★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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23.惑星調査①

 

 ◆

 

『ケージ、少し面白い仕事がありますよ』

 

 ある日、ミラがそんな事を君にいった。

 

「面白い仕事?」

 

『はい。今回はアカデミックな依頼です。依頼主はヴァリアン・ブラックウッド博士。博士が次なるフィールドワークの対象としている惑星への同行と、現地での護衛が任務です』

 

「護衛? 学者の先生がボディーガードを雇ってピクニックか。優雅なもんだ」

 

『ピクニックと呼ぶには少々環境が過酷すぎますが』

 

 ミラは淡々と続ける。

 

『目的地は赤色矮星ロス154を周回する惑星、「ペルセポネ・プライム」。大気組成は地球型に近いですが、恒星からの強力なフレアと特殊な自転環境のため、生身の人間が活動するには極めてリスクが高い場所です』

 

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 赤色矮星(M型主系列星)

 

 銀河系において最もありふれた恒星でありながら、その性質は陰湿かつ暴力的だ。質量は太陽の半分以下、表面温度も低いが、その寿命は気が遠くなるほど長い。

 

 問題なのは、その()()()()()である。

 

 赤色矮星は頻繁に巨大なフレアを放出する。そのエネルギーは、対象となる惑星の大気を剥ぎ取り、地表を紫外線とX線の嵐で焼き尽くすのに十分な威力を持つ。

 

 加えて、ハビタブルゾーン(居住可能領域)が恒星に極端に近い。そのため、多くの惑星は「潮汐固定(タイダル・ロック)」の状態にある。

 

 つまり、惑星の片面は永遠に太陽に炙られ続け、もう片面は永遠の闇と氷に閉ざされているのだ。

 灼熱と極寒。永遠の昼と永遠の夜。

 

 その境界線、「ターミネーター(明暗境界線)」と呼ばれる僅かな領域にのみ、生命がしがみつくように存在できる可能性がある。

 

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『博士は、その「明暗境界線」に生息する独自の生態系を調査したいそうです。ですが頻発するフレアと不安定な気候に耐えうる調査員でなければ務まりません』

 

「俺にうってつけじゃねえか」

 

 君は笑いながら言った。

 

「報酬は?」

 

『相場の三倍です』

 

「三十倍じゃなくてか?」

 

『さすがに高望みをし過ぎです。ある程度装備を整えればケージでなくとも受けられる依頼ですから』

 

「そっか、まあいいさ」

 

 君は飲みかけの合成ビールを一気に煽った。

 

 金になるなら地獄の釜の底だろうが永遠の夕暮れの星だろうがどこへでも行く──それが、ろくでなしの流儀というものだ。

 

 ◆

 

「で、仕事を受けるって決めたわけだけどよ、アレはどんな感じなんだ?」

 

『アレ──とは?』

 

「ほら、アレだよ、色々……準備とかさ。面通しもあるんだろ? あとは面接みたいなのもあるんじゃねえのか?」

 

 君はソファの上で、まるで冬眠前の熊のように背中を丸めながら問いかけた。

 

 何となく億劫そうに見えるのは、君がらしくもなく萎縮しているからだ。

 

 一種のアレルギー反応に近い。

 

 権威。形式。礼節──そういった、下層居住区のドブ川には決して流れていない清廉潔白な概念に対して、君の薄汚れた魂が拒絶反応を示しているのだ。

 

『当然あります』

 

 ミラは無慈悲に即答した。

 

『ヴァリアン・ブラックウッド博士は学界の重鎮であり、同時に極度の偏屈者としても知られています。その護衛を務める人物が、粗暴で無教養なゴロツキであっては困りますからね。最低限の社会性と、知性。そして何より、博士の研究に対する理解を示すフリができる程度の忍耐力が求められます』

 

「……フリでいいのか?」

 

『フリで結構です。助手の要項に、「最低限のコミュニケーション能力」とあります。コミュニケーション能力とはすなわち、自分に興味ない事であっても興味を示すフリが出来る力を意味します』

 

 なんだそりゃ、と君は呆れて笑った。

 

 ◆

 

 ともかくも、面談の日までにまともな服装を整える必要がある。

 

 ミラに尻を叩かれて向かったのは、中層居住区のショッピングモールにある紳士服店だった。

 

 煌びやかなショーウィンドウ。愛想笑いを張り付けた店員。そして、漂う「真っ当な市民」の空気はやや君には居心地が悪い。

 

「スーツだ。なるべく地味で、真面目そうに見えるやつを頼む」

 

 君はぶっきらぼうに注文したが、店員はにこやかに応じた。

 

「かしこまりました。こちらの『VMF素材』のものがお勧めです」

 

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 店員が勧めたVMF(可変擬態繊維)は、着用者の動きや義体の形状に合わせて自在に伸縮し、金属質の無骨なシルエットを自然な肉体のように見せる効果がある。

 

 サイバネティクス技術の普及に伴い、服飾業界もまた進化を余儀なくされた。特に全身義体者にとって、衣服は単なる防寒具ではなく、自身が「人間」であることを周囲に主張するための重要なツールである。

 

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「……窮屈だ」

 

 数着の試着を経て、君はダークグレーのスーツを選んだ。

 

 鏡に映る自分を見る。

 

 首元のネクタイがまるで首輪のように君を締め付けていた。

 

 物理的な締め付けではない。精神的な圧迫感だ。

 

 このスーツを着ている間、君は「礼儀正しい市民」という役割を演じなければならない。それは君にとって、裸で戦場に立つよりも遥かにストレスフルな行為だった。

 

「お似合いですよ」

 

 店員が白々しいお世辞を言った。

 

「ああ、どうも」

 

 君は代金を支払い、逃げるように店を出た。

 

 ◆

 

 そして、運命の面談当日。

 

 君は慣れない革靴の足音を響かせながら、指定された場所へと向かった。

 

 中層居住区の最奥部、「第4学術研究特区」。

 

 そこは都市の喧騒から切り離されたエリアだった。

 

 立ち並ぶ建物はどれも無機質で、人気がない。通り過ぎる車も自動運転の輸送車ばかりだ。

 

 暫く歩いていると目的地の建物が見えてきた。

 

 ──「ブラックウッド惑星生物学研究所」

 

 建物自体もはやや古びている。周囲の近代的なラボとは対照的に、そこだけ時間が止まったかのような佇まいだ。

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