「本当にいいのか?」
「もちろん!イメージはバッチリ!ヤッたことはないけれど、誰にだってハジメテはあるわっ!!!いつでもっ!好きなときにっ!!好きなところに発射してっ!!!」
きわどい台詞を吐きながら、塚山千里は振りかぶる。
(俺はいったい何してんだろう・・・・)
高校生活最初の日曜日、近所の河原で直樹と千里は向かい合っていた。
―じゃあよ!?俺達で作ろうぜ!!他のどの武術にも、銃にも負けない無敵の剣術!!!!!―
言った手前断れなかった。目の前でゴーグルを付けて、竹刀を上段に構えた少女。
あの公園での事があったあと、
「じゃあ、まずはやっぱり銃からだよね!!平日は部活があるから・・・・日曜日にやろ?」
と、上目づかいで覗きこまれておもわずオッケーしてしまった。
「ちょっと!まだです?」
「あ、わりい」
目の前で竹刀をぴこぴこ振ってる少女。直樹は手にしたエアガンを構える。
(だけど、こいつならやってくれるんじゃないだろうか?なんせ、竹刀でベンチを叩き斬る女だ。エアガンの弾くらい弾き返したって不思議じゃない。)
ちょっとした期待を胸に、引き金を引く。
あてっ!
びしッ、と音を立て、顔面に命中したBB弾。やっぱり奇跡は起きないか。
さあ、もう一回ッ!!という千里に、命じられるまま引き金を引き続ける直樹。当然のことだが、いずれは弾が切れる。
「ぬん!!!」
(何度目の斬り下ろしだろう?ついに弾が体に当たらなかった!!)
―防げた!?即座に手の内で竹刀を反転。斬り上げを敢行する。相手との距離、目算5m!!コレしかない!!!
「ぐえ!?」
千里の放った竹刀が、5mの距離を越え、直樹の体に直撃する。ぶん投げた竹刀が直樹のみぞおちにめり込むのを確認すると、千里は得意げに
「見たか!?これこそ秘剣『
片手で弾倉を交換し切替レバーを連射にして、直樹は無言で引き金を引いた。
いたいいたいいたいいたい!ちょっと!止めて!まって!!ごめんごめん!!ゆるして?!アーッ!!!ちょっとっ!服の中に!服の中に入った!まってっ!ちょっとっ!何かしゃべってよ!!!
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4月の第3土曜日、毎年恒例の行事、剣道部所属の一年生にとっては初の他校との練習試合、通称『試練戦』。
直樹たち私立試衛館高校の面々は、同じく私立の練兵館高校にやって来ていた。バスから降りて、周囲を見回す。
「でっけええええ!!!」
桜も散って木々には緑が目立つようになってきていた。そんな中、天まで届く大きな樫の木。注連縄が巻かれている。その木のすぐ下、影に隠れるように今回試合が行われる旧体育館、別名『練兵館道場』はあった。
練兵館剣道部の名顧問、前川先生が迎えてくれる。老いたとはいえ、昭和の激動を生き抜いた、かつての名剣士の静かな威圧感に、部員一同圧倒される。
「ようこそ、我が練兵館道場へ。」
直樹にとっても、千里にとっても、高校初の試合である。
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『試練戦』
練兵館高校と、試衛館高校が、春先に行う1年生のお披露目を兼ねた交流試合。両高校の新入生たちの総当たり戦。狭い業界で恒常的にネタが無いため、剣道界の二大雑誌『月刊日本剣道』と『隔週刊AGE OF KENDO』の記者も取材に来る。
試衛館と練兵館、お互いに剣道の強豪校として全国で有名なこの二校は、幕末に江戸3大道場にも数えられた練兵館が、近所にあった試衛館に、道場破りが来たとき助っ人を送って助けていた。という逸話が現在でも残っているほどの古い仲だ。
その頃の関係の名残か、逸話が有名なためか、練兵館の生徒たちには、うちが胸を貸してやっている。と、試衛館を自分たちの下にみる傾向がある。当然格下に負けるわけにはいかない。練兵館の上級生は、新入生に鬼のようなしごきを行い、鍛えるため、戦績では圧倒的に練兵館が勝ち越していた。
「総当たりってことは当然、直樹とも当たるんだよね?」
にっこり笑って千里が問う。
「ば~か、男子と女子は別だよ。そんなことより自分の心配でも痛っ!」
「あ、ごめん。」
結構な強さでぶつかってきて、目も合わせずに通り過ぎていく幼馴染。
「・・・翔子、最近ずっとああなんだけど、お前、何か聞いてない?」
さあ?と小首を傾げる千里。
「まあ、いっか。女子の試合はあとだから、塚山は俺の活躍でも見てんだな。」
「全勝よ!私に勝った奴が負けるなんて許さないから。真古流の名誉に賭けて、全勝以外あり得ません!!」
鼻息荒く息巻く千里。やっぱ俺って真古流あつかいなんだ、とため息をついた直樹。まあ、当たり前に全勝するけどね。
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―予想以上に手強い相手。
直樹は焦りを感じていた。全勝以外あり得ない。無理に飛び込めば一本取られる。しかし、攻めなきゃ引き分けだ。目の前の相手は上段に構えて直樹の得意な飛び込み面打ちを警戒している。
―すでにこれで4試合目、相手も対策立ててきたってわけか。こっちが一歩踏み込めば相手も合わせて一歩下がる。一発打たせて後の先を取るにも、相手は引き分け狙いか、打つ気を見せない。こんなところで見せるのもなんだが、仕方がない。
とっておきの一発、かましてやるぜ!!
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千里は見た。最初に直樹と立ち会ったとき、自分もあれを喰らったのだ。
相手の喉に、ズドン、とありえない音を立て突き刺さった竹刀。まったく反応できなかった相手は、そのまま後ろに吹っ飛んで、壁にぶつかって気絶している。
直樹の素早い面打ちを警戒して、上段に振りかぶった相手。距離を離して不意に胴を打たれないようにする。すると直樹は小手しか打てない。不自然に隙だらけな小手の位置。明らかにココを打ってこいと誘っている。おそらくソレが得意なんだろう。自分であればそこを打つ。誘いに乗って、小手を打つ。おそらく相手は、それをすかして左片手で面を打つ。それより速く胴を抜いたら私の勝ちだ。相手の返しと、自分の返しへの返しの反応勝負。同じ立場なら誰だってそうする。千里にも他の方法は思いつかない。しかし、直樹の対応は違った。
おもむろに後ろに思い切り下がる直樹。相手は追おうと反応するが、その隙を狙うつもりかと思い直し、その場に留まる。結果、キャッチボールもできそうな間合いが開く。どういうつもりかと両者を見る審判。安全な距離になって、ふ、と気を抜いた瞬間、大きく右足を振りあげて飛び込む直樹。届かない。同じ要領でもう一度飛び込む直樹。まだ足りない。直樹が着地するより早く、相手は面打ちの動作に入る。
『上段雷刀』
上段の構えからの面打ちは、おそらく剣道で最速の技だ。直樹がもう一度踏み込むより早く、相手の面打ちが直樹を捉える・・・・はずだった。
二度目の飛び込み、大きく踏み込んだ右足が着地した直樹は、今度は足を入れ替えて、まるで三段跳びの選手のように、今度は左足で大きく飛び込んだ。結果、相手の予想より半テンポ速い直樹の三歩目。半身になって右手を離し、身体を伸ばして左手一本で片手突き。さらにダメ押し、当たった瞬間、腕を内側に捻り込んで、衝撃が逃げないよう関節を固定する。流れるように行われた一連の動作は、周りの人間には、まるで直樹が一歩で信じられない距離を一瞬で飛んで、相手に体当たりをぶちかましたように見えた。
「一本!」
の合図も聞かず、倒れた相手も顧みず、千里の姿を探した直樹。呆気に取られて目を見開いていた彼女だったが、彼の目線に気がつくと、しっかり見返し、にやり、と笑った。
(笑われた!!?)
不敵に笑った千里を見て、直樹の体に戦慄が走る。驚いていない。自分の技は彼女の想定の範囲内だった、ということなのか?
前代未聞、おそらく剣道史上初の飛び道具で勝利を収めた直樹だったが、その胸には、勝利の喜びなどは一つもなかった。
この秘剣は、漫画「シグルイ」の原作、南條範夫の『駿河城御前試合』で使われた必殺剣です。