【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
「まずはお借りしていた十万マッカをお返しする。します?取り敢えず有難う御座いました」
ペコリ、と頭を下げる幼女ネキに軽く手を振り、マッカの詰め込まれたスーツケースを控えていたアイに渡す。
「確かに受け取った。代わりにこれをやろう」
「おお。噂の修羅Tだ」
嬉しそうにビニールに包まれた修羅Tを掲げるようじょネキとは対象的に、
まぁ、今着ている衣装も式神セレクトの品だろうし、ネタTが許せない気持ちも分からなくは無い。
うちの嫁達は普通に着るので、そこらへんは嫁との接し方の差かね。
「ちなみにその修羅T、実は並大抵の霊装じゃ太刀打ち出来なかったりするぞ」
「む。そうなのか?」
「ほれ。自分の目で確かめてみな」
【アナライズ】機能付きのモノクルを手渡し、修羅Tを見る様に促すと──幼女ネキが固まった。
ちなみに修羅Tの性能はこんな感じだ。
★ガイア連合山梨支部対終末対策霊装その3(衣類)
装備可能レベル1〜 推奨レベル30〜
スキル・物理耐性 環境適応*1 清潔*2 再生*3 自動調整*4 同化*5
「な?凄いだろ?」
「こんな凄い物をタダで貰って良いのか?お金ならあるぞ?」
「要らん。実はこれな、どちらかと言うと売れ残り商品なんだわ」
「売れ残り?こんなに凄いのに?」
「凄いからこそ、だな」
今では修羅Tと呼ばれる様になったこの霊装の開発時期は、実はガイア連合が発足した時期まで遡る。
当時の俺達は終末という物を深く理解しておらず、取り敢えずポストアポカリプスの様な世界観になるだろうという漠然とした考えの元に動いていた。
何がどれくらいか必要か分からぬまま、手探りで色々な事を試す日々。必然的に俺達の頭に過ったのは、衣食住の確保だった。
「住に関しては核にも耐えられるシェルターを建設する事に決まった。食に関しても、終末後でも困らない様に技術や種を残す事が早期に決まったんだが、問題になったのは衣類でな。現代の様に飽和する程の量産を維持する事は不可能、さらには洗濯が厳しいんじゃないかって結論になった」
「だからこの霊装を作ったのか?」
幼女ネキの言葉に頷く。
「水源が毒系の悪魔に汚染される可能性がある以上、無駄遣いは出来ない。川で洗濯って手段もあったが、悪魔が闊歩する中で呑気に洗ってなんて居られない。必然的に着たきり雀でも許される性能を求められ、当時は暇だったショタオジと一緒に機能を追加して行ったんだが……」
「だが?」
「俺とショタオジの想定以上に俺等がレベリングしなかったんだよ」
この霊装は着たきり雀になる事を前提としていた関係で、平時に垂れ流している霊力を霊装に回す事によって発動する仕組みとなっている。
着るだけならレベル一でも大丈夫だが、想定以下のレベルで着ると、霊装に徴収される霊力を賄えず、どうやっても霊力が枯渇してしまう。つまり、呪いの装備と化した。
「マヨヒガを開放した辺りから存在が危うかったんだが、トドメを刺したのは悪魔召喚プログラムでな?インストールするだけで異界でも機械が稼働する様になった以上、こんな呪いの装備は要らんだろ?」
「だからタダで配ってるのか……」
「性能自体は良いからな。俺が全部買い取って三十到達記念として配ってるんだ。だから遠慮なく使ってくれ」
「分かった。有り難く使わせて貰う」
ちなみに元々は無地の普通のシャツとチノパン、下着類のセット装備だった。初期生産分を配り終えた頃には存在意義が怪しくなり、シャツのみの生産になった感じだな。
一応性能的には良い物なので、生産ラインは未だに残っているが……たぶんその内閉鎖されるだろう。
「さて、今日は泊まっていくんだったな。部屋を用意させるが何か希望はあるか?」
「ノワール……嫁と二人で泊まれるなら何処でも大丈夫だ」
「じゃ、一般客室で良いか」
霊符から取り出した木札を机に滑らせ、幼女ネキの元へ送る。
「それを受付に見せれば部屋まで案内してくれる。他に何か質問はあるか?」
「明日も鍛練を頼みたいのだが大丈夫か──ですか?」
「慣れてないなら敬語じゃなくても良いぞ?」
「助かる。鍛練を頼みたいんだが大丈夫か?」
「俺だけが相手すると経験が片寄るからな。別の相手を見繕っておくよ」
「分かった。楽しみにしておく。それじゃまた明日」
式神を引き連れて部屋を出ていく幼女ネキに軽く手を振り、脳内で対戦相手を決める。
レベル三十を越えたばかりの幼女ネキより強い奴は、今の星祭には大量に居る。宮城支部には同格が居ないっぽいから同格同士で戦わせるのも貴重な経験になるだろう。
「でも、まずは
星祭が誇る理不尽代表の一人を味わうが良い。
◇
「ハァッ!」
「痛いわ~ん」
実戦では使い物にならない様な悪手。敵に待って貰わなきゃ当たらない様な大技。
鵺としての特性を生かした大空からの急降下ダイブが直撃して尚、敵は健在だった。
「良い威力ねぇ。下手すれば四十代の威力が出てるわ~」
「言ってくれる……!」
高速で飛び回り、連擊を叩き込む。空を駆けるという〝鵺〟の特性を存分に生かした攻撃は、対峙する相手をその場に留めるには十分。だが
「その程度じゃ駄目よ~ん?」
「これでも駄目か……!」
一旦距離を取り、魔法で牽制する幼女ネキに対し、星祭の理不尽は仁王立ちしたまま全てを受ける。攻めているのは幼女ネキで、押してるのも幼女ネキ。だが勝利の二文字は圧倒的なまでに遠かった。
「セツニキが私を一番手に持ってきた理由を考えなさいん。今の自分に足りない物がある筈よん」
「ダメージを与えている手応えはあるんだがな」
「ええ。確かにダメージは
「自然治癒特化の高位霊能者がここまで厄介だとは……!」
幼女ネキが驚くのも無理は無い。ギミック抜きでここまでの再生力を誇る悪魔は、少なくとも下層にすら存在しない。
ゲーム風に言うならば毎ターンHPの八割回復し、状態異常を回復し、デバフを無効化する。
勝つ為には回復量を上回る連擊を叩き込み続けるか、一撃必殺で片付けるしか無い。どちらの手段も持たないならば、決して勝利する事が出来ない存在。
それが星祭が誇る
「修羅勢は本当に理不尽の塊だなッ!クロネキですら一番上では無いのだろうッ!?」
「そうよ~。アタシを越える人間はたくさん居るわ~」
指示通り理不尽の難易度を上げる為、クロネキが大楯を使い始める。ただそれだけで、幼女ネキの攻撃が何一つとして通らなくなる。
「【雄叫び】!【パニックボイス】!」
「普通なら搦め手は間違いでは無いわん。でも、アタシぐらい良い女だと悪手よん♪──【エコー*6】【ラスタキャンディ】【リカバリー*7】【パーマネンス*8】」
「バフ!?──くそッ!!」
「戦闘中に焦ったら駄~目♪【エコー】【ランダマイザ】【パーマネンス】」
「が……!」
勝負あったな。今の幼女ネキじゃクロネキの【パーマネンス】は外せない。全能力を下げられた状態だと動くのすら辛いだろう。
「さて、言う事は?」
「参りました」
「良くできました。──【ディスペル】【浄化】」
掛けていたデバフを纏めて吹き飛ばし、幼女ネキを立たせた後に戦闘の汚れを消し飛ばす。
「まだ大丈夫だと思うけど、終末後はアタシの様な存在も現れると予想されてるわん。だから常に頭に逃走する事は入れておかないと駄目よん」
「むぅ……逃げるのは嫌いだ」
「それなら強くならなきゃね。頑張りなさい、応援してるわん」
ソーマ*9を手渡し、優しく幼女ネキを撫でたクロネキが観客席に飛んでくる。代わりに鍛練場に降りたのはトラップの驚異を教える予定の双子ニキ(弟)だ。
「お疲れ。助かったわ」
「いえいえ。単純な理不尽はセツニキの苦手な分野だしねぇ」
「隣の芝生が青過ぎて困るわ。どうやってもお前らみたいな理不尽は出来ないからな」
「【煩悩即菩提】は理不尽だと思うけど、毛色が違うものね」
苦笑いするクロネキに苦笑いを返す。便利なスキルだが、驚異と言う程でもない絶妙な位置のスキルなんだよなぁ。
「双子ニキの後は決まっているの?」
「Sネキの封殺を味わって貰おうかと。その後は同格と鍛練して貰う予定だ」
「あー……
「下層に行くなら無駄にはならんだろ」
何となく視線を鍛練場に向ける。そこには様々なトラップに嵌まり、だけど楽しそうに対処する幼女ネキの姿が。
「早く私達の位置まで来て欲しいわねぇ。次は本気で遊びたいわん」
「心配せずともすぐに来るだろ。愛されてそうだしな」
ガイア連合には創設期から鍛練を繰り返している俺達にあっという間に追い付く奴等がチラホラ居る。その事に思う所が無い訳では無いが、駆け抜けた経歴を見ると、羨むより先に哀れみが来る。
重い過去、死闘、離別。超えられないなら死ねと言うべき試練の数々。何というか、本当にこの世界は糞過ぎる。
◇