【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
書き始めれば進むけど、一度でも止まるとダラダラ見ちゃうなぁ
一夜明けた翌日。
未だ隣で眠るベルフェゴールの柔らかさと温かさを名残惜しみながらも起き上がり、閉めていたカーテンを開いて朝日を全身に浴びた──
『キシャァァァァッ!!』
「…………はぁ」
術式の起点を結界の先に設定。そこから【ムドオン】を放ち、出待ちしていた凶鳥をあの世に送る。
「流石は終末後の世界だね。素敵なモーニングコールじゃん」
「ハーピーやモー・ショボーなら許せたが、流石にフケイ*1は駄目だろ」
「うーん、君達の感性は相変わらず独特過ぎる」
そう呟きつつベルフェゴールが彼シャツ姿で伸びをすると、大きな胸にシャツが張り付き、早朝から中々の絶景が。うーん、眼福眼福。
とはいえ親しき仲にも礼儀あり。程々で視線を外し、お代の
「ありがと。……ボクには全部悪魔に見えるんだけどなぁ」
「黒札なら間違いなく女型の悪魔とそれ以外には天と地ほどの差があるって言うぞ?もちろん俺も含めてな」
想像してみてくれ。美女と一夜を過ごした翌日に、寝起きドッキリみたいなノリでオッサン顔を見せつけられた俺の気持ちを。黒札なら誰だって文句を言うだろ?言うと言え(威圧)
「そんなもんかなぁ……よしっ、朝食終わり!」
「じゃ、顔洗って出発するか」
テキパキとゴミを片付け、ついでに缶詰と霊装を部屋の隅にあった段ボールに詰めておく。
ダンジョンを探索してるのに宝箱が無いのは悲しいからな。何時かここを探索した冒険者──じゃない。デビルバスターの喜びになってくれれば幸いだ。
◇
バイクを停めていた駐輪場に来ると、昨日まであったバイクが消えていた。どうやらパクられたらしい。
「一応エンジンはボクが作ったから今からでも追えるけど……どーする?」
「玩具霊装に過ぎんし放置で」
気に入るには乗った時間が短すぎる。新たにモヒカンを狩る楽しみが出来たと思えば別に苛つく事でも無いし。
「りょーかい。盗んだ人間は運が良かったねぇ」
「スーツを着てる俺達の物を盗むって事がどういう結果を招くのか考えてない辺り、余り長生きは出来そうにないがな」
「終末後の世界をそんな格好で出歩けるのは黒札や金札ぐらい*2だもんね」
「COMPを止められないと良いんだが」
これが青森や新潟なら盗人は地元名家の私刑で殺されている。宮城なら幼女ネキが〝分からせ〟るかね?
岩手だとモルモット一択だ。あそこは命を無駄にせず、使い切る方針で動いてるし。
黒札との縁というボーナスを考えれば、もしかしたら悪魔も盗人狩りを始めるかも知れん。それぐらい
貧すれば鈍すると言うが、愚か事をしたもんだ。
「ところで足を失ったわけだけど、これからどうするの?」
「【
「迷ってる?」
首を捻りながら尋ねてきたベルフェゴールを無視し、近くのゴミ箱を開けた。
「こういう場所に霊装を投げ込んで宝箱みたくするのも面白いと思ってな」
「あ〜……壺やタンスの中から装備が見付かると嬉しいみたいな?」
「ん?やった事あるのか?」
「黒札と仲良くなる為にサブカルは必修項目だぜ☆」
右手でグッドサインを送るベルフェゴールの姿に思わず苦笑い。コイツといい何処かの元帥といい黒札文化に馴染み過ぎだろ。
「真面目な話すると脳缶ニキとセツニキのせいなんだけどね?二人が魔界にせっせとアニメや漫画を売りつけたせいで、本霊から催促されるようになったし」
「マッカ効率が凄まじかったのは認めるが、お前の姿を変える為に広めた俺は無罪だろ」
「イワナガヒメのついでじゃなかったらなぁ……」
圧を感じたのでベルフェゴールから視線を外し、ゴミ箱の中に霊装を投げ込む作業に移る。まぁ、霊符から霊装を取り出すだけなのですぐに終わるんだが。
霊装を仕込み終えたらゴミ箱から離れ、再び二人で町をぶらぶら歩く。一応北側の森を目指しているが、良さげな設置場所を見つける度に脇道に逸れているので歩みは遅い。
終末前なら食べ歩きやウィンドウショッピングも出来たんだが……今の世界でそれが出来るのは山梨ぐらいだろう。だから暇を持て余したベルフェゴールが廃材から霊装を作り、俺と同じように隠し始めたのは当然の行動だった。
「ふっふっふ。どうだいセツニキ。ボクの作り出したこの『妖刀かまいたち』は!」
「普通に便利そうだな」
妖刀かまいたちは風来のシレンシリーズに登場する刀で、その効果は前方三マスへ攻撃範囲を拡張する便利武器だ。
ベルフェゴールから借りて軽く振ってみると、明らかに刀身より長い範囲を薙ぎ払う。
どうやら振った瞬間に霊刃を伸ばす事で原作再現してるようで、どう考えても攻撃範囲どころか射程が伸びるという致命的なバグが発生していた。
「
「ちなみにデメリットは?」
「オンオフ不可ぐらい?」
「ふむ。悪くない」
霊力枯渇は大問題だが、そもそも自身の限界を知らずに戦う方が悪いと言われればその通りとしか返せない。
別に命を啜る妖刀みたいな仕様でもないし、普通に使える霊装というのが妥当な評価かね。
「ちなみにセツニキがばら撒いてる霊装はどんな効果なの?」
「戦闘に不必要な才能と霊才成長時の方向性を縛る代わりに霊能限界を上げる霊装──の試作品だ」
「FFのジョブみたいな感じ?」
「おう。だいたいその認識で合ってるぞ」
例えば、ゴルフの才能。終末前なら世界チャンプを狙える才能があったとしても、終末後の世界では磨く事すら出来ず、ただ腐っていくしかない。
そんな終末後では発揮出来ない才能を霊装ごとに定めた戦闘系の才能へ
「例えば、この『戦士の剣』なら【挑発】【剣術】【物理耐性】【スラッシュ】のスキルとLv10前後の霊才が手に入る。悪魔を自力で狩れるならって大前提はあるがな」
霊符から取り出した武骨な鉄の剣を手渡すと、それを受け取ったベルフェゴールは即座に両目にMAGを集め、剣の鑑定を始めた。
「……素材は一般的な質の鉄。だけど安心安全高品質な日本クオリティだから世界的に見れば高品質。打った鍛冶師の腕は超一流。柄と刀身に刻まれてる術式も超一流。でも……」
「その割には粗悪な鉄の剣と大差無い程度の価値しかない?」
「うん。なんか凄くチグハグで気持ち悪いね。これ」
「まぁ、そういう品だからな」
返された霊装を近くの中華料理屋の食品サンプルの置かれた展示棚へ投げ込む。……お、醤油ラーメンに突き刺さった。
「剣に使われた素材や技術も術式の対価として使ってる……?でも、それだけじゃ霊才を上げる対価として成立しない。というか、そんな簡単に霊才が上がるなら
歩きながら考え込むベルフェゴールに歩調を合わせつつ、空へと霊符を飛ばし、ギミックを仕込む。
イメージは四つのビルの屋上から伸びる光の鎖に繋がれた伝説の武器。ちょうど交差点も見えてきたし、仕込むには最高のシチュエーションだぜ。
ちなみに伝説の武器ポジに投げ込むのは修羅道で大量に手に入るレプリカを魔改造した物にするつもりだ。これも地味に余って倉庫を圧迫してたし。
「……駄目だ。分かんないや。セツニキ、正解は?」
「ゲーム風に言うなら取得
「欠陥品じゃん!」
まぁ、
だが【牛歩の歩み*3】という呪術をベースにしたこの霊装の真価はそこじゃない。
「実はこの霊装を使ってレベルを上げきるとな?しっかり子に
「………………は?」
「遺伝するんだ。自身の根源を霊装に対応したジョブに設定するからな」
戦士の剣を使えば根源が戦士となり、魔法使いの杖を使えば根源が魔法使いになる。
その二人の子は戦士と魔法使いの両方を引き継ぐ可能性が生まれ、運が良ければ高い霊才を持つ〝魔法戦士〟になる事もあるだろう。
それでも千年ぐらいは黒札どころかその子どもの霊才にも届かんだろうが。
所詮は道具による背伸び。本来の才能の形を無理矢理変えている者が生まれつき天賦の才を持つ者に勝てる筈もない。
「ちょっと待って。百歩譲ってその霊装に才能を拡張する力があるのは認める。
──それはもはや人の技では無く、唯一神の権能と変わらないじゃないか。
そう言葉を締め括ったベルフェゴールとは視線を合わせず、ギミックの仕上げの最終工程を行いながら言葉を返す。
「お前は一つ勘違いしてるぞ。ベルフェゴール」
「……どういう意味?」
「この霊装は努力も無しに霊才を得る事が出来る便利武器じゃねぇ。むしろ平時には『呪物』と呼ばれて破壊されても可笑しくないぐらい糞霊装なんだよ」
正直、こんな世界にならなきゃ何一つとしてメリットは無かった。まぁ、終末が来たせいで存在価値が生まれちまったが。
「才能を糞レートで霊才に変換し、成長の為に常人の十倍相当の努力を要求。さらには霊装自体に悪魔を狩る力は無く、自身が磨き上げた力での悪魔狩りをする必要がある。そこまで苦労した見返りはレベル10前後の霊才で、運が良ければ誰でも入手可能なデモニカの1/3程度の力しか得られない。お前はこんな霊装に世界が手を出す価値があると思うか?」
「……つまり、終末前の世界ではゴミだからこそ存在する事が許されていると?」
「やってる事は大した事じゃねぇからな」
死後の魂を悪魔に渡す代わりに現世での才能を捧げ、取得MAGを制限された状態で粗悪な霊装を武器に悪魔を狩る行為は、神話で良く見る『神の試練』の廉価版再現だ。
そこまでして物語のように幸せが確約されるような事は当然なく、料理や洗濯といった生きる為の日常技能すら失われる事を考えれば、むしろ収支はマイナスになる。
「この霊装の価値は『呪物』に近く、多くの人間にとって糞霊装という事実に変わりはない。ただ、この霊装から得られる少量のメリットが現在の世界では価値が高くなった。それだけの話なんだよ」
「……詐欺みたいな話だね」
「世界を騙すのも術師の腕の見せ所だからな」
会話をしている内にギミックが完成した。
交差点の中心に浮かぶ緋色の槍。それを十字路に立つビルの屋上から伸びる、淡い光を放つ四本のMAGの鎖が縛り付け、厳重に封印する。
うーん、これは序盤から見えているが終盤にならないと手に入らない装備。我ながら良い仕事してますねぇ。
◇
・ジョブ武器(戦士の剣の場合)
仕組みとしては【吸魔】で悪魔から奪ったMAGを【浄化】してから【魂の再構築】を行っている。イメージとしてはガシャポンを作って
作中に登場した以外にも種類はたくさんあるが、霊装の仕組み自体は全部同じで、奪われる才能の順番が違うだけだったり。
戦士の剣の場合、奪われる優先順位は芸術系の才能からになる。つまり、私服がダサくなったり、音痴や画伯が大量生産される。
才能が足りない場合は戦闘に不要な感情なども奪い始め、それでも足りなければ身体に影響が出始めたりもする。そこまで奪われる人間はそもそも悪魔に殺される確率の方が高いと思うけど。
ちなみに岩手支部に送られている霊装は多少の改良が加えられた正規品であり、獲得MAGが1/4に軽減されていたり、暗黒騎士の剣や鍛冶師の鎚など、複合霊才や生産型の霊才を得られる物もある。こちらはばら撒くぐらいなら鬼手一族に渡すので、宝箱には入っていない。
実は素材を下層産や深層産の物にすると、レベル1でレベル50の悪魔を狩らなければ経験値が手に入らなくなる代わりに、報酬としてレベル30程度まで霊才が拡張されるという無理ゲーに挑戦出来るようになる。
何事も高級素材を使えばいいという物ではなく、適材が大切という事を教えてくれる霊装なのだ。