【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録   作:Lilyala

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手持ちは全部放出だぜヒャッハー!


煙草の味

 結界は基本的に動かないモノを術の起点に置いて行使される。だからこそ起点が動けば、術式は容易く崩壊する。結界を張りながら移動なんてするぐらいなら、大人しく盾にでも変化させた式神を舞わせて自動防御させた方が楽という訳だ。

 

 とはいえ世の中には変態も多く、先祖の日記には自身の皮膚の表面に常に結界を張り続けながら近接戦闘を仕掛けてくる農民(鬼才)や結界をファンネルの様に攻守一体の武器にしていた芸子(天才)の話が書かれていた。

 

 前世だとフィクションで済んだ話だが、今世だとノンフィクションになる可能性があるのはマジやめろ。

 

 ……こほん。つい熱くなってしまった。とにかく俺が言いたいのは、

 

 

──パリンッ!

 

 

 起点が結界外に出てしまうと、どんな結界も容易く割れるという事だ。

 

 

「天使様の結界が……」

 

「あの程度の()()の結界なんてこんなもんだ。それより急ぐぞ。思った以上に瘴気が濃くなった」

 

「……結界を破ったからか?」

 

「地下室でメシア教(お前ら)がやった事はお前の方が詳しいだろ?こうなるのは当然で、あんな結界なんて時間稼ぎにもなりゃしねぇよ」

 

 

 陰鬱な雰囲気を漂わせる黒い靄の中をゆっくり進む。物音一つしない街は完全に死んでおり、そこかしこに転がる遺体が怪我人(荷物)の歩みを邪魔する。

 

 

「死者を……足で退かすのは感心しないな……」

 

「無茶言うな元凶の一人。お前に肩貸してて使えるのが足しかねぇんだよ」

 

「それなら……俺は一人で──」

 

 

 どさり、と倒れた騎士に溜め息を吐き出す。

 

 

「四肢を切り落とされたお前がマトモに動ける訳無いだろう。俺の術だって万能じゃねぇんだ」

 

「だが……!」

 

「なら、ここで死ぬか?」

 

 

 出来る訳が無い。その勇気の有る無しでは無く、この騎士様は未だに一神教の信者なのだから。死ぬのは怖くない、だが教義で自殺する事は出来ない。皮肉な事に天使(悪魔)はその信仰心を信じないで口を縫い合わせたが、そんな事をしなくてもコイツは自殺はしなかった。……こいつの目はそういう奴等の目と同じだ。

 

 

 「この街に罪悪感を抱くなら二度とこんな事にならない様に守ってみせろよ。そして誰にも知られず裏で一人孤独に死ね」

 

 

 騎士様を立ち上がらせ、再び街を行く。倒れた人々は誰も彼もこの異界と共に霞となって消える。記憶にすら残らない。蠱毒の壺の敗者とはそういうモノだ。世界の修正力とも呼ぶべき、術式に組み込まれている辻褄合わせの記憶に違和感を覚える事が出来るのは、欠片でも霊力のある人間だけ。

 

 きっと明日の朝刊は騒がしいだろうな。街一つ分の人間が消えるんだ。正体不明のガス会社や製薬会社が突然現れ、事故を起こした事になって突如消えるだろう。

 

 ぼんやりそんな事を考えていると懐かしき〝ぼく〟の自宅が見えてきた。

 

 

「この大通りを真っ直ぐ進んで突き当りを左に曲がれば、この街で唯一人間が居る寺に着く」

 

「君は……?」

 

「少しやる事がある。まぁ、俺の事は気にせず先に行ってろ」

 

 

 野良犬にやるようにシッシッと手を振り、騎士様と分かれて自宅のあるアパートへ足を向ける。この街で生き、周りの人達に助けられながらも一人で〝ぼく〟を育て、愛してくれた人。そんな恩人(ははおや)を異界と共に消す訳にはいかない。符はもう手元に無いが、最悪担いでいけば良いだろう。そんな事を考えながら、階段を上り、自宅の前へ。

 

 

「……そうか、そうだよな」

 

 

 考えて見れば、当然の話だった。〝ぼく()〟という霊的素質のある『転生者』を産んだんだ。もちろんその母親に霊的素質が無い訳が無い。だからこそ──こうなる事はわかっていた筈だった。

 

 餓鬼を吹き飛ばした時に空いた穴から見えるのは、荒らされた室内。母親の遺体はすでに無く、代わりに()の足跡がそこら中に散らばっている。

 

 長い時間、異界の瘴気に当てられた遺体が()()となり、俺が掃討する様に指示を出した犬神に狩られた。それだけの話。

 

 つまり──俺が母親を再び殺したのだ。

 

 

「霊的素質が無ければ……いや、そんなのは言い訳だな」

 

 

 霊的素質が低ければ、屍鬼として動き始める時間はもっと遅かった。霊的素質とは霊力(マグネタイト)との親和性を指しているのだから。でも、それを今更言って何になる。

 

 ふとテーブルを見ると、吸いかけの煙草が置いてあった。〝ぼく〟の記憶に残る、母親の匂い。人によっては嫌悪感を抱くのだろうが、〝ぼく〟も〝俺〟もこの匂いが嫌いな筈が無かった。──母親(大切な人)の匂いなのだから。

 

 外に出てアパートの外壁に身体を預ける。霊力を燃やし、煙草に火を付ける。数時間ぶりに吸った煙草は──不味かった(美味かった)

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