月の見えない夜だった。
暗雲が垂れこみ、その優しげな淡い光さえ届かず、街の灯りだけが頼りの仄暗い夜だ。
月は彼女にとって道しるべでもあった。
大空の影を象徴とする夜に悠然と輝く月は、先の見えない暗闇を導く案内人のように照らしてくれる。
そして、暗い影を落とすこの仕事では自身を励ましてくれるかのような、そんな味方のような存在でもある。
「や、やめろ!殺さないでくれ!俺が悪かった!」
目の前で哀れな命乞いをする男に冷ややかな目で見下ろす。
先日、ボンゴレの次期後継者でもある沢田綱吉を狙おうとした可哀想な人間だ。
彼女が我が身に代えても守ると決めた主君を、愚かにも殺そうとした。
それがどれだけ罪深いことか、この男は殺される直前まで分かっていないらしい。
「今日はだめだなー……」
どんよりと分厚く月を隠す空模様に比例するかのように、桜は気だるそうにため息を吐く。
わずかなすき間からうっすらと月明かりが差し込むが、ほとんど覆い隠されたその光は全く地上に届いていない。
ほのかな期待を込めて空を見上げる桜の目を盗み、襲撃者は裏道へ逃げようと背を向けるが──。
パシュッ
「ァ゛っ!」
その気配も逃さず、桜は反射するように即座に頭部を撃ち抜いた。
「あっ、尋問し損ねた……はぁ」
染みついてしまった普段の癖でうっかり息の根を止めてしまったことに後悔のため息を漏らす。
銃社会ではないこの日本国内で襲撃された場合は生け捕りにして尋問するのが桜の定めたルールだ。
ボンゴレへの貢献にもなるため自らにそんなルールを課していたが、逃げようとされては問答無用にもなる他ない。
「もしもし……終わりました。はい、回収お願いします」
付近で待機する回収班に連絡を頼むと、一息ついたように深いため息を吐いた。
「月、見えたら良かったのになぁ……」
五分もしないうちに後処理が済み、桜は帰路に着くべく静かに歩き出す。
月という道しるべがない夜道はどことなく心にも暗い影を落とす。
しかし、月が見えないというだけでここまで気分が沈む理由はもうひとつあった。
桜にとって月とは憧れの人を重ねてもいた。
夜闇に唯一光る月は、まるで孤高に立ち周りをも寄せつけない強さを秘めたあの風紀委員長のようでもある。
幼き頃に並盛を離れ、遠いイタリアの地で殺し屋への道を進んだ桜は仕事がどれだけ過酷でもその度に空を見上げ、悠然と輝く月を憧れの人に重ねて想っていた。
それが、彼女の数少ない心の支えでもあったのだ。
「まあ、たまに見えない時くらいはあるか…」
並盛に帰ってきてからはそこまで夜空の月にこだわることは少なくなったが、それでも見えている時はささやかな幸せを感じるものだ。
ぼんやりと呟いていると、そこはいつの間にか並盛中の前だった。
ひゅうと追い風に吹かれ髪をゆらめかせながら何となく校門側を見ると、何故かそこには雲雀が佇んでいた。
「やぁ 奇遇だね」
「えっと……こんな時間に何してるんですか?」
「ちょっとした片付けと見回りだよ。君こそこんな時間にうろつくなんて、並中生としての自覚が足りないんじゃないかい?」
ややご機嫌斜めな表情で見つめられ、桜は誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
「いやぁ……はは」
「……ふーん。まあいいよ、月明かりも見えてるし今日は免じてあげよう」
桜の殺し屋としての仕事は公にされていないが、元々は綱吉の護衛で通っているために雲雀は何となく察していたのだ。
そしてこんな夜でも月明かりが見えるなら、と寛大な心で許してあげたりするのだった。
月明かり、と言われ曇っていた夜空を見上げると、風に吹かれていつの間にか綺麗な満月が顔を出している。
満足げに口角を上げる桜に、隣で歩く雲雀も満更でもない顔で月を仰いだ。
「ねえ、雲雀さん」
「……なに」
さらさらと風に髪を揺らし、桜は穏やかな笑顔で雲雀を見上げた。
「月が綺麗ですね」
ピクリエにて開催中のイベント参加作品でした!
変な終わり方かと思われますが、診断メーカーで書き出しと書き終わりを指定されたワードと文字数で書くというもので挑戦してみました。
以下診断メーカーの結果
《雪の細道さんには「月の見えない夜だった」で始まり、「月が綺麗ですね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
#書き出しと終わり #shindanmaker
https://shindanmaker.com/801664》
スランプ気味で書けなかった時はこうして外部の手をお借りしたりしてますが、なかなか良い練習にはなります。
イベント参加の作品としては物足りないかもしれませんが、楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
良ければ感想などぜひお気軽にどうぞ!