レスト=タップ、アクティブ=アンタップ、ライフ=シールド、トリガー=シールドトリガー、速攻=スピードアタッカー、ブロッカー=ブロッカーみたいな。
違いは常に場にいるリーダーがいることとカウンターとドン‼︎カードとかです。
よしっ、と灯織は完成しそうなデッキを見下ろす。結局、ゴードンを入れるのは諦めた。なんかずっと高いので。それに、そもそもそんなに必要な感じがしない。あった方が良いのかもしれないが、なくても戦える気がする。
今日は最後のピースを揃えに来た。……赤緑ローのパラレルである。
「すぅ、はぁ……よしっ」
安いものではない。というか、たかだかカードにそんなお金をかけること自体が微妙な気もする。
だが、パラレルのナミがちょっと羨ましかったのだ。もらえた事ではなく、リーダーがカッコ良いとなんかやっぱりモチベーションが上がりそうだなと思ったのだ。
ここ数日、毎晩真央とデュエルをしているが、やはり向こうのキラキラ光っているリーダーは羨ましい。
なので……決めた。初任給も入ったので、それは両親へのケーキと自分への赤緑ローに使う、と。
そんなわけで、今日はカード屋に来ていた。今日来たカード屋はなんかちょっと女の子一人では入りづらい店だが、覚悟はもう決めた。
深呼吸を終えて、お店の中に入ろうとする……が、やはりなんかちょっと入りづらい。特に、店の外装が古いアパートみたいで怪しく見えて。
これ……カード屋を名乗っている風俗とかじゃないよね? なんて思わないでもなくて。
「……いや、大丈夫……」
しかし、ネットで調べてこのお店は出ているし、住所もあっている。だから普通にカード屋だ。
そんな風に変なプレッシャーを理屈で塗りつぶして勇気を奮い立たせるのはもう13回目だったりする。
しかし、今度こそ……今度こそは切らなくては。そう決めて、一歩踏み出そうとした時だった。
「あれ、風野?」
「ひゃうっ⁉︎」
声をかけられて背筋が伸びた。誰? と後ろを見ると、そこにいたのは真央だった。
「お前さっきからそこで何してんの?」
「っ、い、いや別に……」
「ここに用事あんなら行こうぜ。俺もカード見に来たんだよね」
「あ……う、うん」
誰かと一緒だと、少しホッとする。ていうか、この様子から察するに真央は随分とカード屋に慣れている様子だ。なら尚更、助かる。
「風野は今日何買いにきたの?」
「えっ……つ、追加のカードを……」
ちょっと言えない。まだひよっこの癖にリーダーカードをパラレルにしようとしていた、なんて。基本的に形から入るのではなく中身からそれに見合うようになりたいくらい真面目な灯織は、ちょっとリーパラを欲しているのが恥ずかしかった。
「へー。ゴードン?」
「う、ううん。ちょっと可能性を探す意味で、色々面白そうなカードを調べたから……」
「へぇ……お前、中々ゲーマーだな」
嘘ではない。例えば「メス」。今までカードはバラで買っていたこともあり気が付かなかったが、これはロー本人の技であるイベントカードだ。
効果は「【カウンター】自分のリーダーかキャラ1枚までを、このバトル中、パワー+2000。その後、自分のドン!! 1枚までを、アクティブにする』というもの。
つまり、1コストさえ残しておけばノーコストで使えると言うもの。
その上、白滝と違って超新星なので、ジュエリー・ボニーの効果でサーチできる。
ちょっと入れてみたらどうなるかな、と思って買ってみることにした。10円くらいだし。
「何買うの?」
「メス」
「ああ〜なるほど……確かに面白そうな感じはするよね」
「あの、どうなの? 実際の所は……」
「思ったより普通。普通のカウンター2000のが強かったりする」
「えっ」
「コスト1必要だし、アクティブにすんのも結局、カウンター2000のキャラならそもそもコスト要らんし、赤緑ローなら毛皮強化かラディカルビームのが強い」
「あ……そっか」
残念ながら、その通りだ。なんだかんだこのゲーム、シンプルな効果のほうが強い。赤緑ローだってリーダー効果こそ複雑なものの、デッキ自体はシンプルな効果のキャラが固まっていた方が良い。
「まぁ、金使う前で良かったんじゃね?」
「うん。ありがとう」
「あと、俺はああ言ったけど、意外と使ってみると強いカードってのはあるから。不思議なもんで、特にリーダーは『最初は見向きもされなかったのに組むと環境レベルで強い』ってのが多い」
「そうなの?」
それは意外だ。灯織はそもそもゲーム自体、これが初めてなところはあるので偉そうなことは言えないが、スマホゲームとかではキャラクターとかは公開されるとSNSで騒ぎになり、騒ぎになった通りに強い、と言う流れに見えていた。
カードゲームではその限りではないのだろうか?
「例えばほら、白ひげ。これ最初は弱いって思われてたからね」
「えっ、そ、そうなの?」
「いくらライフ6のパワー6000とはいえ毎ターンライフ削られるんだから、絶対使いにくいって思われてた。……けど、実際はライフからカードを得られる=手札が増えて必要なカードが確実に来るし、6000のパワーで敵の攻撃は簡単に凌げるし、SR白ひげ、エース、マルコ、イゾウが軒並み強すぎて轢き殺されるし、発売直後には環境入りしてた」
灯織は動画を見ていたので強いイメージしかなかったが、確かに自分が「発売前から性能だけ知っていた状態」ならば同じことを思っていたのかもしれない。
考えてみれば、今のワンピースカードの知識は先輩プレイヤー達が自分の目で見て手で触ったものを見させてもらったが故だ。
まるで……人類の歴史のように積み重ねを感じてしまう。
「……深いな、まるで日本史みたい。ワンピースカードって」
「え? どの辺が?」
「う、ううん。何でもない」
「ちなみに、次のパック5月に出るけど、もうリーダーは出てるよ」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうなの」
それは知らなんだ。是非とも見させてもらいたいものだ。
すると、真央はスマホを取り出して少し操作した後、画面を見せてきた。Twitterの画像だ。リーダーはビビ、レベッカ、クロコダイル、ドフラミンゴ、クイーン、イッショウ。半分くらい知らないキャラクターばかりだ。
「……クロコダイル、またリーダーなんだ。3枚目?」
「ああ。紫と黄色な。組むの楽しそう」
「クロコダイル……正直、私はあまり好きじゃないんだけど……」
あそこまでよく悪逆非道を尽くせるものだ、と普通に読んでいてむかついた。その分、ルフィとビビを応援する気持ちは強くなったが。
「私、ビビリーダーのデッキ組んでみたいかも……」
「あー、カッコ良いよな。……てか、何となく風野に似てるよな」
「えっ……どこが?」
いや、自分はこんな風に命を賭けたりはできない。
「私、こんなに立派じゃないよ……」
「あ、着いた」
お店のフロアに到着し、中に入る。ワンピースカードのコーナーを探しながら歩き始めた。
「いや、風野って友達想いじゃん。この前、めぐるの家でワンピースカードやった時も、櫻木とめぐるが楽しめるように誰よりも早くルール覚えようとしてたっしょ? ……で、今は誰よりも早くデッキを組んでる。国のために誰よりも早く動いて奔走してたビビと同じだろ」
「っ……そ、そうかな……?」
「そうだろ。だから、めぐるも櫻木もお前のこと好きなんだろ」
「……」
……なんか、照れる。そんな風に言われると。死ぬほど恥ずかしい。何が恥ずかしいって、嬉しさも混ざっている点が特にすごい。
「……も、もういいから」
「あ、この店、マルコ安い。櫻木に教えてやるか」
「……」
本当にもう終わっちゃった。カードに興味が移るのが思った以上に早い。いや、ほんとに恥ずかしいから別に良いんだけど……なんかモヤモヤする。
さて、灯織もそろそろカードを見ないと……と、リーダーパラレルのコーナーを見ると、赤緑ローのパラレルがあった。
「……えっ?」
12500円……桁一つ間違えてないだろうか?
「……そ、そんなにするの……?」
「何が?」
「ローのリーパラ」
驚きの余り言ってしまったが、これはさすがに厳しい。この値段はすごい。
「そりゃ高いわ。強いし人気だし」
「……」
「え、それ買いに来たの?」
「いや、ちょっと流石に……」
これには手が出せない……と、ヒヨっていると、真央が口を挟む。
「じゃあ、こっちでワンチャン狙う?」
そう言って真央が指さしたのは、同じようにショウケースの中。青色の袋に入ったカードが並んでいた。
その近くに置かれている紙には「ワンピースカードオリパ1パック1000円」と書かれていた。
「何それ?」
「この店オリジナルのパック。スーパーレア以上のカードが確定で入ってる」
「えっ、すごい……!」
「ランダムだけどな?」
そんなものもあるのか、と少し驚く。カードショップならではというべきだろう。
置かれている紙のイラストはパラレルばかりだ。こうやって並べられていると、実物でなくても壮観だ。そして……その中にはローの姿もある。
「……ワンチャン、か……」
「でも70口ある中で12回引くまでの間に出なかったら確定で買った方が良いってことは覚えとけよ?」
「あ……そ、そっか……!」
考えてみれば当然のことだ。何せ、パックで買ったとしても確実に手に入るわけではないのだ。
そう思うと……むしろ1万2千円は安い可能性だってある。……いや、でもやはりカードに1万円は……と、頭の中がぐるぐると回る。
「他の店も見てみるか?」
「え?」
「や、だから他の店。パラレルのローの値段を見比べて安いの選んだ方が良いだろ」
「え、でも……日吉くん、面倒じゃない?」
「いや別に。池袋の店、あと5箇所知ってるから、全部案内するけど」
いや、1箇所は今日じゃないけど見た。そこにパラレルのローは置いていなかったため、今日は見ていないのだが……しかし、そんな事よりも、わざわざそんな風に誘ってくれるなんて……。
「あ、ありがと……日吉くんが買う予定のカードは?」
「後で良いよ。それより、風野の欲しいカードが優先」
……この子、たまに勝手なのか親切なのか分からなくなる。しかし、そうまで言ってくれるのならば、お言葉に甘えた方が良い。
「……うん。じゃあ、お願いしようかな」
「よし、ついてこい」
「でもホビステは行ったから、そこ以外で」
「りょかい」
そのまま2人で池袋を見て回った。
×××
一通り見て周りはしたが、やはり残念ながら安くはない。どこも10200円〜14800円だ。
「どこも10000円以上するんだ……」
「強いし人気だからな」
「……うう、どうしよう……」
悩む。いやほんとに悩む。何が怖いって、別に1万円飛ぶことではない。それもちょっとはあるけれど、それよりも今後新たなデッキを作る時にパラレルを買うことへの躊躇いがなくなるかもしれないことだ。
他にも好きなキャラクターはいる。青キジ、ロビン、ウソップ、ボン・クレー……ん? みんなリーダーカードがない。つまり灯織がリーパラを発するとしたら、やはりローだけなのかもしれない?
「よし、買っちゃおう!」
「え、早い? 今の短い思考で何が?」
「一番安いお店に行こう」
「お、おう……」
すぐに行ってしまった。
安かったお店に入る。ワンピースのショウケース内では、やはりオリジナルパックが売っていた。
しかも、1パック500円。さっきの店より安い。ローの写真も載っている。
「……1パック買ってみようかなぁ……」
「欲しいなら止めないけど……」
? なんだろう、と小首を傾げる。何か言いたげだ。
「何?」
「うーん……なんか否定ばかりで悪い気がしてんだけど、あんまおすすめはできねーかなって」
「なんで?」
「いや、俺も通った道だから言うけど、そもそも店が作ってるパックだから信用ならないってこと。祭りのてきやと一緒。ホントにこのカードが入ってる保証もないし、そこ問い詰められても『もう買われた』って言い逃れ出来るし、全部嘘じゃないにしてもほんとに買われてたら無駄だし、何よりこう言うのに入ってるのって大体、訳ありカードだし、俺はあんまり好きじゃない」
「……な、なるほど」
全否定である。まさかの。確かに、SR以上確定とあるが、500円以上の価値があるSRなんてあまりない。これでもしクリークとか黄色エースみたいなどこで使うのかも分からないSRが出たら悲惨である。
そして……お店側からしたら、そんなカードが500円で売れたら大儲けだ。
「うん……私もやめておこうかな」
「まぁ当たればでかいんだけどな」
「何なの⁉︎」
「え、何が?」
よくもまぁ意見をそこまで反復横跳びさせられるものだ。お願いだからあまり翻弄させないでほしい。
「それでも俺なら買わないってだけ。もちろん、利点もあるよ。俺一回、キングのパラレル引いたし」
「あの、お願いだから迷わせるのはやめて」
「戸惑いこそが人生だよ、黄猿くん」
「風野です」
何で言わなくて良いことを……とも思ったが、そうじゃない。色んな情報を提供した上で決めさせてくれようとしているのだろう。
決めるのは自分で、だ。ならば……やはり、高いかもしれないけれど買ってしまうしかない。いい加減、覚悟を決めよう。
「……いや、やっぱ普通にローを買うよ」
「まぁ、英断じゃね?」
「うん、ありがとう」
そのまま灯織は勇気を振り絞って購入しに行った。親には絶対に言えない。
レジに並び、店員さんを売り場まで案内し、ショウケース越しにローを指差し、取ってもらってから購入した。
それをカバンの中のデッキケースにしまい、ツカツカと店の出口の方向へ歩く。
「……」
が、途中でピタッと足を止めてしまった。
……さて、困ったことに……クソほど嬉しい。何だろう、この達成感のようなもの。たかだか高い買い物をしただけなのに。
しかし……トラファルガー・ローのパラレル。まだそこまで読み進めたわけではないから、このイラストがどのシーンのローなのかは分からないが、その分の楽しみは増えた。少なくとも血を流している以上は戦闘があったということだろう。楽しみだ。
いずれにしても……このカードを使う時が今から楽しみで仕方ない。ワクワクとウキウキとソワソワが止まらなかった。
それを噛み殺すように唇をかみしめて口を閉ざすが、眉間に皺はよっているし頬は赤らんでいるしちょっとなんか小刻みに震えているし、全然隠れていた。
なので、案の定……。
「嬉しそうだな」
「はわっ⁉︎ な、何が⁉︎」
「いや、ロー買えて」
「そ、そんなことないよ。新しいものを買ったくらいでそんな子供みたいな……」
「いや手に入れたらワクワクするでしょ。リーパラなんてほんと滅多に出ないんだから」
「……うう」
でもちょっと気恥ずかしい。所詮はカードゲームにも関わらずここまでやってしまうとは……と、思わないでもない。それで喜んでいるのだから、自分も中々、毒されている。
その灯織に真央は提案して来る。
「今からワンピースカードやるか?」
「あ……」
どうしよう。今日はこの後、初任給のもう一つの使い方である親へのケーキを買う予定だった。
だが……買い物にここまで付き合ってくれたのに、断るのもちょっと申し訳ない気がする。
「あ、あの……もう一つ買い物あるから、その後でも良い?」
「や、無理なら全然、今度で良いよ」
「え……でも、そんな色々付き合ってもらったのに……」
「いや気にしなくて良いからそんなん。てか勝手に手伝っただけだし」
「で、でも……」
「また今度、付き合ってくれりゃそれで良いよ」
そう言いながら、真央はショウケースを眺め始める。……そういえば、まだ真央は自分の買い物も済んでいなかった。
「あ、あのっ……!」
「何?」
「今夜、また電話でやろう。ワンピースカード」
「おう?」
で、その日の夜は10戦やった。
×××
翌日、午前中の仕事の灯織は何とか眠気を出さずにこなすことができた……が、お昼を超えた辺りで割と限界が来た。
「ふわぁっ……」
「ほわっ……め、珍しいね。灯織ちゃんがあくびなんて……」
「……あっ、み、見られちゃってた……?」
真乃に横から言われてしまい、思わず頬を赤らめて目を逸らす。しまった、油断した。
めぐるもさらに真乃の奥からニヤニヤしながら口を挟んだ。
「また遅くまでワンピースカードやってたんでしょ」
「あ、あはは……当たり」
「えっ、ほ、ほんとに?」
「え? うん。真央くんと一緒に」
結局、あの後は二人でバカみたいに白熱してしまった。カードが揃った赤緑ローはとても強く、波状攻撃で一気に倒せたが、逆にパワー負けしやすく攻撃出来ないターンは苦労させられた。
その思い出話をすれば眠気も吹っ飛ぶかな? と思ったので、そのまま話そうとしたのだが……真乃はともかく、めぐるはぷくーっと頬を膨らませている。
「えっ……め、めぐる? どうかしたの?」
「ずるい!」
「えっ?」
「何で2人でばっかりワンピースカードやってるの!」
「い、いや……私も誘ったから……」
ていうか、何でそんなことで怒るのか? 学校が同じなんだから、カードをやる機会ならばめぐるの方が多いだろうに……。
「めぐるもやったら良いんじゃ……」
「そ、それはそうだけど……!」
もしかして……めぐる、やっぱり真央のことが……? なんて勘繰ってしまう。だって、前々から思っていたことではあるが、めぐると真央はやたらと距離が近い。ハグとかしているし。
いくら帰国子女と言ってもそういうものなの? という感じは拭えないし、そうであっても真央は男の子だし動揺もしていたのだろう。余程のことがない限り、めぐるのダイナマイトボディに何も感じないなんてことは無いはずだ。
やはり、二人は……。
「それなら、灯織から私を誘ってよ!」
「えっ、わ、私とやりたかったの⁉︎」
「そうだよ! だって真央にはまだ勝てないもん!」
「……」
逆に言えば……灯織になら勝てると思われているのだろうか? 少し普通にむすっとした。残念ながら、灯織はもうそんなに弱くない。
でも、まぁ別にカードゲームだしこんなことで分からせてやるとか思うほど子供ではないが。
「じゃあ……めぐるのデッキが出来たら教えて?」
「もう出来てるよ。超強い青ナミ」
それなら仕方ない。もうやるしかない。
「分かった。じゃあ今夜やろっか」
「ほわっ……私、まだデッキ作ってないんだけど……行っても良い?」
「勿論」
よし、決まりだ。
×××
その日の夜、風野家にて。
「なんで3コスで5コスの速攻が飛んでくるの⁉︎」
「ずるいってば! こっちのパワー下げられたら殺されるしかないじゃん!」
「あ、あれ? コストが足りない……これじゃ、大槌うてない……」
「こっちの攻撃簡単に防ぐのやめてよ! 攻撃しないとデッキ捲れないのに!」
「あっ、待っ……トリガートリガートリガー! ああああああ‼︎」
地獄絵図となっていた。