「うーん……終わったー、W7……!」
そう言いながら伸びをするのはめぐるだった。真央の部屋でワンピースの45巻を読み終えて、ベッドにひっくり返る。ほとんど漫喫の代わりのように使ってしまっているのは申し訳ないが、でも高校生に今からワンピース全巻買うお金はないので、やはりお言葉に甘えるしかない。
「どうだった?」
「すっごく面白かった! ヤバいね、ロビンの過去。ていうかバスターコールって、卑劣にも程があるでしょ!」
「そうな。海軍のほとんどに人の心なんてないから」
「こういうの読んじゃうと、益々海軍デッキ使うの嫌になるんだよなぁ……」
「でも、海軍にだって良い奴いるっしょ? ガープ、クザン、スモーカー、たしぎ、コビー、ヘルメッポ」
「まぁねー」
それはその通り。でも……やっぱり麦わらの一味がメインで話が進んでいくし、総合的に見ると海軍も世界政府も「なんかやだな」と思ってしまう。
そんな中、真央は少し真剣な顔で腕を組み、じろりと自分を見る。
「時に、めぐる」
「何?」
「そろそろ聞いても良い頃合いだと思うが……お前、ワンピースの推しキャラ出来た?」
「……ああ〜」
言われて、めぐるも腕を噛む。推しキャラ、と呼ばれると難しい。要するに一番好きなキャラクターという事なのだろうが……誰だろうか?
「やっぱり……ナミ?」
「あー、やっぱお前はそうか」
「だって可愛いもん。村の人達のためにコツコツとお金を貯めたりする所とか、アラバスタやエニエスロビーで仲間の為に強敵と身体を張って戦う所とか……なんかもう、色々と好き」
そう言えば、真乃のデッキのナミは少し外見が違った気がする。あれも、おそらく2年後と言うものなのだろう。ネタバレな気もするし、触れないでおこう。
「髪型、ナミみたいにしてみようかな……髪とか染めて」
「いやいや、それはやめとけよ。めぐるは今の髪型で良いだろ」
「えっ」
なんか思わぬセリフが飛んできて、少しドキッとしてしまった。なんだろう、今の真央らしからぬ発言……。
「そ、そう?」
「うん。その金髪、ナミさんが大好き、足が速い……と、ずっとサンジみたいな感じでいてくれ」
「ああ……やっぱりワンピース……」
まぁ分かっていたことだ。この男の子は基本的にワンピースと合わせないと次に進めない。
「でも、私料理できないよ」
「サンジを名乗るのはやめろ、このパチモンめ」
「何でそんな言い草⁉︎」
「髪の毛とかマリモで良いんじゃない?」
「絶対に金髪のまま変えてやるもんかー!」
やはり、基本的には失礼だ。この野郎。て言うか、逆に気になるのはそっちだ。
「真央のほうこそ。推しは誰なの?」
「ルフィ」
「えっ?」
「なんだよ?」
ちょっと意外な話だった。いや、主人公だし、その分描写も多いし、何よりカッコ良いから分からなくもないけれど……。
「オタクってもっとマニアックなキャラをあげるものだと思ってたから……」
「ああ、ガノタでいう『ガンダムが好きな奴は全員にわか』みたいな?」
「うん」
「いやそんな奴らと一緒にされてもな……だって、あの世界で一番カッコ良いじゃん」
まぁ、確かにルフィの言葉や行動で救われた人間が何人いるか分かったものではない。
「……ま、まぁそうだね。たまに最近、学校でワンピースの話を他の男子からされるんだけどさ、みんな『俺はカクが好き』とか『ブードルが好き』とか『ビスタが良い』とか『人間オークション会場にいた巨人が好き』とか言ってて……いや、分かるけど絶対、一番じゃないじゃん?」
「まぁ……そうね。好きなキャラなら名前くらい覚えとけよな」
話が盛り上がらないのだ。そんな掘り下げがあまりされていないキャラの名前を出されても。
「ていうか、他の奴とも話すんだ。ワンピースのこと」
「うん。なんかたまに」
「まぁ……俺ら結構、ワンピースオタクなこと周りに知られてるからな」
「真央が机に誕生日のキャラのフィギュアを飾るからでしょ」
「祝わないと」
……いや、まぁそう言われるとそうなのだが。ちなみに、今日はウーシーのミニフィギュアが飾ってあった。
「ちなみに、ナミの誕生日っていつなの?」
「7月3日。ナ(7)ミ(3)で」
「あ、私と近い! 私、7月22日!」
「へー。ナミどころかプラリネと同じじゃん」
「な、ナミと近いで良いの! ていうかなんでそんなスッと出てくるの誕生日⁉︎」
この人の頭の辞書おかしい。本当に賢いのだろう。
そのまま2人でのんびりとワンピース談義で盛り上がった。
×××
その日の夜、真央は寝る前にエニエスロビー編を読み直していた。
なんか……今更思った。そういえば女の子どころか誰かが自分の部屋に来てワンピースの話をするのなんて初めてだ。誰に勧めても「ワンピース長いから読んでない」とか「いや1から読むのしんどい」って言われて断られてたから。
……なんだろう。このちょっと気恥ずかしい感じ。ついベッドの上に放置されていたエニエスロビー編を読んでしまっていたが、今の自分は昼頃のめぐると同じことしてるんだな、なんて思ってしまったり。
「……何このだこの変な感覚……」
やめた。漫画に集中できない。
すると、その自分のスマホが震える。メッセージは……灯織からだ。
風野灯織『夜分遅くに失礼します』
風野灯織『今、お時間大丈夫でしょうか?』
……めちゃくちゃ堅い。本当に同級生なのかさえ気になるところだ。真面目なのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。
とりあえず、返事を打つ。
サニ吉『大丈夫だけど』
サニ吉『何で敬語? 普通で良いよ』
風野灯織『いや……時間もらってるわけだから』
サニ吉『いやほんとその社会人みたいな文章やめて』
風野灯織『分かりました』
こいつ人が言おうとしていること理解してる? と思ったが、まぁただの返事かなしれないしもういい。
それより、用事だ。
風野灯織『実は、まだワンピースカードで組みたいデッキが決まっていません』
風野灯織『どうしたら良いですか?』
それを自分に相談されても困る。灯織自身が組みたいデッキを考えれば良いだろうに……。
だが、せっかくのワンピースカード仲間だ。乗らない手はない。さらに、最初に作るデッキは真央も悩ん……いや、悩んではいない。最初はルフィのデッキを組むとすぐに決めた。
サニ吉『前は紫のデッキ作ろうてしてなかったか?』
風野灯織『うん』
その後、しばらく返信が途切れる。もしかしてこっちの返事待ち? と思って何を返そうか考えていると、灯織からすごい長文が来た。
風野灯織『でも、もう目的だったあなたに出会えた以上、強いデッキより知っているキャラクターのデッキを組みたいと考え直すようになりました。しかし、カイドウもキングもマゼランもゼットもアイスバーグもシャンクスもなんかピンと来ない。一応、63巻まで読んだんだけど、知っているキャラはマゼランとアイスバーグは知ってるけどあまりデッキを組むって感じにならないし、シャンクスの効果もfilm限定だからまだ映画に手を出せていない私としては敬遠してしまいます。どうしたら良いでしょうか?』
……いや、マジで好きにしろよ、と強く思う。少なくとも他人に決めてもらうことではない。迷うのは分からないでもないけど。
まぁでも、紫に組みたいデッキがないのなら、それこそ他の色でも良いだろう。
サニ吉『好きなデッキ組めば良いじゃん。紫以外でも』
風野灯織『えっ、でもせっかく買ったカードなのに勿体ないよ』
サニ吉『いや捨てろって言ってるわけじゃないから』
サニ吉『映画を見て、filmを作りたいって思った時まで取っておけば良いでしょそんなの』
別に、無駄になるわけではない。他に回せば良いだけの事なのだから。
サニ吉『ていうか、推しキャラは誰なん? そいつのリーダーあるかもよ』
というか、灯織の推しキャラは普通に気になる。そもそもの話が、漫画にハマるタイプに見えないので、どんなヤツが好きなのか想像もできない。
……いや、想像は出来るかもしれない。冷静で距離感があり、仲間想いな人が好きなイメージ……ローとか?
風野灯織『……チョッパー?』
思った以上に女の子っぽいものを好んでいた。そして、残念ながらそのリーダーは存在しない。
いや、落ち着け。チョッパーはいないが……チョッパーを活かすデッキならばある。
サニ吉『チョッパーを活かしたデッキならあるよ。チョッパーがリーダーのデッキはないけど』
風野灯織『誰がリーダー?』
サニ吉『ロー』
赤緑ローは強い。パワー負けはするが、脳筋ではない数少ないデッキだ。シャンブルズを活かして、波状攻撃を叩き込める。
風野灯織『トラファヌガーラーのデッキ?』
風野灯織『いや別に私ラーのこと好きなんかじゃないけれどそういうなら組んでみようかや』
めっちゃ誤打しまくっていた。何をそんなに慌てることがあるのか? とも思ったが、すぐに理解した。
チョッパーが好きなのは嘘ではないだろう。だが、本当に好きなのはむしろローの方。それが見抜かれた動揺の現れと見える。
まぁ、正直そこはどうでも良いので、さっさと話を進める。
サニ吉『風野ならロー上手く使えると思うよ。賢いし』
風野灯織『そんなことないよ』
風野灯織『じゃあ、ローのデッキ考えてみるね』
サニ吉『頑張ってー。ちなみに2年後のローだから、せめてパンクハザードくらいまで読んでから作ることをお勧めする』
風野灯織『分かった。完成したら試運転手伝ってね』
サニ吉『うぃ』
それだけ話して、チェインを切った。とりあえず、一つのデッキを作ると決めたのは良いことなのだろう。その試運転の日をのんびりと待つことにした。
×××
それから二日くらい経過したある日。真央がベッドで指銃の練習をしていると、スマホが鳴り響いた。
「指銃‼︎ ……いや、違うな……もっとこう……ん?」
早速、手に取る。灯織からの電話だった。電話とは珍しい……と、思いながら応対。ボタンをタップして耳に当てる。
「もしもし?」
『あ……日吉くん? ごめんね、夜に』
「いや別に平気。それよりどしたの」
『デッキ出来たから、試運転したくて。スマホのビデオ通話なら出来るんじゃないかなと思ったんだけど……』
「……ああ〜」
確かに出来るかもしれない。まぁ、ものは試しだ。一回やってみよう。
「どうやってやんの?」
『私はスタンド買ったんだけど……あ、そっか。日吉くんないよねそんなの』
「いや、多分大丈夫」
工夫すれば良い。要するにカードをやっている場面を見せれば良いのだから……こう、椅子の上にスマホを置いて、カメラの部分がはみ出るように置いて、スマホの下部に重石を相手支えれば……いける。
そうと決まれば、床にはプレイシートを広げる。これから使うデッキは……何にしようか?
とりあえず、向こうにとっても強すぎても弱すぎても練習にならないと思ったので、青緑サンジデッキを選んだ。
で、それに合わせてルフィのプレイシートを選び、床に敷く。その後で椅子を使ってスマホを設置。
「どう? 見えてる?」
『うん。大丈夫』
「言っとくけど、俺手加減は出来ねーよ?」
『もちろん。試運転で手加減されたら試運転にならない』
よっし、ボコボコにする。と心に決める。こちらのデッキは展開力が売りのfilm麦わらデッキだが、速さはローに敵わないだろう。特に速攻持ちのゾロがクソだ。
だが、7コストの緑ルフィの効果を活かせば、最大で3体キャラを一斉に出せる。
その上で、3体以下なのだからサンジの効果も使える。見せてやる、環境デッキが全てではないと言うことを。
シャッフルしながらデッキを置いた。
『そういえば、組んだ時に思ったんだけど……多色のリーダーはライフ4なんだね』
「じゃないと強過ぎるからな。使えるカードの幅が広がるだけでもとんでもねーもんだ」
『それは、私も思った。日吉くんが言っていた通り、結構動かしやすくて私好みのデッキかも』
「でしょ?」
ローのリーダー効果が『【起動メイン】【ターン1回】②(コストエリアのドン‼を指定の数レストにできる):自分のキャラが5枚いる場合、自分のキャラ1枚を、持ち主の手札に戻し、自分の手札から、戻したキャラと異なる色のコスト5以下のキャラカード1枚までを、登場させる』というもの。
コスト、場、手札全ての管理をする必要がある。このゲームはアタックした後にキャラを登場させたりも出来るから、自由自在にカードを入れ替えて波状攻撃を仕掛けることが出来る。
「来やがれ」
『行きます……!』
そういえば、なんだかんだ知り合いとワンピースカードで対戦するのは初めてだ。
〜30分後〜
「ドン‼︎5枚つけてルフィでリーサル」
『うっ……ま、負けました……』
1万2千は流石に耐えられなかったらしい。ルフィの象銃がローの意識を完全にノックアウトさせた。
『やっぱり、ドローソースが厳しいな……手札がない状態でキャラを一掃されると次のターン困るな……もう少しカウンター積んだ方が良いかも……』
ブツブツと感想を漏らす灯織。反省点が多くある様子で、顎に手を当てている様子が手に出るようにわかる。
『せめて1万なら耐えられたのに……手札に白滝あったから……』
あッッッッッぶねェエ〜〜〜〜‼︎! と、大量の汗が顔に浮かぶ。何せ、こちらのライフも残り0。ブロッカーのルフィにドン‼︎を全部ぶち込んで殴ったので次のターンはお手上げ。マジで危なかった。
赤緑ローは環境とはいえ、回し方が不自然な点はなかった。ここまでの精度でこのデッキを最初から操れるとか……逸材にも程がある。
「お、お前……本当に初めて……?」
『うん?』
「あ、そう……」
『ホントはゴードンとかも入れたいんだけどね……高くて流石に買えない』
しかも、まだ強くなりやがる。だめだ、もう次やるときはサンジでは太刀打ち出来ないかもしれない。
『あの、何処か良くないとことかあった? いらないカードとか……』
「えっ……あ、あー……」
言われても、すぐには浮かばない。なんて言えば良いのだろうか……と、今のプレイを思い返す。
入れてもあまり旨味がないカード……と、腕を組んで悩む。いや、旨味のなさよりもコンボが止まっていたところだろう。
「緑のカードが少ないかな。たまに事故って手札止まってたでしょ」
『あー……うん』
色が違うカードじゃないとローは入れ替えを使えない。だから、止むを得ずたまにカウンター2000枠のカードを出さざるを得なくなっていた。カウンター+2000というのは貴重なので下手に打てば損をするだけだ。
「あと、これは単純に回し方の話だけど、結構何をどうしてくるのかわかるから、こっちも対応しやすい」
『どういうこと?』
「いや、だからこう……『あー、こいつこのタイミングでルフィ出すなー』ってのが分かるんだよね。お前が分かりやすいと言うより、結構大会で赤緑ローとやったから経験で。お前回し方の動画とか見てるだろ」
『うっ……そ、そういうことか……』
だから、こっちもわざとドン‼︎を残してガードしたり、その上で除去したり出来る。
『なるほど……では、もう一回良い?』
「良いけど、デッキ変えるぞ」
『うん』
次は、カタクリでやろう。
〜30分後〜
「SRローいらなくない? ブロッカーの方。アレ展開するように見えて思ったより展開しないよ」
『いや……私もそう思ったんだけど、登場時効果があるキャラを上手く動かしたくて……』
「まぁ任せるけど。攻撃特化にするならブロッカーの枠をデッキのローの方を4枚積んだ方がこっちは怠い」
『なるほど……じゃあそれでもう一回』
「ん、お、おう? またデッキ変えて良い?」
『うん』
〜40分後〜
「いや、マジ危なかったわ。あれ、ベッジ引っ込めてくれたから助かった」
『それは私も失敗したなって思った……ブロッカーを引っ込める時は注意しないと……』
「リーダーローの効果は使わない分、ドン‼︎のレストも抑えられるから防御に回せるよ。あそこ、磁気弦にしとけばお前勝ってた説ある」
『難しいな……もう一回』
「良いだろう。いくらでもかかって来いや」
〜50分後〜
「あー! ついに負けたー!」
『やっと一勝……やっぱり、日吉くんすごい……』
「いや、お前だよ! 俺このゲーム発売日からやってんだぞ⁉︎ 優勝経験もあるし!」
『ルフィ、最後ドン‼︎つけたのナイスでしょ。ブロッカーすり抜けで』
「あれはマジやられた。上手かった。まぁ、こんだけやれば工夫くらいするわな……」
『もう一回やろう! 今の感覚を忘れないうちに!』
「当たり前じゃん。悪いけど勝ち逃げさせねーから」
〜1時間後〜
『……お、大人げない……』
「おれァ、白ひげだ‼︎」
『ていうか、白ひげホントに強い……素でパワー6000はズルだから……』
「グラララっ……おれァ、白ひげだ」
『分かったよ。もっかい』
「デッキ変えるから」
『ダメ。デッキ同じのでもう一回』
「ええ……同じデッキは……あ、充電ない」
『え? あっ……』
そのままスマホの電源が落ちた。というか、時計を見たらもう1時を回っている。3時間ワンピースカードをやっていた。
「……やっべ」
明日の朝も学校なのに……と、冷や汗が流れる。とりあえず、早く寝なければ……と、慌てて布団の中に入った。
×××
「高1の4月に三限まで遅刻するのはお前が初めてだよ、日吉」
「インペルダウン初の侵入者のように?」
「一々、ワンピースの揶揄を入れるな。アホンダラ」
「先生もやってるじゃん」
結局、かなりの説教を受けてしまった。ボロカスに怒られながらも、職員室を後にして教室に戻る。
中では、めぐるがやたらとニコニコして待っていた。
「日本では、ジュウヤクシュッキンって言うんだっけ?」
「うるせーよ」
別にそんなつもりはない。ただ、ちょっと昨日の夜中に暴れ過ぎただけだ。
「なんでそんな遅刻したの?」
「寝坊」
「どうせワンピース関係でしょー?」
まぁ、当たりだが……言い訳させてもらうならば、灯織が何度も「もう一回!」と挑んできたことだろう。
「ちげーよ。昨日の夜は、中々風野が寝かせてくれなかったんだよ」
「……えっ?」
「?」
何故か、めぐるは驚いた顔ながらも頬を赤らめてコチラを見ていた。
「? 何?」
「いやっ……寝かせてくれないって……え、どういう意味?」
「いやそのままだろ。何戦もやって疲れたわ」
「やっ……!」
さらに顔を赤くする。そして……めぐるは両手を伸ばして真央の胸ぐらを掴み、持ち上げた。
「貴様ー! 灯織の純潔を返せー!」
「準決? いや二人で戦ってただけで大会には出てねーぞ?」
「違うわ! ていうか誤魔化さないで! やったって今言ったじゃん!」
「うん。ワンピースカードを」
「ん?」
「? なんだよ?」
それ以外に灯織と何をするのか。ワンピース語りはするかもしれないが、それなら「やる」ではなく「語る」と普通に言う。
「……どうやって?」
「ビデオ通話で」
「……」
ぷくーっとめぐるは頬を膨らませる。真っ赤な顔のまま、眉間に皺も寄せ始めた。
「何怒ってんだ?」
「紛らわしい言い方するなー!」
「ちょっ、や、やめろっ……!」
胸ぐらを掴まれてぐわんぐわんと揺すられてしまう。脳が揺れて目が回るような感覚に、頭がフラフラしてきた。
「おぼっ……ほ、ほんと何怒ってんだお前⁉︎」
「女の子に恥をかかせておいて何を言うかー!」
「恥って……そもそも何と勘違いしたんだよ!」
「何って……!」
聞くと、ピタっとめぐるは動きを止める。……が、やがて顔の赤みはさらに濃くなり、それと同時に眉間の皺も深くなった。
「うわーん!」
「ぐおぇっ⁉︎ う、うわーんじゃねーよ!」
さらに揺らされ続けた挙句、しばらく口を聞いてくれなくなった。昼休みくらいまで。
×××
「ふーむ……」
一方、その頃……灯織は、顎に手を当てたまま深く悩む。昨日は結局、1勝しか出来なかった。だが、確実に手応えはある。もう少しデッキを組み換えれば勝てるだろう。
そのために、今はカードリストから入れるカードを選出していた。やはり、昨日も言ったが手札がなくならないように調整することは大事だ。
何とかカードを引けるカードを探さなくては……そんな風に思いながら、そのまましばらくカードリストを漁った。