【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
ゆらゆら揺れる優しい火が店内をぼんやり照らす。仏壇用の蝋燭らしい。安心感を得るより先に忌避感を覚えたのは、ウィスプを見過ぎたせいか、はたまた別の理由か。
ことりと音を立て、カウンターの上に置かれた生温いオレンジジュースで喉を潤す。
先程までの喧騒が嘘の様に静かなこの場所は、寺の隣にあるスナックバーだ。襲ってきた悪魔を全て黄泉送りにした後、息つく暇もなく連れてこられた場所なのだが──不思議と我が家に帰ってきた気がするのは、ここが〝ぼく〟の母親の職場であると同時に〝ぼく〟の面倒を見てくれた人達が居た場所だからか。
そんな事をぼんやり考えていると、目の前の〝ママ〟が口を開いた。
「旦那が隣の寺の先代でね。アタシが幽霊に怯えていた時に相談に乗って貰って、そのままズルズルと関係が続いてゴールインしたんだけど……まさか話半分に聞いてた事がホントになるとはね。しかも相手の片方はアタシのよく知る泣き虫じゃないか」
世の中何が起こるかわからんさね、と空いたグラスに手慣れた様子でオレンジジュースを注ぐ。
「残念だが俺はアンタの知ってる坊やじゃないぞ。記憶こそあるが、たぶんアンタの言う坊やは母親と一緒に死んだ。だからこそ俺が表に出てきたんだろうしな」
客の忘れていったであろう
「……悪魔憑き、ってやつかい?」
「さぁな。俺自身は天命を全うして死んだ、ただの貧乏神社の不良斎主だったからな」
あくまでも記憶が正しければ、だが。
「斎主……あぁ、神主かい。それならアンタはこの事態を解決出来るのかい?」
「俺とアンタの違いは抵抗できる力のあるなしぐらいだ。どうやれば現状を解決出来るのか、その為に何が必要なのか。俺にもサッパリわからん」
ついでに運良く見付けたとしても、
敵が【ハマ】や【ムド】を使ってくる奴だったら何も出来ずに死ぬ。笑えるぐらいにあっさり死ぬ。メガテンはそういうゲームだ。
「俺としては寺社に逃げ込めば何とかなると思ってたぐらいだ。記憶にある所は全部回ったが、アンタの所以外は全滅してたけどな」
「そりゃそうさ。この国の霊的組織は戦後に刈り取られたんだから」
「刈り取られた?」
「何でも戦時中に日本がアメリカのお偉いさんを呪殺したとかで、その報復で葛葉を筆頭に各地の霊的組織は根切りにされたらしいよ」
アタシの旦那はミソッカスだから見逃されたって言ってたけどね、と客の煙草を取り出して火を付ける。
俺も二本目を頂き、また火を付けて貰う。
「って事は外からの援軍や解決は望めないと?」
「根願寺が生き残ってるって噂だけど……ここいらまで来てくれるかは知らないね。アイツらは基本的に東京から出てこないし、うち以外のとこも自分の所に湧いた【異界】の対処で精一杯って話だ。それでも霊能力者が一人も居ないウチよりはマシだろうけどね?」
飲まなきゃやってられないと全身で表しながら、グラスに注いだウィスキーを飲み干すその姿は歴戦の女傑に見える。
何でも旦那亡き後は表で金を稼ぎ、その金で
騙されながらも信頼(?)出来る闇召喚士を徐々に増やし、少しでも居着いて貰う為にアレコレ頑張っていたらしいが……ほんの数日前、メシア教が闇召喚士狩りをしたそうだ。
その後すぐにメシア教に入信するならこの街を守ってやると言われた時には街を捨ててでも殴ろうと思った、と語るママの目は殺意に溢れていた。さもあらん。
とはいえ愚痴ってばかり居ても仕方ない。
「旦那の遺品や寺に残ってる霊的な装備は無いのか?もしあるなら解決は無理でも脱出する為の出口を探すぐらいは──」
「闇召喚士への依頼の為に全部吐き出したさね」
「……全部?」
「全部さ。旦那の遺品も、周囲の寺社に眠っていた霊験あらたかな物品は全部ね」
「おう……」
そこまでして築き上げ物が一瞬で無に還ったとすると、
むしろまだこの街を守る意志が残っている事を素直に称賛するが……無い袖は振れない。
(本格的に俺一人で逃げるか?〝ぼく〟は不満だろうが、死ぬよりはマシだろう──ん?あれは……)
ふと見上げた先に貼られていたのは、一枚のお札。
商売繁盛と書かれただけの、霊的な要素を全く感じないただの紙。だがそれが逆に俺の古ぼけた脳みそを刺激した。
「筆と墨と出来れば和紙はあるか?出来れば霊的な品なら嬉しいが──」
「無いよそんなもん。……筆ペンと坊の為に買った折り紙ならあるね。それが嫌ならメモ帳かコピー用紙ならあるよ」
「……折り紙で頼む」
「あいよ」
返事と共にカウンターの裏に消えていったママは、すぐに頼んだものを抱えて戻ってきた。
「何するか聞いても?」
「ウチの神社に伝わる術を試そうと思ってな。藁にもすがる思いってやつだ」
貰った折り紙を半分に折って切り取り線を付け、そのまま線通りに切り取る。
前世では全く意味の無い、観光客やネット民達を喜ばす為の、エフェクトを付ければ動画映えするだけの技。平安より前の時代からあるうちの神社が、歴代の斎主に変える事を許さず、ただ脈々と受け継がせてきた〝歴史〟とも言えるモノ。俺はそれで良いと思っていたし、息子や娘にも変えなければ良いから好きな様に使えと伝えた術。
書き込む前に椅子に胡座をかき、目を閉じる。
何年も、何十年も繰り返してきた動作だが、前世では感じなかったモノを今世では確かに感じとる事が出来た。
その感じ取ったモノを右腕に持つ筆ペンへと注ぎ込み、折り紙に書き込む。
書く文字は──『悪霊退散』
この糞ったれな現状を打破出来そうな強い言葉。
その願いが前世の祭神に届いたのか、はたまた俺の力量なのか。書き込まれた折り紙は確かに霊力を放ち、白い靄を纏っていた。
「……正直、失敗すると思ってたんだがな。どうやら
「半端者のアタシの目に見えるぐらい霊力を纏ってるね。それに──」
ママの指に挟まれた折り紙はピンッ!と張ったまま、ヘタれること無く堅紙の様に立っていた。
「種も仕掛けも無くこんな事になるなら信じられるだろうよ」
◇