【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
意志力が欲しい……!
この世界には誘惑する物が多すぎるぜ……!
妖樹や魔獣の蔓延る北の森を霊装を隠しながら駆け抜けると、当初の目的である黒札が管理を手放したシェルターに着いた。
「分かってた事だけど……見事に滅んでるね」
「まぁ、当然の結果だわな」
街一つを覆うタイプの結界を利用していたのだろうか。シェルター都市に外壁は無く、終末前は夢と希望に満ち溢れていたであろうビル群の残骸は見るも無惨な姿となって聳え立っている。
「どーするの?」
「とりあえず手分けして撮影するか」
「りょーかい」
街には入らず左右に分かれ、懐から取り出したスマホで撮影開始。まずは外周からだ。
血痕がベッタリ張り付いたコンクリート片に、人の形の影が残る半壊した壁。
剥き出しの鉄筋を折り曲げた即席の拘束具の側には可愛らしいクマのヌイグルミが落ちており、獣に食われたであろうバラバラの白骨死体は数える方が億劫だ。
匂いが残っていない事から死後かなりの時間が経過している事は間違いないが、苦痛の残滓があちらこちらにこびり付いており、見た者にここで行われた凄惨な〝狩り〟の様子を生々しく想起させるには十分な光景が広がっている。
「……ま、それでもあそこよりはマシな辺り、この世界はホントに糞過ぎるぜ」
半壊した瓦礫の先に見える処刑場。そこに未だ根付く苦悶と怨嗟の声。
俺は【過去視】を持たないが、多くの修羅場を潜った経験から現場で何が起きたかを把握する事は容易く、そのせいで背負いたくもない重荷に気付けてしまう。今回はそれがモロに当て嵌まってしまった形だ。
げんなりしながら撮影を続けていると、数時間ほどでベルフェゴールと合流出来た。そこでお互いの持つ情報を軽く交換し、事務課に撮影した映像を提出。後は任務完了の承認待ちだけなので、ここから先はオフとなる。
「先に探索かねぇ。浄化すると根こそぎ払っちまうし」
「そこまでする必要ある?任務はあくまでもシェルターの現状確認だけだし、アフターケアは別料金で良いと思うけど」
「俺もそうしたいところなんだがな。ぱっと見た感じ、ここを襲ったのは嗜虐性癖の悪魔っぽいんだわ。放置しとくと他への影響が気になるし、二度手間は出来れば避けてぇ」
「そう判断した根拠はあるの?」
尋ねてきたベルフェゴールの問いを無視して廃ビルの屋上へ飛ぶ。すると少し遅れてベルフェゴールも飛んできたので、分かりやすいように街の中央を指差した。
「ほれ。街の中央に死体の残骸があるだろ?あの場所に死体が山積みになるのは、大抵包囲されて逃げ場を失うからなんだわ」
「なるほど。ちなみに実体験?」
「おう。死体の山の下で死に損なった臆病者のな」
弾も無く、自決用の手段も無く、敵に追われ、火から逃げるように集まり──そして、纏めて殺された。
俺が生き残ったのは偶然だ。極度の疲労から転倒し、その上に運良く
何故、自分だけが。そう思わなかった日は無い。仲間たちと共に逝きたかった。その気持ちが無かったと言えば嘘になる。
それでも生き残った者の義務として戦友達の家族に手を差し伸べ、遺体無き空の墓へ祈りを捧げる人生を送っていたら──気が付けば、こんな世界に転生だ。
地獄に落ちる事は覚悟していたといえ、もうちょい手心が欲しかったぜ。
「んー……こういう時、なんて声を掛けるのが正解?」
「どうした急に」
「人の心の隙間に潜り込む時の参考にしようかと」
「その向上心、俺は嫌いじゃないぜ」
ショタオジが生きてる間は余計な事をしないだろうし、俺にとっては死後の話。後世の問題は後世の人間が解決すると信じて、自分なりの考えを紡ぐ。
「俺から一言助言するとしたら〝沈黙〟も選択肢に入れておけってぐらいかね?千の言葉より一瞬の静寂が心を救う事もある。お前には分からんかも知れんが、それが人間だ」
「励ましは逆効果?」
「人による、としか言えんな。自分の足で立てないヤツなら支えは欲しいだろうが、お前が狙うであろう奴は反骨心から手を振り払うと思うぞ」
「成るは厭なり思うは成らず*1って事か」
「足るを知る者は富む*2って事でもある」
煙草に火をつけ、煙々羅を
「悪魔のボクが言うのもなんだけど、食って手に入るMAGなんて一時的な物なのに馬鹿な事をしたもんだね」
せっかくの黒札跡地なのに勿体ない。と呆れるベルフェゴールに対して溜息を吐きながら言葉を返す。
「種としての本能に勝てるならソイツは悪魔ではなく神だろ」
「違いない」
ガイア連合としてもソッチの方が楽だったんだけどな。首輪を着けておけば勝手に人類の守護者をやってくれるし。
ぼんやりそんな事を考えていると、ベルフェゴールの表情が真剣なモノに変わった。
「ところでセツニキ。気付いてる?」
「あの
視線をそちらへ移せば、廃墟の中に悠然と佇む
数十年経っても維持されている事を考えると、ここを管理していた黒札の終の棲家
「どーするの?」
「煙々羅が戻るまで時間もあるし、念のため確認しに行くか」
「りょーかい」
せめて楽しい事の一つでも起こってくれると良いんだが。
◇
廃墟の頼りない足場の上をぴょんぴょんと飛んでいき、目的の一軒家まで一直線に進む。
途中に見かけた遺骨の中には未だ怨嗟の念が残る物もあり、酷い物では遺骨に魂が縛り付けられている物もあった。
MAGの為にわざとそうしているのか知らんが、余計な事を。そのせいで大規模な浄化を行わないと土地が使えないじゃないか。
そんな事を頭の片隅で考えているうちに目的地に到着。結界の術式自体はそこまで複雑な物では無いが、【
『もしもし?』
『おう、俺だ。今から岡山県の破棄シェルターの結界外すから反応があっても無視してくれ』
『了解。一応、反撃機能も付いてるから気をつけてね?』
『あいよ。まぁ、失敗してもベルフェゴールが消し飛ぶだけだから大丈夫だろう』
「待ってセツニキ!そんな話、聞いてないよ!?」
「言ってないからな」
ショタオジの出力で【ハマバリオン】が飛んでくるだけだし、昔の俺ならともかく今の俺ならギリギリ耐えられるだろ。たぶん。
通話を切ってスマホを懐にしまい、結界に向けて霊符を飛ばす。飛ばした霊符は【解析】の術式が刻まれた物だ。
製造班の中でも上位勢が制作したと思われる結界装置は一種の芸術品のようになっており、頭に送られてくる情報量は難易度相応の質と量。
例えるなら〝真っ白な部屋の中で白地の1万ピースパズルを30分以内に完成させろ〟みたいな難易度だ。クソゲー過ぎる。……それでもショタオジが手を加えた部分の
オカルトのくせに階差機関*3みたいな仕組みを持ち出すのは止めろ。当たり前のように解析妨害でカプグラ症候群*4を発症させるな。
オカルトを極めて
頂きの高さに内心で罵声を浴びせていると、知らぬ間に遠くへ避難していたベルフェゴールが恐る恐る声を掛けてきた。
「どう?解除出来そう?」
「んー……微妙」
両手から錐のような形に伸ばした霊力で結界に干渉開始。
干渉する場所を僅かにでも間違えればドカンッ!削りすぎてもドカンッ!霊力を一時的に止める場所を間違えてもドカンッ!
これだから他人の術式を弄るのは堪らんな!俺は今、世界の最前線にいるぜ!
「何が問題なのさ?」
「解除の為の制限時間が製造班の作ったギミックと共用でなー。どう考えてもショタオジの術式解除の時間が足りねぇ」
「…………それならなんで干渉始めたの?」
「そこに
「さようなら。セツニキの事は忘れないゾ☆」
「死ぬ時は一緒だぜ☆」
「イヤだー!死にたくなーい!死にたくなーい!」
叫びながら多重に結界を展開し、自分だけ安全地帯に逃げ込もっとしたベルフェゴールに【
「ちょ!?マジで外れないんだけど!?」
「対ショタオジ用に作ったSネキの権能を解析して作り出した特製の緊縛術式だぜ☆」
「それって絶対グレイプニルじゃん!ボクと神話違うから!」
「レベル差によるゴリ押しって便利だよな」
「ちょ!?ヤメロォォォ!!」
わちゃわちゃしてる間に六割解除。最低限の仕事は終えたので、敢えて
────その瞬間、元黒札宅から四方八方に光が放たれた。
ショタオジの出力で放たれた【ハマバリオン】はその圧倒的な光量によって物理的な熱を帯び、まるでビームサーベルを振り回すかの如く周囲を薙ぎ払う。さらにダメ押しのように空からも【マハバリオン】が降ってきた。
「なんで【マハンマバリオン】じゃないのかと思ったら……【ハマバリオン】を乱射する事によって火力を確保したのか。相変わらず頭おかしい術式だなぁ」
毎分16000発とかメタルストーム*7かよ。
「なんでそんな余裕なの!?こっちは抱えてくれてなきゃ死んでたんだけど!?」
「ふっ、修行が足りん!……と言いたいが、ぶっちゃけ俺も余裕ない」
黒札に手を出した存在への殺意が高すぎる。今更な話だが。
そんな地獄のミニゲームを三分ほど楽しんでいると、周囲一帯を浄化し終えた【ハマバリオン】の嵐がようやく止まった。
この街で起きた惨劇の跡も、残留していた怨嗟や穢れも何もかも。
その全てを一切合切消し飛ばしたらしく、残っているのは
「お互い、初手を間違えないで本当に良かったな」
「……本当にね」
抱えていたベルフェゴールを地面に降ろして【ディアラハン】を発動。残念ながらショタオジの術式を超えるほどの回復量は得られず、
これでも回復は根源的に得意分野なんだがな。ほんっとにショタオジの術式の威力はどうなってんだ。
「とりあえず再生するまで休憩?」
「だな」
だらしなく地面に座り込み、霊符から取り出した飲み物とお菓子をベルフェゴールにも渡す。うーん、何一つ無い景色を見ながらの綾鷹は美味いな!虚無の味がするぜ!
◇
☆ショタオジ特製反撃術式
【ハマバリオン】を全方位に分間16000発ぶっ放すだけのカウンター術式。神も悪魔も人も死ぬ。
ちなみに何処かの賭博師はベルフェゴールを抱えながら三分間逃げ切ったが、左足と右腕を焼き切られている。ベルフェゴールも下半身が消し飛んだ。
本人達いわく今まで生きてきた中で一番死を隣に感じたらしい。