平成剣客浪漫譚~剣術少女が未来を憂う   作:千里三月記

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日本剣術の行く末を真に憂う者

―この妖怪じみた動きをする女にどうやって勝つか?

 

 

―決まっている。

 

大山先輩は、相手を見たから負けた。駆け引き巧者に様子見は駄目だ。相手はこちらの剣先、目線、筋肉の僅かな強張りを見逃さない。逆に考えると、相手の動きはこちらの鏡、こちらが動けば相手も動く、見てから動くこちらを見てから、相手は動く。その相手の動きに誘われて自分が動くのだから、打たれてしまう。相手の動きは無視する、石を湖に投げたら波紋が立つのは当然なのだ。

 

―では、どうする?

 

―波紋が立つより速く、相手に届く剛速球を投げ込めばいい。

 

 

 直樹は、こいつをぶち込んだらあいつはどう返してくるのか?先の読めない展開に、ワクワクしながら試合開始の声を聞いた。

 

 試合開始、と同時に、相手の竹刀の先に自分の竹刀を接触させる千里。直樹は弾むピンポン玉のように所狭しと動き回るが、千里はまるでダンスでもしているかのように、するすると相手に付いていく。周りから見たら、直樹の竹刀に千里の竹刀がくっついていて、その激しい動きに、千里が引き摺り回されているようにも見えた。しかし、この試合を見ているもので、その様に解釈する人間は一人もいない。

 

―当然あるべき音がしない。

 

あれだけ激しく動き回っているのも関わらず、竹刀と竹刀がぶつかる乾いた音が聞こえない。

 

 当然あるべきものが欠けた、その異様な光景は、自分の人生の大部分を剣に賭けてきたこの場の者たちすべてに、その原因である千里に対する畏れを感じさせていた。

 

 

 千里は足を見ている、いや、訂正、足しか見ていない。足を見れば相手の体勢が、触れさせた竹刀からは相手の意図が伝わってくる。自分の内へ内へと沈んで、相手の動きが乱している自分の心の波紋の形を観察していた千里の意識は、突如、振動が伝えられなくなった竹刀の異変を察知して、状況を確認するため急速度で浮上する。

 

 顔を上げ、自分の目で状況を確認する。下段にしても、下げすぎな位に竹刀を下げた直樹の構え、自分の竹刀が何も感知できなくなった理由を理解し、同時に相手のがらあきの頭部に、面打ちを決めてやろうと反射的に決定したその瞬間、千里の意識は確かに止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 女子部主将、大山亜希は、自分の負けのことすら忘れ、魅入られるように見ていた試合から、現在の状況に引き戻される。咄嗟に叫ぶ。

 

「審判っ!!!」

 

 同じように固まっていた中等部の審判は、自分のやるべきことを思い出したのか、慌てて勝負の判定を下した。

 

 

―高鍋の、これまで見たこともない異様な早業も気になるが、この塚山とかいう化物女がうちの部に入れば・・・・女子部初の全国優勝も夢じゃない。

 吹き飛ばされて、後頭部でもぶつけたのか、気絶しているこいつが、起きた時、やっぱりやーめた。 とか、いいだしませんように。

 

 負けた悔しさもどこへやら。ぶざまに倒れた新入生の姿に、大山亜希はそう祈った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

がやがやと雑音がうるさい。

 

「お、いま動いたぞ?」

まわりで聞こえる男達の声に、思わず目を開く。

 

―犯される!!?

 

 反射的に自分に覆いかぶさる男のこめかみに左手を添え、右手で顎先を直角に思い切り打ち抜く。そのまま相手の胴体を蹴った反動で横に転がり、壁に背中をあずけるように立ち上がる。

 

「おう、やっとめ、さめたか。」

 

と言いながら、顎を打ち抜かれ、膝を笑わせてふらふらと壁にダイブする直樹を見て、自分がどうやら負けたらしい、と気づく。

 

(多分、突きをもらった。)

 

よく憶えてはいないけど。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 電線の上にとまったカラス。首を傾げ、こちらを見ている。なんとなく暇を持て余して、拾った石を投げつける。力加減を間違ったのか、目標の遥か手前で失速し落ちる石。

 

カア

 

と、馬鹿にしたように鳴いたカラスは、夕日に向かって飛んでいく。

 

 

 遅いなあいつら、高鍋直樹は思う。塚山が気絶してから、すぐ男子部がランニングから戻ってきた。何があったのかと、気絶した塚山のまわりに集まる先輩方、野次馬根性か、質問責めにあう、俺と翔子。後からランニング最後尾とともに戻ってきた顧問の先生に怒られ、小さな女の子を気絶するまで痛めつけたのかと先輩方に責められ、最後に目覚めた千里にノックアウトされてしまった。女にやられてやんの~、とけたけた笑う先輩方。散々な一日だ。

 

 で、なんで校門の前に突っ立っているかというと、翔子の奴が、

 

「塚山さん心配だからとりあえず家まで送ってこ?」

 

と言ったからだ。まわりもそれに同調するような空気だったし、こういうときは、それが常識的な対応なんだろうかと同意した。・・・・しかし遅いな?

 

 暇を持て余した直樹が、2つ目の四つ葉のクローバーを探している時、やっと女子達はやってきた。

 

「いつまで着替えてんだよ?もう夜だぜ、ってかなんで先輩もいるんだよ。」

 

振り向くと、なぜかそこには寺本翔子と塚山千里の他に、もう一人。女子部主将・大山亜希の姿があった。

 

「いちゃ、悪いのか?先生が1年だけじゃ心配だから付いて行けってな。」

 

あと、家も見てみたいし。と先輩。そのまま塚山の家に向け歩き出す。

 

 

 着替えている間に打ちとけたのか、仲良さげに歓談しながら歩く女子達。その背中を見ながら、なかなか話題に入れない直樹。コロコロと変わる話題。しばらく聞いていると、話題がやっと剣道の話に戻ってきたので口を開く。

 

「でもあれだよな?真古流だっけ?今日の試合のあの動きもその剣術の技かなんか?やっぱ奥義とかあんの?ひょっとして秘伝の書とかあって、それ見たら、超必殺技とか使えるとか?」

 

なかば茶化すようにふざけて言う。

 

「ありますよ。秘伝の書。見てみたいです?」

 

え、あるの?見せていいの?秘伝じゃないの?

 

~~~~~~~~~~~

 

 学校から歩いて30分ほどのワンルームマンションの1室。玄関を開けると、荷物の整理が終わってないのか、乱雑に置かれた段ボールと、そこから散らばった小物類。

 

「「「おじゃましま~す」」」

 

と揃って中に入る。散らばった床に、下着がまじっていたことは見なかったことにしてやる。

 汚いけど、女子の部屋ってなんか良い匂いがする。汚いけど。

すーっと吸い寄せられるように、先ほど発見した下着に目がいく。ジトっとした目でこちらを見ている翔子に気づいて、慌てて視線を戻して塚山を探す。段ボールをごそごそ漁っていた塚山がちょうど振り返って何か持ってくる。

 ちなみに先輩は、散らかった床に横になって、勝手に段ボールから取り出したマンガを読み始めた。自由だ。

 

「はい、これが秘伝の書。」

 

にっこりと手渡されたそれは、どうみても大学ノート。表紙にひらがなで、『ひでんのしょ 3』 と書いてある。パラパラとページをめくると、定規やコンパスを使って描いたのだろう、物理のテスト問題のような詳細な図形と、女の子らしい丸っこいファンシーな字で、この技はどういった用途の技か?どういう利点があるのか?使うべきではない状況はいつ?など、くわしく解説が書かれている・・・・鍔迫り合いから指を折る角度とか、曲がり角で人を斬るのに、返り血を浴びないようにする方法とか・・・・

 

「いや、確かによくできてるけど、これ、おまえが書いたやつじゃねえか。」

 

俺の文句に、また段ボールをごそごそやりながら、

 

「よくできてるでしょ~。それ、私が小学生の時に、兄さんが私の為に書いてくれた奴なんだけど・・・・あ、あった。」

 

さらに文句を言おうとする俺に、塚山はもう一つ持ってきた。

 

 塚山が、その手に持っていた弁当箱によく使うようなタッパ?を開けて中から、よくお菓子なんかの袋に入っている乾燥剤を捨てると、その下から、明らかに古そうな本が1冊出てきた。

 

「これ、うちの流派の開祖の日記なんだけど、面白いから読んでみて。」

 

差し出された古文書を受け取り眺める。明治時代に書かれたものだから、そのまま読めないこともないらしい。表紙をめくると、それは、こういう書き出しで始まっていた。

 

 

 

――――――吾輩は石動雷十太 日本剣術の行く末を真に憂う者である―――――

 

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