お主は今の日本剣術をどう感じておる?惰弱だと感じぬか?貧弱でぜい弱だと感じぬか、いや事実間違いなくあらゆる意味で弱くなっておることは間違いない。そして弱いモノは必ず淘汰される。これは自然の摂理である。
「直樹は現在の日本剣道をどう感じてる?」
そんなこと言われても、剣道は剣道だ。直樹が小さい時には兄がすでに始めていた。物心ついたら兄の竹刀をこっそり持ち出して振り回すのが楽しかった。小学校に上がったら、兄に連れられ剣道場に通った。厳しい練習だった。苦しかったが、いまのいままで辞めようと考えたことは一度もない。なぜか?と聞かれたら・・・・その選択肢を考えたことがなかったから?
思ったままに答えを返す。
「・・・剣道は・・・剣道だ・・。」
自分のことをいつもの見開いた目ではなく、薄く絞った、推し量るような目で見ている千里に、
この女が聞きたい答えはこれじゃないんだな・・・と、思う。そして、たぶん、返して欲しいだろう言葉も、朧げではあるがみえている。しかし、直樹はそれをうまく言葉にすることができずに、同じ言葉を繰り返す。
「・・・剣道は・・・剣道だ・・」
その答えを聞き、口を開こうとする千里に、けん制するように直樹はつづける。
「俺は小さい頃から剣道をやってきたし、今も未熟だけど剣道家だ!『真古流』なんて、得体のしれない古武術じゃない。俺は、これからも剣道をやっていくし、
「その先は?」
え?
「その先はどうなるの?」
「い、インターハイで優勝する!玉竜旗もとる!」
「その先は?」
「ええと、大学に進学して剣道部に入る?それで大会に出て優勝する、それか警察官になって・・・」
「・・・・それで毎日剣道しまくるんだっ!!!!!」
「それで?」
ぐっ、と声が出る。思えばいままで先のことについて深く考えたことはなかった。直樹は、はやく正解を教えてくれ、と千里の顔を見る。ぐっ、と眉間にしわをよせ、眉は八の字に下がっている。なにやら困ったような表情だけど、口元だけは笑ってる。変な顔。
「直樹は剣道を、なんでやってるの?ずーっと剣道をやった先に何があるの?」
直樹にはその答えがない。ただなんとなく・・・としか答えられない。そして、そんな答えを返したら、目の前のこの小さな女の子に笑われてしまうのではないか?という不安がある。
押し黙って、俯いていた直樹だったが、急に顔を上げ、逆に訊く。
「じゃあ、おまえはどうなんだよ!?」
やっと期待していた答えが返ってきた、と輝く瞳。しかし、光はすぐに消え、所在なさげに俯いてしまう。
なんだ、答えを教えてくれないのか?
俯いて、長い睫毛に隠れた黒目は、自信なさげに左右に揺れる。
「私にもわからないわ・・・」
しょぼくれて、小さな体を小さく丸めたこの女子が、見た目以上に小さく見える。
「そ、そんなことねえよ!!おまえすげえじゃん!!!竹刀で石叩き割ったりさ!!!はじめての試合でセフォ、大山先輩倒したんだろ?知ってたか?大山先輩、去年のインターハイ個人で3位なんだぜ!?」
なにがそんなことないのか、なぜ自分が励まさないといけないのか、直樹にもわからない。ただ、目の前の女がなんか泣きそうな雰囲気出してる!!!ってだけで必死にフォローする。男って楽じゃない。
「・・・わたしにもわからないの・・・・・」
フォローの甲斐なくさらに俯いて蚊の鳴くような声の千里。
直樹はパニック寸前だ。思わず本人に聞いてしまう。
「うわ、ねえ、おれなにすりゃいいの!?」
「じゃあ、僕と契約して真古流に入ってよ。」「わかった!!!」
即答してから間違いに気づく。気付いた時にはもう遅い。
顔を上げ、ニヤッと笑う塚山千里。
「て、てめ、嵌めやがったな!!!!」
しかし、その目は涙目だった。
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高鍋直樹と塚山千里が公園でわやわややってるそのとき、肩まで伸ばした茶色い髪の毛、女にしては高めの身長。寺本翔子は探していた。
「塚山さんどこへ行ったのかな?アレがないと部活に行けない・・・・」
昨日、入部届けを出しに行き、流れでそのまま試合をすることになったとき、翔子は千里に剣道着を貸していた。
放課後まだがやがやしている教室で、キョロキョロ千里を探していると、直樹の友人、進から声を掛けられる。
「え?塚山さん探してんの?」
考え込んだ友人は、近くの男子に話しかけ、どこへ行ったか探してくれた。
「なんか直樹と一緒に出てったらしいよ?ってかなんか公園に行くとか言ってたってよー。」
持つべきものは顔の広い友人だ。寺本翔子は公園へ向かった。
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「・・・わかった!!!」
―信じられないものを見た。直樹が告白されていた。公園内には二人だけ、ジャージ姿の塚山さんと、いつもの制服姿の直樹が向かい合っている。恥ずかしそうに俯く二人。2~3言、直樹が喋ったそのあとで、真っ赤で泣きそうな顔をした塚山さんが顔を上げ、何か言ったと思ったら、この直樹のセリフである。
(へえ?出会ったばっかなのに告っちゃうんだ?大人しそうにみえて積極的~・・・剣道以外興味ないかと思ってた。)
そのあと楽しそうにじゃれあう二人。
(まあ、直樹も背は低いけど、顔とか、見ようによっちゃカッコイイからね~?チビだけど。)
と、あまり誰も同意してくれなさそうなことを思う。
(でもやっぱ、直樹もああいう子が好きなんだ?小さくて可愛くて、ちっちゃくて・・・・わたしの方が大きいけど、おっきいのに・・・・)
「あ、やば」
こっちに向かってくる直樹と千里。寺本翔子は逃げ出した。
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アハハハハ、私にもわからないの
「嵌めやがったな」
と言った直樹に千里は返す。
「毎日毎日道場でお兄ちゃんとおじいちゃんと稽古して、真剣で巻き藁も切れるようになったし、型も全部出来るし、道歌(剣術の教えを和歌や川柳の形にしたもの)も覚えた。飯綱だって使えるし、ここに来る前、最後の勝負でお兄ちゃんにだって勝ったわ。」
笑顔で続けて言う。
「でもだったらなんなの?」
「その先に何があるの?プロがあるわけでもないし、新撰組と尊王攘夷みたいに命を掛けて斬り合う理由もない。それに現代なら銃がある。たとえ達人だって、
続ける千里のニコニコ笑顔が、まるで泣いているように見えて、思わず直樹は口にする。
「じゃあよ!?俺達で作ろうぜ!!他のどの武術にも、銃にも負けない無敵の剣術!!!!!」
・・・・・かっこよく言ったあとで悪いんだけど、冷静に考えて無理じゃね?
弾けるようにはしゃいだ千里。
そのあまりの喜びように、直樹は言葉を飲み込んだ。