★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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『設定資料集』
HTMLで作成した設定資料集・フレーバーページです。自分のパソコンにあるWebサイトのフォルダ(HTMLやCSSなど)を、Netlify、もしくはクラウドフレアの画面にドラッグ&ドロップするだけで、数秒でURLが発行され公開されるので超便利です。元々こういうのがつくりたくて書いた作品です。
 
 
(4/14NEW!)惑星C66特集
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スラムの教科書

 ◆

 

 ──ザッパーはまあ暫くは平気そうか

 

 君はそんな事を考えながら、端末を操作してみる。

 

 どうにもぱっとしない依頼ばかりが並んでいて、食指が動かない。

 

 君は結構気分屋なのだ。

 

 まあだからと言っちゃなんだが、暇だった。

 

 とてつもなく暇だった。

 

 注意勧告が出てからというもの、依頼は軒並みE―91方面の航路にかかっており、残っているのは中層の配管修理や廃棄物仕分けの類ばかりだ。命の危険はゼロだが魂の危険は甚大である。

 

 退屈は人を殺す。

 

 比喩ではない。暇を持て余した人間が碌でもない事を始めるのは古今東西の真理だ。

 

 君は自室のベッドに大の字で寝転がっていた。

 

 元宇宙船のコンドミニアム。中層居住区第八ブロック。折り畳み式の寝台に仰向けになって天井の配管を眺めている。眺めたところで何も起きない。

 

 配管は配管だ。水が流れている。以上。

 

 ミラが充電ユニットの上でレンズをこちらに向けた。

 

『ケージ。起床から四時間が経過していますが、あなたは一度も立ち上がっていません。生体モニタリング上は健康ですが活動量が著しく低下しています』

 

「知ってるよ」

 

『このままでは筋萎縮が──』

 

「サイバネだから萎縮しねえよ」

 

『それもそうですね』

 

 ミラのレンズが微かに傾いだ。この角度は『じゃあ何が問題でそうグウタラとしているのか」を聞こうとしている時の角度だ。

 

 君も一年以上ミラと暮らしているわけで、そうなるとこの小賢しい金属球体の微妙な姿勢から、おおよその思考が読めるようになる。人間と犬の関係に似ているかもしれない──どちらが犬かは議論の余地があるが。

 

「暇なんだよ」

 

『依頼は十七件表示されています』

 

「面白い依頼がねえんだ……」

 

『面白い依頼の定義を教えてください』

 

「死にかけるやつ」

 

『それは面白いのではなく危険です』

 

「死にかけるって言っただろ。死んじゃダメなんだよ。死んじゃうくらいワクワクドキドキするやつってことだ。ドゥーユーアンダスタン?」

 

 これは冗談半分で本気半分だ。

 

 普通の人間が楽しめる程度の変化では君の体は何も感じない。

 

 無論これは施術の進行がどうこうというより、君自身が元々そういうタチだからだ。

 

 ◆

 

『ところでケージ。一つ聞いてもいいですか』

 

「いいよ」

 

『あなたは中層居住区に引っ越してからどのくらい経ちますか』

 

「半年くらいか。Cランクに上がってからだな」

 

『この住居の環境に不満はありますか』

 

「不満っていうか」

 

 天井を見上げる。配管は錆びていない。壁は白い。隣の部屋の住人が深夜に暴れることもない。

 

「清潔すぎんだよ」

 

『清潔であることは一般に好ましい環境条件です』

 

「一般にはな。だが下層育ちの人間にとっちゃ逆にそわそわする」

 

『どういう意味ですか』

 

「つまりだな──」

 

 君は言葉を探した。

 

「下層にいた頃はな、朝起きたらまず部屋に虫がいないか確認するところから始まるんだよ。下層に棲息する甲殻害虫──通称ガリガリ。壁をガリガリ齧って穴を開けるからガリガリだ。黒くてでかくて素早いんだ。それと死体の肉だって食うからサイテーなんだ」

 

『不衛生ですね』

 

「問題はガリガリの糞に毒が含まれてるってことだ。素足で踏むと三十分ほど足の裏の感覚がなくなる。朝一番に裸足で便所に行った奴が、便器の前ですっ転んで頭を打って搬送されるなんて事故が年に百件はある」

 

『確認しました。C66環境衛生報告書の第七章に記載がありますね。「甲殻類由来の滑走性排泄物に起因する家庭内転倒事故」となっています』

 

「だろ?こいつはすぐ増えるから管理政府も駆除しようとしてるんだけどな。死体だけじゃなくて壁も餌にしちまうし、毒餌もすぐ耐性がついちまうかららちが明かねえのさ」

 

 ◆

 

『下層居住区の衛生環境については超光速ネットの公開データベースでいくつかの論文を参照していますが、実態と乖離がある可能性を感じています』

 

「まあそうかもしれねえな。あそこの酷さは住んでみないとわからねえよ」

 

『たとえば?』

 

「そうだな──」

 

 君はベッドの上で寝返りを打った。天井の代わりに壁を眺める。

 

「食い物の話をしようか。下層の食い物ってのはな、まず原材料が何なのか考えちゃいけないんだよ」

 

『食品成分表が存在しないということですか』

 

「存在しないっていうか、存在させると営業できなくなる店が九割だ。下層で一番流行ってる屋台──ドン・ファッツっていうんだが、こいつの看板メニューは『星間挽肉バーガー』だ。一個三クレジット。安い。旨い。たまに歯に金属片が引っかかる」

 

『金属片ですか』

 

「ドン・ファッツの挽肉の正体はな、廃棄されたタンパク質合成プラントの歩留まりだ。製品にならなかった半端なタンパク質ペーストを安く仕入れて香辛料で味をつけて焼く。プラントの製造ラインに使われてるステンレスの微粒子が混入するから、たまにジャリッとくる」

 

『それは──健康に問題はないんですか』

 

「ないよ。ステンレスは生体不活性だ。飲み込んでも排出される。まあ歯には悪いかもしれんが、下層の人間で歯を気にする奴は少数派だ。大体において前歯が何本か欠けている方がスラムでは箔がつく。喧嘩の勲章みたいなもんだ」

 

『審美観の違いですね』

 

「そういうことだ。上流階級のマダムが宝石で着飾るのと同じ原理で、下層のチンピラは傷と欠けた歯で自分の経歴を誇示する。見せびらかす物が違うだけだ」

 

 ミラのレンズが忙しなくメモを取るように明滅した。

 

 ◆

 

『では治安についても聞いていいですか。統計上、下層居住区の犯罪発生率は中層の約四十七倍です。しかしこの数字には実態との乖離が含まれている可能性がありますか』

 

「乖離もクソも、犯罪発生率ってのは通報された件数で算出するだろ。下層じゃ通報するって概念がそもそも希薄なんだよ。通報しても警備局は来ない。来ても遅い。来ても何もしない。三ない主義だ。だから被害者は自力で解決するか泣き寝入りするかの二択になる」

 

『自力で解決とは具体的にどのような手段ですか』

 

「殴り返す。取り返す。相手の商売道具を壊す。もしくはゴッチやルードみたいなファミリーに泣きつく。マフィアは下層の秩序維持機構だよ。連合政府の法律の代わりに独自のルールで揉め事を裁く。裁き方は荒っぽいが速い。翌日には片がつく」

 

『法的根拠のない裁定を住民が受け入れるのですか』

 

「受け入れるっていうよりは他に選択肢がないんだ。連合政府の裁判所に訴えるにはまず弁護士を雇わなきゃならん。下層の人間にそんな金はない。仮に金があっても裁判は年単位で長引く。その間に被害は拡大し、証人は消えて証拠は隠滅される。ファミリーに頼めば翌日だ。もちろんタダではない。対価として何らかの「貸し」が発生するんだが──」

 

『搾取構造ですね』

 

「搾取構造だよ。だが搾取されてでも明日が来るほうがいい、っていうのが下層の計算だ。数学的には間違ってない」

 

 一通り話すと、君はベッドに倒れ込んだ。

 

 ──観念して適当に仕事でも受けるかねぇ

 

 そんな事を思っていると──

 

 『ケージ、端末に通話要求。ザッパーからです』

 

 「おう、繋いでくれ。よう、護衛の仕事はどう?ほーん、いきなり刺客が? そりゃあ大変だったな。アロンソは生きてるか? まあそりゃそうだな、お前が護衛してるんだったら滅多な事はないか。でも気をつけろよ。凄腕が護衛してるってルードの連中が知ったら、きっとヤバいのを送ってくるぜ。まあ最悪逃げちまっていいと思うぜ。アロンソがくたばっても恨まないって言ってたからな、ハハ」

 

 

 

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