旅に出るはずだった。 作:タビビトモドキ
ゲームの中では最初に訪れる街の為シンプルで少し簡素に感じていたが、城下町と言うだけあって実際歩いてみると中々に広く感じるものだ。制作の都合か、初心者への配慮かはわからないが、私が知っていたモンド城は随分と簡単に描かれていたものだったらしい。
モンドの中心都市なのだから人口も多いだろうし、確かに民家の数も商業施設の数もあれだけでは足りないだろうから当然と言えば当然だ。
アンバーが案内してくれた栄光の風やキャッツテール、エンジェルズシェアなんかの建物は一目見るだけでも気分が高鳴るもので、聖地巡礼と称して暇を見つけては旅行に明け暮れていたかつての友人の事を漸く理解出来た気がした。
あの子の名前はなんと言っただろうか。原神にかかわらない前世のことを思い出そうとする度に、思考に靄が掛かったように感じるのは何故だろう?
ああ、いけない。アンバーとパイモンが心配そうにこちらを見ている。折角案内して貰っているのだから、
「……うーん、小腹も空いたし鹿狩りで昼食にしよっか! あ、今回はわたしが出すよ、お近付きの印ってことで」
「いや、案内までしてもらってそれは悪いよ。お金なら多少持っているから気にしないで? それにパイモンってこう見えて結構食べるんだよ」
「へへっ。オイラは食べ盛りだからな!」
「いや、パイモンは自分で払いなよ?」
「なんでだよ!?」
何故か自慢げなパイモンに冷ややかな目を送るアンバー。軽口を叩けるほど気安い仲なのだろう、少しだけ羨ましい。
因みにお金があると言ったのは嘘ではない。積極的に狩りをした訳では無いが、これまで襲ってきたヒルチャールやスライムを倒して路銭を得ていたから。
何故魔物から
話が脱線してしまった。兎に角案内という面倒を押し付けた上にお昼まで払ってもらう訳にはいかないということだ。
頑なに固辞する私を見てアンバーは諦めてくれたが、パイモンは何故か悔しそうだった。まあ人の金で食べるご飯は美味しいよね。パイモンの場合は殆どいつもそうだと思うけれど。
鹿狩りのメニューはどれも美味しそうで、実際オススメされて頼んだ冷製肉盛り合わせは絶品だった。久しくまともな料理を食べていなかったことを除いても、過去食べた中で一二を争うレベルだ。
どうもこの身体になってから燃費が悪くなったというか、食事の量が増えた気がする。それに、前までは脂っこいものは余り食べられなかったのに、今は肉主体の料理でもペロりと食べられてしまうのだ。
戦闘に備えて食の好みも変わるのだろうか。華奢な見た目とは裏腹に、触ってみると筋肉はしっかりついているようだし。
小柄な私が大皿の料理を軽く平らげてしまったのをみて店員のサラさんは驚いていた。アンバーはあまり気にした様子ではなかったから、やはり戦いに身を置く騎士はこのくらい食べても普通なのだろう。
「この後はどこに行きたい? どこでも案内するよ!」
「あ、ゲーテホテルが見てみたいかも」
「……どこでもとは言ったけど、あそこだけはダメ! ごめんね、ゲーテホテル以外ならどこでもいいから」
「あ、うん。わかった……?」
今後の為にもファデュイを見ておきたくて提案したのだが、どうやらアンバーは余程彼らの事が嫌いらしい。はて、そこまで嫌っている描写があっただろうか。モンドの騎士団全体が問題児であるファデュイの横暴に頭を抱えている、という旨の話はあったと思うが。ストーリー中は常に一緒にいた訳では無いから見逃してしまったのかもしれない。
ホテルオーナーのゲーテさんも大金を積まれて渋々貸し出しているだけで、ファデュイには辟易としていたっけ。
まあ普通に過ごしていて聞こえてくる噂だけでも、ファデュイやスネージナヤに対していい印象を抱くことは難しいのだが。
モンドは確か、ファデュイによるマッチポンプで恩を売られているから強く出ることができないんだっけ。
この国の騎士団は優秀だけど、如何せん常に人手不足で手が回らないらしいから、弱みに付け込むのが上手いファデュイに利用されてしまったのだろう。
加えて大団長ファルカが騎士団員の八割を連れて遠征に出ているというのだ。残された二割の騎士と団長代理のジンさんだけでは手が回るはずもない。旅人である主人公を、多少の功績があったとはいえ栄誉騎士に取り立ててしまう程だから。
「じゃあ西風大聖堂かな」
「了解! ここからだと、あっちの方……奥に見えてるのがそうなんだ。会わせたい欲しい人も居るし、早速行こっか」
サラさんにご馳走様と告げて席を立つ。良いお店だった、次来た時は串焼きにしてみようかな。
鹿狩りからでも見えていた西風大聖堂は、実際に歩いてみるとかなりの距離がある場所に位置していた。モンド城でも一番大きな建物だから近く見えていただけで、思えばゲームでも大聖堂までの移動は距離や高低差のせいで面倒だったな。騎士団本部の屋上にあるワープポイントを解放してからはあそこから滑空して訪れていたっけ。
そう言えば、ゲームの時は気にしていなかったけれどワープポイントの扱いはどうなっているのだろう。たしか一般人にはただのオブジェに見えている、みたいな設定があったような気もするがキャサリンやパイモンは認識していたし、旅人は人目も気にせず使用しても騒ぎにならないのだから不思議だ。
違和感がないよう、都合よく認知が歪むのだろうか? それはそれで恐ろしい話だが、一番納得は出来る。
機会がなく実際に使ったことはないので、気になる所だ。
「ねえパイモン、アンバー。二人はワープポイントって知ってる?」
「ワープポイント? もちろん知ってるけど」
「当たり前だろ?」
「あ、そうなんだ……?」
もしワープポイントが万民共通で使えるのなら、稲妻は鎖国など出来ないしファデュイはもっと暴れていそうだ。誰でも自由に他国へ転移できるなら治安も悪化してそうなものだし、ある程度の制限がある……とか?
「ああ、安心して。アレを自由に使えるのは蛍だけだよ」
「え?」
「オイラ一人じゃ使えないからなぁ」
「わたしも使えないよっ。蛍はほら、特別だからね」
「う、うーん?」
神の目も無しに元素力を使える旅人は確かに特別な存在だ。或いは『降臨者』と呼ばれる存在だからか。
存在そのものが異例であるパイモンはさておき、アンバーが使用はできずともワープポイントを正しく認識できているのならシステム的に主人公と旅をすることになるプレイアブルキャラクターには何らかの
神が実在する世界なのだ。多少の不思議は不思議では無いのだが──
「──蛍? 着いたよ、ここが西風大聖堂!」
「え? ああ、うん。案内ありがとう、アンバー! 実際目にするとやっぱり大きいね」
「少なくともモンドじゃ一番大きい建物だからね! ああ、ほら。あそこにいるのがさっき言ってた会わせたい人なんだけど」
指された方を見れば、ツインテールの少女が笑顔で
こちらに気付いたバーバラは大きく目を見開いた後、信者の男性に一言告げてこちらへ駆け寄ってくる。慌てた様子も可愛いけれど、アンバーに急ぎの用事でもあったのだろうか。
「──蛍!」
「えっ?」