【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録 作:Lilyala
ブロントさんと古参修羅勢の仲は〝歓迎会*1〟を終えた時点で、こちらが気にする必要も無いぐらい深まった。
予想外の収穫だったのが、仲間のテンプルナイトや被害者達だ。復讐の為に剣を取った〝覚悟〟は伊達では無く、最低がレベル十五、高い奴は三十に届いており、拠点にしている静岡辺りの霊能組織と入れ換えたいと
ちなみに新人修羅達は未だに警戒してるが、古参の連中さえ居れば問題ないので放置だ。
「……こんなもんかな。愛宕ネキ、これを山梨に頼む。俺は少し出てくる」
「何処へ行くの?」
「明日の前日リハーサルの為に神楽用の楽器調達だ」
「それぐらいなら名家から借りられると思うわよ?うちの神社にもあるし」
「霊的な手入れを怠った楽器は使えないんだよ。何でも出来る様に見えて、術は日頃の積み重ねが大事なんだ」
日頃から資材を貯めないとイベントで何も出来なくなるのと同じだな。もしくはスタミナ回復薬の貯蔵か。
『マヨヒガ』攻略に掛かった費用や初期調査報告書、中間報告書の入った封筒を愛宕ネキに託して部屋を出る。とはいえこの見た目だと高額な楽器を買えないので、式神の誰かを呼ぶか──
「お呼びかしら?」
「ムラサキ、主は貴女では無く私を呼んだんだ」
「いや~アイちゃん、主が呼んだのはこのオオマチちゃんだよ?」
『『『…………!!』』』
お互いの胸部装甲を潰し合う程の距離で睨み合う三人を眺めていると、追加で二人やって来た。
「【転移】持ちは狡いですねぇ。貴方のレティが来ましたよ?」
「私も来たわ」
『『『くっ……!もう追い付いたか!』』』
姦しい。というか白髪になってるとはいえ八雲藍の姿のアイが、八雲紫姿のムラサキに歯向かうのを見ると、何というか原作を知ってるだけに不思議な気持ちになるな。
「ナナシ。誰を選ぶの?」
「全員で行きゃいいだろ。人前で霊符に仕舞えないしな」
一度東京に飛び、派出所の社用車を借りる。山梨で戸籍偽造して免許を取らせた東方組*2に運転を任せ、俺達は北区豊島にある和楽器を取り扱う店へ。
前世でもそうだったが、今世でも貴重な雅楽用楽器を取り扱っているお店だ。職人自体は岩手県にも多数居るんだが、一式揃えられる店となるとブームの終わったタピオカ専門店並に見付からない。
ちなみにジャンケンで運転手の権利を勝ち取ったのはオオマチだった。やはりπスラは美しい。
「くぅ……!あの時、チョキを出していれば……!」
「参戦出来ただけ良いじゃない。私とレティなんて最初から敗北者よ?」
「基本的に私達は異界用ですからねぇ」
「取ろうと思えば取れるけど、ナナシは基本的にギンに乗るのよね……」
とは道中での会話だ。店に着いたらムラサキ主導で店主に案内して貰い、俺は子供のフリをして商品を選択。それをムラサキに伝えて店を出る。
近くの自販機でエメマンを購入。ついでにムラサキ達の分を買っていると、近くで異界が開いた時に発生する独特の霊的振動を捉えた。
スマホで近くの霊能組織に連絡を取るのも面倒なので擬人式神を派遣する。ドロップ品はどうするかな。
「主様。無事購入出来ましたよ」
「んあ?おう、ありがとな」
「何かありました?」
「近くに異界が発生した様だから式神を派遣したんだが、ドロップ品の回収が面倒でな。どうするか迷ってる──っと、終わった様だな」
戻ってきた擬人式神がドロップ品を手渡して消える。考えるだけ時間の無駄だったな。
「取り敢えず帰るか。あ、これ飲み物な」
適当に購入した御茶や珈琲をムラサキ達に渡して車内へ。一度車を借りた支部に戻り、車を返却。その後、楽器を持って岩手支部に飛んだ。
「俺はこれから楽器の追加加工するから自由行動な」
「見てても良いかしら?」
「集中するから相手出来ないぞ?」
「私達は主様の式神です。側に居るだけでも嬉しいのですよ」
「何時もは一緒に行動出来ないからね~」
「ですね。各自やる事が多いですから」
東方組は運輸課に駆り出されてるし、レティは修羅勢達の治療の為に異界に居る事が多い。セリスは比較的時間に余裕あるが、後期に作られた式神だからレベル上げに必死だった。
「『マヨヒガ』が終わったらゆっくりするか。俺も二度と俺達を指揮して異界攻略なんてしたくねぇ」
前段作戦は古参修羅勢が多かったから楽だった。詳しく説明しなくても動いてくれたし、お互いにある程度の意思疏通が出来てるから気にしなくても良かった。
新人修羅勢が混じった瞬間、問題の発生率が百倍になったのは笑えない。
現地協力者や現地俺達を見下して問題を起こす者。俺達の仲間の美人に許可無く手を出そうとする者。豪遊して支払いを勝手にツケる者。
なまじレベル三十を越える力量があるから手に負えない。叩き潰して何人山梨に送還した事か。
まぁ、ちひろネキや各支部長に問題児リストを共有する様に伝えておいたので、受けられる依頼が無くなって山梨に隔離されると思うが。
ちなみに各支部で事務書類の形式統一は絶対にやる様に言い含めた。もしやらなければ、仕事がパンクしてもヘルプに来ないとちひろネキを脅しもした。
そのお陰で支部長研修や事務研修で書式の統一を行っているらしい。富豪俺達の会社も形式統一の方向に向かってるので、未来の事務方が過労死する事は無い*3だろう。
プログラムや機械関係は手遅れで、各支部の候補地どころか個人の独自言語が飛び交い、見事な〝スパゲッティコード〟や〝専用プログラム〟を形成している。さらに独自のロボまで建造していると言うのだから、俺にはもうどうしようも出来ない。
規格統一って知ってるか?やると便利だぞ。まぁ、組織では無く個人や支部独自の開発なので文句も言えないんだが。
「下調べをするべきかしら?それとも日本地図にダーツでも投げる?」
「日本旅行ダーツの旅か。楽しそうだな」
少しだけ明るい未来が見えた所で作業に入る。職人の仕事を汚す様で心苦しいが、楽器に〝余計な物〟を付け加える事を許して欲しい。
◇
前日リハーサルは上手く行った。途中、降臨の情報を何処からか仕入れてきた過激派が沸いたが、ブロントさん達との手合わせを邪魔された古参修羅勢達に根刮ぎ刈り取られた。ついでに自称名家が代替わりしたり、神を名乗る悪魔も刈り取られたが、これからの事を考えれば些事でしかない。
明日の本番には儀式へ参加する為にイワナガも来る。とは言っても〝儀式舞*4〟には参加せず、神楽自体も石の上に座って見届けるだけだが。
ただ、何というか分霊が降りてくる気がするんだよな。イワナガに憑依して力を行使して貰えればそれだけで良いんだが、確実に来る気がする。……良し。
「愛宕ネキ。『マヨヒガ』の攻略が終わったら、ジュネスが建つまでの間にショタオジからデビルサマナー修行を受けてくれ」
「えっ」
「断るつもりならこの請求書を岩手支部に提出するが」
スッと差し出した紙を見た愛宕ネキが顔を真っ青に染める。〝金成〟や明日の異界攻略の為に再雇用した修羅勢達の依頼料、星霊神社──というより星祭で持ってるんだよな。
「愛宕ネキの返答次第では
「喜んで受けさせて貰いますぅ!!」
怒りとこれから待ち受ける地獄を想像して、半泣きの状態のまま受ける宣言をした愛宕ネキの目の前で請求書を破り捨てる。故郷を守るのって高いな。幹部の指示でジュネス周辺の地均しは山梨持ちだが、大型異界攻略は別料金だからなぁ。
「何か悪いな?無理矢理受けされる様な真似をしてさ?」
「こ、心にも無い事を……!」
「その代わりと言っちゃなんだが、愛宕ネキはその修行が最後の苦労だぞ?イワナガを降ろせばメシアの地脈汚染を吹き飛ばせる。だから地元霊能組織を建て直す為の修行場を確保出来るし、終末後に想定される霊道の断裂も何とかなる。『マヨヒガ』は食料を増やせる道具の産出地になる上に、玉山金山の復活もあるから辛いのは修行だけだぞ」
ちなみに金華山と気仙沼も巻き込まれる形で復活するのは秘密だ。位置的に金山姉弟の管理領域に入るだけだし。
というか昔は完全に岩手県だと思っていた。地図見て驚いたのは俺だけじゃないと思う。
「ついでに火之迦具土神の解放も頼めない?」
「嫌だ。石長比売の信仰を広げるチャンスだし、ここまで来て失敗要因を増やしたくない」
「うぅ……愚痴が毎夜毎夜五月蝿いのよ……」
「そもそもの話、封印されてる日本神は悪魔だろう。うちの〝一族〟は祀神と民間人を守る為に散って、祀神は〝一族〟と民間人を守る為に散ってるんだ。神を名乗るなら、それぐらいの気合いを見せてくれなきゃ感情が動かん」
「……セツニキさんの神と悪魔の線引きはそこなのね」
「当然だろう?この世界でも俺の〝一族〟は
俺の〝一族〟だから出来たという言い訳は聞かない。この世界の〝一族〟がどのような奴等だったのかは知らないが、元の世界の〝一族〟なら同じ事をしたし、俺もした。
だから同じ
「ま、あんまり五月蝿い様なら神滅してやるよ。今なら修羅勢も揃ってるから楽だし、ショタオジも俺達の迷惑になる様な
「それだけは辞めて。私の神社の主祭神なの!」
「大丈夫だ。副祭神として祀る契約の石長比売さえ居れば、他の悪魔は居なくても岩手支部は守れる」
「火之迦具土神様!枕元に立つの辞めて!貴方が殺されちゃう!」
「今夜が楽しみだな?」
これだけ脅せば静まると思うが、それでも〝我儘〟を言う様なら潰すかな。火之迦具土神の分霊はここだけじゃないし。
◇
────深夜零時十分前。ジュネス予定地。
篝火に火が灯され、中央の大岩を囲うように存在する十二の舞座*5が暗闇から現世に現れる。
ただ多くの人間が知っている通り、黒曜石は割れやすく、滑りやすい。そして割れた場合は鋭利な破片となって散らばる。
もちろん神事に流血沙汰は御法度なので、
鍛えている男性でも息の上がる激しい舞を、柔らかな肢体を持つ女性が、滑りやすく割れやすい舞座の上で踊る。
祖先を恨んだ舞手の数は数知れず。ただ不思議と踊った後の達成感は苦労に見合うだけの物があった。
ちなみに今回は覚醒者と式神の集団なので、黒曜石が割れても怪我する奴は居ない。じゃないと
ふと辺りに視線を向ければ、多くの見物客が。地元の霊能組織に地元俺達。この神楽が終わった後に山を彷迷い、メシア版『マヨヒガ』を終わらせる修羅勢。たまたま岩手に来ていた富豪俺達に〝神降ろし〟を自分の目で見たがった弟子達。
珍しい事に
「さて、五分前だ。お前ら準備は良いか?」
言葉には出さず、頷く事で答える巫女達。愛宕ネキ配下の巫女達はそんな余裕すら無い様で、緊張からの震えによりぶるぶる震えている。
「安心しろ。神楽は結局のところ神を敬い、楽しませる心さえ持っていれば、多少ミスっても問題無い様に出来ているからな。今出来る全てを出し切れば石長比売も許してくれるさ」
ちなみにこれは本当だ。というか集団で行う儀式は〝核〟となる部分以外は増幅器の役割なので、ミスった所で他の参加者がカバーしてくれる。
考えても見てくれ。カルト宗教の儀式が何故時々成功するのかを。教祖は本職だから良いとして、幹部もまぁ、出来るとする。だが引っ掛けた一般人全員が完全に行えると思うか?どう考えても無理だろう。
儀式開始の三分前になった。最初の〝儀式舞〟は俺一人で行う。霊能力の無い前世では出来なかった、本当の意味での〝石長比売の為の神楽〟を踊れる事に気分が高揚している事は間違いない。
何時か派手にやろうと思っていた小道具を使える事にも喜びを感じるし、この世界で死んだ〝一族〟の弔いにもなるだろう。
開始一分前。頭を切り替え、心を閉じる。ありとあらゆる事を忘れ、ただ舞う事だけを考える。──始まりを告げる音色が耳に入った。
────さぁ、始めよう。