さて、31話、今回は転換点…かな?
では、どうぞ…。
「……」
アビドス基幹病院、その病室。
先生に戦闘を止められ、アキラと先生は病院へと担ぎ込まれた
目の前に佇む彼の姿、その白い身体を染め上げる程にこびり付いた血糊は洗い流されて元の陶器の様な肌に戻っている、……だが、その姿には包帯にガーゼ、絆創膏が数多く貼り付けられている、夥しい程のそれの裏には、裂傷に銃創、吻合された深い切り傷など、痛々しい傷跡を隠す為に付けられている。
そして、彼の白い太ももの裏にポツポツと付いた数発程度の注射針の跡、……あの後、周囲を少し見てみたら注射針付きの医療用モルヒネチューブがあちらこちらに落ちていた。
セリカちゃんの話だと、あの大怪我のまま自分のことを放っておいて先に先生を治療したらしい。彼は大量の出血で朦朧とする意識をモルヒネで覚まして、失血寸前まで戦って、そして、先生を守り切って……、気絶した。
「……私とは対照的だな……」
思い出されるのは二年前のあの時の話。私の中で呪いとして記憶に残っているそれは、いまだに私の体に、心に永遠の傷となって蝕み続けている。
『ホッシッノちゃ〜ん! 見て見て! アビドスの昔の砂祭りのポスタ〜!』
『んふふ〜、すっごく素敵じゃない!? もし、何か奇跡が起きたら、またこの時みたいに人がたっくさん集まって___』
『……そんなのあるわけ無いじゃないですか、もっと現実を見てください!』
『は……はぅ……』
『こんな何もない砂漠のど真ん中に、一体誰がくるというんですか! そうやって夢物語を語るのもいい加減にしてください!!』
『うう……、だってホシノちゃ〜ん……、ごめんね〜……?』
『……そうして』
『うぇ?』
『……そうして幸せだの奇跡だの……!! そんな物に縋って……』
『貴方はアビドスの生徒会長なんですよ!? もっとしっかりして下さい! 貴方のその肩に乗ってる責任を考えたことはあるんですか!?』
『"貴方の背中には、アビドスの命運が載っているんですよ!?"』
もう朧げになりつつある昔の記憶、だが、それだけは永遠に忘れる事の無い深い呪い、辛い、なんであの場でそんな事を言ってしまったのか、悔しい、あの時に先輩がああなると解っていたなら……、謝る事ぐらい出来たのに。
脳裏に映るのは先輩の……、血塗れとなっていたあの姿、頭の上に浮かぶ筈のヘイローは消え、ピクリともその体は動かない。
彼が、たった一人でカイザーとのケリを着けに行ったのか、それとも何か策があったのか……、真意は明らかでないにせよブラックマーケットまで行った、いや、行かせてしまった。
あの時に止めていれば、もしかしたらここまで怪我をすることはなかったかもしれない。額の傷も、体の銃創も……、太腿の注射痕も、付かなかっただろう。
とはいえ、ゲヘナの風紀委員に恨みが無いかと言われるとそれは違う、結局先生の怪我もアキラの怪我も、風紀委員が巻き起こしたことなのだから。
でも、私にも原因はある、あの場でアキラを止めておけば、少なくともアキラは傷つく事は無かった。理由は何でもよかった、ただ引き止める事が出来ればそれで良かった。
私の中にある陰鬱な苛立ちは、私の胸中に言葉にできないわだかまりを残しながら渦巻いていく。
もう仲間をあんな形で失いたくない、皆がなんだかんだ幸せに生きて、アビドスで三年間を過ごして、そして円満に卒業できればそれでいい。
私はそう決意してその場から立ち上がり、病室の外で待つ皆の元へと向かって病室のドアを開ける。
「先輩、遅かったね」
「うへ、ちょっとね〜……、ま、特に問題は無いよ〜」
「そっかぁ〜……、ならよかったわね。先生も命に別状はないって言うし、最後に大将の所にお見舞いに来ましょう!」
セリカが安心した様子で声を上げる、こらこら〜……、病院で大声を出しちゃいけないよ〜? そして、「私たちの所為でもあるから」と着いて来た便利屋達も立ち上がり、セリカの後についていき、私とノノミちゃんは最後尾を並んで歩く。
「……先輩、何か、ありましたか?」
ふと、横合いから声が聞こえる。
「___うへ、特にないよ〜」
「何かあった……、って顔、してますよ?」
ノノミの聡い声に、私は一瞬言葉を詰まらせる。
ノノミはいつも通りの柔らかな笑顔を浮かべている、しかしその緑の両目は、静かに、そして真剣そのものに私を捉えている。どうしたものか、私がいつもとどこか違う事に気づかれてしまったみたい。
「……そんなに、分かり易く振る舞っちゃってたかな?」
「いえ、振る舞いはいつも通りです、ですが……」
ノノミは慎重に、選ぶように言葉を続ける。
「……瞳だけが……、あの時に見た、あの酷く、酷く底冷えする様な、何かに嫌気がさした冷たい瞳の様で……」
「___ただ、私の小さな手じゃ、どこまでも人を救うことは出来ないんだな……って、そう思っただけ。うへ、情けないね……、守るために盾を持ったって言うのに、アキラちゃんだって、先生だって……守れちゃいないんだからさ」
私は別段風紀委員に仕返しをしたいとは思わない、それをやった所で、誰も幸せにならないのを私は解っている。だが、未然に防ぐことは出来ただろうに……、ああ駄目だ、自分の小さい体が余計に小さく見える。
でも、大切な人すら守れない自分への失望と、怒りと、苛立ちと、憤慨と憐憫と哀愁と寂しさと辛さと孤独感と……、その感情が一緒くたに混ざって私の身に迫っている。
「でもさ……、辛がってちゃ……駄目だよね?」
「……はい、そうだと思います」
横にいたノノミは、私のこの激情に苛まれた言葉を、余す事無く理解した表情で頷いた。
◇◇◇
「クックック……、おはよう御座います、アキラ」
後日、この砂漠に珍しく雨の降り続く朝。そのアビドス基幹病院の病室。
「おはよう黒服……、とゴルコンダ、デカルコマニー、いい朝……とは言い難いけれど」
「そういうこった!」
僕は真横に座る黒い人影と、トレンチコートに身を包み、黒い後頭部が映し出された絵を持った人影に、一つ気怠げに答えると小さく、でも大き様に聞こえる普通の声で返答がくる。
全身に付いた銃創、爆発に巻き込まれた事で出来た今は吻合された裂傷などで全治二日の大怪我を負った僕、一応動けはするのだが、抜糸やら何やらをする為に二日間、入院する事になった。
……いや、ここまでの大怪我で全治二日、それに傷痕もほぼ残らないってどう言うこと? まぁとりあえず神秘スゲーとだけ思っておこう。
「ククク……ここまで無茶をするとは……、全く予想外でした」
「ま、何だかんだこの体は無茶が効くからね……、できる限り無茶はさせて貰うよ」
「まるで以前は無茶が効かなかったみたいな言い方ですね……、何かあったので?」
「そこはノーコメント、乙女の秘密って事だよ」
「男ですがね」
「そういうこった!」
「それを言っては駄目だよ黒服」
黒服らの当たり前の言葉に僕はそう返す、するとまたもやデカルコマニーが「そういうこった!」と相槌を入れ、黒服とゴルコンダが少々笑った様に見えた。……あれ? 黒服は兎も角ゴルコンダが笑ったのってこれが初めてじゃね?
その珍しさに浸りつつ、僕はまだ少し痛む首を回し、黒服の顔を見る。
「……それでさ、黒服だけじゃなくて、ゴルコンダとデカルコマニーが来た所を見ると、何か単純にお見舞いに来ただけじゃない様に思えるけど?」
「クックック……そう言うことです、そろそろ、
「ああ……、確かに、そろそろ
黒服の言葉に僕は気味の悪い、狂気的で狂楽的な、狂喜と享楽の微笑を浮かべて黒服を見る。すると、黒服も同じように喜悦に歪んだ笑みを浮かべ、面会者用に置かれた近くの丸椅子に座る。相変わらずデカルコマニーは立ったままだが、少しも疲れた様子ではない。
……ここにベアトリーチェとマエストロが居ないのが少し寂しいが、あの二人がいると痴話喧嘩でこの場が凄まじいぐらいに騒がしくなるので、残念だが当然だとは思う。
「そういうこったぁ!!」
……まぁデカルコマニーもうるさいけどあの二人の比ではないのでヨシ!!
「クク……クックック!! ……さて、そう言う事なら、早速行くとしましょう。善は急げですよ……アキラ」
「そういうこったぁ!!」
僕は黒服に抱えられ、異空間のゲートへと足を踏み入れた。その地にとって恵みの雨は、新たな闘争の幕開けを案じていた。
お読みいただきありがとうございます。
はい皆様お察しの通り、待ち望んだ寝返りです。いやぁ〜〜〜〜〜やっと書けたなぁ〜〜〜〜〜。
さっさとホシノと出会わせて曇らせてぇ〜〜〜〜〜。どんなに悲しんでも、そう簡単には帰って来ないんじゃないかな〜〜〜〜?
ホシノ〜、君は悪くないよ〜?悪いのはこの僕の頭だよぉ〜、じゃあ、存分に曇ってね!
では、また次回。
曇るんだったら?
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ホシノ
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シロコ
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先生
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全部!