平成剣客浪漫譚~剣術少女が未来を憂う   作:千里三月記

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黒豹

「大丈夫?入部届けは持った?でも、まず体験(入部)からの方が良いんじゃない?」

 

 まるで母親のように世話を焼く翔子。大丈夫、大丈夫、と繰り返す塚山。翔子が心配するのも無理はない。うちはインターハイ、玉竜旗、毎回出場の強豪校だし、優勝経験も何度もある。当然、練習は凄まじく厳しい。部員も小さい時から剣道漬けで、大会で何度も入賞しているような奴しかいない。

 

 聞けば塚山は、実家は道場らしいのだが、『剣道』ではなく『剣術』、今まで剣道の大会どころか、試合をしたことすらないらしい。しごきの前に剣道なめてると思われて、あの女主将にコテンパンにされるのがオチだ。

 

 そもそも直樹は、剣術というものに良い印象を持っていない。直樹もまた、小さい時から剣道漬けだった。小学生の時、兄に連れられて入った剣道場で、近所では厳しいことで有名な剣道場だったのだが・・・大体、練習がきつくて辞めて行く根性無しな連中の捨て台詞が、剣道はただの当てっこ、スポーツ、実戦では死んでいる。使えない。竹刀ダンス。というものだった。加えて真面目に練習をしている直樹の横で、わあわあふざけてチャンバラしてる同じ子供たちの使う剣が、当時流行ったあのサムライアニメの、大仰に構えてから技名を叫んで繰り出すあの突きだったり、ジャンプして出す切り上げだったりしたものだから尚更だ。

 さらに言うなら、去年の中体連決勝で当たった相手が、そのノリでただカッコいいからと二刀流を使ってたこともあって、正直まじめに剣道の練習をしてない奴は、胡散臭いとしか思えなかった。

 古流なんて、ずっと型稽古で、巻きわらを切って喜んで、生涯のうち一度も勝負をせず、自分の妄想の中で最強気取ってる奴らのことだ、と考えていた。

 

(まあ、目の前の自分よりチビが、そんな妄想女だとは到底思えないけれど。)

 

道場に入ると、女子部が正座して並んでいた。翔子が主将のところに走って行き、塚山の入部希望の要件を話す。

ちなみに今日、男子部員は基礎トレで、現在、近所の神社までのコース、通称 『男坂』 まで楽しいジョギング中だ。1年生は入学式と、少ない高校編入組の勧誘で、大体のところが3日くらい部活はお休みだ。

 

「聞いたよ。うちに入部希望だって?先生から連絡がなかったってことは、一般入試組かな?大方推薦には落ちたけど、腕には自信ありってかんじか?どこの中学?道場は?何段?なんかどっかで入賞したとか?名前に聞き覚えはないけど・・・」

 

と、矢継ぎ早に質問をしながらこちらに悠然と歩いてくる。

 その姿は獲物の後ろから忍び寄り今にも襲いかかろうとするネコ科の猛獣のようだった。

 

―女子部主将、大山亜希(おおやまあき)、その日焼けした肌の色と、短くはあるが艶やかな黒い髪、その日本人離れしたばねと瞬発力を活かした戦い方から、彼女に付いた異名は「黒豹」(月刊日本剣道11月号参照)。男子部は敬意をもって、彼女を「セフォー」と裏で呼んでいた。

 

 

 品定めが終わったのか、「黒豹」は、道場の入口に立つ俺達3人の5歩ほど前で止まる。

 

「で、質問の答えは?」

 

「私の名前は塚山千里、入部希望、一般入試組です。段は無段ですが・・・・腕に自信は些かあり申す。」

おおい、なんか最後、語尾がおかしくね?

 

「確かに剣道の段はありませんが・・・私は「真古流」の目録を受けています。」

 

 昼の休み時間と同じ笑顔で、彼女はそう言い放った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 7度目の突きのあと、彼女は涙目で

 

「参った。」

 

と、告げた。

 

 彼女は七度勝負を挑み、七度とも同じ入りで突きを入れられたのだった。

 

 

 一度目は、開始後気合を叫んだ瞬間。

 

 二度目は、警戒して距離を置こうと後ろ足を引いたとき。

 

 三度目は、仕切り直しと同時に打ちこもうとした突きの先の先をとられて。

 

 四度目は、逆に鍔迫り合いに持ち込んで、ラフファイトからやってやろうとしたんだろうが、あっと言う間に崩されて。

 

 五度目も同じように崩されて。(おそらく、何をされたんだかよくわかんなかったんだろう。確かめようとしてやられた。) 

 

 六度目、じゃあ、後の先でカウンター狙いなら、ということで、相手の間合いで止まって反応しようとしたらまったく動けずに突かれた。

 

 最後、「始め」の合図と同時に、なりふり構わず背を見せて逃げ、もうここなら大丈夫、というところで、安心して振り向いたら、そこに居た。

 

 いずれも同じように、ただてくてく歩いて行って、知り合いに偶々会って、

 

「やあ」

 

と声を掛ける自然さで突いていた。

 

 問題は、審判が中等部の2年だったことだろう。塚山はただてくてく歩いて、ポン、と突いただけ、気合も入っていない、速いわけでもない、ただ、当たっただけの突きに一本取っていいものかどうか、判断付きかねたのだろう。また、先輩の負けを宣告しにくいというのもあっただろうが。「待て」の合図で試合を中断させるばかりで、なかなか試合を終わらせてはくれなかった。

結果、大山先輩に自ら負けを宣言させることになってしまったのだ。

 

「えげつね~」

 

思わず、高鍋直樹は言ってしまう。

 

「あら?ありがとう。」

 

塚山千里は笑顔で返す。面越しでもわかる、満面の笑みで。

 

ポン、と突いているように見えてはいたが、実際に鳴っている音は、重くこもった音。おそらく、七度もその重い突きを喰らった大山先輩は、いま喋ることも苦しいだろう。

 

「私は、目録とはいえ流派名を名乗ってしまった以上、負けるわけにはいかないの。真剣勝負ではない以上、相手に、こうすれば勝てた。とか、この状況であれば負けるはずでは無かった、とか言われるような勝ちでは駄目。どうやったって、あのとき何が起こっても、何回やっても負けていたって思わせないといけない。」

 

 わざわざ聞こえるように語る千里。道場の端で正座している先輩は、面を脱いでいないので、表情は分からない。

 

「そんなこと思ってもねえくせによ。」

 

「アハハ、そういうことにした方が格好良いじゃない?」

 

「まあ、いいや。いま、この道場に主将より強い人はいないぜ?」

 

見透かすような目でこちらを見つめる塚山。

 

「・・・あなたはどうなの?」

 

試すような目で、挑発するような口調でいう千里。

 

その視線を受けて直樹は、得体のしれない暗い熱気が体の奥にあるのを感じていた。

 

「おもしれえ、やってやろうじゃん。」

 

 

 

 

 

 

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