【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
ゆっくり目を開く。部屋を優しく照らす蛍光灯の光に思わず目を細めていると、歌い終えたばかりの人魚ネキが声を掛けてきた。
「お疲れ様でした」
「おう、人魚ネキもお疲れ。喉の方はどうだ?」
「今までで一番楽でした。術式って凄いですね」
「まぁ、金と時間は掛かるけどなー」
人魚ネキの足元に展開していた魔法陣が砕け散り、淡い光を撒き散らす。効果は喉への負担を俺に押し付ける〝身代わり〟と言ったところか。ついでに〝治癒〟を混ぜて負担軽減。
厄介な事に【呪歌】系統は肉体的なダメージでは無く、霊的なダメージを喉に与える事が人魚ネキのお陰で判明している。つまり、どれだけレベルを上げても【呪歌】を使い過ぎれば喉にダメージが入る。
まぁ、下層以降ならまだしも、中層程度で一週間徹夜で歌い続ける事も無いだろうが。
「ん……?ここは……?」
「……何かやけに身体に疲労があるな?」
「おい、セツニキ。説明しろ」
人魚ネキの喉を左目の〝魔眼〟で確かめていると、黒鎧三人組が目を覚ました。再び説明するのも面倒なので、無言で紙を渡す。
「……
「確かに。紙に書かれてる事が本当ならば、一時間鍛練した後なのか」
「…………」
私服に着替え終えたボブミヤニキが無言で【霊力操作】で銃剣型の干将・莫耶を生成。十秒程度で砕け散ったが、確かに形となっていた。
「成る程。無意識領域の〝記憶〟ってヤツはすげぇな」
「うむ。術に関しては素人の俺達でもここまで出来る様になるのか」
ボブミヤニキと同じく着替え終わった二人が霊力を干将・莫耶に変えながら感心した様に呟く。
「残念ながらこの修行方法は人魚ネキありきだけどなー。一回五千マッカだぜ」
人魚ネキに歌をリクエスト出来る券という名の確定召喚チケットは、手に入れる事が難しい。毎回ガチャのラインナップにある訳でも無く、その数も然程多くも無い。
これが探求ネキやブーストニキだったら一緒に
「手が空いてる時ならお手伝いしますよ。毎日は嫌ですけど」
「助かる。これ、俺の連絡先だ。暇な時間が出来そうなら連絡くれ」
「分かりました」
スマホを所持してるか不明なので、取り敢えず名刺を渡す。こういう時、名刺があると便利だよな。わざわざ紙に書く必要がねぇ。
「我々も渡しておこうか。セツニキ程では無いが、人手が欲しい時には気軽に呼んでくれて構わない」
「お手伝いは得意だからな」
「……荒事なら呼んでくれ。それ以外ならコイツらの方が役に立つ」
三人が鎧姿のまま人魚ネキと連絡先を交換するのを見守っていると、扉が勢い良く開かれた。
「俺達製造班とも宜しく!」
『『『宜しく!』』』
別室で三人の状態をモニタリングしていたエドニキ達が、急いで書き殴ったであろう紙を人魚ネキに手渡す。
急に両手が埋まる程の人魚ネキがポツリと呟いた。
「今日だけで男の知り合いが一杯増えました」
「その容姿じゃ下心無しで会話できる男の俺達は少なそうだしなぁ」
「俺も嫁が居なかったら危なかった……!」
「男は魔性のおっぱいには逆らえんのや……!」
「むしろセツニキやアーチャーニキ達は何で動じないん?もしかして不能?」
「俺はエロいと思ってるし、誘われたらホイホイ着いていくぞ?ただ我慢してるだけだ」
「左に同じく」
「左に同じく」
アーチャーニキ達が同意と共に、ボブミヤニキへ圧力を掛けていく。視線を向けられたボブミヤニキは大きな溜め息を吐き出し、口を開いた。
「……デビルシフターに良い思い出が無いからそういう対象に見えねぇんだよ。これで満足か?」
「何というか何時ものノリで接すると、ボブミヤニキからは黒いもんが飛び出てくるね」
「まぁ、海外で活躍してたって事は修羅場を潜り抜けて来た訳だし、必然的にそうなるんじゃないかなぁ」
「スマン。ボブミヤニキ。製造班の班長として謝罪する」
「構わねえよ。そこに居る糞爺のお陰で後半は楽だったしな」
「まぁ、お前の仲間も含めて支援だけ
原作持ちは現地人にしろ転生者にしろ比較的才能が高い傾向にある。それらの人材と確かな伝を得られるならば、いずれ使えなくなる現金を投げ込む事を躊躇う筈が無い。
「セツニキは手が広いですね」
「昔っから
「羨ましい。私はこれからですよ」
「いざとなったら助けてやるよ。山梨の異界に潜ってくれるなら俺の両手の範囲内だ」
「間に合わなかったらお願いします」
「おう。気軽に頼ってくれや」
黄泉比良坂での活躍を聞いた限り、一人で何とか出来そうだけどな。田舎ニキもそうだが、有名人wikiに名前が載る奴らは心配するだけ無駄な気がする。
「そういやセツニキ。今日はもう解散で良いのか?」
「人魚ネキは俺らと違ってか弱いからなぁ。無茶させる訳にも行かんだろ」
「あー……
「無茶する場面でも無いしな」
どうやっても今日中には
「では、今日は解散か?」
「そうなるな──っと、そうだ」
霊符から剣を打つ為の素材を取り出し、実験室の床にばら蒔く。視線でエドニキに合図すると、力強く頷いてくれた。
「せっかくだからお前らの目指す
「俺達製造班の努力を見るが良い!」
用意した鉄鉱石から〝鉄〟の属性を抽出。それを火打ち石から取り出した〝炎〟と鎚から取り出した〝圧力〟を使って〝剣〟に加工。
コツは【霊力操作】だけで加工する事だ。じゃないと最後の工程──【魔晶変化】で物質化出来なくなる。
後は砥石から〝研磨〟を引き出して〝剣〟に突っ込めば──鉄の剣の完成だ。
ちなみに〝概念〟を抜かれた素材は何の加工も出来ない灰となる。ゲームなら燃えたゴミとか名付けられる捨てるしか無いアイテムだ。
唯一の救いは、暫く放っておけばMAGに還ってくれるという事か。その点だけで見ると、現代社会より数百倍環境に優しいよな。オカルト加工。
「──ふう。やっぱ本職には勝てんか」
「ま、俺はこれで食べてるからな!」
俺の鉄の剣を基準に評価すると、エドニキ作の鉄の剣はプラス四ぐらいの品だ。切れ味も、耐久度も単純に1.4倍だと思えば良い。
付与術式を含めるなら良い勝負が出来ると思いたいが……たぶん勝てないだろう。
エドニキは付与術式を外部委託する事に躊躇いが無いからな。流石の俺も
「それがセツニキの語っていた【
「その前の段階だ。これをスキルでやると──こうなる」
右手を余っていた素材に
「性能は正規の工程と比べて一段下がる。その辺は投影魔術と同じだな」
「正規の工程を圧縮してる関係で劣化はどうやっても防げないんだよな。古参製造班なら問題ないんだが、製造班にとっては新人のスキル持ちがゴミを量産しまくる悪夢のスキルだぞ☆」
「ただでさえ腕の未熟な者が打った品物がさらに劣化するからか?」
問い掛けたのは無銘ニキだ。その質問に対してエドニキと二人で首を横に振る。
「【錬金術】のスキルは製造に便利なスキルの詰め合わせみたいな内容なんだが、技量差が諸に出るんだよ」
「俺とセツニキだから素材消費一対一で〝抽出〟出来ただけで、中堅ですら剣一本に五個分の素材使わないと完成しないんだわ」
つまり、一般俺達には産廃扱いされているスキルの一つだ。極めると物凄く便利なんだが。
「待ってください。それって新人がやると大変な事になりませんか?」
「大体素材消費一対十でゴミが量産されるぞ☆」
『『『うわ~……』』』
疑問を口にした人魚ネキも含む全員が呆れた様子で声を上げた。
ちなみに式神に突っ込むと最初から一対五スタートになる。そこからスキルの
探求ネキ作の錬金釜みたいな便利道具も多いしな。
「そんな産廃スキルをわざわざ使うヤツなんて居るのか?どう考えても要らんだろ」
「それがそうでも無いんだなこれが。【錬金術】は【霊力操作】さえ可能なら誰でも出来るし、本気で製造班を極めるなら必須なんだ」
素材に含まれる属性を見極める【解析】
素材のばらつきを抑える【均一化】
属性から因子を抜く為の【抽出】
抜き出した因子を一つに纏め、上位に変換する【昇華】
完成品を素材に戻す、または上位素材を下位素材に変える【分解】
工程に掛かる時間を文字通り短縮出来る【時短】
物質と霊体を繋げる【接続】
因子を複数組み合わせて完成品を生み出す
【錬成】
それを物質化する為の【魔晶変化】
これらのスキルを引っ括めて【錬金術】と呼ばれている。もちろん術式を床に描いて行う事も出来るぞ。
とはいえ他の生産スキルにくっついてるスキルも多いので、どちらかというと気が付けば習得してるスキルという立ち位置だな。
霊能の根幹が
「つまり、我々は鍛冶の他にも【アナライズ】で錬金術が出る様に頑張らねばならん訳だ」
「俺の作った
「それで満足出来るならセツニキに頼んでおらんよ」
「さよけ」
苦笑いをこちらに向けるアーチャーニキに肩を竦めて見せる。男のプライドって奴だな。いや、この場合は『エミヤ』として生まれた意地か。
「ま、出来る限りは付き合うさ。進むかどうかは人魚ネキのスケジュール次第だけどな!」
「出来る限り早めに予定を伝えますよ。私も試してみたいですし」
「無理はしないで欲しい。我々が望んだ事なのだ。幾らでも人魚ネキに合わせるさ」
「製造班のスケジュール的に人魚ネキの予定に合わせられるかは不明だな。ま、無理な時は手が空いてる古参を向かわせるから何時でも問題ないぞ!」
「分かりました。それじゃ今日は失礼しますね」
ペコリと頭を下げた人魚ネキが退室する。それを見送った後、アーチャーニキ達も退室を告げた。
「私達もここらで失礼するとしよう」
「だな。では、また」
「またな」
「おう、またな」
残るは製造班だけとなった室内。そこで大きく溜め息を吐き出し──告げる。
「俺達は黒鎧からデータ抜き取って解析するぞ」
『『『うぇ~い』』』
今夜は帰れるのかねぇ。
◇