【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
敬愛する主からの指示でオリュンポスを脱出したアイは焦っていた。契約で繋がっている主から流れて来た、今まで感じた事も無い焦燥感。
どんな時にも揺らがない存在だと勝手に思っていたが故の、自身で気付けぬ苛立ちと怯え。
それでも与えられた役目を果たそうと、探知能力を全開まで広げ、目的の人物を探す。
「────見付けたッ!」
焦るように【転移】を繰り返し、探し人の元へ飛ぶ。
「弟様──」
「アイちゃんか。悪いな、今、動けねぇんだ」
助けを求める声を遮る様に告げられた拒絶の言葉。それに苛立ち、荒げた声を上げようとして──気付く。
「何なんですか……これは……!」
「ショタオジの分身が言うには
オリュンポスを灰色に染め上げる結界。それも一つ二つでは無く、数える事を諦める程に複雑に絡み合った魔法陣によって構築されているそれは、ガイア連合に所属するほぼ全ての修羅勢と、普段は図書館で過ごしている者達すら駆り出されて解除を試みているにも関わらず、未だ揺らがず、動かず、健在だった。
「深層クラスの悪魔、俺達の霊力、地形の位置、星振。この異界に存在する全てが
「そんな訳無いだろうッ!こんな事が……
溜め込んだストレスを解放する様にアイが叫ぶ。しかし仲間内で双子ニキの弟の方と呼ばれている男は揺らがない。
「セツニキが何時も言ってただろ。現実は空想を軽く越えてくるって。だから〝力〟が無けりゃ生き残れないって。
冷たい拒絶とは違い、何処か暖かい厳しい言葉。その間にも凄まじい速度で解除されて行く
才能だけでは、努力だけでは辿り着かなかった領域。〝盗神〟としての権能をフルで発動するその姿は──神を彷彿させる程に神々しかった。
「……済まない。私も焦っていた。主様から流れてくる焦燥感がここまで大きい事は初めてでな」
「まぁ、流石のセツニキも焦るだろうな。俺も身内が巻き込まれてなきゃむしろ称賛していたよ」
ただ隔離するだけに留まらず、結界の中の存在を未来に飛ばす最上位術式。この時間軸には存在しないが故に、
時空神を主軸に予知や観測を行い、未来を固定する。
その様な絵空事を真面目に成立させているのだ。それを可能とした
「私も手伝おう。ギミック解除系のスキルは上の下程度だが、貴方の小指程度にはなる筈だ」
「助かる。……〝運命〟だか何だか知らんが
自らを鼓舞する様な言葉と共に作業速度が速まる。それに続く様にアイも自身が解除出来そうな
◇
敵には不利を、味方には有利を。〝闘争〟なんて物は、結局のところそれを突き詰めた物に過ぎない。
日々の訓練は味方が有利になる為の動きを覚える為であり、敵が不利になる為の動きを条件反射で行う為に繰り返す物。
それは山梨だろうと星祭所属であろうと変わらず、俺らの大半がパーティーを組んで異界に潜るのもその為だ。
だから、今回の様に分断された状態で始まる戦は──得意なんだよなぁ。
「馬鹿野郎ッ!俺は逃げるぞッ!」
「おうッ!この山梨が誇るスピードスターに追い付けるかな!?」
「後方に向かって全速前進DA!」
「今、社長居なかった?」
ふざけながらも最小限の防御だけで脱兎の様に逃げ去る俺達。〝軍人〟としての概念を付与されている異形の者達はその敵前逃亡に等しい動きに戸惑い、一手、二手と動き出しが遅れ、獲物だった筈の俺達をみすみす見逃してしまう。
「
「味方一杯居るもんねぇ」
「トップ陣の喧嘩の中に比べればそよ風過ぎる」
「それな」
駄弁りながらも異形の魚介類から放たれる【バリオン】クラスの水撃を避ける俺らの動きに迷いは無い。
どれ程の量、どれ程の威力を揃えようとも、圧倒的な個の蹂躙に比べれば、まだマシなのだ。
気配を消してひっそりと、そして確実に一体一体刈り取っていく。敵の感知範囲、視線範囲は把握した。後はそこに入らない様に移動しつつ刈り取るだけの作業。
セツニキってキャスターっぽいけど、本職はアサシンだよね。と言われた前世の技能は伊達じゃない。
「うーん……これセツニキ居るっぽくね?」
「んー……この光景は第一鍛練場で良く見た光景」
「じゃ、命大事にしつつヘイト取るかな」
「ういおー」
闘争していた俺らが【殺意の領域】を発動。それで狭まった感知範囲を利用して敵を仕留めて行く。
この様な状況になっても未だスキルを使わず、氷の剣を振るう俺らの冷静さには感謝しか無い。
焦ってスキルを連打すれば、次の試練に【全属性完全耐性】持ちが生まれても可笑しくないからな。
程無くして戦闘終了。【念話】でムラサキを呼び出し、後を任せて深海を
泳いで襲い掛かるあちらに対し、俺らが
どんな環境に居ようと自身の存在を揺るがさなければ、世界に自分を押し付けて従わせられる。
分かりやすく言えば、あちら側は深海、こちら側は地上のルールで戦っている。もちろん、ほんの少しでも自信が揺らげば、容易く深海に引き込まれてしまうが。
それから暫くは遊軍に徹し、散らばった俺らの回収に専念する。ムラサキやオオマチも動いているという事もあり、程無くして召集は完了。ボス戦へ移行する。
『ムラサキ、オオマチ。三点結界張るぞ。ギンとセリスはボスへ向かえ』
返事と共に式神達が移動する。その動きからやる事を把握したジャンヌネキが持ち前の氷結特化の力を遺憾無く発揮し、試練の駒に成り下がったポセイドンの様な物を範囲外に吹き飛ばす。
「巻き込まれんなよッ!────〝加重結界〟!」
超重力とも呼べる、地球とは比べ物にならない重力がクトゥルフ共を縛り付ける。雑魚なら押し潰せる程の威力はあるんだが……腐っても深層のギミックだな。動きは止められても潰されてねぇ。
「舞台は整ったのう!それじゃ皆の者──総攻撃じゃ!」
『『『うぇ〜い!』』』
グラ爺の発動した【士気高揚*1】に何時も通りの返事を返し、氷の剣を片手に突撃する。
一番槍は──やっぱりジャンヌネキか。
「氷結属性で俺より強い奴は居ねぇ!」
軽く振るったアイスソードから放たれる【マハブフバリオン】が世界を銀色に染める*2。さらに【ブフバリオン】を宿した剣で【氷龍撃】に繋ぎ──
「【絶対零度】!【大冷界】!【原初の水】!【羅刹断ち】!【氷迅斬り】!」
さらに【氷砕裂破】【ヘルストリーム】【氷滅世界】【大瀑撃】【リーサルフロード】【ティアドロップ】【無尽氷舞】【フロストコメット】と続ける。
とはいえポセイドン──否、ディオメデス・ポセイドン〜クトゥルフ添え〜とも言うべき目の前の異形は、腐ってもこの異界のボスだった存在だ。ここから華麗に反撃を開始する──
「────■■■■■■ッ!」
「五月蝿せぇ!黙って死ね!──【始原の轟渦】!」
事は出来ず、行動の始動を全てジャンヌネキに叩き潰され、サンドバッグと化した。
「特化型は恐ろしいのう」
「次から役立たずになるからの。霊力を気にせず済むならああなるわい」
のほほんと会話する三老の二人にギンに騎乗したセリスが近付いていく。
「私達も行くわ。彼女程では無いけれど、私達も氷結特化だし」
「セリスちゃんはまだ役割あるから良いじゃんさー。ウチとかジャンヌネキと殆ど同じなんだぜー?」
「俺も同じ。頂点はショタオジじゃなくてジャンヌネキなんだわー」
「了解じゃ。不必要な気しかしないが、援護は任せておけ」
「頼んだ〜……じゃ、行きますかね」
山梨の氷結使いの言葉に軽く頷き、氷結特化の俺達がポセイドンに突撃する。
ショタオジやカヲルニキが上に居る火炎属性とは違い、ジャンヌネキと彼らに大差と呼べる程の差は無い。
その結果──何が起こるかと言えば。
「ヒーホー!【キングブフーラ】!」
「【ティアドロップ】」「【氷迅斬り】」
「【海龍の猛威】」「【フリーズゲイル】」
「【復讐の氷拳】」「【ハラーハラ】」
「【龍王の怒り】」「【轟く本流】」
ジャンヌネキ個人が出来る事は、多少の違いがあれど全員行える。特化型修羅勢は伊達では無いのだ。
そんな中に混じって【羅刹断ち】のみで戦うセリスは、何と言うか浮いている。いや、仕方ないんだけどな?
セリスは俺の式神という事もあって、基本的に氷結+万能属性の〝色〟が濃く出てしまう。
劣勢の時ならともかく、こんな優勢な状況で敵に【完全耐性】を渡すのも馬鹿らしい。