逆行した日   作:恵猫

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友達になった日

 空へと飛びあがった私を追うようにして、エヴァンジェリンさんもまた高くその身を浮かせてくる。

 相対した私は、右手に夕凪を握りしめた。左手は気を集めずに、夕凪に添える。

 

「近衛木乃香を護りたい、か」

 

 エヴァンジェリンさんは、くだらない、そう馬鹿にしたように吐き捨てた。

 

「それが、お前がそうまでする理由か?」

「はい。このちゃんを護る為なら、私はどれだけ傷つき倒れようと、何度だって立ち上がれます」

「本当に、それほどの価値があの女にあるのか?」

「………怒りますよ?」

 

 このちゃんを侮辱するのは、誰だろうと許さない。

 

「まあ、待て。たしかに近衛木乃香は桁違いの魔力を秘めている。だが、所詮は何も知らないただのガキだ」

「真祖の貴女からすれば、私も、他の人間も皆、等しくただのガキでしょうに」

「いいや? 私なりに違いは持っているぞ」

 

 彼女は静かに言った。

 

「覚悟を持つものと、持たないものだ。少なくともお前は、お前なりの覚悟を持っているよ」

 

 覚悟―――私の覚悟は、今度こそこのちゃんを護る事。

 彼女の言う覚悟がどういうものかは分からないが、私の覚悟と言えばそれだ。

 

「どれだけ魔力を秘めていようと、それを知らなければただのガキ……いや、魔法使いどもからすれば、いい餌か」

「それには激しく同意しますね。ですが、私の役目はそんな、このちゃんを利用しようと企む輩から、このちゃんを護る事です」

「無駄な事だな。近衛木乃香が何も知らないうちは、そんな輩は腐るほど湧いてくる。お前がどれだけ頑張ろうとな」

「関係ありませんよ。全て、この刀で斬り捨てるのみ」

 

 それだけでこのちゃんを護れるなら、こんなにも簡単な事は無い。ただ強くなる、それだけで良いのだから。

 

「………やはり分からんな。そうまでして近衛木乃香を護って、いったいどうするというのだ?」

「言ってる意味が、よく分かりませんが」

「どれだけ近衛木乃香を護っても、お前は受け入れてもらえないという事だよ」

 

 何気ない動作で、エヴァンジェリンさんがフラスコを宙へと投げた。

 放たれた氷の矢を、翼をはためかせて上昇することで回避し、彼女の頭上で刀を振り下ろす。

 

「斬鉄閃!!」

 

 なんてことないように、ひらりと躱される。

 それは元より承知の上で、急降下して彼女に接近し、至近距離から技を放った。

 

「斬岩剣!!」

「はっ、甘いわ!」

 

 ギシリと軋む音がしたと思うと、私の体は細く強い糸でがんじがらめにされていた。

振り下ろそうとした刀を持つ腕に絡む糸が、肌に食い込む。プツリと肌が切れ、血が滴り落ちた。

 

「そういえば、貴女は人形遣いでもありましたね……」

「魔法が使えなくなればと思っていたか?私も随分と舐められたものだな」

 

 幾重にも巻きついた糸が、私の動きを制限する。無理に動こうとすれば、おそらくはバラバラになることだろう。

 一気に気を噴出させるか、あるいは斬魔掌、弐の太刀を使えば糸を斬る事は可能だ。だが、問題は―――

 

「(正直、そろそろ限界か)」

 

 本当に難儀な体だ。翼を開放して、体内の気を更に引き出したは良いが、やはり慣れない事をしているからか。

 増えすぎた気が暴走して、技一つに過剰に気が上乗せされ四散する。四散した分は、当然だが私の体に無駄な負担を強いてきた。先ほど弐の太刀を使った感覚からすれば、おそらく先ほど以上に気を消費するだろう。

 これ以上、無駄に気を消費したくない。ならば、何とか別の方法でこの糸を抜け出す術を考えるか。

 

「さて、とはいえそろそろ私の方も、触媒が切れるのでな。別の方法で続きと行こうじゃないか」

「ッ……!!」

 

 覗き込んできたエヴァンジェリンさんの瞳に、吸い込まれる。

 そうして気づいた時、私は随分とまた懐かしい場所にいた。

 

「ここは……」

「幻想空間だ。ここには結界の力も及ばない、私の力も制御されないからな。さっきまでのお遊びとは違うぞ」

 

 にやりと笑ったエヴァンジェリンさんに、私は自分の体を見下ろす。

 彼女の意向か、私の服は烏族のそれに変わっていた。まあ、こちらの方が動きやすくて良い。

 

「(それに)」

 

 右手に握った夕凪を見て、笑みが浮かんだ。

この幻想空間は、体の状態よりも精神の状態に強く影響を受ける。だからだろうか、万全とは言えないが、十分だと思えるくらいには体の調子が良い。

 

「エヴァンジェリンさん」

「ん?なんだ、命乞いなら聞いてやらんことも無いぞ?」

「いえ、そんなことはしませんよ」

 

 しようと思うはずも無い。

 

「……力を発揮できるのは、何も貴女だけじゃありません」

「なに……!?」

 

 足に気を集める。それを爆発させて、一気にエヴァンジェリンさんの懐に入り込み、刀を横薙ぎに振り抜いた。

 すかさずそれを後退して躱した彼女を追いかけ、左手に気を集めて突き出す。彼女の右手に集まっていた魔力と衝突、爆発して、その瞬間に私たちは同時に飛び退いた。

 さすがエヴァンジェリンさん、すさまじい威力だ。一歩間違えれば、確実に左手が吹っ飛んでいたと思い、冷や汗が流れる。

 

「まったく、随分と無茶をする」

「これくらいなら、まだいけますよ。幻想空間での傷は、実体には影響しませんから………死なない限り」

「確かにそうだ。だが、もし腕が無くなれば……」

「動かなくなるかも、ですね」

 

 それは困るので、もちろん十分に注意はするけれど。

 

「神鳴流―――斬岩剣!!」

「氷楯!」

 

 振り下ろした刀は、瞬時に形成された氷の盾に阻まれる。

その場から飛び退いた私を追いかけるように、頭上からは氷の矢が降り注いだ。何度か地面を蹴り、エヴァンジェリンさんから距離を取る。

 

「容赦、ないですね」

「当然だ」

 

 ふふん、と上機嫌に笑ったエヴァンジェリンさんに、私はといえば刀を構えて溜息を飲み込んだ。

 

「……どちらにしろ、そろそろ終わりにさせます」

 

 明日は普通に学校だってあるし、悠長にお喋りをしている暇は無い。これ以上、わざわざ互いを傷つける必要だって本当はないわけで……というより、そもそも私はこの戦いを望んでいなかったわけで。

 

「―――神鳴流、決戦奥義」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」

 

 エヴァンジェリンさんが呪文の詠唱を始める。それを止めようと思う事も無く、私もまた気を高め、意識を集中させた。

 カッと互いの目が見開かれ、私は一気に地面を蹴った。

 

「真・雷光剣!!」

「エクスキューショナーソード!!」

 

 何の因果か、はたまた偶然か。互いにぶつけ合ったこの技の組み合わせは、懐かしき学園祭の戦いで、同じようにしてこの幻想空間でぶつけ合った技と同じだった。

 激しい光と、力のぶつかり合い。その衝撃で建物がガラガラと音を立てて崩れるのを聞きながら、私は夕凪を握った手に力を篭めることを止めない。少しでも気を抜けば、押し切られる。

 

「はははっ! 予想以上だよ、刹那!!」

「そうですかっ……!!」

 

 こっちは結構、いっぱいいっぱいですよ。

 

「お前は、その力で近衛木乃香を護るのか?」

「ええっ」

「たとえお前が―――受け入れられないとしてもか!?」

「っう……」

 

 押してくる力が強くなる。踏ん張っていた足が、僅かに後ろへと押しやられた。

 これは、エヴァンジェリンさんの叫びなんだろうか。彼女が抱える、私とはまた別の何かの、重みなんだろうか。

 

「お前も私も、人とは違う。人では無い人外の生き物だ。そんな私たちが、受け入れられると本当に思っているのか」

「っええ!」

「友達だからとでも言うつもりか? 今日のお前は、何故あんなにも笑っていられた?」

「笑ったら、いけないんですか……?」

「さあ、どうだろうな。ただ、仮初の幸せに気づかずに溺れている姿は、見ていられないんだよ」

 

 エヴァンジェリンさんの目が、寂しそうに、けれどどこか羨ましそうに細められた。

 

「仮初が崩れた時の絶望を味わうのは、お前にはまだ早い。だから、私が壊してやろう」

 

 ………この戦いは、彼女なりの優しさなんだろう。

 彼女は、私なんかの数十倍もの年月を生きてきた。私には想像も出来ない程の辛い出来事もあったんだろう。

 そんな彼女から見れば、今日の私は束の間の幸福に酔っているように思えたかもしれない。

 烏族と人間のハーフでありながら、化け物のくせに表面上は人間のふりをして、幸せを得て。その事実を受け入れられずに拒絶された時、私がどれほど絶望するのか、それは想像もしたく無い事だ。

 この思いは、このちゃんには決して分からない。人は自分に無いものを、真の意味で理解することなど出来ないのだから。

 でも、それでも私は―――

 

「信じているんです!!」

「っなにを……!?」

「今日の幸せが、嘘じゃないと!私はこのちゃんを、信じているんです!!」

「………信じたところで、裏切られるだけだとは思わないのか?」

「思いません。だって、このちゃんは―――」

 

 

 

『せ~っちゃん!』

『わっ、お嬢様!? 急に飛びついて来たら危ないですよ』

『あはは、ごめんな~、せっちゃん。で~も!』

『?』

『またお嬢様って呼んだ。嫌や言うてるのに』

『あ、ぅ……ごめんね、このちゃん』

『……えへへ、いいよ。許したる!』

『それで、急にどうしたの?』

『あ、せやった。なあ、せっちゃん』

『なに?』

『うちらずーっと、親友でいような!』

『もちろん』

 

 

 

「私の、親友ですから」

 

 ずっとずっと、そう信じてる。

 

 光が弾けて、音が遠のく。

 ふらつき、霞みゆく視界の中―――地に膝をついた彼女の姿を最後に、私は地面へと倒れ、意識を失った。

 

 

 

 うっすらとした眩しさに、私は目を覚ます。

 

「(……いい匂い)」

 

 目覚めた意識が、ぼんやりと最初に思ったのはそれだった。

 窓から差し込む太陽の光が眩しくて目を細めながら、私は起き上がる。二段ベッドではないふかふかのベッド。

 ここは、どこだ?

 

「おはようございます、桜咲さん」

「あ、茶々丸さん……」

「………?」

 

 ガチャリと扉が開かれて入ってきた茶々丸さんに、思わず慣れ親しんだ呼び名を呼んでしまって、それに気づいた時には不思議そうに首を傾げられていた。

 とりあえず笑って誤魔化すと、ベッドから下りて部屋を見回した。

 

「ここは、エヴァンジェリンさんのお家ですか?」

「はい。昨夜の戦闘後、桜咲さんは倒れたまま目覚めませんでしたので、マスターが連れて帰るようにと」

「そうだったんですか……ありがとうございます」

「いえ。リビングでマスターがお待ちです。どうぞ」

 

 案内されるままに着いていくと、リビングのソファーに大仰に座るエヴァンジェリンさんがいた。

 

「起きたか」

「おはようございます、エヴァンジェリンさん。とりあえず、ご迷惑をおかけしました」

「ふんっ。仕掛けられたのはお前の方だというのに、変な事を言う奴だ。まあいい。座れ」

 

 促されて、私は彼女の向かいの席に座った。すぐに茶々丸さんがお茶を出してくれて、小さく会釈する。

 茶々丸さんがエヴァンジェリンさんの後ろに控えて、それを待っていたように、さて、と口を開いた彼女に私は身を固くした。

 

「昨日の事は、覚えているな?」

「はい。結局、勝敗はどうなったんですか?」

「私の勝ちだ」

 

 勝ち誇るでもなく、あっさりと告げられた答えに、けれど私は然したる動揺もしない。

 その結果は、私が思っていたものと同じだったからだ。

 

「幻想空間においては、私はたしかに膝をつきはしたが、お前は倒れている。その時点でお前の負けだし、現実に戻っても尚、お前は起きなかった。対して私は意識もあったし、茶々丸もいた。お前を殺すことは容易だったよ」

「そう、ですか」

 

 ………弱くなったな。いくらエヴァンジェリンさんが相手だったとしても、仮にも力を制御されている相手に対して、意識も保てず気絶してしまうなんて。

 

「情けない……」

「ん、どうした?」

「いえ。なんでもありません」

 

 まあ、修行のやり直しとかそういうのは後で考えるとして、とりあえず今この場をどうしようか。

 エヴァンジェリンさんの話でいけば、私は完膚なきまでに負けてしまっているわけだが、だからといってここで、はいそうですかと引き下がることは出来ない。

 出来れば戦うことは避けたいが、残念ながら彼女に勝たなければこのちゃんを襲うと言われているから、戦闘は避けられない。このちゃんを護る為にも、なんとしても勝たなければいけないわけだが。

 卑怯かとは思うが、今すぐに斬りかかって第二試合と付き合ってもらうか。幸いにも、体力は回復している事だし。

 

「おい、何を考えている?」

「いえ」

「物騒な事は考えるなよ?別に、近衛木乃香を襲ったりはせん」

「あ、そうですか」

 

 なんだ、それなら安心だ。

 

「……あからさまに殺気が収まったな。わざとか?」

「まあ、半分くらいは」

 

 はあ、と深く深く、呆れたように溜息を吐かれる。

 さすがに昨日の今日で、これ以上の戦闘をするつもりは彼女にも無かったようだ。

 

「まあいい。それよりも、負けたんだからな、お前の身に何があったのかを話せ」

「……そんな約束はしてないじゃないですか」

「近衛木乃香を襲わないと言っているんだ。当然の代償だよ」

 

 たしかにそうかもしれないけれど、相変わらず理不尽な……でも、話すだけでこのちゃんを護れるというなら、それで良いのかもしれない。

 実際に話したところで、信じてもらえるかは分からないけれど。

 

「大まかな事でもいいですか?」

「それで理解できるなら、構わん」

「では……私は、今から数十年先までの未来の記憶を持っています」

 

 そんな始まりで、私はエヴァンジェリンさんに私の身に起きた事を話した。

 真名よりも詳しく、けれど真名と同じように大きな事件や出来事にはあまり触れず、ただ漠然と未来について知っているとだけ。

 説明を終えた私に、エヴァンジェリンさんは難しい顔をして、睨むように私を見て言った。

 

「本当にそれだけか?」

「それだけ、とは?」

「納得いかないんだよ。ただ未来の記憶を持っているだけだというなら……お前が、昨日までのお前よりも、近衛木乃香に対する想いが強い理由がな」

「ずっと一緒にいたんです。それだけでは理由になりませんか?」

「なるな。だが、ただ一緒にいただけで、お前は今の近衛木乃香との再会に泣くのか?」

「………」

 

 そういえば、教室に戻った私とこのちゃんの目は、はた目から見ても分かるくらいに赤くなっていたんだっけ。

 まあ、確かに彼女の言う通りではある。ただ唐突に、記憶が今日まで戻って来ただけなら、私だってあんなに取り乱すような事は無かった筈だ。

 

「言え。私は、お前が変わった理由が知りたいんだよ」

「………分かりました」

 

 誤魔化しは出来そうに無い。実際の話、見た目はともかく彼女の方が私よりも年上であることに変わりないんだから。

 私は落ち着かせるように軽く息を吐いた。

 

「私の目の前で、このちゃんが死にました」

 

 毒を盛られて、魔法を封じられて、殺された。死んだ。私は何も出来なかった。護れなかった。

 だから私は、今度こそこのちゃんを護りたい。このちゃんが幸せに生きていける未来へと進みたい。

 これ以上は何も言えない。昨日までの私と何が違うのかといえば、それは未来を知っているとか、そんなこと以上に―――このちゃんが死んでしまったのか、否かという事だから。

 

「……なるほどな。たしかに、それならお前の変わりようも納得がいく」

 

 エヴァンジェリンさんは納得したように呟き、それ以上の説明を私に求める事は無かった。

 

「ついでに言えば、お前の戦い方が妙だった理由も分かったよ」

「え?」

「過剰に気を使っていただろう? 随分と雑な使い方をすると思っていたが、あれはお前の意思では無いな?」

「……はい」

 

 気づいていたのか。

 

「大方、中身の実力に外側が着いていけなかったか。未来のお前が習得した技術は、今のお前の体には難しかったんだろう」

「ええ、おそらくは……どうにも、勝手が違うようで」

 

 精神と記憶に伴った経験が先走って、経験の無い体が着いていけない。刀を振るうにも気を使うにも、体だけが置いてきぼりを食らう。

 

「まあ、実際の経験が中身にある分、成長も速いだろう。精々、死ぬ気で励む事だな」

「そうします……」

 

 なってしまったものはしょうがないとはいえ、やはり記憶よりも弱くなってしまった事に対するショックはある。

 とりあえず、そうとなれば修行のやり直しをするしかない。暫くは、警備の仕事でも気をつけないとな。気を使うのも満足に出来ない今、昨日のように二の太刀を使ったりすれば、すぐに気が底をついて倒れるのは目に見えている。

 

「で、だ。刹那、未来から戻ったお前は、これからどうするつもりでいたんだ?」

「どうするもなにも、このちゃんを護りますよ」

「それは聞いた。お前は近衛木乃香に、全てを話すのか?」

「………魔法については、今、長の方でも話しているので。そちらが終わるまでは、何も」

「お前の存在についてはどうする?信じているんだろう?」

 

 試す様に、エヴァンジェリンさんが言ってくる。

 私の存在、烏族という異形とのハーフである事を、このちゃんはまだ知らない。

 

「翼については、このちゃんにはまだ話しません。魔法にも近い事ですから」

「言い訳だな。どれほど綺麗ごとを言ったところで、結局お前は拒絶されるのが恐いんだろう?」

「……このちゃんは、大丈夫ですよ」

 

 少し、嘘が混ざる。それを敏感に感じ取ったエヴァンジェリンさんの目が、剣呑に煌めいた。

 似た境遇だけに、こういう事は誤魔化せそうに無いかなぁ。

 

「………認めてくれるって、信じてます。確かに、少し恐いですけど……そう思うのも、仕方ないんじゃないですか?」

 

 過去に一度でも迫害され、拒絶を受けたなら、それはいつまでも消えない。

 根強く、根深く、心に突き刺さって、その事実を私に忘れさせてはくれない。

 なら、私はそれに恐怖したままでいるしかないのか?

 内心で怯えながら、それを隠して自分を偽って、仮初の幸福を喜ぶしかないのか?

 昔の私なら、それも仕方ないと諦めただろう。卑屈になって、自分を卑下して、私は化け物なのだから仕方が無いと。

 でも、そうすると、このちゃんが怒ったから。皆が、怒ってくれたから。

 だから私は、違うと叫ぼう。

 

「それでも恐怖を飲み込んで、踏み出さないと……先へは進めませんから。私は、このちゃんを信じると決めたんです。だって、友達ですから」

「はっ、また友達か。その仲良しこよしが、いつまで続くかな」

「友達でいる限り、いつまでも続きますよ」

「ふぅん……」

 

 認めようとしてくれないエヴァンジェリンさんに困りながら、けれど何だか笑ってしまいそうで。

 だって、目の前の彼女はまるで拗ねている子どものようで。私の数十倍は生きている筈なのに、そう見えてしまうのはやはり、見た目が原因なんだろうか。

 

「あの、エヴァンジェリンさん」

「なんだ?」

「そんなに疑うのでしたら……私と、友達になってもらえませんか?」

「はあっ!?」

 

 心底から驚いているエヴァンジェリンさんに対して、私は顔が熱くなる。

 正直、改めてこういう事を言うのは初めてで、これはなかなかに恥ずかしいし、緊張すると思った。このちゃんも明日菜さんも、気づいたら友達だったり、親友だったり、師弟だったりで、私から何か行動を起こしたというわけでもないから。

 うん、自分から言い出せるようになったあたり、成長はしているんだなぁ。

 

「な、何故私が……」

「仲良くしてもらいたいですし、それに……エヴァンジェリンさんが悪い人じゃないって、知ってますから」

「私は、悪の魔法使いだぞ!?」

「知ってます。でも、私の事を心配してくれる、優しい人です」

「んなっ……!!」

 

 あ、赤くなった。照れてるみたいだ。

 エヴァンジェリンさんのこういう姿は、あまり見たことが無くてとても新鮮だ。新しい彼女を知れた気分になって、何だか嬉しい。

 

「それで、どうですか?」

「………ふんっ、まあ、なんだ。お前の言う友達ごっことやらが、どういうものか……まあ、付き合ってやらんことも無い」

「ありがとうございます」

 

 つまり、友達になってくれるという事で。なんと言われようと、私にとってそれはとても喜ばしい事だ。

 

「あの、ちゃちゃま……絡繰さん」

「茶々丸で結構です、桜咲さん」

「あ、なら私も刹那と………それで、ですね。よかったら茶々丸さんも、友達になってくれると、嬉しいんですが……」

 

 きょとん、と茶々丸さんが驚いたように見えた。といっても、いう程に表情が変化したわけでは無く、無表情なのだけど……私にはそう見えた。だから、それでいい。

 

「友達、ですか。構いませんが……」

「よかった。こういうのもあれですけど……よろしくお願いします」

「ふんっ」

 

 ……にしても、エヴァンジェリンさんはあれだろうか。あの、たしかツンデレとかいう……。

 

「今、妙な事を考えなかったか?」

「いえ、別に」

 

 彼女の前で下手な事は考えない方が良さそうだ。でなければ、氷漬けにされかねないだろうから。

 

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