【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録   作:Lilyala

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岩手支部の看板娘5

 

 

 酒と温泉と女体に溺れる、怠惰で、淫靡な休暇を過ごしてから早一月。愛宕ネキ達の予定が空いたので、再び岩手支部にやって来た。

 

 顔パスで黒札棟の受付を抜け、艤装関係の開発を行っている部署に向かうと、すでに製造班は慌ただしく動いている。どうやら彼ら、彼女らも楽しみにしていたらしい。

 

 

「あ、セツニキさん。いらっしゃい。隅の方で珈琲でも飲んで待ってください。すぐ用意しますから」

 

「今ならアタシも付き添うわよ~ん♪」

 

「テメェは働けやッ!」

 

「DV反対!!」

 

 

 ケツに蹴りを入れられながらも、テキパキと機器の設定を行う手には淀みが無い。一族にも居たが、何でオカマキャラって優秀な奴が多いんだろうな。

 

 そんな事を考えつつ備品のインスタントコーヒーをお湯で溶かし、コーヒーに変える。本格的な珈琲も好きだし、缶珈琲も好きだし、インスタントでも満足出来る。実に便利な舌を持っていると自画自賛していると、岩手の製造班を纏める黒札──〝親方〟がこちらにやって来た。

 

 

「こちらが本日行う実験の予定表です。詳細はこちらの資料になります」

 

 

 手渡された資料を読み込む。……ふむ。

 

 

「もう〝氷の船〟を組み込んだのか」

 

「ええ。起動実験のデータは貰いましたが、レベル五十越え(高位霊能者)のデータしか無かったので。改良した艤装の起動実験も兼ねて愛宕支部長達に手伝って貰おうかと」

 

「組み上げた俺が言うのもなんだが、もうちょい使いやすくするべきだったかねぇ」

 

「元ネタが〝女王艦隊*1〟だからか、消費霊力凄いですよね」

 

「実は術式のモデルになったのは、スペインの〝無敵艦隊*2〟なんだけどな」

 

「アルマダ沖では使えませんね」

 

「メシア教の敗北の歴史から引っ張ってこないとイギリス支部*3が攻められるんだよ」

 

「あー……」

 

 

 術式の持つ汎用性──才能が要らないという利点は、時として欠点に変わってしまう。今回はそこに配慮した結果になる。

 

 解析して流用しようとしても、術式の基礎部分にカトリック限定を組み込んだので、ローマ教皇を()()()()()として扱わないメシア教徒には使えない。

 

 というか、メシア教が訳わからん。

 

 何でお前らはローマ教皇を特別視しないプロテスタントムーヴ決めておきながら、聖母マリアは特別視するんだ。それはカトリックの領分だぞ。

 

 ちなみに意外に知られていない正教会というカテゴリは、ローマ帝国の東西分離が原因だ。西の方はカトリックとプロテスタントに別れ、東は正教会として纏まった結果となる。

 

 つまり、キリスト教はローマ帝国の分離と共に三つの教派に別れた訳だ。そこから都合の良い様に教義を解釈するメシア教が生まれ、今に繋がっている。それが()()()()の一神教の歴史だ。

 

 うーん……このメシア教の異物感が凄いな。人間らしいとも思うが。

 

 

「もしメシア教が手に入れたとしても、メシア教徒が使う事はあるんですかね?あちらは『ノアの方舟』を使う気がしますけど」

 

「ノアの方舟に〝天使〟の席は無い*4んだぜ」

 

「身内席で乗り込むとか出来ません?」

 

「大洪水から逃れられる様な性能を発揮する以上、術式の起動条件はガチガチに縛られると思う。それこそ、洗脳して親の振りをしても不可能だろう」

 

「…………成る程。それなら術式を渡すわけには行かないですね──っと。支部長達が来たみたいです。挨拶に行ってきます」

 

「おう。いってら」

 

 

 班長を見送り、珈琲を一口。深く尋ねてきた理由は、メシア教の為に艤装を作りたくないからか。術式を渡せば、艤装に求められてる〝海上防衛〟は出来るもんな。

 

 

「残念だが、俺もメシア教の為に術式を組みたくないんだ」

 

 

 個人個人では仲良くなれるが、組織としては信用も、信頼も出来ない。それが俺がメシア教に下した評価だ。これ以下になる事はあっても、これ以上になる事は恐らく無いだろう。

 

 

 

 

「うーん……思ったより消費霊力上がっちゃったなぁ」

 

「これ幹部クラスは良いけど、一般黒札レベルだと辛く無い?たぶん穏健派の霊能者も同じぐらいだよね?」

 

「でも【氷結耐性】と【水擊耐性】と【海上走行】は削れんぞ?デモニカ流用して作ってるせいで、弱点はデモニカ依存だし」

 

「報告書に纏められた悪魔一覧も大半海魔だしねぇ。……何でか知らんけど、仲間である筈の天使にも襲われてるけどな!」

 

 

『『『それなッ!』』』

 

 

 特に紅海辺りは地獄絵図だ。メシア教の天使と中東系天使が争い、第二次世界大戦の亡霊がさ迷い、幽霊船に取り込まれた海賊が跋扈している。さらには多神連合の好戦的な一部が暴れているのだ。もはや普通の船で抜けられる海域じゃない。

 

 たぶん、百年後には〝船の墓場〟と呼ばれると思う。人類がそれまで生き残れるか知らんが。

 

 

「砲撃能力削るか?そうすりゃ多少はマシになるだろ」

 

「攻撃はどうするん?」

 

「両手空いてるんだし、適当な火器でも使って貰えば良いだろ」

 

「んー……移動と防御に極振りか。もはや艤装じゃなくて水蜘蛛だな」

 

「まぁ、メシア教に輸出する艤装はそれで良いとして……この問題を解決しなきゃ黒札に売れなくない?」

 

「自衛隊と協力してるお陰で多少の火器は手に入るけど、ガトリングとかはまだなんだっけ?」

 

「アサルトライフルすら辛いぞ。後、弾薬の確保もキツイ」

 

「むぅ。このままだと売れないか。俺も買わないし」

 

 

 小火器程度なら手に入る環境になったが、まだまだライフルやバズーカと言った大型火器は流れてこない。いや、大陸や赤の国の裏ルートなら仕入れられるんだが、一般黒札にそれを求めるのは酷だろう。

 

 

「セツニキさんッ!!アイディアください!!」

 

「取り敢えず、愛宕ネキ達を休ませてやるべきじゃないか?──海上で待ち惚け食らって怒ってんぞ」

 

 

『『『……あ』』』

 

 

 ニッコリと笑みを浮かべる三人の艤装に取り付けられた砲塔は、こちらをしっかり狙っている。

 

 

『……何か言うことは?』

 

 

『『『すいませんでしたッ!!』』』

 

 

 という訳で、一旦休憩を入れる事となった。

 

 

 

 

 「途中経過は聞いたけど、貴方には何かアイディアでもあるの?」

 

 

 前回と同じ格好のまま黒札専用の食堂で食事を終えた愛宕ネキが、体を暖める目的で頼んだコーンスープ(コンポタ)片手に尋ねて来る。

 

 

「一番手っ取り早いのは、現在の方式からバッテリー式に切り替える事だな。航行時間を術者依存じゃなくてバッテリー依存にするんだ。そうすりゃ、本体は艤装で攻撃出来るだろ」

 

「そっち方面詳しくないんだけど、どれくらい持つ計算?」

 

「現状だと、たぶん二時間ぐらいだな。常時同行は厳しいから即応は無理になるが、緊急時の護衛なら十分だろ。それ以上の長い時間、戦闘が続くようなら輸送船の方が先に沈むだろうし」

 

 

 周囲に聞こえる様に話してやると、製造班が慌てて食事を掻き込み、食堂から出ていく。……いや、一人だけのんびり食事してるな──あっ、連れてかれた。

 

 

「今の方式のままは無理なんですか?」

 

「本体の霊格上げれば大半の問題は解決するぞ?それでも常に同行するなら四十は必要だと思うが」

 

「四十……」

 

 

 呟いた高雄ネキの視線が愛宕ネキに向く。ちなみに岩手支部は愛宕ネキと扶桑ネキが四十を越えた辺りで、その下に高雄ネキが三十半ばとなっている。

 

 その後にぎりぎり三十の人間が数人続き、残りは二十代でまったりしてる黒札ばかりになる。

 

 一応、つるはしニキは九十に届いていた筈だが、殆ど山梨在住なので、即応戦力としては数えられない。何かあれば駆け付けるとは言っていたが。

 

 

「最低でも私クラスなんて現実的じゃないわね。黒札の大半は三十以下なんだし、このまま作ったら売れない商品になるわよ?」

 

「一応、本人の霊力さえあれば動く艤装にも需要はあるのよ。終末後の事を考えると近海を掃討する為の手段は必須だし、実際に海が近い支部や派出所から打診があったわ」

 

「それでも売れて三十も行かないんじゃない?四十越えてるなら私達の様に高級式神で作った方が良いだろうし、メインの購買層にするには危険だと思うけど」

 

「山梨の予算で技術開発出来る機会なんてそうそう取れないし、出来れば支部を潤す商品か、技術が一つでも多く欲しいんだけど……」

 

 

 ちひろネキはお金にがめつい……金の亡者……大好き、これだな。お金が大好きなので、組織から金を出す基準はかなりシビアだ。

 

 艤装関係の技術からほんの少しでも逸れたらまず間違いなく認可してくれないし、下手すれば研究権利自体を別の支部へ移される。

 

 だが下請けで満足するなら高雄ネキは支部の金庫番は名乗れないし、製造班は代わりが幾らでも居る歯車に成り下がる。

 

 自身の価値を示すには、ちひろネキが許可を通すギリギリの技術を見極め、さらにそこから商機に繋げなければならないのだ。

 

 支部長もそうだが、幹部に伸し掛かる重圧は結構な物。そりゃ、前世社会人やってた俺達がやりたくなる訳が無い。

 

 

「あの、セツニキさん」

 

「ん?」

 

 

 二人の会話を黙って聞いていた扶桑ネキが意を決した様に口を開く。

 

 

「な、何か良い案あったりしませんか?私に出来る事なら何でもしますからっ!」

 

 

『『『ん?今、何でもするって言った?』』』

 

 

 黒札専用の食堂故に、この場に居る全員が扶桑ネキの()()に乗る。

 

 それに気付いた扶桑ネキが顔を真っ赤に染め、椅子の上で蹲る。可愛いかよ。

 

 とはいえ俺も万能じゃない。この可愛い生き物(扶桑ネキ)の願いを叶えてあげたいが──

 

 

「残念だが扶桑ネキ。普通にあるぞ」

 

「そ、そうですよね。セツニキさんも──えっ?」

 

 

 ふっ。歩くネタの宝庫を自称する俺を舐めるなよ。

 

 

 

 

 

 

*1
旗艦、また同名の大魔術『アドリア海の女王』を護衛する融点の変化した氷で構築された巨船による大艦隊の総称。ローマ正教の保有する【聖霊十式】の一つらしい。原作だと対ヴィネツィア、及びそこから発展した文明を破壊するというピンポイントな能力だったりする。

*2
16世紀スペイン全盛期の強力な艦隊の事。1571年に起きた『レパント海戦』でオスマン帝国海軍を破り、無敵・最強と言われた。1588年にエリザベス一世がぶち破ったのがアルマダ海戦。勝因は色々あるが、フランシス・ドレークのカディス港テロと長距離砲の数らしい。

*3
謎の食通様作 終末が来たりし世に英傑の旗を掲げよ に登場する海外支部。お借りするぜ!

*4
ノアと呼ばれた少年とその家族、そして動物を乗せる様にとしか神の啓示を受けていない。

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