平成剣客浪漫譚~剣術少女が未来を憂う   作:千里三月記

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 今日、この場に来たのは運命なのだ。

 

 もし、この世に神が居るのならば、

 

 人生に目的が、生きることに意味があるとするならば、

 

 この瞬間、

 

 『使命』は与えられた。

 

 自分は、この為に生まれてきたのだと、

 

 『理解』した。

 

 

 

じゃ~

 

水の流れる音、

 

(危ないところだった。まさか紙が途中で切れてしまうなんて。)

 

 結局、ギリギリ。トイレットペーパーの芯まで分解して、ようやく個室から出ることができた。水がきちんと流れ終わったことを確認して、『月刊日本剣道』記者、木村剣士は個室のドアを開けた。

 薄い水色のタイル張りの壁、入口の所に置かれたそれよりは濃い色のすのこ。その手前に乱雑に散らばった、いまどき百円ショップにも売っていないような、チープな茶色の便所スリッパ。

 

 しかし、なんで自分は体育館のトイレなんかにいるんだろう。自分の同期は先輩記者に連れられて、今頃『東京ドーム』にいるはずだ。

 

 朝、出社すると突然、編集長に呼び出された。

「こ、高校ですか?」

「ああ、そうだ。ちょっと見てきて、良い感じにまとめて来てくれ。」

 

「NO」とは言えなかった。

 

 大学を卒業して一年間、就職浪人(るろうに)。バイトもせずにふらふら遊び呆けていた自分が、ダメもとで受けた大手出版社の面接。受かってしまった。いまでも思い出す。面接合格を報告したときの、母親の泣いた顔。

 

「あんた、このまま一生ニートで死んでくんだと思ってた・・・」

 

ひどい言われようだが仕方がない。彼女にふられて自暴自棄になり、ずっと部屋にこもってネットゲームばかりしていた。ペットボトルに用を足したことだってある。

 

 そんな自分が掴んだチャンス。残念ながら希望していた『W.F.D』ワールド・フットボール・ダイジェストには行けなかったが、面接のときに「はい、何でもやります。どこでもいけます。何時でも動けます。」と言ったのは自分なのだ。

 

 鏡を見ながら初心を思い出す。万が一のことはないと思うが、ひょっとしたら、ということも考えて、念入りに手を洗う。鏡には、茶髪に軽薄そうな笑み。色白で、まさに近頃の若者、という見慣れた自分の顔が映っている。

 

「しっかし、何が楽しいのかね~。」

 

 トイレから廊下に出ると、南国にいるカラフルな鳥みたいな掛け声と、ドン、ドンと体育館の板張りの床を踏む音。もう始まっているらしい。もう、春だ。外には心地いい風が吹いている。そんな中、こんな閉め切った空間に引きこもって、見るからに暑そうな防具を付けて、奇声を発して棒で殴り合う。理解できない。

 大体、両方とも同じような防具を付けて、同じような動きをするから区別がつかない。防具に一応、名前は書いてあるし、区別できるように、背中にそれぞれ、赤と白の布切れを結び付けちゃいるけれど、試合中は動いているので、すぐにどっちがどっちかわからなくなる。

 

「結局、記事にできそうなのはあのちっちゃい奴だけか。」

 

 皆、同じような動きの中、一人だけ凄い動きをしたチビ。凄い速度で喉を突いた。なんと、相手は壁まで吹き飛んで気絶してしまった。

 

(あの動き、瞬発力、まさにメッシレベルだよ。)

 

メッシレベル。もったいねえな―、なんで剣道なんてやってんだろ?と、独り言を呟いて、ゆっくり試合場へと戻っていく。

 

 用意されていた席に戻ったとき、既に男子の部は終わり、女子の部の試合が始まっていた。「やああ」と掛る掛け声が、女子の甲高いものに変わっている。

 よくわからない同じような展開が2試合続き、現在行われているのは3試合目。やたら小さな女の子が、柔道でもやってそうなしっかりした体格の女子をぶん投げた。

 

「一本」

 

思わず口をついた。しかし、剣道では反則らしい。審判に呼ばれて何か注意を受けている。現在、道場では2面のコートで同時に2試合行われているが、面白そうな試合展開に席を離れて、一旦中断している方のコートに近づく。記事にできるような試合になると良いんだけど。

 

(へえ、塚山っていうのか。)

 

 防具に付いた名札で、投げ飛ばした方の名前を確認する。投げ飛ばされた方は猪熊。そのまんまだ。

 試合は再開、猪熊が即座にショルダー・タックルをカマす。

 

(お、いけ、猪熊。押し出してやれ!)

 

 これまでの試合とは違う展開に、大興奮の木村記者。猪熊選手は、小さい方をどんどん押していく。小さい方、塚山選手は押し出されないように一生懸命頑張るんだけども、余裕の表情だ、馬力が違いますよ。猪熊選手がグイグイ攻める。猪熊選手、審判に見つからないように左手でガンガン塚山選手の顔を殴っている。

 

(そこだ!いけ!やれ!お前の力を見せてやれ!)

 

拳を握りしめ応援していたが、

 

ふ、

 

と消える塚山選手。

 

どうやらしゃがんでパンチをかわしたらしい。再び浮き上がってきた塚山選手。しかし、元の位置には止まらずに、そのまま上へと飛んでいく。

 

 再び宙を舞う猪熊選手。咄嗟に木村は写真をパシャリ。

 

打ち上がって、そして落ちてきた猪熊選手に、更に追い打ち、容赦ない一撃。文句のない一本勝ちだろう、と思ったけれど、どうやらこれも反則だったようで、審判に怒られている塚山選手。何が反則だったんだろう?

 

 手元のカメラ代わりのケータイを確認すると、写メはばっちり撮れている。

 

(記事の内容は、『突き』のチビと、この女子で決まりだな。)

 

 そのとき、負けて悔しそうな塚山選手が、道場の隅に移動して面を外した。

 

―なんて綺麗な

 

 

―可愛い

 

 

―天使

 

 

 (結婚しよ)

 

 

剣道って面白いかも・・・木村剣士、26歳の春であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 このサイトで、竜娘の異世界旅行記という面白い小説を発見。自分の書いたものや、他の同じ系統の小説と何が違うんだろう?と考え、細かい描写の書き込みが違う。ということに考え至りました。

 これを参考にした結果、自分の書く物の字数を増やすことに成功。最初書き始めたときより、多少、書くのが上手くなってきたのではないかと自画自賛します。

 内容が面白いのか、面白くないのか、書いた私にはわかりませんが、読んでいただけたら幸いです。

今後ともよろしく。
感想、批評、待ってます。

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