逆行した日   作:恵猫

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常識人と会った日

 エヴァンジェリさんと茶々丸さんと晴れて友達になった後、私は泊めてもらったことと怪我の手当てをしてもらったお礼に、朝食の準備をすることにした。

 といっても、真名の時と同様、いたって普通の朝食だ。けれどエヴァンジェリンさんにはとても喜んでもらえたし、茶々丸さんもまた、栄養の摂取をする事は出来ないけれど味覚はあるそうで、美味しいと言ってくれた。

 どこかの料理人が、食べた人に美味しいと喜んでもらえるのが一番幸せだと言っていたが、なるほど。確かにこれは嬉しいものだ。

 二人とも、特にエヴァンジェリンさんは日本茶が好きなようだし、今度お茶菓子に和菓子を作ってみようかな……喜んでもらえると良いけど。

 

「おおお!? こっ、これはどういう事だあっ!?」

「あ、せっちゃーん」

 

 そのまま二人と一緒に学校に行くことになった。制服は茶々丸さんが持ってきてくれたんだけど……いつの間に持って来たんだろう。私が寝てる間にだろうか?

 教室に入ると、どういうわけか昨日と同じように視線を集めた。理由は不明だ。

 そこに、このちゃんが何だか安心したように駆け寄ってきて、どうしたのかと思いつつ笑いかける。

 

「おはよう、このちゃん」

「せっちゃん! おはよーさん」

「……どうかしたの? なんか、慌ててたみたいだったけど」

 

 目の前で立ち止まったこのちゃんに続けて聞いた。

 

「んとなー、せっちゃんと一緒に学校に行こう思ったら、いないって真名ちゃんが言うてな。どうしたんやろう思ってたんや」

「ああ、そっか。ごめんね、このちゃん」

「ええんよ、うちも急やったし。あ、エヴァちゃん、おはようさん」

「……ああ」

 

 ふいっと顔を背けて自分の席に座るエヴァンジェリンさんと、そんな彼女を追う茶々丸さん。二人とも、この分だとクラスに馴染むまでまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「ね、ね、桜咲さん。これは一体どういうこと? 何があったの?」

「は……?」

 

 マイクを持って突撃してきた朝倉さんに聞かれて、けれど何を言っているのか分からず首を傾げた。

 周りを見るとクラスの方たちが興味津々といった眼差しをこちらに向けていて、それこそ、いつ、昨日のように雪崩になって襲ってくるか分からなくて恐怖する。

 思わず後ずさったところに、ズイッとマイクを差し出されて思わず問い返した。

 

「なにがですか……?」

「マクダウェルさんの事だよ。クラスでも殆ど話さない彼女に茶々丸さんまで加えて、それで三人で登校ってどういう事? 何があったのさ」

「えっと、そう言われましても……」

 

 まさか、昨日一晩戦った挙句、朝ご飯をご一緒しましたなどと、とてもじゃないが言えるはずも無い。

 

「うちも知りたいな。せっちゃん、教えて?」

「このちゃんまで……」

 

 朝倉さんはともかく、このちゃんにまで聞かれるとなると、答えないわけにもいかなくて。

 でも、どうしよう。正直に話せるはずもないし……誤魔化すか?

 

「今日は、少し早めに出て散歩でもしながら行こうと思って……そしたら偶然、ばったり」

「そっかぁ~。なら、今度はうちもせっちゃんと散歩する~」

「あ、うん。分かった」

「んー、それならただの偶然かぁ……ねえ、本当はどうなの? 一晩かけてじっくりねっとり何かあったりは」

「しません!」

 

 何を期待してるんだ、この人は!?

 

 

 

 放課後、手合わせを求めるクーフェイと長瀬から逃げるように教室を飛び出して、私は寮への帰り道を歩いていた。

 このちゃんは占い研究部に出ると言っていたので、一緒にはいない。心配ではあるが、今となっては部活に出るというこのちゃんをつけ回すのも気が引けた。

 だから、お願いしてお守りを一つ持ってもらう事にした。普通のお守りではなく、お守り袋の中には私が作ったお札が入っている。

 効果は、このちゃんに危険が迫った際にそれを私に知らせるものだ。同時に居場所も教えてくれるので、私はいつでもこのちゃんの元に駆けつける事が出来る。

 一番望ましいのは、常に一緒にいて直接護る事なんだけど……生活する分に、さすがにそれは無理という事だ。なら、その中でいかにしてこのちゃんを護るか考えないと。

 

「(この後は、どうしようかな……)」

 

 このちゃんの事は一先ずこれで様子を見るとして、寮に帰った後はどうしようか。

 修行も必要だが、せっかくだしエヴァンジェリンさんの所へお邪魔してみようか。もっと仲良くなれれば嬉しいし……あれ? でも、たしかエヴァンジェリンさんって学園側から監視されてたり、したような……まあ、問題があれば向こうから言って来るか。そもそも、私は友達に会いに行くだけなんだし。ああ、でもよく考えると、エヴァンジェリンさんって魔法使いなんだよなぁ。西としてもそれはあまりよくない……いやでも、今の私は対外的に西の裏切り者扱いなんだし、それなら…………うん、もういい。友達に会いに行くってことで通そう。友達なのは事実なんだし、うん、そうしよう。

 深く考えすぎると動けなくなりそうで、これ以上の思考は止めておく。

 考えすぎると、自分で抜け出せなくなるのは昔からの悪い癖だしなぁ……。

 

「と、あれは……」

 

 考え事から抜け出したところで、前方に見覚えのある後ろ姿を見つける。千雨さんだ。

 本でも読んでいるんだろうか、足元への注意が少し不足してるように見える……あ、躓いた。

 目の前で転ぶのを見捨てる事も出来ず、地面を蹴り一気に千雨さんとの距離を詰めると、倒れかけた彼女の腕を掴んで後ろへと引いた。ぐんっ、と勢いよく引き戻された千雨さんが、驚いた顔で振り返る。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……ありがと」

「どういたしまして」

 

 お礼を言いつつ、どこから現れたんだ? とばかりに千雨さんが私を見る。まあ、私は彼女の後ろにいたし、それなりに距離もあったから気づいていなくて当然か。

 でも、だからといってそこまで不思議そうに、不審げに見なくても………ああ、そうか。

 麻帆良全体に認識阻害の効果が及んでいるから誰も気にしないが、突然、こんな風に人がすぐ傍に現れるのは、普通の人からすれば可笑しなことなのか。

 たしか千雨さんは、認識阻害が効きづらい体質だった筈……だから、こんなに不可思議なものを見たという顔をするんだろう。

 

「寮へ帰るんですか?」

「ああ」

「よかったら、ご一緒しても良いですか?」

「……別に、かまわねぇよ」

 

 本をしまった千雨さんが歩き出すのを追って、私も歩き出す。

 隣に並んだはいいものの、どちらも何も話すことなく、ただ無言で歩いていた。

 

「………なあ」

「はい?」

 

 不意に、千雨さんが口を開いた。

 

「今朝、絡繰たちと一緒に学校に来てただろ?」

「ええ」

「どう思った」

「………」

 

 千雨さんの問いかけの意味。曖昧で、そこに篭められた意味とはなんなのか。

 聞いた彼女はどこまでも無関心を装いながら、鞄を持つ手は強く力が入り震えていて。

 私はといえば、彼女の問いかけに答えを返さず、首を傾げた。

 

「長谷川さんは、どう思うんですか?」

「………」

 

 問い返されるとは思わなかったのか、千雨さんはぴたりと足を止めてしまった。

 つられて私も立ち止まり、一歩分だけ先に進んでしまった体を振り向かせた。頼りなく彷徨う瞳を見上げる。

 

「聞きたいのは、茶々丸さんの性格についてですか? それとも、彼女がロボットである事についてですか?」

「ッ!!」

 

 驚愕に目を見開いた千雨さんが、それから噛みつくように叫んだ。

 

「分かるのか!?」

 

 彼女が知りたいのは、後者。

誰もが茶々丸さんをクラスメイトとしてしか認識していない中で、彼女をロボットだと認識し、考えるのか否か。

 

「………ロボットがクラスメイトなのは、可笑しいですか?」

「普通に考えたら可笑しいだろ? ってか、絡繰だけじゃない。他の奴らだって変だろ、異様にガキみたいな奴とか、有り得ないくらいに運動神経が良いとか……極めつけは」

「子ども先生」

 

 私の言葉に、力なく千雨さんは頷いた。

 ……なるほど、千雨さんはこういった事に悩んでいたのか。

 私たちの世界からすれば、子どもを力が持っているのは何ら不思議な事では無い。子どもが大人を倒すのが当たり前に起こりうる実力世界だからだ。

 けれど、彼女はそうでは無い。千雨さんは普通の、この麻帆良には通用しない外の常識を持った存在だ。彼女にとって、私たちの世界で起こりうることは、有り得ない事でしかない。

 

「おかしいだろ、なんで誰も不思議に思わないんだよ。常識とか、法律とか、いろいろあんだろ……」

 

 私を話しが通じる人間だと捉えたのか、千雨さんは弱弱しく言葉を紡ぎ出した。

 

「有り得ないことばっかりなのに、誰も不思議に思っちゃいない。オリンピック選手なんか足元にも及ばないくらいの運動神経とか、異常に発達した科学技術とか、麻帆良の外と比べたらここは可笑しすぎる。あちこちで普通に乱闘があって、なのに誰も危険だとか思わないし、観戦まで始めちまう……意味がわかんねぇよ。なあ、これが普通なのか? ここが可笑しいんじゃなくて、私が可笑しいのか? 私だけが変なのか?」

「………可笑しくないし、変じゃないですよ」

 

 千雨さんは、可笑しくないです。

 縋るような瞳を向けてきた千雨さんにそう言うと、途端に彼女は泣きそうに表情を歪めてしまった。

 どうしよう、さすがにこの場で泣かれるのは困る。

 

「……長谷川さん」

 

 本当は、私がここまでする義理も義務も権利も無い。

 ただ、今にも泣き出しそうな彼女を見たら、このまま放っておく事が出来なくて。

 

「ちょっと失礼しますね」

「は? ……おわっ!?」

 

 よいしょ、と千雨さんの後ろに回って横抱きにする。身長差はあるけれど、これくらいなら平気だ。

 

「で、長谷川さん。貴女にはきついかもしれないですけど」

「あ……?」

「貴女の言う『異常』を、体験してください」

 

 言って、私は気を集めた足で思い切り地面を蹴った。

 飛ぶようにして跳び上がったその高さと、その速さはまさしく、彼女の言う異常だった。

 

 

 

 寮へと帰ってきたところで、とりあえず千雨さんを私と真名の部屋に招待する。真名がいないのは好都合だ。

 ぐったりとしていた彼女を座らせて、私はお茶を淹れはじめる。日本茶に、お茶菓子は真名が昨日買って来たまんじゅうだ。後で新しいのを買ってこよう。

 

「どうぞ。少しは落ち着きましたか?」

「あー………あんまり」

「そうですか」

 

 それも無理は無いと、苦笑いしてお茶を飲む。一息吐いて、問いかけた。

 

「それで、どうでしたか? 自分で体験した異常は」

「普通にありえねぇよ……」

「だと思います。でも、麻帆良はその異常が普通に出来る人がたくさんいて、しかもそれが容認されているんです。まあ、裏事情も色々とありますけど、それについては聞かない方が良いでしょう」

「危ない事なのか?」

「そうですね。生死を賭けるくらいには」

「………」

 

 そういう世界だから、むやみやたらに人を巻き込んではいけない。それは暗黙のルールといっても良い。

 それなのに、私が千雨さんを放っておけなかったのは、第一にやはりあの時の彼女が泣きそうだったからで。そして、あのまま放っておいたら、彼女はまた長い時間を一人で悩み続けなければならないから、そう思うと見捨てる事が出来なかった。

 私に出来る事があるなら、彼女の力になってあげたいと思ってしまった。

 

「愚痴とか、話したい事があったら、いつでも来てください。話し相手くらいには、なれますから」

「いいのか?」

「もしも長谷川さんが、私みたいな異常でも良いと言ってくれるなら」

「………その、悪かった、な」

「構いませんよ」

 

 千雨さんが謝ることは無い。彼女から見れば私が異常なのは分かり切っている事だ。

 それに私は、文字通り化け物なんだから、普通じゃ無いなんてとっくの昔に自覚してる。

 

「普通じゃ無いのは分かってるんです。でも、私はその異常であれる事を、誇りに思ってます」

「誇り?」

「人とは違うけど、そうだからこそ出来る事があるんです」

 

 大切な人を護る事が出来る。

 

「……ああ、そうだ。それから」

 

 不意に思い立って、机の引き出しからお札を二枚、取り出した。といっても、どちらとも封をしている状態で、それを解除しないと使えない。

 

「長谷川さんは、危険を事前に知ることが出来るのと、危険に陥ってから助けが来るの、どちらが良いですか?」

「は?」

 

 引き出しの奥から更にもう一つ、お守り袋を取り出してから元の席に戻る。

 意味が分からないという顔をした千雨さんに、どう説明しようか考えながら口を開いた。

 

「たとえば今、歩いている道の先に危険があったとします。それを自分に知らせてくれるものと、自分には分からないですけど、長谷川さんに危険が迫っていることを私に教えてくれるもの、と言えば良いでしょうか。持つとしたら、どちらを持ちたいですか?」

「………えっとさ、その答えの前に、一つ聞いても良いか?」

「どうぞ」

「どういう仕組みなんだ?」

「それは聞かない方が良いでしょう。長谷川さんの思う異常と同じですから、ただそういうものなんだと思ってくれれば」

 

 それだけで、彼女には十分だ。

 

「……自分で危険を避けるのと、危険から助けてもらうものって事だよな。なあ、どっちも持つってのは駄目なのか?」

 

 深く考えるのは止めたようで、ただ私の説明から千雨さんそう聞いてくる。私は首を振って返した。

 

「この二つは相性が悪くて、どちらかしか持てないんです。どうしてもとおっしゃるなら、二つとも差し上げますが……」

「ああいや、いい。中途半端になったら元も子も無いんだろ?」

「ええ」

「なら、どっちか決めさせてもらうわ」

「そうしてください。持っていて困る物でも無いと思いますから」

 

 事実、この麻帆良において危険への対処が出来るものは持っていて損は無い。特に、私たちのような危険にすぐさま対処できるわけでは無い、千雨さんのような一般人は。

 

「……なあ、私に危険が迫ったら、桜咲に教えるってやつだけどさ」

「はい」

「もし、本当に私に危険が迫ったとして、お前はいったいどうするんだ?」

「やれるだけのことをします」

 

 その時の私に、やれるだけの事をして護る。

 このちゃん以外の人も護るつもりなのかと言われれば、護ると答えるしかない。

 護れるのかと言われれば―――護れると、答えるしかない。

 

「長谷川さんを、私に護らせてくれるというなら、私は出来るだけの事をします」

 

 見てしまったら、触れてしまったら。私は護りたいと思ってしまったから。傷ついてほしくないと思ってしまったから。

 手を伸ばして、掴むことが出来るんだと思ったら、護りたいなと思ってしまったのは、どうしてだろう。

 

「……桜咲ってさ、見かけによらずお人よしなんだな」

「あはは……そうでしょうか」

「そうだよ。じゃなきゃ、お前が私にここまでする必要なんて無いだろ」

「………………そうですね」

 

 千雨さんからすれば、私はただのクラスメイトで。それどころかまともに話したことも無い筈だ。

 だから、私が彼女の為にここまでする必要は、彼女の言うとおり最初から無かったんだ。

 

「(このちゃんだって)」

 

 二年間も、冷たい態度ばかりだったのに、突然変わった。驚いただろう、混乱しただろう。

 私は彼女たちを知ってるけど、彼女たちは知らない。歩いてきた道のりが違う―――

 

「おい、桜咲?」

「あ……」

 

 どうしたんだ? 首を傾げて訝しむ千雨さんに、慌てて笑みを浮かべると首を振った。

 駄目だな、考えすぎて抜け出せなくなるのは悪い癖だって、さっきも思ったはずなのに。

 

「えっと、すみません。もう一度お願いします」

「ああ、だからさ……危険に近づかないで済む方法、教えてほしいんだよ」

「近づかない方法、ですか」

 

 強く頷いて、千雨さんが続ける。

 

「方法ってか、危険な場所とかさ。そういうのを教えてほしいんだよ」

「これには頼らず、自分で危険を回避するということですか?」

「ああ……それで、まあ、あれなんだけどさ」

 

 視線を彷徨わせて、彼女にしてはなんともはっきりとしない様子で、口を開いた。

 

「私自身が何もしないで、任せっぱなしって気がしてなんか、気が引けるっつうか……」

「………」

 

 そんなことは無いと思ったけれど、何も言わずに言葉を待つ。

 千雨さんは、彷徨わせた視線を落ち着かせると、ジッと私を見て言った。

 

「危険な目に合うのは恐いから、逃げる。でも、もしなんかあった時……頼んでも、いいか?」

「もちろんですよ」

 

 笑って、このちゃんに渡した物と同じお札を小さく折ってお守り袋に入れる。封を解くのは忘れずに。

 それを差し出すと、千雨さんはどこか緊張した風にそれを手に取って、私はそれを見てまた話しだす。

 

「では、危険の避け方について話しましょうか」

「あ、ああ。頼む」

「まず、危険を避ける方法……危険に遭遇しない為に注意すべき事について話します」

「………」

 

 固唾を飲んで続きを待つ千雨さんに、私は続けた。

 

「危険な場所には近づかない、夜遅くに出歩かない、不審な物に手を出さない、近づかない、変な人には着いて行かない、人気のない場所は避ける、それから……」

「ちょ、ちょっと待て! なんだそれ、まるっきり普通ってか、当たり前みたいな……」

「ええ、そうですよ」

 

 事も無げに頷いて見せると、千雨さんは呆気にとられた顔をした。

 

「危険は、どこにでもあるんです。ただ、その危険が外に比べれば多くて、下手をすれば死んでしまうものが多いから、危ないだけで」

 

 外で言う夜に出没する不審者が、殺人鬼や妖怪に変わる。それが麻帆良だ。

 ただの人間の不審者でも不安を煽るし十分に危険なのに、妖怪となればそれ以上に危険だし、ただの変質者で済まない殺人鬼が現れたのでは、生死に関わるその危険度は計り知れない。

 

「特別な対処法というのはありません。あるとすれば、それは異常になる事でしょうか」

 

 麻帆良にいる異常は、私たちだけじゃない。例えばその辺を歩いてる人たちだって、異常といえば異常だ。

 危険が蔓延る麻帆良を普通だと思っている、それだけで十分だ。

 

「だから、基本的には今言ったことを守ってください。それだけでも、危険に遭遇する確率は減りますから」

「……分かった。なら、お前が言った危険な場所ってどんなところなんだ? 見分け方とか分かれば有難いんだけど」

「そう、ですね………長谷川さんは、この麻帆良で異常な場所って何処だと思いますか?」「全部」

「………」

 

 早い回答だった。

 

「えっと、一際おかしいところってありませんか? なんでもいいんです」

「んー……まあ、いろいろありすぎっけど、世界樹は異常だろ。あんなでかい樹がギネスにも登録されてないし、普通ならテレビの取材があってもいいくらいだって」

「たしかにそうですね」

 

 頷いて、私は言う。

 

「世界樹も、常にではありませんが危険な場所の一つです」

「は……?ただでかいだけの樹じゃないのか?」

「色々とありまして、言った通り普段から危険という事はありません。ただ、時期によっては近づかない方が良い場所になります」

「………」

「危険な場所の見分け方、ということでしたが……言ってしまえば、明らかに異常だと思う場所は危険なんです。他にもどこかありませんか?」

「……図書館島」

「地上は大丈夫ですが、地下には絶対に行かないでください。地上でも、出来ればあまり奥まで行ったり、遅くまで残る事はしない方がいいですね」

 

 広すぎるあの図書館は、このちゃんも所属する図書館探検部の活動場所ではあるけれど、正直近づいてほしくない。あそこに集まる魔力もまた強いから。

 

「そういった場所に近づかないのが、一番の対処法です」

「……どんだけ危ないんだよ」

「それは、長谷川さんがよく分かってると思いますよ」

「ああ、そうだな。たしかにまあ、そう思うよ」

 

 疲れたように息を吐いた千雨さんが、自信なさ気に言った。

 

「そこら中にあると思うと、避けきる自信無くすわ」

「だから、それを常に持っていてください」

 

 彼女の手に握られたお守りを指差して、私は笑いかけた。

 

「危険を避けようと考えるだけ凄い事ですよ。だから、どうにもならなくなったときは、私がどうにかしますから」

 

 安請け合いをするつもりは無い。やると言ったからには、やる。

 このちゃんを護る。でも、護れるなら千雨さんだって、私は護りたい。

 

「………本当、お人よしだな」

「あはは」

 

 そんなんじゃないと、私は言葉も無く否定した。

 

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