【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
大きく溜め息を吐き出し、天を仰ぐ。考えるのは、もちろんこれからの事だ。
単純な殲滅力に関して言えば問題無い。修羅勢も多く居るし、広範囲殲滅が得意な人魚ネキも参戦している。
問題なのは
「つまり、俺らはどうすれば良いんだ?」
「ちょっと考えてる。時間をくれ」
尋ねてきたハルトニキに断りを入れ、灰色の脳細胞を動かす。異界全域が深海となってる以上、戦えるのは修羅勢だけだ。
人魚ネキは耐圧訓練とかやってないだろうし、配置するなら外部だろう。不安要素は過激派の施設への強襲の経験が無い事か。
経験しなくて済むなら触れない方が良い事に間違いないが、俺らが〝SAN値チェック〟という言葉を使ったからにはマトモな見た目をしていない可能性が高い。
さらに言えば【狂気耐性】を始めとする対クトゥルフ系のスキルも無いだろう。あれは何度も対峙する内に慣れるもんだし、本人の性質とは関係無いしな。
「すまん、セツニキ。俺にはセツニキが何に悩んでいるのかサッパリ分からん。修羅勢を投げ込めば済む話では無いのか?」
「あーセツニキは忙しそうだから俺から説明するわ。基本的にクトゥルフ関係は精神系の状態異常とは別の判定で精神を揺さぶってくるんだけど、それのせいで一定レベル以下を切り捨ててくるって言うのかな。とにかく今回の作戦に参加してる人間の大半が良くて戦闘不能、悪ければ発狂からの自害や同士討ちになるんだ」
「素直に修羅勢に任せて撤退では駄目なのかね?」
「異界を割るだけなら簡単なんだけどね。セツニキが頭を悩ませているのは割った後の事なんだよ。クトゥルフ系の悪魔が四方八方に散って、万が一にでも日本に辿り着かれたら酷い事にしかならないからさ」
「……成る程。それは厄介だね」
苦い顔をしたヤンニキの気持ちは良く分かる。ショタオジが沿岸部に結界を張ったとはいえ、この大事な時期に余計な負荷が掛かると、終末時にどう転がるかが予測が付かない。
軽度なら日本神達で浄化出来ると思うが、重度の地脈汚染まで行けば、間違いなくS案件となる。何時東京に核が降ってくるか分からない現状で、ショタオジを山梨から動かすのは今までの努力が無駄になる愚行だ。
「修羅勢だけで殲滅──は無理か」
「八割は倒せると思うよ?自慢じゃないけど、俺ら修羅勢はそれが出来る存在だし」
「でも、残り二割はどうしようも出来ない?」
「海上や上空の奴なら何とかなる。それは断言出来るんだけどね?大型ならともかく海中に小型の奴をばら蒔かれたら【気配察知】で拾えるか微妙だと思う」
「結界で閉じ込めてから殲滅するのは?」
「術式って何でも出来る様に見えて制約も多くてさ。海みたいに常に〝揺らぐ〟場所だと結界を張るのも困難で、張れたとしても馬鹿みたいに弱くなるんだよね」
結界の多くは〝線引き〟が基本だ。波の様に常に揺れ動く場所に紙を置いて、道具も使わずに綺麗な正方形や円を描ける変人ならともかく、普通の人間にはまず不可能な技だと断言出来る。
もし出来るなら〝天才〟と呼ぶべき領域の存在だろう。それこそショタオジと同等レベルの才能でも可笑しくない。
「セツニキでも無理なのか?」
「出来るよ?でも、今のセツニキは深層で死にかけて療養中だからね。流石に
「他の術者ではどうなんだ?」
「術研も含めて何人か居るけど、霊格不足で抑えられないと思う。というか結界をすり抜けられる可能性も普通にあるんだよね」
「…………は?」
予想外だったのか、呆けた顔で声を上げてしまったハルトニキに対して、黙って話を聞いていた術研の俺達が口を挟む。
「高位分霊や修羅勢が使える簡易領域ってさ。出力次第で結界を上書き出来ちゃうんだ。あれって簡単に説明すれば異界作ってる様なもんだからさ」
「結界は自身の望む領域を区切る技術。術式が神や悪魔の権能を真似た物だとすれば、結界術式の大本は──」
「うん。悪魔が良くやる
望む世界を創る異界生成を人間の領域に落とし込んだ物。それが結界の本質だ。
悪魔や高位霊能者ならここからここまで俺の世界な!で終わる話なんだが、それをわざわざ線を引き、この線の内側は俺の世界な!と主張してる訳だ。
もちろんそんな面倒な事をすれば、その分だけ異界を創る目的である自分に有利な世界なんて作れる訳が無い。だから追加で回復効果やら浄化機能を別の術式で再現する必要がある訳だ。
「その説明だと陰陽結界はなんなのだ?セツニキの使う陰陽結界は空中に投影出来ているぞ?」
「霊符を基準に周囲を線引きしてるんだよ。視覚的にも中心を定めやすいし、霊符の大きさを広げるイメージで行けるから」
「今回もそれでやるのは無理なのか?」
「海上や空中の封鎖は余裕かな。でも問題なのは海中なんだ。水面ってそれ自体が〝区切り〟だから海中まで結界が届かないし、もし届いたとしても、水面が揺れるせいで線がぶれる。つまり、結界を壊す為の条件が簡単に満たせるんだ」
「……成る程な。セツニキが頭を悩ます訳だ」
ハルトニキが納得した様に頭を抱え、理解出来た艦長達も呻き声を上げる。何人か分かった
「ぶっちゃけた話、今まで報告に上げられた事件よりマシなんだけどね~」
「そうなのか?」
「だって
「ああ、そうか。言わば爆弾処理の方法に悩んでいるだけなのだな」
「そうそう。いざとなったら爆破すれば終わるけど、周囲に被害出るのは困るよねって話だから」
「敗北条件はショタオジが動く事だけだしな」
俺らの会話を聞きながら取り敢えずの案が出来たので、自分から会話に混ざりに行き、視線を集める。
正直言えば、ハルトニキ達に立案して欲しかった。敵が厄介過ぎるから仕方ないんだが。クトゥルフは対処を間違うと容易く大惨事を引き起こす糞しか居ねぇからな。
「お?作戦決まった?」
「まぁな。〝ダゴン〟は修羅勢投げ込んで足止め、無限湧きする雑魚は
「修羅勢を艦長にする意味はー?」
「簡単に説明すると〝女王艦隊〟はMAGだけでデモニカを作る術式なんだよ。だから艦内に居る限り、ダメージや耐性は艦長依存なんだわ」
「成る程。【狂気耐性】を全員に付与する感じか」
「んーそれなら俺たち新潟勢は後方待機?実艦だし、発狂して同士討ちは洒落にならないよね?」
「いや、新潟組には打ち漏らしの対処を頼みたい。クトゥルフ関係は可能な限りこちらで潰すが、その分、他の悪魔にまで手が回らないからな」
「了解。頑張るよ」
「異界討伐後の悪魔達の離散にはどう対処するつもりなんだ?」
「日本以外に向かう悪魔は見逃すつもりだ」
そう言った瞬間、部屋の空気が凍った。
「もちろん可能な限り対処するぞ?ただ、完全勝利はどう考えても無理だ。海域ごとショタオジが焼くぐらいしか手が無い」
それでも打ち漏らしの可能性が出る辺り〝海〟という場所が悪すぎる。カヲルニキも連れてくれば何とかなるかも知れないが……どちらも終末要因への対処で忙しく、それに比べればここの優先度なんて毛程の価値も無いしな。
たぶんガイア連合の幹部勢に話しても俺と同じ判断を下すと思う。それぐらい二人の仕事は優先順位が高過ぎる。
「……本当に無理なのか?例えば俺らが頑張れば──」
「
黒札全員が命を賭ければ、殲滅は無理でも八割ぐらいは削れる。それは間違いないと断言出来る。
だがこの異界には、残念ながらそこまでする価値が無い。
放置した所で別ルートから物資を輸送する事は出来るし、少量で良ければイナバニキの様なバグキャラもガイア連合には何人か居るだろう。
最悪、地脈自体を無理矢理
誰もが口を閉ざし、沈痛な面持ちで顔を歪める。
重い沈黙が支配するこの場において、気は進まないが敢えて言ってやる。たぶん、それが先人の務めだろうから。
「これから先もこんな選択を何度もする事になる。慣れろとは言わない。だが受け入れろ。じゃないと──」
背負った罪悪感で死ぬぞ、と。
◇