最強になりたくて! 作:あいう
最強。それは男なら誰もが夢見る称号。人類最強のタラちゃん、綺麗なおめめを隠してる帝国学園のアイツ、正義執行のハゲマント、オラオラする高校生、最強の称号を得ている者達の共通点として挙げられるのはその存在感だろう。場に現れた瞬間、アイツなら何とかしてくれると思わせる雰囲気。それこそが最強の証である。
そして、俺こと
夏休みは地元の山に籠って熊と格闘。川で波紋法の修行。誰の手も借りず、一人で最強への道を着々と歩んできた。
しかし、ここで一つの問題が出てくる。この平和な世界における最強の定義とは何か。世界最強の格闘家になれば良いのか、国を脅かす驚異になれば良いのか。そして、一つの答えに辿り着く。
俺は、生まれる世界を間違えた。
◇
ある都市に住む貴族の家に、一人の男の子が生まれた。名は、サイ・ゴート。美しい顔立ちと綺麗な銀髪、生まれ持った魔力の才能と他とは違う特別な眼は、彼が生まれながらにして選ばれた天才であることを示していた。
そう、俺のことだ。
元面剛としての生に幕を下ろしたと思いきや、気づけば赤子の姿で人生再スタート。しかもこの世界は魔力の存在するいわばファンタジーの世界。
これは神が俺の努力を認めてくれたに違いない。今まで積み重ねてきた日々は無駄ではなかった。今度こそ、俺は最強になる!
赤子時代はとにかくイメージトレーニングをした。どんな風に魔力を扱うか、どんな風に剣を振るうか、どんな風に振る舞うか。飲んで脱糞して寝てを繰り返し、修行に明け暮れた。
そうして生後一ヶ月で歩きだし、一歳で文字を書き出し、二歳で剣を握った。
赤子の頃に最も時間を割いたのは戦闘スタイルの考案。
格闘技は前世で様々な流派を秘伝書から学び、あるいは空手、柔道、カポエイラと実戦で使えるものは全て習得した。
次に剣技の開発。昔から唱えていた理論である『両手剣も片手で使えば片手剣』を実現する為には圧倒的な筋力が必要だ。その為、三歳から前世で行っていたトレーニングを始めた。
両親やメイドは最初こそ驚きの声を上げていたが、次第にその才能を褒め称えるようになった。
サイ・ゴートは天才であると。
「くくっ、そうだ。俺は天才、そして最強! フハハハッ!」
そして、身の丈より大きな剣を片手で振るい、岩を砕いた。これが四歳の頃だ。
更に五歳、魔力の制御をある程度習得し、剣からビームを出せるようになった。
その成長速度は前世では見られなかったものだろう。凡人がいくら努力してもたどり着けない領域へ、俺は進んでいた。
……と、完全に調子に乗っていた俺だったが、ある日を境に最強への道に陰りが見えた。
腕試しに家族に黙って盗賊退治に乗り出した夜、俺は出会ったのだ。
「ん? 君強そうだね」
「……何者だ」
そいつは紛れもない実力者であった。見た目は俺と同じぐらいの少年。黒いコートを身にまとい、その目は赤く怪しく光っていた。
「何者、ね。それはこっちのセリフなんだけど……」
「俺の名はサイ。場合によっては、貴様を斬る男の名だ」
俺はその少年に対して最大限の警戒を向けた。決してその視界から外さないように。
「ふーん。じゃあサイ、君は何でこんなところにいるの?」
「盗賊退治だ。腕試しにな」
そう答えると、少年は興味深そうに笑う。
「へぇ……結構自信ある感じか」
その言葉と共に、少年から放たれる異様な威圧感が増す。
「……おおよそ、子供が放っていい雰囲気では無いが」
「それは君もでしょ。何だか僕達、気が合いそうな気がするけどな」
「そうか。なら、剣の方はどうかなっ!」
瞬間、俺は縮地法を使って一瞬で距離を詰め、少年に向かって斬りかかる。しかし、彼は俺の剣に難なく反応し止めて見せた。
「なっ!?」
「……速いね」
驚く暇もなく、少年は俺の腹に蹴りを入れる。身体が吹き飛びそうな程の衝撃を喰らいつつその反動を利用し跳躍。なんとか受け身を取った後すぐに体制を整えた。
(馬鹿な!? 俺と同じぐらいの子供が……!)
今までにない衝撃だった。前世でもここまで圧倒されたことは一度もなかった。
「どうしたの? もう終わり?」
少年は余裕そうに言う。
舐めやがって。その言葉を飲み込み、俺は剣に魔力を流し込む。
先程は動揺して腹に蹴りを貰ってしまったが、既に認識は改めた。もう一撃も喰らわん。
「そういうお前は攻めてこないのか? 次はお前のターンだぞ」
「これってターン制バトルだったの? それは悪かったね。じゃあ、僕のターン行くよ!」
少年は笑みを浮かべた後、一瞬にして俺の目の前に現れた。しかし、それは俺の眼ならば追いきれるレベルのスピード。剣で受け、そこからカウンターで技を出す。
「雷閃!」
剣と剣がぶつかり合い、周囲に火花が飛び散る。
「というか君」
「というかお前」
「「転生者だね? (だな?)」
そう同時に言い放つと、お互いに剣をぶつけ合いながら笑った。
「やはり転生者だったか。前世の記憶を持っているようだな」
「君こそね。で、どう? 今どんな気持ち?」
「最高だ! 俺はずっと前世からずっと最強を求めてきたんだ! それがこの世界なら実現出来る!」
俺は全力で剣を振るう。しかしその全てが受け流されるか避けられるかしてしまう。
楽しかった。この世界に来て、この才能をぶつける相手に恵まれていなかったのである。
「お前はどうだ?」
俺は一度距離を取り、その少年に尋ねた。彼はニヤリと笑い答えた。
「僕はずっと、影の実力者に憧れてきた。主人公でも、ラスボスでもない、物語に陰ながら介入し実力を見せつけて征く存在。カッコイイと思わないか?」
「あ〜、幻影旅団みたいな?」
「そうそう! そんな感じ!」
その後も彼と話をしながら戦う。それだけで充分だった。俺達は同じ様な志を持っていたのだ。互いに高め合えるライバル、俺は彼をそう認識した。
「……と、そろそろ切り上げるか。夜が明ける前に帰らないと母親に叱られる」
「おっと、僕もだ。それじゃあ、また機会があったらね、サイ」
「ああ、またな。……えっと」
「シド」
「シドか。その名、忘れないぞ」
俺はシド……もとい
……ちなみに家に帰った後、普通にバレてめちゃくちゃ怒られた。ごめんなさいお母様。
ゴート→GOAT→Greatest Of All Time→史上最高の・超最高の