんだから大事にしろよマジで」
「そうじゃなくて! いやするけど!」
傷もつけたくないし折ったりもしたくない。そのためには、何物からの干渉を受けない場所に置いておくしかない。
というか、そんなことよりも聞きたいことは別にある。
「なんでくれたの⁉︎ あれ別に余ってたってわけじゃないでしょ!」
「いや使ってないし。一回、青ナミ作ったけど動かすの難しくてやめちゃったんだよね。ワンピースのゲームなのにあんま戦わないし」
「いや使ってなくてもさ……こう、コレクションとかもしてるんでしょ?」
「まぁな」
「じゃあ……」
「え、なに。いらないの?」
「そ、そんなことないけど……高いものだし、申し訳ないよ……」
分からない人だな……と、思ったのだが、こっちも分からない。何で意外そうな顔をしているのか。
「え、申し訳ないの? 貰えるもんは貰うものでは?」
「いや程度があるよ! 流石に8000円もするものは……」
「でもほら、カードってカードゲームで使われるもんじゃん? せっかくのパラレルなのに、使わないのも勿体無いでしょ」
「……それは、まぁ……?」
「流石に俺も知らない人が相手ならあげないでコレクションするけど、高校で初めて出来た友達の八宮なら良いかなって思ったんだ」
「……」
……ちょっとキュンとした。いや、別に好きになったとかではないが、こういう直球な表現は好きだ。
「テメェに効率良くあの女を使えるか⁉︎」
「……」
すぐワンピースごっこに戻ってしまって台無しだった。まぁ……それなら使わせてもらおう。
「ありがと。じゃあ……もらうね?」
「え? ナミをもらう時はなんて言うの?」
「……ナミ‼︎ お前は俺の仲間だ‼︎」
「はい、合格」
何にしても、お礼がしたい。よくよく考えれば、めぐるにとっての高校初めての友達だって真央だ。ならば、やはりここは友達の証しをしなければならない。
そう思い、真央の机を挟んで一気にハグをした。
「ほんとにありがとね、真央ー!」
「ふぇっ」
そのままぎゅーっとしばらくしがみついた後、離れる。挨拶だしそんな長くしても仕方ない。
離れてから顔を見ると……真央は少し顔を赤くして目を丸くしていた。あれ、と意外な反応に小首を傾げる。照れてる? ……いや、それはない。この子、情緒死んでいるはずだし。多分、暑いのだろう。
「真央? 顔赤いよ? 熱ある?」
「や、ない。ないから。別に平気。大丈夫。全然大丈夫。モーマンタイ。何の問題もございません」
大丈夫ならよかった。
とりあえず、そろそろ先生が来そうなので席に戻る。これで、次にワンピースカードやる時がさらに楽しみになった。
……そうだ。せっかく仲良くなれたし、何かもう少し友達っぽくなりたい。ハグもしたし、連絡先は初日に交換したし……と、そこで思いついた。
「ね、真央」
「え? 何? 全然平気。ルフィだってハンコックとハグしてたし、ゾロだってたしぎを担いでたし、ローだって女になってたし、このくらいガチで大丈夫。何の問題もございません」
「? 何の話?」
「ワンピース」
「じゃあ一旦、置いといて一つだけお願いして良い?」
それだけ聞いておきながらも確認は取らずにそのまま言った。
「私のこと、めぐるって呼んでくれない?」
「ーっ……わ、分かった。めっ……メイナードさん」
「いやめぐる」
「めっ……メガロ」
「めーぐーるー!」
なんか顔を赤くしたまま顔を逸らされる。こいつ、無視するつもりか。ちょっと許せなかったので、立ち上がって両頬は手を伸ばす。
「私だって下の名前で呼んでるんだから良いでしょー⁉︎」
「め、メリー」
「めぐるだっては!」
「めっ……メロメロ甘風」
「なんでそんなに頑なに無視するの!」
名前を呼んでくれるまで肩を掴んでゆすったが、呼んでくれなかった。
×××
「……っていう事があったんだけど、それ以来、今日なんかずっと真央が私に対してマントラ使ってるみたいに避けてきてさー」
「ほわっ……そ、そうなんだ。なんでだろうね?」
いや、ハグしたからでしょ、と灯織はその会話を聞きながらため息を漏らす。レッスンが始まる前の時間、思わず呆れてしまう。昨日、ハグはやめておけと言ったのに……。
だが、ちょっと灯織としても肩を落としてしまう。一目瞭然の事実とはいえ、灯織には向こうからハグをして来た癖に……これはつまり、やはり胸の大きさだろう。
むすっとしてしまったので、フォローはやめておいた。
「ていうか、マントラって流行ってるのかな。灯織もやってたよね」
「私は最近、紙絵も使うようにしてる」
「何それ?」
「早く45まで読んで」
父親が買ってくれるようになり、一ヶ月ちょい。灯織の家には60巻までのワンピースがある。誰にも言っていないが、エースが死亡したところで灯織も泣いた。
「灯織、もうそんな先まで読んだんだー。良いなー」
「お父さんがたまに買ってきてくれるから……」
「私は真央の家に行かないと読めないからさー」
「えっ」
それを聞いて思わず声が漏れた。今、家って言った? と言わんばかりに。
「待って、向こうの家にも行ってるの?」
「うん。単行本読ませてもらいに、たまに」
「たまにってどれくらい?」
「まだ2回しか行ってないけど?」
いや、4月からの付き合いで既に2回も行ってれば十分だろう。灯織自身も実感させられているが、ちょっとめぐるの距離の詰め方は凄すぎる。ギア2の如き速さだ。
「良いなぁ、めぐるちゃん。真央くんと仲良しなんだ」
「うん。うちの高校で最初の友達だからね」
「私も、行ったら漫画読ませてくれるかな?」
「くれるんじゃない? 今度行ってみる?」
「いやいや、待って待って」
慌てて灯織は止める。真乃まで何を言い出すのか。
「ダメだって。男の子の部屋に簡単に遊びに行ったら」
「なんで?」
「いやなんでって……」
「ていうか、すごいんだよ。真央の部屋。ワンピースのフィギュアたくさんあって。むしろ2人に見てもらいたいもん」
「えっ、わ、私も?」
ヤバい、巻き込まれる気配がする。これでは2人を抑制させるどころの騒ぎではない。
「どんなフィギュア? ピーちゃんのフィギュアはあった?」
「マルコいたよー。しかも、メガネかけてた」
「へ〜……良いなぁ、見てみたい」
「今思うと結構、知ってるキャラいたから面白いのかも。ていうか、私ももっと漫画買おうかなー。でもカードやってるしなー」
どんどん話が進んでしまう。どうしたものか、少し悩んだ。あの子、割と変な人だけど、今のめぐるの話で「それでも男の子」であることは分かってしまった。
変なことにならなければ良いけど……と、思う中、めぐるは真乃に聞いた。
「そういえば、真乃はどうするの? デッキ」
「うーん……考え中。ピーちゃんのデッキ組みたいんだけど、まだピーちゃんが戦う所まで原作見てないから、その後にしたいなって」
「あーそっかー。そういうの割と大事だよねー」
「灯織ちゃんは何のデッキ作るの?」
「えっ?」
正直、まぁ割と何でも良い。ワンピース語りをする少年と出会うために強くなろうとして既に出会ってしまったから、頑張る理由は特にない……とはいえ、まぁこの前は楽しかった。
ワンピースカードは真乃とめぐるとも対戦したが、これが中々に戦略が大事になって来て面白い。で、肝心の戦闘はパワーアップの脳筋なのだからワンピース感もちゃんとある。
だから……まぁ、デッキは普通に作る。
「私は……そうだな。まだ考え中かな」
本当なら青紫カイドウとか考えていたのだが、決めあぐねている。何にしたら良いのかはもう少し後で良いだろう。
「灯織は、この前のシャンクスで良いんじゃない? 2デッキ買って枚数揃えれば強いじゃん」
「いや、作るならもう少し考えないと……結構、いらないカード入ってるし」
「え、そうなの? この前はあんまりそんな感じしなかったけど……」
それはそうだ。使わないカードを頭の中で断捨離し、それらはカウンター要員にするだけ。そもそも、パワー4000以下で効果がないカードなんて使ってもドン‼︎がないとダメージも与えられないのだから、出しても無駄なのだ。
そんなカードはカウンターに使い、必要なカードとその効果でコストを切るのが基礎と見た。
まぁ、つまり大したことはしていない。頭を使っているだけ。
「それは、考えてプレイしてるだけ」
「か、考えてなくて悪かったね!」
「え? あ……い、いやそんなつもりじゃ……」
「真乃〜……灯織がいじめるよ〜……」
「よ、よしよし」
真乃に甘え始めてしまった。というか、真乃に甘えるのは純粋に羨ましい。不思議なもので、灯織も真乃には後ろから飛びつきたくなるくらい距離が近くても問題がない。
そんな中、ふと灯織の脳裏に浮かんだのは、ワンピースの45巻。ウソップと麦わらの一味の出来事だ。
『ごめ────ーん‼︎』
『今更みっともねェんだけども‼︎‼︎』
『もう一度……‼︎ おれを仲間に入れてくれェ‼︎‼︎』
そう、いくら意地を張ろうとも、恥ずかしがろうとも、自分からいかないと望みは果たせないのだ。
ならば当然、灯織も……素直にならなければならない。
「ま、真乃ー!」
「ほわっ……そろそろ時間だね」
「むぎゅっ⁉︎」
「はれ……?」
レッスンの刻限が近くなり、真乃が動いたことでその隣のめぐるに抱きついてしまった。
当然、元々ハグをしたがりだっためぐるにしてみれば、むしろ灯織からしてきてくれたような感覚であって。
「っ、ひ、灯織ー! 私も灯織とハグしたかったー!」
「い、いや違っ……もぎゅっ!」
もみくちゃにされた。
しかし……このめぐるの様々な柔らかさ。女性でさえ少しドキッとするのに、これを日常的に男子が受けたらどうなってしまうのだろうか?
少し、真央が心配になりながらも、そのままレッスンを受けた。
×××
翌日、いよいよカードを買いに行く日となった。つまり、今日でめぐるの青ナミデッキを50枚揃えるつもりで来た。
真央の案内で池袋のカードショップに到着し、めぐるは二人で中に入ろうとする。
「さ、行こ? 真央」
「剃」
「……」
手を繋いで引っ張ろうとしたら、避けられた。超反応で。灯織と言い、そんなに自分は距離が近いのだろうか? と少し迷ってしまう、
でも、もしかしたら日本では近いのかも、と思うと、少し遠慮しようかな、なんて思ってしまう。
ひとまず、改めて中に入った。この建物の7階らしい。なんかちょっと古い建物で、エレベーターなんて狭いし少し変な臭いがする。
途中で止まったりしそうな気がするエレベーターで上に上がった後、目的のフロアに到着して中を見ると……。
「おお……すごっ……!」
その光景を見て、思わず声を漏らす。カードが薄いケースに入って、大量に並んでいた。まるで本屋のようにカードが並んでいた。
「カード屋って……こんな感じなんだ……なんか、THE・CARD SHOPって感じだね」
「うお、ネイティブ。英語上手っ。金髪不良の癖に」
「私の金髪は不良じゃなくてハーフだからだよ!」
「えっ、そうなの? ギャルじゃないの?」
「違うわー!」
何だこの子、失礼だ。いや、金髪ギャルならば事務所に1人いた気がしたが。
ていうか、自分がギャルかどうかなどどうでも良い。それよりも、カードの事だ。
「よーっし、じゃあ青ナミに使うカードはどのパックなの?」
「いや、パック買うの?」
「えっ、買わないの?」
「デッキを安く作るなら、バラで全部買った方が良いよ。てか俺そのつもりだったんだけど」
「えっ……デッキってパックから作るんでしょ?」
「まぁそうなんだけど……例えば、欲しいカード1枚、当たるか当たらないかわからない中身ランダムのパックを買うより、ちょい高くても一枚をピンポイントで買った方が安く済むっしょ? そういうこと」
「あー……」
なるほど、と理解した。確かに一つのデッキを組むのならば、その方が安く済むのかもしれない、が……それはそれで少し抵抗がある。
「えー……でも、一回パック買ってみたいなー」
「ていうか、俺みたいなガチ勢じゃないとパックは勿体無いよ」
「? どういうこと?」
「結局な、1パックじゃ大したもん当たらないんだよ。SR1枚確定で当たるんけでもないのに、そのSRも組むデッキに入れるカードとは限らない。それがデッキには最低でも2枚、最多で4枚必須。1ボックスに大体、SR4枚にパラレル1枚は確定とはいえ、それも使うカードであるかは不明。それなら……まぁ、普通はバラでみんな買うよね」
「い、意外と計算してる……」
この子、賢いのかバカなのか分からない。本当に不思議な奴だ。
「じゃあ……真央は買わないの? パック」
「いや? 買うけど?」
「え?」
「確率が低かろうが、引いてみせるのが浪漫だろうが」
「……」
……やっぱりバカだ。そこまで考えておきながら、それでもパックを買おうとするなんて……。
「じゃあ、私も1パックだけ買ってみたいな」
「いや、1パックはマジで無駄だって。買うならボックスにしな」
「ボックス?」
「ワンピカードの場合は1ボックス24パックでSR3〜4枚入ってるから確定で手に入るけど、1パックだと1/24の可能性でしか手に入らないから勿体無いよ」
「ロマン!」
「いや上げられる可能性は上げろよ……人の夢を語りつつもヤミヤミの実を手に入れる確率上げるために白ひげの船に乗ってたティーチの計算高さを見習えバカめ」
……それはまぁそうかも……と、思い、仕方ないのでめぐるはため息をついた。
「分かったよ……ていうか、1ボックスっていくら?」
「青ナミのパック買うなら5280円」
「うぇっ⁉︎ い、意外とする⁉︎」
「そりゃするよ。1パック220円だし」
「ていうかそれより高いナミのパラレルって何なの⁉︎」
「カートンで買っても手に入るとは限らないカードだからな。確実に手に入れるなら6000〜8000円くらい安いもんだろ」
「……」
カードゲーマー怖い、と思わないでもない。それと同時に、そんな貴重なものをくれた目の前の少年には改めて感謝しなければならない。その感謝を伝える一番の方法は、やはり強力なナミデッキを作ることだろう。
「私、頑張るからね!」
「おう。まぁ、箱を買うなら多分、ここ売ってないよ」
「え?」
「ワンピースカード人気だから、パックなんて滅多に売ってねーのよ。……あ、ほら。売り切れだって」
そう言いながら、真央は新品のカードパックの見本が下がっている場所を指差す。
「……そ、そんなに買えないの……?」
「見ての通りだろ。カードショップに来ると世の中不景気とかちょっと信じらんないよね」
「そ、そうだね……」
なんかもう今日は色々とカルチャーショックが凄すぎる。日本に住んでいるのに日本との文化の違いを味合わされている気分だった。
「一応、調べてみるけど、多分新品の箱は無……あ」
そう呟きながら真央はスマホをいじりつつ、声を漏らす。そして、何を思ったのか、スマホをポケットにしまってめぐるの方に歩いてくる。
「っ、ど、どうしたの?」
「来い」
「え、いや、あの……」
「良いから」
ぐいっと腕を掴まれて引っ張られる。て言うか、意外と男の子だからか力強い。決して体幹が弱いわけではないめぐるが引っ張られてしまう。
少し驚かされたが、エレベーターに乗った時点で手を離されたのでめぐるもちょっとだけ一息つく。
「ど、どうしたの?」
「ワンピースカード公式ショップで、強大な敵売ってる」
「分かるの?」
「サイト調べりゃ一発」
そう言いながらスマホを見せてくれる。ブースターパック第一弾である「ROMANCE DAWN」と第二弾の「頂上決戦」には線入っているのに第三弾の「強大な敵」には入っていない。つまり、あると言うことだ。
「急ごう。いつ無くなるか分からない」
「う、うん……あの、そんなにシビアなの?」
「バッカお前、俺でも調べられるってことは他の奴らでも調べられることなんだよ。お宝の噂を聞きつけて海賊万博に集まった超新星達の激戦を忘れたのかお前」
「まだその話見てない」
「ごめん」
まぁでも、とにかく急ぐ必要があるのは分かった。1Fに到着した直後、めぐるは走り出す。
「よし、行こう!」
「っ、お、おう……⁉︎」
それに合わせて真央も走り出した。人混みを華麗に避けて公式ショップに向かう。前、デッキを買いに行って良かった。道が分かる。
まるで、バスケの試合中のように人を避けて走る中、エスカレーターに到着。
「ふぅ……」
「お前……店内では走るなよ……?」
「あ、うん……流石に分かってる」
ていうか、今のを普通についてきた真央ももしかしたら運動とか得意なのかもしれない。
「あの、真央って運動得意なの?」
「身体は鍛えてるよ。いつルフィからスカウトされても良いように」
「そ、そうなんだ……」
まぁ、目的は何にしても身体を鍛えるのは良い事だ。じゃあ……もしかしたら、ワンピースカード以外でも一緒に遊んだりできるかも? バスケでもテニスでも、めぐるはスポーツが好きだ。
「じゃあ、バスケとかする?」
「いやー、球技は苦手なんだよね。運動神経は昔から悪くて。小学生に陸上競技大会ってイベントあったんだけど、ハードル走で足引っ掛けて顔から転んで目の下に傷痕残ったくらいだから」
「えっ、だ、大丈夫だったの⁉︎ ……ていうか、傷痕何処?」
「ほらここ」
「あ、ほんとだ。今気付いた。……ルフィみたい」
「カッコ良いでしょ」
「うん……いや、怪我の痕は自慢しちゃダメだよ!」
この子はどこまでワンピースが好きなのか。あとルフィがそこを怪我した理由は自分で傷をつけたものなので、そこも色々と違う。
さて、そのまま店内を移動し、公式ショップに到着。割と列が出来ていた。7メートルほど。レジの後ろには強大な敵の箱が大量に置かれている。
「空いてるな。並ぼう」
「空いてるの⁉︎」
「酷い時はもっと混んでるから。ラッキーと思っとけ」
それだけ言いながら列に並んだ。
×××
さて、買えたので今日はそのまま帰宅。めぐるの家に2人で集まる。
部屋に入ると、そのまま床に座って箱を真ん中に置く。ちなみに、真央はお金がなくて買えなかった。まぁそもそも今必要なカードがあるわけでもないのだろうが。
「よし、開けよう!」
「ハサミ用意した方が良いよ」
「? なんで? 切れ込み入ってるよ?」
「それに沿って開けるとたまにカード曲がるから。上を切ってスルッと中身を抜いた方が良い」
「なるほど……」
との事で、ハサミを用意した。初めてのカードゲームで、初めての箱買い。なんかちょっと緊張してきた。
「出てきたカードに関しては俺が説明するから。青ナミに必要カードも教えてやる」
「ありがと」
箱を開けて、大量のパックを出す。……ちょっと開けるのゴミの処理が面倒くさそうだが……まぁなんとかなるだろう。
さて、早速1パック目。上部を切り、中をぬるりと取り出す。
「……アルビダ、ストライカー、キウイ&モズ、メリー……あ、ドン‼︎カードも入ってるんだ」
「それがマジ邪魔。流石に邪魔」
「あ、あはは……お、最後なんか光ってる。イゾウ?」
「イゾウは白ひげデッキかエースデッキに必須級の強さだな。サーチだから欲しいカード取れる」
「な、なるほど……あ、青のメリーは?」
「いらない」
「そ、そっか……」
記念すべき1パック目は、思ったよりパッとしなかった。
さて、そのまま二人で開け続ける。カードが出るたびに真央は説明してくれた。
「あ、カヤ」
「これは青ナミに必須。クソ強いからとっとけよ」
「ウソップ輪ゴム! これアーロンパークのとこだよね? 使いたいなー」
「実際クソ強いから。これも大事」
「おっ、SR! しかもウソップじゃん!」
「あー、残念だけどあんま使われない。ていうか青ナミあんまSR入れねーからなぁ」
「カヤ2枚目!」
「ラッキーじゃん。そいつバラでも400円くらいするからそいつ」
「わっ、何このドン‼︎カード。なんか光ってる……てかサンジのとこじゃん⁉︎」
「ドン‼︎カードのパラレルだな。それは1ボックスに1枚必ず入ってる。ちなみに、第一弾のドン‼︎カードはルフィが出航するとこだよ」
「えー! ほしい!」
パックを開ければ開けるほど、わくわくが広がってしまう。カードゲームのパック開封って、なんかすごくドキドキしてしまうものだ。次は何が出るかな、なんてウキウキだ。
結構、青ナミデッキに入るカードも多く出たし、結果は上々と言えるだろう。
そんな中、真央が声を漏らした。
「まだパラレル出てねーな」
「? パラレル? ……あ、くれたナミみたいな?」
「そう。絵柄が違うカード」
そういえばそんなのがあるらしい。
「リーダー以外にもパラレルあるの?」
「あるよ。Rでも火拳とか超カッコ良いし」
「ほえ〜……それは1ボックスに確定?」
「うん。1枚は入ってる。ドン‼︎カードは別枠」
「なるほどね」
そんなことを話しながら、次のパックを開けた時だった。なんか最後のカードだけ光り方が違うな、とちらっと見えた時から思っていた。
中を見てみると、SRのようで派手に光っている「マルコ」のカード。赤属性のはずだけど青い部分が多過ぎて微妙に属性がわからない……と、思う中、目の前の真央から大声が漏れた。
「ウェッ⁉︎」
「ど、どうしたのっ? 急に奇声あげて……!」
「そ、それっ……ま、マルコのパラレル……!」
「? すごいの?」
「マルコのスーパーレアはこのパックでカタクリの次に当たりだわ! いや、リーダーの強さ的にはむしろマルコの方が当たりなまであるし!」
言われて効果を読んでみる。『【自分のターン中】【登場時】相手のパワー3000以下のキャラ1枚までを、KOする。【KO時】自分の手札からイベント1枚を捨てることができる:このキャラカードをトラッシュからレストで登場させる』らしい。
「えーっと……強いの?」
「バッカお前、こいついきなり出てきて敵キャラぶち殺す癖にパワー6000とかいうギリギリリーダーのパワー超えてる火力ある上に殺されても死なねーんだぞ? クソほど厄介だわ!」
「へー……」
知識が足りなくてピンと来ない。でも、真央がそう言うならそうなのだろう。そんなカードのパラレルなのだから高いのも間違いない。
「……ちなみに、真央はこれ持ってるの?」
「や、持ってない。一枚は確保しときたいし、何ならそいつのためにいまだに強大な敵を買ってるまである」
「じゃあ……いる?」
「え?」
声をかけてみると、真央はポカンとしてしまう。
「いやいやいや、ダメだろ。それカード屋で4000円くらいするぞ」
「もっと高いナミのパラレルくれたじゃん。もし気を使っちゃうなら、真央の普通のマルコと交換」
「……ホントに良いの?」
「もちろん」
今のところ白ひげデッキを組むつもりはないし、コレクターでもない。……何より、めぐるにとっても高校初めての友達のためなのだから、もらって欲しい。
すると、真央は少し悩んだ後……何故かとても苦渋の決断を下しているかのように思い悩んだような顔になる。
「…………そ、それ、お前にとって初めてのパラレルだろうが……やはり、もらえねーよ」
「いやそんな顔して言われても……それに、私にとっても真央は高校初めての友達だから」
「……」
にっこり微笑んで言うと、真央は少し頬を赤らめる。そして、目を逸らすと無言で自分の鞄からデッキケースを取り出し、白ひげデッキからマルコのスーパーレアを抜いた。
「あ、ありがとう」
「ううん。ナミのお返し」
そう言いながら交換を終える。すぐにマルコのパラレルをスリーブにしまう真央。気を遣ってくれるのは結構だけど、態度はとっても素直で素早い。もはや可愛いまである。
めぐるもスリーブにマルコをしまい、これは永久保存だな、なんて思いながら机のどこに飾ろうかなーなんて考えている時だった。
「…………めぐる」
「え?」
「…………」
今、名前を呼ばれた気がする……と、顔を向けると、真央は顔を赤くしたまま目をそっぽに向けている。
うん……呼んだ。バチクソ照れているけど間違いない。なんか名前で呼んでくれたってだけでやたらと嬉しくなって、つい思いっきり飛びついてしまった。
「真央ー!」
「っ、ばっ……やめっ……!」
「やめなーい!」
そのまま真央を締め付けるようにハグを続けた。