★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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ヴァリアン・ブラックウッドという女

 

 ◆

 

 時は遡る。

 

 今から十五年前。ヴァリアン・ブラックウッドは二十七歳だった。

 

 当時の彼女は今とは別人のような風貌をしていた。

 

 肩まで伸びた黒髪は艶やかで、白衣の下には流行を押さえたブラウスを着こなしている。目元には化粧が施され、唇には薄い紅が引かれていた。

 

 要するに、普通の若い女だったのだ。

 

 野心と才能に満ち溢れた、上層居住区の令嬢。

 

 彼女の生まれは恵まれていた。

 

 ブラックウッド家は三代続く学者一族であり、惑星C66の学術界においては名門として知られている。祖父は連合政府の科学顧問を務め、父は惑星生物学の権威として数々の業績を残した。

 

 ヴァリアンはその血筋を継ぎ、幼い頃から英才教育を受けて育った。

 

 十二歳で大学に入学し、十八歳で博士号を取得。二十歳を過ぎた頃には既に学界の若き俊英として名を馳せていた。

 

 天才。

 

 その言葉が彼女には相応しかった。

 

 だが天才であることは必ずしも幸福を意味しない。

 

 むしろその逆だ。

 

 才能ある者は常に周囲からの期待と嫉妬に晒される。そしてヴァリアンの場合、その才能はあまりにも眩しすぎた。

 

 ◆

 

 惑星間学術調査。

 

 それは銀河文明において最も金のかかる事業の一つである。

 

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 学術調査には大きく分けて二つの種類がある。

 

 一つは「純粋学術調査」と呼ばれるものだ。

 

 これは文字通り、純粋な知的好奇心に基づく調査である。未知の生命体を発見し、その生態を解明する。新しい物理法則を見出し、宇宙の神秘に迫る。そこに経済的な利益は求めない。

 

 だがこの種の調査には決定的な問題がある。

 

 金がない。

 

 誰も金を出さないのだ。

 

 「それを調べて何の役に立つのか」という問いに、純粋学術調査は答えを持たない。いや、正確に言えば「役に立つかどうかは分からない」という正直な答えしか持っていない。

 

 スポンサーはそんな曖昧な答えに財布の紐を緩めはしない。

 

 もう一つは「応用学術調査」だ。

 

 これは最初から経済的・軍事的利益を見据えた調査である。新しい資源の探索。兵器開発に応用可能な生物の発見。テラフォーミングに適した惑星の選定。

 

 こちらには金が集まる。

 

 連合政府も、惑星開拓事業団も、大企業も、こぞって資金を提供する。なぜなら、そこには明確なリターンが見込めるからだ。

 

 学者たちの多くは前者を志す。

 

 だが現実は後者を強いる。

 

 それが銀河文明における学術の実態だった。

 

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 ヴァリアン・ブラックウッドはその境界線上に立っていた。

 

 彼女の調査は常に連合政府の利益に資するものだった。

 

 新しい鉱物資源の発見。軍事転用可能な生物毒素の採取。入植候補惑星の環境評価。

 

 彼女が提出する報告書は必ずと言っていいほど政府高官を喜ばせた。

 

 だがそれは彼女の本意ではなかった。

 

 少なくとも、彼女自身はそう信じていた。

 

 ◆

 

 惑星ケプラー442bへの調査が決定したのはその年の春のことだった。

 

 ケプラー442bは赤色矮星ケプラー442を周回する岩石惑星である。地球から約百光年の距離に位置し、ハビタブルゾーン内を公転している。

 

 表面には液体の水が存在する可能性があり、大気組成も地球型に近い。

 

 つまり、生命が存在する可能性がある惑星だった。

 

 連合政府がこの惑星に興味を持ったのは純粋な科学的好奇心からではない。

 

 テラフォーミングの候補地としての価値を見極めるためだ。

 

 もし原生生物が存在するならば、それを排除するコストと利益を天秤にかける必要がある。あるいは利用価値のある生物がいれば、それを捕獲・研究する価値もあるだろう。

 

 要するに、不動産の下見だ。

 

 ヴァリアンはその調査隊の隊長に任命された。

 

 二十七歳での隊長就任は異例の若さだった。だが彼女の実績と、そして何よりブラックウッド家の名声がその抜擢を可能にした。

 

 調査隊のメンバーは五名。

 

 ヴァリアンを含めて、計六名の編成だった。

 

 ◆

 

 メンバーの顔触れはヴァリアンにとって馴染みのあるものだった。

 

 全員が彼女の旧友であり、同時に、学界における同志でもあった。

 

 まず、副隊長のエドワード・ホーソン。

 

 三十二歳の地質学者で、ヴァリアンとは大学時代からの付き合いだ。温厚な性格で知られ、調査隊のまとめ役として信頼されていた。

 

 次に、レイチェル・ウォン。

 

 二十九歳の生態学者。鋭い観察眼と、それ以上に鋭い舌を持つ女だ。ヴァリアンとは犬猿の仲とも親友とも言われ、本人たちも自分たちの関係をどう定義すべきか分かっていなかった。

 

 そしてマーカス・オブライエン。

 

 三十五歳の化学者。調査隊の中では最年長だ。寡黙で実直な男であり、誰からも信頼されていた。

 

 アレクサンドラ・ペトロワ。

 

 二十五歳の物理学者。調査隊の中では最年少だ。天真爛漫な性格で、ムードメーカーとして皆に愛されていた。

 

 最後に、サイモン・チェン。

 

 二十八歳の医師兼生化学者。調査隊の衛生管理を担当する。神経質で心配性だがその慎重さが何度もチームを危機から救ってきた。

 

 六人は学生時代からの友人だった。

 

 共に学び、共に夢を語り、そして共に銀河の果てを目指した仲間たち。

 

 彼らは自分たちのことを「星追い人」と呼んでいた。

 

 若さゆえの気恥ずかしい命名だが当時の彼らはそれを本気で誇りに思っていた。

 

 ◆

 

 だが友情と現実は別物である。

 

 調査隊のメンバーたちはヴァリアンに対して複雑な感情を抱いていた。

 

 表向きは彼女を称え、その才能を認め、隊長としての指示に従っていた。

 

 だが内心では──

 

 「結局、私たちは彼女の引き立て役なのよ」

 

 レイチェルがそう呟いたのは出発の二日前のことだった。

 

 場所は惑星C66の学術都市にあるカフェだ。窓の外には人工的に作られた青空が広がり、偽りの太陽が穏やかな光を降り注いでいる。

 

 テーブルを囲んでいたのはレイチェル、エドワード、マーカスの三人だった。

 

 アレクサンドラとサイモンは別の用事で席を外している。そしてヴァリアンは連合政府との最終打ち合わせのために不在だった。

 

 「まあ、そう言うなよ」

 

 エドワードがなだめるように言った。

 

 だがその声にはどこか力がない。

 

 「事実でしょう。彼女がいれば資金が集まる。だから私たちは彼女についていく。純粋な友情じゃないわ。打算よ」

 

 レイチェルの声には苦味が滲んでいた。

 

 彼女の言葉は正鵠を射ていた。

 

 ヴァリアン・ブラックウッドという名前には魔法のような力がある。

 

 彼女が調査計画を立案すれば、スポンサーは列をなす。彼女が報告書を提出すれば、学会は拍手喝采で迎える。彼女が論文を発表すれば、査読者は満場一致で採択する。

 

 それは彼女の実力によるものだ。

 

 だが同時に、ブラックウッド家の名声と、連合政府との太いパイプによるものでもあった。

 

 「彼女に才能があることは認めるわ」

 

 レイチェルは続けた。

 

 「でも、それだけじゃないでしょう。彼女の調査が常に成功するのは最初から成功するように仕組まれているからよ。政府が欲しがる結果を出せば、政府は彼女を持ち上げる。持ち上げられれば、次の資金も集まる。永久機関みたいなものよ」

 

 「だとしても」

 

 マーカスが低い声で口を開いた。

 

 彼は普段は寡黙だが発言する時は重みがあった。

 

 「彼女についていけば、俺たちも研究ができる。それは事実だろう」

 

 「ええ、そうね。だから私たちはここにいる」

 

 レイチェルは肩をすくめた。

 

 「でも、いつまでこんなことを続けるの。私たちは彼女の従者じゃないわ。いつか、自分たちの研究がしたい。純粋な学問が」

 

 その言葉に、エドワードもマーカスも沈黙した。

 

 それは彼ら全員が心の奥底で思っていることだった。

 

 彼らは学者だ。

 

 真理の探究こそが彼らの使命であり、生きる意味だ。

 

 だが現実は彼らに妥協を強いる。

 

 金のために政府に媚び、名声のためにコネクションに頼り、そして生き残るためにプライドを捨てる。

 

 それが銀河文明における学術の実態だった。

 

 「まあ、愚痴を言っても仕方ないわね」

 

 レイチェルは溜息をついた。

 

 「ケプラー442bで何か見つかれば、少しは気が晴れるかもしれない。未知の生命体とか」

 

 「見つかるといいな」

 

 エドワードが苦笑した。

 

 「見つかれば、俺たちにも論文のネタができる。ヴァリアンのおこぼれだとしても、ないよりはマシだ」

 

 三人は顔を見合わせ、そして乾いた笑いを漏らした。

 

 それは自嘲の笑いだった。

 

 ◆

 

 一方、ヴァリアン・ブラックウッドは別の悩みを抱えていた。

 

 連合政府との打ち合わせはいつものように退屈で、そして憂鬱なものだった。

 

 会議室には政府高官が三人。

 

 彼らはスーツに身を包み、にこやかな笑顔を張り付けていたがその目は冷たかった。

 

 「ブラックウッド博士、今回の調査に期待していますよ」

 

 中央に座った男が言った。

 

 名前はウィリアム・グレイ。連合政府の科学技術局長だ。

 

 「ケプラー442bのテラフォーミング可能性評価。これは政府にとって最重要案件の一つです。あなたならきっと、我々が望む結果を出してくれると信じています」

 

 我々が望む結果。

 

 その言葉にヴァリアンは内心で眉をひそめた。

 

 科学とは望む結果を出すものではない。

 

 事実を明らかにするものだ。

 

 だがその反論を口にすることはなかった。

 

 「最善を尽くします」

 

 ヴァリアンは模範的な答えを返した。

 

 「テラフォーミングの可否については現地での詳細な調査が必要です。事前の観測データだけでは判断できません」

 

 「もちろん、分かっていますよ」

 

 グレイは頷いた。

 

 「だからこそ、あなたに任せるのです。ブラックウッド家の名に恥じない結果を、期待していますよ」

 

 その言葉には明らかに圧力が込められていた。

 

 ヴァリアンはそれを感じ取りながらも、表情を崩さなかった。

 

 これがゲームのルールだ。

 

 政府は金を出す。学者は結果を出す。その等価交換が銀河文明における学術の基盤だった。

 

 純粋な学問など、もはやどこにも存在しない。

 

 少なくとも、表舞台には。

 

 「ところで」

 

 グレイが何気ない口調で付け加えた。

 

 「もし原生生物が発見された場合、その標本は政府に優先的に提供していただけますね」

 

 「標本……ですか」

 

 「ええ。研究用にね。もちろん、学術的な価値があれば、博士にも論文執筆の機会を差し上げますよ」

 

 その言葉の裏にある意味を、ヴァリアンは理解していた。

 

 生物兵器への転用。

 

 あるいは製薬会社への売却。

 

 政府が原生生物に興味を持つ理由は純粋な科学的好奇心ではない。

 

 金になるかどうか。

 

 それだけだ。

 

 「……承知しました」

 

 ヴァリアンは答えた。

 

 他に選択肢はなかった。

 

 ◆

 

 会議を終え、ヴァリアンは一人で夜の街を歩いていた。

 

 上層居住区の夜は静かだ。人工的に調整された街灯が柔らかな光を歩道に落としている。空気は清浄で、僅かに花の香りがする。

 

 完璧に管理された環境。

 

 だがヴァリアンにとって、それは檻のように感じられた。

 

 ──いつまでこんなことを続けるのだろう

 

 彼女は心の中で呟いた。

 

 政府の意向に沿った調査。スポンサーを喜ばせる報告書。名声と引き換えに差し出す魂。

 

 それが今の彼女の現実だった。

 

 だがそれでも、彼女には夢があった。

 

 いつか、自分の研究所を建てる。

 

 誰にも干渉されない、純粋な学問の殿堂を。

 

 そこでなら、彼女は本当にやりたい研究ができるはずだ。

 

 未知の生命体の神秘を解き明かす。宇宙の起源に迫る。生命とは何かという根源的な問いに答えを見つける。

 

 そのために今は耐える。

 

 政府に媚び、スポンサーに頭を下げ、そして結果を出し続ける。

 

 いつか自由になるために、今は不自由を受け入れる。

 

 それがヴァリアンの戦略だった。

 

 ──もう少しだ

 

 彼女は自分に言い聞かせた。

 

 ケプラー442bの調査が成功すれば、彼女の名声はさらに高まる。そうすれば、自分の研究所を建てるための資金も集まるかもしれない。

 

 あと数年。

 

 あと数回の調査。

 

 そうすれば、きっと──

 

 「ヴァリアン」

 

 背後から声がかかった。

 

 振り返ると、そこにはアレクサンドラが立っていた。

 

 調査隊の最年少メンバーである彼女はいつものように屈託のない笑顔を浮かべている。

 

 「こんなところで何してるの。明後日は出発だよ。早く寝ないと」

 

 「ああ、少し考え事をしていてね」

 

 ヴァリアンは曖昧に答えた。

 

 「考え事? ケプラー442bのこと?」

 

 「まあ、そんなところだ」

 

 「楽しみだね。未知の惑星。未知の生命。私、ワクワクしてるんだ」

 

 アレクサンドラの目はキラキラと輝いていた。

 

 その純粋な好奇心に、ヴァリアンは一瞬だけ昔の自分を見た。

 

 かつて彼女も、こんな目をしていた。

 

 学問への純粋な情熱。未知への渇望。

 

 いつからそれを失ってしまったのだろう。

 

 「ねえ、ヴァリアン」

 

 アレクサンドラが言った。

 

 「私たち、本当に何か見つけられるかな。すごい発見ができるかな」

 

 「……ああ、きっとね」

 

 ヴァリアンは答えた。

 

 その声に籠もる複雑な感情に、アレクサンドラは気づかなかった。

 

 ◆

 

 出発の日が来た。

 

 調査船「アルゴノート号」は軌道ステーションから静かに離陸した。

 

 船内には六人の調査隊員が乗り込んでいる。

 

 ヴァリアン、エドワード、レイチェル、マーカス、アレクサンドラ、サイモン。

 

 彼らは「星追い人」と名乗る仲間たちだった。

 

 船は亜光速航行に入り、星々が流れるように後方へと消えていく。

 

 目的地、惑星ケプラー442bまでは約三ヶ月の旅程だ。

 

 その間、隊員たちは冷凍睡眠に入る。

 

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 冷凍睡眠(クライオスリープ)技術は惑星間航行において不可欠なものである。

 

 人間の肉体は長期間の宇宙航行に適していない。放射線被曝、筋力低下、骨密度の減少、そして何より精神的ストレス。これらの問題を回避するため、乗員は代謝を極限まで抑制した状態で眠りにつく。

 

 体温は摂氏マイナス196度まで低下し、細胞の活動はほぼ停止する。

 

 だが完全に死んでいるわけではない。

 

 脳波は微弱ながら観測され、心臓は一分間に一回だけ鼓動する。

 

 その状態で、彼らは夢を見る。

 

 どんな夢を見るのかは個人差がある。

 

 幸福な過去を追体験する者もいれば、悪夢にうなされる者もいる。

 

 そして稀に、覚醒後に夢の内容を全く覚えていない者もいる。

 

 科学者たちはこの現象を「氷の忘却」と呼んでいる。

 

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 ヴァリアンは冷凍睡眠ポッドの中で目を閉じた。

 

 意識が徐々に遠のいていく。

 

 最後に彼女が見たのは仲間たちの顔だった。

 

 エドワードの穏やかな笑顔。レイチェルの皮肉げな微笑。マーカスの寡黙な頷き。アレクサンドラの無邪気な手振り。サイモンの心配そうな眼差し。

 

 彼らは友人だ。

 

 少なくとも、ヴァリアンはそう信じていた。

 

 ──皆で帰ろう

 

 彼女は心の中で呟いた。

 

 そして意識は闇に沈んだ。

 

 ◆

 

 三ヶ月後。

 

 調査隊は惑星ケプラー442bの軌道上で目を覚ました。

 

 冷凍睡眠から覚醒する過程は決して快適なものではない。

 

 体の芯から這い上がってくるような冷たさ。節々の痛み。そして脳が再起動するまでの数分間の混乱。

 

 「う……」

 

 ヴァリアンは呻きながら、ポッドから這い出た。

 

 視界がぼやけている。

 

 数回まばたきをして、ようやく周囲が見えるようになった。

 

 船内の照明は通常モードに戻っており、各種機器が正常に稼働している音が聞こえる。

 

 他の隊員たちも次々とポッドから目を覚ましていた。

 

 「気分はどうだ」

 

 ヴァリアンは声をかけた。

 

 「最悪」

 

 レイチェルが答えた。

 

 「冷凍睡眠の後はいつもこうなのよ。体がバキバキ」

 

 「俺も同じだ」

 

 エドワードが首を回しながら言った。

 

 「でも、着いたんだな。ケプラー442bに」

 

 その言葉に、全員の視線が船の窓へと向かった。

 

 そこには青緑色に輝く惑星が浮かんでいた。

 

 ケプラー442b。

 

 彼らの目的地だ。

 

 ◆

 

 惑星ケプラー442bは地球によく似た外観を持っていた。

 

 だが似ているのは外観だけだ。

 

 大気組成は窒素と酸素が主成分だが二酸化炭素濃度がやや高い。表面の約六割が海洋で覆われており、残りは岩石質の大陸だ。

 

 そして何より特徴的なのはその空の色だった。

 

 赤色矮星ケプラー442の光を受けて、惑星の空は常に薄紫色に染まっている。

 

 まるで、永遠の黄昏の中にあるかのような光景だ。

 

 「綺麗……」

 

 アレクサンドラが呟いた。

 

 その声には純粋な感動が滲んでいた。

 

 「綺麗だが油断するなよ」

 

 マーカスが釘を刺した。

 

 「未知の惑星だ。何が起きるか分からない」

 

 「分かってるって。でも、綺麗なものは綺麗でしょ」

 

 アレクサンドラは笑った。

 

 ヴァリアンはその光景を見ながら、心の中で呟いた。

 

 ──ここで何かを見つけなければならない

 

 政府が望む結果。

 

 テラフォーミングの可否。原生生物の有無。資源の価値。

 

 それらを明らかにすることが彼女の使命だった。

 

 だが同時に、別の思いも胸の奥でくすぶっていた。

 

 ──ここで、純粋な発見ができるかもしれない

 

 政府の利益とは無関係の、純粋な学問的発見。

 

 それこそが彼女が本当に求めているものだった。

 

 「さあ、準備を始めよう」

 

 ヴァリアンは隊員たちに声をかけた。

 

 「降下ポッドを点検しろ。装備も確認だ。一時間後に降下を開始する」

 

 「了解」

 

 全員が動き始めた。

 

 そして惑星ケプラー442bへの調査が始まった。

 

 ◆

 

 降下の前に、全員がブリーフィングルームに集まった。

 

 ヴァリアンが壁面に惑星の立体地図を投影する。

 

 「降下地点はここだ」

 

 彼女のレーザーポインターが大陸の沿岸部を示した。

 

 「事前観測によると、この地域の気候は比較的穏やかだ。降水量も安定している。ベースキャンプを設営するには最適な場所だろう」

 

 「生命反応は?」

 

 レイチェルが尋ねた。

 

 「不明だ。軌道上からの観測では植物らしきものの存在は確認できている。だが動物についてはまだ何とも言えない」

 

 「つまり、何がいるか分からないということね」

 

 「そういうことだ」

 

 ヴァリアンは頷いた。

 

 「だからこそ、慎重に行動する必要がある。全員、武装は忘れるな」

 

 その言葉に、サイモンが顔をしかめた。

 

 「武装って……私たちは学者だよ。兵士じゃない」

 

 「学者だからこそ、だ」

 

 マーカスが低い声で言った。

 

 「死んだ学者に論文は書けない」

 

 その言葉に、全員が黙った。

 

 それは冗談ではなかった。

 

 惑星間調査において、隊員が命を落とすことは珍しくない。

 

 未知の病原体に感染する者。

 

 有毒ガスを吸って倒れる者。

 

 そして原生生物に襲われる者。

 

 学問の探究は常に命懸けなのだ。

 

 「全員、装備のチェックを終えたら降下ポッドに乗り込め」

 

 ヴァリアンは命じた。

 

 「一時間後に降下を開始する」

 

 ◆

 

 各自が装備のチェックに向かう中、ヴァリアンはエドワードを呼び止めた。

 

 「少し話がある」

 

 「何だ?」

 

 エドワードは怪訝な顔をした。

 

 ヴァリアンは声を潜めて言った。

 

 「もし何かあったら、隊員たちの安全を最優先にしてくれ。特にアレクサンドラとサイモンは経験が浅い。目を離すな」

 

 「何かって……例えば?」

 

 「分からない。ただ、嫌な予感がするんだ」

 

 ヴァリアンの表情は真剣だった。

 

 彼女は普段、感情を表に出さない人間だ。

 

 だからこそ、その言葉には重みがあった。

 

 「分かった。気をつけるよ」

 

 エドワードは頷いた。

 

 だがその胸の内では別の思いが渦巻いていた。

 

 ──ヴァリアンは何を恐れているんだ

 

 彼にはそれが分からなかった。

 

 いや、分かりたくなかったのかもしれない。

 

 ◆

 

 降下ポッドが大気圏に突入する時、機体は真っ赤に燃え上がった。

 

 プラズマの炎が窓の外を覆い尽くす。

 

 衝撃と熱と騒音。

 

 だがそれも数分で収まり、ポッドは静かに惑星の空を滑空し始めた。

 

 窓の外には薄紫色の空が広がっていた。

 

 そして眼下には見たこともない風景が広がっていた。

 

 深い緑色の森林。

 

 銀色に光る湖。

 

 そして地平線の彼方には巨大な山脈が連なっている。

 

 「すごい……」

 

 アレクサンドラの声が響いた。

 

 それは全員の気持ちを代弁していた。

 

 降下ポッドは予定通りの地点に着陸した。

 

 海岸線から約十キロメートル内陸の平原だ。

 

 周囲には背の低い植物が生い茂っており、遠くには森林が見える。

 

 空気は──

 

 「酸素濃度、二十二パーセント。窒素濃度、七十六パーセント。二酸化炭素濃度、一・五パーセント」

 

 サイモンが計測器を読み上げた。

 

 「呼吸には問題ない。ただし、長時間の活動は避けた方がいい。二酸化炭素濃度がやや高い」

 

 「了解だ」

 

 ヴァリアンは頷いた。

 

 そしてハッチを開け、惑星ケプラー442bの大地に最初の一歩を踏み出す。

 

 惑星ケプラー442bにおける調査はこうして始まった。

 

 だが彼らはまだ知らなかった。

 

 この六人の「星追い人」のうち、何人がこの惑星を生きて離れることになるのかを。

 

 ◆

 

 着陸から数時間後、ベースキャンプの設営がほぼ完了した。

 

 自動展開式のシェルターが平原の中央に鎮座し、その周囲には各種観測機器が配置されている。

 

 「電力供給、正常。通信設備、正常。防御フィールド、正常」

 

 マーカスが機器の状態を読み上げた。

 

 「一通り揃ったな」

 

 「じゃあ、早速調査を始めよう」

 

 アレクサンドラが意気込んで言った。

 

 だがヴァリアンは首を横に振った。

 

 「今日は移動しない。まずは周囲の環境に慣れる。それに──」

 

 彼女は薄紫色の空を見上げた。

 

 赤色矮星の位置から判断するに、この惑星における「夕方」が近づいている。

 

 いや、この星に夕方という概念があるのかどうかも分からない。

 

 潮汐固定されていなければ、いずれ夜が来る。

 

 だがそれがいつなのか、どれくらいの時間続くのか、まだデータが足りなかった。

 

 「明日の朝まで待て。夜間の活動は危険だ」

 

 ヴァリアンの命令に、アレクサンドラは不満そうな顔をしたがそれ以上は何も言わなかった。

 

 ◆

 

 その夜。

 

 夜と呼ぶには奇妙な暗がりだった。

 

 赤色矮星は地平線の下に沈んだが空は完全な闘にはならなかった。

 

 薄紫色が深い藍色に変わり、そこに無数の星が瞬いている。

 

 だが何より印象的だったのは二つの月だった。

 

 一つは地球の月よりもやや小さく、銀色に輝いている。

 

 もう一つは赤みを帯びた褐色で、最初のそれよりも遥かに巨大だった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 「二重月」──

 

 惑星が複数の衛星を持つことは珍しくない。

 

 だがこれほど見事な二重月が見える惑星は稀だ。

 

 二つの月はそれぞれ異なる軌道を描き、時には重なり合い、時には離れていく。

 

 その運動は惑星の潮汐に複雑な影響を与え、おそらくは原生生物の生態にも深く関わっているだろう。

 

 ・

 ・

 ・

 

 シェルターの中で、隊員たちは簡素な夕食を摂っていた。

 

 レーションを温めただけの味気ない食事だが冷凍睡眠明けの体にはそれでも十分だった。

 

 「綺麗な空だね」

 

 アレクサンドラが窓の外を見ながら言った。

 

 「二つの月なんて、まるでファンタジーみたい」

 

 「ファンタジーじゃない。物理法則に従った自然現象だ」

 

 レイチェルが素っ気なく言った。

 

 だがその目も、窓の外に向けられていた。

 

 「明日からが本番だ」

 

 ヴァリアンが言った。

 

 「全員、早めに休め。体調管理も仕事のうちだ」

 

 隊員たちは頷き、それぞれの寝床へと向かった。

 

 ◆

 

 翌朝──あるいはこの惑星における「朝」と呼ぶべき時間帯──調査が本格的に始まった。

 

 赤色矮星ケプラー442が地平線から顔を覗かせると、空は再び薄紫色に染まった。その光は地球の太陽よりも赤みが強く、どこか物悲しい雰囲気を醸し出している。

 

 ヴァリアンは隊員たちを二つのチームに分けた。

 

 第一チームは彼女とエドワード、そしてマーカス。

 

 第二チームはレイチェル、アレクサンドラ、サイモン。

 

 「第一チームは東の森林地帯を調査する。第二チームはベースキャンプ周辺の植物採取と土壌サンプルの回収を頼む」

 

 ヴァリアンの指示は簡潔だった。

 

 「通信は三十分ごとに入れろ。何かあれば即座に報告」

 

 「了解」

 

 全員が頷いた。

 

 ◆

 

 森林地帯への道のりは予想以上に険しいものだった。

 

 平原を抜けると地形は次第に起伏を増し、背の高い植物が行く手を遮るようになった。

 

 それらの植物は地球のシダ類に似ていたが葉の色は深い藍色で、茎には銀色の筋が走っている。

 

 「光合成に使う色素が違うのだろう」

 

 マーカスが呟いた。

 

 「この惑星の太陽光は赤色成分が多い。青い葉の方が効率よくエネルギーを吸収できるはずだ」

 

 彼は歩きながらも観察を怠らなかった。

 

 時折立ち止まっては植物のサンプルを採取し、携帯分析器にかけている。

 

 「窒素固定バクテリアに相当するものがいるな」

 

 マーカスの声には微かな興奮が混じっていた。

 

 「根の周囲に共生微生物の痕跡がある」

 

 「それは興味深いな」

 

 エドワードが応じた。

 

 「生態系の基盤が地球型に近いということか」

 

 「断言はできない。だが類似点は多い」

 

 ヴァリアンは二人の会話を聞きながら、黙って周囲を観察していた。

 

 彼女の目は常に動いている。

 

 植物の配置。地面の傾斜。空気の流れ。

 

 学者としての観察眼と、隊長としての警戒心が同居した視線だ。

 

 ◆

 

 森林地帯に入ると、風景は一変した。

 

 巨大な樹木が空を覆い、地表には薄暗い緑色の光が降り注いでいる。

 

 樹木の幹は直径数メートルに達し、その表面には苔のような生物がびっしりと張り付いていた。

 

 「美しいな」

 

 エドワードが感嘆の声を漏らした。

 

 確かに美しかった。

 

 だがその美しさにはどこか不気味な静けさが伴っている。

 

 鳥の声がしない。

 

 虫の羽音もない。

 

 あるのはただ、葉擦れの音と、三人の足音だけだ。

 

 「動物の気配がない」

 

 ヴァリアンが言った。

 

 「これだけの植物があれば、それを食べる生物がいてもおかしくないはずだ」

 

 「まだ見つかっていないだけかもしれない」

 

 マーカスが答えた。

 

 「あるいは俺たちの存在を感知して隠れているのかもしれない」

 

 その言葉に、三人は思わず周囲を見回した。

 

 木々の間に何かが潜んでいるような気がした。

 

 だが何も見えなかった。

 

 ◆

 

 調査は三時間ほど続いた。

 

 その間に採取したサンプルは植物だけで五十種を超えた。

 

 どれもこれも地球には存在しない種だ。

 

 分類学的には全く新しい門を立てる必要があるかもしれない。

 

 「帰還しよう」

 

 ヴァリアンが言った。

 

 「今日はここまでだ」

 

 「もう少し奥に行けば──」

 

 エドワードが言いかけたがヴァリアンは首を横に振った。

 

 「初日から無理をする必要はない。明日また来ればいい」

 

 その言葉には有無を言わせぬ響きがあった。

 

 エドワードは口をつぐんだ。

 

 彼の表情には僅かな不満が浮かんでいたがそれ以上は何も言わなかった。

 

 ◆

 

 ベースキャンプに戻ると、第二チームも既に帰還していた。

 

 レイチェルが採取した植物標本を整理しており、アレクサンドラは土壌サンプルの分析に没頭している。サイモンは医療機器のメンテナンスを行っていた。

 

 「成果はどうだった?」

 

 ヴァリアンが尋ねると、レイチェルが顔を上げた。

 

 「予想以上ね。この惑星の植物は地球のものとは全く異なる代謝系を持っているわ」

 

 彼女の声には珍しく興奮が滲んでいた。

 

 「光合成に使う色素はクロロフィルじゃない。おそらくはバクテリオクロロフィルに近い何かだと思うけど、詳細な分析が必要ね」

 

 「土壌も面白いよ」

 

 アレクサンドラが割り込んだ。

 

 「鉄分とマンガンの含有量が異常に高い。それに、未知の有機化合物がいくつか検出されてる」

 

 「有機化合物?」

 

 「うん。まだ構造は分からないけど、生物由来の可能性が高い。つまり──」

 

 「この惑星には植物以外の生命体がいる可能性がある」

 

 ヴァリアンが先を継いだ。

 

 アレクサンドラは大きく頷いた。

 

 「そういうこと」

 

 ◆

 

 その夜、隊員たちはシェルターの中で夕食を摂りながら、一日の成果を報告し合った。

 

 だがその空気はどこかぎこちなかった。

 

 エドワードは黙々と食事を続け、時折ヴァリアンの方をちらりと見る。

 

 レイチェルは普段以上に饒舌だったがその言葉の端々にはどこか棘があった。

 

 マーカスは相変わらず寡黙で、アレクサンドラだけが無邪気に調査の成果を語っている。

 

 サイモンは全員の様子を窺いながら、落ち着かない様子で食器をいじっていた。

 

 ヴァリアンはその空気を感じ取っていた。

 

 だが彼女は何も言わなかった。

 

 言うべき言葉が見つからなかったのだ。

 

 彼女は隊長として、調査を成功させる責任がある。

 

 そのためには時に厳しい判断も必要だ。

 

 だがその厳しさが仲間との間に壁を作っていることも理解していた。

 

 ──私は嫌われているのだろうか

 

 そんな思いが頭をよぎった。

 

 だがそれを口にすることはできなかった。

 

 弱みを見せることは隊長として許されない。

 

 少なくとも、彼女はそう信じていた。

 

 ◆

 

 二日目の調査はさらに広範囲に及んだ。

 

 第一チームは森林地帯の奥深くまで進み、巨大な樹木の根元で奇妙な菌類を発見した。

 

 それは直径一メートルほどの半球形で、表面は銀色に光っていた。

 

 触れると僅かに温かい。

 

 「生体発熱だ」

 

 マーカスが興奮気味に言った。

 

 「この菌類は自ら熱を発生させている。地球にも発熱する菌類はあるがこれほど顕著なものは見たことがない」

 

 「なぜ熱を発生させる必要があるのだろう」

 

 エドワードが首を傾げた。

 

 「この惑星の夜は寒いからかもしれない」

 

 ヴァリアンが答えた。

 

 「赤色矮星の光は弱い。夜間の気温低下は地球よりも急激だろう。自ら熱を発することで、細胞の凍結を防いでいるのかもしれない」

 

 「なるほど……」

 

 エドワードは感心したように頷いた。

 

 そしてふと、ヴァリアンの横顔を見た。

 

 彼女は菌類を観察しながら、何かをメモしている。

 

 その表情は真剣そのものだった。

 

 ──ヴァリアンは本当に研究が好きなんだな

 

 エドワードは今更ながらにそう思った。

 

 彼女が政府の意向に従って調査を行っていることは知っている。

 

 だがその根底には純粋な学問への情熱があるのだ。

 

 それは彼らと同じだった。

 

 ◆

 

 一方、第二チームは予想外の発見をしていた。

 

 ベースキャンプから約二キロ離れた場所で、レイチェルが奇妙な痕跡を見つけたのだ。

 

 地面に残された、規則的な窪み。

 

 それは何かの足跡のように見えた。

 

 「動物がいる」

 

 レイチェルの声は低かった。

 

 「それもかなり大きい。この足跡のサイズから推測すると、体重は少なくとも百キロはある」

 

 「危険じゃないかな」

 

 サイモンが不安そうに言った。

 

 「分からないわ。でも、この足跡は新しくない。少なくとも数日は経っている」

 

 レイチェルは足跡の周囲を注意深く観察した。

 

 「近くにはいないようね。でも、夜間は気をつけた方がいいかもしれない」

 

 彼女はすぐにヴァリアンに報告した。

 

 通信を受けたヴァリアンの声は冷静だった。

 

 「了解した。防御フィールドの出力を上げておく。全員、日没前にはベースキャンプに戻れ」

 

 その指示は簡潔で、無駄がなかった。

 

 ◆

 

 二日目の夜。

 

 夕食の後、ヴァリアンは一人でシェルターの外に出た。

 

 二つの月が空に浮かんでいる。

 

 銀色の月と、褐色の月。

 

 それらの光が薄紫色の空に溶け込み、幻想的な光景を作り出していた。

 

 「綺麗だな」

 

 背後から声がかかった。

 

 振り返ると、エドワードが立っていた。

 

 「少し話さないか」

 

 彼の声は穏やかだったがどこか緊張が感じられた。

 

 「何の話だ」

 

 ヴァリアンは警戒するように尋ねた。

 

 「チームのことだ」

 

 エドワードは彼女の隣に並んで立った。

 

 「みんな、君のことを気にしているんだ」

 

 「気にしている?」

 

 「ああ。君が何を考えているのか、分からないって言ってる」

 

 その言葉に、ヴァリアンは黙った。

 

 「俺も同じだ」

 

 エドワードは続けた。

 

 「君は昔から自分の考えを話さない。いつも一人で抱え込む。それは隊長としての責任感かもしれないが俺たちには壁を感じるんだ」

 

 「……」

 

 「別に責めてるわけじゃない。ただ、もう少し俺たちを信頼してくれないか。俺たちは『星追い人』だろう。昔からの仲間じゃないか」

 

 エドワードの声には切実さが滲んでいた。

 

 ヴァリアンは暫くの間、黙って月を見上げていた。

 

 そしてようやく口を開いた。

 

 「……怖いんだ」

 

 「怖い?」

 

 「私が間違った判断をしたら、みんなが危険にさらされる。その責任の重さが怖いんだ」

 

 それは彼女が初めて口にした弱音だった。

 

 「だから一人で考えようとする。みんなの意見を聞くと、判断が鈍るかもしれないと思って」

 

 「それは違うと思うよ」

 

 エドワードは静かに言った。

 

 「一人で考えるより、みんなで考えた方がいい判断ができる。少なくとも、俺はそう信じている」

 

 ヴァリアンは彼の顔を見た。

 

 その目は真剣だった。

 

 「……明日、全員で話し合おう」

 

 彼女は言った。

 

 「私の考えを、ちゃんと伝える」

 

 エドワードは微笑んだ。

 

 「待ってたよ、その言葉」

 

 ◆

 

 三日目の調査を終えた後、全員がシェルターの中央に集まった。

 

 普段の夕食とは違い、今日は円卓を囲んで座っている。

 

 ヴァリアンが立ち上がった。

 

 その表情はいつもより柔らかかった。

 

 「今日は私の考えを話したいと思う」

 

 彼女は言った。

 

 「みんなには私がどんな思いでこの調査に臨んでいるか、知っておいてほしいんだ」

 

 全員の視線がヴァリアンに集まった。

 

 「正直に言う。この調査は連合政府の意向に沿ったものだ」

 

 彼女は率直に認めた。

 

 「政府はこの惑星のテラフォーミング可能性を知りたがっている。原生生物がいれば、それを排除するか利用するかを検討する。私はその報告をするために、ここにいる」

 

 その言葉に、レイチェルの目が鋭くなった。

 

 だがヴァリアンは続けた。

 

 「でも、それだけじゃない」

 

 彼女の声には熱がこもっていた。

 

 「私は本当にこの惑星を知りたいんだ。ここにどんな生命がいるのか。どんな進化を遂げてきたのか。それを解明することが私の夢だ」

 

 「夢……」

 

 アレクサンドラが呟いた。

 

 「ああ。いつか、自分の研究所を建てたいと思っている。誰にも干渉されない、純粋な学問の場所を」

 

 ヴァリアンは全員の顔を見回した。

 

 「そのために、今は政府に従っている。でも、この調査で見つけたものは私だけのものじゃない。みんなのものだ。みんなで論文を書いて、みんなで学会に発表しよう」

 

 その言葉に、レイチェルが目を丸くした。

 

 「……本気で言ってるの?」

 

 「本気だ」

 

 ヴァリアンは頷いた。

 

 「私一人が名声を独占するつもりはない。みんなが同等の貢献者として認められるべきだ」

 

 沈黙が流れた。

 

 それを破ったのはマーカスだった。

 

 「……見直したよ」

 

 彼は低い声で言った。

 

 「正直、君のことを利己的な人間だと思っていた。だが違ったようだ」

 

 「俺もだ」

 

 エドワードが言った。

 

 「ヴァリアン、君は変わったな。いや、変わったんじゃない。昔に戻ったんだ」

 

 レイチェルは暫く黙っていたがやがてため息をついた。

 

 「……負けたわ」

 

 彼女は苦笑した。

 

 「ずっと、あなたのことを妬んでいた。でも、それは私の勝手な思い込みだったのね」

 

 「妬む必要なんてない」

 

 ヴァリアンは言った。

 

 「私たちは仲間だ。競争相手じゃない」

 

 その言葉に、レイチェルの目が潤んだ。

 

 だが彼女はすぐに顔を背け、それを隠した。

 

 「泣いてないわよ」

 

 「誰も泣いてるなんて言ってないだろう」

 

 「うるさいわね」

 

 アレクサンドラが笑い出した。

 

 その笑い声が張り詰めていた空気を溶かしていった。

 

 サイモンもほっとしたように肩の力を抜いた。

 

 「よかった……僕、ずっと心配だったんです。チームがバラバラになるんじゃないかって」

 

 「バラバラにはならない」

 

 ヴァリアンは言った。

 

 「私たちは『星追い人』だ。一緒に星を追いかけてきた仲間だ。それはこれからも変わらない」

 

 その夜、六人は久しぶりに心を開いて語り合った。

 

 学生時代の思い出。

 

 研究への夢。

 

 将来への不安。

 

 そしてこの調査を成功させたいという共通の願い。

 

 シェルターの中は笑い声に満ちていた。

 

 それは彼らが「星追い人」として過ごした日々の中でも、最も幸福な夜の一つだった。

 

 ◆

 

 四日目以降、調査は順調に進んだ。

 

 チームの結束が深まったことで、作業効率は格段に上がった。

 

 第一チームと第二チームは緊密に連携し、情報を共有しながら調査範囲を広げていった。

 

 森林地帯の奥で、彼らは遂に動物を発見した。

 

 それは六本足の甲虫のような生物で、体長は約三十センチ。

 

 背中には発光器官があり、薄暗い森の中で淡い青色の光を放っていた。

 

 「生物発光だ」

 

 レイチェルが興奮気味に言った。

 

 「この生物は光を使ってコミュニケーションを取っているのかもしれない」

 

 実際、観察を続けると、複数の個体が光の点滅パターンを変えながら互いにやり取りをしているように見えた。

 

 「言語……とまでは言えないかもしれないが何らかの情報伝達手段であることは確かね」

 

 五日目には湖で水棲生物を発見した。

 

 透明な体を持つ、クラゲのような生物だ。

 

 体内には複雑な器官が透けて見え、その一部が脈動している。

 

 「循環系がある」

 

 サイモンが興奮して言った。

 

 「この生物は地球の脊椎動物に匹敵する複雑さを持っているかもしれない」

 

 六日目には件の大型動物の正体も判明した。

 

 それは四足歩行の草食動物で、体長は約二メートル。

 

 頭部には三つの目があり、背中には分厚い装甲のような皮膚が発達していた。

 

 「恐竜みたい」

 

 アレクサンドラが呟いた。

 

 「いや、恐竜とは全く異なる進化系統だろう。でも、収斂進化の結果として似たような形態になったのかもしれない」

 

 マーカスが解説した。

 

 調査は大成功だった。

 

 連合政府への報告書は予想以上に充実したものになりそうだった。

 

 そして何より、彼らは純粋な学問的発見を成し遂げていた。

 

 未知の生態系。

 

 未知の生命体。

 

 それらを自分たちの目で見て、手で触れて、記録に残す。

 

 それこそが彼らの夢だった。

 

 ◆

 

 七日目の朝。

 

 その日はいつもと同じように始まるはずだった。

 

 だが運命は彼らに残酷な試練を用意していた。

 

 「ヴァリアン、ちょっと来てくれ」

 

 エドワードの声がシェルターに響いた。

 

 その声には普段の穏やかさがなかった。

 

 ヴァリアンは嫌な予感を覚えながら、彼のもとへ向かった。

 

 エドワードは母船「アルゴノート号」との通信コンソールの前に立っていた。

 

 その顔は蒼白だった。

 

 「何があった」

 

 ヴァリアンが尋ねると、エドワードは画面を指さした。

 

 そこには赤い警告表示が点滅していた。

 

 「酸素供給システムの異常だ」

 

 エドワードの声は震えていた。

 

 「軌道上の母船で、生命維持装置の一部が故障している」

 

 ・

 ・

 ・

 

 宇宙船における生命維持装置は乗員の生存に直結する最重要システムである。

 

 特に酸素供給はその中核を成す機能だ。

 

 「アルゴノート号」のような長距離調査船には複数の酸素供給手段が搭載されている。

 

 一つは電気分解装置。水を電気分解し、酸素を生成する。

 

 二つ目は化学反応式の酸素発生器。緊急時のバックアップとして機能する。

 

 三つ目は液体酸素タンク。最後の手段として、一定量の酸素が液体状態で貯蔵されている。

 

 通常、これらのシステムは三重の冗長性を持ち、一つが故障しても他のシステムがカバーする設計になっている。

 

 だが全てのシステムが同時に異常を起こした場合──

 

 それは死を意味する。

 

 ・

 ・

 ・

 

 「詳しく説明しろ」

 

 ヴァリアンの声は冷静だったがその目には緊張が走っていた。

 

 「電気分解装置のメインユニットが停止している。原因は不明だ。化学式発生器は作動しているが出力が不安定で、いつ止まるか分からない」

 

 エドワードは報告を続けた。

 

 「液体酸素タンクの残量は──」

 

 彼は数値を確認した。

 

 「現在の消費率で計算すると、約五日分だ」

 

 「五日……」

 

 ヴァリアンは呟いた。

 

 惑星C66までの帰還には最短でも三ヶ月かかる。

 

 五日分の酸素では到底足りない。

 

 「修理は可能か」

 

 「分からない。母船に戻って、直接確認しないと」

 

 ヴァリアンは暫く考え込んだ。

 

 そして決断した。

 

 「全員を集めろ。状況を説明する」

 

 ◆

 

 シェルターの中央に六人が集まった。

 

 ヴァリアンは状況を包み隠さず説明した。

 

 「つまり」

 

 レイチェルが蒼白な顔で言った。

 

 「母船の酸素が足りないってこと?」

 

 「そうだ」

 

 「修理できなかったら、どうなるの」

 

 アレクサンドラの声は震えていた。

 

 ヴァリアンは答えなかった。

 

 答える必要がなかった。

 

 全員がその意味を理解していたからだ。

 

 「まずは母船に戻ろう」

 

 マーカスが言った。

 

 「状況を確認しないと、何も始まらない」

 

 「同意だ」

 

 ヴァリアンは頷いた。

 

 「降下ポッドを準備しろ。一時間後に離脱する」

 

 全員が動き始めた。

 

 だがその動きはどこかぎこちなかった。

 

 恐怖が彼らの足を重くしていた。

 

 ◆

 

 降下ポッドが惑星の大気を突き破り、軌道上の母船に向かう。

 

 その間、誰も口を開かなかった。

 

 窓の外ではケプラー442bの青緑色の姿が徐々に小さくなっていく。

 

 美しい惑星だった。

 

 だが今の彼らにはその美しさを楽しむ余裕はなかった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 母船「アルゴノート号」に到着すると、状況は予想以上に深刻だった。

 

 電気分解装置のメインユニットは完全に停止しており、制御基板が焼損していた。

 

 「これは……」

 

 マーカスが呻いた。

 

 「スパークが起きたのか。基板が溶けている」

 

 「修理できるか?」

 

 ヴァリアンが尋ねた。

 

 「分からない。予備の部品があれば……だがこの損傷は酷い。時間がかかる」

 

 「どれくらいだ」

 

 「最低でも三日。いや、一週間かもしれない」

 

 その言葉に、全員の顔が曇った。

 

 液体酸素の残量は五日分。

 

 修理に一週間かかるなら、二日分足りない。

 

 いや、修理作業自体が酸素を消費する。

 

 実際にはもっと足りないだろう。

 

 「全員の呼吸量を減らせば、時間を稼げる」

 

 サイモンが言った。

 

 「鎮静剤で代謝を落とす方法がある。意識はあるが酸素消費量を半分程度に抑えられる」

 

 「それでも足りるか?」

 

 「……ギリギリだ。でも、やってみる価値はある」

 

 ヴァリアンは頷いた。

 

 「やろう。他に選択肢はない」

 

 ◆

 

 修理作業が始まった。

 

 マーカスとエドワードが中心となり、損傷した基板の交換を試みる。

 

 だが作業は難航した。

 

 焼損が予想以上に広範囲に及んでおり、単純な部品交換では対応できなかったのだ。

 

 「配線を一からやり直す必要がある」

 

 マーカスの声には疲労が滲んでいた。

 

 「材料は?」

 

 「予備の配線はある。だがはんだ付けの精度が問題だ。この手の精密作業は専門の設備がないと難しい」

 

 「やるしかない」

 

 エドワードが言った。

 

 「俺たちの命がかかっているんだ」

 

 二人は黙々と作業を続けた。

 

 その間、他のメンバーは船内の酸素消費を最小限に抑えるために、できる限り動かずにいた。

 

 サイモンが投与した鎮静剤の効果で、全員の呼吸は浅くなっている。

 

 だがそれでも、酸素は確実に減っていった。

 

 ◆

 

 三日目。

 

 状況は悪化した。

 

 化学式酸素発生器が完全に停止したのだ。

 

 「なぜだ」

 

 ヴァリアンが問い詰めた。

 

 「触媒が劣化していたようだ」

 

 マーカスが答えた。

 

 「長期間の使用で、反応効率が落ちていた。それに、電気分解装置の故障と同時に負荷がかかって、耐えきれなくなったんだろう」

 

 残された酸素供給源は液体酸素タンクだけになった。

 

 残量は三日分を切っている。

 

 「急げ」

 

 ヴァリアンの声には焦りが滲んでいた。

 

 「分かっている」

 

 マーカスは答えた。だがその手は震えていた。

 

 ◆

 

 四日目の夜。

 

 修理作業は佳境に入っていた。

 

 だが酸素の残量は危険域に達していた。

 

 「あと一日分しかない」

 

 サイモンが報告した。

 

 「このままでは修理が完了する前に──」

 

 彼は言葉を濁した。

 

 だが全員がその意味を理解していた。

 

 沈黙が船内を支配した。

 

 「……一つ、提案がある」

 

 最初に口を開いたのはエドワードだった。

 

 「なんだ」

 

 ヴァリアンが尋ねた。

 

 「酸素を節約する方法だ」

 

 エドワードの声は静かだった。

 

 「全員が同じように酸素を消費していたら、全員が死ぬ。でも、一人か二人に酸素を集中させれば、その人間は生き残れる」

 

 「何を言っている」

 

 ヴァリアンの声が険しくなった。

 

 「誰かを犠牲にしろと言うのか」

 

 「犠牲じゃない」

 

 エドワードは首を横に振った。

 

 「選択だ。全員が死ぬか、一部が生き残るか。どちらかを選ばなければならない」

 

 「そんな選択は──」

 

 「ヴァリアン」

 

 レイチェルが口を開いた。

 

 「エドワードの言う通りよ」

 

 「レイチェル……」

 

 「私たちは科学者よ。感情で判断してはいけない。論理的に考えて、最善の選択をすべきだわ」

 

 レイチェルの目は真剣だった。

 

 「そして生き残るべきなのはあなたよ。ヴァリアン」

 

 「なぜ私が」

 

 「あなたが一番優秀だから」

 

 レイチェルは淡々と言った。

 

 「この調査の成果を、世界に伝えられるのはあなただけ。私たちの発見を、無駄にしないでほしいの」

 

 「俺も同意見だ」

 

 マーカスが言った。

 

 「ヴァリアン、お前は生きろ。俺たちの分まで」

 

 「僕も……」

 

 アレクサンドラの目には涙が浮かんでいた。

 

 「僕も、ヴァリアンに生きてほしい。僕たちの夢を、あなたが叶えてくれると信じてる」

 

 「サイモン……」

 

 ヴァリアンがサイモンを見た。

 

 彼は静かに頷いた。

 

 「僕は医者です。患者を救うのが仕事だ。だから……あなたを救いたい」

 

 「エドワード」

 

 最後に、ヴァリアンはエドワードを見た。

 

 彼は微笑んでいた。

 

 「俺たちは『星追い人』だ。星を追いかけて、ここまで来た。でも、星を追い続けられるのはもうお前だけだ」

 

 ヴァリアンの目から涙が溢れた。

 

 「そんな……私は……」

 

 「泣くな」

 

 エドワードが言った。

 

 「お前が泣いたら、俺たちも泣きたくなる」

 

 「でも……」

 

 「ヴァリアン」

 

 レイチェルが彼女の手を握った。

 

 「私たち、あなたのことを妬んでいた。でも、今は違う。あなたは私たちの誇りよ。だから生きて」

 

 ヴァリアンは何も言えなかった。

 

 言葉が出てこなかったのだ。

 

 ◆

 

 それから数時間後。

 

 五人の隊員はそれぞれの最期を迎えた。

 

 サイモンが調合した薬で、彼らは苦しまずに眠りについた。

 

 「……ありがとう」

 

 エドワードは最後にそう言った。

 

 「俺たちと一緒に、星を追いかけてくれて」

 

 そして彼の目は閉じた。

 

 ヴァリアンは一人残された。

 

 仲間たちの亡骸に囲まれて。

 

 彼女は泣いた。

 

 声を上げて泣いた。

 

 だが泣いている時間はなかった。

 

 修理を完了させなければならない。

 

 仲間たちが命を懸けて繋いでくれた時間を、無駄にするわけにはいかなかった。

 

 ◆

 

 五日目の朝。

 

 ヴァリアン・ブラックウッドは一人で修理作業を続けていた。

 

 酸素は残り僅か。

 

 頭がぼんやりする。

 

 手が震える。

 

 だが彼女は手を止めなかった。

 

 ──私は生きなければならない

 

 仲間たちの声が聞こえる気がした。

 

 ──私たちの夢を、あなたが叶えて

 

 その言葉が彼女を突き動かしていた。

 

 そして──

 

 カチリ。

 

 最後の配線が繋がった。

 

 電気分解装置が唸りを上げて起動した。

 

 「……成功……」

 

 ヴァリアンは呟いた。

 

 そして意識を失った。

 

 ◆

 

 彼女が目を覚ました時、酸素濃度は正常に戻っていた。

 

 船内の空気が澄んでいる。

 

 生きている。

 

 自分は生きている。

 

 だが仲間たちは──

 

 ヴァリアンは仲間たちの亡骸を見た。

 

 彼らは安らかな表情をしていた。

 

 まるで眠っているかのような。

 

 「……ごめんなさい」

 

 彼女は呟いた。

 

 「私は……皆を守れなかった」

 

 涙が頬を伝った。

 

 だが同時に、別の感情も湧き上がっていた。

 

 決意だ。

 

 ──私は生きる

 

 ──彼らの夢を継いで、生きる

 

 ──純粋な学問の殿堂を作る。彼らの名前を刻んで

 

 ヴァリアンは立ち上がった。

 

 そして仲間たちの遺体を、丁重に冷凍保存した。

 

 彼らを故郷に帰すために。

 

 ◆

 

 惑星C66への帰還は三ヶ月を要した。

 

 その間、ヴァリアンは一人で船を操縦し、一人で調査データを整理した。

 

 孤独だった。

 

 だが彼女は折れなかった。

 

 仲間たちが託してくれた命を、無駄にはしないと誓ったからだ。

 

 帰還後、彼女は全ての事実を報告した。

 

 調査の成果。

 

 そして仲間たちの死。

 

 連合政府は彼女を称えた。

 

 だが彼女にとって、その賞賛は虚しいものだった。

 

 失われた命の重さに比べれば、名誉など何の意味もない。

 

 そして彼女は決意した。

 

 自分の研究所を建てること。

 

 誰にも干渉されない、純粋な学問の場所を。

 

 その入り口には五人の名前を刻む。

 

 エドワード・ホーソン。

 

 レイチェル・ウォン。

 

 マーカス・オブライエン。

 

 アレクサンドラ・ペトロワ。

 

 サイモン・チェン。

 

 「星追い人」たちの名前を。

 

 ◆

 

 ──ヴァリアンが仲間を見捨てたんじゃないか

 

 後にそんな噂が流れた。

 

 真相は誰にも分からない。

 

 だがヴァリアン自身はその噂を否定しなかった。

 

 否定する必要がなかったからだ。

 

 彼女は仲間たちの死を背負って生きている。

 

 その重さは他人の言葉など比べものにならない。

 

 そして十五年後。

 

 彼女は今も、星を追い続けている。

 

 仲間たちの夢を継いで。

 

 

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