【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
重い空気を纏ったまま、修羅勢を〝核〟として構築した〝女王艦隊〟が大海原を切り裂きながら突き進む。
要となる旗艦一隻につき、守る様に構築された無人の護衛艦が十隻。総勢百隻以上の船が一団となって進むその姿は、威風堂々、この海の王が誰かを海域に知らしめていた。
「セツニキも面倒な立場よねぇ~。ただの一般黒札なのに辛い判断をしなきゃ行けないし、恨まれようとも厳しい判断を下さないと駄目だし。責任に対して報酬が釣り合って無いんじゃないかしらん?」
「責任を取るのは老人の役目だし、俺に権力を持たせたらガイア連合が瓦解するからなぁ」
「厳しいものねぇ。アタシは慣れたけど」
クロネキと会話しながら仮想モニターをマスター権限で開き、術式をチェック。本来の性能を引き出されている〝女王艦隊〟は、先程も言った通り一隻の旗艦を守る様に無人の護衛艦が十隻自動生成される。
この護衛艦の艦種は術者が好き勝手弄れる上にデモニカとほぼ同じ機能を持っているので、船内に滞在する人間の耐性は旗艦を生成した人間と同じとなり、今回の場合は
計画通り、これを利用して対クトゥルフで必須の【狂気耐性】を黒札やゲスト達に付与する予定の訳だ。残念ながら船から落ちると効果適応外となり、狂気に侵食されてしまうが。
「指揮権はハルトニキ。作戦立案はヤンニキ。失敗しても成功しても問題が起きた時は悪魔を逃がした戦犯としてセツニキの名前を公表。……良くこんな条件飲んだね?」
呆れた視線を向ける双子ニキ(兄)に対して肩を竦めて首を振る。
「ハルトニキ達は新潟のヘルプだし、術スレや修羅勢も同じくお手伝い。自衛隊や警察は黒札の代わりにシェルターを担う存在だから、この糞厄介な時期に汚名を被せる訳には行かないからな」
最悪なのは、話の通じる〝上〟が危機感の無い〝リアリスト〟に変えられる事だ。自衛隊や警察の上層部は、この半終末に入って尚オカルトを信じない奴が多すぎる。
前世なら狂人と呼ばれるべきは俺らだ。それは間違いない。だがこのメガテン世界でその認識の奴が〝味方側〟に居るのは、甘いを通り越して恐ろしい。
終末が迫っている今の段階だと説き伏せてる時間すら無駄なのだ。というか、そんな余裕が今の日本には無い。
「岩手支部も同じだな。あそこの幹部達は終末後に岩手を守る為の戦力だから、俺らや札持ちを纏め上げる為にも看板に変な傷を付ける訳には行かないんだわ」
「だからセツニキが背負うの?」
「別に裁かれる訳でも無いしなぁ」
精々、何も知らない黒札達に掲示板で非道を叩かれる程度だろう。そこから地方の掲示板に流れて悪名が轟くかも知れない。全国区の
「相変わらず名声とか気にしないねぇ。セツニキはさ」
「んー……ぶっちゃけるが、創設期から居る古参以外の評価って俺らには必要無くないか?」
「あー……」
装備の整備はエドニキ達古参だし、薬品類はすでに星祭で生産した物を使っている。霊符に関しては鬼手一族や自作でどうとでもなるし、LAW属性の悪魔達と相性こそ悪くなるだろうが、その筆頭である天使達からは〝殺戮者〟と認識されており、降伏を促しても死に物狂いで挑まれる関係だ。
強いて言えば、嫁やいずれ生まれてくる子供が俺の悪評で苦しむぐらいか。それも山梨支部や岩手支部に居る限りは関係無いだろうが。
「万人受けする様な生き方をしてないし、俺を知ってる人間なら変な勘違いもしないだろ?それを踏まえて考えると、今更悪名の一つや二つ追加されたところで俺には何一つ影響が無いんだよ」
「アタシもそうだけど、基本的に修羅勢って他人の意見じゃ揺らがないしねぇ」
「クロネキが言うと説得力あるわー」
前世は
やっぱり自分の意思を貫く人間は違うな。意思力が高過ぎる。
「あ、そういやセツニキ。何でクトゥルフの狂気が【精神異常無効】だと微妙に防げないか分かる?」
「どうした急に」
「戦闘領域に着くまでの暇潰しみたいなもんかな?純粋に興味もあるけどさ」
「あ~アタシもそれは気になってるわぁ。何か【パトラ】の通りが悪いのよねぇ」
「んー……分かりやすく言えば、クトゥルフの狂気は
「バフ?えっ、狂気なのに?」
「狂気なのに」
過激派を相手にする事の多い人間に自然に生える【狂気耐性】の本質は
六感で得た情報を増幅させるのが狂気の正体であり、分かりやすく言えば〝気持ち悪い〟〝臭い〟〝酷い〟〝惨い〟〝理解不能〟等の負の感情を増幅させて、情報量で精神を押し潰しているだけだったりする。
新たな感情を植え付ける【
とはいえ高位クトゥルフは基本的に下層以降でしか見掛けないし、似た仕組みを用意した〝修羅道〟はあくまでも鍛練用の罠の一つでしか無い。
一応、下位のクトゥルフも居るには居るが……弱すぎて【精神異常無効】を貫けない程度の奴しか居ないんだよな。だから修羅勢でも下層に入って初めて対峙する奴が多かったりする。
「今更だけどさ。クトゥルフ系統って糞じゃない?」
「いや、石長比売以外の
「そこは譲れないのね」
「うちの御祭神だし」
まぁ、この世界の石長比売は俺の敬愛する神の親戚みたいなものなので、正直言えば、そこまで固執する程の愛着は無い。
邪魔になったら躊躇い無く処分するだろう。イワナガもそれを理解して動いているので、ガイア連合に反旗を翻すとしたら俺の死後だろうが。
その後も雑談を続けていると、オペレーター役の俺らがノリノリで作戦領域に近付いた事を知らせてきた。その後すぐにハルトニキが演説を行い、全体にバフをばら蒔く。
「それじゃ始めますかね」
「了解。シエラ婆に合図宜しく」
通信士を担う俺らが双子ニキの指示通りに動くと、先頭の〝女王艦隊〟から物凄い勢いでシエラ婆を掴んだACが飛んで行く。
降り注ぐ魔法。飛び交うダツ。突撃する悪魔。逃がさぬ様に攻撃を張り巡らせる悪魔達の猛攻を紙一重で躱わし続け、異界に突入する直前にシエラ婆を異界へ投げ込んで即座に離脱する。
『こちらヴァルキュリアC*1。予定通り〝吸血鬼〟の投下に成功。帰還する』
『こちら〝陸奥〟。援護は居るか?』
『不要だ』
『了解。帰るまでが遠足だぞ?』
『ふっ。誰に物を言っている────ぐあぁぁぁ!』
『『『決めるなら最後まで決めろやッ!!』』』
通信越しの仲間と共に心を一つにして叫ぶ。撃墜された奴は──問題無いな。すでにジオン水泳部*2が回収しているし。
「俺らって何でこんな締まらないんだろうね」
「まぁ、戦場でガチガチに固まるよりは良いんじゃな~い?」
「それな」
〝残心〟は頭で理解しても完全に出来る奴が少ない希少技術だ。何せ〝常駐戦場〟と並ぶ日本武道の狂った概念の一つだからな。完璧に出来る奴は凄いというよりも、悪魔だと疑った方が良いぐらいだ。
それぐらい十割〝残心〟出来る奴は居ないし、〝常駐戦場〟を全うできない様に人間は作られている。……でも、磐長一族の歴史の中には何人か存在が確認されてるんだよな。
「セツニキさん。外部から秘匿通信来てますけど、どーします?」
「外部から?」
このタイミングで?
「場所は──
「んー……」
さて、どうするかね。
このタイミングでアメリカからの秘匿通信という事は、どう考えても厄介事だろう。
出来れば見ないフリをしたい所だが……
「無理だな。繋いでくれ」
「了解ッス」
目の前の机の上に仮想モニターが展開される。画面の先には──
『Hey, No Name, it's been a while.』
『It's been a while. This is the face I didn't want to see at this time if possible.』
『Hahaha. You're as harsh as ever.』
目の前で人の良さそうな
『It would be nice to have tea and chat like this, but unfortunately we're both short on time.』
『Is it a problem?』
『Yeah. Looks like the extremists have noticed you guys.』
……ちっ。糞面倒な時に面倒な事を。
『It seems they really want to kill you. To achieve that, they're even willing to throw a party.』
『Give us a break. We're not a defense organization.』
『I guess you've been too successful to say that line. Anyway, be careful. I don't want to lose my friend just yet.』
『Got it. I'll try my best.』
通信を切り、天井を見上げる。さて、本当にどうしたもんか。